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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科61巻9号

2007年08月発行

雑誌目次

綜説

肥満と前立腺癌

著者: 金子新 ,   藤山千里 ,   魚住二郎

ページ範囲:P.671 - P.678

要旨 前立腺癌の増加に伴いその危険因子,予後不良因子の検討が進められている。肥満はメタボリック症候群の概念の登場により,生活習慣病の根源となるものとして特に重要視されている。前立腺癌においても肥満,BMI(body mass index)などと絡めた臨床統計が国内外で多数報告されているが,まだ議論の多いところである。この議論に論拠を与えようとする基礎研究,特に脂肪細胞から分泌される生理活性物質アディポサイトカイン(レプチン,アディポネクチンなど)と前立腺癌の関係を調べた研究が盛んに行われている。肥満と前立腺癌についての現況を,当科での脂肪細胞と前立腺癌細胞株の三次元混合培養による基礎研究も交えて概説する。

手術手技 腹腔鏡下手術時代における開放手術・8

会陰式前立腺全摘除術

著者: 米田達明 ,   椎名浩昭 ,   井川幹夫

ページ範囲:P.679 - P.688

要旨:会陰式前立腺全摘除術(RPP)は,ミニマム創による恥骨後式前立腺全摘除術(RRP)や内視鏡下前立腺全摘除術(LRP)の普及した現在においても侵襲の低い術式である。多くの泌尿器科医にとっては馴染みのないアプローチのため限られた施設でしか行われていないのが現状であるが,根治性やQOLの観点からも恥骨後式と同等である。また,創部が小さいため術野の共有が困難な点はあるが,ビデオの活用などにより技術の習得は比較的容易で,他の術式と比較して習熟カーブも短い。今後,骨盤内リンパ節郭清を必要としないlow stageの前立腺癌がさらに増加すると予測され,低侵襲手術としてのRPPの普及が強く望まれる。

会陰式根治的前立腺全摘除術

著者: 白木良一

ページ範囲:P.689 - P.697

要旨:会陰式根治的前立腺全摘除術は,他の術式に比し手術時間が短く出血量が少ない。尿道膀胱吻合(尿路再建)が直視下で確実であり,術後カテーテル留置期間が短い。術後尿禁制などQOLの回復,社会復帰が早い。反面,骨盤リンパ節郭清は不可である。適応は主にT1c例で,ブラキセラピーなどの低侵襲治療に向かない下部尿路症状(LUTS)を有する症例や,若年例,下腹部手術の既往例などは今後も本術式が施行されるべき場面と考えられる。

会陰式前立腺全摘除術(RPP)

著者: 新村研二 ,   秦野直

ページ範囲:P.699 - P.703

要旨:坐骨結節の内側を通り,会陰部の中央を頂点とする逆U字切開にて入る。両側坐骨直腸窩を展開し,中心腱を切断する。曲Lowsley鉤を使い前立腺を創に近づけ,Youngの方法に準じ前立腺尖部で直腸尿道筋を見出し,これを鋭的に切断し,直腸を前立腺背面より剝離する。精囊・精管を被膜するDenonvilliers筋膜を切開し,精囊・精管を剝離,遊離し,前立腺基部で左右の血管茎を結紮・切断する。前立腺尖部で尿道を切断し,直Lowsley鉤を挿入し,前立腺前面を剝離し,膀胱頸部に達する。膀胱頸部を剝離・切断し,新膀胱頸部を形成し,膀胱尿道吻合を行い閉創する。

セミナー 新しい手術器械の応用・3

モノポーラ型電気メスおよびバイポーラ型電気メス

著者: 近藤幸尋 ,   西村泰司

ページ範囲:P.705 - P.711

要約:現在の泌尿器科手術において,開腹手術および腹腔鏡下手術に限らず最も頻繁に用いられている医療機器が電気メスといっても過言ではない。そこで本稿では,モノポーラ型およびバイポーラ型電気メスの仕組みと効果的な使い方を,開腹手術,経尿道的手術,腹腔鏡下手術に分けて解説する。

原著

前立腺癌に対する密封小線源治療と強度変調前立腺外照射の治療後QOLの比較検討

著者: 上村博司 ,   三好康秀 ,   林成彦 ,   佐野太 ,   井口こずえ ,   伊藤悠亮 ,   板澤朋子 ,   荻野伊知郎 ,   井上登美夫 ,   窪田吉信

ページ範囲:P.721 - P.728

 前立腺癌患者に対する密封小線源治療と強度変調放射線外照射(IMRT)治療の前後における生活の質(quality of life:QOL)調査を行った。密封小線源治療は137例,IMRTは28例を対象に,治療前および治療後1・3・6・12か月の縦断的調査をUCLA-PCIやI-PSSを用いて行い,比較検討した。両治療とも術後1か月でI-PSS(International Prostate Symptom Scores)の悪化を認め,また密封小線源治療ではUCLA-PCIのUB(排尿負担感)で,治療後1・3・12か月に有意差をもって悪化を認めた。性機能でIMRTのほうが密封小線源に比べ悪化していた。今後は,EPIC日本語版などの新しいQOL調査票を用いて,前立腺癌治療の影響を調べていく必要があると思われた。

NMP22 BladderChekの尿沈渣所見による影響―肉眼的血尿症例における検討

著者: 関田信之 ,   西周裕晃 ,   北風あゆみ ,   鈴木学 ,   陳憲生 ,   江越賢一

ページ範囲:P.729 - P.734

 肉眼的血尿を主訴とした104症例に対して,尿路上皮癌の診断に尿細胞診とNMP22簡易測定キット(NMP22 BC)を併用した。NMP22 BCの尿沈渣結果から受ける影響,および尿細胞診との併用の意義について検討した。感度はNMP22 BCが68%,尿細胞診が50%,特異度はNMP22 BCが65%,尿細胞診が99%であった。尿沈渣中の赤血球数・白血球数により症例を分類すると,尿中赤血球が100個以上/hpfまたは尿中白血球が5個以上/hpfの症例は,尿細胞診では偽陽性例が1例のみであったが,NMP22 BCでは40%以上の偽陽性例が認められた。また,今回の検討では,NMP22 BCを尿細胞診と併用することでの有用性は低いと考えられ,肉眼的血尿症例に対してのNMP22 BCは尿細胞診と単に併用するのではなく,NMP22 BCの特徴を理解したうえでの適正使用が望まれる。

症例

珊瑚状を呈した腎基質結石

著者: 町田裕一 ,   玉田聡 ,   川嶋秀紀 ,   仲谷達也 ,   山本啓介

ページ範囲:P.737 - P.740

 症例は38歳,女性。右腎結石に対し体外衝撃波結石破砕術(ESWL)を2回施行しており,発熱および右側腹部痛を主訴に当科を受診した。上部尿管結石および同部の尿管狭窄を認めたため,経尿道的尿管砕石術(TUL)および尿管バルーン拡張術を施行した。その後も腎盂腎炎を繰り返し発症し,約半年後の画像検査にて腎基質結石を指摘され,右腎摘除術を施行した。

尿閉をきたした原発性前立腺移行上皮癌

著者: 岡野由典 ,   佐藤ミカ ,   針生恭一 ,   谷口淳 ,   山本隆次 ,   清水弘文

ページ範囲:P.741 - P.743

 症例は86歳,男性。排尿障害を主訴に受診後,前立腺肥大症(BPH)の診断にて加療していたが尿閉となり,手術目的で入院した。術中所見にて前立腺部尿道が全周性に不整であった。経尿道的切除,生検にて移行上皮癌を認めた。膀胱癌の既往歴はなく,膀胱鏡検査では異常なし,術後尿細胞診はclassⅡなどより原発性前立腺移行上皮癌と診断した。画像上転移所見はなく放射線治療を施行した。自験例は本邦57例目であった。文献的考察を加えて報告した。

淋菌性尿道炎後に発症したライター症候群

著者: 吉野干城 ,   米田健二 ,   高橋宏明

ページ範囲:P.745 - P.747

 症例は19歳,男性。排尿時痛を主訴に当科を受診した。淋菌性尿道炎の診断に至り,抗生剤を投与したが,その2日後に両足関節の有痛性腫大が出現した。結膜炎所見も観察され,ライター症候群(Reiter syndrome)の診断にて入院となった。リウマトイド因子 (rheumatoid factor:RF),抗核抗体,HLA-B27はいずれも陰性であった。炎症所見および多発性関節炎の遷延を認めたが,ステロイド投与後徐々に軽快し,入院70日目にして退院となった。

2種類の天然型インターフェロンαに対し異なる反応を示した腎細胞癌肺転移

著者: 藤田喜一郎 ,   田中雅彦 ,   金子智之 ,   永田卓士 ,   本間之夫

ページ範囲:P.749 - P.752

 症例は67歳,男性。両側腎細胞癌にて1992年両側腎摘除術を行い,血液透析導入となった。2001年左肺腫瘍を摘出し,腎細胞癌肺転移と診断された。2003年7月左肺に腫瘍陰影を認め,腎細胞癌の転移と考え,スミフェロン®300万IUを投与した。腫瘍縮小効果を認めず,発熱の苦痛に耐えられず,2004年11月投与中止とした。2005年2月腫瘍の増大と新たな出現を認め,OIF®500万IUを投与したところ,腫瘍の縮小,消退および発熱の軽減を認めた。

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編集後記 フリーアクセス

著者: 藤岡知昭

ページ範囲:P.758 - P.758

 先日,海外からの元気な知人と70歳を超える大先輩の2組のご夫婦を,青森・秋田・岩手3県にまたがる十和田八幡平国立公園の八幡平にご案内しました。八幡平は平坦な山脈で,アスピーテラインや樹海ラインの車道が整備されており,車窓から壮大な山並みや原生林,さらに雲上世界を観光でき,閉鎖される冬季を除き多くの観光客で賑っています。

 今回は,山頂付近の八幡沼を見たいとの同行者の強い希望がありまして,岩手県と秋田県の県境の見返り峠駐車場より山頂までの約3kmの登山道を散策することになりました。舗装整備された道とはいいましても,高低差約200m,今回のパーティ(?)にとりまして決して楽な行程ではありません。途中,二股の分岐点では山容を配慮して急峻ではないと予想された左の灌木の道を選択しました。高度が上がるとともに,残雪や湖沼が現れ,ショウジョウバカマなどの可憐な高山植物の花々が温かく迎えてくれました。約30分後,やっとの思いで,オオシラビソの林の中に盛り土された山頂に立つことができましたが,期待に反し視界は森林に妨げられた状態で,周囲の木々は以前に比べて成長したような印象がありました。これは,残雪の少なさとともに暖冬・地球温暖化の影響かと考えられます。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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