icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科62巻8号

2008年07月発行

雑誌目次

特集 男性不妊症に対するマイクロサージェリー

精管再建術

著者: 六車光英 ,   松田公志

ページ範囲:P.551 - P.556

要旨 精管再建術の適応は精管切断術後と鼠径ヘルニア手術後の精管閉塞である。精管切断術後に対しては精管精管吻合術を行うが,精巣上体の二次的閉塞を伴っている場合は精巣上体精管吻合術を行う。精管切断術後の精管再建術の精子出現率は約80%である。鼠径ヘルニア手術後の精管閉塞はまず鼠径部で精管精管吻合術を行い,精巣上体の二次的閉塞を伴っている場合は二期的に精巣上体精管吻合術を追加する。また片側精管閉塞に対側の精巣萎縮を伴っている場合は,交叉性精管精管吻合術を行う。これらの手術はマイクロサージェリーを必要とするが,術後自然妊娠が期待できるので,男性不妊症の治療法として重要な位置を占める。

顕微鏡下精巣上体精管吻合術

著者: 日比初紀

ページ範囲:P.559 - P.562

要旨 精巣容積が正常で精巣上体および精管が触知でき,精液量と卵胞刺激ホルモン(FSH)が正常で,かつ精管切断術や小児期の鼠径ヘルニア手術の既往のない無精子症では,精巣上体閉塞が考えられる。すなわち,精管閉塞のない造精機能正常な閉塞性無精子症で,精巣輸出管の閉塞など稀な場合を除いては精巣上体精管吻合術の適応となる。精管精管吻合術と比べると開通率は低く,高い技術が求められる手術であるが,近年,技術的に比較的容易な精巣上体管を精管内に引き込むinvagination techniqueも報告されている。補助生殖医療技術(ART)の発達に伴い手術症例が減少しているが,精巣上体閉塞では第1選択となる治療である。

精索静脈瘤低位結紮術

著者: 伊藤直樹

ページ範囲:P.565 - P.568

要旨 精索静脈瘤に対する顕微鏡下低位結紮術は治療成績,手術侵襲を考慮すると優れた術式である。手術のポイントは内精静脈をすべて結紮・切断すること,内精動脈を温存すること,1~2本のリンパ管を温存すること,精管をその血管を付着させて温存することの4点である。顕微鏡下低位結紮術は男性不妊症に対する種々のマイクロサージェリーの中で最も容易な手術であり,症例数も多いことからぜひマスターしたい術式である。

顕微鏡下精巣上体精子吸引術

著者: 梅本幸裕 ,   佐々木昌一 ,   郡健二郎

ページ範囲:P.571 - P.573

要旨 閉塞性無精子症の治療には泌尿器科的治療として精路再建術が行われている。これはあくまで自然妊娠を目指してのものである。しかしARTの進歩,とりわけ1992年にICSIが始まってからは,挙児希望のカップルに対しての泌尿器科としての治療は変化してきている。受精に必要な精子の採取に,治療の必要性が変化してきている。このためにMESAあるいはTESEといった手技が重要性を増してきている。しかしこの手技には,染色体あるいは遺伝子異常の伝播といった危険性があることを知ったうえで行われるべき手技である。

顕微鏡下精巣内精子採取術

著者: 宮川康 ,   辻村晃 ,   高尾徹也 ,   岡本吉夫 ,   奥山明彦

ページ範囲:P.575 - P.580

要旨 非閉塞性無精子症に対する顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE)は,従来法に比べて精子採取率が比較的高く,手術による精巣障害を可及的に回避できる最も理想的な術式である。しかし,セルトリセルオンリー症候群などの重度の造精機能障害例では,手術用顕微鏡による精細管の観察や採取組織からの精子検索は長時間を要し,手術時間および精子採取率には学習曲線効果を認める。また,得られた非閉塞性無精子症患者の精子は,閉塞性無精子症患者の精子と比較して受精率・妊娠率が劣るうえ,実際には術後テストステロン低下が生じることも明らかとなってきた。本術式選択にあたっては,不妊カップルへの十分なインフォームド・コンセントが必要である。

原著

腎尿路悪性腫瘍で死亡した患者の終末期の検討

著者: 和田直樹 ,   藤澤眞

ページ範囲:P.593 - P.595

 2004年4月~2006年12月までに死亡した腎尿路悪性腫瘍患者19名を対象に,臨床的検討を行った。診断時年齢は尿路上皮癌,前立腺癌ではやや高齢であり,病悩期間,疼痛苦悩期間は前立腺癌患者で長い傾向にあった。全体的に病悩期間の9割は自宅療養可能であったが,介護困難などを理由に長期入院のうえ最期を迎える患者も少なくなかった。最終入院の契機は疼痛やADL低下であったが,外来で鎮痛薬を使用していたものが6名と少なく,反省すべき点であった。患者,家族へのサポート体制が整えばさらに良い終末期医療を提供できると思われ,またQOLを低下させる疼痛に対して積極的に鎮痛薬を使用すべきであると思われた。

症例

尿道カテーテルによる尿管閉塞

著者: 平田武志 ,   西口潤 ,   山田大介 ,   陶山文三

ページ範囲:P.597 - P.600

 症例は80歳,男性と67歳,女性。両症例とも神経因性膀胱にて尿道カテーテルを留置されていた。外来でのカテーテルの定期交換中,発熱,左水腎症を認め当科に紹介となった。いずれの症例も腹部CTにて尿道カテーテル先端が左尿管口に入り込み,尿管口を閉塞,左水腎症をきたしている所見が認められた。尿道留置カテーテルを先端の短い腎盂カテーテルに交換のうえ,抗菌化学療法を施行したところ症状は改善,軽快・退院となった。

精索腫瘍にて発見された悪性リンパ腫

著者: 中野一彦 ,   貫井昭徳 ,   鈴木一実 ,   湯澤政行 ,   森田辰男

ページ範囲:P.601 - P.604

 症例は54歳,男性。有痛性右鼠径部腫瘤を主訴に当院を受診した。骨盤部MRIでは右精索部に強い造影効果を示す腫瘤を認めた。胸腹部CTでは傍大動脈領域に巨大な腫瘤を認め,盲腸・肺にも腫瘤を認めた。右高位精巣摘除術を施行した。病理組織学的には,悪性リンパ腫,diffuse large B-cell typeであった。精索の節外性病変が初発症状となった悪性リンパ腫の本邦報告例は,本症例が3例目であった。

会陰部腫瘤として発見された多房性囊胞を伴った前立腺癌

著者: 高野右嗣 ,   土岐清秀 ,   丘田英人 ,   岡谷鋼 ,   榎木登

ページ範囲:P.607 - P.611

 症例は70歳,男性。左会陰部に有痛性の弾性軟腫瘤を自覚し,受診した。PSAは1,200ng/mlであった。CT,MRIおよび経直腸的前立腺生検による病理組織学的診断にて,会陰部への出血をきたした,多房性囊胞形成を伴った前立腺癌(中分化型腺癌,stage D1)と診断した。内分泌療法開始直後から会陰部への出血は減少し,3か月後PSAは1.3ng/ml,同じく6か月後に前立腺癌と多房性囊胞の大きさは25×50×40mmと正常前立腺サイズとなった。2年を経た現在,外来にて経過観察中である。

腹圧性尿失禁を主訴に発見された陰唇癒着症

著者: 高木康治 ,   成島雅博 ,   下地敏雄

ページ範囲:P.613 - P.615

 症例は63歳,女性。腹圧性尿失禁,排尿困難を主訴に当科を受診した。視診にて陰唇癒着症と診断し,腰椎麻酔下で癒着剝離術を施行した。陰唇癒着症の症状として尿失禁は稀である。

自然破裂した腎血管筋脂肪腫

著者: 澤崎晴武 ,   岡所広祐 ,   高橋毅 ,   瀧洋二 ,   竹内秀雄

ページ範囲:P.617 - P.619

 症例は35歳,女性。右側腹部痛,嘔気・嘔吐を主訴に受診した。来院時ショック状態であった。緊急CTにて右腎周囲に血腫および右腎に1cmの動脈瘤を伴う5.5cmの腫瘍を認めた。エコーでは腫瘍は高エコーを呈していた。以上の所見より,右腎血管筋脂肪腫の自然破裂と診断した。同日,緊急腎動脈塞栓術を施行した。塞栓終了後より全身状態は安定した。腎血管筋脂肪腫は突然破裂し,多量の出血をきたした場合,生命に危険が及ぶこともある。CTによる迅速な診断と治療(動脈塞栓,腎保存手術,腎摘除術)が必要である。

転移性腎細胞癌に対し天然型IFNαの製剤変更後1年以上の寛解を得た2症例

著者: 西田幸代 ,   五十嵐学 ,   立木仁

ページ範囲:P.621 - P.624

 転移性腎癌に対し天然型IFNαの製剤変更を行い,効果の得られた2症例を経験した。変更理由は,それぞれ転移巣増大と副作用である皮膚病変の出現だった。変更後転移巣は増大なく,また皮膚病変は出現せず,いずれも1年以上寛解状態にあった。近年,IFNα製剤間の抗腫瘍効果・副作用の違いに関する報告が増えているが,それぞれの患者に対し,より適切なIFNαが存在する可能性があると考えられた。

学会印象記

「第23回欧州泌尿器科学会(EAU)」印象記

著者: 山﨑俊成

ページ範囲:P.625 - P.627

 第23回欧州泌尿器科学会総会(EAU)は,2008年3月26~29日にイタリアのMilano Convention Centreにおいて開催されました。EAU総会が欧州各地で開催されることを魅力的に思い,参加国が多岐にわたりAUA総会とまた違うものを感じ取れると考え,今回初めて参加しました。

 EAU総会は回を重ねるごとに参加人数も増え(本総会では84か国約14,000名),学会会場は多くの国からの参加者で埋めつくされていました。EU各国以外に世界各方面より3,440演題の応募があり,約1,050の採択演題の発表があったとのことでした。発表演題数が少なく設定されていることもあり,比較的こじんまりとした会場で参加者による活発な質疑応答が交わされていました。

「第96回日本泌尿器科学会総会」を開催して―隠れメニュー「がんばれ,にっぽん!」

著者: 西村泰司

ページ範囲:P.628 - P.631

学会の善し悪しはやはり座長・演者によるところが大きい→基調講演大成功?

 もちろんすべての会場をみることはできないので,一部の発表に限ってのコメントで恐縮だが,基調講演は2007年AUAのコンパクトに最新の知見を語る基調講演に感動した当教室の准教授の意見を取り入れたAUAのパクリであるが,荒井教授,塚本教授,西澤教授(発表順)の前立腺がん,膀胱がん,OABについてのご講演は素晴らしかったと思う。その他素晴らしいセッションをしていただいた座長・演者の皆様に心より御礼を申し上げる。

 菅野ひとみ先生の教育講演「PSA低値前立腺癌の重要性」もとてもよかったのではないだろうか。持参された同内容の別冊200部もすべてなくなったとのこと。朝7時45分にもかかわらず,相当の聴衆者(国立大ホールなので,入れ物が大きい分まばらにみえたかもしれないが)が来場された。突如思いついた歌舞伎風の掛け声「かんの!」(座長の紹介と演者の発言の1秒の隙間をぬって)も会場に活気を入れることにもなり,たまにはよいのではと思った。もちろん反対の方もいるであろうが。

「第96回日本泌尿器科学会総会」開催記―その舞台裏―

著者: 木村剛

ページ範囲:P.632 - P.632

 第96回日本泌尿器科学会総会は,2008年4月25日(金)~27日(日)にパシフィコ横浜で開催された。会長はいわずと知れた,わが日本医科大学主任教授西村泰司である。「がんばれ,ニッポン!」を富士山の絵に託し,参加費1万円の公約を果たしながら,「えいや!」と会は始まり,大きな混乱もなく会は「ほっと」終了した。

 思えばこの総会は,会長が参加費1万円という「ほんまにできるんかいな?」と思われる公約を掲げたところから始まった。余談だが,もしも赤字が出た場合,西村は男らしく自腹を切って会を成功させる腹づもりだった。しかし,そこは生まれ持っての負けず嫌いのわが主任教授である。赤字を出すことももちろん嫌い,できるだけ経費を節約する戦略をめずらしく綿密に立てていた。

交見室

PSAは前立腺癌をスクリーニングしていない?

著者: 岩室紳也

ページ範囲:P.634 - P.635

 前立腺癌の病期Dでも一定割合でPSAが4.0ng/ml以下の症例が存在し1),PSAがすべての予後不良の前立腺癌の早期発見に寄与しないことは多くの泌尿器科医が臨床経験から実感している。日本泌尿器科学会の教育講演でもPSA低値前立腺癌の重要性が取り上げられた2)。日本泌尿器科学会編集『前立腺がん検診ガイドライン』3)では「PSA 4.0ng/mlを基準値とした場合の感度は80~82%」としているが,前立腺癌検診のインフォームド・コンセントに不可欠な,PSAのcutoff値を4.0ng/mlとしたときの特異度(前立腺癌がない人を陰性と判断する確率)と敏感度(前立腺癌がある人を陽性と判断する確率)に関する記載がない。

 Thompsonら4,5)はPSAが3.0ng/ml以下かつ直腸診で異常がなかった8,575人のうち,7年間の経過観察中に要精密検査となった人を含め,最終的に5,587人にPSAの測定と前立腺生検を行い,PSAの特異度と敏感度が算定された(表1)。PSA 4.1ng/mlをcutoff値とすると,特異度が93.8%と疑陽性率は低いものの,敏感度が20.5%と見落とし率が80%近かった。また,Thompsonらは前立腺生検を受けた人の21.9%を前立腺癌と診断している。日本人男性の60歳代で21.7%にラテント癌が認められ6),欧米と日本での剖検例における前立腺ラテント癌の頻度差は,罹患率の相違に比較して小さいことが知られている7)

書評

「イラストレイテッド ミニマム創 内視鏡下泌尿器手術」―木原和徳 著 フリーアクセス

著者: 筧善行

ページ範囲:P.557 - P.557

 ミニマム創内視鏡下泌尿器手術は後腹膜を主戦場とする泌尿器外科医の発想の賜物と言える手術法である。解剖学的指標に乏しい後腹膜腔を,層構造を注意深く意識しつつ疎な結合組織を押し広げた先に広がる予想外に広い手術空間,そして薄黄色の脂肪組織に包まれた標的臓器を同定した時の安堵感,これらは泌尿器科医が等しく共有するものである。木原和徳先生の考案されたミニマム創内視鏡下泌尿器科手術は,今静かに,しかし確実に実践する術者や施行を希望する患者を増やしている。

 著者である木原先生は,この手術手技は根治的腎摘除術と前立腺全摘除術が2大基本手術操作で,この2つができれば泌尿器科のmajor surgeryはほとんどがミニマム創でアプローチ可能となると強調されている。私自身は前立腺全摘除術でしか施行経験がないが,おそらくその通りであろうということは理解できる。

「イラストレイテッド泌尿器科手術―図脳で覚える術式とチェックポイント」―加藤晴朗 著 フリーアクセス

著者: 中川昌之

ページ範囲:P.563 - P.563

 まずこの本のコンセプトに驚かされた。「手術は暗記である」という。日本では泌尿器科手術に関していえば,泌尿器科の医師一人当たりが経験できる症例数は一般外科医に比較すると十分とはいえない。一般にいわれているように,より多くの手術を経験した術者ほど手術は上手と考えられており,これは100%正しいとはいえないが,かなり的を射ていると思われる。患者にしてみれば,一生に1回しか受けない手術で成功を求めることは当然であるが,手術をする側からすると,同じ術式の手術でもやさしい症例もあれば難渋する場合もある。私自身,これまでやってきた手術のうち本当に自分自身満足のできる手術はそう多くないと思っている。もちろん経験を積むほどに目標は高くなるし,患者側の身体的条件も毎回異なるからである。私はこうした理由からいつも良い手術書を求めている。

 良い手術書とはどのようなものであろうか。おそらくそれを読み学習すれば,解剖がよくわかり目的とする対象臓器までのアプローチがスムーズに行え,また予想外のことが起こっても対処法を想起でき,より安全に手術を完遂できることを可能にするような書物であろうか。もちろん1冊の本だけでそう簡単にできることはなく,実際の症例を経験しながら手術書を繰り返し読み,局所解剖の理解を深め,正しい膜面での剝離を行い,目的を達成することになる。そうしたことを考えると,本書は手術経験の少ない若手医師にも理解しやすいように,創面が実際にどのように見えるかわかりやすく図示されており,著者がいうところの「図脳」を刺激してくれる。またワンポイントの解説は非常に的を射ており,予想外のハプニングが起こっても対処法の想起につながる。また手術で大事な視野を作る際の左手の使い方もよく示されている。それからどのような症例が困難な症例で,その場合にはどのように対処するのがよいのかも示されており,非常に感銘を受けた。

「まんが 医学の歴史」―茨木 保 著 フリーアクセス

著者: 坂井建雄

ページ範囲:P.569 - P.569

 医学史を飾る先人たちの著作を手に取り,その事蹟を詳しく知ると,それぞれの時代の中で医学を築き上げてきた英智と努力に心洗われる思いがする。古代ギリシャのヒポクラテスは,さすがに紀元前400年頃というだけあって,解剖や病気についての理解は表面的なものにとどまるが,「誓い」の中に記された医師としての倫理には現代にも通じるものがある。ローマ帝国の2世紀に博学を誇ったガレノスの著作には鋭い論理の切れ味があり,解剖学の優れた観察をもとに古代の医学理論を集大成した業績は,あらゆる意味で西洋医学の原点である。16世紀のヴェサリウスが著した『ファブリカ』の解剖図の圧倒的な迫力と人を魅了する芸術性は,人体の観察をもとに近代医学を再出発させた原動力であった。17世紀のハーヴィーによる血液循環論,18世紀のブールハーフェによる医学教育の革新が果たした役割についてはいうまでもない。19世紀以後には,臨床医学,実験室医学,さらに細菌学と医療技術に携わる数多くの医学者の手により,今日の高度な医学が生み出されたのである。リスターによる無菌手術,コッホによる病原菌の発見,レントゲンによるX線の発見,アイントーフェンによる心電計の開発,フレミングによる抗生剤の実用化が今日の医療にもたらした恩恵がどれほどのものか。日本の医学者では,『解体新書』の杉田玄白だけでなく,細菌学の北里柴三郎,刺激伝導系を発見した田原淳の名も挙げてしかるべきだろう。それぞれの医学者に,それぞれの物語がある。

 医学の歴史については,名著と呼ばれるものがある。小川鼎三『医学の歴史』(1964),川喜田愛郎『近代医学の史的基盤』(1977),Singer & Underwood“A short history of medicine”(1962)には酒井シヅらによる日本語訳がある。これらの名著は,高い学識を有する著者が医学の広い範囲にわたって書き上げたもので,教えられるところが多々ある。また解剖学,生化学,病理学,細菌学,外科学,神経学,血液学,麻酔学など,学問領域ごとに優れた歴史が書かれている。とはいえ領域ごとの医学史は初学者には詳しすぎるし,医学史全体を収めたものはやや敷居が高いうえにかなり古びてしまったように見える。医学の歴史について,医師だけでなく一般の人にもなじみやすい入門書がないものかと,長らく願っていた。

「クリニカルエビデンス・コンサイスissue 16 日本語版」―葛西龍樹 監訳 フリーアクセス

著者: 津谷喜一郎

ページ範囲:P.592 - P.592

 “Clinical Evidence”(CE,クリエビ)は英国医師会出版部(BMJ Publishing Group)が作成している全世界的に定評のあるEBM支援ツールである。以前,他社からフルテキスト版の日本語訳が3回発行されたが,諸事情によりその後発行が途絶えていた。このたび医学書院から,原書第16版の「コンサイス版」が日本語版として発行されたことを,まずは歓迎したい。

 クリエビの原書は,IT技術を駆使して複数のメディアと構成で提供されており,そのことも革新的ではあるのだが,そのなかでの日本語版の本書の位置付けがわかりづらくなっている。ここでは,本書の位置付けを中心に述べよう。

「問題解決型救急初期検査」―田中和豊 著 フリーアクセス

著者: 上條吉人

ページ範囲:P.605 - P.605

 ただただ,これだけの本を一人で書き上げた著者に脱帽の思いである。私もこれまで単著を上梓してきた自負はあるが,あくまでも救急領域の一分野に限定された内容である。ところが,本著のタイトルには「救急」と冠されてはいるが,内容は救急領域を遥かに超えた幅広い分野に及んでいる。しかも,本著からは,著者の豊富な臨床経験ばかりでなく,広く深く正確な知識をもたらした著者の猛烈な知的欲求がにじみ出ている。「いったい何者だ?」という思いで著者の略歴を見て,合点した。物理学を学んだ後に医学を志し,さらに,臨床医としてインターナショナルに切磋琢磨され,著者が「戦場」とたとえた「救急医療現場」に飛び込んだ経歴の持ち主である。著者にお会いしたことはないが,とにかく並外れた「熱い心」と「エネルギー」の持ち主であることは容易に想像がつく。

 「臨床検査」に関する著書は数多い。しかしながら,肩書きはあるが現場からは一線を置いた著者による,必要な情報を網羅しているだけの似たり寄ったりの凡書ばかりである。視線が現場にないのである。ところが本著は「この本を日夜戦場で戦う戦士たちに捧げる」と冒頭にあったように,自らが救急医療現場という過酷な「戦場」に身を置きながら,現場の視線で同志のために書かれている点になによりも惹かれる。おそらく,凡書など一切参考にしていないのではないか。

--------------------

編集後記 フリーアクセス

著者: 藤岡知昭

ページ範囲:P.640 - P.640

 昨年は,奥山においてドングリやブナを始めとする木の実の不作で,人里でのクマの出没のニュースが全国からあいつぎました。昔からクマと共存してきた地域では,クマたちが夜間にこっそり山郷の栗や柿を失敬するのを容認していたため,人間とクマとの間に大きな問題や争いが発生しませんでした。しかし,近年クマの生態を知らない地域では,臆病なクマを追い回すことにより“人身事故”が発生しています。また,クマの行動学を無視した行政により,餌となる「柿や栗の木の伐採」や「柿や栗の実の廃棄」という住民指導が行われた結果として,奥山から出てきたクマを住民の安全のために駆除・射殺するという方策が必要になりました。

 最近,エコロジーが注目されていますが,興味ある事例として,群馬県沼田市の有志により行われている「クマ止め森林活動」を知りました。多数のコナラの植林により,奥山と人里の間にクマの餌取り場としての森林を整備することで,クマと住民との共存・安全を確保するとともに,動物の棲む豊かな森林を次世代に残すという夢のある活動です。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻13号(2022年12月発行)

特集 これだけは知っておきたい! 泌尿器科診療でも活きる腎臓内科の必須知識

76巻12号(2022年11月発行)

特集 ブレずに安心! 尿もれのミカタ

76巻11号(2022年10月発行)

特集 限局性前立腺癌診療バイブル―このへんでキッチリと前立腺癌診療の“あたりまえ”を整理しよう!

76巻10号(2022年9月発行)

特集 男性不妊診療のニューフロンティア―保険適用で変わる近未来像

76巻9号(2022年8月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)の手術療法―臨床現場の本心

76巻8号(2022年7月発行)

特集 泌尿器腫瘍における放射線治療―変革期を迎えた令和のトレンド

76巻7号(2022年6月発行)

特集 トラブルゼロを目指した泌尿器縫合術―今さら聞けない! 開放手術のテクニック

76巻6号(2022年5月発行)

特集 ここまで来た! 腎盂・尿管癌診療―エキスパートが語る臨床の最前線

76巻5号(2022年4月発行)

特集 実践! エビデンスに基づいた「神経因性膀胱」の治療法

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号特集 専門性と多様性を両立させる! 泌尿器科外来ベストNAVI

76巻3号(2022年3月発行)

特集 Female Urologyの蘊奥―積み重ねられた知恵と技術の活かし方

76巻2号(2022年2月発行)

特集 尿路性器感染症の治療薬はこう使う!―避けては通れないAMRアクションプラン

76巻1号(2022年1月発行)

特集 尿道狭窄に対する尿道形成術の極意―〈特別付録Web動画〉

75巻13号(2021年12月発行)

特集 困った時に使える! 泌尿器科診療に寄り添う漢方

75巻12号(2021年11月発行)

特集 THEロボット支援手術―ロボット支援腎部分切除術(RAPN)/ロボット支援膀胱全摘除術(RARC)/新たな術式の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻11号(2021年10月発行)

特集 THEロボット支援手術―現状と展望/ロボット支援前立腺全摘除術(RARP)の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻10号(2021年9月発行)

特集 今こそ知りたい! ロボット時代の腹腔鏡手術トレーニング―腹腔鏡技術認定を目指す泌尿器科医のために〈特別付録Web動画〉

75巻9号(2021年8月発行)

特集 ED診療のフロントライン―この一冊で丸わかり!

75巻8号(2021年7月発行)

特集 油断大敵! 透析医療―泌尿器科医が知っておくべき危機管理からトラブル対処法まで

75巻7号(2021年6月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)薬物治療のニューノーマル―“とりあえず”ではなくベストな処方を目指して

75巻6号(2021年5月発行)

特集 躍動するオフィスウロロジー―その多様性に迫る!

75巻5号(2021年4月発行)

特集 前立腺癌のバイオロジーと最新の治療―いま起こりつつあるパラダイムシフト

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科当直医マニュアル

75巻3号(2021年3月発行)

特集 斜に構えて尿路結石を切る!―必ず遭遇するイレギュラーケースにどう対処するか?

75巻2号(2021年2月発行)

特集 複合免疫療法とは何か? 腎細胞癌の最新治療から学ぶ

75巻1号(2021年1月発行)

特集 朝まで待てない! 夜間頻尿完全マスター

74巻13号(2020年12月発行)

特集 コロナ時代の泌尿器科領域における感染制御

74巻12号(2020年11月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈下部尿路機能障害/小児・女性・アンドロロジー/結石・感染症/腎不全編〉

74巻11号(2020年10月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈腫瘍/処置・救急・当直編〉

74巻10号(2020年9月発行)

特集 令和最新版! 泌尿器がん薬物療法―手元に置きたい心強い一冊

74巻9号(2020年8月発行)

特集 泌尿器腫瘍の機能温存手術―知っておくべき適応と限界

74巻8号(2020年7月発行)

特集 これが最新版! 過活動膀胱のトリセツ〈特別付録Web動画〉

74巻7号(2020年6月発行)

特集 小児泌尿器科オープンサージャリー―見て学ぶプロフェッショナルの技〈特別付録Web動画〉

74巻6号(2020年5月発行)

特集 高齢患者の泌尿器疾患を診る―転ばぬ先の薬と手術

74巻5号(2020年4月発行)

特集 ここが変わった! 膀胱癌診療―新ガイドラインを読み解く

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科診療の最新スタンダード―平成の常識は令和の非常識

74巻3号(2020年3月発行)

特集 泌尿器科手術に潜むトラブル―エキスパートはこう切り抜ける!

74巻2号(2020年2月発行)

特集 いま話題の低活動膀胱―これを読めば丸わかり!

74巻1号(2020年1月発行)

特集 地域で診る・看取る緩和ケア―泌尿器科医として知っておくべきこと

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら