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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科63巻1号

2009年01月発行

雑誌目次

綜説

腎細胞癌に対する分子標的治療の展開

著者: 湯浅健 ,   土谷順彦 ,   羽渕友則

ページ範囲:P.7 - P.13

要旨 腎細胞癌は根治的腎摘術が唯一確実な治療手段であり,抗癌剤による化学療法や放射線治療に抵抗性を示すことから遠隔転移を有するなど外科的摘除不能症例は予後不良である。治癒摘除不能例,遠隔転移症例ではインターフェロンやインターロイキン2などによる免疫療法が行われるが,奏効率は低く,10~20%とされている。このように既存の治療法の効果が乏しい腎細胞癌に対して,最近,癌細胞に特異的な異常を治療の標的とした「分子標的治療(molecular target therapy)」という新しい概念の癌治療法が注目されている。ゲノム創薬を駆使して開発された分子標的治療薬が転移性腎細胞癌に対して承認され,臨床で使用されるようになった。本稿では,分子標的治療薬の抗腫瘍作用のメカニズムから代表的臨床試験結果,治療効果の予測,および現在進行中の臨床試験まで,現在の知見や情報を概説する。

手術手技 小児泌尿器科手術Ⅰ 尿路系の手術・1【新連載】

Wilms腫瘍に対する手術

著者: 坂本亘

ページ範囲:P.17 - P.21

要旨 小児のWilms腫瘍は,外科的切除が治療の中心であるが,化学療法が効果的であること,両側例や多発例が多いという特徴がある。巨大腫瘍や進行例の場合は,術前化学療法で小さくしておいたうえでのsecond-look手術や,両側例には積極的な腎部分切除を考慮する。摘出にあたっては,腫瘍が大きいための自壊や化学療法による効果で脆い場合も多く,Gerota筋膜に包まれた状態で腫瘍を破損しないで摘出することが肝要である。腹腔鏡下腎摘出術の適応となる症例は少ない。

Wilms腫瘍に対する手術

著者: 山崎雄一郎

ページ範囲:P.23 - P.28

要旨 Wilms腫瘍は,小児泌尿器科領域における代表的な腎悪性腫瘍である。ランダム化比較試験により,病期別の化学療法,放射線療法の適正化がはかられ,現在では治癒可能な疾患となってきている。しかし,現在においても治療の中心は外科治療である。本邦では小児外科が乳幼児のWilms腫瘍の手術を担当することが多く,泌尿器科医が臨床に携わることは少ない。外科治療の実際では,巨大腫瘍が多いため十分な術野を確保することがポイントであり,小児腫瘍専門医とのチームワークが大切である。

Wilms腫瘍に対する手術

著者: 後藤隆文

ページ範囲:P.31 - P.37

要旨 Wilms腫瘍は,小児の悪性固形腫瘍の中でも奇形腫などと同様に被膜がしっかりとした腫瘍である。また,腫瘍塞栓の頻度が高いので,術前に十分に確認をしておくことが重要である。手術は,腎動静脈の処理を最初に行うことが大切だが,巨大な腫瘍の場合には,ある程度腫瘍の剝離を先に行わなければ腎門部に到達できないこともある。腫瘍塞栓のないことを確認して,腎動脈,腎静脈の順で血管をクランプし,腫瘍摘出を行う。

セミナー ここまできたトランスレーショナルリサーチ・7

膀胱癌ワクチン療法:網羅的遺伝子発現情報解析による標的分子の同定

著者: 兼平貢 ,   高田亮 ,   小原航 ,   藤岡知昭

ページ範囲:P.39 - P.45

要約 cDNAマイクロアレイを用いた網羅的膀胱癌遺伝子発現プロファイル解析により,新規膀胱癌治療薬開発の標的分子として2遺伝子を抽出した。両分子は理想的な腫瘍抗原であり,われわれは,これら由来のペプチドワクチンの開発に成功した。現在,表在性膀胱癌の再発予防を目的とした癌ワクチン療法の臨床研究を開始している。

症例

急性尿閉を契機に発見された処女膜閉鎖症

著者: 那須良次 ,   小野憲昭 ,   倉繁拓志 ,   佐々木潔 ,   薄井佳子 ,   南晋

ページ範囲:P.57 - P.59

 症例は12歳,女児。下腹部痛,排尿困難のため救急センターに紹介となった。検査の結果,尿閉状態で,原因は処女膜閉鎖に伴う腟留血症の圧迫と診断した。十字切開による処女膜切開術により下腹部痛,排尿障害は解消した。処女膜閉鎖症は非常に稀な疾患であるが,未経の思春期の女児で排尿障害を訴える場合には鑑別に挙げるべき疾患の1つと考えられた。

腹部大動脈解離を合併した左腎動静脈瘤・左腎動静脈瘻

著者: 加藤香廉 ,   小原航 ,   大澤泰介 ,   丹治進 ,   鈴木薫 ,   藤岡知昭

ページ範囲:P.61 - P.65

 症例は54歳,男性。高血圧,心不全で加療中,両側下肢疼痛を自覚し,CTで広範な腹部大動脈解離を伴う左腎動脈瘤,左腎動静脈瘻と診断された。腹部大動脈解離は血圧調節による保存的加療とした後に,破裂の危険性を有する左腎動脈瘤と心不全を呈する左腎動静脈瘻に対する加療目的で当科に紹介となった。左腎摘出後,体外で腎血管形成術を行ったうえで自家腎移植術を施行した。術後のカラードプラエコーでは,腎血流は良好であった。

画像診断

詳細な問診により診断し得た陰茎折症

著者: 前田高宏 ,   内田康光 ,   中島史雄

ページ範囲:P.68 - P.71

 患 者 56歳,男性。

 主 訴 陰茎部の腫脹。

 家族歴・既往歴 特記すべきことなし。

 現病歴 2007年某月,ガードレールをまたいだ際に陰部を打撲し,その後,陰茎の腫脹が増強したため当科を受診した。診察時,疼痛はなかったが,陰茎は左方向に屈曲し,皮下血腫は陰茎全体から陰囊および恥骨部まで広がっていた(図1)。陰茎折症を疑ったが,患者は受傷時には勃起していなかったと主張した。患者の訴えと身体所見との間に乖離があるため,丁寧に問診を繰り返したところ,前夜,非配偶者との性交時に陰部を相手の骨盤底に強く打ち受傷したことが判明した。受傷後,無痛性に陰茎が腫脹したが,配偶者の手前受診することができずに自宅で様子をみていた。翌朝,症状が軽快しないため受診したとのことであった。受傷時にcrack音の自覚はなかったが,理学所見から陰茎折症を疑い,精査および加療目的で入院となった。

 入院時検査所見 末しょう血検査・生化学検査,一般検尿に異常所見はなかった。尿沈渣でも赤血球の混在はなく,尿道損傷の合併は否定的であった。

コイル塞栓術を行った動脈瘤型腎動静脈瘻

著者: 中田哲也 ,   藤田治 ,   明比直樹 ,   黒川浩典

ページ範囲:P.72 - P.74

 患 者 80歳,女性。

 主 訴 CTにて左腎動脈瘤。

 既往歴 逆流性食道炎。

 家族歴 特記すべきことなし。

 現病歴 労作時の動悸と易疲労感があり,前医を受診した。腹部腫瘤を認め,腹部CTにて7.5cmの腹部大動脈瘤と左腎動脈瘤と診断された。5月上旬,腹部大動脈瘤手術目的に当院心臓血管外科を紹介された。10日後に腹部大動脈瘤人工血管置換術(Yグラフト)を施行し,3日後には歩行が可能なまでに回復した。5月末に左腎動脈瘤の加療目的に当科を紹介された。

 術前画像検査 6月上旬,超音波Bモード検査では左腎下極に内部無エコー領域を認め,カラードプラ法では同領域内に豊富な血流シグナルを認めた。また,その血流は拍動性であり,赤・青のランダムに混在したモザイクパターンを示し腎動脈瘤あるいは動脈瘤型腎動静脈瘻を疑った(図1)。6月中旬,左腎動脈造影検査では瘤は直径3cmの類円形で,径が8mm幅の太い流入動脈を認めた。また,造影早期での静脈系への灌流を認め,動脈瘤型腎動静脈瘻と診断した。さらに,この瘤への流入動脈を選択的に造影したが,同血管より支配を受ける腎実質はわずかに染まるのみで,この流入動脈を塞栓しても腎機能に大きな影響はないものと思われた。瘤内にカテーテルを留置し,瘤を造影しながら撮像したマルチスライスCT検査では,瘤の径30×20mm,流出路は1本のみで2mm幅であった(図2)。流出路についてはコイルを使用しても逸脱の心配はないと考えられた。

 治療経過 患者本人に対して,80歳と高齢である点,無症候性である点から必ずしも経カテーテル的動脈塞栓術(以下,TAE)の絶対的な適応でないことを説明したが,患者の治療希望が強かった。最終的に全身状態が良好であり,瘤からの流出路が狭く比較的安全にTAEを施行できると判断し,治療を行うことになった。造影検査の7日後に動脈瘤型腎動静脈瘻に対してTAEを施行した(図3)。左肘穿刺にて左腎動脈にアプローチした。親カテーテルを左腎動脈入口部に置き,開始した。コアキシアル法にて2マーカーカテーテルの先端を瘤内に進め,プラチナ製着脱式コイルを9本使用して型枠を形成後,ファイバー付プラチナコイルを充塡した。さらに,流入動脈にエンボリコイルを38本積み上げた。最終的な造影で早期の静脈灌流がないことを確認した。

 術後経過 術翌日に塞栓による背部痛などはなく,全身状態も安定していた。また,肺動脈系へのコイル逸脱を認めず,術後2日目には退院可能であった。術後1か月でのエコー検査で瘤内の血流は認めず,クレアチニン値の上昇もなかった。

腹壁に波及した気腫性腎盂腎炎

著者: 平井健一 ,   三木大輔 ,   野村芳雄

ページ範囲:P.76 - P.79

 患 者 69歳,女性。

 家族歴 特記すべきことなし。

 既往歴 慢性関節リウマチ,高血圧(44歳),腎結石の指摘歴あり(不詳,数十年前)。

 現病歴 近医内科で慢性関節リウマチに対してステロイド剤内服治療を受けていた。2007年6月中旬に腹痛を主訴とし近医内科を受診,腹部の発赤が強く,圧痛が著明であり,また採血上炎症所見もあることから腹壁蜂窩織炎および膿瘍と診断され,抗生剤投与が開始された。治療開始後6日間経ても炎症所見の改善がみられず,当院に紹介され受診となる。

 検査所見および臨床経過 来院時,意識清明,38.0℃の発熱,腹痛,左背部痛を認めた。白血球数7,100/mm3,CRP 23.6mg/dl,尿沈渣所見にて赤血球20~29/hpf,白血球20~29/hpfであった。腹部CT(図1,2)およびKUB(図3)で左珊瑚状腎結石と腎実質内ガス像,ガスを含む腹壁膿瘍を認めた。左気腫性腎盂腎炎による腹壁蜂窩織炎,腹壁膿瘍と診断し,腹壁のドレナージを行った。このときの膿瘍培養からは大腸菌が検出された。

 全身状態管理および抗生剤(メロペネム三水和物1.5g/日)投与にて,第10病日には全身状態は安定し,炎症所見も徐々に改善,第60病日には腹壁膿瘍は消失し,退院となった(図4)。

小さな工夫

消化器内視鏡用器具を用いた膀胱異物除去法

著者: 安藤忠助

ページ範囲:P.82 - P.83

 尿道留置カテーテル自己抜去に伴う尿道損傷や切断した断片による膀胱内異物に対する処置対応の依頼が泌尿器科医に来ることは珍しくない。しかし,添付文書通りに正しく使用した尿道留置カテーテルであっても,自己切断により膀胱内に残存したカテーテル断端のバルーン部分が拡張したままの状況が極めて稀に起こり得る。このような状況の理由は不明であるが,消化器内視鏡の器具を用いて対応できた実例を紹介する。

 症例は,不穏時に尿道留置カテーテルを自己切断した73歳の心筋梗塞に対する抗凝固療法中の男性。軟性膀胱鏡にて異物除去を試みたところ,上記の稀な状況であることが判明し,そのままでは除去できない状況であった(図1)。軟性膀胱鏡用の生検鉗子,異物鉗子を用いてバルーン破裂を試みたが,不可能であった。エコーガイド下に恥骨上または会陰部から細い針でバルーンを破裂させた後に経尿道的に摘出する方法を考えたが,患者は心筋梗塞後で安静解除になったばかりで抗凝固療法中であることを考慮すると,経尿道的にバルーンを破裂させ,そのまま摘出することができれば患者の身体的な負担とリスクが少ないと考えられた。そこで,食道静脈瘤硬化療法用穿刺針(針径23G,針長4mm,適用チャネル径2mm,有効長1650mm,オリンパス社製:図2参照)を軟性膀胱鏡のワーキングチャネルより挿入し,直視下にバルーンを破裂させ,そのまま異物鉗子を用いてフォーリーカテーテル先端部を摘出することができた。特にバルーン破裂による膀胱損傷や,カテーテル砕片の発生は認めなかった。

交見室

Fitz-Hugh-Curtis症候群と性器クラミジア感染症,どちらも知っていますか?

著者: 安藤忠助

ページ範囲:P.86 - P.86

 性器クラミジア感染症は主に男性の尿道炎として泌尿器科で扱うことの多い疾患であるが,女性患者を扱うことは少ないように思える。これは女性性器のクラミジア感染症の半数以上がまったく症状を感じないともいわれており,また婦人科で扱うことが多いからだと思われる。しかし,女性の性器クラミジア感染症は容易に腹腔内を浸透し,骨盤内炎症性疾患を引き起こし,上腹部にも感染が拡がるとFitz-Hugh-Curtis症候群(以下,FHCS)という肝周囲炎を合併した急性腹症を発症する。近年の性感染症の蔓延に伴い,FHCSは急性腹症の4~5.8%を占めるといわれており1,2),決して稀な疾患ではなく急性腹症の1疾患として注目されている。

 当院においても,泌尿器科を初診したFHCSを経験したので紹介する。患者は19歳の女性,下腹部痛を主訴に膀胱炎と自己判断して泌尿器科を初診した。右季肋部を最強点として腹部全体に圧痛と反跳痛を認めたが,血液生化学,腹部CTおよびエコーに特記すべきことはなかった。以上よりFHCSを考え,入院のうえでテトラサイクリンによる点滴加療で治癒した。腟頸管粘液のPCRおよび血清抗体価によりFHCS症候群と確定した。確定診断および治癒後に,本人より性器クラミジア感染により流産の経験があるが無治療であることが確認され,その後の治療を産婦人科に依頼した。

書評

「細胞診セルフアセスメント(増補版)」―坂本穆彦,都竹正文 編/坂本穆彦,都竹正文,古田則行,星 利良 著 フリーアクセス

著者: 福田利夫

ページ範囲:P.14 - P.14

 本書の初版は1998年に発刊されています。たかが10年前と思われますが,本書の姉妹書にあたる『細胞診を学ぶ人のために』の初版から約8年後のことです。『細胞診を学ぶ人のために』は病理組織学と細胞診断学とを有機的に結び付け,わかりやすく解説した教科書として,国内で細胞診を“学ぶ”人たちの新しいスタイルの教科書として好評を持って迎えられ,15年間に3回の改訂が行われて現在の4版に至っています。

 本書『細胞診セルフアセスメント 増補版』は細胞診の知識の習得度を自分で確認するための設問集という形態をとっており,『細胞診を学ぶ人のために』で学んだ知識を実際の症例と問題を用いて確認できるように五肢択一式の画像スライド問題と学科問題の2部で構成されています。

「臨床医のための症例プレゼンテーションAtoZ[英語CD付]」―齋藤中哉 著/Alan T. Lefor 編集協力 フリーアクセス

著者: 岸田明博

ページ範囲:P.46 - P.46

 新医師臨床研究制度が発足して5年目を迎えています。マッチングをはじめその制度は定着し,また,その研修指導者を養成する講座や研修会が各地で盛んに開催されています。そのような講習会でよく出てくる質問のひとつに,「1か月や2か月ごとに回ってくる研修医に何を教えたらいいのか」というものがあります。医師の研修に無頓着であった日本医学界の実情からすれば,それは至極当然な質問だと思います。正直なところ,大学などでの卒後研修の実情を知らなかった私自身も当初は明確な答えを持ち合わせていませんでした。

 しかしながら,日本の医療現場の実情を知るにつけ,その答えは次第に明らかなものとなってきました。

「医療経済学で読み解く医療のモンダイ」―真野俊樹 著 フリーアクセス

著者: 山内一信

ページ範囲:P.66 - P.66

 現代の医療界にはさまざまな問題,課題がある。特にその仕組みを社会学的,経済学的,さらには医療機関のマネージメント機能からとらえる視点は良質の医療を行ってゆくための医療提供体制を考える上で重要である。このほど,これらの問題をわかりやすく解説した『医療経済学で読み解く医療のモンダイ』(真野俊樹著)が医学書院から発刊された。

 医療経済学の多くの成書は「経済学とは」という解説から大上段に振りかぶり,経済を成立させている需要・供給の問題に触れ,市場経済,統制経済の解説,そして医療は市場経済にはなじまないので統制経済の要素が強いにもかかわらず医療費は増大し続けることを述べ,少子高齢化が進み負債が増大する日本の経済基盤の中で,どのように良質で効率的医療を達成したらよいのかという流れが一般的である。このような論旨の展開では,まず経済学とは何かという難関に立ち向かうことになる。

「人は死ぬ」それでも医師にできること―へき地医療,EBM,医学教育を通して考える―名郷直樹 著 フリーアクセス

著者: 飯島克巳

ページ範囲:P.80 - P.80

 何だ。どういう意味だ。書名をみてそう思った。本を読んでいくうちに,その疑問が解けた。著者が責任者を務める地域医療研修センターでは,地域医療の特徴の第一として,「万物は流転する」を挙げている。つまり,人は死すべき存在であるという事実をまず踏まえるのである。したがって,この事実を踏まえて医療を行うということは,患者を見捨てない態度を取り続けることになる。患者に対して,「医学的にこれ以上できることはありません」とは決していわない。その代わりに,「何かいうべきこと,やるべきことがある」と考えるのである。

 地域医療の次の特徴として,「あらゆる問題に対応する」ことが挙げられている。つまり,患者のあらゆる必要に応えるということである。決して,専門外であるという理由をもって患者を拒絶することはしない。そのために,「多様な視点」を持ち,「患者のナラティブ―物語り」を聴き,「専門科や専門職の種類」を超えて対応するのである。このように地域医療とは,人々に寄り添う医療であるということがわかる。

「がん医療におけるコミュニケーション・スキル[DVD付]―悪い知らせをどう伝えるか」―内富庸介,藤森麻衣子 編 フリーアクセス

著者: 宇都宮宏子

ページ範囲:P.88 - P.88

 京大病院に「退院調整看護師」として着任し,この7月で7年目に入った。

 病院勤務を経て,在宅で訪問看護・ケアマネジャーを経験し,人は,生活の場にいるからこそ,「生きる強さ」「人としての強さ」を発揮できることを実感した。家の力,地域の力,そのなかで生活者としての力,患者の強さをみて家族もまた力を発揮する。

「プロメテウス解剖学アトラス―頸部/胸部/腹部・骨盤部」―坂井建雄,大谷 修 監訳 フリーアクセス

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.89 - P.89

 解剖学書の生命は挿入された図にある。図を1枚見ただけで,どの解剖学書かすぐわかるほど,風雪に耐えた解剖学書の図は個性的である。これまでさまざまな意匠の図が多数描かれており,「これ以上新しい図が登場することはないだろう」と思っていても,『プロメテウス解剖学アトラス』の図のように,私どもの想像を超えたさらに衝撃的な図が生まれてくるところにこの領域の面白さがある。

 本書の図の特徴は,透明感である。ギリシャ神話に登場する女神や妖精が透けた衣類を身につけ,舞うようなイメージの図が数多く挿入されている。この透かしの技法は日本の芸術にも時折みられるが,ヨーロッパが得意とするものであり,カメオ職人が,自分が彫った妖精をみせながら,透けている状態を掘り出す難しさを,熱を込めて語ってくれたことを思い出す。この技法は1枚の図の中で,お互いの臓器の関係,特に裏側にある血管との関係を表現するために極めて有効に使われており,その描き方はまさに芸術である。

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編集後記 フリーアクセス

著者: 藤岡知昭

ページ範囲:P.96 - P.96

 2008年,本邦の泌尿器科腫瘍領域の臨床における最大の話題の1つは,腎癌の治療にソラフェニブとスニチニブという分子標的治療薬が登場したことである。これは,癌細胞の特異的な蛋白質などを標的とした新たな治療薬であり,従来のIFN-αおよびIL-2を中心としたサイトカイン療法が大きく変革するものと考えられている。今月号の綜説は,秋田大学・湯浅健先生らの「腎細胞癌に対する分子標的治療の展開」で,分子標的治療薬の抗腫瘍作用機序から代表的な臨床試験,治療効果の予測,さらには現在進行中の臨床試験まで簡潔に概説しており,新年号の巻頭の綜説としてまさに時宜を得たものである。分子標的治療は,忍容性,近接効果では高く評価されるものの,寛解例の少ないことや多様な副作用が予測されるなどの問題点を指摘している。分子標的治療薬に関する治験を整理できる論文である。

 手術手技「小児泌尿器科手術」は,大阪市立総合医療センター 坂本亘先生,神奈川県立こども医療センター 山崎雄一郎先生および岡山医療センター 後藤隆文先生による「Wilms腫瘍に対する手術」3編である。 Wilmsは,小児泌尿器科領域において代表的な腎腫瘍であるが,泌尿器科医一般にとっては馴染みの薄い疾患・手術と思われる。各筆者の貴重な経験を実感できる読みごたえのある論文である。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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