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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科63巻2号

2009年02月発行

雑誌目次

特集 泌尿器科医のための内分泌学ことはじめ

副腎腫瘍と内分泌総論

著者: 成瀬光栄 ,   立木美香 ,   田辺晶代 ,   高野加寿恵

ページ範囲:P.103 - P.107

要旨 副腎腫瘍の治療に際しては,良性・悪性の診断に加えて,機能性か非機能性かの診断が極めて重要である。機能性の場合は,ホルモン過剰により高血圧や糖尿病を合併することから,手術に際して心血管系機能の慎重な評価が必要である。褐色細胞腫では術中高血圧クリーゼ,クッシング症候群では術後の副腎不全,原発性アルドステロン症では術後の循環血漿量減少,腎機能低下,血清カリウム上昇などに配慮する必要がある。一見,非機能性とみえる腫瘍の中に,少なからずサブクリニカルクッシング症候群があり,この場合も術後の副腎不全に注意を要する。内分泌学的評価は,ホルモンの絶対値のみならず,内分泌の基本であるフィードバック調節を考慮して,関連あるホルモンを組み合わせて評価することが重要である。施設の内分泌代謝専門医と連携することが推奨される。

男児外陰部異常症

著者: 緒方勤

ページ範囲:P.109 - P.115

要旨 男児外陰部異常症について,単一遺伝子疾患と多因子疾患の観点から述べた。尿道下裂は性分化臨界期における男性ホルモン効果低下に起因し,精巣因子(胎児精巣形成および精巣ホルモン産生)と外陰部因子(末しょうホルモン効果と外陰部原器形成)が関与する。尿道下裂を伴わない停留精巣は,性分化臨界期以降の時期における男性ホルモン効果の低下あるいはINSL3効果低下により発症し,ミクロペニスは,性分化臨界期以降の時期における男性ホルモン効果の低下による。現在までに,単一遺伝子変異のデータが蓄積されつつあり,同時にエストロゲン受容体内分泌攪乱化学物質感受性ハプロタイプの同定などがなされている。

小児のアンドロゲン

著者: 佐々木悟郎 ,   石井智弘 ,   本間桂子 ,   長谷川奉延

ページ範囲:P.117 - P.121

要旨 小児期の血中アンドロゲン濃度は年齢および成熟度によって大きく変化するため,評価には注意が必要である。正常男児における血中テストステロン濃度は,出生時から生後3か月までは下垂体LHの一過性分泌によって高値,その後前思春期を通じて低値となる。思春期以降,中枢および精巣における性成熟が進行し,血中テストステロン濃度は上昇する。正常男児および女児におけるDHEAおよびDHEA-S分泌は,出生時から数か月は副腎皮質胎児層の残存により高く,その後低くなる。男女とも思春期に約2年先行して副腎皮質網状層が発育し,両者の分泌は増加する。この前思春期に始まる分泌増加をadrenarcheというが,その生理的意義は必ずしも明らかではない。

核内アンドロゲン受容体を介したアンドロゲン生理作用発現機構

著者: 加藤茂明 ,   松本高広

ページ範囲:P.123 - P.128

要旨 男性ホルモン(アンドロゲン)は,雄性化をはじめ,さまざまな生理作用を発揮する。その主たる作用機構は,核内に局在する男性ホルモン受容体(AR)を介した標的遺伝子の発現制御を介して発揮すると考えられている。ARは,核内ステロイドホルモン受容体スーパーファミリーに属するホルモン依存性転写制御因子である。ホルモン依存的なARによる転写制御は,最近染色体構造調節を伴うことが明らかになりつつある。そこで本稿では,これら染色体構造調節の分子機構とその調節因子について概観したい。また,ARの高次機能解析の例として,ARノックアウトマウスの作出と,その表現型についても概説したい。

エストロゲン受容体作用機構

著者: 生水真紀夫 ,   碓井宏和

ページ範囲:P.131 - P.136

要旨 エストロゲンの作用には,genomic actionとnon-genomic actionの2つがある。前者は,エストロゲンが細胞質内でエストロゲン受容体と結合した後,DNAに結合して転写を亢進させるもので,タンパク合成を介するため作用の発揮に数時間を要する。後者は,膜型受容体にエストロゲンが結合した後,MAPKなどのシグナル伝達系を活性化させて数秒から数分で作用を発揮するものである。SERMs(selective estrogen receptor modulators)は,エストロゲン受容体に結合して作用を発揮するが,エストロゲンとの立体構造の違いから,エストロゲンとは異なる作用スペクトラムを示す。治療効果の増強と副作用の軽減を目指し,さまざまなSERMsが開発されている。

副腎ホルモン

著者: 柴田洋孝

ページ範囲:P.139 - P.146

要旨 原発性アルドステロン症,クッシング症候群,褐色細胞腫は二次性高血圧の主要な疾患である。原発性アルドステロン症では,高血圧症を対象に,アルドステロン/レニン比高値によりスクリーニングを行い,機能検査で確定診断の後に副腎静脈サンプリングにより局在診断を行い,片側病変に対して腹腔鏡下副腎摘出術を行い,それ以外には薬物療法を行う。クッシング症候群では,クッシング徴候やメタボリックシンドロームを対象に,コルチゾールの自律的産生と画像検査から局在診断を行う。一方,褐色細胞腫は副腎髄質や全身の交感神経節に腫瘍が発生するので,尿中カテコラミンやメタネフリン分画高値から疑い,CT,MRIおよびMIBGシンチグラムなどで局在診断を行い,薬物療法の後に手術を行う。

原著

腹腔鏡下副腎摘除術と開放性手術の手術成績についての比較検討

著者: 古田希 ,   佐々木裕 ,   小出晴久 ,   三木淳 ,   木村高弘 ,   頴川晋

ページ範囲:P.157 - P.163

 腹腔鏡下副腎摘除術と開放性手術との比較検討を行った。対象は1997~2006年の片側副腎腫瘍138例で,腹腔鏡下手術が90例,開放性手術が48例であった。開放性手術への転換を6例に認めた。腫瘍径は開放性手術症例が有意に大きかったが,手術時間は同等であった。出血量は,腹腔鏡下手術で有意に少なかった。手術時間と腫瘍径は開放性手術で正の相関がみられた。出血量と腫瘍径は両術式とも相関なく,出血量と手術時間は両術式とも正の相関がみられた。術後の歩行,食事の開始,および退院までの期間は,腹腔鏡下手術症例で有意に短かった。以上より腹腔鏡下副腎摘除術は低侵襲で,術後のQOLが良好な術式といえた。

症例

左背部痛および下腹部痛を主訴とした精巣区域梗塞

著者: 北島和樹 ,   佐々木秀郎 ,   中澤龍斗 ,   宮野佐哲 ,   堤久 ,   力石辰也

ページ範囲:P.165 - P.168

 症例は40歳,男性。左精巣痛の精査目的に紹介された。精巣超音波では部分的に血流のない低エコー領域を認め,精巣部分梗塞が疑われた。緊急手術を行ったが,梗塞範囲が広く摘出となった。

尿管結石による疼痛を契機に発見された成人精巣成熟奇形腫

著者: 西田智保 ,   勢井洋史 ,   池田哲大 ,   丹司望 ,   水野洋輔 ,   杉田敦郎

ページ範囲:P.171 - P.174

 症例は46歳,男性。右背部痛を主訴に他院救急外来を受診した。右尿管結石の診断で疼痛コントロールを目的に入院した。腹部単純CTで右尿管U1に径5mmの結石と,右精巣内に石灰化を伴う径2.5cmの腫瘤を認めたため,翌日泌尿器科に紹介された。診察時,右背部痛は軽快していたが,右精巣内に拇指頭大の硬結を触知した。超音波でも内部不均一な腫瘤を認めたため,右精巣腫瘍と診断し,手術目的で本院当科へ紹介された。腫瘍マーカーはすべて陰性であった。画像上転移は認めなかった。右高位精巣摘除術を施行し,病理結果は精巣成熟奇形腫であった。精巣成熟奇形腫は転移や再発の可能性もあるので,術後も厳重な経過観察が必要である。

尿道進展を認めた高齢者乾燥性閉塞性亀頭炎

著者: 根本勺 ,   石舘卓三

ページ範囲:P.177 - P.179

 症例は79歳,男性。他の複数の病院で前立腺肥大と診断され,α1-遮断薬の投薬を受けていた。今回,大量の尿滴下を主訴に当院を受診した。閉塞性乾燥性亀頭炎(balanitis xerotica obliterans:BXO)の診断にて,環状切除術を施行した。BXOは尿道へ進展しており,外尿道口狭窄および尿道狭窄を合併していた。自験例より,老人の泌尿器科疾患は多様であり,注意深い問診および基本診察の重要性を再認識した。

小さな工夫

泌尿器科手術後のダーマボンドを使用した皮膚縫合

著者: 稲元輝生 ,   安倍弘和

ページ範囲:P.182 - P.183

 泌尿器科手術後の創部の縫合は施設によって手法が異なり,この十年で方法が激変した。開放手術が主であった十年前には,腎摘除術には腰部斜切開,膀胱全摘除術や前立腺全摘除術には下腹部正中切開が用いられてきた。おのずと切開の距離は10~20cmと大きく,したがって,筋膜を1バイクリルあるいは5号絹糸で縫合した後,皮下を3-0バイクリルで縫合し,真皮はクリケットで縫合する手法が主であった。ところが,近年の内視鏡手術の台頭により,切開創のサイズは格段に小さくなった。例えば,腹腔鏡下腎摘除術では,カメラポートを含めて12mmサイズのポートが合計2個,5mmサイズのポートが2個,そのうちの1つのポート創を延長して作る5~6cmサイズの腎摘除用の創部から構成される。

 われわれはここ数年,筋膜を1バイクリル(あるいは1マクソン)で縫合し,皮下は3-0バイクリルなどの吸収糸で埋没縫合,そして真皮をrunning sutureで縫合し,表皮をダーマボンド(High Viscosity Dermabond®, Ethicon)で覆う方法を採用している(図1)。なお,真皮のrunning sutureは糸の両端はわざと結紮せずに置いておき,ダーマボンドで覆った後に両端の糸を牽引しながら真皮ぎりぎりのところで切断している(図2)。この方法の利点は創部の治癒が極めて良好なことで,場合によっては手術の翌日からシャワー浴が可能であり,美容上の面からも極めて美しいという点が挙げれらる。もちろん,術後の病棟での消毒処置はまったく不要である。

交見室

超音波造影法による腎微小循環の評価

著者: 水関清

ページ範囲:P.185 - P.185

 1990年代以降,超音波診断機器のデジタル化が導入されたことによって,超音波の発信から受信,そして画像化に至るさまざまな段階において,それらの系統的制御に新機軸が次々に打ち出された。具体的には,超音波信号の広帯域(ブロードバンド)化と複雑な画像信号処理にも対応可能な高速信号処理機能の,超音波診断装置への付与である。その結果,ハーモニック・モードはほぼ標準装備化され,Bモード画像の画質向上や,ドプラ・モードの多様化と画質向上は多くの装置において普遍化しつつある。また,付加的機能としての3次元表示や,超音波造影剤対応機能の付与についても普及は着実に進んでいるようである。

 この超音波造影剤を用いて腎微小循環を評価する試みが,先に神戸市で開催された日本超音波医学会第81回学術集会において取り上げられた。

書評

「臨床医のための症例プレゼンテーションAtoZ[英語CD付]」―齋藤中哉 著 フリーアクセス

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.129 - P.129

 この度,自治医科大学客員教授であり東京医科大学の総合臨床科教授でもある齋藤中哉教授の執筆と,自治医科大学教授のAlan T. Lefor教授の編集協力により,『臨床医のための症例プレゼンテーションA to Z』が医学書院から出版された。これには英語のCDが付いている。

 本書の内容は,2003年以来,ハワイ大学の医学教育フェローシップ・プログラム・ディレクターをされていた齋藤中哉氏が『週刊医学界新聞』誌上において2004年から1年間,12回にわたって連載した「英語で発信! 臨床症例提示―今こそ世界の潮流に乗ろう」に,大幅な加筆・修正を加えたものだ。連載は,カンファレンスにおける症例呈示(Case Presentation)の実例を分析し,テキストとして教育的,効率的な症例の提供の仕方を教えてくれる,読者にあたかも米国での症例検討会に出席しているような感を与える記事であった。

「医療経済学で読み解く医療のモンダイ」―真野俊樹 著 フリーアクセス

著者: 福田秀人

ページ範囲:P.137 - P.137

 コーネル大学医学部留学中に経済を学ぶことの大事さを痛感し,京都大学で経済学博士号を得た医師であり,また医療経済学者でもある筆者は,出来高払いの保険制度は,医師と患者にとっての天国をもたらすものと説く。患者のために高度な診療をするほど,病院や医師に多額の報酬が支払われるからである。しかし,これでは医療費に歯止めがかからず,また,医師と患者の間の情報・知識の格差が,過剰な診療を誘発する。

 さらに,高齢化社会の到来による患者増で,医療費は急増していくとの政府予想と財政赤字の深刻化を受けて,医療費の抑制が重要な政策課題となり,包括払い制度,在院日数の短縮,病床数削減,診療報酬引き下げ,ジェネリック薬品の奨励,レセプトの審査強化などが推進されるようになった。延命治療も問題視されるようになった。

「プロメテウス解剖学アトラス―頸部/胸部/腹部・骨盤部」―坂井建雄,大谷 修 監訳 フリーアクセス

著者: 小澤一史

ページ範囲:P.169 - P.169

 『プロメテウス解剖学アトラス』の第1巻として「解剖学総論/運動器系」が刊行されて以来,それに続く「頸部/胸部/腹部・骨盤部」の出版を,まだかまだかと大変に待ち遠しかったのは私だけではないだろう。第1巻でその図の美しさ,精密さがすでに示されていたわけであるから,続編の質が極めて高いことは想像に難くなかった。実際に本書を手にとり,そのページを開いて,思わず「にんまり」としないわけにはいかなかった。

 「解剖学総論/運動器系」では,その名の通り「アトラス」としての役割が高い本であると感じたが,今回の「頸部/胸部/腹部・骨盤部」ではアトラス的な要素はもちろんであるが,「解説書」「教科書」的な要素が多くなり,特に基礎科学として解剖学的な見地から内臓学を学ぶとともに,臨床医学に直結する内容が豊富に散らばっており,工夫がなされている様子がよくわかる。例えば間接喉頭鏡の観察像,呼吸による肺容積の変化や力学的な影響,胃粘膜の内視鏡像,種々のX腺画像,臓器と神経支配の図などが,「ここ!」というポイントに示され,学ぶ楽しみを引き出そうとする著者の思いがにじみ出ている。内臓系が中心ということもあり,発生学的な説明や生理学的な機能面での解説も多く見られ,充実した「アトラス」になっている。最終章で扱っている「各器官に分布する神経・血管・リンパ管」では,非常に簡潔に単純化した内臓と神経,血管,リンパ管との関係が示されている。この単純化された関係図を見ながら,詳しい教科書の記述を読めば,これらの仕組みを能率よく身につけることができる。まさに「自ら学ぶ」ための道標としても利用でき,解剖学における少人数のチュートリアル的学習などにも活用できると感じた。

「緩和ケアエッセンシャルドラッグ」―恒藤 暁,岡本禎晃 著 フリーアクセス

著者: 渡邊正

ページ範囲:P.175 - P.175

 診療中にすぐ参照できるように,手の平に乗るような小型サイズ(B6変)でありながら,緩和ケアに関する専門的・実践的知識がぎっしりと詰まった本書は,私には小さな巨人に譬えることができると思われた。それは本書が,①従来の小型版のほとんどが疼痛コントロールに限られているのに対し,緩和ケアで遭遇する多くの症状が網羅されていること,②著者の長年の経験から得られた臨床上のノウハウが随所に見られ,本書に息を吹き込んでいるばかりでなく,実践的で有用な知識を提供していること,③緩和ケアの本質である全人的ケアの観点が貫かれていること,などの特徴を持っているからと思われる。

 さて,本書は総論として症状マネジメントの原則と概説,各論として緩和ケアで用いられるエッセンシャルドラッグの解説から構成されている。先にタイトルにもなっているエッセンシャルドラッグであるが,世界保健機関(WHO)が国際ホスピス緩和ケア協会(IAHPC)に依頼して作成されたもので,そのリストは2006年の『Palliative Medicine』(Vol20,p647-651)に公表されている。リストの作成に当たっては,緩和ケアで多くみられる症状を特定したあと,デルファイ法を用いて薬剤の効果,安全性,経済性などを検討し,必須薬として33剤を決定している。しかし,薬剤に関する説明はほとんど省略されているため,著者はこれらの必須薬をもとにわが国の実情に即して約50種類の薬剤を厳選した上で,各薬剤の用法,副作用,相互作用などについて詳細な解説を行っている。

「臨床麻酔レジデントマニュアル」―古家 仁 編/川口昌彦,井上聡己 編集協力 フリーアクセス

著者: 並木昭義

ページ範囲:P.181 - P.181

 今年の6月に医学書院から『臨床麻酔レジデントマニュアル』が発刊された。この本の編集執筆を奈良県立医科大学麻酔学教室に依頼されたことは最適な選択であった。編集責任者の古家 仁教授は日本麻酔科学会常務理事として,日本の麻酔科および麻酔科医に現在そして将来何が必要かを十分に理解している。その教室は術中の麻酔業務だけでなく,術前,術後の周術期管理に熱心に取り組んでいる。そして研修医,若手麻酔科医に臨床麻酔の知識,技術を習得させるだけでなく,患者への接し方および他科医師,看護師への対応などの教育にも力を注いでいるからである。

 今回発刊された本はポケット版のマニュアル本であるが,臨床麻酔に必要な内容がほぼ網羅されている。しかも簡潔な表現で図表も多く用いて理解しやすくしてある。このような本ができたのは編集協力者の川口昌彦准教授,井上聡己講師および執筆に携わった29名の教室員皆さんの努力と頑張りによる。

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編集後記 フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.192 - P.192

 今月号の特集は「泌尿器医のための内分泌学ことはじめ」です。泌尿器科という診療科は,規模の小さな診療科でありながら,多彩な疾患を幅広く扱っていると常日頃感じている先生が多いのではないでしょうか? 最近の学術におけるキーワードの1つに「学際」という表現があります。経済界における異業種交流会のごとく,専門を異にする研究者あるいは医師が1つの場に集まり,同じ課題を討論したり,交流を深めたりすることは,すでにさまざまな学会で行われています。そういう立場から泌尿器科学を眺めてみますと,泌尿器科学は学際的な要素を内包しているように感じます。腫瘍学があると思えば,腎臓病学,透析医学,移植学,神経生理学,生殖医学,そして今回とりあげた内分泌学です。内分泌学として泌尿器科医が扱う臓器は,副腎と前立腺です。副腎疾患と前立腺疾患を同じ視点で治療方針を立てることはしませんが,いざ内分泌学という学問分野を意識すると,共通項が浮かび上がってきます。それは,ステロイドホルモンというキーワードです。

 今回の特集は,ステロイドホルモンという生命科学と医学での重要事項を軸に,泌尿器科診療における内分泌学の理解を深めるために企画しています。そのことが結果的に泌尿器科学の学際性を示したことになったと感じています。成瀬光栄先生・他には内分泌学の総論について,副腎腫瘍を例にとってわかりやすく説明していただきました。内分泌臓器と標的臓器を含めた「系」としての理解の重要性が解説されています。佐々木悟郎先生・他には小児のテストステロンとデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)が年齢によって変化することを豊富な図と表でわかりやすく説明していただきました。内分泌環境が成長とともに変化していることを認識しました。胎児期における内分泌環境が微妙に関係しているのが,男児外陰部異常症です。緒方勤先生には,単一遺伝子疾患と多因子疾患の観点から解説していただきました。胎児期の正常分化の模式図は,解説がわかりやすく,性分化を俯瞰できます。男児外陰部異常症は近年増加し,内分泌撹乱化学物質の影響が指摘されているのはご存知と思います。種類は膨大ですが,これらの作用点は,エストロゲン受容体です。生水真紀夫先生・他の論文にはエストロゲンの作用には,genomic actionとnon-genomic actionの2つがあること,最近話題のSERMについて詳細な解説をいただきました。加藤茂明先生・他の論文では核内レセプターの構造と機能についての考え方の基本がわかりやすく解説されています。ここまで読んだ後に,柴田洋孝先生の論文を読むと,私達のホームに戻ってきた気がするのと,長旅を終えた安堵感でホッコリします。実践的なエッセンスがつまっています。

 さらに,この知的興奮を継続させたい方には帚木蓬生著『インターセックス』(集英社刊)をおすすめします。ミステリーへの誘いです。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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