icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科63巻5号

2009年04月発行

雑誌目次

特集 泌尿器科の癌薬物療法―ここが聞きたい

腎癌―分子標的治療薬の登場によりサイトカイン治療の役割は変化するか?

著者: 中川昌之

ページ範囲:P.295 - P.299

要旨 進行性腎細胞癌に対しては,従来インターフェロン(IFN)やインターロイキン-2(IL-2)などのサイトカイン療法が第一選択であった。しかしその奏効率は15~20%であった。2007年4月より分子標的治療薬のsorafenibが保険承認され,今後1,2年以内に複数の分子標的治療薬が使用できるものと思われる。これまでIFNと分子標的治療薬の併用や比較試験が実施され,bevacizumabなどとの組み合わせにより良好な治療成績が報告されている。分子標的治療薬は非常に期待されているが,副作用は多様で重篤なものもある。一方,IFNは安価で副作用は小さい。現時点でサイトカイン療法は進行性腎細胞癌の治療選択肢として有用と考える。

腎癌―分子標的治療薬時代のサイトカイン療法の役割

著者: 岸田健 ,   矢尾正祐

ページ範囲:P.301 - P.309

要旨 分子標的薬は大規模臨床試験という質の高いエビデンスを基にその有用性が評価されており,EBMの考えに基づけばサイトカイン療法に対する優位性はゆるぎないもののように思われる。しかしながら,EBMの本質は多種多様な患者に合わせてエビデンスを取捨選択し適応していくものであり,数少ないながらもCR(complete response)症例が得られるサイトカイン療法を否定するものではない。今後はサイトカイン療法と分子標的療法の適応を選別するための効果予想因子,つまりバイオマーカーの同定により,個々の治療の奏効性を高めるとともに,両者の交替療法,併用療法などを試みることによって個々の患者に合わせたきめ細かい治療の選択が求められ,その中でサイトカイン療法の役割は維持されていくと予想される。

膀胱癌―今日においてもBCGおよびMVACは標準治療か?

著者: 塚本泰司 ,   田中俊明

ページ範囲:P.311 - P.316

要旨 MVAC療法の効果を凌駕する化学療法がないことからすれば,この治療の効果はサロゲートマーカーとなる。一方,有害事象の面からはGC療法が標準治療となる。しかし,MVAC療法で得られたこれまでの種々の知見が,GC療法に直接当てはまるかどうかは今後の検討が必要である。周術期の化学療法としては現時点では術後よりは術前化学療法が推奨されるが,GC療法を用いた検討は乏しく,これに関した知見の充実が望まれる。High-grade癌に対するBCG膀胱内注入療法は,今後も標準治療である。さらに,その効果を損なうことなく有害事象を軽減できるBCGの投与量,あるいは結核菌のcell wall skeletonなどを使用する他の新しい治療法の開発への挑戦も必要である。

膀胱癌―今日においてもBCGおよびMVACは標準治療か?

著者: 角野佳史 ,   並木幹夫

ページ範囲:P.319 - P.324

要旨 BCG療法は,再発リスクの高い表在性膀胱癌の再発予防および膀胱上皮内癌に対する治療として確立した方法であるが,最適な投与量・投与方法に関して,いまだ不明な点がある。MVACは転移性膀胱癌の全身療法として,また,浸潤性膀胱癌の周術期補助療法として,長年使用されている有効な治療法である。他の抗癌剤治療の中で,ゲムシタビン・シスプラチン療法(GC)はMVACと同等の効果を示しながら,副作用は軽減されると報告され,欧米ではMVACとともに標準治療とされている。BCGはその使用法に関して,また,MVACは副作用対策や症例選択などについて,それぞれ考慮の余地はあるものの,現在のところ本邦では標準治療といえる。

前立腺癌―ホルモン療法非依存性前立腺癌の治療は,化学療法剤の保険収載に伴いどのように変化するか?

著者: 鈴木啓悦

ページ範囲:P.327 - P.333

要旨 一般に,前立腺癌が内分泌療法に抵抗性となった場合には化学療法が用いられる。しかしながら,従来の化学療法は有効性・安全性の点より必ずしも満足し得る結果を得てこなかった。ドセタキセル(商品名:タキソテール®)を用いた化学療法は,2004年に大規模臨床試験の結果に基づき米国で承認された。以後,ドセタキセルを中心とした化学療法は世界的に標準的治療としての地位が確立され,欧米の各種ガイドラインにも取り上げられている。本邦においては,2008年8月にようやく前立腺癌への追加適用が承認された。本稿では,ドセタキセルのエビデンスを整理するとともに,本邦における使用の注意点や課題を含めて概説する。

前立腺癌―ホルモン非依存性前立腺癌の治療は,化学療法剤の保険収載に伴いどのように変化するか?

著者: 鈴木和浩

ページ範囲:P.335 - P.342

要旨 ホルモン非依存性前立腺癌(HRPC)に対して,ドセタキセルが保険収載された。国内phase Ⅱ試験はプレドニン10mgとの併用で70mg/m2で行われた。PSA反応,測定可能病変の反応は国外の試験とほぼ同様であった。本療法は泌尿器科領域で初めて外来化学療法として施行可能であるが,高齢者や骨髄予備能などの低い症例を対象とするために,有害事象には細心の注意が必要である。しかし,二次三次内分泌療法が無効な症例でもcomplete responseを得る症例もあり,適応と投与量,経過観察などをシステム化し,期待の持てる治療選択肢と考える。ステロイド,エストラサイトなどの併用薬剤,骨転移に対するゾレドロン酸との併用,至適導入時期,さらにドセタキセル無効例への対応などの課題があるが,HRPCに対する治療でようやく欧米と同様な治療選択が可能となったことは意義深い。

精巣腫瘍―“poor risk”の標準的導入化学療法はBEPか?―予後不良群に対する治療戦略

著者: 堀川洋平 ,   土谷順彦 ,   羽渕友則

ページ範囲:P.345 - P.350

要旨 精巣腫瘍は,化学療法の進歩によりその90%以上が長期生存可能で,根治可能な固形腫瘍の好例である。しかし,転移期胚細胞腫のInternational Germ Cell Consensus Classification(IGCC分類)におけるpoor risk群では,治療後の5年非再発生存率は41%と満足のいくものではない。Poor risk群に対してはBEP療法4コースが標準的導入療法として推奨されているが,治療成績向上を目指してさまざまなレジメンが考案されてきた。しかしながら,現在までの臨床試験からはBEP療法を凌駕するレジメンは見出されず,今後の新たなレジメンの開発,臨床試験の結果が待たれる。

精巣腫瘍―“poor risk”の標準的導入化学療法はBEPか?

著者: 中村晃和 ,   三木恒治

ページ範囲:P.353 - P.357

要旨 IGCC分類が報告されて以来,この分類に基づいて,転移を有する進行性精巣腫瘍の治療方針が考えられるようになった。Good prognosis群では,BEP療法3コースまたはEP療法4コースが標準的導入化学療法であるのに対し,poor prognosis群では,BEP療法を4コース行うことが標準である。肺機能低下の疑われる症例では,VIP療法を導入化学療法として行ってもよい。導入化学療法としての大量化学療法は,RCTが行われた結果,その有用性が証明されず,現在のところ標準的な導入化学療法とはいえない。

緩和医療―緩和医療における鎮痛薬・睡眠薬の使い分けをどのようにすべきか?

著者: 野口満

ページ範囲:P.359 - P.363

要旨 癌患者の多くは不眠を呈しており,緩和医療においては疼痛コントロールのみならず不眠のコントロールも欠かすことはできない。緩和医療での不眠治療にあたっては,患者の不眠の原因と睡眠パターンを把握し治療を行うこととなる。除痛が不十分であれば,鎮静剤による治療の除痛ラダーのステップアップでまず対処する。疼痛コントロールができていても,不眠であれば睡眠薬を用いた治療を開始する。患者の睡眠パターンと患者の状態を把握し,半減期の短い超短時間型,筋弛緩作用が少ない睡眠薬から投与開始する。効果が不十分であれば睡眠薬を変更し,患者の残された時間を有効なものにしなければならない。

緩和医療―緩和医療における鎮痛薬・睡眠薬の使い分けをどのようにすべきか?―疼痛緩和における鎮静の考え方

著者: 中島耕一

ページ範囲:P.365 - P.370

要旨 癌対策基本法の施行に伴い,地域にかかわらず,等しく患者本人の意思を尊重した治療方法が提供されることが,われわれ医療人の責務となった。疼痛対策においても同様である。疼痛対策については「癌患者の療養生活の質の維持向上について」として第16条にうたわれている。この基本方針に則った緩和医療については,診療科を問わず医療人は等しく認識をしなければならない。緩和医療においては,医療側,患者,患者家族それぞれの価値観は異なっており,十分な話し合いのもとで選択し得る手段について慎重に検討する必要がある。

症例

外尿道口周囲にみられた小児尖圭コンジローマ

著者: 甲斐文丈 ,   海野智之 ,   本山大輔 ,   麦谷荘一 ,   牛山知己 ,   大園誠一郎

ページ範囲:P.375 - P.378

 症例は4歳男児。主訴は亀頭部腫瘤。亀頭包皮炎治療7か月後に腫瘤が出現し,当科を受診した。外尿道口周囲に乳頭状の腫瘤を認め,尖圭コンジローマと診断した。全身麻酔下にコンジローマ焼灼術を施行した。病理診断,および患部ぬぐい液中HPV-DNA(+)であったため,尖圭コンジローマと診断確定した。術後8か月経過した現在まで再発を認めない。

--------------------

編集後記 フリーアクセス

著者: 藤岡知昭

ページ範囲:P.384 - P.384

 今月号の特集は,「泌尿器科の癌薬物療法」です。進行性腎細胞癌,膀胱癌,前立腺癌,精巣腫瘍および緩和医療において,それぞれ,分子標的薬とサイトカイン療法の役割分担,標準療法としてのBCGおよびMVAC,ホルモン療法非依存性癌の化学療法,poor risk症例における標準治療および鎮痛剤と睡眠剤の使い分けの臨床的な疑問に応える形式で,経験豊富な各2施設からの先生に執筆をお願いしました。いずれの論文も,臨床的な観点より問題が提起・整理され,重要な治験・示唆を与えてくれる内容で,日常診療に直結する力作であると思われます。その他,興味深い症例報告が1編です。

 先日,鹿児島市で開催された「第18回 泌尿器科分子・細胞研究会(会長:中川昌之教授)」に参加しました。研究会は,日本泌尿器科学会の基礎研究領域を網羅しているといえる活発で質の高いもので,大盛況であったことはいうまでもありません。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻13号(2022年12月発行)

特集 これだけは知っておきたい! 泌尿器科診療でも活きる腎臓内科の必須知識

76巻12号(2022年11月発行)

特集 ブレずに安心! 尿もれのミカタ

76巻11号(2022年10月発行)

特集 限局性前立腺癌診療バイブル―このへんでキッチリと前立腺癌診療の“あたりまえ”を整理しよう!

76巻10号(2022年9月発行)

特集 男性不妊診療のニューフロンティア―保険適用で変わる近未来像

76巻9号(2022年8月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)の手術療法―臨床現場の本心

76巻8号(2022年7月発行)

特集 泌尿器腫瘍における放射線治療―変革期を迎えた令和のトレンド

76巻7号(2022年6月発行)

特集 トラブルゼロを目指した泌尿器縫合術―今さら聞けない! 開放手術のテクニック

76巻6号(2022年5月発行)

特集 ここまで来た! 腎盂・尿管癌診療―エキスパートが語る臨床の最前線

76巻5号(2022年4月発行)

特集 実践! エビデンスに基づいた「神経因性膀胱」の治療法

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号特集 専門性と多様性を両立させる! 泌尿器科外来ベストNAVI

76巻3号(2022年3月発行)

特集 Female Urologyの蘊奥―積み重ねられた知恵と技術の活かし方

76巻2号(2022年2月発行)

特集 尿路性器感染症の治療薬はこう使う!―避けては通れないAMRアクションプラン

76巻1号(2022年1月発行)

特集 尿道狭窄に対する尿道形成術の極意―〈特別付録Web動画〉

75巻13号(2021年12月発行)

特集 困った時に使える! 泌尿器科診療に寄り添う漢方

75巻12号(2021年11月発行)

特集 THEロボット支援手術―ロボット支援腎部分切除術(RAPN)/ロボット支援膀胱全摘除術(RARC)/新たな術式の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻11号(2021年10月発行)

特集 THEロボット支援手術―現状と展望/ロボット支援前立腺全摘除術(RARP)の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻10号(2021年9月発行)

特集 今こそ知りたい! ロボット時代の腹腔鏡手術トレーニング―腹腔鏡技術認定を目指す泌尿器科医のために〈特別付録Web動画〉

75巻9号(2021年8月発行)

特集 ED診療のフロントライン―この一冊で丸わかり!

75巻8号(2021年7月発行)

特集 油断大敵! 透析医療―泌尿器科医が知っておくべき危機管理からトラブル対処法まで

75巻7号(2021年6月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)薬物治療のニューノーマル―“とりあえず”ではなくベストな処方を目指して

75巻6号(2021年5月発行)

特集 躍動するオフィスウロロジー―その多様性に迫る!

75巻5号(2021年4月発行)

特集 前立腺癌のバイオロジーと最新の治療―いま起こりつつあるパラダイムシフト

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科当直医マニュアル

75巻3号(2021年3月発行)

特集 斜に構えて尿路結石を切る!―必ず遭遇するイレギュラーケースにどう対処するか?

75巻2号(2021年2月発行)

特集 複合免疫療法とは何か? 腎細胞癌の最新治療から学ぶ

75巻1号(2021年1月発行)

特集 朝まで待てない! 夜間頻尿完全マスター

74巻13号(2020年12月発行)

特集 コロナ時代の泌尿器科領域における感染制御

74巻12号(2020年11月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈下部尿路機能障害/小児・女性・アンドロロジー/結石・感染症/腎不全編〉

74巻11号(2020年10月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈腫瘍/処置・救急・当直編〉

74巻10号(2020年9月発行)

特集 令和最新版! 泌尿器がん薬物療法―手元に置きたい心強い一冊

74巻9号(2020年8月発行)

特集 泌尿器腫瘍の機能温存手術―知っておくべき適応と限界

74巻8号(2020年7月発行)

特集 これが最新版! 過活動膀胱のトリセツ〈特別付録Web動画〉

74巻7号(2020年6月発行)

特集 小児泌尿器科オープンサージャリー―見て学ぶプロフェッショナルの技〈特別付録Web動画〉

74巻6号(2020年5月発行)

特集 高齢患者の泌尿器疾患を診る―転ばぬ先の薬と手術

74巻5号(2020年4月発行)

特集 ここが変わった! 膀胱癌診療―新ガイドラインを読み解く

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科診療の最新スタンダード―平成の常識は令和の非常識

74巻3号(2020年3月発行)

特集 泌尿器科手術に潜むトラブル―エキスパートはこう切り抜ける!

74巻2号(2020年2月発行)

特集 いま話題の低活動膀胱―これを読めば丸わかり!

74巻1号(2020年1月発行)

特集 地域で診る・看取る緩和ケア―泌尿器科医として知っておくべきこと

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら