文献詳細
書評
「病理形態学で疾病を読む―Rethinking Human Pathology」―井上 泰 著 フリーアクセス
著者: 清水誠一郎1
所属機関: 1公立昭和病院・病理診断科
ページ範囲:P.419 - P.419
文献概要
本書の対象は,生身の全体としての人間であり,そこから説き起こされる,医師をはじめとする医療従事者と患者との,ヒト対ヒトの関係論です。厳密な臨床医学的な記述,肉眼所見とルーペ所見を中心としたきれいな病理形態写真とその的確な説明,豊富な文献渉猟とそのユニークな紹介,著者の手による(かわいい,失礼!)イラスト,果ては小説化などで多彩に描かれています(もちろん最新の分子生物学などの成果も多数取り入れてあります)。本書の腰巻には「推理小説を読んでいるかのような病理学!」とあり,ネタばれになるので内容に触れることができませんが,「診断にいたるプロセス」はまさに名探偵の謎解きを思わせるスリリングなものであり,著者の明敏で合理的な頭脳を反映しており,一方,通常の病理学の本では触れられることのない患者さんの心の襞の奥にまで踏み込む描写,分析があり,これは後期エラリークィーンの描く1人の人間として悩む名探偵のごとき著者の姿を彷彿とさせられます。
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