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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科64巻12号

2010年11月発行

雑誌目次

Focus PSA検診は有効か

本企画にあたって

著者: 藤岡知昭

ページ範囲:P.879 - P.879

 前立腺がんの診療にPSA検査が重要であることに疑う余地はない。2008年,前立腺がん検診に関する有効性評価について,見解の異なるガイドラインが厚生労働省濱島班と日本泌尿器科学会編により刊行され,PSA検診も抵抗なく無批判に受け入れていた大多数の泌尿器科医は少なからず混乱しているものと思われる。

 ガイドライン作成においては,作成委員会で何を主眼にするかについての十分な議論が重要であることはいうまでもない。対象は対策型の地域検診か,人間ドックなどの任意型検診かの区別や有効性評価の考え方・基準を明確にする必要がある。次に,これらの課題に対する文献・科学的根拠を抽出し,研究方法・バイアスを加味した批判的評価によりエビデンスレベルを,さらにこの科学的根拠により推奨度を決定することになる。これらの過程で作成委員会での十分な議論が不可欠で,最終的に合意した見解を導き提言することになる。今回,金沢医科大学佐川元保先生らより,「がん検診の有効性評価の考え方」と「PSAによる前立腺がん検診の有効性評価の現況」の2編の論文を投稿していただいたことを機会に,前立腺がんPSA検診に関するディベートを特別企画した。

①がん検診の有効性評価の考え方―PSA検診の有効性を証明するためには何が必要か?

著者: 佐川元保 ,   薄田勝男 ,   佐久間勉

ページ範囲:P.881 - P.888

要旨 がん検診の有効性評価の考え方に関して概説した。特に,がん患者の発見率や発見がん患者の生存率ではなく,受診者または対象者全体の当該がん死亡率が低下しなければ有効とはいえないこと,各種のバイアスの存在,各種の有効性評価研究の重み付け,対策型検診では「有効性が確認されるまでは無効と考える」のが原則であること,について詳述した。そのうえで,PSA検診の有効性を証明するためには,本邦での適切な研究を遂行することが重要であることを述べた。

②PSAによる前立腺がん検診の有効性評価研究の現況―特に解釈が分かれる研究に関して

著者: 佐川元保 ,   相川広一 ,   佐久間勉

ページ範囲:P.891 - P.898

要旨 PSAによる前立腺がん検診の有効性評価研究の現況,特に評価に異論のある,チロル研究,ケベック研究,フローレンス研究,オンタリオの症例対照研究に関して概説し,PLCOとERSPCの中間結果に関して述べ,さらにそれに対する,欧州泌尿器科学会,米国泌尿器科学会,米国国立がん研究所のコメントを紹介した。特に,欧州泌尿器科学会のstatementは,厚労省濱島班の推奨と類似していることを強調したい。

③前立腺がん検診:死亡率低下効果のエビデンスと将来展望

著者: 伊藤一人

ページ範囲:P.901 - P.910

要旨 前立腺特異抗原(prostate specific antigen:PSA)を用いた前立腺がん検診の死亡率低下効果については,欧州での無作為化比較対照試験の中間解析とそれ以前の信頼性の高いいくつかの研究結果から確実となっていたが,最近発表されたスウェーデン・イエテボリ研究により,PSA検診による生涯の死亡率低下効果がより正確に示された。PSA検診は,最適な診断・治療システムの進化に伴いより有益なものになっていくことは間違いがないが,利益・不利益に関する最新の情報提供を行い,住民検診や人間ドックなどで広く受診機会を提供することが望ましい。今後は,PSA検診実施による社会的な影響や,他のがん検診や医療施策との間での費用対効果比の比較検証が必要になるであろう。

手術手技 指導的助手からみた泌尿器科手術のポイント・1【新連載】

副腎摘除術(開放手術)

著者: 小出卓生

ページ範囲:P.913 - P.923

要旨 腹腔鏡手術が普及している今日,開放手術の適応となる副腎腫瘍は従来の経腰式,背面式到達法による副腎摘除術では困難なものが少なくない。経腹式,経胸腹式,経胸腰式到達法による副腎摘除術について,手術適応,到達法,手術体位,皮膚切開,手術手技,術前準備,などを解説した。到達法の選択や後腹膜腔へのアプローチについては,肝,脾,膵,十二指腸あるいは腹部大動脈,下大静脈と副腎腫瘍の関係を十分に把握して手術に臨むことが肝要である。

腹腔鏡下副腎摘除術

著者: 清水哲 ,   根本良介 ,   渡邉健志 ,   真砂俊彦

ページ範囲:P.925 - P.931

要旨 前方アプローチによる腹腔鏡下副腎摘除術は,広い術野が得られるため手術を比較的安全に施行できるという長所がある。右側は肝臓と十二指腸および下大静脈との位置関係が重要で,副腎上縁付近より下大静脈に流入する太く短い副腎静脈の同定と,切離操作がポイントである。左側は大網を切離して網囊に入り,膵背面を剝離したのち副腎下縁より腎静脈に流入する副腎静脈を同定するが,副腎内側を下横隔静脈に流入する吻合枝にも注意が必要である。

セミナー 泌尿器科医に必要なPET検査の知識―有用性と問題点・3

腎細胞癌とPET検査

著者: 中井川昇 ,   南村和宏 ,   南本亮吾 ,   岸田健 ,   三浦猛 ,   矢尾正祐 ,   井上登美夫 ,   窪田吉信

ページ範囲:P.935 - P.942

要約 腎癌の画像診断の領域において,形態学的,解剖学的な診断法という視点で比較した場合に, PETは従来の画像診断を凌駕するものではない。しかし,PETが従来の画像診断と大きく異なる点は,生体内の生物学的活動の評価が可能な点である。この特性を利用し,腎癌病巣の悪性度診断,予後の予測や治療効果の判定として活用することによってそのポテンシャルは最大限に発揮されるものと思われた。

画像診断

尿道カテーテル長期放置によるフルニエ壊疽

著者: 佐野太 ,   南村和宏 ,   窪田吉信

ページ範囲:P.948 - P.950

 患 者 65歳,男性。

 主 訴 下腹部痛。

 家族歴 特記すべきことなし。

 既往歴 64歳,前立腺癌T3aN0M0。診断時PSA 142ng/ml。LHRHアゴニストを1回のみ投与,排尿困難に対して尿道カテーテル留置後,経済的理由から通院を自己中断し,1年以上放置(以上すべて他院)。

 現病歴 2010年3月,下腹部痛を主訴に近医を受診した。陰部から下腹部にかけて発赤腫脹を認め,フルニエ壊疽の疑いで当院へ搬送となった。

小さな工夫

経直腸的前立腺生検時における直腸出血に対する止血方法

著者: 滝花義男 ,   石川覚之

ページ範囲:P.951 - P.951

 前立腺癌の確定診断に,前立腺生検は必須の検査法である。初回は経直腸的超音波ガイド下前立腺生検が実施されている施設が多いと考えられる。系統的6か所生検法が中心であったが,10~12か所生検など,最近ではさらに生検の本数は増加している。経直腸的前立腺生検の主たる合併症は急性前立腺炎,血尿,血精液症以外に直腸からの出血である。出血時は指による圧迫や,ガーゼをタンポン状にして圧迫し,後で抜去することもある。ほとんどの出血は数日で止まる。実際に直腸出血の頻度は,2日以内の出血2.2%程度で,それ以上続く直腸出血は0.7%と報告されている1)。ただし,稀に輸血や外科的な処置が必要になることもある。前立腺生検の本数が増加している現状から,今後直腸出血で治療に難渋する症例も増加してくる可能性も考えられる。

病院めぐり

県立広島病院泌尿器科

著者: 中原満

ページ範囲:P.952 - P.953

<病院の沿革>

 当院は1877年(明治10年)に公立広島病院として創立,1945年(昭和20年)8月6日の原子爆弾で壊滅した後,1948年4月1日から現在の場所で県立広島病院として皮膚泌尿器科を含む8科で再発足した。創立以来130年以上も地域の基幹病院として発展し,当院の理念は「県民の皆様に愛され信頼される病院をめざします」である。

 現在,5センター,36診療科,715病床の急性期型の総合病院で,医師数171名(研修医を含む),総職員数1,134名である。国や県から救命救急センター,基幹災害医療センター,総合周産期医療センター,地域がん診療連携拠点病院,地域医療支援病院,中国・四国ブロックエイズ拠点病院などの認定を受けている。さらに,教育・研修においても,臨床研修指定病院であるとともに,53学会から専門(認定)教育病院の指定をいただき,看護師などの医療従事者の卒前・卒後教育にも積極的に取り組んでいる。泌尿器科を取り巻く環境として,小児外科,透析・移植外科,臨床腫瘍科,放射線科,生殖医療科,緩和ケア科などの関係科が存在する。

書評

「イラストレイテッド外科手術 第3版 膜の解剖からみた術式のポイント」―篠原 尚,水野惠文,牧野尚彦 著 フリーアクセス

著者: 笹子三津留

ページ範囲:P.889 - P.889

 手術を勉強中の外科医にはぜひお勧めしたい1冊です。私も手に入れて良かったと心より思っています。理由は以下の通りです。

 各時代に解剖にうるさい外科医はいましたが,その多くは癌の専門家で特定の臓器に関する造詣が深い人たちでした。その先人たちから私も多くを学びましたが,本書は中小規模の病院で,すべての分野の一般消化器外科患者の手術に携わらねばならない外科医にとって,必要と思われる術式がほぼ網羅されています。これだけの内容,そして数百の素晴らしい図をほとんど1人で手がけた書物は他に類を見ません。

「実践 漢方ガイド 日常診療に活かすエキス製剤の使い方」―中野 哲,森 博美 監修 フリーアクセス

著者: 秋葉哲生

ページ範囲:P.911 - P.911

 想像するに著者らは大垣市民病院において医療用漢方製剤を用いた臨床経験で一定の成功を収め,その成功の土台を踏まえて,これからの日本の漢方診療のあるべき姿を具体的な日常診療の位相で提言したものが本書であるといえるのではないか。

 本書にあって類書にないものとして,EBMに対する明確な批判の立場を表明していることである。1980年代から向かうところ敵なきがごときエビデンス万能主義に対し,ひたすらひれ伏すだけでは漢方医学の長所が失われるとの主張はまさしく正鵠を得た発言である。日本東洋医学会にあって「漢方医学のEBM 2002年中間報告」,および「2005年最終報告」をしゃにむに取りまとめた評者などは,この文章を発見して思わず快哉を叫んだほどだ。

「アトラス 細胞診と病理診断」―亀井敏昭,谷山清己 編 フリーアクセス

著者: 根本則道

ページ範囲:P.932 - P.932

 このたび,亀井敏昭先生(山口県立総合医療センター)と谷山清己先生(呉医療センター・中国がんセンター)編集による『アトラス 細胞診と病理診断』が医学書院から刊行された。

 改めてご紹介するまでもなく,両氏は病理学会ならびに臨床細胞学会において指導的な立場で活躍されている現役の病理医であり,細胞診と病理診断の実務においては豊富な経験と貴重な症例を沢山お持ちの,いわば細胞診と病理の鉄人である。

「子宮頸部細胞診ベセスダシステム運用の実際」―坂本穆彦 編/坂本穆彦,今野 良,小松京子,大塚重則,古田則行 執筆 フリーアクセス

著者: 半藤保

ページ範囲:P.946 - P.946

 子宮頸部細胞診をめぐる最近の動きは目まぐるしいほど急速である。それは以下の理由によっている。

 分子生物学の進歩によって,ここ30年余の間にHPV感染による子宮頸がんの発がん機構の一部が明らかになり,これを細胞診断学に採り入れる必要性が生じた。1988年12月以来,数回にわたるNCI(米国国立がん研究所)主催のベセスダ国際会議の成果をベセスダシステム(2001)として,子宮頸部細胞診に活用することになった。本来この会議は,細胞診の解釈を臨床医に明確かつ適切に伝えることのできる細胞診報告システムの作成を目的とするものであった。

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編集後記 フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.960 - P.960

 今年の内分泌外科学会は関西医科大学の松田公志教授が会長で,大阪千里で行われました。懇親会は会場内のポスターを見ながら行われ,和やかな雰囲気の中,学術的にも充実した会でした。会場に隣接した阪急ホテルは予約がとれず,秘書がとってくれた別の阪急ホテルは学会場から少し距離があり,ホテルにチェックインした時はすでに深夜でした。

 翌朝寝ぼけながら,レースのカーテンをあけて窓の外を眺めた瞬間,眼の中に飛び込んできたのは「太陽の塔」でした。そうか。このホテルは万博の会場跡地に隣接して建てられて当時話題になったホテルであったことに気づきました。自分の頭のなかで,視界に入った建造物が太陽の塔であることを認識するのに時間を要した気がしました。それと脳が認識するには太陽の塔という名称が必要であり,名前がわかることによって,脳は認識を終えて「安心」したことがわかりました。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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