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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科64巻7号

2010年06月発行

雑誌目次

特集 抗癌剤治療の副作用とそのコントロール 総論

癌化学療法の基本理念と副作用

著者: 大江裕一郎

ページ範囲:P.455 - P.459

要旨 抗癌剤は他の薬剤と比較すると治療域が狭く,化学療法によりさまざまな副作用が出現し重篤となることも稀ではない。したがって,化学療法を実施するためには化学療法の目的を正確に認識し,患者本人と認識を共有したうえで,適応を判断する必要がある。化学療法の目的は,対象となる癌腫,病期,患者の状態などにより大きく異なり,期待される効果と予測される毒性のバランスで化学療法を実施するか否かが決定される。この決定にあたって,医師は予後を含めた正確な情報を患者に提供するとともに,患者本人の判断を可能な限り尊重すべきである。医師と家族のみの判断で,化学療法の適応を決定するようなことは避けるべきである。

各論

―抗癌剤の副作用1―発熱性好中球減少症,感染症とその対策

著者: 西山賢龍

ページ範囲:P.461 - P.465

要旨 癌化学療法に伴う発熱性好中球減少症においては,重症化や死亡のリスクは個々の患者によって異なる。リスク判定の後にすみやかに個々の患者背景に応じたempiric therapyを開始することが必要となる。本邦ガイドラインでは,初期治療として低リスク群に対しては経口ニューキノロン薬±アモキシシリン/クラブラン酸,あるいは第4世代セフェムまたはカルバペネム薬の静注による単独投与が,高リスク群に対しては第4世代セフェムまたはカルバペネム薬の静注±アミノ配糖体薬投与が推奨されている。3~5日以内に解熱した場合は,同じ薬剤でさらに数日間治療を継続,それ以外の場合は,患者背景,臨床症状や検査結果などに応じて抗菌薬の変更や追加を検討する。

―抗癌剤の副作用2―消化器症状とその対策

著者: 土谷順彦

ページ範囲:P.467 - P.473

要旨 化学療法の副作用としての消化器症状は,自覚症状を伴う副作用の中で最も患者に苦痛をもたらす副作用の1つであるとともに,治療のコンプライアンスを低下させる可能性があることから,その対策は極めて重要な問題である。本稿では,最も頻度の高い消化器症状である悪心・嘔吐,下痢,口内炎の病態とその対策について述べる。

―抗癌剤の副作用3―骨髄抑制とその対策

著者: 中村晃和 ,   木村泰典 ,   三木恒治

ページ範囲:P.475 - P.480

要旨 抗癌剤による有害事象(特に骨髄抑制)に対する対策が非常に重要である。好中球減少に対しては,ASCOのガイドラインや日本癌治療学会の『G-CSF適正使用ガイドライン』などを参考に,適切なG-CSFの使用と発熱時における適切な抗菌薬の使用と対応が求められる。また,血小板減少に対しては,輸血が唯一の対処法である。貧血に対しては,本邦ではerythropoietin製剤の使用は認められておらず,抗癌剤以外の原因を除外したのちに輸血で対応することとなる。輸血による有害事象を十分理解したうえで,適切な対応を行うことが必要である。

―抗癌剤の副作用4―皮膚・口腔粘膜障害

著者: 宮崎淳

ページ範囲:P.483 - P.489

要旨 口腔粘膜炎は抗癌剤治療時によくみられる副作用である。口腔粘膜炎は感染や死亡のリスクファクターであり,口腔ケアなどの予防が第一であるが,海外ではケラチノサイト増殖因子やL-glutamineなどの有効な予防法の研究も進んでいる。また,種々の皮膚障害,脱毛,浮腫などの皮膚症状は抗癌剤治療において頻度の高い副作用であるものの,重篤なものが稀であった。しかし,最近の分子標的薬使用により手足症候群などの皮膚障害が注目されている。医療者はあらかじめこれらの副作用についての知識を持って患者に接する必要がある。

―抗癌剤の副作用5―泌尿器腫瘍における抗癌剤の神経障害と疼痛コントロール

著者: 高橋俊二

ページ範囲:P.491 - P.498

要旨 抗癌剤に伴う末梢神経障害の多くは用量依存性であり,現状では確立した予防・治療法はなく,進行した場合は抗癌剤投与の延期,減量あるいは中止などが必要になる。中枢神経障害の場合は投与後すぐに発症することも多く,発症の可能性を考えて早急に対応することが必要である。疼痛は進行癌患者のQOLを障害する最も大きな問題の1つである。日本ではいまだにオピオイドの使用量は欧米に比較して少なく,患者の痛みの訴えを正確に把握すること,それに対して適切なオピオイドを鎮痛補助薬,副作用防止薬とともに処方することが重要である。

症例

BCG膀胱内注入療法後に発症した結核性精巣上体炎

著者: 水野孝祐 ,   西山直隆 ,   柳瀬雅裕 ,   武藤雅俊 ,   前鼻健志 ,   武居史泰

ページ範囲:P.505 - P.507

症例は75歳,男性。表在性膀胱癌に対し経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行した。その後,BCG膀胱内注入療法を施行した。初回のBCG膀胱内注入後に左陰囊部痛,硬結,および陰囊皮膚の自壊を認めた。結核菌PCR陽性,尿中抗酸菌培養陽性であったため,結核性精巣上体炎と診断した。抗結核化学療法で改善なく,左陰囊内容摘除および陰囊皮膚合併切除術を施行した。術後,抗結核化学療法(rifampicin+isoniazid)を3か月間行い,現在まで再発徴候を認めていない。

小建中湯が有効であったと考えられた小児夜尿症の3例

著者: 松尾朋博

ページ範囲:P.509 - P.511

小児夜尿症の3例に対し,漢方薬である小建中湯を既存の西洋薬と併用し治療した。3例ともに小建中湯開始後,夜尿回数は減少し,1回排尿量は増加した。『夜尿症診療のガイドライン』1)では漢方薬は第1選択ではないが,西洋薬との併用により,効果は十分期待できるものと考えられた。

小さな工夫

腎部分阻血に用いる金属鉗子の有用性

著者: 勝岡洋治 ,   小山耕平

ページ範囲:P.516 - P.517

はじめに

 小径腎癌に対しては,すでに腎部分切除術が標準的治療として国内外のガイドラインで強く推奨されている。腎部分切除は,術後の慢性腎臓病(CKD)を予防することにより非心臓死を減少させる可能性があり,そのうえ,根治的腎全摘術と変わらない癌制御が得られることが報告されている1)。ところが実際には,一部の施設を除いては腎部分切除術が広く行われていないのが現状である。その原因は,腎部分切除術の優位性を示す科学的根拠がいまだ十分でないとの一般論に支配されているからではないように思える。むしろ,私たち医療者側の姿勢に帰属する点が大きく,皮肉にも非科学的な理由が挙げられる2)。特に,術中出血に対する処置の煩わしさや,後出血・尿瘻形成など術後合併症へ強い危惧があるようだ。そこで,確実に止血ができて,短時間で腎杯や腎盂の縫合が可能となり,部分阻血で腎機能を最大限温存し,安全に手術が完遂できる特殊な器具として腎阻血鉗子(勝岡式)を紹介する。

尿管ステント挿入困難時の工夫

著者: 貫井昭徳 ,   森田辰男

ページ範囲:P.518 - P.519

 尿管ステントの留置においては,軟性膀胱尿道鏡(電子スコープやファイバースコープ。以下,軟性鏡)が有用であり1),多くの施設の外来で軟性鏡下にこれらの処置が行われていると思われる。われわれも仰臥位で軟性鏡補助下に尿管内にガイドワイヤーを挿入し,軟性鏡のみ抜去した後にopen endの尿管ステントをガイドワイヤーに被せて透視下に挿入している。

 しかしながら,尿管の通過障害が高度である場合,ガイドワイヤーは腎盂まで通過していたとしても尿管ステントが通過障害部を越えて挿入できないことがある。このようなとき,尿管ステントを押し込もうとしても膀胱内で尿管ステントが彎曲してしまい,尿管ステントの先端に力が十分に伝わらないことがある。

手術台固定型開創器使用時におけるスパーテルを用いた術野展開の工夫

著者: 貫井昭徳 ,   森田辰男

ページ範囲:P.520 - P.521

 オムニトラクトリトラクター®やグレイマルチフレックスリトラクター®などの手術台固定型開創器はアームの角度が自在に調節できることや,さまざまなブレードが選択できることにより,患者の体型・手術創の大きさ・術野の深さ・周囲臓器の状況などに合わせた牽引ができるという特徴を持っている1)。これらの使用により効率よく術野を展開できるため,少人数での開腹手術にも有用である。

 付属のブレードにはさまざまな形状のものがあるが,深い術野を展開するときには,ブレードの先端を十分に効かせて引く必要が生じる場合がある。ところが既製品の多くはブレードが硬く,先端を曲げることができず,ブレード長も一定であるため,深い術野の展開に難渋することがある。このようなとき,われわれはスパーテルの先端を術野の深さに合わせて曲げ,これをブレードやアームに布鉗子で固定し,術野を展開していた(図1a,b)。この方法でもスパーテルの固定性は良好であるが,スパーテルの微調整ができず,適切な術野の展開が不可能な場合も多かった。

書評

「Disease 人類を襲った30の病魔」―Mary Dobson 著/小林 力 訳 フリーアクセス

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.481 - P.481

 「将来の人々は,かつて忌まわしい天然痘が存在し,貴殿によってそれが撲滅されたことを歴史によって知るだけであろう」

 トーマス・ジェファーソン。エドワード・ジェンナーへの1806年の手紙 本書134頁より(以下,頁数は本書)

「消化器外科レジデントマニュアル 第2版」―小西文雄 監修/自治医科大学附属さいたま医療センター一般・消化器外科 編著 フリーアクセス

著者: 小林一博

ページ範囲:P.513 - P.513

 平成16(2004)年に新臨床研修制度が導入され,卒後研修先が大学から市中病院に大幅にシフトしてきているのは周知の通りである。当院でも臨床研修医のみならず,大学病院での外科修練を経ない後期研修医が勤務する事態となっている。第一線病院における医師養成の比重は増大しているが,指導する側は勤務医としての過剰な業務量のため,研修医教育に時間的制約を受けている。このような状況では当然知識や経験は不足,偏りがちとなる。そのため外科を目指す若手医師には,その分野を網羅する知識を集約したマニュアルが不可欠となる。さらにそのマニュアルが診療現場で直ちに役に立つものであれば理想的である。『消化器外科レジデントマニュアル』初版の販売部数は予想をはるかに凌駕したと聞いている。この事実は本書が時代のニーズに見事にマッチしたことを示している。今般,最新の知見を取り入れて改訂され,第2版が出版された。

 本書の特徴は,①医療安全にも配慮され,修練すべき事項を広範囲に網羅していること,②研修医が経験すべき重要な疾患,診療手技が重点的に詳述されていること,③現場で役に立つ具体的内容であることであろう。

「リハビリテーションレジデントマニュアル 第3版」―木村彰男 編/里宇明元,正門由久,長谷公隆 編集協力 フリーアクセス

著者: 橋本圭司

ページ範囲:P.514 - P.514

 評者が医学部を卒業して間もなく,まだ右も左もわからず,しかし志だけは大きく「リハビリテーション医学を極めたい」などと思っていたころに,本書第1版に出会ったことを今でも鮮明に覚えている。

 さまざまなリハビリテーション医学関連書籍の中から,真っ先に同書を購入したものだが,同じ病院の研修医の中でも,この貴重なマニュアルを手にしていたのは,ごく一部であったと思われる。しかし,それゆえに,ほかの分野の医師たちとは違うベクトルでの医療の理解・実践に心を躍らせることができたのも事実であった。

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編集後記 フリーアクセス

著者: 郡健二郎

ページ範囲:P.528 - P.528

 外山滋比古著『「人生二毛作」のすすめ―脳をいつまでも生き生きとさせる生活 』(飛鳥新社)が静かなブームで読まれている。それもそのはずで,外山氏は87歳だが,老いてなお意気軒昂。気力に満ちた老年学者である。世の中には,生き甲斐を失いかけている老人や,定年後に何をしようか考えている団塊世代が多い。その人達が,「人生二毛作」に引きつけられるのであろう。

 外山氏といえば数年前に,東大生と京大生にもっとも読まれる本として話題になった,ミリオンセラー『思考の整理学』(ちくま文庫)の著者でもある。その著書にでてくる「グライダー人間」の話に,私は共鳴した。本号は6月号だが,執筆しているこの4月には,毎年多くの新しい仲間を迎える。前途ある若者たちに多少なりとも参考になればと思い,「グライダー人間」に触れたい。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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