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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科66巻1号

2012年01月発行

雑誌目次

特集 進行性腎癌に対する分子標的治療薬・薬剤選択ガイド

本企画に当たって

著者: 高橋俊二

ページ範囲:P.9 - P.9

 進行腎細胞癌に対する薬物治療は数年前まではサイトカインのみであった。腎細胞癌におけるVHL遺伝子変異の発見に端を発し,腎細胞癌の発生・進行に血管新生が重要な役割を果たしていることが明らかになり,血管内皮増殖因子(VEGF)系阻害剤とmTOR阻害剤を中心とした分子標的治療薬の開発が進んだ。本邦でも2010年までにsorafenib,sunitinib,everolimus,temsirolimusの4薬剤が承認され,進行腎細胞癌の治療は様変わりしている。これに合わせて本年度に『腎癌診療ガイドライン』が改定され,分子標的治療のエビデンスが提示される。また,さらに多くの新規分子標的薬剤の臨床試験が進行中である。

 しかし,腎細胞癌に対する分子標的治療にはいまだ不明な点,問題点が多い。分子標的薬はサイトカインに比較して高い奏効率が期待できるが,完全寛解,治癒は望めない。また本邦での多数例でのデータや長期投与のメリット・副作用は明らかになっていない。さらに種々の薬剤のどのような組み合わせ・逐次投与が最適なのかは不明である。一方,治療効果を予測するためのバイオマーカーも確立されていない。現状では今までに行われた臨床試験と同じ状況の症例に各薬剤を使用しているが,その方法が最適であるとの真の根拠はない。

未治療・low-intermediate risk進行性腎癌において免疫療法と分子標的治療のどちらが最適か?

著者: 篠原信雄

ページ範囲:P.11 - P.16

要旨 分子標的療法剤の登場とともに,転移を有する腎癌症例に対する治療は大きく変化してきた。これらにより,有転移腎癌の予後も大きく改善するものと期待されている。一方,本邦においてはIFN-αを中心とした免疫療法が現時点でも広く用いられ,欧米以上の優れた治療成績を上げている。自験例の検討から,MSKCCリスク分類のfavorable risk,intermediate risk群の未治療有転移腎癌では,IFN-αはsunitinibとほぼ同等の生存期間が得られることが明らかになった。臓器別検討では,IFN-αの有用性は肺単独転移例やリンパ節単独転移例で高いことから,これらの症例には初回治療としてIFN-αを含む免疫療法,それら以外の症例ではsunitinibが初回治療剤として勧められる。今後多数例の解析から,これらの症例に対する適切な治療薬選択基準が作成されることが望まれる。

未治療,poor risk進行性腎癌における分子標的治療薬治療

著者: 植田健 ,   齋藤允孝 ,   小林将行 ,   小丸淳 ,   深沢賢

ページ範囲:P.19 - P.24

要旨 予後不良の進行性腎癌に対して分子標的治療薬による治療が可能となり,一定の治療効果をもたらした。欧米では,第Ⅲ相臨床試験をもとにガイドラインが作成され治療が行われている。本邦ではまだ一定のコンセンサスが得られておらず,分子標的治療薬以外にもインターフェロンも使用されている。Memorial Sloan-Kettering Cancer Centerによるリスク分類でfavorable/intermediate riskではソラフェニブやスニチニブが用いられる場合が多いがpoor riskでは,治療選択に苦慮する場合が多い。本稿では,テムシロリムスやスニチニブの臨床試験や当センターでの治療経験を元にpoor risk進行性腎癌への治療方針を解説する。

サイトカイン既治療進行性腎癌における分子標的治療は何が最適か

著者: 福森知治 ,   金山博臣

ページ範囲:P.27 - P.31

要旨 進行性腎細胞癌の治療は,インターフェロン(IFN)-αやインターロイキン(IL)-2などのサイトカイン療法が広く用いられてきたが,その奏効率は10~20%程度と低く,特に肺転移以外の転移巣に対する効果が極めて低いという限界があった。近年,血管内皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(vascular endothelial growth factor receptor-tyrosine kinase inhibitor:VEGFR-TKI)やmammalian target of rapamycin(mTOR)阻害剤などの分子標的薬が使用可能となり,治療の選択肢は格段に広がった。しかし,サイトカイン療法後の分子標的薬でCRを得ることはいまだ困難であり,セカンドラインでどの薬剤が最適であるかの結論を出す十分なエビデンスはない。現時点では,患者因子,腫瘍因子の両者を考慮して,薬剤を選択する必要があると思われる。今後も,サードライン,フォースラインも含めたsequential therapyの検討が必要である。

進行性腎細胞癌に対する分子標的薬の併用および逐次投与について

著者: 冨田善彦

ページ範囲:P.33 - P.40

要旨 分子標的薬の導入により進行性腎細胞癌,特に有転移症例の治療は大きく変わった。ただし,新たな薬剤については,その効果を最大限引き出しているとはいいがたい面がある。本項では,併用療法と逐次療法について,その概要を述べる。

分子標的薬によるpresurgical治療の意義はあるか?

著者: 藤井靖久

ページ範囲:P.43 - P.48

要旨 転移性腎癌に対する治療は,現在でも,即時の手術(主に腫瘍減量腎摘除)と,術後の全身治療が標準的である。分子標的薬によるpresurgical治療は,当初期待されたほどの効果が認められておらず,周術期合併症は増加する可能性が指摘されている。症例によっては,転移性腎癌で,まずは分子標的治療を行い,その効果と有害事象を評価し,腫瘍減量腎摘除で恩恵が得られそうな症例を選択し手術する,すなわちリトマス試験紙的なpresurgical治療,あるいは単腎や両側腎癌などのimperative症例における腎温存手術前のpresurgical治療は考慮してよいと思われる。

分子標的治療における治療効果を予測するバイオマーカーの展望

著者: 水野隆一 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.51 - P.55

要旨 進行性腎細胞癌に対する薬物治療は,新規分子標的薬の登場に伴って,従来のサイトカイン療法から分子標的治療へと移行してきている。さらなる新薬の開発によって,治療薬の選択肢は増加してきているものの,有効な治療効果を予測するようなバイオマーカーはいまだ明らかにされていない。現在は腎細胞癌のバイオマーカー候補の探索段階にあり,蛋白質にとどまらずSNPsなどの遺伝子関連マーカーなども注目されている。症例の蓄積によって今後バイオマーカーの分野は発展してくることが予想される。分子標的治療薬の効果を薬剤投与開始前に予測するバイオマーカーの同定により,より有効な分子標的治療の提供が期待される。

Non-clear cell RCCに対する分子標的治療;発癌機構から導かれる個別化医療

著者: 岸田健

ページ範囲:P.59 - P.67

要旨 腎細胞癌に対する分子標的薬はclear cell RCCの発癌メカニズムの研究から発展したものであり,異なる発症機序を持つ各種non-clear cell RCCに対しては異なる治療が適応されるべきと考えられる。ところがnon-clear cell RCCの発癌シグナルはclear cell RCCのシグナルと細胞内でリンクしていることが解明され,さらに実際の臨床においてもclear cell RCCを対象にした分子標的薬がnon-clear cell RCCに対しても有効であるというデータが報告されつつある。従来のサイトカイン療法はclear cell RCCに対してのみ有効でありnon-clear cell RCCでの有効性は極めて低かったため,分子標的薬はnon-clear cell RCCにおいてより大きい恩恵をもたらすといえる。腎細胞癌に対する組織型別の個別化医療を可能にし得る分子標的薬治療について最近の知見を基に解説する。

進行性腎細胞癌の新たな分子標的はあるか?

著者: 加藤琢磨 ,   筧善行

ページ範囲:P.69 - P.74

要旨 腎細胞癌に対する分子標的治療薬として,sorafenib,sunitinib,temsirolimus,everolimus,pazopanib(日本未承認),bevacizumab(日本未承認)が現在臨床で使用されている。しかしながら,サイトカイン療法を凌ぐ治療成績を示す一方で,非特異的な性質に伴う多彩なoff-target effectも問題となっている。off-target effectは減量や休薬の原因となり,また,治療薬ごとにoff-target effectがover rapすることが,combination therapyの薬剤選択の制限となっている。これらの問題を克服すべく,VEGFRに高い選択性と低いoff-targeted toxicitiesを示す薬剤の開発が進んでいる。本稿では,第Ⅱ相あるいは第Ⅲ相試験が進行中の有望な新規分子標的治療薬とその臨床成績を紹介する。

分子標的治療の副作用マネージメントの要点は?

著者: 湯浅健 ,   高橋俊二

ページ範囲:P.77 - P.82

要旨 血管新生阻害剤ソラフェニブとスニチニブが2008年に転移性腎細胞癌患者に対する治療薬として厚生労働省に承認され,分子標的治療時代が開幕した。2010年にはmTOR阻害薬であるエベロリムスとテムシロリムスが承認され,現在は4剤の分子標的治療薬の投与が可能となった。優れた治療効果がみられる一方で,従来の治療薬とはまったく異なった多種多様な副作用が発現することから,他科とも綿密に連携することはもとより,薬剤師,看護師を含めたチーム医療を中心として観察・治療していくことが肝要であると考えられている。本稿では分子標的治療の副作用マネージメントの要点について私見を交えて解説する。

珍しい外陰部疾患・6

陰茎絞扼[症]

著者: 三木誠 ,   相沢卓

ページ範囲:P.4 - P.5

 種々の異物で陰茎が周囲から絞扼された状態をいう。絞扼部の遠位側が極度に腫脹し抜去不能となり受診する。本邦では1906年に初めて報告され,それ以降144例の報告があるという(小林裕章他,泌尿紀要:56:63-65,2010)。それによると年齢は5歳から89歳まで,平均49.0歳で,動機は悪戯(32.6%),勃起力増強や性的興奮増強,自慰など性的行為関連(22.2%),尿失禁防止,包茎などの治療目的(11.8%)と続いている。合併症としては尿道瘻,皮膚壊死,陰茎壊死,創感染,重篤なものでは敗血症,腎不全,尿毒症による死亡例まである。絞扼物としては輪ゴム,糸,指輪,金属環,瓶,ペットボトルなどがある。金属環の中には,下記の例にある頑強なナットのように,普通の医療用器具では切断できないものもあり,レスキュー隊に出動を願って強力なカッターを使用せざるをえなかったような例が,本邦はもちろん外国でも報告されている(Sathesh-Kumar T, et al:Ann R Coll Surg Engl 91:1-2, 2009)。

書評

「プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第2版」―坂井建雄,松村讓兒 監訳 フリーアクセス

著者: 佐藤達夫

ページ範囲:P.17 - P.18

 Vesaliusの『人体構造論(ファブリカ)』(1543)は,それを境として医学史が2つに分けられるほどの偉大な図書といわれる。自分の眼で確かめた所見に基づく詳細な記載はもとより素晴らしいが,芸術的価値も高い約300のみごとな図版が含まれていなかったら,それほど喧伝されることもなかったのではなかろうか。これ以後,正確で美しい解剖アトラスを提供することが,解剖学者の重要な役目となったのである。その極致として,木版画ではToldtの『人体解剖学アトラス』(初版1897~1900),そして近代的なカラー印刷図譜ではPernkopfの『臨床局所解剖学アトラス』(初版1963~/日本語版,医学書院『人体局所解剖学』全4巻7分冊[1937~1960]から図版を抜粋して編集)を挙げることができよう。この2点は共に,ウィーン大学解剖学教授の企画・指導により,ドイツで印刷された書物である。解剖学アトラスに関する限り,ドイツ語圏への信頼はゆるぎないものであった。しかし,1914年,第一次世界大戦が勃発してドイツから多数の米国留学生が帰国の途についたことと呼応して,ドイツ医学の衰退が始まったと解釈することもできよう。Toldtはドイツ解剖学の爛熟の極点,Pernkopfは偉大なる残光とでもいえようか。ともかく20世紀前半の30年余りの間に,2度の世界大戦により継続性が断たれたことが大きい。世紀後半は,過去の遺産の図版を,手を代え品を代えて新企画のなかに巧みに取り入れて糊塗してきたという感が強く,歯がゆい時期がだいぶ続いた。そこへ,このアトラスの発刊である。ドイツ解剖学のアトラス製作の伝統が連綿として生き続けて,突如として大輪として復活したことを心から喜びたい。

 それにしても“プロメテウス”とは,穏やかでない。この神話名から派生して「先に考える男」という意味があると聞く。ここで思い出すのは,ドイツ解剖学が前世紀初めに機能解剖学をいち早くとり入れ,Braus(初版1924)やBenninghoff(初版1939)が魅力的でいささか理屈っぽい教科書を製作してきたことである。これらはまさに当時の先駆けであった。今度の先駆けはどんな意義を持つのだろう,書名が単なるAtlas der Anatomie(解剖学アトラス)ではなく,Lernatlas(学習アトラス)とうたっているところに表されていると思う。上述のPernkopfの大著には副題として『局所層序的剖出アトラス』とあり,実際に一層ずつ丹念に剖出を繰り返し忠実に描写した記録の集成である。このような場合,その特定の解剖体の所見に依拠する程度が高くなるから,必ずしも標準的とは称しがたいこともありうる。“プロメテウス”の図版は伝統に立脚しながらも近年のコンピューター支援の成果も巧みにとり入れ,典型的・標準的かつ割り切りのいい美しい図版に仕上げられており,学生にとっても理解しやすいのではないか。

「病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方 IDATEN感染症セミナー」―IDATENセミナーテキスト編集委員会 編 フリーアクセス

著者: 柳秀高

ページ範囲:P.25 - P.25

 この本では,病棟やICUで感染症診療を行うとき,また相談を受けたときに必要とされる知識の多くがわかりやすく解説されている。サンフォードマニュアルのような網羅的なマニュアル本ではなく,考え方の筋道が書いてある。総論では病院内での感染症診療の一般原則や免疫不全総論などがよくまとめられている。感染臓器と患者の免疫状態,基礎疾患などから起因菌を推定し,empiric therapyに用いる抗菌薬を決める。培養が返ってきたら最適な抗菌薬を決めてdefinitive therapyを行う。抗菌薬の投与期間の決定については各論で提示されるケースでは議論されないが,各項目の概説のなかで語られることが多いように感じた。

 人工呼吸器関連肺炎やカテーテル関連血流感染・尿路感染などの項目では,米国感染症学会などのガイドラインを用いてケースのマネジメントを説明している。あるいはケースを使って,ガイドラインを解説している。ケースの説明のみならず,疾患・ガイドラインの概説も行っているので全体像をつかむのによい。いずれのケースも基本的に感染臓器,起因菌の推定からempiric therapyを考え,培養結果などを用いて特異的治療を決定するという実践的な流れからぶれずに議論されており,日々の病棟での感染症診療や感染症コンサルタント業務に必要な知識を築くのに有用であると思われる。

「レジデントのための血液透析患者マネジメント」―門川俊明 著 フリーアクセス

著者: 柏原直樹

ページ範囲:P.41 - P.41

 いまや血液透析療法は専門医の手に委ねるべき特殊なものではない。透析患者の数は増加の一途をたどっており,専門性のいかんにかかわらず,レジデントはさまざまな診療現場で血液透析患者の診療に携わることを避けては通れない。主病が別であっても受け持った患者が透析中であったり,重症化した際に血液浄化療法を余儀なくされることもしばしばである。

 透析患者を受け持った途端に,具体的な透析スケジュール,食事内容,合併する貧血の管理などに直面することになる。不幸にして透析療法の実際は,学生時代にはほとんど教えられていない。さあ,どうするか。取るべき方法は,①専門医・指導医の指導を仰ぐ,②書物を読む,のいずれかである。しかし,身近に専門医をみつけることができないことも多く,また自ら基本がわかっていないと,適切な指導を受けることすらままならない。書店に並ぶ血液透析の本は専門医を対象に書かれたものが大半であり,大部に過ぎる。まにあわない。

「糖尿病医療学入門 こころと行動のガイドブック」―石井 均 著 フリーアクセス

著者: 門脇孝

ページ範囲:P.49 - P.49

 糖尿病の治療は,異なる作用機序を有する多くの新薬が開発され,治療のエビデンスも集積されてきたにもかかわらず,依然として患者の主体的参加がその成否を握っている。そこで糖尿病の治療では,患者が病気と向き合い,闘う意欲と能力を持っている,という考え方に立脚して,それを引き出すための患者支援の技法,すなわちエンパワーメントが重要となってくる。著者の石井均氏は,このエンパワーメントを糖尿病治療における標準的治療法に具体化する努力を営々として続けられてきた。それが,心理分析,認知行動療法,変化ステージモデル,等々である。石井氏は,これらのモデルや技法を駆使しながら,本書では,その上位の学問体系として,「糖尿病医療学」という概念に行き着いたことを述べている。

 糖尿病の科学の進歩は著しい。しかし糖尿病治療は従来の科学では扱いきれない部分をたくさん持っている。それを,石井氏は,科学を超える「糖尿病医療」というパラダイムとして提案している。そこでは,医療者からの情報提供と患者の自発的選択に支えられた医療者-患者関係,相互参加が必要不可欠であり,石井氏はそれを「治療同盟」と呼んでいる。そして「治療同盟」では,医療者-患者関係における強固な人間的な信頼的関係を築くことが,治療をうまく進める鍵となる。私なりに解釈すれば,糖尿病学・糖尿病研究は,糖尿病の科学,真理を追究するサイエンスを担保するものであり,「治療同盟」はいかによく生きるか,自己実現を追究するヒューマニズムを担保するものである。そして前者の科学知と後者の人間知の相互作用こそ,本書で石井氏が提唱する「糖尿病医療学」の本質ではないか,と考えた。

「ここからはじめる研究入門 医療をこころざすあなたへ」―Stuart Porter 著/武田裕子 訳 フリーアクセス

著者: 北村聖

ページ範囲:P.57 - P.57

 2004年の臨床研修必修化により,ほとんどの医学生が臨床研修から専門研修へ進み,基礎医学の研究者になる人が減ったとされる。その一方で,学部教育のガイドラインである「医学教育モデル・コア・カリキュラム(2010年度改訂版)」において,医学教育の大きな柱の1つに『基礎と臨床の有機的連携による研究マインドの涵養』がうたわれている。すなわち,「進展著しい生命科学や医療技術の成果を生涯を通じて学び,常に自らの診断・治療技術などを検証し磨き続けるとともに(中略)背景となる基礎的課題を解明するなどの研究マインドの涵養」が教育目標の1つとされている。

 医師にとって基礎医学の研究のみならず,臨床の実践者になるにしても常に向上心を持って学び続けることが重要で,その中には常に研究課題(リサーチクエスチョン)を発見し持ち続けることや,それを解決する能力を身に付けることなどが含まれる。しかし,実際の医学教育の現場では,なかなかこのような研究心の涵養を教育することは難しいのが現状である。多くの大学では,一定期間,実際の研究室に配属されて研究室の課題の一部を担ってみることが行われているが,自ら研究課題をみつけるといったことはほとんど教育されない。また,研究方法についても系統だった教育は少ない。

交見室

わが国の第1号膀胱鏡に関する疑問

著者: 三木誠

ページ範囲:P.86 - P.87

 私は2008年11月に開催された第22回日本EE学会総会において,「泌尿器科内視鏡の歴史」という教育特別講演を担当した。その際,わが国の第1号膀胱鏡として,1919年(大正8年)第8回日本泌尿器科学会総会で坂口勇先生が発表した膀胱鏡と同型のものとして,株式会社武井医科光機製作所(以下,武井医科)から提供された同社に現存する最古の膀胱鏡の写真(図1)を示した。われわれが若いころNitzeの検査用膀胱鏡として慣れ親しんだものであり,なんの躊躇もなく提示した。ところが2011年4月に名古屋で開催された第99回日本泌尿器科学会総会において,「坂口勇先生の国産第1号膀胱鏡」として展示されたもの(図2,印西市立印旛医科器機歴史資料館提供)を見て驚いた。私が示したものと漏斗部が明らかに違う形をしている。本当の第1号膀胱鏡の形はどうであったのか? という疑問が生じた。

 そこで上記歴史資料館を訪問し,展示されている古い各種膀胱鏡を実際に手にとってみると同時に,文献的にも検討した。その結果,
①武井医科では内視鏡の漏斗部外側に,製造順に通し番号をつけており,図1の膀胱鏡は113号,図2の膀胱鏡は69号であり,明らかに製造順では69号のほうが古い。

しかし,
②図2は坂口勇先生の論文(日本泌尿器病学会雑誌9:388,1920)にある図の漏斗部と明らかに違い,図1のそれは同型である。
③資料館にある膀胱鏡の接眼部と,図2の膀胱鏡の漏斗部の蓋を開けて中に見える接眼部がまったく同じであり(図3),漏斗部の形は蓋を確実に固定するためのものである。
④武井医科の創始者,武井勝氏が膀胱鏡製作前に試作していた上顎鏡の漏斗部が図1と同型である。

「膀胱尿管逆流に対する逆流防止術」へのコメントについて

著者: 山口孝則

ページ範囲:P.88 - P.89

 この度は大先輩であり,日頃よりご尊敬申し上げております寺島先生からコメントを頂戴し,まことにありがとうございました。ご指摘いただきました2点について,小生が感じております意見を率直に述べさせていただきます。

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.7 - P.7

お知らせ 千里ライフサイエンスセミナー「がんの浸潤・転移と微小環境」 フリーアクセス

ページ範囲:P.75 - P.75

1.日時・場所

  2012年2月24日(金) 10:00~17:00

  千里ライフサイエンスセンター5F ライフホール

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.93 - P.93

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.94 - P.94

編集後記 フリーアクセス

著者: 藤岡知昭

ページ範囲:P.96 - P.96

 先日,敬愛する先輩より,「リュクサックの中には,逝かれた妻の写真を常に持参しているのだが,残念ながら天候に恵まれることが少なく,山頂の絶景を妻と楽しむことができない」ということを聞きました。小生は,その山での悪天候は,山神様が嫉妬していることが原因に違いないと考えました。そんな折,東北新幹線で車内誌「トランヴェール」に掲載された秋田県角館市から鷹巣町までの秋田内陸鉄道の旅とマタギの里阿仁町を紹介した『邂逅の森を旅する』の特集を読み,山神様嫉妬説が正しいことを確信しました。マタギは熊,青猪(日本カモシカ)などの狩りを生業とする男たちの集団です。ご承知のとおり『邂逅の森を旅する』は熊谷達也著による大正時代のマタギを主人公とした恋愛小説で,その随所にマタギの興味深い生活や慣習が描かれています。狩りで得られた獲物は,すべて「山神様の授かり物」であるという考え方をします。「山神様」は非常な醜女で,しかも困ったことに異常に嫉妬深く,彼らは山に入る際には「山神様」より外観の醜い「オコゼ」の乾物を持参し,これをお供えすることで機嫌をそこなわないように心がけていたとされています。この特集の中で掲載された「オコゼの乾物」の写真を見た瞬間,これだと思いました。晴天の登山を楽しむには「オコゼの乾物」を持参し,これをお供えすることで機嫌をそこなわないように心がけていたとされています。対策は簡単なことだったのです。先輩は,小生の「山神様オコゼ改善説」に同感されて,早速,オコゼの乾物を用意されたようです。いささか気になるのは,乾物にしたのは魚の頭部のみで,他の胴体はすでに先輩の胃袋内に納まっていることです。

 さて,今月号は,「進行性腎癌に対する分子標的薬・薬剤選択ガイド」です。従来IFN-αやIL-2によるサイトカイン療法が標準治療でしたが,2008年,チロシンキナーゼ阻害剤が導入され,その2年後にはmTOR剤も承認され,本邦における進行性腎癌治療も分子標的薬時代に突入したと思われます。このような意味で今回の特集は時を得たものと考え,多くの読者に有益なものとなるものと考えます。また,カラーグラビア【珍しい外陰部疾患】は陰茎絞扼症であり,「交見室」にも2編の投稿があり,今後,ますます活発な意見交換がなされるものと確信しています。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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特集 いま話題の低活動膀胱―これを読めば丸わかり!

74巻1号(2020年1月発行)

特集 地域で診る・看取る緩和ケア―泌尿器科医として知っておくべきこと

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