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雑誌目次

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臨床泌尿器科66巻4号

2012年04月発行

雑誌目次

特集 泌尿器科ベッドサイドマニュアル

企画・編集にあたって

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.5 - P.5

 医療はめまぐるしく変化していますし,医療を取り巻く環境も変化しています。今回,『泌尿器科ベッドサイドマニュアル』を企画するにあたって,編集委員が心掛けたことはこの変化に対応した実践的なマニュアルを作成することでした。第Ⅰ章の泌尿器科診療の基本では,現在の医療での常識であるインフォームド・コンセント,クリニカルパス,リスクマネジメントについて詳細に解説されています。これらの横文字は編集委員がレジデントだった頃にはなかった概念です。この機会にぜひともご一読下さい。保険診療も第Ⅰ章で取り上げました。保険も変化しています。国民の健康に貢献するという社会的な使命の実行には,保険制度の理解と実践が必須と考えられます。今年は国民皆保険50周年の節目の年です。理解を深めるよい機会であると考えていますのでご一読をお願いします。

 「変化」を強調しましたが,私たち泌尿器科の診療では変わらない大切な手技が数多くあります。泌尿器科医としてスタートを切った専修医の先生は,まずこれらの基本手技を習得することが重要です。ベッドサイドの処置と検査を第Ⅱ章と第Ⅳ章でまとめました。中堅の先生におかれましても,自らの技術をブラッシュアップするのに十分役立つマニュアルです。本書の特徴として付録を充実させることも心掛けました。手元で参照することの多いノモグラムや早見表なども誌面の許す限り掲載しております。泌尿器科医としての第一歩を踏み出したレジデントの先生にとって,わからないことが山ほどあっても病棟での患者の管理では大いに活躍を期待されていると思います。診療で困ったときに助けてくれるのがマニュアルです。第Ⅵ章では,代表的な手術における周術期管理の要点が示されているので活用してください。さらに,病棟管理での腕のみせどころは,合併症を持つ患者に問題なく手術を受けさせて順調な経過で退院させることと,予期せぬ合併症が生じたときの迅速かつ適切な対応です。第Ⅴ章と第Ⅲ章でまとめていますので,該当する患者を受け持った際にはぜひとも活用してください。

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ページ範囲:P.7 - P.7

Ⅰ 泌尿器科診療の基本

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ページ範囲:P.17 - P.17

001 インフォームド・コンセントの実際

著者: 林祐太郎 ,   西尾英紀 ,   守時良演

ページ範囲:P.18 - P.22

[1]はじめに

 「Informed consent」を直訳すると「知らされたうえでの合意」となる。医療におけるインフォームド・コンセントを具体的に表すと,医師が患者に病態をていねいに説明し,それに応じた検査と治療について適切な情報を提供し,患者は十分に理解したうえで,誰にも強制されない自由な立場で検査や治療の方法を選択し,その同意に基づいて医師が医療を行う,という医療上での原則を意味する1)

002 クリニカルパスの現況

著者: 古平喜一郎

ページ範囲:P.23 - P.25

[1]はじめに

 日本でクリニカルパス(クリティカルパスとも呼ばれる)が一般的になり久しい。導入に奔走された世代,すでに導入され利用しているだけの世代など,さまざまな先生方がおられると思う。クリニカルパスの歴史を紐解くと,もともとは1985年に米国の看護師であったカレン・サンダースによってクリニカルパスの運用が開始され,1992年にはDRG(diagnosis-related group)導入によって全米に広く利用されることとなった。本邦では1990年半ばから使用され,その後全国に広まったことはいうまでもない。1999年6月には日本クリニカルパス学会が設立された。2007年3月に全国で行われたクリニカルパスの実態調査において,クリニカルパスの導入率は92%に至っており1),10数年で広く浸透してきたことがうかがえる。では,クリニカルパス導入によって,どのように医療現場が変化したのであろうか。2010年に行われたクリニカルパス学会によるアンケート結果からは,パス導入によって達成された要件の上位として,医療ケアの標準化(70.9%),記録などの業務改善(67.6%),チーム医療(47.2%)などが挙げられている2)

 さて,クリニカルパスは瞬く間に全国に展開したが,泌尿器科領域での利用状況はどのようになっているのであろうか。泌尿器科は他科と比較して予定期間内の入院治療が多く,クリニカルパスを導入するには最も適した科であることにはお気づきかと思う。先に挙げた2010年のアンケートでも,積極的にパスが導入されている診療科の上位に泌尿器科が位置していた。前立腺針生検,経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt),体外衝撃波結石破砕術(ESWL)などに代表されるクリニカルパスは当初から導入され,全身麻酔症例である前立腺全摘出術や腎摘出術に対しても利用され始めた。やがて病院での業務は電子化が進み,紙運用していたクリニカルパスを,コンピュータ画面上での運用に変更した施設も多いと予想される。このようにクリニカルパスが導入され始めた頃から状況は変化し,クリニカルパスの改善や電子化へ適応が求められる時代に移行してきた。このような現状を踏まえ,本項では紙パスから電子化移行期における問題点,これから求められる改善点,そして地域連携を含めて外来部門まで適応が広がっている泌尿器科クリニカルパスについて後述する。

003 リスクマネジメントの重要性

著者: 白木良一

ページ範囲:P.26 - P.29

[1]はじめに

 医療には数字では表せない不確実性があり,治療行為には必ずヒューマンエラーが発生する。医学が発達し,医療への社会的要求が高まり,誰もが豊富な医学情報を入手できる現在,医療者にはヒューマンエラーをコントロールする能力が要求される。

 本来,医療者は医療の質を高めて社会に還元するという重要な役割を担っており,医療の進歩と安全を確保するためには『医療の質の保証』(quality assurance:QA)が必要不可欠である。日常診療で発生するエラーのすべてには起こるべき原因があり,その原因を1つずつ追求し回避することで安全を確保でき,医療の質が向上する。治療行為ではどのような内容のエラーであっても生命に対する危機を生み出す可能性があり,エラーについて真剣に取り組む必要がある。したがって,医療従事者は医療を提供する者の使命として率先してリスクマネジメントに取り組む必要がある。

 特に,現代の医療では各部門の作業分担が明確になり,チーム医療としての共同作業が求められている。チーム医療は,機能を分担するゆえに医療事故を招来する可能性がある。部門内はもとより部門外においても意思の疎通をはかることがチーム医療に必須であるが,現実には申し送りや指示の間違い,指示変更の不徹底などが患者誤認やオーダー間違いなどの大きな医療過誤につながる。

 情報技術の改革により高度の機能分化が進められるにつれて,現場における意思の疎通をはかる工夫が,チーム医療におけるリスクマネジメントの重点事項として求められる。厚生労働省では“リスクマネジメントマニュアル作成指針”を策定しこれを公表して,広く事故防止対策の強化充実をはかっている1)

 泌尿器科一般診療における入院患者の特徴として,以下のような医療事故発生のハイリスク事例が多いことが挙げられる(表1)。①高齢者,②合併症や基礎疾患を有する症例,③カテーテル留置例,④複雑性の感染症例,⑤抗癌化学療法や腎移植後の免疫抑制療法を受けている症例などである。以下に,個々の因子に関するリスクマネジメントについて概説する。

004 保険診療の留意点

著者: 斎藤忠則 ,   山口健哉 ,   高橋悟

ページ範囲:P.30 - P.36

[1]はじめに

 わが国で,1962年(昭和37年)に国民皆保険が開始されて今年で満50年となる。昨年は,日本医師会による医療政策シンポジウム『国民皆保険50周年~その未来に向けて』など,さまざまな記念行事が各地で行われた1)。この国民皆保険という制度が50年前に始まった以前のことを知る国民がほとんどいなくなりつつある現在,国民にとっては,現在の制度は,空気や水と同様に,当たり前に存在するものとなってしまった。一方,この制度を維持するためには年間30兆円以上もの経費がかかる巨大な制度となっている。この医療費は国民が支払う税金と患者が支払う自己負担金にて維持されている2)

 さて,われわれ医師は,4月に医師国家試験に合格すると医師免許証が交付され,医業を行うことが可能となるが,これだけでは保険医療を行うことはできない。所属する医療機関の事務に医師国家試験合格の連絡葉書を預けると,医師本人が知らないうちに所管の保健所へ健康保険医の届け出が提出されているのが現状である。ここで重要なことは,後で述べるように保険診療の要点として保険医が保険医療機関においてのみ保険診療が可能であるという点である。つまり,5月中旬に保険医登録証が交付されるまで保険診療をすることは法律に違反することとなる。患者の診察,カルテの閲覧・記載などの医療行為は可能であるが,検査のオーダーや処方箋の交付,保険診療にかかわる侵襲的医療行為は,保険医となるまでは違法となる。初期臨床研修を行う規模の病院は,現在ほとんどが電子カルテを導入しており,医師のID管理により可能な医療行為を管理することは保険医となるまでは制限可能であるが,紙カルテの病院では,初期臨床研修の管理者および初期臨床研修医本人が注意しなければならない重要なポイントである。今回は,初期臨床研修医・泌尿器科専門医を目指す後期臨床研修医や現在保険診療に携わっている現役の泌尿器科専門医にも役立つ保険診療の留意点についてわかりやすく解説する。

Ⅱ ベッドサイド処置の実際

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ページ範囲:P.37 - P.37

005 腎瘻造設術

著者: 瀧知弘

ページ範囲:P.39 - P.42

[1]はじめに

 腎瘻造設術は腎後性腎不全の治療などで行われる,泌尿器科医が習得すべき手技の1つである。本項では経皮的造設術につき解説を行った。

006 膀胱瘻造設術

著者: 中村小源太

ページ範囲:P.43 - P.46

[1]はじめに

 膀胱瘻造設術は尿路変向術の1つであり,尿道留置カテーテルの挿入が困難な場合など緊急で行わなければならないことが多い手技である。以下,その実際について述べる。

007 尿管ステントの留置・抜去方法

著者: 井口太郎 ,   仲谷達也

ページ範囲:P.47 - P.50

[1]はじめに

 泌尿器科領域において重要な処置の1つが尿路の確保であり,その中でも尿管ステント留置は腎瘻造設と並んで非常に汎用性の高い処置である。日常診療で行う機会の多い処置ではあるが,時には思わぬ合併症に遭遇することもあり,基本に忠実な留置・抜去方法の習得は重要である。

008 腎盂洗浄・膀胱洗浄

著者: 伊藤恭典

ページ範囲:P.51 - P.53

[1]はじめに

 泌尿器科領域の診療では,尿路に留置されたカテーテルを利用し,あるいは改めてカテーテルを留置して尿路の洗浄操作を行う機会が多い。泌尿器科医にとっては最も基本的な診療技術である。本項では,洗浄操作に関する目的と適応,処置の手順,処置の実際とコツを述べる。

009 尿道ブジー

著者: 雑賀隆史

ページ範囲:P.54 - P.56

[1]はじめに

 尿道ブジーは尿道拡張を意図する操作であり,尿道狭窄症例に対する尿道拡張,またこのような症例の術後再狭窄防止,早期発見のために定期的に行ったり,尿道の病的狭窄はない症例でも,切除鏡などの内視鏡挿入や,より径の太いカテーテル挿入などの際に拡張することがある。尿道金属ブジーは盲目的操作であるために,また軟性鏡の発達と普及から,最近では尿道狭窄症例の第一次的拡張には尿道鏡下に狭窄部の状態を確認しつつガイドワイヤーを挿入することで安全に拡張する方法が一般的になっており,尿道狭窄症例にいきなり金属ブジーを挿入することはほとんどなくなったといえる。しかしながら,ベッドサイドにおいて尿道拡張を必要とする機会は少なくなく,泌尿器科医における基本的手技といえる尿道拡張については各種方法に習熟し,適切に選択されなければならない。

010 尿道カテーテル留置

著者: 三宅秀明 ,   藤澤正人

ページ範囲:P.57 - P.61

[1]はじめに

 尿道カテーテル留置は,泌尿器科のみならず日常臨床の場において最も広く行われている手技の1つである。しかし,その操作に伴う合併症の頻度は決して低くなく,正確な知識に基づき基本的な手技を修得することは,極めて重要である。特に,泌尿器科医は,他科の医師が留置困難な症例や緊急に尿道カテーテル留置を要する症例に対して,的確かつ迅速な対応を要する場面に遭遇することも少なくなく,トラブルシューティングを含めた幅広い知識を有することが求められる。本項では,尿道カテーテル留置の基本手技に加え,できるだけ実臨床において役立つ実践的な事項についても概説する。

011 緩和医療

著者: 永江浩史

ページ範囲:P.62 - P.70

[1]はじめに

 緩和医療とは,癌診療の全過程を通じて患者・家族の支援を目指す医療であり,診断時から再燃進行期・終末期に至る癌診療の全過程を通して提供されるべきである1~8)。特に再燃進行期から終末期の入院時および外来通院時には,多様な身体症状に対応を求められる機会が多い。本項では,疼痛を中心に主要な身体症状に対する対応の実際を,ベッドサイドで患者家族と直面する担当医の立場に立ちながら概説する。

012 栄養管理

著者: 麦谷荘一

ページ範囲:P.71 - P.75

[1]はじめに

 食事によって栄養必要量が満たされない患者に栄養療法が適応となる。栄養不良では,感染,創傷治癒遅延,褥瘡などの合併症が増加し,さらにはQOLの低下や入院期間の延長をもたらす。したがって栄養管理を行うことにより,治療に対する耐容能の改善,術後合併症の減少,感染リスクの軽減,入院期間の短縮などが期待できる。

 栄養療法には経腸栄養法と静脈栄養法がある。本項では,経腸栄養・静脈栄養の適応と禁忌,利点と欠点について概説する1~3)

013 癌性疼痛の管理

著者: 窪田裕樹

ページ範囲:P.76 - P.81

[1]はじめに

 癌性疼痛に対する治療として,1986年に世界保健機関(World Health Organization:WHO)が,癌疼痛治療法を公表してから四半世紀が経過し,わが国でも徐々に一般的なものとなりつつある。最近ではマスメディアに緩和ケアが取り上げられる機会も増え,がん対策基本法案でも緩和ケアや疼痛治療の重要性が強調されている。

 しかしながら,依然として緩和医療の専門医の絶対数は限られており,必然的に泌尿器癌患者の疼痛治療は泌尿器科医が担うこととなる。本項では進行・末期癌患者の疼痛管理の実際につき,薬物治療を中心として解説する。

014 褥瘡の管理

著者: 宮澤克人 ,   中村徳子 ,   鈴木孝治

ページ範囲:P.82 - P.87

[1]はじめに

 2002年の褥瘡対策未実施減算施策施行から,病院における褥瘡発生率は年々減少している。2011年度の日本褥瘡学会の報告によると推定発生率1)は,一般病院では1.4%,大学病院では0.78%であった2)。また,褥瘡有病者の施設利用目的疾患は,悪性新生物が最も多く,一般病院では22.6%,大学病院では26.5%を占めていた3)。これらより,病院における褥瘡対策が充足しつつも,さらに疾患の持つリスク要因を理解し,褥瘡管理を行う必要があるといえる。

 泌尿器科領域では,局所的要因である失禁はもとより,全身的要因として,泌尿器癌などに伴う症状が褥瘡発生につながる。そのため,これらの症状緩和をはかることが褥瘡管理において重要となる。

 本項では,褥瘡発生要因および予防と管理方法について泌尿器科領域に絞って概説する。

015 自己導尿

著者: 窪田泰江

ページ範囲:P.88 - P.92

[1]目的と適応

 自己導尿とは,カテーテルを尿道から膀胱へ患者本人が挿入し,膀胱に貯留した尿を体外へ排出する治療である。患者本人でこの操作ができない場合は介護者が行い,間欠的導尿という。小児においても両親など介護者による間欠的導尿が必要になる症例もある。神経因性膀胱による排尿障害や,前立腺肥大症などの下部尿路閉塞,骨盤内の手術後で残尿が多い場合など,すべての排出障害において適応となる(表1)。自己導尿は患者にとって煩わしい作業であるが,尿失禁の改善,腎機能保持,尿路感染症のコントロールなど,メリットも多い。オムツ内排尿による皮膚かぶれや尿臭も解決でき,カテーテル留置による行動の制限などもなくなるため,喜ばれることもある。また自己導尿は他人に知られることなく,トイレなどで行うことができるので,排泄に関するプライバシーが守られる。ただ自己導尿を継続するには,患者の病態に関する理解が不可欠である。そのため,患者にはなぜ導尿が必要なのかをしっかり説明し,理解してもらうことが重要である。

 カテーテルには再生タイプ(図1)とディスポタイプ(図2)があり,どちらを選択しても医学的な差はない。両者を組み合わせて使用することも可能で,個々の患者の利便性を考慮し,選択してもらう。病態により,夜間多尿や夜間頻尿の患者の場合,夜間何度も導尿をしないといけない場合がある。夜間頻回の導尿により,睡眠障害などがある患者の場合は,ナイトバルーン(図3)による対応も可能である。ナイトバルーンは導尿用カテーテルに留置用カテーテルが付属されているカテーテルで,夜間のみ膀胱内にカテーテルを留置する。

016 ストーマケア

著者: 岡本圭生

ページ範囲:P.94 - P.98

[1]はじめに

 ストーマケアは術前から始まり,造設するすべての患者が対象となる。患者は,排泄経路の変化に伴うボディーイメージへの不安・喪失感,さらに疾患や予後,手術に対するさまざまな不安を抱くことになる。また,排泄は人の尊厳にかかわることであり,排泄経路が変化することは,患者の生活に大きな影響を与える。患者がストーマの造設後も,さまざまな変化を受け入れ,その人らしい生活を過ごすことができるためには,その患者にとって,管理のしやすいストーマであることが望ましい。さらに適切なストーマ管理とケアは皮膚炎の予防のみならず,ストーマ狭窄,出血などを防ぐことが知られており,この点からもストーマケアは重要である。

 また,ストーマ合併症の予防,創感染の予防およびセルフケアの習得を目的として,医師,病棟看護師,皮膚・排泄ケア認定看護師,さらにソーシャルワーカーがそれぞれ役割分担を行いながら,生活面・身体面・心理面へのケアを実施することが必要である。ストーマケアの多くの部分は看護サイドで施行されるが,医師サイドもその流れとポイントを理解しておくことは肝要である。

 泌尿器科で適応となる対象は回腸導管,尿管皮膚瘻がほとんどであるが,尿管皮膚瘻の場合,最終的に尿管カテーテルフリーとならないことも多く,指導が異なってくる。

Ⅲ ベッドサイドトラブル対処法

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ページ範囲:P.99 - P.99

017 発熱

著者: 伊藤敬一

ページ範囲:P.100 - P.107

[1]はじめに

 発熱は生体に起きたなんらかの異常に対して,生体の防御機構である免疫系が反応して起こる症状であり,患者に起こっている異常を察知させてくれる重要なサインである。外科系の医師にとって患者の全身の状態を把握するうえで非常に重要な症状であり,この症状に対して常に注意を払う必要がある。発熱という症状と身体所見,血液データ,画像診断などを総合して患者の全身状態をイメージし診療にあたることが,臨床医として重要となる。以下に手術後,外来受診時,免疫機能が低下した状況など,泌尿器科臨床において実際に経験する状況について解説する。

018 創感染症,創離開

著者: 渡邉豊彦

ページ範囲:P.108 - P.112

[1]はじめに

 泌尿器科は外科系臨床科であり,悪性腫瘍をはじめとする尿路性器疾患に対して手術を主な治療手段とするため,周術期感染症への対策は必須である。泌尿器科領域では元来内視鏡手術の頻度が高く,加えて近年では体腔鏡手術,ロボット手術の進化によりその頻度はさらに増加している。また,悪性腫瘍に対して臓器温存を目的とした非観血的治療の開発が進み,開腹手術の頻度は減少傾向にある。しかし,開腹手術は今後も泌尿器科疾患の治療手段として不可欠であり,鏡視下手術と比較して周術期感染症の発症頻度および重症度も高いことから,われわれ泌尿器科医は周術期管理に関して,より適切な対応を要求される。

 1999年にCDC(the Centers for Disease Control and Prevention)が手術部位感染防止ガイドラインを発表し,手術部位感染(surgical site infection:SSI)という新しいcriteriaを提唱し,個人の経験や習慣に頼った管理ではなく,EBM(evidence based medicine)に基づいた指針を示したことが画期的であった1)。本邦においても2007年に『泌尿器科領域における周術期感染予防ガイドライン』が発刊され,浸透しつつある2)。本項では上記2つのガイドラインをもとに創感染症,創離開について概説したい。

019 泌尿器科手術後のイレウス

著者: 小山政史 ,   上野宗久

ページ範囲:P.113 - P.119

[1]はじめに

 イレウス(ileus)とは,Wikipediaによると“腸管内容の肛門側への移動が障害される病態で腸閉塞(intestinal obstruction)とも呼ばれる”と記されている。本邦では慣例的に術後の麻痺性イレウスと術後の腸管癒着による機械的イレウスを総称して術後イレウスと呼んでいる。欧米では術後イレウスはpostoperative ileus(POI)と呼ばれ,術後腸管運動障害が生理的範囲を超えて遷延し,排ガス・排便がなく経口摂取が進まない状態(麻痺性イレウス)を指し,機械的イレウスであるintestinal obstructionとは区別されて使用される。本項では術後イレウスを,術後麻痺性イレウスと術後癒着性イレウスに分けて論じることにする。

020 泌尿器科手術後の腹膜炎・腸管縫合不全

著者: 高山仁志 ,   野々村祝夫

ページ範囲:P.120 - P.122

[1]はじめに

 泌尿器科手術後の腹膜炎・腸管縫合不全の頻度は低いが,いったん発症すると重篤となり,緊急に対処が必要となる場合もあり,また生命を脅かすこともある合併症である。術後早期の腸管縫合不全による消化管瘻は約5%に認められると報告されている。縫合不全の症状は急性腹膜炎の症状を呈することが多く,急性腹膜炎の診断・治療を理解して対処することが重要である。

021 膀胱タンポナーデ

著者: 宮地禎幸

ページ範囲:P.123 - P.128

[1]はじめに

 膀胱タンポナーデは凝血塊によって下部尿路が閉塞し,膀胱が極度に過伸展した状態である。多くの場合,膀胱は尿と凝血塊で充満し尿閉あるいは溢流性尿失禁の状態であり,患者は非常に苦痛を伴う。膀胱タンポナーデは遭遇する頻度が高く,泌尿器科特有の緊急的な対応を要する病態である。また,出血の原因となる疾患によって経過が異なるが,放射線性や薬剤性の出血性膀胱炎は難治性であり,いったん改善しても繰り返すことが多く,治療に難渋することが多い。

022 尿漏

著者: 曽我倫久人 ,   小倉友二 ,   林宣男

ページ範囲:P.129 - P.133

[1]泌尿器科診療の基本

 尿漏とは,尿路より尿の漏れ出る状態であり,その起因として最も頻度が高いのは,手術時の尿路操作に伴うものである。ほかの因子として,尿路閉塞に伴う尿路圧上昇,外傷に伴う尿路の断裂,腹腔内臓器の炎症もしくは腫瘍浸潤の波及によるものが考えられる1)。泌尿器科ベッドサイドでの管理が必要な要因として,手術時の尿路の操作に伴うものが最も頻度が高く重要である。その中でも特に前立腺全摘除,腎部分切除,尿路変向,婦人科手術に伴うものに関して詳細に述べる。

023 呼吸不全(無気肺,気胸,肺塞栓,気管内挿管)

著者: 小林実

ページ範囲:P.134 - P.139

[1]はじめに

 泌尿器科医がベッドサイドで遭遇する呼吸不全の原因のほとんどは,術後合併症である。その要因としては,医療行為に伴う因子(術中体位,周術期呼吸管理,周術期の薬物使用など)と患者側の因子(栄養状態,心肺腎機能,糖尿病,肥満,喫煙歴,長期臥床など)が挙げられる。すなわち,綿密な周術期管理を行うことによって肺合併症には予防することが可能なものが少なくないともいえる。本項では,肺合併症として頻度の高い無気肺,気胸,肺塞栓症につき解説する。

024 循環障害(高血圧,低血圧,心不全)

著者: 橘田岳也

ページ範囲:P.140 - P.145

[1]はじめに

 高齢者にはさまざまな合併症が存在し,中でも循環器合併症を有するものが多く,泌尿器科的疾患の治療の際に問題となることが多い。特に入院治療を要する疾患の治療の際に初めて確認されることも稀ではない。そのため,われわれ泌尿器科医にとって循環障害のマネージメントは極めて重要である。本項では循環障害のうち,高血圧,低血圧・ショック,心不全の3つの病態,診断,治療について述べる。

025 消化管出血

著者: 加藤智幸 ,   冨田善彦

ページ範囲:P.146 - P.150

[1]はじめに

 泌尿器科診療中に消化管出血に遭遇することは決して稀ではない。原疾患の種類や重症度,出血の程度などにより,症例に応じた対処が必要となるが,特に出血性ショックをきたした場合には,速やかな対処が必要になる。本項では消化管出血に関して泌尿器科医として知っておくべき診断・治療の要点,初期治療,予防法などについて概説する。

026 リンパ漏・リンパ囊腫

著者: 篠田和伸 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.151 - P.155

[1]はじめに

 リンパ漏・リンパ囊腫は,主にリンパ節郭清を伴う外科手術後に発生する合併症の1つである。無症候性で自然吸収される場合もあれば,症候性で治療を要する場合もある。本項では,リンパ囊種に関して病因,診断,治療に焦点をあて解説する。

027 CAPDの合併症

著者: 花島文成 ,   矢内原仁

ページ範囲:P.156 - P.160

[1]はじめに

 1970年代に開発された腹膜透析は,当初は小分子量の除去効率は血液透析より若干劣るものの,中分子量物質の除去効率は優れるとされていた。しかし,血液透析の進歩に伴い,現在では除去効率においても腹膜透析の優位性はなくなっている。2010年のわが国の透析人口は297,126人であり,前年度に比べて6,465名(2,2%)の増加であった。しかし腹膜透析患者数は9,728人(3.3%)であり,前年度より130人減少(0.1%減少)した1)。新規導入数も昨年と比較すると0.1%減少,死亡患者数も2.8%増加している。人工透析患者数に占める腹膜透析患者数の割合は近年各国で減少傾向であるが,わが国は腹膜透析の割合が最も低い部類に入る。腹膜透析患者の減少は関与する医療従事者の減少を招き,合併症への理解の低下にもつながり,さらに患者管理を悪化させる原因ともなり得ることは今後注意が必要なことだろう。

 腹膜透析の主たる合併症は表1に示したが,本項ではカテーテル挿入時の合併症に加え,感染性合併症と外科的処置を必要とする合併症を中心に,診断,治療,予防について要点を示す。

028 各種カテーテルトラブル

著者: 本郷文弥 ,   三木恒治

ページ範囲:P.161 - P.164

[1]はじめに

 泌尿器科ベッドサイドで用いられる主なカテーテルには,膀胱留置カテーテル,腎瘻カテーテルおよび尿管ステントカテーテルが挙げられる。それぞれの留置,交換あるいは抜去については別項に述べられている。そこで,それぞれのカテーテルにおける比較的頻度の高いトラブルについて,その原因,診断,さらにはその処置や予防法について述べる。

029 院内感染

著者: 安田満

ページ範囲:P.165 - P.169

[1]はじめに

 院内感染は,hospital(acquired)infectionまたはnosocomial infectionの和訳であるが,「院」は病院を指すとは限らないため,最近では「病院感染」を和訳として使用することが多い。さらに病院だけでなく医院や診療所など医療を提供する場所で起きる感染症であるため,healthcare-associated infection(医療関連感染:HAI)を使用する場合もある。本項では,いまだ一般的である「院内感染」を用いて解説する。

 院内感染は,病院内で病原微生物に接触することにより発生したすべての感染症と定義されている1)。したがって定義上,患者はもちろんのこと面会者や医療従事者なども含むこととなる。さらに入院前に病原微生物と接触し,潜伏期間中に入院し発症した場合は院内感染に含めない。反対に退院後に発症した感染症であっても,病原微生物との接触が病院内であれば院内感染となる。ただし,一般的には患者が入院期間中に病原微生物との接触により発症した感染症のことを指す。

 院内感染はいくつかの種類に分類される。医療感染デバイスによる感染症としては泌尿器科と関連が深いカテーテル関連尿路感染症(catheter-associated urinary tract infection:CAUTI)のほか,血管カテーテル関連血流感染症(catheter-related bloodstream infections:CRBSI),人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)などが代表的である2)。また手技に関する感染症として手術部位感染症(surgical site infection:SSI)が代表的である2)

 特にカテーテル関連尿路感染症は院内感染として重要である。院内感染の約40%が尿路感染症であったとの報告,病院全体の院内感染の63%がカテーテル関連尿路感染症であったとの報告や,泌尿器科病棟の院内感染の74%がカテーテル関連尿路感染症であったとの報告があるほどである3)

 本項では患者への院内感染についてカテーテル関連尿路感染症を中心に解説する。

030 抗菌薬の選択

著者: 清田浩

ページ範囲:P.170 - P.178

[1]はじめに

 泌尿器科診療において抗菌薬を使用する場面は少なくない。その際,適切な抗菌薬を適量に,そして適切な期間投与することが理想であることはいうまでもない。しかし,抗菌薬の種類は多いため,日頃使い慣れた抗菌薬をワンパターンに使用してしまうことが多いのではないであろうか。同じ抗菌薬を同じ患者に繰り返し,あるいは長期間投与するとその薬剤に対する耐性菌が発現しやすくなる。そこで,本項では日常診療における抗菌薬選択のコツについて概説する。

031 癌薬物療法の副作用対策

著者: 中村晃和 ,   三木恒治

ページ範囲:P.179 - P.184

[1]はじめに

 泌尿器科癌における化学療法の位置付けは各疾患によって異なっているが,集学的治療の一端として重要な役割を担っている。本項では,代表的な抗癌剤レジメンおよび各抗癌剤の副作用(以下,有害事象)および対策を概説する。また,紙面の都合上,腎細胞癌で導入されている分子標的薬については,概説にとどめる。

Ⅳ ベッドサイド検査の実際

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ページ範囲:P.187 - P.187

■1.尿検査

032 尿検査・細菌学的検査(性感染症,結核菌検査を含む)

著者: 濵﨑隆志 ,   濵砂良一 ,   松本哲朗

ページ範囲:P.188 - P.192

[1]尿検査

1.はじめに

 泌尿器科疾患において尿検査は非常に重要であり,注意深い観察は多くの情報をもたらしてくれる。検尿とは尿を実際に見て色,混濁を観察し,その生化学的な性状を試験紙法にて観察する。さらに尿沈渣を観察し,顕微鏡にて赤血球,白血球,上皮細胞,細菌などの情報を得て,そこからさまざまな疾患を推測することが可能である。しかし,近年尿検査は検査室で行われるようになり,医師は自分自身で検査を行う機会が少なくなっている。腎尿路疾患を診るにあたっては泌尿器科医自身で尿沈渣をみることが望ましい。

033 尿路感染症の分子生物学的検査

著者: 東郷容和 ,   山本新吾

ページ範囲:P.193 - P.197

[1]はじめに

 近年,尿路感染症において分子生物学的検査は広く用いられるようになっており,特に淋菌やクラミジアといった性感染症の診断においては必須検査となっている。本項においては,分子生物学的検査の現状および近年増加傾向である薬剤耐性菌に関して述べたい。

■2.画像検査

034 腎尿管膀胱部単純撮影(KUB)

著者: 岡聖次

ページ範囲:P.198 - P.202

 泌尿器科における腹部単純撮影は腎尿管膀胱部単純撮影(KUB:kidneys, ureters, and bladder)と呼ばれ,撮像範囲は上縁を両側副腎領域,下縁を恥骨結合下縁より2cm下部までとし,膀胱,前立腺部(男性)までが観察できるように撮影する。

035 静脈性腎盂造影(IVP),点滴静注腎盂造影(DIP)

著者: 岡聖次

ページ範囲:P.203 - P.208

[1]はじめに

 造影剤の静脈注射による排泄性尿路造影は腎実質から膀胱まで描出されるが,慣例的に排泄性腎盂造影と呼ばれ,造影剤を急速注入する静脈性腎盂造影(intravenous pyelography:IVP)と点滴注入する点滴静注腎盂造影(drip infusion pyelography:DIP)とがある。

 排泄性尿路造影は,かつては泌尿器画像診断法の王道であったが,近年ではCTやMRIの技術開発も加わりその適応が限定されるようになった1)。しかしながら,排泄性尿路造影はCTに比べ放射線被曝量が少ないことや個人開業医でも施行可能であることなどにより今日でも頻用されているため,その読影に習熟しておくことは泌尿器科医にとって必須であることに変化はない。

036 逆行性腎盂造影(RP)

著者: 岡村武彦

ページ範囲:P.209 - P.210

[1]はじめに

 近年,CTなどの画像診断機器の発達が目覚ましく,特に3次元画像による立体的なイメージ画像処理により,泌尿器科領域においても画期的に診断率が高まってきた。造影剤に対するアレルギーがあるために造影検査ができない患者でもMRIなども併用することにより,確定診断ができる症例が多くなってきた。

 しかしながら,なお診断に苦慮する症例も少なからず存在し,泌尿器科医の切り札として,逆行性腎盂造影(RP)は欠かせない検査の1つである(図1)。また,直接上部尿路にカテーテルを挿入することにより,同部の検体が採取できるばかりでなく,尿管カテーテル留置操作の一環として日常行う行為であり,泌尿器科医としてこの検査について精通しておくことは必須条件である。

037 排尿時膀胱尿道造影(VCUG)

著者: 金宇鎮 ,   山崎雄一郎

ページ範囲:P.211 - P.214

[1]目的と適応

 排尿時膀胱尿道造影検査(VCUG)は,小児泌尿器科領域のX線画像検査のうち最も多用される検査である。小児だけでなく,成人においても下部尿路の形態と機能の評価に有用な検査である。男児尿道の排尿時正常像を図1に示す。

 本検査法で適応となる疾患には以下のようなものがある。

038 逆行性尿道造影(RCUG)

著者: 秋田英俊

ページ範囲:P.215 - P.216

[1]目的と適応

 逆行性尿道造影(RCUG)は尿道の状態を調べるのに適した検査法である。従来は前立腺疾患に対する診断法として主要な役割を果たしてきたが,超音波断層法(経直腸超音波断層法を含む)の普及,CT,MRIといった画像診断の進歩により,前立腺疾患に対する尿道造影の役割は減少しつつある。RCUGは被検者,検者ともX線被曝があり,また被検者に苦痛を与える検査でもあるためである。しかし,尿道狭窄に対しては,RCUGは依然としてgold standardである。一般的に,病棟におけるRCUGの適応は,①尿道狭窄の検索,②尿道損傷の検索(医原性,外傷性),③バルーン挿入困難時の補助,④TUR-Pの切除範囲の検索,などであろう。

039 超音波検査(US)

著者: 金子茂男 ,   徳光正行 ,   石田裕則

ページ範囲:P.217 - P.223

[1]はじめに

 超音波検査の長所は非侵襲性,簡便性とリアルタイムで観察できる即時性であり,臨床面では多数の臓器を対象に多くの診療科で広く使われている。泌尿器科領域では腎から尿道に至る尿路のほか,副腎,後腹膜・骨盤内疾患,内外性器,上皮小体などの診断に超音波検査が行われている。排尿時の膀胱頸部・尿道の観察,射精時の観察,陰茎海綿体内血流計測などの機能診断のほか,経皮的腎瘻造設術,経皮的膀胱瘻造設,腎囊胞穿刺などの治療手技や,腎・前立腺・後腹膜臓器の生検にも幅広く利用されている。最近では超音波造影剤の開発により腎腫瘍の診断精度向上に役立っている1,2)

040 泌尿器科腫瘍におけるPET/CTの有用性

著者: 木下秀文 ,   松田公志

ページ範囲:P.224 - P.227

[1]はじめに

 フッ化デオキシグルコース(18F-FDG)PETの保険適応が拡大され,2010年の改定では早期胃癌を除くすべての悪性腫瘍が対症となっている。本項では,泌尿生殖器癌を中心にPETの役割について概説する。

 通常の画像診断が,人体の3次元的な構造物をvolumeとして読み取り,量的なあるいは質的な診断を行うのに対して,PETは細胞の機能(活動)をFDGの代謝(細胞内への取り込み)として捉えているのが特徴である。FDGの代謝がさかんな細胞でよく取り込まれ,高SUV(standardized uptake value)となる。しかし,PETの解像度は低く,hot spotがあっても実際にどの部位を認識しているのかわかりにくいことが従来からの問題であった。現在は,FDG-PETはPETのみで用いられることは少なく,PET/CTとして用いられるのが一般的である。機能を基にした画像と解像度の高いCTとを組み合わせることにより,さらに臨床的な意義が増した。

■3.尿流動態検査

041 尿流測定(UFM)と残尿測定

著者: 小池浩之 ,   江左篤宣

ページ範囲:P.229 - P.233

[1]はじめに

 下部尿路における排尿・蓄尿機能の異常は,尿失禁,頻尿,尿意切迫感,排尿困難,尿線中断,残尿感という多彩な症状として表現される。また,その原因も,脳・脊髄疾患や末梢神経障害によってもたらされる神経因性膀胱尿道機能障害,さらに,前立腺肥大症,尿道狭窄,閉経,加齢など種々の疾患,機能障害がある。しかも,同じ原因疾患であっても,その障害の程度はさまざまであり,原因と症状を一定の関係で結びつけることは容易ではない。すなわち,症状のみでは治療効果の評価はできても病態の把握は困難である。

 尿流測定および残尿測定は低侵襲で簡便な検査法であり,排尿困難,尿線狭小などの症状を定量的に評価し,病態の把握,治療効果の判定の手段の1つとして用いられる。

042 膀胱内圧測定

著者: 李賢 ,   関成人

ページ範囲:P.234 - P.238

[1]はじめに

 排尿障害を主訴に来院する患者の病態は多彩であり,臨床現場では自覚症状やQOL障害の程度を評価するとともに,下部尿路機能を客観的に評価して,診断と治療を行う必要がある。膀胱内圧測定は蓄尿期における膀胱の内圧と容量の関係を測定する検査であり,脳-脊髄から末梢神経に至る各種神経疾患や前立腺肥大症に代表される下部尿路通過障害,さらには骨盤性器脱といった各種疾患に合併する膀胱機能障害の評価に大変有用である。

043 プレッシャーフロースタディ

著者: 柑本康夫 ,   小川隆敏 ,   原勲

ページ範囲:P.239 - P.244

[1]目的と適応

 尿流低下がみられる場合,その原因が前立腺肥大症などの膀胱出口部閉塞にあるのか,膀胱収縮力の低下によるものかを鑑別しなくてはならないが,膀胱内圧測定のみでは判定できない。プレッシャーフロースタディ(PFS:内圧尿流検査)は,膀胱内圧,直腸内圧(腹圧),排尿筋圧(膀胱内圧から腹圧を差し引いた圧:検査機器が自動的にリアルタイムで表示する)を測定し,排尿時の尿流率と排尿筋圧の関係から膀胱出口部閉塞の程度や膀胱収縮機能を評価しようとする検査である(図1)1)。通常は,排尿時のみならず,蓄尿期の圧測定も行うため,膀胱容量,不随意収縮の有無,コンプライアンスなどの蓄尿機能も同時に評価できる。排尿障害の診断や治療において鍵となる貴重な情報が本検査から得られる。

 下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)を有するすべての患者が適応となる。自覚症状に乏しい場合でも,スクリーニングとして施行した尿流測定,残尿測定に異常がある場合や,術後に排尿障害をきたす可能性の高い骨盤内手術の術前検査として施行することもある。過活動膀胱や腹圧性尿失禁の保存的治療例には必須ではないが,初期治療による改善が不良の場合にはよい適応である。

■4.尿失禁の検査

044 腹圧性尿失禁の検査

著者: 加藤久美子 ,   鈴木省治 ,   鈴木弘一

ページ範囲:P.247 - P.253

[1]はじめに

 女性泌尿器科は,腹圧性尿失禁・骨盤臓器脱の低侵襲メッシュ手術の発展に伴って,泌尿器科の大切なsubspecialtyになりつつある。腹圧性尿失禁は尿流動態検査で確定診断されるが1,2),典型例は問診とストレステストでかなり把握できる。膀胱造影は昔ほど行われなくなったが,画像から得られる情報は少なくない。骨盤臓器脱では尿排出障害や過活動膀胱が増える一方で,腹圧性尿失禁がマスクされる3)。脱を還納した状態でのストレステスト(バリアーテスト)などで評価する。本項では,女性泌尿器科の検査の手技,ポイントを解説する。

■5.生検

045 腎生検

著者: 小島宗門

ページ範囲:P.255 - P.258

[1]はじめに

 腎生検は,経皮的腎生検と開放性腎生検に大別される。経皮的腎生検は,かつては盲目的もしくは静脈性腎盂造影を併用しつつX線透視下に行われてきた。しかし,この技術にはかなりの熟練を要し,出血などの合併症も多く,組織採取の不確実性もあり,しばしば開放性手術によって腎を直接露出して組織を採取する,開放性腎生検も行われていた。

 しかし,1970年代後半になり,リアルタイム表示の超音波診断装置を用いて,対象臓器(病変)と穿刺針との相互関係を確認しつつ,正確に穿刺針を目標に到達させる技術である,超音波穿刺術1)が開発されてからは,本技術を用いての経皮的腎生検が広く普及するようになった。最近では,CTもしくはMRIガイドによる生検も開発されているが,ベッドサイド検査としては超音波ガイド下の腎生検が最も有用である。

 超音波穿刺術の登場により,標的部位をより確実に穿刺できるようになり,特定の部位を選択的に生検できるので,選択的腎生検(selective renal biopsy)とも呼ばれることがある。

 最近では,低侵襲性治療の1つとして,腎癌に対する鏡視下でのcryosurgeryの臨床応用が始まり,その場合には開放性生検に準じた形での,鏡視下の腫瘍生検が行われることもある。

 本項では,最も頻度が高い経皮的腎生検を中心に解説するとともに,最近,改めて注目されている腎腫瘍生検についても言及する。

046 膀胱鏡検査・膀胱生検

著者: 神谷浩行

ページ範囲:P.260 - P.264

[1]はじめに

 膀胱鏡検査とは,尿道,膀胱頸部および膀胱内を直接観察する検査である。したがって,主な適応は下部尿路疾患を有する症例である。また上部尿路疾患が疑われる場合であっても,例えば腎出血の場合には,患側を特定することはその後の検査計画を立てるうえで非常に有意義であるし,結石性腎盂腎炎のドレナージや腎後性腎不全の治療のため尿管ステントを留置する場合には適応となる。

 膀胱鏡検査の一番の適応は肉眼的血尿であるが,顕微血尿の場合は,尿路上皮癌の高リスク群でなければ,推奨されていない1)

 軟性膀胱鏡の普及で低侵襲になってきたとはいえ,患者からすると最も受けたくない検査の1つであり,他の検査所見と併せ診断に必要かどうか吟味する必要がある。

 急性前立腺炎,急性尿道炎,急性精巣上体炎など,急性炎症があるときには,膀胱鏡検査は禁忌とされている。しかし,急性膀胱炎の患者で尿中白血球数はそれほど多くなくても高度の血尿を呈する場合もあり,他の疾患を除外するために膀胱鏡検査を施行する場合もある。要は,利益が合併症を上回ると考えられれば,被検者によく説明し同意を得たうえで施行できると考えられる。また,前立腺肥大症でも禁忌といわれた時代があったが,それは盲目的に膀胱鏡を挿入しようとした時代のことであり,尿道内を観察しつつ挿入することが原則と考えられる現代では,前立腺肥大症の診断,特に手術適応の判定には膀胱鏡検査が有用である。

 膀胱鏡が挿入できないような尿道狭窄は適応外とも考えられるが,狭窄部の状態を見きわめるためには内視鏡検査を実施すべきである。

047 前立腺生検

著者: 西村和郎 ,   上田倫央 ,   垣本健一

ページ範囲:P.265 - P.270

[1]はじめに

 現在,さまざまな血液検査や画像検査が進歩したとはいえ,前立腺癌の診断に前立腺生検は必須の検査である。最近は健康診断などでPSA値が高値(4.0ng/ml以上)のために,前立腺生検を受ける方が増加している。しかし,一部の患者は痛みなどの合併症を心配し,前立腺生検を躊躇する。さらには,再生検が必要になる場合もある。われわれ泌尿器科医は,このような状況を十分把握し,前立腺生検をより低侵襲に,より高精度に行うことが必要であると考える。

048 精巣生検

著者: 鞍作克之 ,   仲谷達也

ページ範囲:P.271 - P.273

[1]目的と適応

 精巣生検は,一般的には精巣での造精機能障害が疑われる無精子症に対して,病理学的評価を行うために行われる。しかし,近年,男性不妊の治療に際して,TESE(testicular sperm extraction,精巣内精子採取法)施行と同時に,精巣生検を行う場合がほとんどであり,精巣生検単独で行うケースは稀である。

 一般的な精巣生検の適応は表1のごとくである。精巣容積が20ml以上であり,内分泌検査にてLH/FSHとテストステロンが正常な無精子症の症例が最もよい適応である。

■6.腎機能検査

049 腎機能検査

著者: 武本佳昭 ,   長沼俊秀

ページ範囲:P.274 - P.278

[1]はじめに

 腎機能検査の目的は,腎機能を把握し,疾患の種類・性質・病変部位を特定することにある。また,腎機能の経過を観察することで腎障害の進行速度を把握することができ,腎不全に至る予後を推測することも可能である。したがって,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)においては随時腎機能を測定することで治療効果の判定にも役立てることができる。さらに,造影剤を使用した種々のX線検査は疾患の診断および病変特定に必須のものであり,腎機能低下時には造影剤腎症の発症リスクが高まることから,最近ではますます腎機能検査を行う機会が増加している。また,近年高齢者に対する手術が増加してきており,術前検査として腎機能を評価する機会も少なくない。

 したがって,腎機能検査を行う頻度は今後とも増加していくことが予測されるため,腎機能検査は患者に対して低侵襲で再現性があり,正確かつ簡便である必要がある。腎機能検査は,腎全体の機能を把握する総腎機能検査と左右の腎機能を別個に評価する分腎機能検査に分類される。本項では臨床的に泌尿器科医が行う頻度が高いもの,およびCKDの経過観察に必要な検査について述べる。

■7.内分泌機能検査

050 内分泌機能検査

著者: 辻村晃 ,   宮川康 ,   野々村祝夫

ページ範囲:P.279 - P.283

[1]はじめに

 通常,泌尿器科医が扱う内分泌学的検査には,①視床下部-下垂体-性腺系,②視床下部-下垂体-副腎皮質系,③カテコラミンなどの副腎髄質系,④レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の4つがある。血中ホルモンの種類は豊富ながら,いずれも上位内分泌腺におけるfeedback機構が作用している共通点が存在する。すなわち,われわれが行う内分泌学的検査においては,血中濃度の測定が必須であることと同時に,そのfeedback機構に絡んだホルモン値の変動,いわゆる負荷試験の結果も重要となる。

 一般に,内分泌疾患はホルモン欠乏とホルモン過剰をきたす病態に大別される。診断については,特徴的な臨床症状や理学的所見から内分泌学的疾患を想定し,関連するホルモンおよびその代謝産物の測定が行われる。その後,確定診断のため負荷試験が追加される。ただし,血中ホルモン値には日内変動が存在することから,測定した時刻の影響を考慮し,ストレス,体位,他の薬剤など測定結果を左右しかねないさまざまな要因も注意する(表1)。本項では,上記4つの内分泌学的検査について負荷試験を含め概要を解説する。表2に泌尿器科領域で取り扱う代表的なホルモンの基礎値(当施設でのもの)を列挙した。なお,副甲状腺に関しては他書を参照されたい。

■8.精液検査

051 精液検査

著者: 梅本幸裕 ,   窪田裕樹 ,   佐々木昌一

ページ範囲:P.284 - P.287

[1]はじめに

 精液検査は,男性不妊症,血精液症,前立腺炎といった診断に行われる。本項では男性不妊症の基本となる精液検査について述べる。2010年におよそ10年ぶりにWHO manual(第5版)1)の改訂が行われているため,これに準拠して述べることとする。

■9.勃起機能検査

052 勃起機能検査(NPT・血管造影)

著者: 小谷俊一

ページ範囲:P.288 - P.293

[1]最近の勃起障害診療の流れ

 勃起障害(erectile dysfunction:ED)は「満足な性交のための勃起が発現できないか,維持できない状態」(米国国立衛生研究所のコンセンサス会議,1993年)と定義されている。本邦での疫学調査からの推計ED患者数は1,130万人前後といわれている1)。EDの原因の約50%はストレスや性的パートナーとの人間関係のこじれ,精神疾患などによる心因性(または精神疾患性)である。残りの50%は体に何か器質的な疾患のある器質性EDである。生活習慣病(高血圧,高脂血症,糖尿病,虚血性心疾患,慢性腎臓病など),神経疾患(脳血管障害,脊髄損傷など),陰茎疾患(ペロニー病,陰茎彎曲症など),内分泌疾患(加齢男性性腺機能低下症など),薬剤の副作用(向精神薬,前立腺肥大治療薬,前立腺癌治療薬),骨盤内悪性腫瘍術後(膀胱癌,前立腺癌,直腸癌などの術後)などが代表的である。特に中高年以上の男性ではEDの裏に糖尿病や虚血性心疾患が隠れている場合もあるので注意を要する。

 EDの診断・治療は患者にとって,できるだけ低侵襲で安全な手法から開始するのが鉄則である。幸い日本では1999年3月23日より経口ED治療薬のPhosphodiesterase Type 5阻害剤(PDE5阻害剤)が使用可能となった(保険未収載・自費)。現在,シルデナフィル(バイアグラ®),バルデナフィル(レビトラ®),タダラフィル(シアリス®)の3剤が発売されている。しかもこれらの薬剤は,心因性のみならず器質性EDにも有効である。このため,ED診療のプライマリーケアの段階では勃起機能検査は必ずしも必要でなくなった。

■10.特殊な検査

053 特殊な検査(腫瘍マーカー)

著者: 原貴彦 ,   松山豪泰

ページ範囲:P.294 - P.298

[1]はじめに

 癌では,腫瘍が産出する物質や腫瘍関連物質が体液中(血液,尿)に検出されることがあり,これらの物質は腫瘍マーカー(tumor marker)と呼ばれてきた。一方,バイオマーカー(biomarker)は,“A laboratory measurement that reflects the activity of a disease process.”と定義され1),客観的に評価し得る患者の臨床的特徴,画像検査所見,病理組織学的所見,血液生化学的所見などがバイオマーカーに含まれる。腫瘍マーカーはバイオマーカーの一部であるが,本項では,血液,尿中に検出できるバイオマーカーに限り,腫瘍マーカーとして取り上げる。

 腫瘍マーカーは,腫瘍に特異的に産生されるものではなく,正常に対して量的に変化するものであり,腫瘍マーカー物質の産生は腫瘍を構成する細胞の種類によりさまざまである。腫瘍マーカーの臨床的な役割は,①腫瘍の発見,スクリーニングに寄与すること,また,化学療法後や根治術後の再発の早期発見が可能であること,②治療効果の評価が可能であること,③予後を推測することができ,効果的な治療に結びつくこと,などが挙げられる。理想的な腫瘍マーカーは,腫瘍に対して感度が高く特異的であり,腫瘍の病勢を反映することが必要である。残念ながら,理想的な腫瘍マーカーといえるものは,今日まで見つかっていない。泌尿器科領域では,前立腺癌における前立腺特異抗原(PSA)は,限界はあるものの,ほぼ理想に近い腫瘍マーカーと考えられる。

 以下,代表的な泌尿器科領域の癌腫別に腫瘍マーカーについて総説する。

Ⅴ 全身合併症を有する患者の管理

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ページ範囲:P.299 - P.299

054 脳血管障害の既往を有する患者の管理

著者: 亭島淳

ページ範囲:P.300 - P.303

[1]はじめに

 脳血管障害は,脳を栄養する頭蓋内の血管の異常を原因とし,出血による圧排,浮腫や炎症,もしくは虚血による脳組織の障害をきたす疾患の総称である。脳血管障害が原因となり,急激な意識障害や中枢神経の障害をきたすものが脳卒中である。その危険因子としては,心疾患,高血圧,高脂血症,糖尿病,肥満,喫煙,多量の飲酒や,これらに起因する動脈硬化が挙げられる。つまり,脳血管障害の既往を有する患者では,これらの基礎疾患が併存することが多く,周術期管理において十分な注意を要する。本邦における脳血管障害の有病率は高く,高齢者に対して多くの手術を行う泌尿器科においては,手術適応症例に脳血管障害の既往が存在する頻度は増加するものと思われる。本項では脳血管障害の既往を有する患者の周術期管理の注意点について述べる。

055 心疾患の既往を有する患者の管理

著者: 森實修一 ,   瀬島健裕 ,   武中篤

ページ範囲:P.304 - P.309

[1]はじめに

 近年,手術方法や周術期管理の進歩に伴い,高齢者やハイリスク症例における手術症例が増加傾向にある。特に,虚血性心疾患を中心とする循環器疾患を合併している患者の割合が増加しており,われわれ泌尿器科医にとっても心血管系疾患の周術期管理が求められる。

 1996年,アメリカではACC/AHA(アメリカ心臓病学会/アメリカ心臓協会)より,非心臓手術のための周術期心血管評価ガイドラインが作成され,2002年,2007年と進歩する医療現場に合わせて改訂が行われた1)。一方,本邦では2001年に日本循環器学会を中心に『非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン』作成班が発足した。翌年,非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドラインが作成され,2008年にその改訂が行われた2)

 手術適応を決定するうえで,泌尿器科医もこのようなガイドラインを理解しておくべきであると思われる。本項では,これらのガイドラインを参考に心疾患の既往を有する患者の管理について泌尿器科医の立場から考えてみたい。

056 肺疾患の既往を有する患者の管理

著者: 高橋正幸 ,   金山博臣

ページ範囲:P.310 - P.315

[1]はじめに

 日本では高齢化が進み,泌尿器癌を含めた泌尿器疾患を有する高齢者が増加している。一方で,麻酔の進歩や腹腔鏡手術などの低侵襲手術の導入により,高齢者に対する手術数も増加している。しかし,高齢者は基礎疾患として心疾患や肺疾患を有することが多く,その他の臓器機能も低下している可能性があり,麻酔や手術技術が進歩しているとはいえ,手術に際しては十分な術前評価が必要である。本項では,肺疾患の既往を有する患者の手術の際に注意すべき術前・術中・術後管理について述べる。

057 ステロイド使用患者の周術期管理

著者: 槙山和秀

ページ範囲:P.316 - P.319

[1]はじめに

 生体内のステロイドホルモンのうち,糖質コルチコイドは,生体の恒常性を維持するうえで必須のホルモンである。糖質コルチコイドレセプターは全身の組織に広く分布しており,多くの組織は正常機能を発現するために糖質コルチコイドを必要としている。糖質コルチコイドの主な作用として,糖代謝,循環の維持,電解質代謝,免疫調整などが挙げられる。一方で糖質コルチコイドは,副腎皮質ホルモン剤として膠原病,アレルギー疾患,炎症性腸疾患,気管支喘息,腎疾患,臓器移植後などに,抗炎症・免疫抑制目的で幅広く長期的に投与されている。このような長期ステロイド投与患者に対して手術を行う場合,周術期管理として高血糖,創傷治癒遅延,易感染性,消化管潰瘍などに注意する必要がある。また手術侵襲に伴い,急性副腎不全をきたす危険性があるので,周術期にステロイドを予防的に補充するステロイドカバーが一般的に行われている。本項ではステロイド使用患者の周術期管理について概説するとともに,Cushing症候群術後,両側副腎摘除後のステロイド補充療法についても言及する。

058 抗凝固薬使用患者の周術期管理

著者: 堀川洋平

ページ範囲:P.320 - P.323

[1]はじめに

 泌尿器科手術は高齢患者が対象となることが多い。このような患者は,糖尿病や心血管疾患,脳梗塞などの合併症を有することが多く,抗凝固薬や抗血小板薬を内服している場合がある。これらの患者に対して泌尿器科手術を行う場合は,抗凝固薬・抗血小板薬の中断(再開)についての判断を迫られる。これらの薬剤は,中止したことによる血栓塞栓症の発症リスクと,継続することによる出血リスクとのバランスを考慮することが必要となる。本項では,抗凝固薬と抗血小板薬についての基本事項と,これらの薬剤を内服中の患者に対する周術期管理について解説する。

059 糖尿病患者の周術期管理

著者: 佐倉雄馬 ,   杉元幹史

ページ範囲:P.324 - P.329

[1]はじめに

 本邦の2007年の厚生労働省調査では,糖尿病治療中あるいは強く疑われる人が890万人,可能性が否定できない人が1,320万人といわれており,日常泌尿器科診療においても頻繁に遭遇する生活習慣病の1つである1)。近年の糖尿病患者の激増に伴い糖尿病を合併した患者に対して手術を行う機会が増加している。一般に糖尿病患者は全身の動脈硬化性疾患・神経障害などを潜在的に合併していることが多く,外科手術に際してはあらゆる合併症の頻度が増加する2)。さらに周術期の死亡率も非糖尿病患者に比して高いことが知られている(表1)。

 糖尿病患者では一度合併症を起こすと容易に重症化するため,厳密な周術期管理が重要である。糖尿病専門医が存在する病院では専門医による管理が可能であるが,専門医を擁さない施設では一般内科医あるいは泌尿器科医が周術期の管理をせざるを得ないことも稀ではない。本項では糖尿病患者の周術期管理についての注意点・最近の知見について紹介する。

060 透析患者の周術期管理

著者: 田中智章 ,   仲谷達也

ページ範囲:P.330 - P.333

[1]はじめに

 近年,CKD(chronic kidney disease:慢性腎臓病)の概念が本邦においても普及し,現在CKD患者は1,300万人を超え国民の約8人に1人が罹患者との試算となっている1)。また,透析患者数も増加の一途をたどり,現在約29.7万人であり,そのうち新規透析導入患者の平均年齢が67.8歳と高齢化が進んでいる(2010年度集計)2)。人口の高齢化と医療の進歩に伴う高齢者に対する手術機会が増加しているのと同様に,CKDや透析患者に対する手術機会も増加してきている。特に体液,電解質,酸塩基平衡などの体内環境の恒常性が破綻している透析患者の周術期は厳格な管理が必要である。本項では,そのエッセンスについて概説する。

Ⅵ 術式別にみた術前・術後管理

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ページ範囲:P.335 - P.335

061 ESWL,TUL,PNL

著者: 諸角誠人 ,   石井信行 ,   山田拓己

ページ範囲:P.336 - P.340

[1]はじめに

 尿路結石治療は早くから低侵襲化がはかられ,体外衝撃波治療(extracorporeal shock-wave lithotripsy:ESWL)や内視鏡手術すなわちTUL(transurethral ureterolithotripsy)およびPNL(percutaneous nephrolithotripsy)が主体となっている。特に内視鏡手術は軟性尿管鏡やレーザー砕石装置など機械の発達により増加傾向にある。しかし,低侵襲化は安全性を意味するものではなく,その特性あるいは合併症の理解が必要である。

 本項では本邦の『尿路結石症診療ガイドライン』1)および『EAU Guideline on Urolithiais 2011』2)を中心に,ESWL,TUL,PNLにおける①術前管理,②術後管理,③注意すべき合併症に関して,共通する項目,おのおのの手技に関する諸問題およびpitfallの順に論じる。なお,本論文では経尿道的尿管砕石術をTULとするが,EAUガイドラインではURS(ureterorenocopy)と呼ばれ,PNLもpercutaneosu nephrolitholapaxyとされているので注意されたい2)

062 根治的腎摘除術,腎部分切除術,腎尿管全摘除術(開放手術)

著者: 米瀬淳二

ページ範囲:P.341 - P.344

[1]はじめに

 腎細胞癌の治療は薬物療法の進歩にもかかわらず手術が中心で,進行例でも切除可能例には手術が選択される。腎機能の保持が心血管イベントの発生を起こさないために重要であることが証明され,小径腎細胞癌に対しては腎温存手術が標準的となった1)

 腎盂尿管癌の治療も手術が中心であるが,いまだに早期診断に苦慮する症例も少なくない。尿路上皮癌は尿路への多発性といった特徴を持つため,腎機能温存手術は一般的ではない。正確な進達度診断が困難である一方で,浸潤例にはリンパ節廓清の重要性が指摘されている2)。本項では,この2つの疾患に対する標準的な手術に関する周術期の管理について概説する。

063 腎移植術

著者: 佐々木秀郎 ,   力石辰也

ページ範囲:P.345 - P.348

[1]はじめに

 本項では,腎移植の術前後の管理・評価について概説する。

064 膀胱全摘除術

著者: 北村寛

ページ範囲:P.349 - P.353

[1]膀胱全摘除術を行うにあたって

 膀胱全摘除術は泌尿器科悪性腫瘍手術の中で最も時間を要し,侵襲の大きい手術の1つである。その適応の決定については,膀胱癌の病期のみならず,患者の合併症や全身状態も大きな要素となる。一方,膀胱摘除後に腸管を利用した尿路再建を行っても,周術期における水分電解質の吸収障害はほとんどなく,術後管理はさほど複雑ではない。最近は腸管処置や予防的抗菌薬投与法などが簡略化される傾向がある。

065 腹腔鏡下副腎摘除術

著者: 石戸谷滋人

ページ範囲:P.354 - P.358

[1]はじめに

 本誌2002年の増刊号の特集で『術前・術後1週間の患者管理―体腔鏡下手術』の良著がある1)。その後ほぼ10年が経過し,これらのテキストと日本泌尿器内視鏡学会の指導とが相俟って,腹腔鏡下副腎摘除術は完全に標準術式となって全国に普及した。手術適応に関してまだ見解が定まっていない部分もあるが,外科的術式は経腹膜到達法,後腹膜到達法を問わず,確立されたといってよい2)。このように件数が増えて一般化した術式であるが対象の多くは良性疾患であり,原発性アルドステロン症のように薬物療法のオプションが存在する場合もある。手術に関連した合併症は極力避けねばならない。外科的術式の詳細は成書に譲り3),本項では腹腔鏡下副腎摘除術のベッドサイドにおける管理について解説する。

066 腹腔鏡下腎摘除・腎部分切除術

著者: 槙山和秀

ページ範囲:P.359 - P.362

[1]術前管理

 腹腔鏡下手術の術前管理は,基本的には全身麻酔下での開腹手術と同様である。

1.腸管処置

 腹腔鏡下手術では,手術中に極端な腸管拡張があると視野の妨げになり,腸管損傷のリスクも高くなると考えられる。また,万が一腸管損傷が生じた場合,術前腸管処置をしておいたほうがより安全に対処できる可能性もある。以上のような考え方から,術前の腸管処置として低残渣食,下剤,浣腸などが行われることが多かったが,術前腸管処置をまったく省略できるという考え方もある1)。当院では術中の視野確保のためには最小限の腸管処置は必要であると考えており,腸管損傷の可能性の高い症例以外は,通常の開腹手術同様の術前腸管処理を行っている。具体的には,術前日の夕食まで常食で,眠前にセンノシドの内服,術当日朝に浣腸を行っている。

067 新膀胱造設術の周術期管理

著者: 戸邉豊総 ,   関山和弥 ,   貝淵俊光

ページ範囲:P.363 - P.368

[1]はじめに

 自然排尿型の腸管利用新膀胱が発表されてから,ほぼ四半世紀が過ぎようとしている。その間に新膀胱の術式もさまざまなものが報告され日々進化してきた。しかしながら,このような状況においてもHautmann法とStuder法は普遍的であり,現在最も多くの施設で施行されている。最近では,新膀胱における長期的な成績も報告されている1,2)。新膀胱作製においては手技のノウハウも蓄積され,世界的にみても大学病院レベルの病院であれば,尿路変向として新膀胱は約半数の患者に施行されているのが現状である3)。すなわち,本術式は,試行錯誤の段階から成熟の段階に入ったと言っても過言ではない。しかしながら,本術式は周術期および術後合併症のリスクは決して低くはなく2),そのため,本邦における一般病院レベルでは,いまだに回腸導管に取って代わったとは言い難い。これは,新膀胱作製の手技は理解しても,実際の周術期管理,排尿リハビリテーションを含めたアフターケアについての知見が,いまだに十分に認識されていないためではないかとも考えられる。当院では,患者の適応があれば積極的に新膀胱を施行しており,その成績は良好である4)。その際,われわれが新膀胱作製のためのポイントとしているのは,①Studer法による簡便で安定した手術手技,②コメディカルを含めたチームでの術前,術後の患者管理を標準化していることである。手術手技については,前述しているので5),本項では,われわれの周術期管理におけるその具体的な方法について述べる。

068 尿路変向術(回腸導管)

著者: 古家琢也 ,   米山高弘 ,   橋本安弘

ページ範囲:P.369 - P.371

[1]はじめに

 尿路変向術は,膀胱全摘除術や骨盤内臓全摘除術に伴って施行されるものである。その中で回腸導管は,1950年にBrickerにより提唱された方法で1),歴史が古く手術成績が安定しているなどの理由から,現在日本で最も多く施行されている2,3)。腸管(主に小腸)を利用するため,周術期の管理には細心の注意が必要である。本項では,回腸導管造設術における術前・術後管理,合併症を減らすための術中の工夫,ならびに注意すべき合併症とその対策について述べる。

069 尿失禁の手術(TVTとTOT)/骨盤臓器脱の手術(TVM)

著者: 中村聡

ページ範囲:P.372 - P.376

[1]はじめに

 尿失禁や膀胱瘤に対する治療は従来から泌尿器科診療の一分野として行われてきたが,近年,膀胱瘤は骨盤臓器脱というentityの中で,また,尿失禁の中でも特に女性の腹圧性尿失禁は骨盤臓器脱とともに女性骨盤底機能障害というentityの中で捉えられるようになってきた。すなわち,泌尿器科と産婦人科の境界領域であるfemale urologyあるいはurogynecologyと呼ばれる分野の知見が充実してきた。

 これらの疾患の診療にあたっては,この領域に関する最新の知識をもって適切な診断と適切な術式選択を行うこと,そして手術を確実に実施し得る技術を習得することが重要である。特に新たに骨盤臓器脱の手術を開始するにあたっては,自身の施設において婦人科医と良好なコミュニケーションを築いておくと診療そのものがスムーズに進められる。

 腹圧性尿失禁に対する術式,骨盤臓器脱に対する術式は従来から数多くの方法が提唱され実践されてきた。つまり,決定打といえるものがなかった,ともいえるわけである。

 本項で取り上げる「メッシュを使用した経腟的手術手技」に関しては,まず1994年にUlmstenが報告したTVT(tension-free vaginal tape)手術が,その良好な長期成績,低い侵襲などから世界的に普及し,その後のTOT(transobturator tape)手術とともに現在では「メッシュを使用した中部尿道スリング手術」は,腹圧性尿失禁に対する標準術式と認識されている。

 メッシュを使用した骨盤臓器脱の修復術についても,軟らかく感染に強いtype 1メッシュが利用可能となり,2004年のDebodinanceらによるTVM(tension-free vaginal mesh)手術の報告以来,急速に普及しつつある。一方で,特に,骨盤臓器脱に対する外科用メッシュを用いた経腟手術に関して,2011年7月13日付けで米国食品医薬局(FDA)から注意喚起の通知が発信されている。米国の実情はわが国とは異なる点を考慮する必要はあるが,推奨事項に関して注意すべきと思われる。

070 前立腺全摘除術

著者: 鈴木都史郎 ,   加藤晴朗 ,   西沢理

ページ範囲:P.377 - P.382

[1]泌尿器科診療の基本

 前立腺全摘除術は限局性前立腺癌に対する根治術である。近年,前立腺癌は増加傾向にあり,男性の悪性疾患による死亡原因としては,本邦では5番目に多い。またPSAによる検診のスクリーニングの普及に伴い,早期前立腺癌が発見される頻度が非常に高くなっている。結果的に限局性前立腺癌に対する治療として,根治術が選ばれることが多くなってきた。前立腺癌に対する治療としては,ほかにも各種放射線療法やホルモン療法があり,特に放射線療法は機器の進歩により治療成績の向上が著しい。今後,限局性前立腺癌治療の主役となる可能性もあるが,一般的な市中病院では,依然,根治的前立腺全摘除術が標準的治療である。腹腔鏡下や小切開,ロボット手術などアプローチにも進化を認めるが,詳細は他項に譲り本項では開腹下の根治的前立腺全摘除術について述べる。

071 腹腔鏡下前立腺全摘除術

著者: 今本敬 ,   川村幸治 ,   市川智彦

ページ範囲:P.383 - P.386

[1]はじめに

 1998年フランスで,最初に腹腔鏡下前立腺全摘除術の術式が確立された。本邦では,一般的には恥骨後式前立腺全摘除術が広く施行されているが,このフランスを中心に広まった腹腔鏡下手術も導入されつつある。現在では,近年の腹腔鏡手術器具の発達,解剖学的知見の集積,手技の向上などにより,経験を積んだ多くの術者が開腹術と同等,あるいはそれ以上の質の手術を行っている。

 標準的な開放手術と比較した場合の本術式の利点は,視野がよい,微細構造が拡大画像で見える,出血が少なく輸血の可能性が低い,低侵襲,視野の共有による教育が可能,などである。一方で欠点としては,ラーニングカーブが長いことが第一に挙げられる。

072 ロボット支援根治的前立腺全摘除術

著者: 権藤立男 ,   吉岡邦彦 ,   奈倉武郎 ,   内野博之 ,   橘政昭

ページ範囲:P.387 - P.393

[1]はじめに

 ロボット支援手術は,腹腔鏡下手術の欠点を克服するための多機能を組み込んだ手術用ロボットを用いた革新的な手術方法である。泌尿器科領域では,2001年にIntuitive Surgical社(Sunnyvale,CA,USA)製の手術用ロボット,daVinci® surgical systemを用いたロボット支援根治的前立腺全摘除術〔robotic-assisted radical prostatectomy:RARP〕が米国FDAの認可を受けて以来爆発的に普及した。米国では2009年に85%以上の根治的前立腺全摘除術がRARPで施行されるに至り,限局性前立腺癌に対する標準術式として完全に定着した1)。日本でも2009年にdaVinci®S surgical systemが薬事承認されて以来導入施設は増加傾向にあり,泌尿器科におけるRARP施行件数も急激に増加しつつある。RARPにおいても前立腺全摘という手技に起因した合併症に関しては従来の手術方法と同様の注意が必要であり,また周術期管理も腹腔鏡下前立腺全摘除術に準じるところが多い。RARPが他の術式と異なる点は,特殊な体位(30度頭低位)の必要性と,手術用ロボットという新たな手術器械を使用する点にある。本項では泌尿器科的ならびに麻酔科的知見からRARPにおける合併症と予防法を中心に,周術期管理に関して述べさせていただく。

073 腎盂形成術

著者: 白石晃司 ,   松山豪泰

ページ範囲:P.394 - P.398

[1]はじめに

 腎盂形成術は新生児から成人に至るまで施行される機会のある術式であるが,本項では主に小児における腎盂形成術の術前術後の管理について報告する。

 腎盂尿管移行部狭窄症(ureteropelvic junction obstruction:UPJO)に対する治療法は基本的には手術である。近年のendourologyの進歩により開放腎盂形成術のみならず鏡視下およびロボット補助下の腎盂形成も施設により盛んに行われるようになってきているが,これらの方法も開放手術と比べ遜色ない結果が報告されている1,2)。手術適応,手術法および術前・術後の管理は施設ごとに異なっており,小児専門病院のような症例数の多い施設ではクリニカルパスを用い,病棟スタッフもその管理や合併症の早期発見に慣れているが,年間数例の施設においては予想外のところに落とし穴があり,担当医自身が症例ごとに常に合併症の予防および早期発見に努めなければならない。

 本項では鏡視下手術も含め,主に開放でのAnderson-Hynes法を中心に術前,術中および術後診療のポイントについて自験例を中心に報告する。なお,aberrant vesselによる圧迫や尿管ポリープなどもあるが,便宜上UPJOとして表記する。

074 膀胱尿管逆流症防止術

著者: 鯉川弥須宏 ,   此元竜雄 ,   山口孝則

ページ範囲:P.399 - P.403

[1]泌尿器科診療の基本

 膀胱尿管逆流症は,小児泌尿器科に携わるものにとっては日常的によく遭遇する疾患の1つで,その防止術は尿路感染のコントロールや腎機能温存の目的で考慮される代表的な手術治療の1つである。逆流症防止術にはさまざまな報告があるが,open手術においての基本は,尿管に屈曲を作らないように留意しながらの十分な粘膜下トンネルの作成である。また,近年は内視鏡的な膀胱尿管逆流症防止術も小児に対して施行されるようになり好成績を示す施設もあるが,こちらの管理,処置の手順は他の機会に譲るとして,本項では通常われわれが施行している膀胱内操作のみでのCohen法によるopen手術の周術期でのベッドサイドでの処置,患者管理を中心に述べる。

075 尿道下裂に対する尿道形成術

著者: 浅沼宏 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.404 - P.410

[1]はじめに

 尿道下裂は,欧米では男児300出生に1人,本邦では2,500出生に1人の発生率と比較的頻度の高い尿路疾患である1,2)。本疾患の形態学的所見は,外尿道口の陰囊側への位置異常,包皮の分布異常に伴う腹側包皮の短縮および尿道海綿体の形成不全による陰茎の陰囊側への屈曲などを特徴とし,軽度から高度症例までさまざまである。

 尿道下裂の治療目的は,外尿道口を亀頭部に開口させ陰茎の屈曲を解消することにより尿流の良好な立位排尿と将来の性交渉を可能にすることにある。さらに最近の技術的進歩からより正常に近い外観を獲得することも求められている。よって一部の包皮の分布異常を伴わない亀頭型尿道下裂症例を除いて原則的に本疾患は手術適応と考えられる。

 尿道形成術の術式は現在までに100種類以上が報告されており,合併症の軽減や審美的形態の改善に日々努力がなされてきた。各術式の適応は議論の多いところではあるが,おおむね以下のように選択される3)

・軽度症例:tubulalized incised plate(TIP)法(図1),dorsal inlay graft(DIG)法(図2),meatoplasty and glanuloplasty incorporated(MAGPI)法(図3),Mathieu法など。

・中等度症例:TIP法,DIG法,onlay island flap法,free graft法など。

・高度症例:小柳法(図4),transverse preputial island flap法,二期的手術など。

 尿道形成術はいまだ小児泌尿器科診療の中でも最も技術と経験を要する手術である。その治療成績は術者の手術手技に起因するところが大きいが,同時に周術期の管理も極めて重要な要因となる。本項では,代表的な周術期管理指針を紹介するが,術式が多種にわたるのと同様にその術後管理方法も各施設でさまざまであることをご承知いただき参照されたい。

076 停留精巣の手術

著者: 中村繁 ,   日向泰樹 ,   川合志奈 ,   中井秀郎

ページ範囲:P.411 - P.415

[1]はじめに

 停留精巣は精巣が本来の下降経路(腹腔内・鼠径管・陰囊内)の途中で停留して陰囊内に降りていない状態であり,小児泌尿器科疾患の中で最も頻度の高い外科的疾患である。2005年に日本小児泌尿器科学会で『停留精巣診療ガイドライン』が作成されているので参照されたい1)。停留精巣ほど,解剖学的特徴から診断・手術に至るまでバリエーションが多い疾患はなく,手術方法も,オーソドックスな経鼠径式精巣固定術から2006年に保険収載された腹腔鏡下精巣固定術まである。本項では,当施設で実際に行っている停留精巣の診療について紹介し,最近の知見に基づいた停留精巣の取り扱いおよび術式に応じた術前・術後管理について説明する。

Ⅶ 付録

フリーアクセス

ページ範囲:P.417 - P.417

付録

ページ範囲:P.418 - P.430

1 国際前立腺症状スコア(IPSS)

2 過活動膀胱症状質問票(OABSS)

3 Partinノモグラム

4 国際勃起機能スコア(IIEF-5)

5 腎機能低下時の薬剤投与量の調節

6 輸血用血液製剤投与早見表

7 出血許容量を求めるノモグラム

8 日本人体表面積算出表

9 前立腺癌日本版術前ノモグラム

10 CKDの病期分類と(換算GFR値)早見表

--------------------

編集後記 フリーアクセス

ページ範囲:P.432 - P.432

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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