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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科67巻1号

2013年01月発行

雑誌目次

特集 分子標的薬時代開幕5年目を迎えた進行腎癌の治療戦略の現状と展望

企画にあたって

著者: 矢尾正祐

ページ範囲:P.11 - P.11

 進行性・転移性の腎癌治療に対して,2008年に2種類の血管新生阻害薬,「ソラフェニブ」,「スニチニブ」が本邦でも臨床導入され,分子標的薬時代の幕が切って落とされた。その後mTOR阻害薬2剤,さらにごく最近ではアキシチニブも使用可能となったが,またたくまにこの4年が過ぎ去ったという感がある。

 導入当初は欧米からさまざまな先行情報が流れ込み,多少の混乱がみられたものの,本邦の腎癌患者にこれらの薬剤を使用してみると,効果,副作用,あるいはその手ごたえといった点でかなり異なっていたというのが偽らざる実感であろう。本邦患者に対するこの間の臨床経験で,先行する4剤の個々の使いこなしは現在おおむね軌道に乗ってきたと考えられるが,次の展開として,サイトカイン時代と比べてはるかに複雑となった腎癌の集学的治療の全体構図の中で,これらにどのように組み込み,個々の患者さんに最適,最良の治療を施すことができるかという点でさまざまな課題とともに,新しいアイデアや工夫も生まれつつある。

分子標的治療時代の腎癌―病理の立場から

著者: 長嶋洋治 ,   谷口多美代 ,   黒田直人 ,   矢尾正祐

ページ範囲:P.13 - P.18

要旨 腎細胞癌は組織亜型ごとに,異なる分子生物学的異常と臨床像を呈する。2004年に改訂された腎腫瘍WHO分類では,分子生物学的事項が加味されている。2011年4月,WHO分類に準拠して改訂された『腎癌取扱い規約(第4版)』が出版された。本稿では分子標的治療との関係を視野に入れて,『腎癌取扱い規約(第4版)』における変更点を概説する。

本邦患者リスク評価とそれを踏まえた治療戦略

著者: 篠原信雄

ページ範囲:P.21 - P.25

要旨 有転移腎細胞癌の治療は分子標的療法薬の登場とともに大きく変化した。多くの分子標的薬の開発治験がIFN-αの有効性との比較によってなされ,その際にMSKCCリスク分類が用いられたため,多くのガイドラインで治療薬選択にMSKCCリスク分類が利用されている。しかし,IFN-α使用例にMSKCCリスク分類を用いた場合,日本人と欧米症例で予後に大きな差があることが明らかになり,日本人患者の治療選択にMSKCCリスク分類が本当に有効かどうか明らかではない。われわれは日本人患者を用いた検討から,新たなリスク分類,JMRC分類を開発した。今後,この分類を用いることで,臨床的に的確に予後判定が可能かどうか検証するとともに,これを用いた治療薬選択基準の作成が必要である。

サイトカインを生かす治療戦略

著者: 別納弘法 ,   釜井隆男

ページ範囲:P.27 - P.33

要旨 腎癌での細胞内シグナル伝達の解明が進み,分子標的薬の開発・臨床応用への取り組みがなされ,短期での腫瘍縮小効果や無増悪期間(PFS)の延長が報告されてきたことから,腎癌の薬物治療は,従来のサイトカイン療法から分子標的薬へと大きく舵が切られた感がある。しかし,20年以上にわたりサイトカインを使いこなしてきた経験と実績から,サイトカインの治療効果が期待できる症例群が存在しているのも事実である。今後は,サイトカインと分子標的薬の長所を生かしながら,症例を選択しつつ単独で,あるいは,併用させながら使いこなす工夫が必要になってきていると考える。そこで,日本国内から発信されているIFN-αの交替療法,IFN-αと低用量IL-2の併用療法,IFN-αと低用量sorafnibの併用療法について紹介する。

分子標的薬+手術のcombination治療戦略

著者: 近藤恒徳

ページ範囲:P.35 - P.42

要旨 転移性腎癌症例に対しては,免疫療法の時代より原発巣摘除(cytoreductive nephrectomy:CN)や転移巣摘除などの手術療法が推奨されている。分子標的薬により高い奏効率が得られる時代となったが,やはり予後延長効果は6か月程度と大きくはない。そのメリットを最大限に生かすには,免疫療法時代に確立した手術療法をうまく組み合わせていくことではないかと考えている。CNや転移巣切除も後向き研究の結果のみであるが,分子標的薬の時代でも重要な治療オプションであることが示されている。術前分子標的治療を行うということも1つの方法になる可能性はあるが,いまのところその意義は明らかとなっていない。ただ分子標的薬による全身治療を漫然と行うのではなく,常に手術療法の可能性やタイミングを念頭に置きながら薬物治療を行うことが重要であると思われる。

薬物のシークエンシャル治療,rechallengeの戦略

著者: 野澤昌弘

ページ範囲:P.45 - P.51

要旨 進行性腎細胞癌に対する分子標的薬の種類は徐々に増えてきた。それに伴い,最適な薬剤選択順序に関するエビデンスが追い付いていないのが現状である。また,薬剤の種類が増えてくると,薬剤変更のタイミングが病勢制御にとって重要な要素となってくる。すなわち,タイミングを逸すると薬剤が増えたせっかくの恩恵を受けることができなくなることも考えられるからである。Rechallengeの有効性から薬剤感受性の復活が示唆されることに基づいて,増悪の前に薬剤を変更し,薬剤をローテートして繰り返して投与するといったサイクル療法(あるいはローテーション療法)も有効なシークエンシャル治療の1つと考えられる。

―新規画像診断―イメージングバイオマーカーとしてのFDG PET/CTの可能性

著者: 中井川昇 ,   小林一樹 ,   矢尾正祐 ,   窪田吉信

ページ範囲:P.53 - P.59

要旨 われわれは癌の生物学的活性の1つの指標である糖の取り込みの状態を画像として描出するFDG PET/CTを腎細胞癌の生物学的活性を評価するimaging biomarkerと考えることによって,①個々の進行性腎細胞癌症例の生命予後の予測が可能であること,②治療開始1か月目でソラフェニブ,スニチニブといったTKIの抗腫瘍効果の判定が可能であること,③エベロリムスの効果予測ができる可能性があることを明らかにしてきたので,自験例を中心に進行性腎癌診療におけるFDG PET/CTの有用性を紹介する。

―基礎研究―FLCN/mTOR系解析からわかってきた腎癌の分子機構

著者: 蓮見壽史 ,   蓮見由紀子 ,   馬場理也

ページ範囲:P.61 - P.64

要旨 Birt-Hogg-Dubé(BHD)症候群は線維毛包腫,肺囊胞,腎細胞癌を3徴とする常染色体優性遺伝病であり,30%に嫌色素性腎細胞癌,オンコサイトーマなどからなる混成腫瘍を発生する。原因遺伝子であるFLCN(folliculin)は新規の癌抑制遺伝子であり,機能については限られたことしかわかっていない。われわれはノックアウトマウスの解析などから,FLCNがAMPK/mTORパスウェイと深くかかわり,またPGC1αを介してミトコンドリア生成を制御するなど,細胞内代謝経路において非常に重要な遺伝子であることを明らかにした。FLCNの機能,およびその欠失による細胞内代謝経路の変化を明らかにしたことは,嫌色素性腎細胞癌やオンコサイトーマの新規診断方法および治療薬の開発に役立つと思われる。

次世代の薬物療法

著者: 水野隆一 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.67 - P.72

要旨 進行性腎細胞癌に対する分子標的治療は,めまぐるしい発展をとげている。現在,治療の主なターゲットとなっているのは,VHL/HIF/VEGF経路とPI3K/Akt/mTOR経路である。現在国内で使用可能な分子標的薬は4種類で,チロシンキナーゼ阻害薬(スニチニブ,ソラフェニブ)とmTOR阻害薬(エベロリムス,テムシロリムス)に分類される。それぞれの薬剤で大規模試験による治療効果が確認されている。海外ではこれらの薬剤に加えて数種類の新規分子標的薬が使用可能,あるいは臨床試験の段階にある。進行性腎細胞癌に対する分子標的治療は常に進歩しており,常に最新の知見を取り入れていく必要がある。

効果,副作用,予後に関するバイオマーカー

著者: 湯浅健 ,   齋藤一隆 ,   藤井靖久

ページ範囲:P.75 - P.81

要旨 進行腎癌に対する分子標的治療は,癌化の原因となる“標的蛋白質”を阻害するのでなく,癌の増殖“シグナル”を抑える。標的となるシグナルは正常細胞にも必要なものであり,副作用も多く,完全寛解が少ないことにつながると考えられている。したがって,多くの症例の治療目標は副作用のマネージメントをし,QOLを保ちながら,生存期間を延長することと考えられる。本稿では,現時点で最もよく使用されているスニチニブを中心に,効果,副作用に関連するバイオマーカーについて,臨床因子,遺伝子因子,循環蛋白質や循環腫瘍細胞,そして,副作用などその他の要因に項目を分けて解説する。

知っていると役立つ泌尿器病理・10

症例:60代・女性

著者: 鹿股直樹 ,   森谷卓也

ページ範囲:P.3 - P.6

症例:60代・女性

 検診の際に施行された超音波検査で,偶然,左腎の腫瘤を指摘された。腎癌の疑いのもとに腹腔鏡下左腎摘出術が施行された。図1は割面の肉眼像,図2,3はその組織像である。

 1.病理診断は何か。

 2.鑑別診断は何か。

書評

「構造と診断―ゼロからの診断学」―岩田健太郎 著 フリーアクセス

著者: 春日武彦

ページ範囲:P.20 - P.20

 本書は,診断するという営みについて徹底的に,根源的なところまでさかのぼって考察した本である。それはすなわち医療における直感とかニュアンスとか手応えといった曖昧かつデリケートな(しかし重要極まりない)要素を「あえて」俎上に乗せることでもある。昨日の外来で,ある患者を診た際に感じた「漠然とした気まずさや躊躇」とは何であったのか。やぶ医者,残念な医者,不誠実な医者とならないように留意すべきは何なのか。どうもオレの診療は「ひと味足らない」「詰めが甘い」と不安がよぎる瞬間があったとしたら,どんなことを内省してみるべきか。本書はいたずらに思想や哲学をもてあそぶ本ではない。しっかりと地に足が着いている。極めて現実的かつ実用的な本である。そして,とても正直な本である。「ぼくら臨床医の多くはマゾヒストである。自分が痛めつけられ,苦痛にあえぎ,体力の限界まで労働することに『快感』を覚えるタイプが多い」といった「あるある」的な記述もあれば,うすうす思っていたが上手く言語化できなかった事象を誠に平易な言葉で描出してみせてくれたり,「ああ,こういうことだったんだ」と納得させてくれたり,実に充実した読書体験を提供してくれる。

 蒙を啓いてくれたことがらをいくつか記しておこう。「患者全体が醸し出す全体の雰囲気,これを前亀田総合病院総合診療・感染症科部長の西野洋先生は『ゲシュタルト』と呼んだ」「パッと見,蜂窩織炎の患者と壊死性筋膜炎の患者は違う。これが『ゲシュタルト』の違いである」。蜂窩織炎と壊死性筋膜炎,両者の局所所見はとても似ているが,予後も対応も大違いである。そこを鑑別するためにはゲシュタルトを把握する能力が求められる。わたしが働いている精神科では,例えばパーソナリティー障害には特有のオーラとか独特の違和感といったものを伴いがちだが,それを単なる印象とかヤマ勘みたいなものとして排除するのではなく,ゲシュタルトという言葉のもとに自覚的になれば,診察内容にはある種の豊かさが生まれてくるに違いない。ただし「ゲシュタルト診断は万能ではない。白血病の診断などには使いにくいだろう。繰り返すが,万能の診断プロセスは存在しない。ゲシュタルトでいける時は,いける,くらいの謙虚な主張をここではしておきたい」。

「腹腔鏡下大腸癌手術 発生からみた筋膜解剖に基づく手術手技」―加納宣康 監修/三毛牧夫 著 フリーアクセス

著者: 杉山保幸

ページ範囲:P.43 - P.43

 本書は現在のトピックスの1つである腹腔鏡下大腸癌手術の手技を解説しているので,大きなカテゴリーとしては医学書に分類されることは論をまたないが,それだけでは済まされないと感じたのは小生だけであろうか。カテゴリーを細分類すると,タイトルからは「手術手技書」となるが,よく読んでみると「腹部の臨床解剖学書」としたほうがよいともいえる。また,「消化管外科医が手術を修得するための基本的な心構え」といった教育論書でもある。さらには「大腸癌手術における覚書」といった著者自身のエッセイというように判断しても妥当かもしれない。文章の端々に著者の外科医としてのポリシーが述べられ,時には人生観も言外の意として込められているからである。

 著者が豊富な手術経験と莫大な数の論文検索を基にして得た解剖学的知識と手術手技を,初心者の立場に立って解説してあるため,非常に理解しやすい内容になっている点が本書の特徴である。すべての図がハンド・ライティングで描写されており,カラー写真が多用されている従来の手術書とは趣を異にしている。“手術記事の中の図を,下手でも自分で描けるのが真の外科医である”と駆け出しのころに恩師から教えられたことを今でも鮮明に記憶している。撮影技術の進歩で写真やビデオとして手術記録を残すことがほとんどという現況で,術中体位,ポート・鉗子の挿入図,腹腔内での操作状況,などすべてが手描きである点が,著者の“外科医魂”の現われでもある。同時に,随所で断面図を挿入して読者の三次元的な理解をアシストしているところは心憎いばかりの教育的配慮である。

「帰してはいけない外来患者」―前野哲博,松村真司 編 フリーアクセス

著者: 井村洋

ページ範囲:P.65 - P.65

 外来診療トレーニングにとって,最良の参考書が出た。一般外来向けに作られているが,ERでも応用できる。いずれの現場でも,「“帰してはいけない患者”を帰してしまう危険性をはらんでいる」からである。その危険性を下げるためには,外来診療においても,病棟診療と同様に,反復学習と教育的介入の機会が必要となる。このことを本書は強調し,それを求める学習者に向けて作成されている。

 「帰してはいけない患者を帰さない」ことは,外来診療のすべてではない。「帰してはいけない患者であっても危険を最小限に抑えて帰す」ことや,「帰してもいい患者にもしっかりケアする」こともある。それでも,あえて本書が強調していることは,十分に外来診療の教育を受ける機会がない学習者にとっては,「帰してはいけない患者」を見逃さない技能の獲得が,患者にとっても医師にとっても最優先されるということである(異議なし!)。その技能支援のため,本書は生み出された。

「CT・MRI実践の達人」―聖路加国際病院放射線科レジデント 編 フリーアクセス

著者: 渡邊祐司

ページ範囲:P.73 - P.73

 この書は,これまでのCT,MRIの解説書とは異なる全く新しいタイプの実践書である。最大の特徴は,主眼を“目的疾患ごとに最適な画像所見を引き出すための検査プロトコール”を組み立てることに置いていることである。放射線科医はもちろん検査をオーダーする他科の医師,検査オーダーを受ける診療放射線技師にとっても重宝する1冊である。

 MRやCTの機器の進歩に伴い検査内容が多彩となり,どのような検査プロトコールにすれば最も効率よく診断に適する画像を提供できるのか,困惑することがしばしばである。臨床現場では追加スキャンなどについて検査依頼医師や担当放射線技師は放射線科専門医のアドバイスを待っている時間的余裕もない。また,放射線科専門医が不足している昨今,検査時にそもそも放射線科医が不在の状況も多々あると思われる。そのような状況を打開してくれるのがこの書である。あらかじめ,症状や疾患ごとに理想的な検査プロトコールを決めておけば,診断に最適な画像情報を迷うことなく手にすることができる。

「ステップアップ内視鏡外科手術[DVD付]」―若林 剛監修/佐々木 章編 フリーアクセス

著者: 北野正剛

ページ範囲:P.82 - P.82

 このたび,岩手医科大学の若林剛教授の監修の下,佐々木章准教授が編集を行った『ステップアップ内視鏡外科手術』と題する手術書が医学書院から刊行された。消化器外科領域を中心に内視鏡外科手術を幅広く,数多く手掛けてきた同大学外科学講座の,世界をリードする腕利きの外科医たちの総力結集の著書といえる。

 1990年,腹腔鏡下胆囊摘出術がわが国にもたらされた。低侵襲治療としての内視鏡外科手術の夜明けであった。以来,この20年余りの間に,内視鏡外科手術は「低侵襲性手術」としてのカテゴリーを確立しながら急速に普及し,その適応は,良性疾患はもちろん早期がんから進行がんへと拡大されてきた。さらに,内視鏡外科手術の対象は胆囊,大腸,胃にとどまらず,肝・膵・脾,乳腺・内分泌,高度肥満などへ広がり,単孔式腹腔鏡下手術やNOTES(経管腔的内視鏡手術),内視鏡手術支援ロボットも登場してきた。この目覚ましい手術革命は,「体に優しい」手術が,国民の福祉に貢献し,社会が求めているためにほかならない。

学会印象記

「第30回世界泌尿器内視鏡学会(WCE 2012)」学会印象記

著者: 川喜田睦司

ページ範囲:P.86 - P.87

 昨年,京都で開催されたWorld Congress of Endourology(会長:松田公志関西医大教授)が,今年はトルコのイスタンブールで9月4日~8日まで開催された(会長:Prof. Ali Riza Kural, Istanbul Acibadem University)。

 トルコ航空を使って関空を9月2日の深夜に発ち,3日未明にイスタンブールに到着したので,寝ている間に着いたという感じで比較的楽なフライトであった。空港から車に乗せられて高速道路に入ると,わきの土手には芝の上に草花や木がアレンジされ,美しくデコレーションされていた。しばらくすると,高速を出て坂を下ったところで急に視界が開けて,朝焼けに照らされたいくつかの高い塔とドーム型の建物が目に飛び込んできた。アヤソフィア,トプカム宮殿,ブルーモスク(図1)と思われる。カメラを構えている間に車は大きな川(金角湾)を渡っていた。ガラタ橋である。テレビでは橋の両側で多くの人が釣りをしているのをみたが,早朝のためかほとんど人はいなかった。橋を渡ったとたんに渋滞に巻き込まれた。やたらに車が多い。旧市街と新市街を結ぶ交通機関は,ガラタ橋を渡る路面電車(トラム)しかないのも問題と思われる。坂が多く路が入り組んでいるのも要因かもしれない。坂が多くて海がみえる風景は神戸を思わせる。

「米国小児アカデミー」Urology section学会参加印象記

著者: 白石晃司

ページ範囲:P.88 - P.89

 2012年10月20日~22日の3日間,ルイジアナ州ニューオリンズで開催されたAmerican Academy of Pediatrics(AAP)National Conference and ExhibitionのUrology sectio(俗にいうAAP)に参加しました。小児科一般から小児外科はもちろん,小児精神科や小児看護まで含めた,まさに小児科関係の学会の大殿堂です。Pediatric urologistにとっては最高峰の学会であることは有名ですが,一般泌尿器科医にとっては馴染みの薄い学会です。

 Journal of Urology(JU)10月号のsupplementに,人とメダルの写真が表紙を飾っているのをみたことのある先生はいらっしゃると思いますが,AAPのoralで発表された演題の約3~4割のpaperがそのsupplementにpublishされ,JUの一般的な採択率よりは若干高いですが,AAP自体の採択率が20~30%ですので結果的には非常に厳選された論文が載っていることになります。朝から晩まで聞いても時差ボケも吹っ飛ぶぐらいの演題ばかりでして,観光をしている暇はありませんでした。学会場はErnst N. Memorial Convention Centerと隣接するヒルトンで,徒歩圏内にBurbon streetに代表されるフレンチクウォーター地区があり,宿泊や食事が効率的に行える立地でした(図1)。この会場は横長で約500mあり,さらに東のHilton側に増築する工事が行われていました。Urology sectionの参加者は約400人ということでした。

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.9 - P.9

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.93 - P.93

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.94 - P.94

編集後記 フリーアクセス

著者: 藤岡知昭

ページ範囲:P.96 - P.96

 本邦の進行腎癌に対する標準治療は, 従来,IFN-αやIL-2などのサイトカイン療法でしたが,2008年以降,臨床現場にあいつぐ分子標的薬が登場したことにより,大きく変貌しています。今月号では,横浜市立大・矢尾正祐先生に特集「分子標的薬時代開幕5年目を迎えた進行腎癌の治療戦略の現状と展望」の企画を執筆者の選択を含めてお願いしました。本特集では腎癌の病理,患者のリスク分類,分子標的薬とサイトカイン療法との共存や手術療法への応用,分子標的薬の選択順位,画像検査・バイオマーカー,さらには次世代分子標的薬とよく練られた構成になっています。

 最初に高知赤十字病院病理診断部・長嶋洋治先生らに分子標的薬治療との関係を視野に入れて「腎癌取扱い規約(第4版)」における変更点を概説し,今後の検討課題を挙げていただきました。北海道大学・篠原信雄先生には,日本人にMSKCC分類やHengのリスク分類を適応した場合の問題点の指摘とともに,独自に自施設の症例解析により開発したJMRC分類を紹介することで薬剤選択の指標となる患者リスク評価について解説していただきました。独協医科大学・別納弘法,釜井隆男両先生には,IFN-αの交替療法,IFN-α+IL-2とIFN-α+sorafenibの併用療法のサイトカインを生かす治療戦略の可能性について,東京女子医大の近藤恒徳先生には,分子標的薬と手術との併用戦略の有効性と限界を,さらに近畿大学・野澤昌弘先生には,分子標的薬の逐次交代療法と不応後の再投与の有効性と症例選択についてそれぞれ解説していただきました。また,横浜市立大学・中井川昇先生らには,FDG PET/CT画像診断が分子標的薬の効果判定や効果予測に有用であることを紹介してもらいました。がん研有明病院・湯浅健先生らにはスニチニブを中心に,効果,副作用を予測する臨床因子,遺伝子因子,循環蛋白質・細胞について。NCIの蓮見壽史先生らには,BHD症候群の原因遺伝子であるFLCNの機能や細胞内代謝経路の変化の解析は嫌色素性腎癌やオンコサイトーマの新規診断方法や治療薬開発に役立つという興味深い知見を解説していただきました。さらに,慶應義塾大学・水野隆一,大家基嗣両先生には,パゾパニブ,アキシチニブ,ドビチニブ,チボザニブの次世代の薬物療法の解説と,分子標的薬は常に進歩しており,最新の治験を取り入れる重要性を指摘していただきました。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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