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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科67巻13号

2013年12月発行

雑誌目次

特集 アンチエイジング医学と泌尿器科

企画にあたって

著者: 堀江重郎

ページ範囲:P.1017 - P.1017

 抗加齢医学(アンチエイジング医学)とは,加齢という生物学的プロセスに介入を行い,加齢に関連する疾患の発症確率を下げ,健康長寿をめざす医学である。

 抗加齢医学が注目されてきた背景には,まず加齢のサイエンスが進み,細胞生物学的なプロセスの1つとして介入の可能性があることがわかってきたことが大きい。ヒトの最大寿命は染色体のテロメアから算出すると120年ほどといわれている。しかし,われわれが実際に死亡する年齢は残念ながらずっと若い。この「期待寿命」の達成を阻むものが老化因子と考えられ,1つの要因として酸化ストレス仮説が,エビデンスの存在するサイエンスとして認識されつつある。酸化ストレスは活性酸素によるタンパク質,核酸,脂質など生体成分への酸化修飾であり,その結果として種々の臓器機能障害が惹起される。この酸化ストレスの代謝プロセスに介入することによって臓器障害を予防し,健康長寿に貢献できる可能性がある。

抗加齢医学が指向するもの―抗加齢医学とはなにか

著者: 川島素子 ,   坪田一男

ページ範囲:P.1019 - P.1022

要旨 日本の医療費は37兆円に達し,病気になってから治療するというこれまでの対策だけでは国民の健康はもとより経済をも維持できないことは明白であり,予防医学への注目がますます高まっている。なかでも加齢に焦点をあてた抗加齢医学(アンチエイジング医学)は,超高齢社会を迎える日本にとって最も期待されるアプローチといっても過言ではない。“サイエンスをベースにアンチエイジングの医学を楽しくごきげんに学ぶ! 実践する!”というアンチエイジング医学が日本の未来社会にとって非常に大きな価値を持つものと認識し,加齢という生物学的プロセスに科学的根拠のもと,積極的・予防的に介入して,「健康長寿」を実現することを目指す。

酸化ストレスと健康長寿

著者: 清水孝彦

ページ範囲:P.1023 - P.1034

要旨 酸化-抗酸化バランス破綻による酸化ストレス蓄積が健康障害の要因になることが示唆されている。生理的な酸素代謝で生じた活性酸素の基点物質スーパーオキサイド(O2・-)は,superoxide dismutase(SOD)の触媒作用ですみやかに処理される。細胞内には,細胞質にSOD1が,ミトコンドリアマトリクス内にSOD2がそれぞれ局在化している。本稿では,それぞれの抗酸化酵素SODの遺伝子欠損マウスの解析から,in vivoでの酸化-抗酸化バランス破綻の病態への影響と,抗酸化剤による健康障害抑制の実例を紹介する。

サプリメントとアンチエイジング

著者: 米井嘉一

ページ範囲:P.1035 - P.1041

要旨 抗加齢医学(アンチエイジング医学)は生活の質を高め,積極的に健康長寿を目指すための予防医学である。身体の機能年齢(筋年齢,血管年齢,神経年齢,ホルモン年齢,骨年齢)と老化を促進する危険因子(酸化ストレス,糖化ストレス,心身ストレス,免疫ストレス,生活習慣)を評価したうえで,危険因子を是正し,機能年齢の老化予防と若返りを目指す。療法は精神療法(知育),運動療法(体育),食事療法(食育)を基本とし,サプリメント療法は食事療法に位置付けられる。サプリメント療法については,抗加齢医学の観点から同じ土俵のうえでの評価を行い,医学的証拠を積み上げてゆく必要がある。

テストステロンのアンチエイジング作用

著者: 秋下雅弘

ページ範囲:P.1043 - P.1048

要旨 中高年男性におけるテストステロン分泌の低下は,加齢に伴って増加するメタボリックシンドロームや心血管病,さらに認知症や虚弱化の要因となることが疫学的研究からわかった。また,体脂肪減少-筋肉量増加,認知機能改善効果など,まだ限定的で少数例の検討ではあるが,テストステロン補充療法の効果も報告されるようになった。テストステロンの抗老化作用についても細胞や動物モデルを用いた基礎研究の成果が出つつあり,テストステロン研究の進展が待たれる。

腎臓のアンチエイジング

著者: 吉田舞 ,   森建文 ,   伊藤貞嘉

ページ範囲:P.1049 - P.1054

要旨 エイジングは腎にとっても避けられず,それには腎血流の低下や酸化ストレスの亢進,糖化ストレスの亢進が複合的に寄与するとともに,高血圧や糖尿病といった生活習慣病が重なると腎への負荷はさらに大きくなる。そのため生活習慣病や酸化ストレス,糖化ストレスをコントロールすることによって腎を保護することがアンチエイジングにつながり,近年では薬物治療の検討などが進められている。

下部尿路症状のアンチエイジング

著者: 今井篤 ,   大山力

ページ範囲:P.1055 - P.1060

要旨 青森県弘前市岩木町で展開されている「岩木町健康増進プロジェクト」において実施された下部尿路症状,性機能,馬尾症状などに関する調査データに基づいて,下部尿路症状のアンチエイジングについて考察した。動脈硬化,心不全,性ホルモンの低下,低栄養,酸化ストレスなど加齢に伴うさまざまな要因が複雑に関与して,下部尿路症状や性機能障害の原因になっていることが推測される。おのおのの障害が混在してエイジングという表現型を呈しているため,心身全体のアンチエイジングを目指した総合的対策が必要であると思われた。

前立腺のアンチエイジングと癌予防

著者: 井手久満 ,   堀江重郎

ページ範囲:P.1061 - P.1066

要旨 日本における前立腺癌の罹患率は急速に増加している。前立腺癌の発生には人種,遺伝,食事,炎症などの関与が示唆されている。さらに最近の新しい知見から,前立腺癌の予防における食事・運動の重要性が再認識されている。実際,豆類などのポリフェノールを含む食事摂取が,アジアにおける前立腺癌発症率の低さに関与している。これらの疫学的データを踏まえて,近年,大豆イソフラボン,茶カテキン,リコピン,クルクミンなどのサプリメントによる前立腺癌発症予防が注目されてきている。われわれの検討では,イソフラボンやクルクミンは癌の進展を抑制するDNA damage responseを活性化し,前立腺におけるアンドロゲンシグナルを抑制した。これらのサプリメントを用いた臨床治験の結果から,前立腺癌予防の可能性が期待される。

精巣・精子のアンチエイジング

著者: 小堀善友 ,   岡田弘

ページ範囲:P.1067 - P.1071

要旨 近年,マスコミにより卵子の老化が指摘され,加齢による女性の妊孕力低下が一般的に周知されてきている。また,不妊症の原因として男性側の因子があることが報道される機会が増えた影響もあり,男性不妊症外来を受診する患者も増加している。患者の特徴として,徐々に初診患者の年齢が高齢化しているという現状がある。本稿では,精子形成の加齢変化と精子機能の加齢変化について概説する。精子形成の加齢変化は,精子運動率と精液量の減少として現れてくる。また,酸化ストレスによる精子DNA断片化がまねく受精率の低下も指摘されている。さらに,精子の加齢変化の予防・若返りにつながる方策についても,言及したい。

勃起のアンチエイジング

著者: 永井敦

ページ範囲:P.1073 - P.1077

要旨 ED(erectile dysfunction)は心血管疾患の予測因子であり,勃起の維持が将来の心血管疾患発症の予防につながるといわれている。EDのリスクファクターには高血圧,糖尿病,高脂血症などさまざまな疾患があり,これらの因子の排除と治療がアンチエイジングに重要である。さらにPDE5阻害薬の定期的服用,テストステロン補充,適度な運動,良好な睡眠の確保,そして意識的な視聴覚的性的刺激もアンチエイジングに重要な要素である。勃起を維持し,良好なカップル関係を構築しつつ,アンチエイジングを実践するということが大切である。

アンチエイジング手術―QOLを改善するレーザー前立腺肥大症手術

著者: 斎藤恵介

ページ範囲:P.1079 - P.1088

要旨 前立腺肥大症に対する最新レーザー手術を紹介する。今回われわれは,レーザー手術の1つであるHoLEP(holmium YAG Leaser enucleation of prostate)に関して術前術後に排尿症状のみならず,蓄尿症状も改善していることに注目した。蓄尿スコア(IPSS蓄尿スコア・OABSS)・膀胱血流測定を測定し検討した。また,外来診療で感じる前立腺肥大症術後の患者の生活全般の身体・精神活動の向上に対しその解を求めるため,総テストステロン値・更年期アンケート(AMSスコア)・IIEF5などを検討しHoLEPがアンチエイジング手術となりうるかを検討した。

ドライシンドロームと下部尿路症状―ドライアイ,ドライマウスとLOH症候群

著者: 久末伸一 ,   堀江重郎

ページ範囲:P.1089 - P.1093

要旨 ドライマウス(口の渇き),ドライアイ(目の乾き),ドライスキン(肌の乾き),ドライバジャイナ(腟の乾き)などを総称してわが国では「ドライシンドローム」と名付け,加齢に伴った乾燥症候群として包括的に研究,治療を行おうという動きが出てきている。泌尿器科における加齢に伴う疾患として,下部尿路症状や男性においてはテストステロン低下による加齢男性性腺機能低下症などが挙げられる。ドライシンドロームのうち,ドライアイとドライマウスは以前よりアンドロゲン(男性ホルモン)との関連が指摘されている。今回,われわれはドライアイとドライマウスが下部尿路症状と関連するかどうかについて検討を行い,その発症メカニズムについて新たな知見を得た。本稿ではドライシンドロームの概論と下部尿路症状,テストステロンとの関連について述べる。

知っていると役立つ泌尿器病理・21

症例:70代・男性

著者: 清水道生

ページ範囲:P.1009 - P.1012

症例:70代・男性

 最近になり,排尿障害が出現し,前立腺肥大症(BPH)と診断された。今回,経尿道的前立腺切除術(TUR-P)が施行され,図1~3に示す偶発病変(HE染色)が認められた。

 1.診断名は何か。

 2.この病変の意義について述べよ。

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1015 - P.1015

お知らせ 千里ライフサイエンスセミナーE5「生命科学・医薬研究を拓くマイクロRNAの研究最前線」 フリーアクセス

ページ範囲:P.1094 - P.1094

1.日時・場所

 2014年2月21日(金) 10:00~17:00

 千里ライフサイエンスセンタービル 5Fライフホール

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1095 - P.1095

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.1098 - P.1098

著作権譲渡同意書 フリーアクセス

ページ範囲:P.1099 - P.1099

編集後記 フリーアクセス

著者: 郡健二郎

ページ範囲:P.1100 - P.1100

 第27回日本泌尿器内視鏡学会総会を私たちの教室主催で開かせていただきました。

 本学会は,約30年前,ESWLがわが国に導入されたことを契機に,日本EE学会として発足され,その後,ラパロ手術やロボット手術などの発達に伴い名称が変更されました。この30年間に,新しい医療機器や先端技術が次々に生まれ,泌尿器科学の発展を支えてきました。それらの中には,すでに医療の現場から消えているものが少なくありません。今,隆盛をきわめる腹腔鏡手術やロボット支援下手術も同様で,これからどのような推移をたどるのか,誰も断言できません。これらのことを踏まえ,本総会のメインテーマを「内視鏡戦国時代~理想の医療を求めて~」とし,これからの泌尿器科における内視鏡医療を考える機会を持ちました。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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