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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科67巻4号

2013年04月発行

雑誌目次

特集 泌尿器科診療ベストNAVI

企画・編集にあたって

著者: 郡健二郎

ページ範囲:P.3 - P.3

 本誌では,泌尿器科学会総会に合わせて「特集号」を発行しています。例年,特集号は好評で,多くの方に読んでいただいています。心より厚くお礼申し上げます。

 まず始めに編集・企画の舞台裏をご紹介します。発行が無事終わると,次年度の企画に入ります。まずテーマは5,6挙がりますが,最終的な絞り込みは次のような点を考慮します。泌尿器科の診療の中で,最近どのような進展がみられ,読者の関心事は何かということです。テーマが決まれば,限られた紙面の中で項目を列挙します。執筆者への依頼は,専門性を考え,地域性と所属機関,特に市中病院の先生を多く依頼するようにしています。学会や雑誌で活躍されている新進気鋭の方々を中心としますが,時に期待を裏切られることがあります。そのときは,加筆・修正をお願いすることになりますが,原稿期限を大幅に超える先生を含め,良くない印象が残ってしまいます。

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ページ範囲:P.5 - P.5

Ⅰ 症状・徴候からのアプローチ

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ページ範囲:P.15 - P.15

排尿に関する症状

001 排尿痛

著者: 加藤久美子 ,   鈴木省治

ページ範囲:P.16 - P.18

1 定 義

 排尿痛は排尿時に痛みを伴うことをいう。膀胱,尿道,前立腺の炎症が原因となる場合が最も多いが,膀胱,尿道,尿管下端の結石,膀胱・尿道異物,膀胱癌(特に上皮内癌),尿道癌,前立腺癌といった悪性腫瘍,前立腺肥大症,尿道狭窄などによる通過障害,膀胱腸瘻,膀胱子宮瘻などの瘻孔,また子宮内膜症,子宮筋腫,尿道カルンクルなども原因となり得る。近年,ガイドライン(図1)1)が作成され重要性が指摘される間質性膀胱炎も,特徴的といわれる蓄尿時膀胱痛,頻尿,尿意亢進のほかに,排尿痛を症状に持つことがある。

 排尿痛は,初期排尿痛,終末時排尿痛,全排尿痛にタイプ分けされる2)。初期排尿痛は,尿道炎,特に前部尿道に炎症がある際に起こる。尿道狭窄,尿道結石,前立腺炎などでもある。終末時排尿痛は,膀胱頸部から後部尿道に炎症がある際に起こると考えられる。頻尿や残尿感を伴って膀胱炎,前立腺炎でよくみられる。下部尿管結石,膀胱結石,膀胱癌でも起こる。全排尿痛は,膀胱,尿道の全体的な炎症を示唆し,膀胱・尿道結石,膀胱・尿道異物,膀胱癌などでみられる。

002 頻 尿

著者: 加藤久美子 ,   鈴木省治

ページ範囲:P.19 - P.20

1 定 義

 国際禁制学会(ICS)の用語基準によれば1),increased daytime frequency(昼間頻尿)とは,日中の排尿回数が多すぎるという患者の愁訴である。また,nocturia(夜間頻尿)とは,夜間に排尿のために1回以上起きなければならないという愁訴とされている。

 『過活動膀胱診療ガイドライン』2)は,便宜的に頻尿を回数(例えば1日8回以上)で定めることがあるとしている。また,夜間頻尿を1回で定義するとあまりに頻度が高いため,臨床的に2回以上が問題との記述がある3)。頻尿の診療は,問題となる原因疾患がなければ,本人または介護者が治療を希望していることが前提となる。

003 排尿困難

著者: 加藤久美子 ,   鈴木省治

ページ範囲:P.21 - P.24

1 定 義

 国際禁制学会(ICS)の用語基準では,下部尿路症状を蓄尿症状,排尿症状,排尿後症状に分類している1)。排尿困難は定義されていないが,排尿症状と排尿後症状を指すと思われる。

 排尿症状は,slow stream(尿勢低下),splitting or spraying(尿線分割,尿線散乱),intermittent stream(尿線途絶),hesitancy(排尿遅延),straining(腹圧排尿),terminal dribble(終末滴下)を含む。排尿後症状は,feeling of incomplete emptying(残尿感)とpost micturition dribble(排尿後尿滴下)からなる。

004 尿 閉

著者: 相川健 ,   胡口智之

ページ範囲:P.25 - P.27

1 定 義

 尿閉とは膀胱に尿が多量に溜まっていても排泄できない状態である。国際禁制学会によると,急性尿閉は尿をまったく排出できず膀胱痛が強く触診や打診で膀胱がわかる状態である。一方,慢性尿閉は膀胱痛はなく排尿後に触診や打診で膀胱がわかる状態であり,このような患者では尿失禁がみられることがある1)

 尿閉は前立腺肥大を伴う中高年男性に多い。海外の疫学研究の報告では,40~79歳の一般男性2,115名を50か月間経過観察すると,尿閉は1年間で千人あたり6.8回認められた。高年齢,国際前立腺症状スコア(IPSS)が重症,前立腺体積が30mlより大きいなどが尿閉発症の危険因子と報告されている2)

005 尿失禁

著者: 相川健

ページ範囲:P.28 - P.30

1 定 義

 尿失禁とは,国際禁制学会によると自分の意思と関係なく不随意に尿が漏れるという訴えである。尿失禁はその症状発現時の状況でいくつかのタイプに分類される1)

006 二段排尿

著者: 相川健 ,   佐藤雄一

ページ範囲:P.31 - P.33

1 定 義

 二段排尿とは一度排尿が終了した後,間もなく尿意を感じて再び排尿することである。下部尿路症状の排尿症状の1つ,尿線途絶とは別のものである。一般的には大きな膀胱憩室(図1)や膀胱尿管逆流で高度の水腎・水尿管の合併例で認められると考えられる。排尿終了後,膀胱が空になり低圧になると憩室,あるいは逆流した腎盂・尿管内の尿が膀胱に流入して尿意を感じ,2回目の排尿をする(図2)。

007 尿線の異常

著者: 野口満 ,   東武昇平 ,   魚住二郎

ページ範囲:P.34 - P.35

1 定 義

 正常な排尿は,排尿の決断後すぐに特別な努力なく,太い尿線で尿が連続的に放出される。これが短時間で残尿なく終了する。排尿障害の症状の1つとして尿線の異常1)(表1)が出現する。尿線異常には尿勢低下,尿線分割・散乱,尿線途絶,終末滴下がある。さらに,尿勢低下を補うための腹圧排尿も広義の尿線異常と捉えられる。

 尿勢低下は,前立腺肥大症,尿道狭窄などの膀胱出口部閉塞(bladder outlet obstruction:BOO),あるいは排尿筋収縮不全や尿道括約筋弛緩不全,排尿筋尿道括約筋協調不全などの神経因性膀胱でみられる。尿線分割・散乱は外尿道口の狭窄・奇形,船状窩内の結石,腫瘍などが原因として挙げられるが,包皮による外尿道口の閉塞,すなわち包茎でみられることも多い。尿線途絶は膀胱結石,膀胱内凝血,膀胱頸部付近に生じた有茎性腫瘍などが原因で,これらが排尿中に尿道を閉塞することにより起こる。

008 遺尿症

著者: 野口満 ,   東武昇平 ,   魚住二郎

ページ範囲:P.36 - P.37

1 定 義

 遺尿症(enuresis)は,International Children's Continence Society(ICCS)により「睡眠中の間欠的な尿漏れ」と定義され1),夜間尿失禁(nocturnal incontinence),夜尿症と同義である。昼間の尿失禁は遺尿症でなく昼間尿失禁と表現される。昼間尿失禁(daytime incontinence)やほかの排尿症状を伴わない夜間尿失禁を単一症候性遺尿症(monosymptomatic enuresis:MNE),昼間尿失禁,切迫性尿意など,ほかの下部尿路症状を伴うものを非単一症候性遺尿症(nonmonosymptomatic enuresis:NMNE)として病態を区別している。また,夜間尿失禁のない期間が6か月未満を一次性遺尿症(primary enuresis),6か月以上夜間尿失禁を認めない後に,夜間尿失禁が再度出現したものを二次性遺尿症(secondary enuresis)と定義している。

尿の色調・性状の異常

009 膿 尿

著者: 橋本次朗 ,   高橋聡

ページ範囲:P.38 - P.39

1 定 義

 尿中に白血球が排泄されている状態であり,尿路に感染や炎症を有するサインとなる。『尿路性器感染症に関する臨床試験実施のためのガイドライン』による本邦での尿路感染症における膿尿の定義は,尿沈渣鏡検では≧5WBCs/HPF,非遠心尿を用いた評価法ではフローサイトメトリー法(≧10WBCs/μl)もしくは計算盤法(≧10WBCs/mm3)などとされている(表1)1)

010 混濁尿

著者: 橋本次朗 ,   高橋聡

ページ範囲:P.40 - P.41

1 定 義

 正常尿は透明であるが,放置しておくとリン酸塩などが析出し混濁することもあり,尿混濁が必ずしも病的とはいえない。尿混濁を起こす原因物質で最も多いのはリン酸塩で,そのほかに,膿尿,乳び尿,高シュウ酸尿などでも認められる(表1)1)

011 血 尿

著者: 橋本次朗 ,   高橋聡

ページ範囲:P.42 - P.43

1 定 義

 健康診断の試験紙法で18歳以上の男性の3.5%,女性の12.3%が尿潜血陽性を指摘され,年齢とともにその率が上昇する1)。一方,泌尿器科外来において,血尿を主訴に受診する患者は全受診患者の12~15%とされる2)

 血尿は目視可能か,尿潜血反応あるいは鏡検で検出されるかで肉眼的血尿と顕微鏡的血尿に分けられ,自覚症状の有無で症候性と無症候性に分けられる。また,排尿のどの段階で血尿が出たかによって,排尿初期血尿と終末時血尿に分類される。

尿量の異常

012 多 尿(polyuria)

著者: 佐藤両 ,   岡田弘

ページ範囲:P.44 - P.46

1 定 義

 飲水量や食事から摂取する水分によって変動が大きく,健常者の一日尿量は500~2,000mlである。多尿(polyuria)の診断基準は24時間尿量が40ml/kg以上とされている。体重50kgの人で2,000ml/日という計算になる。体重を加味しない場合は,一日尿量が3,000ml以上を多尿としている。

 特殊な病態を表す用語に「夜間多尿(nocturnal polyuria)」がある。これは24時間総排尿量のうち,夜間(就寝中の8時間)の割合が多い場合をいう。具体的には,夜間多尿指数(NPi=夜間尿量/24時間尿量)が高齢者で0.33,若年者で0.20以上を夜間多尿と定義している。ただし,夜間多尿は必ずしも多尿ではないので,間違わないようにしたい。

013 乏尿(oliguria)・無尿(anuria)

著者: 佐藤両 ,   岡田弘

ページ範囲:P.47 - P.49

1 定 義

 乏尿とは,1日の尿量が400ml以下のことを指す。この数値は人が1日に尿に排泄する溶質量と,腎の最大濃縮力から求められる必要最少量の尿量であり,これ以下の尿量が続くと体内に不要溶質(窒素)が蓄積される。

 無尿とは,1日の尿量が100ml以下と定義され,乏尿と区別されているが,その病態はほとんど変わらないため,乏尿と併せて記載する。

腫瘤

014 腹部腫瘤

著者: 亭島淳

ページ範囲:P.50 - P.51

1 はじめに

 泌尿器科で扱う臓器に起因する腹部腫瘤は,その部位により側腹部腫瘤と下腹部腫瘤に分類される(表1)1)

015 陰囊内腫瘤

著者: 亭島淳

ページ範囲:P.52 - P.53

1 はじめに

 精巣,精巣上体,精索,陰囊皮下に発生する陰囊内疾患の多くは腫瘤を形成する(表1)1)。陰囊内の腫瘤は,多くの場合小さなサイズでも体表から触知可能である。

外陰部の症候

016 尿道分泌物

著者: 磯谷周治

ページ範囲:P.54 - P.55

1 定 義

 尿道分泌物は尿道より分泌される液状の分泌物で,分泌物は陰茎背部を尿道に沿って根部から外尿道口の方向に押し出すようにすることで確認することが可能である。透明漿液性のものから,粘液性,膿性までさまざまな性状が観察される。異常な尿道分泌物の出現は尿道炎によって引き起こされることが多く,若年男性では性感染症が原因となることが多い。原因となる病原菌はウイルスから原虫まで多岐にわたることが知られているが,淋菌とクラミジアを病因とするものが臨床的に重要である。すなわち,①淋菌性尿道炎,②非淋菌性尿道炎(クラミジア性尿道炎を主とするSTD),③淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎の混合感染,④上記以外の尿道感染症に分類される。

017 性器発育異常

著者: 佐藤裕之

ページ範囲:P.56 - P.58

1 定 義

 性器発育異常は,成人では性器の発育障害・異常であるが,小児ではこれに加え性徴の遅滞も含まれ,この違いは区別が難しい場合も多い。男性の場合,内性器である精巣も触知可能なため発育異常を鑑別しやすいが,女性の場合は陰核・陰唇・腟口の状態しか確認できず,内性器の評価は画像や内視鏡・腹腔鏡を用いて専門的に行う必要がある。泌尿器科医が携わる性器発育異常は多くは男性で,陰茎・陰囊発育,精巣発育異常が主体であり,女性は小児期の外陰部形態異常以外は婦人科領域となるため,本項では割愛する。

疼痛

018 仙痛発作

著者: 磯谷周治

ページ範囲:P.59 - P.61

1 定 義

 日常診療において,腰背部の仙痛発作はよく遭遇する症候の1つである。仙痛発作とは,突発的に始まり強さを増し,やがて徐々に軽減し消失する痛みと定義される。痛みの位置は病変部位と同じであることが多いが,稀に放散痛として他部位に痛みを認めることもある。仙痛は大きく分けて,胃仙痛(gastric colic pain),胆道仙痛(biliary colic pain),腸仙痛(intestinal colic pain),腎仙痛(nephric colic pain),子宮仙痛(uterine colic pain)などに分類され,それぞれ病変部位に対応した痛みの場所が存在する1~3)。管腔臓器の攣縮(特に平滑筋壁)が仙痛の原因とされ,痛みの程度は非常に強く,尿管結石の場合は「背中を,焼け火箸で刺されたような」と形容される痛みが代表的である。本稿では腰部の仙痛発作をきたす疾患のうち,特に尿管結石について腎泌尿器科系の診断の進め方と初期治療を解説する。

性機能障害

019 男性不妊症

著者: 小谷俊一

ページ範囲:P.62 - P.64

1 定義と病因

 通常の性生活を2年間営んでも子供に恵まれない状態が不妊症であるが,この中で男性側に原因のある場合を男性不妊症と呼んでいる。不妊カップルは夫婦の10組に1組発生し,さらにその約半数は男性側に原因があるとされていることより1),男性不妊症の患者は相当数潜在していることが予想される。男性不妊症の原因としては,①造精機能障害(81%),②精路通過障害(14%),③性機能障害(5%)の3大要因がある2)。造精機能障害は,その約半数が原因不明(特発性),30%が精索静脈瘤,そのほかに染色体異常,停留精巣,内分泌障害などがある3)。精路通過障害には鼠径ヘルニア術後,精管切断術後,精巣上体炎後の炎症性閉塞,先天性精管欠損,ヤング症候群などがある3)。性機能障害には勃起障害,射精障害,性欲低下などがある2)

020 勃起・射精障害

著者: 小谷俊一

ページ範囲:P.65 - P.67

1 定 義

1.勃起障害(erectile dysfunction:以下,ED)

 満足な性交を行うのに十分な勃起が得られない,または(and/or)維持できない状態である1)。原因の約50%は心因性(または精神疾患)で,残る50%が器質性である。器質性の原因として,生活習慣病(高血圧,高脂血症,糖尿病,虚血性心疾患など),神経疾患(脳血管障害,脊髄損傷など),内分泌疾患(加齢男性性腺機能低下症など),薬剤副作用(向精神薬,前立腺肥大治療薬,前立腺癌治療薬),骨盤内悪性腫瘍術後(膀胱癌,前立腺癌,直腸癌など),陰茎疾患(陰茎彎曲症,ペロニー病など)といった多様な疾患が存在する。

Ⅱ 疾患・病態の診療

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ページ範囲:P.69 - P.69

1 先天性疾患および小児泌尿器科疾患 腎および腎盂の先天異常

021 単純性腎囊胞

著者: 西松寛明 ,   本間之夫

ページ範囲:P.70 - P.71

1 概念・病因

 単純性腎囊胞は後天性の良性病変で,囊胞壁細胞から悪性腫瘍が発生することは稀であり,その発生や増大のメカニズムといった病因はいまだ不明な点が多い。無症状で悪性腫瘍との鑑別がついていれば,通常は経過観察されることがほとんどである。

022 囊胞腎

著者: 西松寛明 ,   本間之夫

ページ範囲:P.72 - P.73

1 概念・病因

 腎の囊胞は尿細管の拡張から始まる。一方,尿細管の上皮にはcilia(繊毛)と呼ばれる細胞外小器官が存在する。近年,遺伝性の囊胞性腎疾患の原因遺伝子がつぎつぎに同定されていく中で,それらの分子が尿細管のciliaに局在することが明らかにされ,囊胞性腎疾患の発症機序においてciliaが注目を浴びるようになった1)。腎臓に囊胞を形成する疾患は,遺伝性と後天性の囊胞に分かれるが,原因や病態はさまざまである。本項では,遺伝性の囊胞性腎疾患のみを取り上げる。

023 重複腎盂尿管

著者: 西松寛明 ,   本間之夫

ページ範囲:P.74 - P.75

1 概念・病因

 腎盂が上下に分かれ,腎盂からそれぞれの尿管が走行するものを重複腎盂尿管と呼び,約125人に1人の割合で認められる。男女差や左右差はないとされている。膀胱への開口がそれぞれ別々であれば完全重複,2本の尿管が走行途中で1本になり膀胱開口が1か所であるときには不完全重複と呼ぶ。完全重複では上半腎の尿管は下半腎のそれよりも膀胱頸部近くに開口し(Weigert-Meyerの法則:図1参照),異所開口や尿管瘤を形成しやすい。一方で下半腎からの尿管は逆流を起こしやすいとされる1)。また馬蹄腎の10%は重複腎盂尿管を認める。

024 海綿腎

著者: 本間澄恵

ページ範囲:P.76 - P.77

1 概念・病因

 囊胞性腎疾患の中で,腎髄質に囊胞形成するものについて述べることとする。

 1945年にSmithとGrahamが報告した髄質囊胞腎(medullary cyatic kidney)に,後の1951年にFanconiらが報告したネフロン癆(Juvenile nephrophthisis)を包括し,juvenile nephronophthisis-medullary cystic disease complex(JN-MCD complex)と呼ぶ。これらは両腎に髄質由来の多発性囊胞を形成し,進行性の腎機能障害をきたしうる遺伝性疾患である。前者(髄質囊胞腎)は常染色体優性遺伝で比較的年齢が高く発症し,後者(ネフロン癆)は常染色体劣性遺伝であり若年発症が多いとされるが,実際には両疾患の鑑別は難しい1~3)

025 馬蹄鉄腎

著者: 本間澄恵

ページ範囲:P.78 - P.80

1 概念・病因

 馬蹄鉄腎は腎癒合の90%を占め,両腎の下極が正中で癒合している。癒合部分は腎実質の場合と線維組織の場合とがある。両腎の発生途中に臍血管の異常などで両側腎下極が癒合して馬蹄形を示すもので,腎の頭側移動が阻害されているため全体に低位のことが多い。癒合腎としてはそのほかに,交差性融合腎やL型腎などがある。発生頻度は400~1,800人に1人とされる1)

026 先天性水腎症

著者: 本間澄恵

ページ範囲:P.81 - P.83

1 概念・病因

 狭義の先天性水腎症とは腎盂尿管移行部の先天的な機能的通過障害により腎盂腎杯が拡張したものを指す。すなわち先天性腎盂尿管移行部通過障害である1)。病因としては,ほとんどが腎盂尿管移行部の形成異常(筋束の発達不全や方向性の異常などで尿の輸送が障害される)とされるが,異常血管による圧迫や良性ポリープによる閉塞も時々経験する。また,通過障害により腎盂が拡張するとさらに尿管の屈曲や癒着が増悪し閉塞を増強させる。年齢に伴い軽快する症例もみられ,胎児診断でみつかった先天性水腎症の50%は手術不要で消失するとされる2)。しかし感染などを契機に突然悪化する症例も散見するので,病因の1つには尿管の屈曲や癒着による閉塞の増悪も考慮すべきであろう。

 広義の先天性水腎症には膀胱尿管移行部通過障害(巨大尿管)や中部尿管通過障害も含める場合がある。

尿管の先天異常

027 膀胱尿管逆流症

著者: 鯉川弥須宏 ,   山口孝則 ,   此元竜雄

ページ範囲:P.84 - P.85

1 概念・病因

 膀胱尿管逆流症(VUR)は,いったん膀胱内に蓄尿された尿が再度上部尿路に逆流してしまう現象を持った疾患で,先天性の尿路奇形でも最もよく遭遇する疾患の1つである。以前からこのVURは,原発性VURと続発性VURに分類されており,原発性VURは膀胱尿管移行部の解剖学的,機能的異常に原因がある場合とされ,続発性VURは神経因性膀胱や尿道疾患などによる膀胱内圧の上昇に起因する場合とされている。以前はVURの存在が尿路感染(UTI)を誘発し腎瘢痕や高血圧,腎不全を引き起こすと考えられ,積極的な治療を勧められていた時期もあったが,最近はVURとUTIの直接的な関係に疑問を投げかける意見も増加し,現在ではVURそのものは,いわゆる疾患として考慮されるものではなく,先天性に腎発育障害や形成不全,UTI素質などを持ちうる可能性のある状態として認識されるようになっている。

 膀胱尿管移行部の膀胱内尿管は,壁内尿管と粘膜下尿管に分類され,排尿時には膀胱内圧によりこの部の尿管がつぶれて,いわゆるflap-valveを形作り逆流を防いでいるとされるが,原発性VURでは解剖学的にこの粘膜下尿管の距離が短く,flap-valve形成が不十分で逆流が出現してしまうと考えられている1)。また,この部の尿管には,特殊な筋線維が特徴的に走っており,受動的な逆流防止メカニズムだけではなく,たとえば膀胱尿管接合部では内尿管筋線維が縦走するように発達し,これが膀胱内に伸びて三角部のBell's muscleを形成したり,Waldeyer's sheathがhiatusでしっかり尿管を固定していることも,積極的に逆流を防止している理由と考えられ,これらの発育形成不全も原発性VURの発生原因と考えられている2)

028 異所開口

著者: 鯉川弥須宏 ,   山口孝則 ,   柴田舞子

ページ範囲:P.86 - P.87

1 概念・病因

 尿管異所開口は尿管の開口が通常の膀胱三角部にない状態の先天性の上部尿路奇形である。胎生4~8週時期の尿管芽の発生位置の異常より生じ,正常位置より頭側に発生すれば尿路の遠位側に,尾側に発生すれば近位側に開口すると考えられている1)。欧米の報告では女児のほうが男児に比べ2~3倍の頻度で,この女児の80%以上は重複腎盂尿管を合併している。一方,男児では約75%はsingle systemでの異常であるが,全体でみると70~80%は重複腎盂尿管を合併し,そのうち20%近くは両側性である2)。男児では膀胱頸部や後部尿道,前立腺部尿道,精囊腺,射精管,精管への開口頻度が高く,女児では膀胱頸部や尿道,外陰部,腟,子宮に多い。重複腎盂尿管の合併の場合は,下位腎所属尿管も異所性の場合が少なくなく,尿管芽は正常位置より尾側に発生している傾向が強いため,膀胱尿管移行部での膀胱内尿管,特に粘膜下尿管の長さが短めになり,加えて三角部の筋線維の形成にも未熟さが残存するため膀胱尿管逆流症(VUR)を合併しやすい。日本ではドイツ医学の流れの影響かThomの分類3)が汎用されることが多い。しかも頻度的には欧米ではdouble systemに合併するそのⅢ型が多いのに対し,本邦ではsingle systemでのⅠ型が多いといわれている。

029 尿管瘤

著者: 河内明宏

ページ範囲:P.88 - P.90

1 概念・病因

 尿管の遠位端が囊状に拡張した状態を尿管瘤(ureterocele)という。膀胱内に存在する場合(intravesical ureteroceleまたはsimple ureterocele)と拡張部が膀胱頸部や尿道まで広がっている場合(extravesical ureteroceleまたはectopic ureterocele)がある。また,単一尿管に発生する場合と重複腎盂尿管の上半腎所属尿管に発生する場合がある。

 その発生の機序は,以前は胎生期の尿管口にある膜(Chwalle's membrane)が開口しないことが原因と考えられてきた。しかし最近は尿管芽につながるcommon nephric ductの不全な拡張が原因と推測されている1)

030 巨大尿管症

著者: 河内明宏

ページ範囲:P.91 - P.92

1 概念・病因

 尿管の直径は通常は5mm以下であるが,7~8mmを超えるものの総称を巨大尿管症と呼ぶ。大きく分けて,逆流性,閉塞性,非逆流性非閉塞性に分類される。

 逆流性巨大尿管症は高度の膀胱尿管逆流症に伴うもので,病態は膀胱尿管逆流症と同様である。閉塞性巨大尿管症は一般的に尿管下端のいわゆる“adynamic”あるいは“narrow segment”における尿の通過障害が原因とされる先天性の疾患である。非逆流性非閉塞性巨大尿管症は非逆流性巨大尿管症のうち,通過障害の検査において閉塞を否定されたものが主である。

膀胱および尿膜管の先天異常

031 尿膜管開存(patent urachus)

著者: 宮北英司

ページ範囲:P.93 - P.94

1 概 念

 尿膜管は胎生6週目頃に総排泄腔が尿直腸中隔により直腸と膀胱に分かれ,膀胱は臍帯内の尿囊(allantois)に連続しており,膀胱が骨盤内に下降していくにつれ,尿膜管が延長狭小化し尿膜管になる。胎生4~5か月に尿膜管は細い径の管となり退縮閉鎖していく。尿膜管の組織学的所見は,立方上皮ないし移行上皮の上皮層,粗性結合組織よりなる粘膜下層および平滑筋層の3層構造を呈している。尿膜管の退縮過程が障害され,尿膜管遺残として部位により,尿膜管開存,尿膜管洞,尿膜管囊胞および尿膜管膀胱憩室に分類される。

尿道の先天異常

032 尿道憩室(urethraldiverticulum)

著者: 宮北英司

ページ範囲:P.95 - P.96

1 概 念

 先天性前部尿道憩室の成因としては,いくつかの説があるがAbeshouse1)が提唱した胎生期の発育過程における尿道海綿体組織の欠如および形成不全という説が一般的である。Williamsら2)が提唱した形態的分類の憩室開口部の狭いnarrow-necked diverticulumと憩室開口部の広いwide-mouthed diverticulumに分けられる。

033 尿道狭窄(urethral stenosis)

著者: 宮北英司

ページ範囲:P.97 - P.98

1 概 念

 先天性尿道狭窄は,発生学的に内胚葉性の一次尿道と外胚葉性の二次尿道の接合部に発生し,その間にある尿生殖膜(urogenital membrane)は胎生7週で開口するが,先天性尿道狭窄はこの尿生殖膜の遺残に由来するものと考えられている。狭窄部は男子では尿道括約筋の遠位側の球部尿道にあり球部尿道狭窄(bulbar urethral stenosis),女子では外尿道口の近位側に存在し末しょう部尿道狭窄(distal urethral stenosis),尿道リングと呼ばれる。尿道リングはわが国では多くの泌尿器科医に認知されているが,世界的に認められた疾患ではない。Mini-valve,Cobb's color1),Moormann's ring2),Congenital obstructive posterior urethral membrane3)など,さまざまな疾患が報告されているが,統一見解がない。

 類似した疾患に,先天性男児尿道閉塞疾患として後部尿道弁があるが,別稿に委ねる。

034 尿道下裂

著者: 三井貴彦 ,   守屋仁彦 ,   野々村克也

ページ範囲:P.99 - P.101

1 概念・病因

 尿道下裂は,陰茎腹側面の発達に欠陥があり亀頭部先端よりも近位側に外尿道口が開口している先天的な疾患で,勃起時に陰茎が下側に向く索変形を伴うことが多い(図1)。これは尿道の発達が途中で止まってしまい陰茎の腹側(下側)で尿道がうまく形成されなかったために生じるが,その病因の詳細は不明である。内因的要因として胎児の精巣が作り出す男性ホルモンの異常,外因的要因として母体が妊娠中に受けた内分泌的環境の変化が関与していると考えられている。発生頻度は,男子出生の300~1,000人に1人の割合と報告されているが,近年環境ホルモンの影響などで増加傾向にあると報告されている1)

 尿道下裂は,外尿道口の位置によって亀頭部,冠状溝,陰茎振子部,陰茎陰囊部,陰囊部,会陰部に細分化される。しかし,実際には外尿道口近位の尿道はしばしば形成不全で上皮のみで形成されていることや,陰茎の屈曲を解除した際に事実上の外尿道口はさらに近位に後退していることから,索切除後の外尿道口の位置により,遠位型と近位型の2つに分類することが行われている。

035 後部尿道弁・前部尿道憩室

著者: 三井貴彦 ,   守屋仁彦 ,   野々村克也

ページ範囲:P.102 - P.104

1 概念・病因

 後部尿道弁および前部尿道憩室は,器質的下部尿路通過障害を引き起こす先天性異常である。特に後部尿道弁は,8,000~25,000人に1人の割合で発生すると報告されており,出生前のエコー検査で見つかる器質的下部尿路通過障害の10%を占めるといわれている,最も頻度が高い疾患である1)。一方,前部尿道憩室は稀な疾患である。

 後部尿道弁の成因は,発生途中に泌尿生殖洞においてウォルフ管開口部が移動する際に生じる精丘ヒダが,完全に退化しなかったために生じると考えられている2)。一方,前部尿道憩室は,尿道海綿体の欠損によって生じる。

精巣の先天異常

036 停留精巣

著者: 水野健太郎 ,   神沢英幸 ,   林祐太郎

ページ範囲:P.105 - P.107

1 概念・成因

 停留精巣は出生時の罹患率が4.1~6.9%であるが,自然下降により3か月で1.0~1.6%になる。以降は変わらず1歳で1.0~1.7%である。低出生体重児,早期産児では成熟児,正期産児に比べて自然下降率が高い。それでも6か月までに自然下降はほぼ完了する1)。出生直後は両側性:片側性=39%:61%であるが,3か月では両側性:片側性=17%:83%となる。

 本邦では2005年に日本小児泌尿器科学会が『停留精巣診療ガイドライン』を作成した2)。これは2003年までに著された停留精巣に関する臨床論文1,801編を基に作成されている。その後約10年が経過し,多くの臨床研究が報告されているが,過去のエビデンスを覆す知見はないので,現行の『ガイドライン』に従って診療をすればよいものと考える。

037 非触知精巣

著者: 水野健太郎 ,   守時良演 ,   林祐太郎

ページ範囲:P.108 - P.111

1 概念・成因

 停留精巣のうち鼠径部に触知可能な精巣に対して,触診しても精巣を触知しないものを非触知精巣といい,停留精巣全体の約20%を占めるとされる。非触知精巣の中には腹腔内精巣,鼠径管内精巣,消失精巣(消退精巣)があり,稀だが精巣無発生もある。

陰茎および陰囊の先天異常

038 包 茎

著者: 水野健太郎 ,   井村誠 ,   林祐太郎

ページ範囲:P.112 - P.116

1 概念・成因

 出生時,包皮と亀頭は生理的に癒合しているため,通常亀頭は露出していない。英国の疫学調査では,包皮の翻転が可能なのは,出生時が5%未満,1歳で50%,3歳で90%であった。デンマークでの調査でもほぼ同様の結果で,さらに17歳で包皮翻転ができないのは1%未満であった。本邦では,包皮がまったく翻転できないのは6か月の47.1%が11~15歳になると0%に減少したと報告された。

2 尿路・性器の損傷 腎・尿管損傷

039 腎損傷

著者: 小原玲 ,   中島洋介

ページ範囲:P.117 - P.119

1 概念・病因

 腎損傷(腎外傷)は腹部臓器損傷の中でも頻度が高く,尿路性器外傷では最も多い。その受傷機転から鈍的損傷と鋭的損傷に分類され,前者は交通事故や転倒・転落事故,スポーツなどに起因し,後者は刺創,切創,銃創などほとんどが暴行に伴う損傷であり,本邦では鈍的損傷が大多数を占める。腎損傷の多くが保存的に治療可能で,画像診断および画像支援治療(IVR)の進歩が大きく寄与している。腎単独損傷よりも他臓器の合併損傷を有することが多い。

膀胱・尿道損傷

040 尿道損傷

著者: 加藤晴朗

ページ範囲:P.120 - P.122

1 概念・病因

 本邦において,尿道外傷は比較的稀ではあるが,受傷早期の診断や対処方法を確実に把握し,実施できることが泌尿器科専門医としての責務である。尿道損傷では部位と損傷の程度による管理法を理解しておくことが重要である。外傷によるものはほとんどが男性であり,女性は稀である。騎乗型損傷あるいは会陰部打撲による球部尿道損傷,骨盤骨折に伴う後部尿道損傷が代表的である。振子部の外傷は,可動性がよいため稀であるが,陰茎折症に合併して起こる場合は振子部に多い1)。経尿道的手術や尿道カテーテル挿入時の損傷などによる医原性のものもある(前立腺全摘後の吻合部狭窄も広義の医原性尿道損傷といえるかもしれない)。長期留置カテーテルに伴う外尿道口の裂傷(後退)もある。

041 膀胱損傷

著者: 加藤晴朗

ページ範囲:P.123 - P.125

1 概念・病因

 膀胱損傷も比較的稀ではあるが,多発腹部外傷などの重症例に伴う症例に遭遇することもあり,受傷早期の診断や対処方法を確実に把握し,実施できることが泌尿器科専門医としての責務である。膀胱損傷は損傷の部位診断(腹膜外か腹膜内か),および部位による対処法を理解しておくことが重要である。また病的膀胱に発症する自然破裂は,基礎疾患の対応が重要である。

042 膀胱腟瘻・尿管損傷・尿管腟瘻

著者: 加藤晴朗

ページ範囲:P.126 - P.127

1 概念・病因

 尿路系の損傷は婦人科手術だけに限らないが,頻度的に高いことと,緊急的な処置または修復を要することもあるので,婦人科領域における医原性の膀胱腟瘻および尿管腟瘻・尿管損傷を併せて取り上げることにする。発展途上国に多い,出産に伴って発症する大きな膀胱腟瘻は本邦では稀である。

 術後の膀胱腟瘻・尿管腟瘻は,おそらく術中に膀胱や尿管の損傷があり,修復が不十分であったか,気がつかなかった可能性がある。子宮の大きな腫瘍や,悪性の浸潤性腫瘍で膀胱後壁との剝離の際に膀胱損傷は起こりうる。やはり,大きな子宮の腫瘍の摘出時や,経腟的子宮摘出術で止血のための結紮糸で尿管を巻き込むことがある。または骨盤神経温存の広汎子宮全摘では,尿管を膀胱壁ぎりぎりまで遊離するので,尿管が虚血に陥る。場合によっては誤って切断する可能性がある。

陰茎損傷,その他

043 陰茎折症

著者: 小谷俊一

ページ範囲:P.128 - P.130

1 疾患の概念・病因

 陰茎折症とは勃起した陰茎に外力が働き,陰茎海綿体白膜の断裂をきたした状態である。この結果,陰茎海綿体内から出血が起こり,これが皮下に貯留し,陰茎皮下の血腫や陰茎変形をきたす。勃起時に発生する理由としては,非勃起時の陰茎海綿体内白膜の厚さが2mmから勃起時には0.25~0.5mmと薄くなるためと考えられている1)。外力の原因として,勃起陰茎への用手的操作,性交中,寝返り,マスターベーション,転倒などが報告されている。吉永ら2)が本邦報告例447例を集計しており,泌尿器科医であれば一生に1~2回くらいは遭遇するものと心づもりしておく必要がある。吉永らの集計では,発生年齢は平均35.8歳(14~64歳)と性的活動の盛んな若い年代に好発する。白膜の断裂部位は左右別では右72%,左28%と右優位であり,また部位別では,陰茎近位部52%,中央部37%,遠位部10%と中央部から近位部に好発する1)。この理由は,陰茎根部を支持している陰茎堤靱帯を支点として陰茎が強く屈曲することが多いためである。白膜断裂の長さは1~3cmが大半であり,断裂方向はタテよりヨコ方向が多いとされている。

044 精索捻転症

著者: 小林秀行 ,   山辺史人 ,   永尾光一 ,   中島耕一

ページ範囲:P.131 - P.132

1 概念・病因

 精索捻転症は,精索が捻転し,精巣への血流の減少・途絶によって起こる病態である。多くは12歳~20歳代に多くみられる。明らかな原因は不明であるが,冷温,精巣挙筋反射を伴った突然の動作や外傷,思春期における精巣の急成長が示唆されている。捻転を予期させる解剖学的異常として,“bell-clapper変形”がある。この変形は,鞘膜が精索の高い位置まで覆っている状態である。分類としては,①鞘膜内捻転(精巣が鞘膜内で捻転する)と②鞘膜外捻転(周産期における陰囊内への鞘膜の固定前に捻転する)の2つがある。鞘膜内捻転が高頻度である。

3 尿路機能障害および尿路閉塞性疾患 下部尿路機能障害

045 過活動膀胱(切迫性尿失禁を含む)

著者: 栗崎功己

ページ範囲:P.135 - P.136

1 概念・病因

 過活動膀胱(overactive bladder:OAB)は,尿意切迫感を必須とした症状症候群であり,通常は頻尿と夜間頻尿を伴うとされているが,切迫性尿失禁は必須ではない。尿意切迫感は,通常の尿意とは異なる,急に起こる,抑えられないような強い尿意で,我慢することが困難な愁訴である。国際禁制学会の2002年用語基準によると,OABは症状症候群であり,その診断のためには膀胱腫瘍,膀胱結石,尿路感染などの局所的な病態を除外する必要がある。具体的に除外診断の対象となるものは,膀胱疾患(膀胱癌,膀胱結石,膀胱炎),前立腺癌,全身性疾患(糖尿病,心不全など),行動や身体機能の異常,アルコールやカフェイン摂取などの生活習慣,薬剤の副作用など多彩である。

 過活動膀胱の病因は表11)のとおり多彩である。病因は大きく分けて「神経因性」のものと「非神経因性」のものとがある。このうち,神経因性のものは,脳幹部橋より上位の障害によるものと,脊髄の障害によるものとに分けられる。

046 腹圧性尿失禁

著者: 栗崎功己

ページ範囲:P.137 - P.138

1 概念・病因

 尿失禁とは「尿が不随意に漏れる愁訴(国際禁制学会用語基準1))」と定義され,腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁,混合性尿失禁,遺尿,夜間遺尿,その他の尿失禁とに分類される。その中で腹圧性尿失禁は,「労作時または運動時,もしくはくしゃみまたは咳の際に,不随意に尿が漏れる」という愁訴である。腹圧性尿失禁は,女性の場合は出産による骨盤底筋群の脆弱化,尿道過可動などに起因することが多い。男性では腹圧性尿失禁は少ないとされているが,根治的前立腺全摘後などにみられることがある。混合性尿失禁は,腹圧性尿失禁に尿意切迫感,切迫性尿失禁を伴うものである。

047 神経因性膀胱

著者: 栗崎功己

ページ範囲:P.139 - P.140

1 概念・病因

 神経疾患に起因する蓄尿と排尿の障害を総称して,神経因性膀胱というが,その病態,病因は極めて多彩である。神経因性膀胱の症状も多彩であり,排出障害,蓄尿障害,繰り返す有熱性尿路感染症などさまざまな病態を認めるが,いずれにしても治療の目標は,腎機能障害を進行させない尿路管理,尿路感染を起こさない尿路管理である。神経因性膀胱をきたす疾患を考えるときに,①脳幹部橋より上位中枢の障害と,②脊髄の障害とに分けることが重要である1)。①脳幹部橋より上位中枢の障害では,脳血管障害,パーキンソン病に代表される変性疾患,Shy-Drager syndrome,オリーブ橋小脳萎縮症,線条体黒質変性症などの多系統萎縮症,認知症などが挙げられる。また,②脊髄の障害では,脊髄損傷,多発性硬化症などがある。そのほか,糖尿病や骨盤内手術に起因する末しょう神経障害による排尿障害も神経因性膀胱として治療の対象となる。

048 夜尿症(遺尿症)

著者: 杉本周路

ページ範囲:P.141 - P.142

1 概念・病因

 夜尿症の多くは成長,発達とともに軽快していくものが多い。小学校就学以降まで夜尿が持続する場合には,その後の自然軽快は年間10~15%前後といわれている。一般的には5歳頃までに排尿習慣が自立するといわれ,また,International Children's Continence Society(ICCS)の報告では1),昼間症状を伴わない単一症候性夜尿症(monosymptomatic nocturnal enuresis:MNE)に対する治療の介入は6歳からとされていることから,小学校就学以降に持続するMNEが治療の対象となる。

 夜尿症の原因としては,夜間多尿,機能的膀胱容量の低値,睡眠覚醒の異常が挙げられる。

049 神経性頻尿

著者: 杉本周路

ページ範囲:P.143 - P.144

1 概念・病因

 神経性頻尿は,1859年Brignetによる神経症の婦人に下部尿路症状を訴える症例が多いとの報告から注目された疾患である。精神的緊張が頻尿,尿失禁,疼痛,不快感,残尿感などの膀胱刺激症状をきたすが,分類や定義に明確なものはない1)

 近年,過活動膀胱(overactive bladder:OAB)の概念を国際尿禁制学会(International Continence Society:ICS)が提唱し2),さらに新規の抗コリン薬が市場に出てからは,病因を追求するよりも蓄尿時の症状を軽減することが優先されて治療が開始される傾向にある。なぜなら,排尿症状を蓄尿期と排尿期で分けると,蓄尿期の占める時間のほうが長いので,蓄尿障害は患者のQOLを低下させるためである。一般に頻尿は多尿,膀胱排尿筋過活動膀胱,残尿量の増加で起こり得るが,神経性頻尿はそれらによらない頻尿であり,環境やストレス,情動により起こる。抗コリン剤の効果が不十分な蓄尿障害は神経性頻尿も疑うべき疾患となる。

尿路閉塞性疾患

050 上部尿路閉塞性疾患

著者: 松岡弘文

ページ範囲:P.145 - P.147

1 概念・病因

 尿路の閉塞性疾患では,成人患者と小児の患者ではその特徴や頻度などに大きな違いがある。さらに成人・上部尿路閉塞の多くを占めるのは,尿路結石症である。そこで本稿では,A.成人の上部尿路閉塞性疾患(A-1.尿路結石,A-2.尿路結石以外),B.小児の上部尿路閉塞性疾患に分ける。

051 下部尿路閉塞性疾患

著者: 松岡弘文

ページ範囲:P.148 - P.150

1 概念・病因

 下部尿路閉塞においても,成人患者と小児患者ではその特徴や頻度などに大きな違いがある。さらに成人の下部尿路閉塞で最も多く遭遇する疾患は前立腺肥大症である。そこで本稿では,A.成人の下部尿路閉塞性疾患(A-1.前立腺肥大症,A-2.前立腺肥大症以外),B.小児の下部尿路閉塞性疾患に分け,成人については尿閉をきたす状態を中心に述べる。

4 尿路・性器の感染症 非特異的感染症

052 複雑性腎盂腎炎

著者: 石戸谷哲

ページ範囲:P.151 - P.153

1 概念・病因

 複雑性腎盂腎炎は尿路感染症に影響しうる基礎疾患を有する腎盂腎炎と定義できる。基礎疾患としては,尿路の先天異常・通過障害・異物などの尿路局所の機能的・器質的基礎疾患に伴うものに加え,糖尿病・移植などに絡む免疫能の低下も含まれる。病態として,無症候性細菌尿のように無症状のものから,尿路の閉塞などを契機に急性増悪し生命を脅かすものまで幅広い。また異物を取り除くことにより根治できるものから,基礎疾患のコントロール困難な難治性のものまで含まれる。

 本稿では,無症候性細菌尿などのバイオフィルム感染と閉塞性腎盂腎炎を中心に取り上げることとした。

053 単純性膀胱炎

著者: 山本新吾

ページ範囲:P.154 - P.155

1 概念・病因

 尿路感染症は直腸の常在菌が腟などの会陰部にコロニーを形成し,尿道から膀胱へ侵入することで発症する逆行性(上行性)感染である。膀胱に侵入した菌は,線毛や接着因子で膀胱粘膜へ付着・定着し,さらに粘膜組織内(細胞内)へ侵入し細胞障害性毒素を分泌する。この細菌の侵入に対して宿主の炎症が惹起されることにより膀胱炎が発症する。単純性膀胱炎の分離菌はグラム陰性菌が主であり大腸菌が起炎菌の約70%,そのほかProteus mirabilisや肺炎桿菌,グラム陽性菌では腸球菌,Staphylococcus saprophyticusなどが分離される。

 また,単純性膀胱炎は20~40歳代の性的活動期に最も多いことが知られている。閉経後女性においては,女性ホルモンの低下に伴い腟の常在菌である乳酸菌が減少するために直腸細菌が容易にコロニーを形成しやすいことが尿路感染症の主な原因とされている。

054 複雑性膀胱炎

著者: 金丸聰淳

ページ範囲:P.156 - P.158

1 概念・病因

 複雑性尿路感染症は,尿路の機能的ないし器質的基礎疾患に伴う尿流障害(残尿,水腎症など)やカテーテル留置などを背景に発症する。罹患年齢は老年期に偏り,泌尿器科における男女比は2~3:1である。主な基礎疾患は前立腺肥大症,前立腺癌,膀胱癌,神経因性膀胱,尿道狭窄,膀胱結石などであるが,糖尿病,ステロイド・抗癌剤投与中など,全身性感染防御能の低下状態も含まれる。

 臨床症状に乏しく慢性の経過を示すが,尿流障害の増悪を契機として急性増悪(敗血症を含む急性腎盂腎炎)を呈する。この急性増悪時の感染症は抗菌化学療法の絶対的適応である。基礎疾患が除去されない限り再発を繰り返し,単純性膀胱炎のような臨床的治癒は得られないことも多い。

055 尿道炎

著者: 矢澤聰 ,   本郷周 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.159 - P.161

1 概念・病因

 男性の尿道炎は,原因微生物である淋菌,クラミジア・トラコマティス,マイコプラズマ・ジェニタリウムなどが性交により外尿道口から侵入し尿道に感染し発症する1,2)。尿道炎は男性の性感染症として最も罹患率が高い。原因となる病原体により,淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎に分類され,これらの分類により治療法も異なる(図1)。

 女性の尿道炎という疾患概念も存在する。原因微生物は男性と同様であるが,解剖学的な関係でこれらの病態は膀胱炎,腟炎,子宮頸管炎,外陰部ヘルペスなどと症状がオーバーラップすることが多い2,3)

056 急性細菌性前立腺炎

著者: 矢澤聰 ,   本郷周 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.162 - P.164

1 概念・病因

 急性細菌性前立腺炎は,主に細菌が尿路から逆行性に前立腺内へ侵入することにより生じる細菌感染である1)。重症例では敗血症をきたしうるので,初療時に重症例を見逃さないことが重要である2,3)。また,男性の発熱性疾患の鑑別診断としても重要である。

 主な起因菌はグラム陰性桿菌,中でも大腸菌が約6割を占める。そのほか,尿路感染症を引き起こす腸内細菌属が2割分離され,グラム陽性球菌も2割程度分離されるが,それぞれの菌種の病原性については議論のあるところである。性感染症は数%程度と比較的稀であり,若年者に対するempirical therapyにおいても抗菌薬選択時に淋菌,クラミジア・トラコマティスのカバーは不要と考えられている。

057 急性精巣上体炎

著者: 本郷周 ,   矢澤聰 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.165 - P.167

1 概念・病因

 急性精巣上体炎は陰囊内炎症性疾患の中で最も頻度の高い疾患である1)。発症年齢は20~30歳にピークがあり,性感染症の病原体としてのNeisseria gonorrhoeaeあるいはChlamydia trachomatis感染の頻度が最も高い2)。思春期以前あるいは中年以降では,尿路感染症の病原体であるEscherichia coliが最多であり,そのほかにHaemophilus influenzaProteus mirabilisKlebsiella pneumoniaePseudomonas aeruginosaなども原因となりうる2,3)。また,男性の発熱性疾患の鑑別診断としても重要である。結核感染から二次性に精巣上体炎を発症することが稀にあり,免疫抑制状態などの高リスクな症例で症状が長引く場合は,鑑別診断として考えるべきである1)

 非感染性精巣上体炎の原因として,Mycoplasma pneumoniae,Adenoviruses感染後の炎症性変化や,ベーチェット病などの血管炎,アミオダロンをはじめとする抗不整脈薬の服用などが知られている3)

058 亀頭包皮炎

著者: 田中一志 ,   藤澤正人

ページ範囲:P.168 - P.169

1 概念・病因

 亀頭炎は亀頭に生じた炎症性の異常所見を指す。包茎の患者で包皮まで炎症が波及したものが亀頭包皮炎である。小児では主たる原因は細菌感染である。成人では,間擦疹,接触性皮膚炎,ズボンのチャックなどによる外傷,カンジダおよび細菌感染などが主な原因であるが,カンジダを含む感染症が最も頻度が高い。また特殊な病態として形質細胞亀頭炎(Zoon亀頭炎),閉塞性乾燥性亀頭炎がある1,2)。感染症ではカンジダの頻度が最も高く3),そのリスク因子として,糖尿病,免疫抑制状態,包茎が挙げられる。包茎は亀頭包皮炎の主な罹患因子の1つであるが,さらに,不適切な陰部洗浄,恥垢の溜まり,真性包茎などがその要因になる。

 Lisboaらは75人の培養検査を施行した亀頭包皮炎患者の検討を行い,その結果,図1に示すように感染性亀頭包皮炎では真菌性(カンジダ性)が最も多かったと報告している4)。表1にその内訳を示す。細菌ではStreptococcus spp.,Staphylococcus spp. を多く認めている。

059 単純性腎盂腎炎

著者: 田中一志 ,   藤澤正人

ページ範囲:P.170 - P.172

1 概念・病因

 急性単純性尿路感染症は,尿路の基礎疾患および糖尿病などの全身性の易感染性となる基礎疾患を認めない急性の尿路感染症である。急性単純性腎盂腎炎は性的活動期の女性に多い疾患で,発熱,全身倦怠感などの全身感染所見に加え,腰背部痛,腎部圧痛,肋骨・脊椎角部圧痛(CVA tenderness)などの症状・所見がみられる。起炎菌はEscherichia coliが約7~8割を占める。その他,Enterococcus faecalisStreptococcus agalactiaeProteus mirabilisKlebsiella pneumoniaeなどが認められる1)

060 腎周囲膿瘍

著者: 田中一志 ,   藤澤正人

ページ範囲:P.173 - P.175

1 概念・病因

 腎周囲膿瘍は腎周囲腔に膿瘍が貯留する病態で,尿路から波及する場合が約2/3で血行性が約1/3とされている1)。血行性感染の大部分は皮膚の感染巣からのものである。腎周囲血腫がしばしば腎周囲膿瘍の原因になることもある。また腎周囲膿瘍が腎筋膜を超えて後腹膜膿瘍にまで至ることも少なくない。主な起炎菌はEscherichia coliProteusStaphylococcus aureusである。危険因子の2大要因は閉塞を伴った上部尿路感染と免疫抑制状態であり,基礎疾患として糖尿病を持つ場合が1/3程度認められる。そのほかの危険因子としては神経因性膀胱,血液透析中の囊胞腎などがある。

061 慢性前立腺炎

著者: 清田浩

ページ範囲:P.176 - P.182

1 はじめに

 慢性前立腺炎とはNIHが1999年に提唱した「前立腺炎症候群」の4つのカテゴリー分類(表1)1)の中のカテゴリーⅡ(慢性細菌性前立腺炎)とカテゴリーⅢ(慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群)の両者を包含するものである。両者とも症状は共通しており,頻度としてはカテゴリーⅢのほうがカテゴリーⅡより圧倒的に多い2)。カテゴリーⅡは細菌感染が原因であると考えられており抗菌化学療法が主な治療法となるが,カテゴリーⅢは病因が不明であるため決定的な治療法がない。両者とも難治性であるが生命予後には影響はない。

062 細菌性ショック

著者: 栗村雄一郎

ページ範囲:P.183 - P.184

1 概念・病因

 全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)は,外傷や感染症など各種の侵襲によって引き起こされた全身性の急性炎症反応を指す1)。敗血症は,感染症によって引き起こされたSIRSと定義され,尿路感染症より発症した敗血症を尿路敗血症(urosepsis)と呼ぶ。敗血症の中でも,十分な輸液負荷を行っても血圧が維持できない状態や,または血圧を維持するために昇圧剤や強心剤が必要な場合は敗血症性ショックと定義され,細菌感染による場合は細菌性ショックと呼ばれている(図1,表1)。

 尿路感染症においても,重症化し敗血症へ移行する症例が存在し,さらに重篤化した場合はショックとなる。本稿では,尿路感染症による細菌性ショックとしての診断や治療,また日常診療にて遭遇する尿路敗血症の代表として,閉塞を伴う急性腎盂腎炎について解説する。

尿路・性器結核

063 尿路結核

著者: 栗村雄一郎

ページ範囲:P.185 - P.187

1 概念・成因

 尿路・性器結核は,ヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)が尿路・性器に感染した状態である。

 尿路結核は,肺に感染して肺結核となった結核菌が血行性に腎に移り,数年から数十年の潜伏期間を経て乾酪性壊死病変を形成し,腎結核となる。その後,尿路に穿破した結核菌が尿路を下降し,膀胱などに病変を作成する。つまり,腎以外の尿路結核は単独で発症することはなく,必ず腎結核が先行する。また結核菌は,尿路からの逆行性感染または肺結核から血行性に直接播種し,精巣上体や前立腺などにも病変を形成する。

性感染症

064 淋菌感染症

著者: 濵砂良一

ページ範囲:P.188 - P.190

1 定義・病因

 淋菌感染症は淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による感染症であり,主に男性では尿道炎と精巣上体炎を,女性では子宮頸管炎と骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory diseases:PID)を引き起こす。淋菌は高温にも低温にも弱く,炭酸ガス要求性であり,一般の環境下での生存はできない。このため,ヒトからヒトへ性感染症(STI)として生存し続けている。近年,性行動が多様化し,性器以外の感染例が増加している。オーラルセックスにより男女の咽頭から淋菌が検出され1),時に咽頭炎を発症する。咽頭の淋菌は,男性の尿道炎の感染源となることが重要である。アナルセックスにより淋菌性直腸炎が起こる。淋菌性子宮頸管炎を持つ母親から,経腟分娩により,新生児に淋菌性膿漏眼(淋菌性結膜炎)が起こることが知られている。成人においても眼の淋菌汚染により淋菌性結膜炎が起こり,重篤な眼瞼浮腫,結膜浮腫,多量の膿性滲出液をみる。女性でPIDに引き続き淋菌性腹膜炎を発症することがある。稀ではあるが,男女を問わず播種性淋菌感染症が起こる。淋菌が血行性に全身に播種された状態であり,菌血症による発熱のほか,関節炎などを併発する2,3)

065 クラミジア感染症

著者: 濵砂良一

ページ範囲:P.193 - P.195

1 概念・病因

 クラミジア感染症はChlamydia trachomatisによる感染症である。C. trachomatisは偏性細胞内寄生体であり,特殊な生活環を持つ。細胞外では,感染性を持つ基本小体(elementary body:EB)という球体の形態をとる(核とリボゾームを充満した細胞質を有する)。EBが宿主細胞に感染すると,網様体(reticular body:RB)という形に変わる。RBは核,細胞質の区別のない構造で,二分裂を繰り返しながら増殖し,宿主の細部質内に封入体を形成する。感染後,20~24時間後に成熟すると,EBに変わり細胞を破って細胞外に出る。

 C. trachomatisは性感染症(sexually transmitted infection:STI)から最も高い頻度で分離される病原体である。性器クラミジア感染症として,男性では主に尿道炎と精巣上体炎を,女性では子宮頸管炎と骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory diseases:PID)の病態を示す。男性尿道炎患者の30~40%より分離され,女性ではSTIの60~70%を性器クラミジア感染症が占める。また,淋菌感染症の約20%にC. trachomatisが合併感染する1,2)

066 性器ヘルペスウイルス感染症

著者: 安田満

ページ範囲:P.197 - P.199

1 概念・病因

 性器ヘルペスウイルス感染症は単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus:HSV)1型(Herpes simplex virus-1:HSV-1)あるいは2型(Herpes simplex virus-2:HSV-2)の感染により性器に病変をきたすウイルス感染症である。パートナーの外陰部,口や口唇周囲から排出されるウイルスにより性行為を介して感染をきたす。接触した部分に病変をきたすため,男性では亀頭,陰茎のほか肛門周囲や直腸内に発症する場合がある。

 初めて性器にHSVが感染した場合,HSVは神経に沿って上行し,多くの場合腰仙髄神経節に潜伏感染する。なんらかの刺激により潜伏感染していたHSVが再活性化すると,感染時とは逆に神経を下行し再び性器に病変をきたす。

067 尖圭コンジローマ

著者: 安田満

ページ範囲:P.200 - P.201

1 概念・病因

 尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)による感染症である。主に発癌の低リスク型であるHPV 6型あるいはHPV 11型の感染によって発症するが,高リスク型であるHPV 16型やHPV 18型を含むほかの型が分離されることもある。

 性行為によりHPVに感染した部位との接触によって感染する。接触した粘膜や皮膚の微少な傷よりHPVが侵入し,基底細胞などに感染する。感染後3週間~8か月間,平均2.8か月で視診可能な程度まで増殖する。

寄生虫疾患,真菌感染症

068 フィラリア性乳糜尿症

著者: 大城吉則 ,   町田典子 ,   斎藤誠一

ページ範囲:P.202 - P.203

1 概念・病因

 乳糜尿症は蚊によって媒介されるバンクロフト糸状虫(Wuchereria bancrofti)のリンパ管内への寄生によるリンパ管炎が原因で,リンパ管と腎杯・腎盂そして尿管などの尿路との瘻孔が形成されたことによって起こる1)。本来なら腸管から吸収された脂肪は腸管のリンパ管を経由して胸管に運ばれるが,リンパ管と尿路に瘻孔が形成されると,脂肪の多い食事を摂取したときに尿路に脂肪球,リンパ液が漏れ出てくる。その際に尿が白色混濁した状態を乳糜尿,そして血尿を合併したときには乳糜血尿の状態となる。

5 腎疾患 腎不全

069 慢性腎不全

著者: 米山高弘 ,   盛和行 ,   大山力

ページ範囲:P.204 - P.206

1 概念・病因

 慢性腎不全(CRF)とは腎機能が不可逆的,進行性に低下して形成される病態を包括する症候群であり,糸球体濾過値が30ml/min以下,あるいは血清クレアチニン値が2.0mg/dl以上をCRFと考えてよい1)。通常は,腎機能障害の程度を根拠にしたSeldinの分類が広く用いられている(表1)。2002年,アメリカ腎臓財団が慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)という概念を提唱した。簡便な腎機能スクリーニングを行い,より早期から治療を行うことで末期腎不全のみならず心血管系合併症(CVD)を予防することを目標にしている。日本腎臓学会もCKD診療ガイドを作成しており,現在では広く使用されるようになっている2)

 透析や移植を必要とするCRF患者は,世界中で増加し続けている。日本でも2011年には維持透析患者数が30万人を超え,国民419.6人に1人が透析患者であることとなった。原疾患は糖尿病が44.2%と半数近くを占め,慢性糸球体腎炎,腎硬化症と続く3)。特に糖尿病は増加が続き,導入後の予後も不良である。

070 急性腎不全

著者: 米山高弘 ,   盛和行 ,   大山力

ページ範囲:P.207 - P.208

1 概念・病因

 急性腎不全(ARF)は,急激な腎機能の低下の結果,体液の恒常性が維持できなくなった状態と定義される。近年,急性の腎障害は,軽度であっても生命予後に重要な因子であることが認識され,急性腎障害という名称が普及しつつある1)。今回は,従来の明らかに腎機能が不全状態を示すARFにつき解説する。

 ARFには,乏尿性ARFと非乏尿性ARFがある。通常経験する乏尿性ARFは血清クレアチニンが0.3~0.5mg/dl/日ずつ上昇することが多い。一方,非乏尿性ARFでは,血清クレアチニンの上昇にもかかわらず1日尿量が500ml以上に保たれており,病態を見逃して治療が遅れる場合があるので注意が必要である。

腎性高血圧と腎血管性病変

071 腎血管性高血圧と腎動脈狭窄

著者: 森田研

ページ範囲:P.209 - P.212

1 概念・病因

 腎血管性高血圧は,腎動脈や細動脈レベルの狭窄によりもたらされる高血圧であり,本稿では主な成因である腎動脈狭窄とともに論じた。腎血管性高血圧の頻度は高血圧全体の1%以下であり,そのほとんどを占める本態性高血圧とは疫学的背景が異なり,診断,治療法も異なる疾患である。腎動脈起始部から分枝,分岐以下,末しょう側の動脈狭窄や,細動脈の狭窄により傍糸球体装置の虚血,レニン分泌亢進が起こり,腎静脈からレニンが還流されて血圧上昇をきたす。稀に腎実質の梗塞による萎縮部位から残存した腎皮質組織のレニン分泌亢進が起こり,明らかな腎動脈狭窄が認められない場合がある。

その他の腎疾患

072 腎下垂(遊走腎)

著者: 成田伸太郎

ページ範囲:P.213 - P.214

1 概念・病因

 腎下垂(遊走腎,nephroptosis,falling kidney,floating kidney,wandering kidney)は立位により5cmもしくは2椎体腎が下垂する病態である。異所性腎(ectopic kidney)との違いは,体位によって腎が正常の位置に戻る点である。若い痩せの女性に多く発症するといわれ,男女比は3:100程度と報告されている1)。多くは症状もなく精査されないため,発症頻度は不明である。発症部位に関しては70%が左腎,10%が右腎,両側20%と報告されている。無症状の症例では治療の必要性はないが,疼痛,嘔気,嘔吐,肉眼的血尿,繰り返す尿路感染症,高血圧など有症状症例の中に治療が必要となる症例が存在する。症状を起こす原因としては,①間欠的尿路閉塞,②腎動脈閉塞による虚血,③腎門部体性神経牽引や刺激,④腎石灰化や腎盂腎炎などの二次的腎病理変化が考えられている。

073 特発性腎出血

著者: 成田伸太郎

ページ範囲:P.215 - P.216

1 概念・病因

 特発性腎出血は,通常の泌尿器科検査を行ってもその原因のつかめない腎からの出血の総称で,通常,除外診断で診断される症候群である1)。いわゆる特発性腎出血には日本泌尿器科学会の『血尿診断ガイドライン』では,ナッツクラッカー症候群も含まれており,本稿では成人の特発性腎出血としてナッツクラッカー症候群およびbenign lateralizing haematuria(chronic unilateral hematuria, lateralizing essential hematuria)と呼ばれる原因不明の上部尿路出血の2つにつきまとめた。ナッツクラッカー症候群は左腎静脈が腹部大動脈とその腹側を走る上腸間膜動脈の間に挟まれ,左腎静脈の灌流障害による左腎静脈内圧の上昇に伴って起こる血尿や疼痛などを伴う症候群である2)

074 移植腎拒絶反応

著者: 石井大輔 ,   吉田一成

ページ範囲:P.217 - P.219

1 概 念

 同種腎移植は腎代替療法の1つとして挙げられ,ほかの代替療法に比して根治療法に近いとされているが,免疫抑制が必要である。近年の免疫抑制剤の進歩により多くの拒絶反応は克服できるようになってきており,特に急性拒絶反応はカルシニューリン阻害剤(CNI)により劇的に減少し,生着率の向上につながった。検査法の進歩も生着率の改善に寄与しておりdirect crossmatchに加えて,より感度の高いflow crossmatchやluminexなど,術前から既存抗体を持つハイリスク患者の選定が可能となってきている。しかしながら急性拒絶反応が減少している一方,長期の移植腎生着率は慢性拒絶反応により満足のいく成績とはいえず,現在の腎移植は慢性拒絶反応の克服が長期生着の鍵となっている。

075 慢性移植腎症(CAN:chronic allograft nephropathy)

著者: 石井大輔 ,   吉田一成

ページ範囲:P.220 - P.221

1 概 念

 2005年に提唱されたCANという概念は,2007年にinterstitial fibrosis and tubular atrophy(IF/TA)と慢性拒絶反応〔慢性細胞性拒絶反応(chronic active TMR:CTMR)と慢性抗体関連型拒絶反応(chronic active AMR:CAMR)〕に分類されるようになった1)。IF/TAと慢性拒絶反応を分類したことでCANという言葉は使用されなくなってきている。現行の病理診断で使用されているIF/TAと慢性拒絶反応について分けて詳述する(表1)。

6 尿路結石および結石関連疾患 上部尿路結石

076 腎結石

著者: 宮澤克人 ,   鈴木孝治

ページ範囲:P.223 - P.224

1 診療の概要

 結石の存在部位により,腎実質内結石(R1),腎盂腎杯結石(R2),腎盂尿管移行部結石(R3)に分けられる(図1)。

 症状で最も多いのは疼痛である。典型例では悪心・嘔吐,冷感などを伴う疝痛発作(腎疝痛)を呈する。血尿は一般的に顕微鏡的血尿である。感染を合併すると腎盂腎炎による発熱や腰背部痛がみられる。ただし,無症状で検診や人間ドックなどで偶然発見される腎結石も少なくない。

077 尿管結石

著者: 宮澤克人 ,   鈴木孝治

ページ範囲:P.225 - P.226

1 診療の概要

 腎結石が落下したものがほとんどで生理的狭窄部位に多い。部位により上部尿管結石(U1),中部尿管結石(U2),下部尿管結石(U3)に分けられる(前項「腎結石」の図1参照)。

 症状は腎結石と同じく疼痛であるが,疼痛の部位は結石の位置により異なり,結石の移動とともに疼痛部位が移行し,結石が中部・下部尿管に移動すると鼠径部や外陰部に放散痛を認めることがある。尿管膀胱移行部に下降すると頻尿・尿意切迫感・残尿感などの膀胱炎様症状を伴うこともある。血尿や感染の合併も腎結石と同様である。

下部尿路結石

078 膀胱結石・尿道結石

著者: 宮澤克人 ,   鈴木孝治

ページ範囲:P.227 - P.228

1 診療の概要

 膀胱・尿道結石は全尿路結石の約5%を占め,下部尿路結石の大部分を占める。50歳以上の高齢者に多く,男女比は約3:1で男性に多い。膀胱結石は,①膀胱内で形成される,②上部尿路(腎・尿管)結石が下降することにより発生する。膀胱で形成される結石は残尿を生じる排尿障害(前立腺肥大症,前立腺癌,神経因性膀胱など),尿路感染症,尿道留置カテーテルなどが原因となる(表1)。結石成分はリン酸マグネシウムアンモニウム(感染性結石),尿酸(非感染性結石)が多い。膀胱結石は難治性・再発性尿路感染症の原因疾患となる。

 症状は排尿時痛,頻尿,残尿感,血尿などの膀胱炎様症状や排尿困難などで,時に排尿痛が陰茎に放散する。結石が膀胱頸部を閉塞し尿線の中断,尿閉をきたすことがある。尿道結石では尿線の中絶,尿の滴下状失禁がみられる。後部尿道では会陰部や直腸に,前部尿道では陰茎,亀頭部へ放散する。また,前部尿道に存在する場合,結石を触知できる。

結石関連疾患

079 高尿酸尿症

著者: 伊藤恭典

ページ範囲:P.229 - P.230

1 概念・病因

 高尿酸尿症に合併する結石は必ずしも尿酸結石ばかりではない。尿路結石症の中で最も頻度が高いシュウ酸カルシウム結石の形成にも大きく関与している。Coeら1)は,尿中への過剰な尿酸排泄が,シュウ酸カルシウム結石形成と密接な関連があるとし,高尿酸尿を伴うシュウ酸カルシウム結石症(hyperuricosuric calcium oxalate nephrolithiasis)の存在を明らかにした。尿中で溶解している尿酸が一定の濃度を超えるとシュウ酸カルシウムの溶解度を下げ,不均一核形成を促進し,結晶が析出しやすくなることが主な原因と考えられている。一方,Curhanら2)は,3,350名の24時間尿と結石形成リスクの横断研究を行い,尿中カルシウム増加,尿中シュウ酸増加,尿中クエン酸減少,尿量減少は結石形成リスクを有意に高めたが,高尿酸尿の状態は必ずしもシュウ酸カルシウム結石のリスクを高めないことを報告した。

080 高カルシウム尿症

著者: 伊藤恭典

ページ範囲:P.231 - P.232

1 概念・病因

 日本では全結石の80~90%がカルシウム含有結石である。カルシウム含有結石の50%がシュウ酸カルシウム(CaOx)・リン酸カルシウム(CaP)の混合結石,40%がCaOx単一結石,10%がCaP単一結石である。

 高カルシウム尿症は主に2つの機序によりカルシウム含有結石を形成する。尿中にはさまざまな物質が溶解状態あるいは飽和状態で存在し,CaOxやCaPの過飽和・結晶析出には尿中カルシウム濃度が直接影響する。また,高カルシウム尿症ではカルシウム自体が結石形成抑制物質に結合し抑制物質を不活化する現象も確認されている1)。結晶核が形成された後には表面に晶質(カルシウム・シュウ酸・リン酸)の付着が続き,結晶は成長する。続いて,結晶が凝集し結石化が進む。日本人のカルシウム含有尿路結石患者においては,高カルシウム尿症の頻度は26%であった2)

081 尿細管性アシドーシス

著者: 伊藤恭典

ページ範囲:P.235 - P.237

1 概念・病因

 尿細管からの酸排泄低下によるアシドーシスを尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis:RTA)という。障害されている尿細管の部位により,遠位尿細管性アシドーシス・近位尿細管性アシドーシスに分類される1)

 遠位尿細管性アシドーシス(Ⅰ型):集合尿細管では管腔内のHの濃度勾配に逆らってHを分泌している。管腔膜のHポンプの障害によりH分泌が障害されているか,H分泌は正常でも尿細管細胞膜の透過性に障害があるとHの細胞内への逆流が起き,Hの分泌障害となる。このRTA Ⅰ型が腎石灰化・尿路結石症を合併する2)

7 腫瘍 副腎腫瘍

082 クッシング症候群

著者: 石戸谷滋人 ,   海法康裕 ,   荒井陽一

ページ範囲:P.238 - P.240

1 概念・病因

 クッシング症候群(Cushing's syndrome:CS)は副腎皮質からの糖質コルチコイド(コルチゾール)が過剰分泌されて種々の臨床症状をきたす病態の総称である。下垂体もしくは下垂体以外からのadrenocorticotropic hormone(ACTH)分泌亢進によるACTH依存性CSと,われわれ泌尿器科医が手術対象とする副腎性(ACTH非依存性)CSとに大別される。男女比は1:3.9と女性に多く,患者の平均年齢は40歳代半ばである1)。クッシング症候群の病因はわかっていない。

 サブクリニカルCS(以前はプレクリニカルと呼称)は,副腎偶発腫瘍(インシデンタローマ)の中で,クッシング徴候を有さないがコルチゾールの自律分泌を認める(日内分泌変動消失)タイプである。CSの前段階であるか否か,いまだに結論が出ていない。しかしこの疾患群では高血圧や糖尿病の頻度が明らかに高いことが知られている2)。稀に両側性にコルチゾールを過剰産生するAIMAH(ACTH independent macronodular adrenocortical hyperplasia)という病型が存在する。

083 褐色細胞腫

著者: 石戸谷滋人 ,   海法康裕 ,   荒井陽一

ページ範囲:P.241 - P.243

1 概念・病因

 副腎髄質由来のクロム親和性細胞の増殖-腫瘍化したもので,生物学的には副腎外に発生するパラガングリオーマとまったく同一のものである。全国的な疫学調査によれば,発症に男女差はなく,推定発症年齢は40~45歳,症候性(高血圧あり)が65%,無症候性が35%である。副腎外,両側性,悪性は約10~11%,家族性発生は約5%とされている1)

 家族性発生では,多発性内分泌腺腫症(multiple endocrine neoplasia:MEN)のⅡ型に合併することが知られている。ほかの特徴的な併存疾患として,ⅡAでは甲状腺髄様癌と副甲状腺病変が,ⅡBでは甲状腺髄様癌,粘膜神経腫,Marfan様体型,巨大結腸症がある。Von Hippel-Lindau病や神経線維腫症Ⅰ型にも褐色細胞腫が合併することがある。

084 原発性アルドステロン症

著者: 石戸谷滋人 ,   海法康裕 ,   荒井陽一

ページ範囲:P.244 - P.246

1 概念・病因

 アルドステロンが片側もしくは両側副腎より過剰分泌される病態を原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)と呼び,これは高血圧を生ずるとともに種々の臓器障害の原因ともなる。全高血圧患者の5~10%は実はPAが原因とされている。

085 副腎癌(原発性,転移性)

著者: 佐澤陽

ページ範囲:P.247 - P.249

 副腎癌を疑った場合,原発なのか転移なのかで考え方が変わってくる。それぞれについて述べていく。

086 内分泌非活性腫瘍

著者: 佐澤陽 ,   丸山覚

ページ範囲:P.250 - P.251

1 概 念

 内分泌非活性腫瘍とは,各種ホルモン検査,画像検査にて内分泌活性がないと判断された副腎腫瘍である。したがって除外診断となるため,これらの検査を行う必要がある。

腎腫瘍

087 腎細胞癌(腎癌)

著者: 小林実 ,   森田辰男

ページ範囲:P.252 - P.254

1 疾患概念,病因

 検診や他疾患の画像検査の機会の増加に伴い,腎腫瘍を指摘される患者が著しく増加しており,2010年の腎癌の罹患患者数は16,963人,死亡数は7,560人(男性4,925人,女性2,635人)で,全癌死亡の2.1%を占めていた1)。腎細胞癌の多くは転移がなく根治手術の適応となるが,ほかの癌種と異なり術後5~10年以上経過して転移が出現したり,初診時すでに転移を有する症例は20~30%存在する。したがって,全癌死亡に占める割合は低いものの,最終的な腎細胞癌による死亡率は40%と高い。腎細胞癌のほとんどは散発性であるが,一部はvon Hipple-Lindau(VHL)病,遺伝性乳頭状腎癌,遺伝性平滑筋腫症腎癌やBirt-Hogg-Dube症候群など家族性である。散発性でも1親等親族に腎細胞癌を認めた場合には,リスクは2~4倍といわれている。罹患のリスク因子としては喫煙,肥満,高血圧や透析腎などが挙げられている。

088 良性腫瘍(血管筋脂肪腫など)

著者: 小林実 ,   森田辰男

ページ範囲:P.255 - P.257

1 疾患概念,病因

 腎の良性腫瘍は腎皮質または実質や被膜の間葉系組織から発生し,一般に画像診断にて悪性腫瘍との鑑別は困難である。女性は男性に比して良性腫瘍の頻度が高く,45歳以下の女性で腎細胞癌が疑われた症例の約1/3は組織学的に良性であったとの報告もある1)。ここでは,頻度が高く臨床的に重要なオンコサイトーマと腎血管筋脂肪腫に限って解説し,その他の腫瘍については要点を表1に示した。

089 腎芽細胞腫(ウィルムス腫瘍)

著者: 松井善一 ,   佐藤裕一

ページ範囲:P.258 - P.260

1 はじめに

 腎芽腫(Wilms腫瘍)の5年生存率は,この半世紀で30%から90%へと飛躍的に向上した。これは,麻酔管理・手術技術・画像診断・病理組織診断の向上,放射線・化学療法などの集学的治療の進歩,および大規模多施設共同スタディグループの成果によってなされた。現在の課題として,分子生物学的要素を加えたリスク分類と,それに基づく,より低侵襲な治療戦略および新規抗腫瘍薬の導入が研究されている。

腎盂尿管腫瘍

090 腎盂尿管腫瘍(悪性腫瘍)

著者: 松本一宏 ,   早川望

ページ範囲:P.261 - P.262

1 概念・病因

 尿路上皮由来の癌(腎盂癌,尿管癌,膀胱癌)の中では,膀胱癌が最も多く,上部尿路(腎盂・尿管)癌はその中の4~5%にすぎない。組織学的には尿路上皮癌が全体の90%を占める。そのほか,扁平上皮癌および腺癌がそれぞれ数%を占め,いずれも尿路上皮癌より予後は悪い。上部尿路癌は膀胱癌と同様に,空間的多発性(異所性多発)および時間的多発性(再発を繰り返す)の臨床的特徴を持っており,約40~50%の上部尿路癌において,同時性または続発性に膀胱癌を認める。一方,膀胱癌の先行や両側上部尿路発生は稀である。年齢別にみた上部尿路癌の罹患率は,50歳代から70歳代で高くなり,男性のほうが女性より約2~4倍多い。確立されたリスク因子としては,膀胱癌と同様に喫煙,合成化学染料,一部の医薬品(フェナセチンやシクロホスファミド)が挙げられ,また尿路結石に伴う慢性炎症の関与も指摘されている。

膀胱腫瘍

091 膀胱腫瘍(悪性腫瘍)

著者: 松本一宏 ,   早川望

ページ範囲:P.263 - P.264

1 概念・病因

 膀胱癌は,組織学的には尿路上皮癌が全体の90%を占める。そのほかに,扁平上皮癌および腺癌がそれぞれ数%を占める。膀胱癌の臨床的特徴として,空間的多発性(異所性多発)および時間的多発性(再発を繰り返す)が挙げられる。年齢別にみた膀胱癌の罹患率は,男女とも60歳以降で増加し,男性の罹患率は女性の約2~4倍である。喫煙は膀胱癌のリスク要因であり,非喫煙者に比べ2~4倍の発症リスクがある。また,職業性曝露として,合成化学染料も確立したリスク要因である。そのほか,フェナセチンやシクロホスファミドの連用も医原性の発癌要因として知られている。

尿道腫瘍

092 尿道腫瘍(悪性腫瘍)

著者: 中村晃和

ページ範囲:P.265 - P.267

1 概念・病因

 尿道癌は,全悪性腫瘍の1%以下という稀な疾患であり,女性で頻度が高いといわれている。さらに,男性と女性で尿道の解剖,組織学的な成り立ちが異なっているため(図1),男性尿道癌と女性尿道癌を分けて理解する必要がある。

前立腺腫瘍

093 前立腺肥大症

著者: 曽我倫久人

ページ範囲:P.268 - P.270

1 概念,病因

 前立腺肥大症(benign prostate hyperplasia:BPH)とは,前立腺の良性過形成による下部尿路機能障害を呈する疾患と定義されている1)。BPHに伴う症状は,排尿障害と蓄尿障害が存在し,排尿障害は,下部尿路の閉塞により尿流速が低下した状態で,蓄尿障害は,下部尿路の閉塞により二次的に膀胱の蓄尿障害が発症した状態である。病因として加齢があり,年齢とともに前立腺容量は増大し,最大尿流率が低下,残尿量が増加することは知られている(図1)2)。BPHの発症機序は明確には証明はされていないが,思春期に去勢を行った場合には発症しないことより,男性ホルモンの変化が関与することが推測されている3)

094 前立腺癌

著者: 曽我倫久人

ページ範囲:P.271 - P.272

1 概念,病因

 前立腺癌は,腺房分泌上皮細胞由来の腺癌が主であり,基底細胞消失を示す上皮単層化腺管の集簇性増殖と核異型が特徴である。発生頻度に人種差があることが知られており,アジア系の発生頻度は低値であるが,50歳以降に加齢とともにその頻度は急上昇する。一親等もしくは二親等の親族に前立腺癌の既往がある場合,危険率は約9倍になる。動物性脂肪の摂取は危険因子とされ,大豆製品,緑黄色野菜の摂取は危険率を下げる1)

精巣腫瘍

095 精巣腫瘍(悪性腫瘍)

著者: 中村晃和

ページ範囲:P.273 - P.275

1 概念・病因

 精巣に発生する腫瘍の総称で,90~95%は精巣胚細胞腫瘍であり,一般的には精巣腫瘍という場合,精巣胚細胞腫瘍のことを指す。

 精巣腫瘍は,多方向に分化可能な胚細胞から発生し,セミノーマに分化するものと胎児性癌を経て奇形腫または絨毛癌・卵黄囊腫に分化していくものに分かれる。約30~40%でリンパ行性に後腹膜リンパ節転移や,血行性に肺転移などをきたす。

陰茎腫瘍

096 陰茎腫瘍(悪性腫瘍)

著者: 大城吉則 ,   呉屋真人 ,   斎藤誠一

ページ範囲:P.276 - P.278

1 概念・病因

 陰茎癌は陰茎亀頭から包皮に発症する腫瘍であり,そのほとんどが扁平上皮癌である。発症頻度は地域,人種,社会・文化的習慣そして宗教的慣例でも異なる。陰茎癌の発生は包茎が深く関与し,それによる局所の不衛生・慢性の感染状態が原因とされ,割礼の習慣のあるユダヤ教徒,米国のキリスト教徒では稀で,割礼習慣のないアジアおよびアフリカではその発症頻度が高いと報告されている。

 最近ではヒューマンパピローマウイルス(HPV)16もその発症に関連しているといわれている。そのほかのリスクファクターとしては,光化学療法(ソラレン+UV-A)を受けている者,多数の性的パートナー,コンジローマ,喫煙などが挙げられる1)

その他の腫瘍

097 後腹膜腫瘍

著者: 初鹿野俊輔 ,   小山政史 ,   上野宗久

ページ範囲:P.279 - P.280

1 概念・病因

 後腹膜はさまざまな成分の組織を含むため,発生する腫瘍の組織型も多岐にわたる(表1)。本項では中でも問題になる後腹膜原発軟部組織肉腫(retroperitoneal sarcoma:RPS)について詳細を述べる。

 RPSは悪性疾患のうち比較的頻度は低く,全軟部組織肉腫の中でも15%程度である。好発年齢は60歳代であるが,幅広い年齢に発症する。男女差はやや男性に多い。RPSはかなり大きくならないと症状を呈さないため,診断時に局所進行している症例が多い。症状としては,腫瘤触知や,鈍痛,腹部不快,全身倦怠感などを呈する。組織学的には悪性度の高いものが多いのが特徴的である。組織型としては脂肪肉腫(41%),平滑筋肉腫(28%),悪性線維性組織球腫の順に多い。また,初診時に転移を有するものが10%ほどあり,好発転移部位は肺・肝である1)

098 尿膜管腫瘍

著者: 初鹿野俊輔 ,   小山政史 ,   上野宗久

ページ範囲:P.281 - P.282

1 概念・病因

 尿膜管癌は膀胱癌の1%以下の頻度であり,組織学的には80%以上が腺癌である。好発年齢は50歳前後と膀胱癌より若年に多く,男女比2~3:1と男性に多い。症状としては血尿が最多で,ほかに膀胱炎症状・下腹部不快・下腹部腫瘤などがある。しかし自覚症状は比較的に乏しいために診断時には進行期であることが多く,組織学的に悪性度の高いものが多いことから,予後不良な疾患とされている。また悪性腫瘍の中でも比較的転移は少なく,局所浸潤傾向が強いのが特徴である。再発様式としては局所再発が遠隔転移より多い。転移先部位としては,肺・肝・骨・大網・骨盤リンパ節などがある。

8 内分泌疾患 副甲状腺(上皮小体)疾患

099 原発性副甲状腺(上皮小体)機能亢進症

著者: 小出卓生

ページ範囲:P.283 - P.284

1 概念・病因

 上皮小体(副甲状腺,parathyroid gland)は前頸部の甲状腺裏面に接するように存在する4個の1/3~1/4米粒大の内分泌腺であり,ここから分泌される副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone:PTH)はカルシウム代謝の主役である。現在,独語訳の「上皮小体」と英語訳の「副甲状腺」という両者の語句が使われているが,本稿では英語訳の「副甲状腺」という呼称に統一する。原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism:PHPT)とは,このparathyroid gland(s)からのPTHの過剰分泌による全身性のカルシウム代謝異常疾患である。無症候性(化学型)PHPTと,尿路結石症(結石型)や骨病変(骨型)さらには消化器症状や精神症状ほかの多彩な症状(高Ca血症状とも呼ぶ)を呈する症候性PHPTがある。

 病因としては,90%以上のPHPT症例が副甲状腺腺腫,5~10%前後で過形成が原因であり1,2),癌腫は稀である。

100 二次性副甲状腺(上皮小体)機能亢進症

著者: 小出卓生

ページ範囲:P.285 - P.286

1 概念・病因

 本項でも前項(99項)で断ったように,「副甲状腺」「上皮小体」の両者の呼称のうち「副甲状腺」に統一する。

 末期慢性腎疾患(CKD)患者や透析患者では,VDほかカルシウム代謝関連諸因子が関与して慢性的副甲状腺ホルモン(PTH)分泌刺激状態が継続する。この結果,副甲状腺過形成が進行し,二次性副甲状腺機能亢進症(secondary hyperparathyroidism:SHPT)を引き起こす。末期CKD・透析患者では,PTHの過剰分泌にもかかわらずVD活性化障害のために腸管でのCa吸収促進が亢進することなく,骨吸収の亢進や,高P血症と相まって血管や軟部組織の異所性石灰化などを生じる。放置すれば重篤な合併症を惹起するため,多くのSHPT患者で副甲状腺亜全摘除術や副甲状腺全摘除術+部分自家移植術(本項では,両手術をPTxと総称する)が行われてきた。

男性不妊症

101 特発性男性不妊症

著者: 窪田裕樹

ページ範囲:P.287 - P.288

1 概念・病因

 WHOによれば,不妊症とは「避妊をしていないにもかかわらず1年以上妊娠が得られない状態」を指しており1),不妊カップルの50%には男性不妊が認められる2)とされている(図1)。男性不妊の原因には次項(続発性男性不妊症)で述べるようなさまざまな因子が含まれるが,EAUのガイドライン3)では,不妊症の原因となる因子を認めないのに精液所見に異常をきたしているものを特発性男性不妊症と定義している。報告により30~70%とばらつきはあるが,男性不妊症の分類の中では最も多数を占めている。

 その病因は未解明ではあるが,内分泌環境の乱れや活性酸素,遺伝子異常などがもたらす結果として,精子形成障害が引き起こされると推測されている。一般的には,原因の明らかでない精子形成障害を特発性男子不妊症として扱うことが多い。

102 続発性男性不妊症

著者: 窪田裕樹

ページ範囲:P.289 - P.290

1 概念・病因

 過去に妊娠に至った経緯のある不妊症を続発性不妊とする成書もあるが,本稿では原因不明の特発性男性不妊症に対して,不妊の原因となりうる疾患を合併しているものを続発性男性不妊症とする。

 EAUのガイドライン1)では,続発性男性不妊症の原因には以下の因子が挙げられている。先天的あるいは後天的な尿路性器の奇形,尿路性器の感染症,陰囊内温度の上昇(精索静脈瘤),内分泌疾患,遺伝子異常,免疫因子。これらの結果として,精子形成障害や精路通過障害,副性器障害が起こり男性不妊となるが,それ以外に性機能障害や射精障害も男性不妊症の原因として重要である。主な男性不妊症の原因と頻度を表1に示す。

103 閉塞性無精子症

著者: 永尾光一 ,   田井俊宏 ,   小林秀行

ページ範囲:P.291 - P.293

1 概念・病因

 無精子症は,少なくとも2回の検査において,遠心分離した射出精液中に精子が検出されないものと定義される。閉塞性無精子症は無精子症の約15%で,①精巣容積が正常(少なくとも片側精巣14ml以上)で,②血清卵胞刺激ホルモン(FSH)が正常であれば約90%の確率で精巣内に精子が存在するものである。精巣容積正常かつFSH正常でも精巣内に精子を確認できないmaturation arrestがあるので,注意が必要である。

 病因として,精管切断術(いわゆるパイプカット),両側鼠径ヘルニア手術,両側精巣上体炎などの既往があれば精路閉塞が強く疑われる。精巣容積正常,FSH正常で精液量が1ml未満の場合,逆行性射精,精管欠損,射精管閉塞が疑われる。逆行性射精の原因としては糖尿病が有名である。

104 非閉塞性無精子症

著者: 永尾光一 ,   田井俊宏 ,   小林秀行

ページ範囲:P.294 - P.296

1 概念・病因

 無精子症は,少なくとも2回の検査において,遠心分離した射出精液中に精子が検出されないものと定義される。非閉塞性無精子症は,精巣生検で確定診断される。精巣容積12ml以下でFSHが高値であれば非閉塞性無精子症と診断されるが,精巣容積が正常(14ml以上)の場合もある。非閉塞性無精子症の病因には,染色体異常,精巣炎,精巣腫瘍,停留精巣,精索捻転症,精索静脈瘤,受容体異常,内分泌異常,抗がん剤治療,放射線治療などがあるが,原因不明が最も多い。

9 その他の疾患 尿管および後腹膜疾患

105 後腹膜(腔)線維(化)症

著者: 小松和人

ページ範囲:P.297 - P.298

1 概 念

 後腹膜(腔)線維(化)症〔以下,後腹膜線維症(retroperitoneal fibrosis)〕は,主に大動脈分岐部から総腸骨動脈周囲の後腹膜腔にびまん性に広がる線維組織の増生を特徴とする疾患である。その結果,尿管狭窄,水腎症,腎機能の荒廃を惹起することから,泌尿器的加療の適応となる。

 1948年のOrmond1)の報告を嚆矢とするが,薬剤,血管の炎症などに起因する以外,その多くは従来,特発性とみなされてきた。しかしながら近年,IgG4陽性形質細胞浸潤を特徴として,腎尿路を含む全身臓器の線維化を生ずるIgG4関連硬化性疾患が本疾患と関係があるとの報告が散見され,注目されるようになった2)

膀胱疾患

106 間質性膀胱炎

著者: 上田朋宏

ページ範囲:P.299 - P.300

1 概念・病因

 本疾患の出発点は,原因不明の非細菌性慢性炎症性膀胱疾患である。膀胱上皮に特徴的なびらん局面を認め「ハンナー潰瘍」と呼ばれ(図1),しかも膀胱痛がひどく末期に萎縮膀胱にまで発展する。原因は特定されておらず,結果として尿路上皮の透過性の亢進,間質の肥満細胞の活性化,さらに膀胱上皮の新生血管の集簇が特徴的である。主に原因不明の膀胱痛症候群に位置づけられているが,尿がしみこんで痛みを起こしていることが明らかになっている1)。よって,今後の病因のfocusは尿路上皮と尿になると予想されている。

107 出血性膀胱炎

著者: 上田朋宏

ページ範囲:P.301 - P.302

1 概念・病院

 薬物(イホスファミド,シクロスポリン,トラニラスト,ペニシリン系抗生剤,漢方薬)の代謝産物のアクロレインが直接膀胱粘膜毒性を持つため,出血性膀胱炎を起こすといわれている。昨今,動脈硬化など血管障害が起こることで内因性にも産生されることがわかってきている。同様に放射線でも同じ病態は生じる。また,間質性膀胱炎の病態と同じくアレルギー性膀胱炎が原因とも考えられている。

 図1は間質性膀胱炎の病態図であるが,膀胱粘膜が障害されることがグリコサミノグリカン(GAG)の障害と同義であり,基本的に病態は同じと考えてよい。

108 膀胱憩室

著者: 野崎哲夫 ,   布施秀樹

ページ範囲:P.303 - P.304

1 概念・病因

 膀胱憩室とは,膀胱内腔粘膜が膀胱壁の筋層を脱出し,膀胱壁外へ部分的に拡張した状態をいう。組織学的に膀胱憩室壁は,粘膜・粘膜下層結合組織または固有層・薄い平滑筋の成分とで構成されている1)。この平滑筋成分は一般的に収縮機能を欠いており,排尿効率の低下から残尿量増大の原因となる。

 膀胱憩室の成因は先天性と後天性とに分けられる。先天性膀胱憩室はMenkes症候群やEhlers-Danlos症候群,prune belly症候群など,さまざまな先天性疾患に併発することがある。男児に多く,尿管口あるいは膀胱頸部近傍に存在することが一般的で,胎児期の尿管芽の膀胱への接合異常が関連しているものと考えられている2)

109 膀胱瘤

著者: 野崎哲夫 ,   布施秀樹

ページ範囲:P.305 - P.306

1 概念・病因

 膀胱瘤は膀胱底部が腟前壁に覆われたまま膨隆し腟前壁から突出した状態で,高度になると腟口より膀胱底部が会陰部に脱出する。従来は突出した部位によって膀胱瘤,子宮脱,直腸瘤など,別々の疾患として取り扱われてきたが,近年は骨盤臓器脱(pelvic organ prolapse:POP)と総称するようになってきた。骨盤内臓器は本来あるべき位置で支持固定され,なおかつ排尿や排便時にはそれら臓器がうまく変形・変位しなければ正常な機能を保つことができない。この骨盤内臓器を支える重要な働きをしているのが骨盤底筋群である。骨盤底筋群は前方の恥骨と後方の尾骨との間にあるハンモック状の筋肉群であり,腟がその中央に位置する。骨盤底筋を形成する筋肉は生理学的に他の骨格筋と異なり,排泄時以外では緊張した状態を常に保ち,骨盤筋膜のネットワークによって骨盤内臓器を牽引支持している。骨盤臓器脱は骨盤内臓器を支持している靱帯や筋膜,骨盤底筋群の脆弱化を原因とした骨盤内臓器の支持不良により生じる。そのため骨盤臓器脱に対する基本的治療の方針は,解剖学的な異常を改善することにより機能を改善に導くことである1)

 骨盤臓器脱は妊娠・経腟分娩・肥満・便秘・神経筋疾患に,加齢に伴う変化が加わることで各支持機構が破綻し発症する。主な症状としては,膀胱下垂感,会陰部違和感,過活動膀胱,腹圧性尿失禁などがある2)。しかし,さらに高度の膀胱瘤になると,腟口からの腫瘤の脱出・脱出腟粘膜のびらん・出血・痛み,そして排尿困難や尿閉を呈する。軽症では腫瘤は用手的に整復可能だが,重症例では整復してもすぐに再脱出する。

尿道疾患

110 尿道狭窄

著者: 長岡明

ページ範囲:P.307 - P.308

1 概念・病因

 尿道狭窄とは,尿道壁の伸展性が低下し尿道内腔が狭くなり下部尿路症状を呈する病態を指す。尿道の構造は男女で異なり,尿道狭窄は男性に多い。また尿道狭窄は年齢に伴い増加し,英国では男性の尿道狭窄は若年者では10,000人に1人であるのに対し,55歳で2人,65歳で4人,65歳以上で10人と報告されている1)。尿道狭窄の原因は医原性,原因不明の特発性,外傷性が多く,淋菌感染に続発するものは今日では稀である2,3)

 前部尿道狭窄の成因は,尿道粘膜から尿道海綿体に至る線維化・瘢痕形成および瘢痕の収縮の結果,尿道内腔が狭くなって起こる。これに対し後部尿道狭窄は外傷や前立腺全摘などにより引き起こされる線維化による閉塞として起こる4)

111 尿道カルンクル

著者: 長岡明

ページ範囲:P.309 - P.310

1 概念・病因

 尿道カルンクルは女性の外尿道口部にみられる良性のポリープで,閉経期以降の女性に認められることが多い。自覚症状としては無症候性のことが多いが,排尿後ティッシュに血液が付着したり,下着に血液が付着しているのに気づくことが多い。また,しみるような疼痛や頻尿を伴うことがある。カルンクルが大きい場合は尿線の散乱を認めるが,排尿困難を呈することもある。

 肉眼的には有茎性および無茎性の形態をとり,好発部位は尿道後壁6時方向であるが,外尿道口部の尿道前壁や他の尿道内に認められることもある。大きさは数mm~2cm前後であり,肉眼的には鮮紅~暗赤色の,もろく軟らかい結節上ポリープの外観を呈することが多い。組織学的には多様な上皮下の急性および慢性炎症,浮腫,血管増生,線維化と上皮の過形成が認められる1~4)。病理組織学的分類としては,①乳頭状型(papillomatous type),②血管腫型(angiomatous type),③肉芽腫型(granulomatous type)の3型が報告されている5)が,広く用いられている分類はなく,治療法や予後に違いはみられない。

陰囊内容の疾患

112 陰囊水腫

著者: 白石晃司

ページ範囲:P.311 - P.312

1 概念,病因

 陰囊水瘤,精巣水腫,精巣水瘤と同義である。精巣および付属器は胎生期に腹腔内から陰囊内へ下降する際に,腹膜の一部が一緒に引き降ろされる。この部分は精索上で腹膜鞘状突起として閉鎖し,精巣表面においては臓側板および壁側板により形成される精巣固有鞘膜腔として存在する。その内面を覆う腹膜からの分泌液が貯留した状態が主に成人で認められる,非交通性陰囊水腫である。小児例では腹膜鞘状突起が閉鎖していないため,腹腔内の腹水が流れ込む交通性陰囊水腫であり,鼠径ヘルニアと病態は同じで同義に扱われることが多いが,固有鞘膜内に内容物(腸など)が存在しない限り定義上ヘルニアとは言わない。

113 精索静脈瘤

著者: 白石晃司

ページ範囲:P.313 - P.314

1 概念,病因

 男性不妊外来の30~40%の患者に精索静脈瘤が認められる。陰囊痛にて受診するケースも稀ではない。内精静脈の拡張によるうっ血により,陰囊温度の上昇,精巣内の低酸素,toxic substanceの逆流や蓄積により造精機能障害が生じる。解剖学的理由により大部分が左に生じるが,右側の造精機能も低下することより,温度上昇による精巣内酸化ストレスの亢進が考えられるが1),骨盤内での左右の静脈のanastomosisも報告されており,その病態についてはいまだに一概には説明はできない2)

男性器疾患

114 射精障害

著者: 並木俊一

ページ範囲:P.315 - P.316

1 診療の概要

 射精と呼ばれる生理現象は,①精液が後部尿道へ排出される現象(seminal emission),②後部尿道に排出された精液が尿道周囲群の律動的な収縮により体外へ射出される現象(ejaculation),③射精時における内尿道口の閉鎖現象,という3つの過程があり,射精時の絶頂感(オルガスム)はこれらに付随して存在すると考えられる。

 射精障害には,早漏(premature ejaculation:PE),射精遅延,無射精症,逆行性射精,無オーガズムがある。PEは腟挿入後,いつもあるいはほとんど常に約1分以内に射精してしまい苦痛,不満などの悪影響をもたらす状態である(International Society for Sexual Medicine 2012)。続発性および/あるいは状況依存性PEは心因的原因,原発性および/あるいは状況非依存性PEは身体的原因が推察される。またPEの約30%にEDの合併が認められ,完全な勃起の前に射精が起こる。PEは非常に頻度の高い障害であり,正確な有病率は30%との報告もある1)。オーガズム障害もPE同様,原発性か続発性か,状況性か非状況性か,に分類される。器質的あるいは機能的な原因の多くは表1のように指摘されている。射精の中枢あるいは精管や膀胱頸部の末しょう神経系,骨盤・陰茎の体性神経系などの障害を引き起こすことが多い。前立腺あるいは膀胱の手術後に発生することも多い。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの薬物が誘導することもある。また,射精遅延はほかの性機能障害と同様に,加齢とともに頻度が増加する2)

115 血精液症

著者: 並木俊一

ページ範囲:P.317 - P.318

1 診断の概要

 血精液症とは,精液に血液が混入する状態で,疾患というよりは1つの症状である。泌尿器科外来診療においては決して稀なものではないが,原因がはっきりしないことが多く,診療にあたる個々の医師の判断や患者の年齢によっても検査方針が少なからず異なっている。年齢は20~60歳代に発症し,40歳代に最も多い1)。随伴症状を認めないものが多いが,排尿困難,頻尿,排尿時痛,会陰部不快感などの症状を伴うこともある。血精液症の原因疾患を表1にまとめた。

 従来,精囊,前立腺疾患に由来するものと原因不明の特発性のものがあるとされてきたが,血精液症のほとんどは精囊内出血であり,その原因としては精囊炎,精囊結石,精囊憩室,精囊腫瘍,前立腺炎,前立腺結核,前立腺肥大症,前立腺癌などが挙げられる。精囊,前立腺疾患以外では,高血圧,糖尿病,アレルギー疾患,アミロイドーシスに合併することがあり,特に糖尿病はrisk factorである。また最近急増している前立腺生検による医原性も報告されている。

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編集後記 フリーアクセス

ページ範囲:P.320 - P.320

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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