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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科67巻9号

2013年08月発行

雑誌目次

知っていると役立つ泌尿器病理・17

症例:50代・男性

著者: 清水道生

ページ範囲:P.643 - P.646

症例:50代・男性

 数か月前より陰囊部に紅斑がみられたが放置していた。自然治癒しないため来院し,同部の生検が行われた。図1,2はその代表的な組織像である。

 1.鑑別診断を述べよ。

 2.病理診断は何か。

綜説

筋層非浸潤性膀胱癌治療の問題点と展望

著者: 藤本清秀 ,   穴井智 ,   千原良友

ページ範囲:P.651 - P.661

要旨 膀胱癌の初期診断と治療は経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)で行われるが,TURBTによる切除と病理診断が確実でなければ,その後不適切な治療が選択され,患者の予後やQOLを悪化させることになる。また,筋層非浸潤性膀胱癌では再発・進展を予防するために,second TURや術後膀注療法を追加することは有用な選択肢であり,また最近普及を見せている蛍光膀胱鏡も有用であるが,研究施設やグループによってTURBT単独治療を含め治療成績は大きく異なっている。本稿では,筋層非浸潤性膀胱癌に対するTURBTと術後補助療法の問題点や今後の課題についての考察を試みた。

書評

「Medicine―医学を変えた70の発見」―William Bynum,Helen Bynum 編鈴木晃仁,鈴木実佳 訳 フリーアクセス

著者: 市野川容孝

ページ範囲:P.662 - P.662

 テレビ・シリーズの『大草原の小さな家』に,たしかこんなシーンがあった。ローラが学校から家に帰ってくると,姉のメアリーが本を読んでいる。ローラが「何,読んでるの?」と尋ね,メアリーが「歴史の本よ」と答えると,ローラは次のように言って,そそくさと外に遊びに行ってしまう。「そんな死んだ人たちの話なんか読んで,何が面白いの。ぞっとしちゃう」。

 勉強しないで遊びに行くことを正当化するために,たぶんローラはそう言ったのだが,ローラのこの言葉はなかなか本質をついている。人間は今を大切に生きるべきであって,その今を昔のために費やすことに一体,何の意味があるのか。ローラに歴史の本を読ませるのは大変だ。今の自分につながる歴史の本でなければ,ローラは決して読んでくれないだろう。

「日野原重明ダイアローグ」―日野原重明 著 フリーアクセス

著者: 髙久史麿

ページ範囲:P.678 - P.678

 本書は日野原重明先生の講演録,インタビュー,座談会などを中心にまとめたもので,話の内容は,W・オスラー博士の数々の言葉の紹介,医学教育,研修制度,プライマリ・ケア,ホスピス,診療録,臨床疫学の在り方,EBM,看護教育など極めて広範囲にわたっている。

 日野原先生はさまざまなシステムを日本に導入された医学・医療の先駆者として,日本で最も尊敬されている医師である。本書を通読して痛感したのは,私たちが常日ごろ感じている医学教育や医療の在り方に関するさまざまな問題点を,1973年の座談会「英国の医療とプライマリ・ケア」(J. Fry氏,紀伊國献三氏,小林登氏)に始まり,2005年の座談会「誰がために記録はある」(児玉安司氏,阿部俊子氏)に至るまで,一貫して日野原先生が指摘されておられることである。「医療はscienceをベースにしたartである」ということをたびたび強調されていることも印象深い。

「誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた―重篤な疾患を見極める!」―岸田直樹 著 フリーアクセス

著者: 青木眞

ページ範囲:P.685 - P.685

 本書は「風邪」診療と「不明熱」診療の距離が極めて近接していることをあらためて認識させる良書である。「風邪は万病のもと」というが,恐らく正確には万病は病初期,みな風邪のようにみえるということなのだと思う。言い換えれば問題の臓器も病因も不明なのである。“Harrison”の内科書で長らく感染症を担当したPetersdorfは「多くの病気が不明熱と名づけられている。それは医師が重要な所見を見逃し,無視するためである」と喝破した。これは評者が長らく指摘してきた「風邪」という診断名の乱用が問題臓器と病因の検討不足の表現である事実とも関連している。さらに外科学領域の古典ともいえる“Cope's Early Diagnosis of Acute Abdomen”が「胃腸炎という診断は,まだ診断できていない病態に名前を与える行為であることが多い」とコメントしていることも,胃腸炎と風邪の違いはあれど同じ性質の病根を扱っている。

「ティアニー先生のベスト・パール2」―ローレンス・ティアニー 著 松村正巳 訳 フリーアクセス

著者: 八重樫牧人

ページ範囲:P.701 - P.701

 ティアニー先生は「診断の神様」といわれ,NIH(米国国立衛生研究所)が毎年1名だけ選出するGreat Teacherにも選ばれたことがある全米を代表する総合内科医である。症例カンファレンスでの卓越した診断能力・教育能力,そして愛すべき人柄にファンが多く,毎年日本全国から講演依頼が殺到している。それだけでなく,先生の影響で臨床診断学や総合内科に興味を持ち,キャリアまでも変えた医師も数多い。数多くの症例カンファレンスで,ほんの一握りの追加情報が加えられただけで,診断に卓越した医師ならどう考えるかを研修医にもわかりやすくホワイトボードに書きながら語りかけてくれる。その診断能力が素晴らしいのはいうまでもないが,臨床医学の「愉しさ」が伝わってくるのもティアニー先生のカンファレンスの特徴である。

 診断能力などの技能を極めるためにはその分野が好きであることが近道である。好きであれば技能を極めるために必要な努力を惜しまず,積極的に努力できる。ティアニー先生のカンファレンスが素晴らしいのは,本来ならばティアニー先生の技能がないと感じられない臨床診断の「愉しみ」を,参加者までもが感じられるからではなかろうか。医療のサイエンスではなくアートの部分である。

「アウトブレイクの危機管理 第2版―新型インフルエンザ・感染症・食中毒の事例から学ぶ」―阿彦忠之,稲垣智一,尾﨑米厚,中瀨克己,前田秀雄 著 フリーアクセス

著者: 田上豊資

ページ範囲:P.714 - P.714

 本書の第1版が出版されたのは2000年である。当時は1995年に阪神・淡路大震災,1996年に堺市のO157食中毒事件が発生した後であり,公衆衛生現場に健康危機管理の機運が高まっていた。それから12年が経過し,公衆衛生現場待望の第2版がこのたび,出版された。この間,2002年のSARS,2003年の鳥インフルエンザ,2009年の新型インフルエンザといったグローバルな健康危機が発生した。また,2年前には東日本大震災という未曽有の災害も発生した。本書から学ぶ健康危機管理の対応が求められる事例は引き続き起こっているのである。

 本書が大学で学ぶ教科書と全く異なるのは,現場従事者に役立つ実践的な本づくりに徹している点である。著者(阿彦忠之氏,中瀨克己氏,前田秀雄氏,稲垣智一氏)は,保健所や衛生研究所,本庁等において公衆衛生行政に長く従事されている実務者であり,著者代表の尾﨑米厚氏も,現在は鳥取大学で教鞭をとっておられるが,以前は国立公衆衛生院で公衆衛生医・保健師の現任教育や研究に携わっている。本書は,こうした現場の公衆衛生に精通した執筆陣が具体事例を集めて執筆した,いわば「現場がつくった現場に役立つ実践テキスト」である。

「腹膜透析スタンダードテキスト」―中本雅彦,山下明泰,髙橋三男 著 フリーアクセス

著者: 斎藤明

ページ範囲:P.720 - P.720

 このたび,腹膜透析についての新刊『腹膜透析スタンダードテキスト』を読む機会を得た。腹膜透析の原理などの基礎知識から治療の実際,用いられる機器の使用法,治療効果とその評価,合併症の病態と治療,患者教育など,医師,医療スタッフが腹膜透析を実施するうえで必要な知識がコンパクトに網羅されていた。特に,腹膜における構造と拡散の関係や物質除去のキネティックモデル解析にも続いた治療法と効率の関連などに関する丁寧な記述については感銘を覚えた。既に,腹膜透析の解説書,テキストといわれるものは多く存在するが,これほど完成度の高いものを見ることはなかった。その主な理由は,今までのテキストのほとんどが腹膜透析の経験や臨床研究に長けた1人または複数の臨床家が関連する項目を分担し合って書いたものであり,原理的な説明が未熟であったり,内容上のバランスが偏ったりすることが多く,本書のごとく基礎から臨床まで,また,原理から使用機材の解説までバランスの取れた内容のテキストは存在しなかったように思われる。

 本書の優れた内容には,3人の著者がいずれも腹膜透析がわが国に導入された初期から深くかかわった方々であることのみならず,それぞれ,医工学,臨床医学,そして,機器・透析液の開発とその臨床への導入と販売という異なる立場から腹膜透析治療に深くかかわった方々であるという特徴が章の中に有機的に組み込まれている点であろう。中本雅彦氏が腹膜透析の臨床と研究の第一人者であることはいうまでもない。医工学領域でありながら山下明泰氏は工学系大学院を終えた若いころの数年を臨床病院に在籍され,また,持続携行型腹膜透析(CAPD)の生みの親であるMoncrief先生とPopovich先生が教鞭をとられたテキサス大学オースチン校の研究室に在籍し,講義まで受け持たれた実績を有する方であり,CAPDの原理やキネティックモデル解析にも続いた治療システムの提案,コンピュータ機能評価システム構築など臨床を踏まえた腹膜透析の科学的進歩に貢献され,難しいはずの内容がわかりやすく本書中にちりばめられている。また,髙橋三男氏は30年にわたりバクスター社をはじめ腹膜透析関連企業での機器・透析液開発や在宅治療としてのCAPD治療におけるソフトウェアの開発に従事され,それらの臨床現場への導入に長けた方であり,このようなメーカーの方の参画も今まであまりなかったことである。

手術手技 泌尿器腹腔鏡手術―もう一歩,ステップアップするために・6

腹腔鏡下腎部分切除術

著者: 秋田英俊

ページ範囲:P.665 - P.671

要旨 近年,小径腎細胞癌の発見頻度が増加している。小径腎癌に対する手術は,腎部分切除術が一般的になりつつあり,また,腹腔鏡下での適応が増加してきている。摘出標本も腎摘出術より小さいため,腹腔鏡のメリットも大きくなる。反面,腎阻血時間が開放手術より長くなるデメリットもある。腹腔鏡下手術の適応は,腫瘍部位や技術的因子で決定されることになる。本稿では腹腔鏡下腎部分切除術に対する手技を中心に概説する。

腹腔鏡下腎部分切除術

著者: 小原航 ,   岩崎一洋 ,   高田亮 ,   藤岡知昭

ページ範囲:P.673 - P.677

要旨 腹腔鏡下腎部分切除術は,技術的難易度が高い手術とされるが,制癌性と機能温存を兼ね備えた低侵襲性の治療法である。難易度は症例ごとに多様であり,手術適応に関しては術者の経験と技量に基づく場合も多く,慎重に検討する必要がある。術者はあらゆる事態を想定して準備を行い,可能性のある合併症に対して柔軟に対応する技術も必要とされる。

腹腔鏡下腎部分切除術

著者: 宮嶋哲 ,   水野隆一 ,   菊地栄次 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.681 - P.684

要旨 小径腎癌に対する腎部分切除術は,もはやガイドラインにおいて第一選択である。しかしながら,制癌効果と機能温存効果を達成しつつ安全に手術を行わなくてはならず,腹腔鏡下腎部分切除術は難易度の高い術式の1つである。小径で発見される腎癌が増加する昨今,手術の低侵襲性が求められ,本術式への期待度は高くなると思われる。腹腔鏡下腎部分切除術を安全に施行する方法について詳述する。

原著

初回前立腺生検におけるhigh-grade prostatic intraepitherial neoplasia(PIN)およびatypical glands症例の臨床病理学的検討

著者: 中井靖 ,   田中宣道 ,   平山暁秀 ,   藤本清秀 ,   平尾佳彦 ,   島田啓司 ,   小西登

ページ範囲:P.689 - P.694

 初回前立腺針生検において,high-grade PIN(HGPIN)やatypical glands(AG)と診断された症例における臨床的,病理学的特徴を検討するため,レトロスペクティブに初回前立腺針生検患者678名を対象とした。HGPINとAGの発生率はそれぞれ3.7%(25例),1.0%(13例)であった。初回針生検の結果がAG,HGPIN,癌を認めなかった症例に対する再生検癌陽性率は,それぞれ40%,40%,24.7%であり,HGPIN,AG群と癌を認めなかった群の間に統計学的に有意な差を認めなかった。癌を認めなかった群の再生検症例は,強く前立腺癌を疑う症例であり,またHGPINやAGを認めた症例の陽性率は40%と高いことから,HGPINやAGが再生検の指標となる可能性が示唆された。しかし,今回の検討は後ろ向きであり,さらなる症例の検討が必要である。

泌尿器癌骨転移症例に対するデノスマブの短期治療成績

著者: 池端良紀 ,   田中俊明 ,   北村寛 ,   高橋聡 ,   舛森直哉 ,   塚本泰司

ページ範囲:P.695 - P.700

 デノスマブは,固形癌骨転移症例の骨関連事象(skeletal-related events:SRE)のリスクを低下させる。本研究では2012年4~6月にデノスマブが投与された骨転移を有する泌尿器癌症例15例を対象とし,デノスマブの初期使用症例について安全性を検証した。また,ゾレドロン酸投与歴のある前立腺癌6症例において血清骨代謝マーカーを測定し,短期的効果を検討した。有害事象は無症候性の低カルシウム血症が4例,肝機能障害が1例に認められた。また,ゾレドロン酸投与時に骨代謝マーカー高値を示した症例で,デノスマブ投与後の改善を認めた。デノスマブは低カルシウム血症が高頻度に認められるものの安全に投与可能であり,また強い骨吸収抑制効果を持つことが示唆された。

症例

下腹部腫瘤を契機に診断された前立腺癌

著者: 漆原正泰 ,   柳澤良三

ページ範囲:P.703 - P.706

82歳男性がCTで骨盤腔を占拠する下腹部腫瘤を指摘され受診。PSAが32,110ng/mlと異常高値のため,腹部腫瘤生検と前立腺針生検の結果,グリソンスコア4+4前立腺癌と診断。下腹部腫瘤は骨盤内リンパ転移と診断。ホルモン治療を行い,1年4か月後PSA,画像上,どちらも良好な反応を示している。

Mycobacterium aviumによる会陰部膿瘍

著者: 福本桂資郎 ,   田村高越 ,   中島史雄

ページ範囲:P.707 - P.710

患者は56歳の男性。会陰部から陰囊にかけての瘻孔を主訴に当科を受診した。滲出液よりMycobacterium avium(以下,M. avium)を認めた。2011年1月12日よりclarithromycin(CAM)/rifampicin(RFP)/ethambutol hydrochloride(EB)による3剤併用療法を行ったが改善がみられず,2011年4月26日に会陰部瘻孔を外科的に切除した。M. aviumによる皮膚感染症は近年24時間風呂での感染例の報告が散見されており,家族内発生例もみられる。本患者では詳細な問診を行ったが,感染経路は不明であった。本例のように会陰部に生じた例は稀であり,若干の文献的考察を含め報告する。

小さな工夫

下肢関節拘縮患者に対する砕石位の工夫

著者: 甲斐文丈 ,   水野卓爾

ページ範囲:P.711 - P.711

 経尿道的操作を行う際に,股関節や膝関節の拘縮・固縮した患者では,通常の砕石位をとることが困難である。このような場合,われわれ泌尿器科医は,軟性膀胱鏡を使用したり,体位を工夫して上肢台で下肢を支え上げたり1),レビテータや体向を工夫したり2)しながら検査・手術を施行している。

 最近,当院で経験した症例を報告する。症例は91歳,男性。認知症,廃用症候群,胃瘻・膀胱瘻管理中。6cm大の膀胱結石に対し,腰椎麻酔下に膀胱砕石術を施行した。しかしながら,両下肢の著明な廃用性拘縮のため,通常の砕石位を取ることが不能であった。そこで,下記の方法で体位を取り,手術を完遂し得た(図1)。

気膀胱内手術に準じて作成した1本の3mmポートと小児膀胱鏡を併用した乳幼児の膀胱結石摘出術

著者: 坂本亘 ,   牧野哲也 ,   石井啓一

ページ範囲:P.712 - P.713

 乳幼児に対する尿路結石の頻度は低いが,遭遇した場合,その摘出方法に関して悩まされる場合が多い。通常,成人では当たり前に選択される内視鏡も,使用できるサイズの問題で制限される。また破砕片の摘出に難渋することが多く,残存が後日のトラブルになる場合もある。だからといって,開腹手術を選択するには躊躇が生じる。今回,手術を簡単にするため,気膀胱内手術に準じて作成した1本の3mmポートと小児膀胱鏡を併用した乳幼児の膀胱結石の摘出方法を考案したので供覧する。

 12か月女児,シスチン膀胱結石(30mm弱)。まず,気膀胱内手術に準じて,外尿道口から膀胱鏡を挿入し,下腹部正中に3mmのポートを膀胱内に作成した。膀胱は8mmHgのCO2で拡張させ,膀胱鏡の観察の下,3mmのポートから径2mmのリソクラストのプローベを直接挿入し,結石を破砕した(図1)。破砕片の摘出は,逆に3mmのポートから腹腔鏡用の光学視管を挿入し,この観察下,直接外尿道口から挿入した5mmの腹腔鏡鉗子を利用し,すべての破砕片を摘出した(図2)。

学会印象記

「AUA 2013 Annual Meeting」印象記

著者: 西原千香子

ページ範囲:P.716 - P.718

 2013年米国泌尿器学会議(AUA)は,本年5月4日~8日にかけてアメリカ合衆国カリフォルニア州のサンディエゴにて開催されました。私は2011年のワシントンDC以来2回目の参加でしたが,今回は初の英語での発表ということで緊張して出発しました。

 関西国際空港からサンフランシスコ経由でサンディエゴへ向かいましたが,サンフランシスコ-サンディエゴ便はAUAに参加される先生方で満席でした。無事サンディエゴに到着したものの同行の先生の荷物が出てこず,初のlost baggageを経験することとなりました。学会参加のためのスーツが入っていたためあわてましたが,追加のアメリカ旅行を楽しんだ荷物は同日深夜に無事手元に帰ってきました。

病院めぐり

木村泌尿器皮膚科

著者: 木村明

ページ範囲:P.719 - P.719

 2005年4月に横浜市北部の港北ニュータウンにオープンした皮膚泌尿器科クリニックです。院長の木村 明は,1978年に東大泌尿器科学教室に入局しました。27年間の勤務医生活に終止符を打ち,8年前横浜市都筑区センター南駅前に完成したばかりの医療モールの30坪の区画を借りて開業しました。

 泌尿器科単科での集患に自信がなかったため,皮膚科も標榜しております。1日の患者数は季節変動もありますが,平均すれば40人強。看護師は雇っておらず,事務・診療補助のスタッフが常時4人いる体制で診療しています。超音波検査はもちろん,採血も院長がやりますので,1日40人ぐらいがちょうどよい患者数と感じています。泌尿器科,皮膚科の患者割合は1:1です。皮膚科の学会・勉強会には,泌尿器科のそれより優先して出席して皮膚科の勉強を続けていますが,私が病棟で膀胱洗浄(膀胱内凝血除去)に明け暮れていた頃,ひたすら軟膏塗りをしていた先生たちにかなうわけもなく,患者が増えて経営が安定してからは,皮膚科患者(特に慢性疾患)は近くの皮膚科専門クリニックに紹介するようにしております。看護師を雇う,皮膚科非常勤医を雇う,という選択肢もあるのでしょうが,クリニックを大きくしようという意欲が私には欠如しているのかも知れません。

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.649 - P.649

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.723 - P.723

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.726 - P.726

著作権譲渡同意書 フリーアクセス

ページ範囲:P.727 - P.727

編集後記 フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.728 - P.728

 黒沢清監督が約5年ぶりの新作映画を公開されました。『リアル~完全なる首長竜の日~』は乾 緑郎氏原作のSFミステリーですが,ホラー色もあり,監督らしい意識的な撮影技術で,内容だけでなく映像も楽しむことができました。恋人の淳美(綾瀬はるか)が自殺をはかり,昏睡状態に陥っています。佐藤 健が演じる主人公浩市がセンシングという技術で淳美の意識に入り込み,自殺を図った原因を探ります。その過程で15年前に2人が住んでいた島での事件が浮かび上がってきました。意識と現実が交錯し,また,過去と現在の時空を行き来して,どこにいるのかわからなくなってくる物語です。

 この映画を見て,私は村上春樹氏の小説『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を思い出しました。この小説は1985年に発表された作者の4作目の長編小説で,パラレル・ワールド,つまり2つの物語が平行して展開する形式をとった小説です。現実と意識がどう対応しているのか,物語は重層的であり,訳がわからなくなってきます。『ハードボイルド・ワンダーランド』では,近未来的な「現実」で「計算士」として働く「私」が老博士から依頼を受け,地下の研究室を訪れるところから物語が始まります。『世界の終り』では,「僕」は四方が壁に囲まれた,一角獣が生息する街で,一角獣の頭蓋骨から昔の夢を読みながら日々を暮らしています。『ハードボイルド・ワンダーランド』では意思決定を行う脳細胞の無限の情報量を数値化する「シャフリング」という手法が出てきますが,現在のコンピューター社会の行く末を予言していて不気味です。一方,一角獣の頭蓋骨から夢を読み取る作業は過去の記憶を集積することです。なぜ,一角獣なのか? 確かに,西洋のタピストリーではよく一角獣が描かれています。架空であるからこそさまざまな意味が賦与されているものと考えられますが,時間を超えて記憶されている人間の営みを象徴しているような気がします。先祖から伝わっている意識の核の象徴だとすれば,東洋的にはやはり「竜」でしょう。一角獣から首長竜を連想しました。乾 緑郎氏はそのあたりを意識したのかも知れません。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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