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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科69巻12号

2015年11月発行

雑誌目次

特集 いまさら聞けない!泌尿器がん化学療法の理論と実践

企画にあたって フリーアクセス

著者: 久保田馨

ページ範囲:P.977 - P.977

 1980年代に私の恩師である古瀬清行先生は,「がん化学療法を行うということは,単に抗がん薬を注射することではない」とお話しになっていました。

 さて,がん化学療法の施行において注射以外の大切なこととは何でしょうか? 泌尿器科領域では,細胞障害性抗がん薬をはじめ,さまざまな分子標的薬が一般診療で使用されています。化学療法の目的が,胚細胞腫瘍のように根治の場合もあれば,延命およびQOLの維持,改善の場合もあります。がん化学療法においては,治療目的を明確にして,患者・家族と医療従事者が共有することがまず重要です。このためには,適切な臨床試験の解釈,臨床的意思決定とともに「悪い知らせの伝え方」を含めたコミュニケーション技術が必要です。

Ⅰ.がん化学療法総論

泌尿器領域の悪性腫瘍で用いられる薬剤と延命効果

著者: 河野勤 ,   勝俣範之

ページ範囲:P.978 - P.984

要旨 泌尿器領域における代表的悪性腫瘍には(精巣)胚細胞腫瘍,尿路上皮がん,前立腺がん,腎細胞がんがある。泌尿器領域悪性腫瘍に使用される薬剤は,殺細胞性抗がん剤,内分泌療法薬,サイトカイン,分子標的治療薬と多岐にわたっている。これら薬剤の基本的な作用機序,副作用について知っておくことは重要である。現在,その時代の標準的治療と新治療とのランダム化比較試験によって新たな標準的治療が生まれるのが常となっている。しかし黎明期には,現在の標準的治療の基礎となる,無治療(あるいはそれに近い治療)と薬物療法との比較研究のエビデンスが存在する。これらのエビデンスについて今一度確認しておくこともきわめて重要である。

Ⅱ.十分な成果を得るための土台づくり

患者への説明—コミュニケーション技術と意思決定支援

著者: 東光久

ページ範囲:P.986 - P.990

要旨 進行がん患者の意思決定支援の1つとして,shared decision making(SDM)という考え方がある。今後の治療・療養について,患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセスをadvance care planning(ACP)と呼ぶが,ACPを実践するうえでSDMは重要な考え方の1つである。

 また,bad news telling(悪い知らせの伝え方)には一定のスキルがあり,SHAREプロトコールが日本では用いられている。

チーム医療—メディカルスタッフ・他科との連携

著者: 三浦裕司

ページ範囲:P.992 - P.997

要旨 チーム医療の重要性が指摘されて久しい。チーム医療は複数の職種が集まり,単に人数が増えれば実施できるというものではない。チームが機能するためには,Leadership,Vision/Mission,Communication skillという3つの要素が必要である。チーム医療の目的はさまざまであるが,腎がんに対する分子標的薬では,予防法があり,早期発見による治療が効果的であるような副作用のマネジメントにおいてチーム医療の介入は効果的である。チーム医療には特定の理想形があるわけではなく,各施設の環境やその目的により,さまざまな形態をとりうる。それぞれの施設にあった独自の形態を創り出すことが重要である。

泌尿器がん患者への薬物療法における口腔ケアの意義

著者: 上野尚雄

ページ範囲:P.998 - P.1004

要旨 がん薬物療法中は,口腔粘膜炎や歯科疾患由来の口腔感染症,薬剤関連顎骨壊死など,治療に付随する合併症が口腔内にも高頻度で発症する。口腔の問題は患者の苦痛となるだけでなく,経口摂取の問題に直結し,また誤嚥性肺炎をはじめさまざまな感染症の源となるなど直接的・間接的にがん治療に悪影響を与える。このような口腔合併症の発症頻度やその重症度は口腔内細菌による影響が少なくないとされており,がん治療開始前から口腔内の衛生状態を良好な状態に維持し,口腔の機能を健全に保つよう支持・管理する「歯科との連携による効果的な口腔機能管理(口腔ケア)」が口腔合併症のリスク軽減に寄与し,症状緩和だけでなく円滑ながん治療を行うための重要な支援となる。

Ⅲ.がん化学療法の副作用対策

血液毒性

著者: 荒木和浩

ページ範囲:P.1006 - P.1017

要旨 腎・泌尿器系の悪性腫瘍の罹患数は年間約15万人となり,総罹患数としては第1位の大腸がんを上回る。一方,その治療方法は分子標的治療薬のみならず,多種多様な細胞障害性抗がん剤の併用療法が行われており,支持療法の熟知は必須である。そのなかでも,それらの治療方法による骨髄毒性は頻繁に認められるものであり,その支持療法を適切に施行することにより短期的な急性期の毒性の回避のみならず,長期的には抗悪性腫瘍薬の適切な投与量の維持につながり,予後を左右する可能性がある。貧血や血小板減少症においては適切な輸血療法が必要であるが,好中球減少に対しては予防的な持続性G-CSF製剤と抗生物質をガイドラインに基づいて適切に施行すべきである。

シスプラチン投与法と消化器毒性対策

著者: 堀之内秀仁

ページ範囲:P.1018 - P.1024

要旨 シスプラチンは,幅広いがん種において治療の主軸に位置づけられる重要な薬剤であり,泌尿器科領域においても,胚細胞腫瘍,膀胱がんなどで特に大きな役割を担っている。一方,開発当初から腎毒性,消化器毒性を中心とした有害事象は大きな問題とされており,特に腎毒性は適切な投与法が確立される段階で開発中止に追い込まれるほど問題となった。近年,ショートハイドレーション法を中心とした短時間投与法やアプレピタントなどの制吐剤の進歩により,有害事象を最小限に抑制しながらシスプラチンを活用することが可能となってきた。今回,シスプラチンの投与方法と副作用マネジメントについて概説したい。

分子標的薬の皮膚障害

著者: 又吉武光

ページ範囲:P.1025 - P.1029

要旨 スニチニブ(スーテント®),ソラフェニブ(ネクサバール®),アキシチニブ(インライタ®)による皮膚障害では,手足症候群が多い。手足症候群をはじめとした皮膚障害は,日常生活に支障を来し患者のQOLを低下させる。皮膚障害は重症化すると休薬を余儀なくされ,分子標的薬治療の継続が困難となる。分子標的薬は,重症薬疹の報告は少ないが,全くないわけではない。まれではあるが,中毒性表皮壊死症(TEN)やスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)の初期症状(発熱,眼球充血)を見逃さないことも重要である。皮膚科医への紹介のタイミングは,軽症の段階でしてもかまわない。

肺毒性と他科連携

著者: 齋藤好信

ページ範囲:P.1030 - P.1034

要旨 薬物による肺毒性,すなわち薬剤性肺障害は多種多様であるが,多くは間質性肺疾患である。がん化学療法では,抗がん剤による間質性肺疾患がしばしば発現し,肺障害の重篤性や化学療法を余儀なく中断されるなど,臨床的には大きな問題となっている。呼吸器専門医の関与は化学療法の開始前から肺障害発現後まで幅広く,既存の間質性肺炎などは薬剤性肺障害の重要なリスク因子であり,化学療法を安全に実施できるかという検討の必要性,肺障害の発現時の診断と治療,さらに,mTOR阻害剤による肺障害の独特な管理方法など,薬剤性肺障害の診療には呼吸器専門医の協力が欠かせない。肺障害の診療が円滑に行えるよう,日頃から診療科間で連携を構築しておくことが望ましい。

Ⅳ.疾患別がん化学療法の理論と実践

腎がん

著者: 金容壱

ページ範囲:P.1036 - P.1040

要旨 治療のパラダイムが変化しつつある腎細胞がんであるが,現時点では分子標的薬が薬物療法の主力である。特徴的な有害事象の出現に備えつつ適切に薬物療法を継続することで,QOLの維持と生命予後の延長が得られる。

膀胱がん

著者: 遠藤勇気 ,   木村剛 ,   近藤幸尋

ページ範囲:P.1041 - P.1050

要旨 浸潤性膀胱がんに対する根治治療として膀胱全摘術は確立されているが,膀胱全摘術後の再発率は50%前後であり,まだまだ十分なものとは言い難い。術後の局所再発・遠隔転移に対しては化学療法が行われており,シスプラチンがキードラッグとなっている。周術期化学療法については,術前化学療法の有効性が示され,術後化学療法においても確立しつつある。全身化学療法については,一次化学療法は確立されているが,二次化学療法は確立されていない。そのような状況のなかで新規保険適用薬が増え,選択肢の幅が増えた。また,新規分子標的薬の有効性が期待されており,動向が期待される分野である。

前立腺がん—去勢抵抗性前立腺がんに対する化学療法

著者: 上村博司

ページ範囲:P.1051 - P.1057

要旨 前立腺がんの化学療法は,去勢抵抗性前立腺がん(castration resistant prostate cancer:CRPC)に対して行われている。昨年まで,タキサン系抗がん剤のドセタキセルがCRPC治療薬として初めに選択され,本邦では長期投与の症例も多く,CRPC治療薬の中心的な存在であった。最近では,ドセタキセル耐性細胞にも抗腫瘍効果を有するカバジタキセルが使用できるようになった。カバジタキセルはドセタキセル治療後の抗がん剤であるが,好中球減少など血液毒性が強いため使用には注意を要する。アビラテロンやエンザルタミドなど新規ホルモン剤との逐次治療は定まっていないが,カバジタキセルの使用時期を逸しない導入タイミングが重要である。

精巣腫瘍

著者: 安藤正志

ページ範囲:P.1058 - P.1066

要旨 精巣腫瘍は化学療法に対する感受性が高く,進行例でも治癒可能例が存在する疾患である。より早く適切な診断を行い,直ちに治療を開始することが重要である。非セミノーマはセミノーマよりも予後不良である。日本泌尿器科学会の臨床病期ⅡB以上を進行例と取り扱い,高位徐睾術後に化学療法を施行し,腫瘍マーカー正常化後に残存腫瘍切除を基本方針とする。シスプラチンを中心とした併用化学療法が行われており,現在のところ標準的レジメンはBEP(ブレオマイシン/エトポシド/シスプラチン)療法である。

知っていると役立つ泌尿器病理・44

症例:70代・男性

著者: 小島史好 ,   村田晋一

ページ範囲:P.971 - P.974

症例:70代・男性

 前立腺肥大症の臨床診断で前立腺TURが施行された。図1〜4はいずれも前立腺TUR標本の組織像(図1,2は弱拡大,図3,4は強拡大)である。

 1.病理診断はなにか。

 2.鑑別診断はなにか。

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.975 - P.975

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1071 - P.1071

編集後記 フリーアクセス

著者: 近藤幸尋

ページ範囲:P.1072 - P.1072

 「天高く馬肥ゆる秋」や「食欲の秋」という言葉に代表されるように味覚の秋が到来しました。職場の結婚式のパーティーでおいしい食材のなかでも1人の医局員が別メニューで給仕がなされていました。聞いてみると,海老のアレルギーがあるのでメニューを別にしてもらっているとのことでした。その際の会話では,海老や蟹に対するアレルギーがあるといったときに「タラバガニは蟹ではなくヤドカリの仲間であるため大丈夫か」という議論になりました。

 後に教室で調べてみるとタラバガニは節足動物であるヤドカリの仲間であるものの,タラバガニ科の甲殻類に属することが判明しました。それでは甲殻類アレルギーとはどんなものかを調べてみました。甲殻類アレルギーとは「海老や蟹,シャコなどの甲殻類を食べるとアナフィラキシーショックなどの症状を起こす」と記されています。その原因物質はトロポミオシンという筋源線維タンパク質といわれており,この物質は貝類やイカやタコなどの軟体動物にも含まれており,共通の抗原性があるようです。またダニやゴキブリなどの昆虫にも含まれているいために,ダニなどに対するアレルギーがある人のなかに甲殻類アレルギーを示す人がいるようです。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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