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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科69巻6号

2015年05月発行

雑誌目次

特集 夜間頻尿を診る—これを読めば解決!

企画にあたって

著者: 小島祥敬

ページ範囲:P.437 - P.437

 「この1か月の間に,夜寝てから朝起きるまでに,ふつう何回尿をするために起きましたか」これは,皆さんよくご存知の国際前立腺症状スコア(IPSS)の7項目目の,夜間頻尿を問う質問です。

 IPSSは,中高齢男性が下部尿路症状を主訴に初診で外来に来られたときに,特に前立腺肥大症が想定される場合,泌尿器科医であれば必ず患者さんに記載してもらっている質問票です。しかし私自身若い頃から,IPSSの7項目目に違和感を覚え,7項目目だけは,前立腺肥大症の症状を的確に反映していない独立した項目に思いましたし,この項目は本当にIPSSに必要なのか? とさえ思ったことがあります。

Ⅰ.病態

夜間頻尿の病態

著者: 青木芳隆

ページ範囲:P.438 - P.443

要旨 夜間頻尿とは,「夜間排尿のために1回以上起きなければならない」という愁訴であり,非常にシンプルな定義である。しかし,その原因には多尿,夜間多尿,膀胱容量の減少,睡眠障害などがあり,これらに関連する疾患は非常に多岐にわたり複雑である。丁寧な問診や排尿記録の解析によって,夜間頻尿の多岐にわたる原因を探り,複合的な治療と対処を行うことが重要である。

Ⅱ.疫学

夜間頻尿の疫学

著者: 宮里実 ,   大城琢磨 ,   斎藤誠一

ページ範囲:P.444 - P.447

要旨 夜間頻尿は,「夜間排尿のために1回以上起きなければならないという訴え」と定義されている。臨床的には2回以上がQOLを障害するとして問題視されている。夜間頻尿は,加齢に伴い起こることから,老化現象,あるいは単なる泌尿器科疾患であるとして扱われてきた。しかし,最近の疫学調査を通して肥満,糖尿病,高血圧,不眠,閉塞型睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病といった内科疾患,特に生活習慣病と強く関連していることが報告されており,プライマリ・ケア疾患としては確固たる地位を築きつつある。夜間頻尿が生活習慣病発症予測因子になり得るかどうか,さらなる疫学調査が必要である。

Ⅲ.評価方法

夜間頻尿の評価方法

著者: 村岡邦康

ページ範囲:P.448 - P.454

要旨 夜間頻尿は,性差を問わず高齢者によくみられる症状で,general healthやQOLに深く影響を及ぼす。その原因は,多尿・夜間多尿,膀胱蓄尿障害,睡眠障害に大別される。それらは,泌尿器科疾患のみならず循環器疾患,代謝性疾患,睡眠障害などの疾患や病態が複雑に関連しているため,多角的な観点から初期評価する必要がある。国際前立腺症状スコア(IPSS)や過活動膀胱症状スコア(OABSS)を用いて,夜間排尿回数を評価できるが,排尿日誌から得られる実際の夜間排尿回数と異なる場合がある。そのため,より正確に夜間頻尿を把握するためには,排尿日誌を用いることが重要である。

Ⅳ.診断と治療

多尿

著者: 大岡均至

ページ範囲:P.456 - P.462

要旨 2002年の国際禁制学会(ICS)からの“The standardization of terminology in nocturia:report from the standardization subcommittee of the International Continence Society”によれば1),全日多量(global polyuria)の診断基準は24時間尿量が40mL/kg体重以上であり,その原因として糖尿病に代表される浸透圧利尿(solute diuresis)や尿崩症(diabetes insipidus)における水利尿(water diuresis)を鑑別し,尿崩症の場合そのタイプを診断すると記載されている。合理的な診断が適切な治療に直結する。

夜間多尿

著者: 鳥本一匡 ,   平山暁秀 ,   藤本清秀

ページ範囲:P.464 - P.468

要旨 夜間多尿は夜間頻尿症例の半数以上で認められ,膀胱蓄尿障害や睡眠障害といった病態としばしば併存する。本稿では,夜間多尿が単一の原因となっている夜間頻尿の診断と治療について記述する。夜間多尿は夜間尿量が多い状態である。したがって,膀胱蓄尿障害や睡眠障害に強く関連する疾患が併存しない場合,昼間に下部尿路症状を訴えることは少なく,昼間頻尿や尿意切迫感を伴わないことが多い。また,夜間の1回排尿量は昼間と同等か昼間より多い。夜間多尿は排尿日誌をもとに診断される。治療には飲水量の適正化や下肢浮腫を防ぐ行動療法に加えて,合併疾患治療を優先させたうえで利尿薬やデスモプレシンなどの薬物療法が用いられる。

内科疾患に伴う夜間頻尿

著者: 笠原正登

ページ範囲:P.469 - P.474

要旨 夜間頻尿の原因は多岐にわたる。これまで考えられてきた泌尿器科疾患だけでなく,多くの内科疾患が原因であることもわかってきた。特に,尿量が多くなるような病態がその中心となる。これらの病態を尿浸透圧や比重で分類した。

 低浸透圧/低比重のものでは濃縮障害が中心となる。薬剤やうっ血性心不全,ADH分泌異常が原因の水利尿や腎髄質ネフロン障害による再吸収障害,また,高カテコラミン血症による腎血流の昼夜バランスの変化による夜間利尿の増加などがある。高浸透圧/高比重のものでは薬剤性や糖尿病にみられるような多尿がある一方で,睡眠時無呼吸症候群(SAS)でも認められる。髄質低酸素状態が尿細管でのNa再吸収を低下させ,Na利尿による夜間多尿になると考えられている。治療においては,これらの病態を把握し,原疾患を考慮した治療法の選択が望ましい。

前立腺肥大症に伴う夜間頻尿

著者: 濱川隆 ,   窪田泰江 ,   佐々木昌一

ページ範囲:P.475 - P.479

要旨 加齢とともに前立腺肥大症の罹患率は増加し,下部尿路閉塞に伴う症状がQOLを低下させる。前立腺肥大症は中高齢男性の下部尿路症状の原因となり,その中でも夜間頻尿が最もQOLに影響を及ぼす症状である。夜間頻尿は夜間尿量の増加と1回蓄尿量の減少が原因であり,前立腺肥大症では下部尿路閉塞による膀胱蓄尿障害が夜間頻尿をもたらすと考えられている。本稿では最近の知見を踏まえ,前立腺肥大症に伴う夜間頻尿の病態,診断,治療について概説する。

過活動膀胱に伴う夜間頻尿

著者: 中川晴夫 ,   尾形幸彦 ,   鈴木康義 ,   光川史郎

ページ範囲:P.481 - P.484

要旨 過活動膀胱は尿意切迫感を必須の症状とする症状症候群であり,夜間頻尿は過活動膀胱の症状の1つであり合併することが多い。しかし,夜間頻尿は過活動膀胱のみで発生するものではなく,多尿や夜間多尿など,ほかの要因によることも多く,過活動膀胱治療薬による治療を行う際には過活動膀胱の診断が重要である。過活動膀胱を認めた場合,夜間頻尿に対する薬物療法は有用であり,睡眠の質の向上,QOLの改善も認められる。また,一部の抗コリン剤では夜間尿量の減少も認められたとの報告もみられる。さらに,β3刺激剤により夜間頻尿の改善の報告,β3刺激剤と抗コリン剤の併用の効果と安全性に関しての報告も発表され,今後のさらなる研究が期待される。

間質性膀胱炎に伴う夜間頻尿

著者: 大塚篤史 ,   鈴木孝尚 ,   松本力哉 ,   大園誠一郎

ページ範囲:P.486 - P.492

要旨 夜間頻尿は間質性膀胱炎によく認められる症状であり,その評価には症状質問票と排尿日誌(排尿記録)が重要である。主たる原因は1回排尿量の減少であるが,夜間多尿・残尿量増加・睡眠障害などのほかの要因も念頭に置く必要がある。間質性膀胱炎に伴う夜間頻尿に特化した治療はなく,1回排尿量を増加させることが結果として夜間頻尿を改善させる可能性が高い。ほかの要因についても丹念に拾い上げ,個々に対応・治療することも肝要である。

睡眠障害に伴う夜間頻尿

著者: 木内寛 ,   宮川康 ,   野々村祝夫

ページ範囲:P.493 - P.498

要旨 睡眠障害が夜間頻尿に深く関連することは以前から知られているが,最近になって一般高齢者の夜間覚醒のほとんどが排尿によるものだとの報告が発表された。さらに睡眠時無呼吸症候群など従来の不眠症とは異なる睡眠障害がクローズアップされてきており,夜間頻尿がその発見契機になると報告されている。本稿では睡眠障害に伴う夜間頻尿の検査方法や治療について最近の知見についてまとめた。

知っていると役立つ泌尿器病理・38

症例:30代・男性

著者: 小島史好 ,   村田晋一

ページ範囲:P.419 - P.422

症例:30代・男性

 血尿の原因精査の結果,膀胱内に腫瘤を認め,浸潤性膀胱癌の臨床診断でTURが施行された。図1〜3はTURにて切除された膀胱内腫瘤の代表的な組織像である。

 1.病理組織診断はなにか。

 2.この疾患に認められることのある遺伝子異常はなにか。

綜説

副腎偶発腫瘍—最新のマネジメント

著者: 井川掌

ページ範囲:P.426 - P.435

要旨 副腎偶発腫瘍は日常遭遇する機会が近年増加している。初期画像診断としてCT,MRIにより,かなりの精度で良悪性の鑑別が可能になってきたが,最近ではFDG-PETや組織生検についても適応の検討がなされている。内分泌活性の点ではコルチゾール産生能の診断とその予後が議論されてきた。診断には1mg DSTがスクリーニングとして有用であり,長期予後については最近の報告で心血管イベントの発生率が少なからず増加してくることが示され,手術適応やフォローアップ方法の再検討も必要と思われる。今後,わが国でのさらなるデータ集積が期待される。

原著

手術を要した急性陰囊症の検討

著者: 渡邊絢子 ,   松田博幸 ,   三橋公美

ページ範囲:P.499 - P.502

 急性陰囊症には精巣捻転,精巣垂捻転,精巣上体垂捻転,精巣上体炎,および精巣炎などがあるが,必ずしも診断は容易でない。当院で2009年5月〜5年間に外科的治療を要した13例を検討したところ,精巣捻転5例,精巣垂捻転4例,精巣上体垂捻転2例,陰囊水腫の感染1例,精巣破裂1例であった。すべての症例は手術により診断が確定した。精巣捻転5例のうち6時間以内に手術を行った1例と不全捻転の1例は精巣を温存できた。精巣垂捻転,精巣上体垂捻転の症例はすべて手術後症状が改善した。若年者の急激な陰囊痛では本疾患を疑い可及的すみやかに手術を行うべきである。

症例

GnRHアゴニスト投与が原因と考えられた下垂体出血

著者: 小倉秀章 ,   青枝秀男

ページ範囲:P.503 - P.505

症例は80歳男性。意識消失発作時のMRIで下垂体腺腫を指摘されていた。前医のPET検査でS状結腸と前立腺に集積があり,S状結腸癌および前立腺癌であった。ビカルタミドを先行投与しゴセレリン10.8mgを皮下注射した。注射後37日目に下垂体出血が確認された。意識障害は軽度で新規の視力障害はなかった。甲状腺ホルモンとコルチゾールの補充療法を施行した。下垂体出血は吸収された。GnRHアゴニストは下垂体出血や下垂体卒中に留意する必要がある。

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欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.425 - P.425

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.508 - P.508

著作権譲渡同意書 フリーアクセス

ページ範囲:P.509 - P.509

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.511 - P.511

編集後記 フリーアクセス

著者: 近藤幸尋

ページ範囲:P.512 - P.512

 日本人は新しい物好きなのか,それとも宣伝に乗りやすいのか,この3月に北陸新幹線が開業して以来,金沢が観光地として熱い注目を浴び続けております。その中で日本泌尿器科学会総会が金沢で開催されましたが,皆様いかがでしたでしょうか。熱い視線を浴びるだけの宿泊施設は未だ揃っていないと感じられた方も多いでしょう。

 そもそも金沢は,決して新しい街ではなく加賀百万石が基礎になっている街です。つまり城下町であり,お城を中心として発展してきました。金沢城公園周囲には兼六園や美術館もあり,観光スポットとなっています。ところが鉄道は引きやすいところに引いたため,今はなき金沢城から離れたところに走っています。ですから再開発された金沢駅周辺は,以前の城下町としての金沢とは離れており,なまこ塀や太鼓塀など城下町の風情はありません。同様に新潟などもそうでして,港町として栄えてきた新潟も上越新幹線の新潟駅とは信濃川を挟んで存在しています。

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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