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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科70巻12号

2016年11月発行

雑誌目次

特集 90分で習得できる! 先天性水腎症と膀胱尿管逆流のすべて

企画にあたって フリーアクセス

著者: 林祐太郎

ページ範囲:P.904 - P.905

 腎盂尿管移行部通過障害(先天性水腎症)と膀胱尿管逆流(VUR)の患児の診療を行うことは泌尿器科医の大切な使命です.しかし近年,両疾患に対する診療方針が二転三転してきたため,私たちは以下のような疑問を感じています.

 先天性水腎症について,①超音波検査で出生前診断された水腎症(軽度)はいつまで通院すべきか.②無症状の片側水腎症(高度)の手術適応として,最近は「分腎機能の低下」が当然のように提唱されているが,本当にそれだけでいいのか.悪化する前に治療すべきではないのか.③開放手術以外に,腹腔鏡や後腹膜鏡,そしてロボット手術が行われる時代になったが,今後どうなっていくのか.④手術して経過良好な場合でも通院が必要か.

〈先天性水腎症〉

軽度水腎症の診療指針と経過観察の方法

著者: 小川哲史

ページ範囲:P.906 - P.912

▶ポイント

・軽度の先天性水腎症(腎盂尿管移行部通過障害)はほとんどの例で自然軽快することから,診療指針としては超音波検査による定期的な経過観察が主体となる.

・高度水腎症であっても経過観察が可能な症例もあるが,腎機能障害進行の可能性を踏まえ,手術介入のタイミングに十分に注意したうえで診療すべきである.

・出生前に胎児超音波検査によって診断される水腎症の多くは自然軽快するが,腎盂前後径の拡張が高度なものでは手術に至る可能性もある.

・先天性水腎症に対する予防的抗菌薬投与に関するエビデンスは乏しく,確立されたコンセンサスは得られていない.

高度水腎症に対する診断アプローチと手術適応

著者: 東武昇平 ,   有働和馬 ,   野口満

ページ範囲:P.913 - P.917

▶ポイント

・症候性である場合には,基本的にはすべて手術適応である.

・無症候性の片側性高度水腎症(SFU分類3,4度)症例はDRF<40%,尿ドレナージ不良,DRF低下率>10%を総合的に判断し検討する.

・上記の適応を満たさなければ,定期的な超音波検査および利尿レノグラフィでの再評価を行う.

腎盂尿管移行部通過障害に対する腎盂形成術

著者: 杉多良文 ,   春名晶子 ,   賀來泰大

ページ範囲:P.918 - P.923

▶ポイント

・乳幼児では側腹部切開によるdismembered pyeloplastyが標準術式である.

・腹腔鏡下腎盂形成術・後腹膜鏡下腎盂形成術は腹腔鏡下手術の技量および経験を十分に有する術者が行うべきである.

・欧米ではロボット支援腹腔鏡下腎盂形成術が普及しつつある.

小児水腎症の術後フォローアップ

著者: 守屋仁彦 ,   中村美智子 ,   篠原信雄

ページ範囲:P.924 - P.927

▶ポイント

・腎盂形成術後経過中に水腎症が悪化・再発する症例は5%未満であるが,分腎機能は,水腎症の悪化を認めなくとも低下する症例が存在する.

・術後5年以上経過した症例においても,まれながら水腎症の再発をみることがある.

・術後のフォローアップにおける標準的な検査施行時期および方法は存在しない.少なくとも定期的な検尿や超音波検査は推奨されるが,いつまで行うべきかの明確な指標は存在しない.

〈膀胱尿管逆流〉

診断方法

著者: 木全貴久

ページ範囲:P.928 - P.932

▶ポイント

・排尿時膀胱尿道造影が,膀胱尿管逆流診断の標準的な画像診断法である.

・排尿時膀胱尿道造影では,国際分類によるgradeの評価だけでなく,膀胱尿管逆流の原因となる下部尿路異常を確認することが重要である.

99mTc-DMSA腎シンチグラフィーは,膀胱尿管逆流を診断することはできないが,腎実質障害を評価することができる画像診断法であり,膀胱尿管逆流症例に対する分腎能や腎瘢痕の評価に適している.

予防的抗菌薬投与と手術適応

著者: 宮北英司 ,   徳永正俊 ,   新村文男

ページ範囲:P.934 - P.939

▶ポイント

・予防的抗菌薬投与の選択は,年齢,有熱性尿路感染症発症の有無,下部尿路機能障害や便秘の有無などの患者背景を考慮して判断する.

・手術療法が考慮されるのは,尿路感染コントロールによる腎障害予防では問題が起こりうる場合である.

・手術療法には,開放手術,内視鏡的注入療法,腹腔鏡下手術がある.ロボット手術は現在,保険適用がない.

手術:合併症克服のための工夫

著者: 佐藤裕之

ページ範囲:P.940 - P.945

▶ポイント

・どのVUR手術においても合併症が存在するが頻度は少ない.

・VUR手術により確実なVUR消失を目指し,尿管通過障害,対側VUR出現,排尿機能障害,尿路感染の出現を防ぐことが重要である.

・合併症対策として重要なのは,排尿自立,BBDの有無,完全重複尿管などの尿路合併症に対する十分な評価とそれに応じた手術術式の選択である.

BBDと続発性VUR

著者: 三井貴彦 ,   武田正之

ページ範囲:P.946 - P.951

▶ポイント

・UTI,VURの治療の際には,BBDの有無を評価する.

・BBDを認める際には,BBDの治療も並行して行う.

・続発性VURでは,原因となる基礎疾患の治療を第一に行う.

小児VURの術後フォローアップ─腎機能維持を目指した長期管理

著者: 鯉川弥須宏 ,   此元竜雄 ,   山口孝則

ページ範囲:P.952 - P.955

▶ポイント

・全VUR患児の3%程度が小児CKDへ進展し,また全VUR患児の1%程度がESRDへ進展している.

・手術療法は,腎機能障害の進行速度には影響を与える可能性はあるが,腎機能の最終結果にはあまり関与しない可能性が高い.

・長期管理は,腎機能障害を早期に診断して治療介入することでその進行抑制を期待し,成長障害や心血管系障害,骨ミネラル代謝異常などの合併症を適切に予防,コントロールしていくことである.

専門医のための泌尿器科基本手術

根治的腎摘除術:経腹膜到達法

著者: 中澤速和

ページ範囲:P.956 - P.961

ポイント

・経腹膜到達法による根治的腎摘除術は腎癌に対する標準的な手術法の1つであり,7cm以下の腫瘍に対して腹腔鏡下手術が広く行われている.

・手術のポイントはポート位置,手術野の展開,腎動静脈の処理,摘除標本の回収である.

・安全に手術を行うためには,局所解剖を理解し,基本的な手技・手順を習得することが重要である.

根治的腎摘除術:後腹膜到達法

著者: 高山達也 ,   藤﨑明 ,   森田辰男

ページ範囲:P.962 - P.965

ポイント

・仰臥位による前方肋骨弓下切開後腹膜アプローチ根治的腎摘除術は,側臥位が好ましくない場合で,cT1─3aがよい適応である.

・各種リトラクターを駆使し,よい術野を展開することが重要である.

開腹腎尿管全摘除術

著者: 近藤恒徳

ページ範囲:P.966 - P.970

ポイント

・腰部斜切開と傍腹直筋切開を合わせて長い皮切を置き,経後腹膜アプローチで行っている.

・リンパ節郭清は,原則全例で行っているが,高齢(80歳以上),合併症のある症例では省略している.郭清範囲は解剖学的テンプレートの基づいて行っている.

・膀胱カフ切除は省略すべきではない.腎盂〜上中部尿管癌では膀胱外アプローチとしているが,下部尿管癌では膀胱を切開し,確実に壁内尿管を直視下に切除している.

腹腔鏡下腎尿管全摘除術

著者: 北村寛 ,   渡部明彦

ページ範囲:P.972 - P.976

ポイント

・経腹膜到達法の場合,結腸の脱転は広範囲に行う.

・腎盂および尿管はGerota筋膜に包んだまま,愛護的に扱う.

・尿管遮断を腎血管処理前に行うべきではない.

・腹腔鏡下での大血管後方および大動静脈間リンパ節郭清は技術的に困難である.T3以上またはリンパ節腫脹を認める症例に対しては,開腹手技でのリンパ節郭清術が推奨される.

交見室

過活動膀胱治療薬オキシブチニン塩酸塩の特性について

著者: 大井一弥

ページ範囲:P.978 - P.979

 オキシブチニン塩酸塩(オキシブチニン)は,抗ムスカリン作用および平滑筋直接弛緩作用を併せ持つ過活動膀胱治療薬である.本邦では,1988年に経口薬として承認・発売され,ポラキス®錠として医療現場で繁用されてきた.オキシブチニンの有効性は広く臨床で評価され,2013年に本邦初の経皮吸収型過活動膀胱治療薬としてネオキシ®テープが登場した.

 本邦は超高齢社会の最中にあり,高齢者は年齢を重ねるとともにさまざまな疾患に罹患し,その都度,薬が処方されるため,おびただしい剤数の薬を服用している.また,高齢者の生理機能低下は,薬物の代謝や腎排泄の遅延を引き起こし,薬物有害事象の発現頻度を高めているため,投与経路を考慮した処方設計が望ましい.

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.983 - P.983

編集後記 フリーアクセス

著者: 近藤幸尋

ページ範囲:P.984 - P.984

 読者の先生方は秋を満喫されておりますでしょうか.北海道の先生方はすでに冬の準備をされておられると思います.医局を運営する者にとってこの季節は,来年の春を清々しい思いで迎えられるか,長い冬が続くかが決定する時期です.つまり,来春の新人の入局が決定される後期研修医の応募締切期間です.2017年度は専門医機構の制度がまだ開始されないため,定員はありません.また,来年春は小職の医局も大きく人事が動く可能性があるため,大量の新入医局員を歓迎しているところです.

 泌尿器科といっても,当医局は「男性生殖器・泌尿器科学」という表札を掲げており,当然のごとく男性患者さんが多いわけです.しかしながら,女性の排尿および骨盤底の医療を行っている関係で,女性泌尿器科医のニーズも高くなっております.小職の大学卒業時には女性の医学生は同学年で9名でしたが,現在は約40%が女子学生で占められております.現在泌尿器科に所属している女医さんは4名ですが,女性率としては10%台です.つまり,女性泌尿器科医の増加無き泌尿器科医の増員は今後ますます困難と思われます.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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