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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科70巻3号

2016年03月発行

雑誌目次

特集 ART時代の男性不妊診療─いま泌尿器科医に求められていること

企画にあたって フリーアクセス

著者: 白石晃司

ページ範囲:P.201 - P.201

 1990年代の日本生殖医学会(当時の日本不妊学会)の一般演題のなかには,「不妊治療において男性因子の治療は必要か?」といった主旨の報告が散見されていました.その背景の1つに,体外受精や顕微受精などの生殖補助医療(assisted reproductive technologies : ART)が日常茶飯事に行われるようになり,精子が1つでもあれば妊娠可能であるという認識が婦人科側にあったことが挙げられます.しかし,この20年間でARTの成績に顕著な進歩はなく,晩婚化に伴う卵子の老化も相まって精液所見が不良な男性の精子を用いたARTの成績は極端に悪いことが判明しています.逆に男性不妊治療によりタイミング法や人工授精のみならず,ARTの成績までも改善することが認識されています.最近では婦人科の先生から精索静脈瘤手術の有用性が報告されるまでになりました.全カップルの6組に1組は不妊症で,その半分に男性因子が存在します.患者数は莫大であるため,泌尿器科側の受け入れが十分でないと適切な不妊治療は成り立ちません.

 本特集では,男性不妊症患者さんが受診された際に困らないように,初期診療から各病態についての専門的治療まで最新の知見を各エキスパートの先生方にアップデートしていただきました.読者の先生方に今後ご尽力を賜り,生殖医療における泌尿器科医の役割を社会に理解してもらい,1組でも多くのカップルに赤ちゃんを授けられることができれば幸いです.

〈総論〉

泌尿器科に期待すること─不妊診療の現場より

著者: 栁田薫 ,   高見澤聡 ,   厚木右介

ページ範囲:P.202 - P.206

▶ポイント

・不妊診療において,男性因子の検査が十分になされていない.女性側と同様に泌尿器科医による検査が行われるべきである.検査にて的確に診断できれば,約3割の男性因子例で精液所見の改善が期待できる.

・一般の泌尿器科施設にも可能な範囲で男性因子例の検査,治療をお願いしたい.

・泌尿器科と産婦人科との連携が必要であるが,十分に連携がなされていない.今後は,地域内の不妊診療に関与する泌尿器科医と産婦人科医がお互いに情報を交換する機会づくりが必要である.

男性不妊症の診察

著者: 福原慎一郎 ,   宮川康

ページ範囲:P.208 - P.213

▶ポイント

・不妊症の原因の半数は男性側にあるため,男性不妊治療を担うべき泌尿器科医の果たす役割は大きい.

・診察では一般的な泌尿器科的診察に加えて,内分泌検査や精液検査などの専門的な諸検査を必要とするが,決して特殊なものばかりでなく一般泌尿器科で十分可能なものが多い.

・各診察項目の意味や重要性を十分に認識し,患者へ情報提供することも重要である.

〈疾患別治療〉

精索静脈瘤手術─泌尿器科医がせずして誰がする

著者: 菅藤哲 ,   笹川五十次

ページ範囲:P.214 - P.219

▶ポイント

・精索静脈瘤根治の意義は1世紀以上にわたって検証されてきたが,昨今,有意義とする根拠が顕著に蓄積されている.

・精索静脈瘤に対するART単独の治療成績は満足できるものではなく,1出産あたりの治療コストは増大する.

・低位結紮術を実施しうる泌尿器科医が極端に少なく,泌尿器科医の意識改革と社会への啓蒙が急務である.

閉塞性無精子症

著者: 谷口久哲 ,   松田公志

ページ範囲:P.220 - P.224

▶ポイント

・閉塞性無精子症は,精巣での造精機能に問題はない.

・精路再建により自然妊娠が期待できる.

・本邦における精路再建術の成績はICSIと同等,閉塞原因によっては良好である.

非閉塞性無精子症

著者: 石川智基

ページ範囲:P.225 - P.230

▶ポイント

・精巣精子採取術により,精子を回収し,顕微授精に供することが患者カップルの希望を叶える唯一の方法である.

・理想的な精巣精子採取術は,精巣の血流低下を防ぎ,顕微授精に供するために十分な数の精子を回収することである.

・micro TESEの合併症である術後男性ホルモン低下には特に注意が必要.

特発性乏精子症

著者: 岩﨑晧 ,   湯村寧

ページ範囲:P.231 - P.236

▶ポイント

・ARTの発展により,特発性乏精子症の治療法に進展はあったが,いまだ確立されたものはない.

・確立のためには,実現困難な大規模なランダム化比較試験が必要とされるが,それによっても不妊症の治療効果の実証には難しさが伴う.

・特発性男性不妊症のなかから原因を1つでも導き出すことが,薬物療法確立への最も近道となる可能性がある.

低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症

著者: 大橋正和 ,   森田伸也

ページ範囲:P.237 - P.246

▶ポイント

・男子性腺機能低下症のうち,下垂体からのゴナドトロピン分泌不全が原因である疾患群が,低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症である.

・造精機能の発現には,ゴナドトロピン補充が必要であり,近年,遺伝子組み換え型FSHとLH作用に富むhCGを併用する自己皮下注射療法が保険収載され,80〜90%の症例に造精機能が発現している.

尿路性器感染症と男性不妊

著者: 慎武 ,   岡田弘

ページ範囲:P.247 - P.253

▶ポイント

・尿路性器感染症は男性不妊症の原因となり,その頻度は15%程度と推測される.

・妊孕能低下の原因として,精路の炎症ないし閉塞だけではなく,病原体自体の精子に対する直接的影響,免疫系を介した機序が示唆されている.

・正確かつ迅速な診断,適切かつ十分な治療が必要なことはいうまでもないが,挙児希望の患者では妊孕能の評価を行い,必要に応じてfollow upすることが大切である.

男性不妊症における射精障害

著者: 小林秀行 ,   永尾光一

ページ範囲:P.254 - P.257

▶ポイント

・男性不妊症外来における射精障害は,腟内射精障害,脊髄損傷に伴うもの,逆行性射精によるものが大部分である.

・治療にて射出精子が得られないときは,TESEを施行し,精巣内精子を採取する.

・腟内射精障害は治療に難渋するケースが多い.

全身疾患と男性不妊

著者: 白石晃司

ページ範囲:P.258 - P.264

▶ポイント

・精液所見の異常と生命予後の悪化は関連している.

・男性不妊症患者においては,生活習慣病や悪性腫瘍などの併存疾患の頻度が高くなる.

・精子形成と生活習慣病の発症および発癌は,遺伝子レベルおよび環境因子などが複雑に絡みあっているが,それらの間には共通の病態が存在する可能性がある.

知っていると役立つ泌尿器病理・48

症例 : 60代・男性

著者: 清水道生 ,   森谷卓也

ページ範囲:P.195 - P.198

症例 : 60代・男性

 約1年前より右陰囊の腫大に気づくも放置していた.最近になり,増大傾向がみられたため来院し,精査の結果,手術が施行された.図1,2は摘出された右精巣腫瘍の代表的な組織像である.

1 .鑑別診断を述べよ.

原著

内分泌療法が施行された80歳以上の非転移性前立腺癌の検討

著者: 関田信之 ,   佐藤広明 ,   河野弘圭 ,   藤村正亮 ,   竹内信善 ,   西川里佳 ,   三上和男

ページ範囲:P.265 - P.270

 2000年1月〜2010年12月に80歳以上で非転移性前立腺癌と診断された症例のうち,内分泌療法が施行された82例を対象とし,併存疾患を含めて検討を行った.併存疾患はCharlson comorbidity index(CCI)を用いて評価した.年齢中央値83歳,診断時PSA中央値は18.2ng/mL,5年疾患特異的生存率(CSS)/全生存率は93%/78%であった.生検組織のGleason's sumが8以上の症例では8未満の症例と比較し,CSSは有意に低かった.全死亡に関しては,CCIが1以上であることが唯一の独立した有意な危険因子となった.80歳以上の高齢者において,CCIが1以上の症例は前立腺癌以外で命を落とす可能性が高く,前立腺癌の診断および治療は慎重に対応する必要があると思われた.

尿細胞診疑陽性例における尿管鏡検査の意義

著者: 加藤秀一 ,   上原央久 ,   内田耕介 ,   松田洋平 ,   宮尾則臣

ページ範囲:P.271 - P.274

 尿細胞診疑陽性例における尿管鏡検査の意義について検討した.2000年1月〜2007年9月の尿細胞診疑陽性例のうち,尿路上皮癌の既往がなく,膀胱鏡検査と画像診断によって腫瘍の存在を確認できなかった症例に対し,経尿道的膀胱粘膜生検および尿管鏡検査を施行した44例を解析した.これらの検査で膀胱癌,腎盂尿管癌と診断されたものはなかった.また,経過観察中に上部尿路癌は発生しなかった.尿路結石または尿路感染の存在下では,有意に尿細胞診疑陽性を呈するものが多かった.尿路上皮癌の既往がなく,画像検査でも所見のない尿細胞診疑陽性例には尿管鏡検査の意義は低いと考えられる.尿路結石や尿路感染の存在を勘案し,尿細胞診の結果を評価することが肝要である.

症例

尿路上皮癌との鑑別が困難であった尿路結核

著者: 村上哲史 ,   金井邦光 ,   寺西悠 ,   門間哲雄

ページ範囲:P.275 - P.279

 79歳女性.右水腎症精査目的に当科紹介受診.腹部CTで右腎盂尿管移行部狭窄を認めるも悪性所見に乏しく,経過観察を行っていたが,約1年後のCTにて右尿管の全周性壁肥厚と傍大動脈リンパ節腫大の出現を認め,尿細胞診はClassⅢであった.尿路上皮癌を否定できず,右腎尿管全摘除術を施行した.診断は尿路結核であり,イソニアジド,リファンピシン,エサンブトールの3剤併用による抗結核治療を9か月間施行したが再発を認めていない.

アンチアンドロゲン除去症候群を認めた後10年以上の長期寛解を得ているstage D2前立腺癌

著者: 能中修

ページ範囲:P.281 - P.284

 66歳男性.検診PSA 929ng/mLにて初診となった.精査にて多発性骨転移を伴うstage D2前立腺癌として,リュープロレリン酢酸塩,ビカルタミドによるホルモン療法を開始した.治療後PSAは下降したが,27か月目に再燃を認め,ビカルタミドの内服を中止した.中止後アンチアンドロゲン除去症候群(AWS)を認め,以後10年PSA再燃を認めていない.この間,画像では初診時に認めた前立腺の変形,骨転移は消失していた.

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.285 - P.285

編集後記 フリーアクセス

著者: 小島祥敬

ページ範囲:P.288 - P.288

 先日NHKで,「10年後の未来へ─神戸と福島をつなぐ子どもたち」という番組が放送されました.今も避難生活が続く福島県浪江町の人が暮らす仮設住宅や,立ち入り制限が続く南相馬市を訪れた,神戸(阪神淡路大震災の被災地域)の小学生と,地元の小学生の交流を描いたドキュメンタリー番組でした.番組のなかで,地元の小学生の女の子が,同情してもらうことへの感謝の気持ちがある一方で,同情されてしまうことの複雑な心境を涙ながらに吐露する場面があり,心を打たれました.「彼女の涙は何色か…?」.神戸の小学校の先生が,子どもたちに問いかけた一節です.

 本年3月11日をもって東日本大震災から5年が経ちます.ご承知のとおり,福島県では震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により,甚大な被害を受けました.いまだに故郷に帰還できない方々がたくさんいらっしゃいます.除染廃棄物や中間貯蔵施設の問題,放射線の健康リスクの問題は,すぐには結論が出そうもありません.そして,福島県に対する風評被害がいまだに続いています.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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