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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科70巻4号

2016年04月発行

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増刊号特集 泌尿器科処方のすべて─すぐに使える実践ガイド

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ページ範囲:P.3 - P.3

1 尿路・性器の感染症

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著者:

ページ範囲:P.9 - P.9

尿路感染症

急性(単純性)腎盂腎炎

著者: 高橋聡 ,   桧山佳樹 ,   市原浩司

ページ範囲:P.10 - P.12

疾患の概要

 急性(単純性)腎盂腎炎は,急性膀胱炎から続発した上部尿路の有熱性尿路感染症である.膀胱尿管逆流などの基礎疾患がなくても,膀胱炎発症時には粘膜の浮腫により膀胱尿管逆流防止機構が有効に機能せず,細菌尿の逆流が生じる場合がある.多くは,若い女性が罹患し,原因菌は急性(単純性)膀胱炎と同じである.

 一般的には,膀胱炎に特徴的な症状が先行し,その後に発熱,背部痛,全身倦怠感,嘔気(嘔吐)などの症状が出現する.10〜30歳台の女性では,尿路に基礎疾患がなくても発症するわけだが,再発を繰り返すようであれば,尿路の精査が必要になる.

急性(単純性)膀胱炎

著者: 高橋聡 ,   桧山佳樹 ,   市原浩司

ページ範囲:P.13 - P.15

疾患の概要

 急性(単純性)膀胱炎は,発熱を伴わない尿路感染症である.多くは,若い女性が罹患し,主な原因菌は大腸菌,肺炎桿菌,腐性ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus)である.膀胱炎に特徴的な症状は,排尿痛,頻尿,残尿感,下腹部痛であり,肉眼的血尿がみられることもある.好発年齢は,10〜30歳台の女性で,尿路に基礎疾患がなくても発症する.性的活動性が発症に関連しているとされ,再発にも関連している.

 再発を繰り返すようであれば,尿路の精査が必要になるが,尿路に基礎疾患を認めなくても再発を繰り返す場合がある.少なからず自然治癒している場合もあり,そのような経過も含めて多くの女性が罹患する感染症である.

尿路性器結核

著者: 高橋聡 ,   桧山佳樹 ,   市原浩司

ページ範囲:P.16 - P.18

疾患の概要

 尿路性器結核は,肺結核,もしくは肺外結核からの結核菌の血行性転移による二次発現である.

 結核菌感染により,腎には腎盂・腎杯の形態異常,石灰化,実質の萎縮を,尿管には狭窄を,膀胱には腫瘤形成,肉眼的血尿などの症状・所見を呈する.一般的には,特異的な症状はないとされ,繰り返す膀胱炎,水腎症,悪性腫瘍疑いなどを契機に診断される.尿の結核菌検査を提出すること自体が稀であることから,疑わない限り診断できないこととなる.そのため,摘出した病理標本から診断されることも稀ではない.結核菌の検出は,尿を検体とした塗抹検査,培養検査で行われるが,尿中で希釈され菌量としては相対的に少なくなるのでPCR法などの核酸増幅法での検出が有用である.

尿路真菌症

著者: 濵砂良一

ページ範囲:P.19 - P.21

疾患の概要

 真菌(ほとんどがカンジダ属による)は尿路感染症や性器感染症を引き起こす.多くの症例は複雑性であり,何らかの原因,誘因によって引き起こされる.尿路性器の症状を有し,膿尿および1×105cfu/mL以上の真菌が検出された場合(無菌的カテーテル採尿では103cfu/mL以上)には症候性真菌感染症とする.真菌による膀胱炎は通常,尿路のカテーテル留置時や抗菌薬治療後に起こる.時に上行性に腎盂腎炎を来すが,尿管や腎盂に真菌球(fungus ball)を形成し,上部尿路の閉塞を来すことがある.血行性に腎に感染すると(播種性カンジダ症),抗菌薬抵抗性の発熱,腎機能悪化などを来す.無症候の患者から真菌が分離された場合,原因菌なのか,定着菌またはコンタミネーションかの鑑別を要し,再検査が必要である.ハイリスクグループ患者(好中球減少患者や低体重出生児)や泌尿器科処置の前に真菌が検出される場合は,無症候でも治療の対象となる.

急性前立腺炎

著者: 富田祐司 ,   近藤幸尋

ページ範囲:P.22 - P.24

疾患の概要

 急性前立腺炎は腸内細菌を主とした前立腺の感染症である.原因菌の約60%が大腸菌,20%がほかのグラム陰性桿菌,約20%がグラム陽性球菌と報告されている.発熱・悪寒・倦怠感などの全身症状と,排尿痛・排尿困難・尿意切迫感・頻尿・会陰部痛などの局所症状がみられる.尿検査では膿尿と細菌尿を認め,直腸診で前立腺の圧痛・熱感・腫脹を認める.前立腺マッサージは敗血症を誘発するため禁忌である.

 治療薬の選択のため,尿培養・薬剤感受性試験は行うべきであり,全身症状が強く敗血症を疑う症例では血液培養も行う.急性前立腺炎の1〜2%で前立腺膿瘍を併発し,経直腸的前立腺超音波検査が有用な検査となる.膿瘍を認めた場合には外科的ドレナージが必要になる.尿閉を来した場合には膀胱瘻造設が望ましいが,造設困難な場合には尿道カテーテルを留置する.

慢性前立腺炎

著者: 富田祐司 ,   近藤幸尋

ページ範囲:P.25 - P.28

疾患の概要

 慢性前立腺炎は下腹部症状(骨盤周囲の疼痛・不快感,排尿痛,射精時痛など)と排尿症状(頻尿,残尿感,尿意切迫感など)を主症状とする疾患である.病因は明らかでなく,さまざまな病態が混在していると考えられる.

 National Institutes of Health(NIH)による分類で,前立腺炎は4つのカテゴリーに分類される(表1).カテゴリーIIに分類される慢性細菌性前立腺炎(chronic bacterial prostatitis : CBP),カテゴリーIIIに分類される慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(chronic prostatitis/chronic pelvic pain syndrome : CPPS)が慢性前立腺炎に相当する.

急性精巣上体炎

著者: 富田祐司 ,   近藤幸尋

ページ範囲:P.29 - P.31

疾患の概要

 急性精巣上体炎は急性陰囊症の1つで,精巣上体の急性炎症である.原因微生物が尿道から精管・精巣上体に達し,引き起こされる.性活動期の青壮年症例では,淋菌やクラミジアが原因微生物として多くみられる.思春期以前・中年以降は大腸菌などのグラム陰性桿菌が原因微生物であることが多い.結核の既往がある症例や免疫不全の症例では,結核性精巣上体炎も可能性がある.また,サルコイドーシスやベーチェット病などの膠原病,アミオダロンなど抗不整脈薬の服用に起因する非感染性の精巣上体炎も存在する.

 片側陰囊の腫大・疼痛を認め,発熱や下部尿路症状(頻尿・排尿障害・尿意切迫感)を伴うこともある.急性陰囊症には精索捻転症など緊急を要する疾患もみられ,他疾患との鑑別が重要である.精巣上体炎では超音波で精巣上体の血流増加を認め,精索捻転では血流低下・消失を認めることが多い.

フルニエ壊疽

著者: 松本正広 ,   濵砂良一

ページ範囲:P.32 - P.34

疾患の概要

 フルニエ壊疽は,外性器から会陰部にかけて発生する壊死性筋膜炎であり,1883年にFournierにより初めて報告された.さまざまな年齢層にみられ,何らかの基礎疾患を有する場合がほとんどである.基礎疾患としては糖尿病(約40〜60%)が最も多く,その他,習慣性の飲酒歴,抗がん化学療法,肝硬変,腎不全,HIV感染症,栄養失調など,免疫抑制状態が背景にあることが多い.感染は,皮膚,肛門直腸部,尿道などから発生し,会陰部の毛囊炎や外傷,痔核や肛門周囲膿瘍,種々の尿路感染症に加えて,尿道カテーテル留置や尿道ブジー,前立腺生検などの泌尿器科的処置が誘因となることもある.死亡率は平均20%と報告され,診断・治療が遅れると壊疽が広範囲に進展し,死亡率が高まる.

性感染症

淋菌性尿道炎

著者: 上原慎也

ページ範囲:P.35 - P.37

疾患の概要

 淋菌感染症は,人から人へと感染する性感染症であり,1回の性行為による感染伝達率は約30%と高く,容易に広まっていく.淋菌は,尿道炎,子宮頸管炎を中心として,咽頭炎や直腸炎,結膜炎,さらには,腹膜炎や播種性病変をも引き起こす.そのうち淋菌性尿道炎は,感染から数日間の潜伏期ののち,排尿痛や膿性分泌物の排出など,比較的強い症状を示すため,医療機関への受診機会が多く,ほかの淋菌感染症と比べ診断されやすい.診断には,膿のグラム染色,淋菌培養,核酸増幅検査法を用いる.

 近年では,淋菌の薬剤耐性化が顕著であり,有効な抗菌薬が減少してきている.よって,薬剤耐性動向に注意しながら抗菌薬を選択する必要がある.

クラミジア性尿道炎

著者: 上原慎也

ページ範囲:P.38 - P.39

疾患の概要

 クラミジア(Chlamydia trachomatis)は,眼疾患であるトラコーマや新生児肺炎,尿道炎や子宮頸管炎などの原因となる細菌である.現在では,衛生環境の向上や妊婦のスクリーニングが進み,トラコーマや新生児肺炎は減少し,泌尿生殖器への感染症が多い.

 クラミジア性尿道炎は,非淋菌性尿道炎の約50%を占める.淋菌性尿道炎と比べ症状は軽く,約2週間の潜伏期ののち,漿液性の分泌物の排出,軽度の排尿痛などを示す.近年では,無症候性の症例も多いとされる.

非淋菌性・非クラミジア性尿道炎

著者: 上原慎也

ページ範囲:P.40 - P.41

疾患の概要

 尿道炎は,淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎に分類され,非淋菌性尿道炎は,クラミジア性尿道炎と非淋菌性・非クラミジア性尿道炎に分けられる.非淋菌性・非クラミジア性尿道炎は,諸検査で淋菌やクラミジアの存在が証明されない尿道炎であり,その臨床症状は,クラミジア性尿道炎に類似しており,比較的軽度である.原因微生物の1つとして,Mycoplasma genitaliumの病原性が明らかとなっており,そのほか,Ureaplasma urealyticumTrichomonas vaginalisなどの関与も示唆されている.

性器ヘルペス

著者: 安田満

ページ範囲:P.42 - P.44

疾患の概要

 単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus : HSV)1型(HSV-1)または2型(HSV-2)による感染症である.初めて感染したとき(初感染)や,すでに腰仙髄神経節などに潜伏感染していたHSVの再活性化によるとき(再発または回帰発症)に症状が出現する.感染後2〜10日の潜伏期を経て,亀頭,陰茎体部に浅い潰瘍性または水疱性病変を形成する.初感染では外性器に掻痒感や違和感を伴った直径1〜2mmの複数の水疱が出現し,のちに水疱が破れ有痛性の浅い潰瘍を形成する.発熱などの全身症状を伴うことが多く,鼠径リンパ節の腫脹を伴うことがある.再発または回帰発症でも同様であるが,症状が軽く消失までの期間も短い.確定診断には塗沫標本を用いた蛍光抗体法検査により,HSV抗原の証明を行う.

尖圭コンジローマ

著者: 鶴﨑俊文

ページ範囲:P.45 - P.47

疾患の概要

 尖圭コンジローマは,ヒトパピローマウイルス(HPV)による感染症であり,主にHPV6,11型が原因である.大部分が,性的接触により外的刺激を受けやすい部位の皮膚や粘膜の微小な傷から侵入することで感染し,乳頭状や鶏冠状の疣贅が多発する.主な感染部位は,外性器(外陰部),肛門周囲,鼠径部,乳房などの外部と,肛門内,直腸,尿道,腟内,子宮頸部などの内部の病変に二分される.潜伏期は3週〜8か月(平均2.8か月)と長く,感染機会を特定できないことも多い.主な病原体のHPV6,11型はいずれも子宮頸がんの低リスク型である.また尖圭コンジローマは,感染症法で5類定点把握疾患である.

梅毒

著者: 安田満

ページ範囲:P.48 - P.50

疾患の概要

 Treponema pallidum subspecies pallidum(Tp)が皮膚や粘膜より体内に侵入し,その後血行性に散布され,侵入局所および全身の各部位に症状が発現したものである.皮膚,粘膜の発疹や臓器梅毒の症状を呈する顕症梅毒と,症状は認められないものの梅毒血清反応が陽性の無症候梅毒とに分ける.

 診断としては,梅毒に特徴的な皮疹やTpの証明によって行う.Tpの証明には直接検出法と梅毒血清反応〔カルジオリピンを抗原とする方法(serologic test for syphilis : STS法)とT. pallidumを抗原とする方法(TP法)〕がある.梅毒血清反応では,まずSTS法とTP法の定性検査を行う.陽性の場合には,定量検査を行い確定診断とする.ただし,梅毒血清反応は感染後約4週間以内は陽性を示さないことがある.また,STS法は膠原病などの病態でも陽性になることがあり,生物学的偽陽性と呼ばれる.

寄生虫感染症

リンパ系フィラリア症

著者: 鶴﨑俊文

ページ範囲:P.51 - P.54

疾患の概要

 リンパ系フィラリア症は,Wuchereria bancrofti(バンクロフト糸状虫),Brugia malayi(マレー糸状虫),Brugia timori(チモール糸状虫)の3種類のいずれかによる感染症である.その90%以上はバンクロフト糸状虫が関与している.蚊が感染した宿主(人)を刺してミクロフィラリア(小幼虫)に感染し,蚊の体内で感染性を持つ幼虫となり,感染した蚊が人を刺すことで体内に侵入し,さらにリンパ系に移動し成虫となり,何千ものミクロフィラリアを生み,感染伝播のサイクルを循環させる.現在,アフリカや東南アジアなどを中心に世界の58か国で1億2000万人以上が感染し,約4000万人がこの疾患による外観の変形,機能障害を患っている.日本では新規の患者の発生はないが,海外で感染した症例や,以前感染し慢性期の症状を有する症例は少数存在する.

 リンパ系フィラリア症は,無症候期,急性期,慢性期がある.急性期は細菌の二次感染に関連する発熱や,リンパ管炎・リンパ節炎などを起こし,慢性期には四肢・乳房・生殖器のリンパ浮腫から象皮病を起こす.特にバンクロフト糸状虫では乳び尿(または血乳び尿)やフィラリア性(乳び性)陰囊水腫を来すこともある.

2 下部尿路機能障害

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著者:

ページ範囲:P.55 - P.55

前立腺肥大症

著者: 竹澤健太郎 ,   木内寛 ,   野々村祝夫

ページ範囲:P.56 - P.59

疾患の概要

 前立腺肥大症の疾患概念は大きく変化してきた.前立腺肥大症は,古くは前立腺の腫大に伴う下部尿路閉塞により下部尿路症状が引き起こされる疾患と考えられていた.しかしその後,前立腺の腫大と下部尿路の閉塞が必ずしも相関しないことや,前立腺の腫大や下部尿路閉塞がなくても下部尿路症状を呈する症例が存在することなどが明らかとなり,前立腺肥大症の用語・定義に混乱が生じた.一方,臨床現場では下部尿路症状を呈する中高齢の男性の多くが,前立腺の腫大や下部尿路閉塞の有無にかかわらず,前立腺肥大症と診断され続けてきた.

 このような現状をふまえ,現在では前立腺肥大症は「前立腺の良性過形成による下部尿路機能障害を呈する疾患」で「通常は前立腺腫大と下部尿路閉塞を示唆する下部尿路症状を伴う」と定義されている(前立腺肥大症診療ガイドライン).本定義に従えば,下部尿路症状がある中高齢男性は,神経因性膀胱や尿路感染症,多尿,前立腺癌や膀胱癌が除外されれば,前立腺の腫大や下部尿路閉塞が明らかでなくても「前立腺肥大症」と診断される.「前立腺肥大症」とは,中高齢男性における「下部尿路閉塞を示唆する下部尿路症状」を指す症状症候群であるといえる.

夜間頻尿

著者: 竹澤健太郎 ,   木内寛 ,   野々村祝夫

ページ範囲:P.61 - P.64

疾患の概要

 夜間頻尿は「夜間排尿のために1回以上起きなければならないという訴え」と定義されている.さまざまな大規模疫学調査において,夜間頻尿は高齢者を悩ませる代表的な下部尿路症状であり,QOLの低下に強く関与することが示されている.さらに,夜間の転倒や骨折の原因となり,生命予後と関連する可能性も示唆されている.2002年にわが国で行われた40歳以上を対象とした疫学調査でも,夜間頻尿は最も頻度が高く,最も問題となる症状であった.夜間頻尿の頻度は加齢とともに急上昇することから,高齢化とともにその有病率が急増していると予想される.

 夜間頻尿は単なる泌尿器科疾患ではなく,むしろ内科的疾患との関連が強い疾患である.前立腺肥大症や過活動膀胱が夜間頻尿の原因となるのはもちろんであるが,多くの疫学研究によって,加齢や糖尿病,高血圧,心不全,不眠症などの内科的疾患が夜間頻尿と強く関連することが明らかにされてきた.例えば,糖尿病に伴う高血糖,加齢や高血圧に伴う慢性腎臓病は多尿の原因となり,加齢や不眠症,うつ病は睡眠障害に伴う夜間頻尿の原因となると考えられている.夜間頻尿の診療には幅広い知識と,症例によっては内分泌内科や循環器内科,精神科などの専門医へ適切に紹介するというプライマリ・ケア能力が求められる.

過活動膀胱

著者: 西井久枝 ,   藤本直浩

ページ範囲:P.65 - P.68

疾患の概要

 過活動膀胱とは,尿意切迫感を必須とした症状症候群であり,通常は頻尿と夜間頻尿を伴い,切迫性尿失禁は必須ではない.尿意切迫感とは,通常の尿意とは異なる,「突然起こる,我慢できないような強い尿意」をいう.

 過活動膀胱症状は地域住民の5〜20%の頻度でみられ,対象や調査手法,診断基準の違いで変動する.本邦の40歳以上の男女を対象とした大規模疫学調査では,排尿回数を1日8回以上,尿意切迫感が週1回以上と定義し調査され,全体の有症状率は12.8%であった.頻度は年齢とともに上昇し,性別では一般に女性に頻度が高い.生命に関わる疾患ではないものの,インパクトは大きく,仕事やQOL,精神衛生に悪影響を及ぼす.

低活動膀胱

著者: 西井久枝 ,   藤本直浩

ページ範囲:P.69 - P.71

疾患の概要

 国際禁制学会標準化委員会レポートでは,排尿筋低活動あるいは排尿筋無収縮のみ定義されており,低活動膀胱の定義は現在のところ確立されていない.膀胱内圧尿流検査に基づいて排尿筋低活動は「排尿筋収縮力の低下あるいは収縮時間の短縮で,排尿時間が延長したり,正常時間内に膀胱内の尿を完全に排出できない」と定義されている.しかし,低活動膀胱は排尿筋障害に限定されるものではなく,求心性知覚神経,中枢神経,遠心性運動神経および排尿筋での障害が複合的に低活動膀胱に関与すると考えられている.

 低活動膀胱の定義や診断基準が確立されていないため,正確な有病率は不明であるが,本邦での40歳以上の男女を対象とした疫学調査では,膀胱出口部閉塞の関与を含むものの,尿勢低下は男女ともに加齢とともに上昇すると報告されている.一方,尿流動態検査による検討では,排尿筋低活動は男性で40%前後,女性で15%前後に存在すると報告されている.

間質性膀胱炎

著者: 西井久枝 ,   藤本直浩

ページ範囲:P.72 - P.74

疾患の概要

 間質性膀胱炎は膀胱の非特異的な慢性炎症を伴い,頻尿・尿意亢進・尿意切迫感・膀胱痛などの症状を呈する疾患とされているが,明確な定義や広く合意の得られている診断基準はない.本邦の『間質性膀胱炎診療ガイドライン』では,以下の3項目が満たされれば,間質性膀胱炎と臨床的に診断すると提示されている.

 ①頻尿・尿意亢進・尿意切迫感・膀胱不快感・膀胱痛などの症状がある.

3 女性泌尿器科

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著者:

ページ範囲:P.75 - P.75

腹圧性尿失禁

著者: 戸山友香 ,   近藤幸尋

ページ範囲:P.76 - P.77

疾患の概要

 腹圧性尿失禁とは,腹圧時に膀胱内圧が上昇して尿道抵抗を上回ることで不随意に尿が漏れるものであり,一般的には重いものをもち上げたり,スポーツでジャンプしたとき,咳をしたとき等に尿意がないのに尿がもれてしまうという訴えで受診することが多い.その病態は,尿道括約筋そのものや尿道括約筋を支配する陰部神経が障害されて起こる尿道括約筋不全,もしくは前腟壁による尿道支持が脆弱化したことにより引き起こされる尿道過可動の2つに主に分けられ,どちらかが単独で存在するというよりも,両者がさまざまな割合で共存していると考えられている.

骨盤臓器脱

著者: 戸山友香 ,   近藤幸尋

ページ範囲:P.78 - P.79

疾患の概要

 骨盤臓器脱(pelvic organ prolapse : POP)は,腟管の支持不良による骨盤部のヘルニアと考えられ,その下垂した部位によって膀胱瘤,子宮脱,直腸瘤,小腸瘤,また,子宮全摘後の腟断端に発生したものを腟断端脱と呼ぶ.その病因は骨盤底脆弱化であり,特に出産経験のある閉経後女性に多くみられる.加齢,肥満,便秘,喫煙,妊娠,分娩,手術(会陰切開,子宮全摘出)などが危険因子となる.

 骨盤臓器脱の患者の多くは尿失禁,尿意切迫,夜間頻尿,昼間の頻尿,排尿困難などの多彩な排尿症状や,骨盤内の臓器下垂と関連する牽引痛や排便困難などを伴う.

膀胱エンドメトリオーシス

著者: 戸山友香 ,   近藤幸尋

ページ範囲:P.80 - P.82

疾患の概要

 子宮内膜症は,子宮内膜組織に類似する組織が子宮内腔または子宮筋層以外の部位(骨盤内腹膜,卵巣,膀胱など)で発生・発育する良性疾患である.発生機序として月経血逆流による子宮内膜組織の移植(月経血逆流説),腹膜上皮などの子宮内膜様細胞への化生(化生説)などがあるが,確定はしていない.

 膀胱に発生したものは膀胱エンドメトリオーシス(膀胱子宮内膜症)といい,症状は月経周期と一致した血尿や頻尿,残尿感などの下部尿路症状であるが,月経周期に伴わない症例も20〜30%前後で存在し,確定診断には組織学的検査を要する.

4 尿路結石症

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著者:

ページ範囲:P.83 - P.83

尿路結石による疼痛発作

著者: 柑本康夫

ページ範囲:P.84 - P.86

疾患の概要

 腎臓内の結石は症状のないことが多いが,結石が腎盂尿管移行部や尿管に下降し嵌頓すると,疼痛発作を来す.腎盂尿管移行部から上部尿管では側腹部から背部に疼痛を生じ,中部から下部尿管では下腹部痛や外陰部への放散痛を伴うこともある.疼痛発作の機序は,尿路の急激な閉塞による腎盂内圧の上昇および腎被膜の過伸展,結石による尿管粘膜の損傷および尿管攣縮によるとされている.この疼痛は激烈なものであり,数時間から半日程度持続し,いったん消失しても繰り返し発作を起こすこともある.また,腎被膜と腸管は共通の内臓神経に支配されているため,尿路結石の疼痛発作に嘔気や嘔吐を伴うこともある.このため,消化器疾患との鑑別が重要であるが,尿路結石では強い疼痛にもかかわらず,腹膜刺激症状がみられないのが特徴的である.

カルシウム結石

著者: 柑本康夫

ページ範囲:P.87 - P.90

疾患の概要

 尿路結石の90%以上はカルシウム結石であり,ほとんどはシュウ酸カルシウム結石が主成分である.その形成過程は,尿中でシュウ酸カルシウムが過飽和状態となると結晶核が形成され,これが成長・凝集し,さらに有機物質も取り込みながら結石形成に至ると考えられている.カルシウム結石の主な成因は,こうした結石形成過程を促進あるいは抑制する物質の尿中排泄量の多寡によるものであり,高カルシウム尿(症),高シュウ酸尿(症),高尿酸尿,低クエン酸尿,低マグネシウム尿などの病態(疾患)が挙げられる.また,シュウ酸カルシウム結石では原発性高シュウ酸尿症や腸性高シュウ酸尿症,リン酸カルシウム結石では原発性副甲状腺機能亢進症,腎尿細管性アシドーシスなどの基礎疾患がみられることもある.ESWLや内視鏡手術の発展により結石の除去は容易になったが,結石形成の原因となっている病態・疾患が改善されない限り再発は避けられず,カルシウム結石の5年再発率は約45%とされている.

尿酸・シスチン結石

著者: 柑本康夫

ページ範囲:P.91 - P.93

疾患の概要

 尿酸結石は尿路結石の約5%を占め,40〜50歳台の男性に好発する.尿酸結石の成因は,尿量低下,酸性尿,高尿酸尿である.尿酸の溶解度は尿pHに大きく依存しており,pH5の酸性尿下ではほとんどの人の尿は溶解度を超えることになる.また,多くの尿酸結石患者において尿中尿酸排泄量は正常で,持続的な酸性尿がみられることから,上述の成因のうち酸性尿が最も重要と考えられる.酸性尿の原因としては,動物性タンパク質の過剰摂取,肥満,メタボリックシンドローム,炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など),小腸瘻造設術などが挙げられる.

 シスチン結石は尿路結石の1〜2%を占め,常染色体劣性遺伝性疾患のシスチン尿症が原因である.腎近位尿細管における再吸収障害により二塩基性アミノ酸が尿中に多量に排泄され,特に溶解度の低いシスチンの結石が形成される.若年性に発症し,再発率も高いのが特徴である.尿酸と同様にシスチンも酸性尿で溶解度が低くなる.

5 先天性および小児泌尿器科

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著者:

ページ範囲:P.95 - P.95

膀胱尿管逆流(尿路感染症)

著者: 久松英治 ,   吉野薫

ページ範囲:P.96 - P.97

疾患の概要

 尿路感染症(urinary tract infection : UTI)は小児の細菌感染症のなかで呼吸器感染に次いで多い.年齢によって異なるが,男児の約1%,女児の約3%に発生する.1歳までは男児に多いが,それ以降は女児に多くなってくる.危険因子として,膀胱尿管逆流(vesicoureteral reflux : VUR)などの先天性尿路疾患,排尿障害,排便障害,包茎が挙げられる.

 VURとは,膀胱内の尿が上部尿路に逆流する病的な状態である.2歳未満の有熱性UTIの30%にVURを認める.VUR gradingは国際分類に従って行う(gradeI〜V).自然消失率は,年長児より乳幼児,高度VURより軽度VUR,両側例より片側例が高い.

亀頭包皮炎

著者: 久松英治 ,   吉野薫

ページ範囲:P.98 - P.99

疾患の概要

 亀頭包皮炎は,包茎の男児に認める亀頭と包皮の炎症である.環状切除術を受けていない男児の約4%に認め,2〜5歳に多い.病因は明らかではなく,感染,物理的損傷,接触による刺激,アレルギーなどが原因として挙げられているが,明らかな原因を認めない症例も多い.

 包皮の先端や包皮全体に発赤や腫脹があり,疼痛,膿汁分泌,排尿時痛がみられる.症状が高度の場合,尿閉となることもある.

先天性副腎過形成

著者: 丸山哲史 ,   守時良演 ,   林祐太郎

ページ範囲:P.101 - P.103

疾患の概要

 先天性副腎過形成症では先天的な酵素欠損により,コルチゾールやアルドステロンの欠乏,テストステロン過剰など,副腎皮質ホルモン系の異常が出現する.さまざまなタイプの酵素欠損があるが,症例全体の95%を占める21水酸化酵素欠損症を念頭に,薬物治療の概要と実際の処方例などを解説する.

 21水酸化酵素欠損症の責任遺伝子(CYP21A2)は常染色体6番短腕に存在し,劣性の遺伝形式を示す.約200種類の遺伝子変異タイプがあり,さまざまな臨床症状を来し,塩喪失型,単純男性型,非古典型の3群に分類される.

夜尿症

著者: 丸山哲史 ,   西尾英紀 ,   林祐太郎

ページ範囲:P.105 - P.107

疾患の概要

 夜尿とは「夜間に起こる非覚醒下での間欠的尿失禁」で,膀胱消化管機能不全(bladder bowel dysfunction : BBD)の一部を占める症候群と理解されている.このうち,夜間睡眠中の尿失禁を単一症候性夜尿(monosymptomatic nocturnal enuresis : MNE)とし,昼間の頻尿,尿意切迫感などの下部尿路症状(lower urinary tract symptoms : LUTS)を伴う場合を,非単一症候性夜尿(non monosymptomatic nocturnal enuresis : NMNE)と称する.さらに,生来持続している場合を一次性夜尿,6か月以上自立したのちにみられる夜尿を二次性夜尿とする.

小児尿失禁・過活動膀胱

著者: 北雅史 ,   柿崎秀宏

ページ範囲:P.108 - P.110

疾患の概要

 小児の尿失禁にはさまざまな要因があり,低活動膀胱による溢流性尿失禁や,尿管異所開口による尿管性尿失禁などは,自己導尿や手術的治療などの積極的治療介入が必要となる.本稿では,薬物療法が主体となる過活動膀胱に焦点をあて解説する.

 小児過活動膀胱の定義は定まったものはないが,ICCS(international children's continence society)によれば,尿意切迫感を伴い,通常頻尿と夜尿を伴うものであり,切迫性尿失禁の有無は問わないとされている.小児過活動膀胱においては,年齢とともに自然治癒する症例も多く,健常児の成長過程の一部をみている可能性もある一方,排尿を過度に我慢するvoiding postponementに伴う切迫感といった排尿習慣が原因となるものや,dysfunctional voidingに合併する過活動膀胱(non-neurogenic bladder-sphincter dysfunction)といった蓄尿相のみならず排尿相における異常の原因もしくは結果と解釈できる病態も存在し,定義は同じでも成人の過活動膀胱とは異なった視点が必要となる.

ウィルムス腫瘍(腎芽腫)

著者: 北雅史 ,   柿崎秀宏 ,   更科岳大

ページ範囲:P.111 - P.114

疾患の概要

 ウィルムス腫瘍(腎芽腫)は,小児腎腫瘍のなかで最も頻度の高い腫瘍である.米国では15歳未満の人口100万対7.6人に発生しており,診断時の年齢は3歳前後である.しかし,発生率には人種差があり,アジア人の罹患率は低い.約10%に多発奇形症候群を認める.鑑別疾患としては,腎明細胞肉腫や腎横紋筋肉腫様腫瘍,先天性間葉芽腎腫,腎細胞癌などが挙げられる.特異的な腫瘍マーカーはなく,画像診断により評価され,病理組織診にて確定診断を得る.

 代表的な多施設共同研究として,米国のNWTS(National Wilms Tumor Study)と欧州のSIOP(International Society of Pediatric Oncology)があり,それぞれ病期分類や化学療法の位置づけに関して違いがある.日本においてはJWiTS(Japan Wilms Tumor Study)があり,NWTSに準じた治療を提唱している.治療にあたっては小児がん診療の経験が豊富な施設で行うべきである.

6 内分泌疾患

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著者:

ページ範囲:P.115 - P.115

原発性アルドステロン症

著者: 西本紘嗣郎 ,   西川哲男

ページ範囲:P.116 - P.119

疾患の概要

 近年,原発性アルドステロン症(primary aldosteronism : PA)は多くの高血圧患者(約10%)に検出されるようになった.これは,血漿レニン活性(plasma renin activity : PRA)と血漿アルドステロン濃度(plasma aldosterone concentration : PAC)の測定によるPAのスクリーニング検査が,高血圧患者に広く行われるようになったことが1つの要因である.PAにおける過剰なアルドステロンは,高血圧や低カリウム血症を発症させるだけでなく,心血管系に直接的に働いて,高率に脳卒中や心疾患を合併させる.したがって,PAの治療は降圧だけでは不十分であり,過剰なアルドステロンの制御が重要である.PAは主に,アルドステロン産生腺腫(aldosterone-producing adenoma : APA)と特発性アルドステロン症(idiopathic hyperaldosteronism : IHA)に分類される.APAは通常片側性(左右の副腎のどちらかに発生する)であるので,副腎摘除術により治癒する一方,IHAは両側性であるので,副腎摘除術の適応とはならず,生涯にわたって鉱質コルチコイド受容体阻害薬による治療を行う.

クッシング症候群

著者: 立木美香 ,   田辺晶代 ,   成瀬光栄

ページ範囲:P.120 - P.123

疾患の概要

 クッシング症候群とは,副腎皮質からコルチゾールが過剰に分泌される結果,特徴的な身体所見(クッシング徴候 : 満月様顔貌,水牛様脂肪沈着,中心性肥満,赤色皮膚線条,皮下出血斑,皮膚の菲薄化など),高血圧,糖・脂質代謝,電解質異常,骨代謝異常などの多様な症状を呈する疾患である.

 クッシング症候群の主要な病型は,①下垂体のACTH産生腫瘍による下垂体性クッシング症候群(クッシング病),②肺癌などからACTHが産生される異所性ACTH産生腫瘍,および副腎腫瘍による狭義のクッシング症候群(副腎性クッシング症候群)であるが,そのほかに,ACTH非依存性大結節性副腎皮質過形成(AIMAH)などもある.副腎腫瘍の約95%が副腎腺腫,約5%が癌である.

褐色細胞腫

著者: 立木美香 ,   馬越洋宜 ,   成瀬光栄

ページ範囲:P.124 - P.126

疾患の概要

 褐色細胞腫は副腎髄質,傍神経節細胞に発生するカテコールアミン産生腫瘍で,後者は一般にパラガングリオーマと呼ばれる.通常,血中,尿中カテコールアミンと代謝産物の増加および画像検査による腫瘍の確認により診断は容易である.高血圧の治療はαブロッカーが第一選択である.約90%は良性で,原因となる腫瘍摘出により完治する.一方,診断の遅れは,カテコールアミン過剰に伴う高血圧や糖尿病などの種々の代謝異常,不整脈,たこつぼ型心筋症などを合併し,時に高血圧クリーゼを呈することがある.クリーゼを発症してはじめて褐色細胞腫と診断される症例もあり,診断・治療の遅れで死に至ることもある.さらに,約10%は局所浸潤や遠隔転移を伴う悪性例で,治療に難渋することが多い.動悸・発汗・頭痛などの多彩な症状を呈する高血圧,発作性・動揺性の高血圧,副腎偶発腫,高血圧クリーゼなどを認めた場合は,褐色細胞腫を念頭に置いて鑑別診断を進める必要がある.わが国では厚労省難治性疾患克服研究事業による研究班により,良性および悪性の診療アルゴリズム(案)が作成されている.

LOH症候群

著者: 白石晃司

ページ範囲:P.127 - P.129

疾患の概要

 加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)は性機能障害や更年期障害のみならず,テストステロン(T)低下による認知障害や心血管障害,脂質代謝異常,下部尿路症状や筋肉・骨代謝異常などのフレイルなども含む疾患概念であり,ストレス社会および高齢社会において広く関わってくる.男性更年期障害の症状を有する患者の病態は複雑であり,前期更年期障害は性機能障害やストレス性心身症症状の割合が多く,後期更年期ではT低下も顕著となり,その欠乏症状が前面に出てくることが多い.更年期症状の把握のためにAMS(aging male symptom)スケールや勃起機能の評価のためにIIEF-5にて評価することは重要であるが,必ずしもT値とは相関しない.質問票のみならず患者の訴えを真摯に傾聴することが治療効果の改善にもつながる.

低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症(MHH)

著者: 白石晃司

ページ範囲:P.130 - P.132

疾患の概要

 低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症(male hypogonadotropic hypogonadism : MHH)は,視床下部あるいは下垂体に病因が存在し,ゴナドトロピン(LHおよびFSH)分泌が欠如または低下することにより,精巣機能(テストステロン産生および精子形成)が低下している状態である.Kallmann症候群に代表される遺伝子異常は以前から知られていたが,次世代シーケンサー解析などから,既知遺伝子として約30個の遺伝子異常が判明しており,同一症例においても複数の関連遺伝子異常が高頻度に同定されている.また,下垂体腫瘍術後や放射線療法後など,続発性のMHH症例も多く存在する.まれではあるが成人発症MHH,すなわち,第二次性徴完了後に,性欲減退や不妊などを主症状として発症する場合もある.男性不妊外来では1〜2%とまれであるが,ゴナドトロピン療法により高率に精子形成の誘導が可能であるため,適切な診断と治療が必要である.

7 性機能障害

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著者:

ページ範囲:P.133 - P.133

勃起障害

著者: 久末伸一

ページ範囲:P.134 - P.136

疾患の概要

 勃起障害または勃起不全(erectile dysfunction : ED)はNIHコンセンサス会議では,「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか,または維持できない状態」と定義されている.わが国におけるEDの有病者数は,中等度EDが約870万人,完全EDが約260万人で,合わせて約1130万人と推定されている.とりわけ高齢化の著しいわが国では,今後さらに有病者数が増えることが予測されている.

 EDと心血管疾患はリスクファクターを共有しており,これらのリスクファクターのうち,喫煙,高血圧,糖尿病は全身の血管内皮細胞を障害する要因とされている.以上より,内服加療を行う場合も血管をターゲットとする薬剤が中心となる.機能性(心因性)と区別される器質性のEDでは,これら血管性EDのほかに,神経性ED,解剖性ED,内分泌性EDに大きく分けられる.

射精障害

著者: 久末伸一

ページ範囲:P.137 - P.139

疾患の概要

 欧州ガイドラインによると,射精障害は,Anejaculation(無射精),Anorgasmia(無オーガズム),Delayed Ejaculation(遅漏),Retrograde ejaculation(逆行性射精),Premature ejaculation(早漏),Painful ejaculation(射精痛)に分けられる.

 薬物治療が有効な射精障害としては,逆行性射精と早漏が挙げられるが,わが国では保険適用のある治療はなく,すべてオフラベル(適応外使用)となることから,臨床試験,もしくは自費診療となることに留意する.

血精液症

著者: 永尾光一

ページ範囲:P.140 - P.141

疾患の概要

 血精液症は,精液に血液が混入した状態で,大部分は数週間以内に自然に治まる.原因不明が多く,悪性腫瘍はまれである.以前は,前立腺炎,精囊炎や尿路感染症などの炎症が多かったが,経直腸的超音波検査やMRIが普及してきて,精囊拡張,囊胞疾患,結石,精囊・精管の病変が発見されるようになり,炎症病変は少なくなってきた.一方,悪性腫瘍(前立腺癌や膀胱癌)の頻度は以前と変わらず約2%程度と少ない.血尿やパートナーの血液が混ざる場合は,偽の血精液症となる.

ペロニー病

著者: 永尾光一

ページ範囲:P.142 - P.144

疾患の概要

 フランスのFrancois Gigot la Peyronieが1743年に最初に報告した疾患である.発音は,「ペイロニー」ではなく「ペロニー」である.ペロニー病は,陰茎海綿体白膜に線維性硬結が形成される良性の疾患であり,勃起時疼痛,硬結の触知,陰茎弯曲,勃起不全などになり性交障害の原因となる.

 発生頻度は,2000年のドイツ人男性8,000人の一般人調査(回収率55.4%,平均年齢57歳)で3.2%(硬結の触知),年齢別では,30歳台1.5%,40歳台3%,50歳台3%,60歳台4%,70歳以上6.5%であり,頻度の高い疾患である.手足の拘縮(Dupuitren's contracture)を併発することがある.

8 腎機能障害

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著者:

ページ範囲:P.145 - P.145

急性腎障害(AKI)

著者: 岡田浩一

ページ範囲:P.146 - P.149

疾患の概要

 腎機能が急速に悪化し,体液の恒常性維持が障害される急性腎不全(acute renal failure : ARF)は,腎機能予後のみならず生命予後も悪化させる重篤な病態であり,統一された定義や診断基準が存在しなかったため,診断と治療介入がランダムとならざるを得ず,治療効果が不十分となり予後の改善には結びつかなかった.また,臨床研究でのARF発症率やARF症例の死亡率などの疫学的検討や,治療に関する臨床試験間の比較が困難であった.

 そこで,2004年にARFに代わりより早期の段階の腎障害を含めた急性腎障害(acute kidney injury : AKI)という概念がRIFLE基準とともに発表され,2007年にはAKIN基準が,さらに2012年にはKDIGOによるKDIGO基準が提唱された.現在までのところ,KDIGO基準による診断が最も的確にAKI症例を検出できるとされており(表1),この診断基準に沿ったAKIの早期診断,早期介入が腎機能予後および生命予後を改善させるものと期待される.

慢性腎臓病(CKD)

著者: 岡田浩一

ページ範囲:P.150 - P.153

疾患の概要

 慢性腎臓病(chronic kidney disease : CKD)は「腎障害を示唆する検査所見(検尿異常,画像異常,血液異常,病理所見など)の存在とGFR 60mL/分未満のいずれか,もしくは両方が3か月以上持続する状態」と定義され,末期腎不全および心血管病(cardiovascular disease : CVD)のリスク因子である.CKDと,あえて非特異的な病名を提唱した背景には,①原疾患に関わらない末期腎不全の予備軍としての位置づけを明瞭にし,②糖尿病,高血圧,脂質異常症などと並ぶCVDのリスク因子としての認識を確立することで,より早期からの介入を促進するという目的があった.

 リスク因子としての重要度は,GFRによって定義されるG区分と蛋白尿によって定義されるA区分によって各ステージがマトリックス化されており,表1において危険度が高いステージほど濃い色で示されている.CKDは原則として原疾患を問わない概念だが,糖尿病は例外的にリスクをさらに高くする因子であり,できる限り付記することとなっている.CKD患者に対する治療に関しては,それぞれの原疾患に特異的な治療に加え,すべてのCKD患者に共通する,蛋白尿を減らし,GFRの低下を抑え,CVD合併を予防するための一般的な治療が挙げられる.

腎移植(免疫抑制薬)

著者: 齋藤満 ,   佐藤滋 ,   羽渕友則

ページ範囲:P.154 - P.158

疾患の概要

 腎移植療法では,拒絶反応を抑制する目的で免疫抑制療法を行うが,免疫抑制が不十分であれば拒絶反応が発症しやすくなり,過剰であれば腎毒性や日和見感染症が発症しやすくなるため,腎移植レシピエントの状況や全身状態に応じて常にバランスを意識した処方が必要となる.また,そのバランスがとれていたとしても,悪性腫瘍が発生した場合など,免疫抑制自体が病状や全身状態の悪化を来したり,化学療法などのほかの治療法に影響する可能性があるときは,拒絶反応に注意しながら減量または中止を考慮しなければならない.移植腎生検は腎移植レシピエント(あるいは移植腎)にとって適正な免疫抑制状態におかれているかどうかを見極める手段の1つであるが,侵襲的検査であることから必要最小限にとどめるべきである.

腎梗塞

著者: 北川育秀 ,   並木幹夫

ページ範囲:P.159 - P.160

疾患の概要

 腎梗塞とは,片側あるいは両側性に腎動脈本幹またはその分枝が塞栓や血栓により閉塞した状態であり,腎動脈自体の異常による血栓症と他臓器からの血栓による塞栓症とに大別できる.血栓症の原因は腎動脈の動脈硬化や血管炎などであり,塞栓症の原因は心臓弁膜症や心房細動などの心血管系基礎疾患に加え,心臓血管手術やカテーテル操作など医原性のこともある.

 症状は急激な腰背部痛,悪心嘔吐,血尿,発熱などで,血液検査でも白血球増加,LDHやASTの上昇が認められる.急性発症の場合,高血圧はまれである.1本の腎動脈の部分的閉塞は,相当な期間にわたり,しばしば無症候性である.

後腹膜線維症(IgG4関連疾患を含む)

著者: 北川育秀 ,   並木幹夫 ,   川野充弘

ページ範囲:P.161 - P.162

疾患の概要

 後腹膜線維症は両側の尿管狭窄と水腎症を特徴とする線維炎症性病変であり,広義には,感染症,薬剤(麦角アルカロイドなど),腫瘍(悪性リンパ腫,カルチノイド,消化器系あるいは婦人科系癌の腹膜播種など)を原因とする病態を含み,原因不明のものを特発性後腹膜線維症と総称していた.最近,IgG4関連疾患に関する概念が整理されてきて,現在では,特発性後腹膜線維症のなかにIgG4関連疾患とIgG4非関連群が存在することが明らかにされているが,IgG4関連疾患として腎盂尿管粘膜に生じる病変があること,IgG4非関連群でも関連疾患としての治療に反応する場合があることなどより,後腹膜線維症の概念がさらに変遷する可能性があり,今後の動向に注目する必要がある.

9 腫瘍

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著者:

ページ範囲:P.163 - P.163

標準治療

副腎皮質癌

著者: 西本紘嗣郎 ,   北村陽典 ,   池田隆

ページ範囲:P.164 - P.166

疾患の概要

 副腎皮質癌(adrenocortical carcinoma : ACC)は,年間100万人中約1〜2人に検出される比較的まれな疾患である.好発年齢は1〜6歳までの乳幼児期と40〜60歳の中年期であるが,本稿では成人ACCについてのみ概説する.

 ACCの約半数は,コルチゾールやアンドロゲンなどの副腎皮質ホルモンを過剰産生する.ACCの分類には,European Network for the Study of Adrenal Tumor(ENSAT)分類(Stage 1〜4)が頻用される.ENSAT Stage 1〔TNM分類 : T1(≤ 5cm),N0, M0〕とStage 2〔T2(>5cm),N0, M0〕は副腎限局癌,Stage 3は周囲組織や隣接臓器への浸潤癌(T3〜4, N0, M0)あるいは所属リンパ節転移癌(T1〜2, N1, M0),Stage 4は遠隔転移を伴う癌(T1〜4, N0〜1, M1)である.外科的切除は,Stage 1〜2のACCに限らずStage 3〜4のACCにも適応となる.摘出された組織の病理診断にはWeissの診断基準が用いられ,なかでも増殖マーカーであるKi67免疫染色の標識率は,Stage 1〜2のACCの術後補助療法の適応の判断に使用される.近年,放射線外照射はACC術後の残存腫瘍やStage 4のACCの緩和治療に有効であることが判明してきている.以上のように,ACCに対する治療は,外科的治療,薬物治療,放射線治療などの組み合わせにより行うことが重要である.

転移性腎細胞癌

著者: 高橋正幸 ,   金山博臣

ページ範囲:P.167 - P.171

疾患の概要

 腎細胞癌は,成人の癌の2〜3%を占める.近年,他疾患におけるCT検査の機会の増加や検診により早期癌の発見が増えているが,進行癌も増加し,死亡数も増えている.危険因子として喫煙,肥満,高血圧などが報告されている.初診時に約30%に転移があり,限局性腎癌においても根治的腎摘除術後,約30%に再発が出現する.転移部位は肺,リンパ節,骨に多い.病理組織型は,淡明細胞型腎細胞癌が最も多く約80%を占め,乳頭状腎細胞癌が10〜15%,嫌色素性腎細胞癌が5%程度に認められる.集合管癌(ベリニ管癌)は頻度が低く,1%未満である.腎細胞癌のうち2〜3%は家族性である.そのなかで,von-Hippel Lindau(VHL)病が代表的な遺伝性疾患で,淡明細胞型腎細胞癌,中枢神経系の血管芽腫,褐色細胞腫などが発生する.散発性淡明細胞型腎細胞癌においても約70%にVHL遺伝子の突然変異やメチル化の異常が観察される.

 原発巣による症状は,早期癌では通常認めない.局所進行癌では,尿路に浸潤し血尿をきたすことがある.また,腫瘍の増大に伴い,側腹部の疼痛や腹部腫瘤を触知することがある.転移性腎癌では,それぞれの転移巣による症状が出現する.全身症状として,発熱,全身倦怠感,体重減少など,さまざまな症状が出現する.特に体重減少,発熱,急性炎症反応(血沈,CRP陽性)を伴ったいわゆるparaneoplastic inflammatory syndromeを呈する症例では急速に進行し,予後不良の場合が多い.

腎盂尿管癌

著者: 林哲太郎 ,   亭島淳 ,   松原昭郎

ページ範囲:P.172 - P.174

疾患の概要

 腎盂尿管癌は,腎盂尿管の尿路上皮粘膜より発生する悪性腫瘍であり,病理組織学的に90%以上は尿路上皮癌である.尿路上皮から発生する癌全体に占める割合は約5%で,90%以上を占める膀胱癌よりもかなり低い.なかでも,尿管癌の頻度は腎盂癌のおおよそ1/4である.年齢は50歳以上に多く,男性の頻度は女性の2倍以上高い.近年,本邦の腎盂尿管癌による死亡数は増加傾向にある.本稿では,腎盂尿管癌の標準治療について,日本泌尿器科学会の『腎盂・尿管癌診療ガイドライン2014年度版』に基づいて概説する.

膀胱癌

著者: 林哲太郎 ,   亭島淳 ,   松原昭郎

ページ範囲:P.175 - P.178

疾患の概要

 膀胱癌は,膀胱の尿路上皮粘膜より発生する悪性腫瘍であり,病理組織学的には90%以上は尿路上皮癌である.年齢別にみた膀胱癌の罹患率は男女とも60歳以降で増加し,男性の罹患率は女性の約4倍である.膀胱癌の診断と壁内深達度は,経尿道的内視鏡切除術(TUR-BT)によって病理学的に確定され,画像検査(主にCTと骨シンチ)による膀胱壁外浸潤・転移の検索を加えて病期分類が行われ,各段階に応じた治療法が決定される.本邦での膀胱癌の標準治療について,日本泌尿器科学会の『膀胱癌診療ガイドライン2015年度版』に基づいて概説する.

転移性前立腺癌

著者: 猪口淳一 ,   江藤正俊

ページ範囲:P.179 - P.182

疾患の概要

 転移性前立腺癌は,遠隔転移を有する癌,および所属リンパ節転移を有する癌の総称である.転移性前立腺癌の前立腺癌全体に占める割合はPSA検査の導入前後で比較すると低下しているが,前立腺癌全体の罹患率は上昇しており,注意が必要である.最近では転移性前立腺癌の5年生存率は50%を超えると報告されており,他癌腫と比較すると予後良好ではあるが,前立腺癌による死亡数は増加を続けており,さらなる治療成績の改善が求められている.遠隔転移部位としては,骨転移が非常に多いことが特徴であり,前立腺癌死亡例の85%に椎体転移が認められる.骨以外では,遠隔リンパ節,肝臓,肺などが好転移部位である.

去勢抵抗性前立腺癌

著者: 猪口淳一 ,   江藤正俊

ページ範囲:P.183 - P.187

疾患の概要

 去勢抵抗性前立腺癌(castration-resistant prostate cancer : CRPC)とは,一次内分泌療法であるアンドロゲン遮断療法(androgen deprivation therapy : ADT)後に治療抵抗性となった前立腺癌の状態である.転移性前立腺癌に対して一次内分泌療法はよく奏効するものの,数か月から数年の間に多くの症例がCRPCの状態となる.『前立腺癌取扱い規約第4版』によれば,「外科的去勢,薬物による去勢状態で,かつ血清テストステロンが50ng/dL未満であるにもかかわらず,病勢の増悪,PSAの上昇をみた場合」と定義され,CAB(combined androgen blockade)療法などで用いられる抗アンドロゲン剤の投与の有無は問われない.また,PSAの上昇は4週間以上あけて測定したPSAの最低値から25%以上かつ2ng/mL以上の上昇と定義されている.

 去勢抵抗性獲得については,さまざまな機序が提唱されているが,特にアンドロゲンレセプター(AR)を介した増殖刺激経路が重要な役割を担っている.本邦ではARシグナルを標的とした新規治療薬の保険承認により,CRPCの治療戦略はここ数年で劇的な変化がみられている.

精巣癌

著者: 河合弘二

ページ範囲:P.188 - P.191

疾患の概要

 精巣に発生する悪性腫瘍には胚細胞癌のほかに悪性リンパ腫や悪性中皮腫などがあるが,本稿では大部分を占める精巣胚細胞癌(以下,精巣癌)について述べる.精巣癌は20〜40歳台に好発し,たとえ転移していても適切な化学療法と手術療法を行えば90%近くの症例で治癒が期待できる.後腹膜リンパ節と肺が好発転移部位で進行例では肝,脳,骨などの肺以外の臓器にも転移を来す.診断時に転移を認めない病期I症例でも精巣摘出後の再発を予防する目的でBEP 2コース(非セミノーマ)やカルボプラチン単剤(セミノーマ)による術後補助化学療法が行われることがあるが,本稿では転移例に対する化学療法について述べる.

陰茎癌

著者: 末富崇弘

ページ範囲:P.192 - P.194

疾患の概要

 本邦における陰茎癌の頻度は人口10万人あたり0.4〜0.5人とされている.50〜60歳台に好発し,危険因子としてヒトパピローマウイルス(HPV16, 18, 6など),包茎,性行為感染症などが挙げられている.組織型は95%が扁平上皮癌であり,まれに悪性黒色腫や基底細胞癌などの報告がある.発生部位としては亀頭が最も多く,ついで包皮,体部となる.陰茎癌の転移の好発部位はリンパ節であり,特に鼠径部リンパ節転移を来しやすいが,腫大したリンパ節の約半分は炎症性の腫大である.5年生存率は50%だが,初発時にリンパ節転移があった場合は27%まで低下する.リンパ節転移の有無は予後に直結するため,CTやMRIなどの画像検査や,触知可能なリンパ節に関しては,エコーガイド下にfine needle aspiration biopsy(FNAB)が推奨されている.

抗がん剤の副作用対策

急性過敏性反応

著者: 石橋啓 ,   佐藤雄一 ,   小島祥敬

ページ範囲:P.195 - P.198

疾患の概要

 泌尿器腫瘍に対して抗がん剤や分子標的薬が日常的に使用されているが,それらの薬剤に対して免疫反応が過度にあるいは不適当なかたちで起こる場合があり,重篤化すると生命予後に関わるため細心の注意が必要である.急性過敏反応としてのアナフィラキシーの多くは,IgEを介した免疫学的機序によって発生し,白金製剤やタキサン系(特に溶解剤としてポリオキシエチレンヒマシ油を含む薬剤)などの抗がん剤での報告が比較的多い.インフュージョン・リアクションは,投与を開始してから24時間以内に現れる有害事象の総称で,一般に分子標的薬,そのなかでも抗体製剤を投与した場合に発生する.

骨髄抑制

著者: 石橋啓 ,   佐藤雄一 ,   小島祥敬

ページ範囲:P.199 - P.201

疾患の概要

 骨髄抑制は,抗がん剤を用いた化学療法のなかで最も重要な有害事象の1つであり,好中球減少,血小板減少,貧血を引き起こし,これらが投与量規制因子となっていることが多い.なかでも,発熱性好中球減少症(febrile neutropenia : FN)は治療経過中に好中球減少を来して発熱を伴い,時として重篤な感染症に発展する.また,貧血によるQOLの低下,血小板減少による出血症状なども生じうるため,骨髄抑制の程度の正確な評価と適切な対応が必要となる.

悪心・嘔吐

著者: 皆川倫範 ,   小川輝之 ,   石塚修

ページ範囲:P.202 - P.204

疾患の概要

 抗がん剤治療において,有害事象のコントロールはきわめて重要である.悪心・嘔吐は,そのものが致死的・致命的な状態になることはないが,治療中の患者のコンプライアンスを低下させるだけでなく,QOLを低下させる.悪心・嘔吐のメカニズムは,主に3つの経路を介して延髄嘔吐中枢が刺激されることにより誘発される.第一の経路として,消化管のEC細胞刺激によるセロトニンが放出される経路,第二の経路として,第四脳室周囲にあるCTZ受容体が直接・間接的に刺激される経路,そして第三の経路として,情動的な刺激が伝わる経路である.

 また,抗がん剤によって起こる悪心・嘔吐は,急性嘔吐,遅発性嘔吐,予測性嘔吐に分類される.急性嘔吐は投与開始後1〜24時間以内に発生する悪心で,セロトニンの関与が示唆されている.遅延性嘔吐は,投与後24〜48時間ごろより始まり,2〜5日続く悪心・嘔吐であり,セロトニンの関与は薄いとされている.予測性嘔吐は,前回の抗がん剤治療時にコントロール不十分であった場合,次の投与前後に出現する悪心・嘔吐であり,不安などが関与している.

末梢神経障害

著者: 皆川倫範 ,   小川輝之 ,   石塚修

ページ範囲:P.205 - P.207

疾患の概要

 末梢神経障害は運動神経・感覚神経・自律神経の障害に分類される.運動神経が障害された場合,脱力などの筋力低下や,つまずくなどの運動障害として症状を認める.感覚神経が障害された場合,しびれや温覚の鈍麻として症状を認める.自律神経が障害された場合,冷感や無汗症などの症状を認める.

 抗がん剤などの薬剤による副作用として末梢神経障害が起こる場合があり,特にパクリタキセル(タキソール®)やドセタキセル(タキソテール®)などのタキサン製剤,ビンクリスチン(オンコビン®)などのビンカアルカロイド製剤,シスプラチン(ランダ®など)やカルボプラチン(パラプラチン®)などの白金製剤では,高頻度に末梢神経障害による副作用(しびれや感覚障害や痛み)が発現する.この末梢神経障害の原因として,神経軸索の微小管の傷害や神経細胞の直接傷害などが関連しているとされている.

泌尿器癌に対する漢方療法

著者: 皆川倫範 ,   小川輝之 ,   石塚修

ページ範囲:P.208 - P.210

治療方針 薬物療法の概要と狙い

 抗がん剤治療ではさまざまな有害事象が発現する.代表ともいえるのは骨髄抑制,悪心・嘔吐であるが,実際には,食欲不振,全身倦怠感,しびれ・脱力などの末梢神経障害など多彩である.多彩な症状や問題点に対して,すべて西洋薬で対応可能というわけではなく,時に漢方薬が有効な場面がある.

 元来,漢方薬は症状に対して処方され,診断に対して処方される西洋薬とストラテジーが異なる.全身倦怠感などの診断しがたい状態においては,症状から処方のできる漢方薬が効果を発揮する.末梢神経症状などの頻度の高い副作用に対しても,西洋薬で高いエビデンスのある対応薬がない場合も,漢方薬は効果的な場面がある.

口内炎

著者: 大坪公士郎 ,   矢野聖二

ページ範囲:P.211 - P.214

疾患の概要

 口内炎は口腔粘膜に起こる比較的広範囲の炎症性変化であり,悪心・嘔吐,下痢とともに化学療法における消化器毒性の1つで,化学療法を施行した症例の30〜40%程度に認められる.疼痛や経口摂取低下を引き起こし,患者のQOLを損ない,感染症発症や死亡のリスクファクターとも考えられている.

 口内炎は口唇裏面,頬粘膜,舌側縁部〜舌腹などの動きのある柔らかい可動粘膜に発症する.口内炎の発生は口腔粘膜上皮細胞の細胞周期と関連しており,化学療法開始後5〜10日程度で出現する.自覚症状として口腔内の接触痛・冷温水痛,開口困難,嚥下困難,味覚異常など,他覚所見として口腔粘膜の発赤,腫脹,紅斑,びらん,アフタ,潰瘍,偽膜,出血などが認められる.

緩和医療

がん患者の痛み

著者: 余宮きのみ

ページ範囲:P.215 - P.220

疾患の概要

 がん患者の痛みには,「がん疼痛」と「非がん性慢性疼痛」がある.「がん疼痛」は,がん自体による痛みである.「非がん性慢性疼痛」には,がん治療による痛み(手術,化学療法,放射線療法など),がんに関連した痛み(褥瘡,便秘など),がんには関連のない痛み(変形性関節症など)がある.「がん疼痛」と「非がん性慢性疼痛」では,治療方針が異なるので注意する.

 さらに,「がん疼痛」は,病態の面で「侵害受容性疼痛(体性痛,内臓痛)」と「神経障害性疼痛」に分類される.神経障害性疼痛は,ビリビリする,針で刺される,焼けるようななど,痛みの性状に特徴があり,感覚障害を伴うことがある.

がん患者の呼吸器症状

著者: 川島正裕

ページ範囲:P.221 - P.225

疾患の概要

 呼吸困難と咳嗽は,多くのがん患者に出現する頻度が高い呼吸器症状である.また,がん患者に与える苦痛も強く,QOLの低下をもたらす.

 呼吸困難とは,呼吸時の不快な感覚という主観的な症状である.①症状の有無や重症度は,経皮的酸素飽和度や動脈血ガスなどの検査所見とは必ずしも一致しない,②不快感,苦痛,努力感など複数の感覚で表現される,③痛みと同様に,身体的,感情的・情緒的な側面をもつことが特徴である.一方,呼吸不全は,動脈血ガスが異常を示し,PaO2が60Torr以下が診断基準になる客観的病態である.多くの場合,呼吸不全が原因となり,呼吸困難が出現するが,両者が一致しないこともある.がん患者において呼吸困難の原因は多様で,①がんに関連した原因(胸水,心囊水,気道狭窄など),②がん治療に関連した原因(放射線肺臓炎,化学療法に伴う間質性肺炎,がん性リンパ管症など),③がんとは関連しない原因(肺炎,慢性閉塞性肺疾患 : COPD,心不全など)に分けられる.

がん患者の消化器症状

著者: 上里昌也

ページ範囲:P.226 - P.229

疾患の概要

 主に後腹膜臓器の疾患を扱う泌尿器科においても,消化器症状を訴えるがん患者は多く認められる.その症状は腹痛,嘔気・嘔吐,下痢,便秘,腹部膨満など多岐にわたり,また重複することも多い.症状の原因として,既知の癌の進行状況から容易に推測できる病態から,急な病状変化も含まれる.正確な鑑別診断のためには,問診,視診,触診,聴診の基本を疎かにしてはならない.緩和医療であっても,採血,超音波検査,X線検査,CTなどを適宜施行し,正確な診断と評価のもとに,そのときの患者の状態に合わせた適切なマネジメントを行うことが重要である.

 今回取り上げる消化器症状は,嘔気・嘔吐,下痢,便秘,腹部膨満である.腹部膨満は,その病態から腸閉塞と腹水に分けて述べる.

がん患者の精神症状・せん妄

著者: 秋月伸哉

ページ範囲:P.230 - P.234

疾患の概要

 がん患者は,その診断から治療経過中,終末期にかけてさまざまなストレスを体験し,時に精神症状を呈する.がん診断,身体症状や機能低下,社会的役割の変化などのストレスに反応して,一般的にさまざまな心理反応(不安,抑うつなど),体調の変化(不眠,食欲不振,倦怠感など),考え方や行動の変化(自信が持てない,外出しなくなるなど)が引き起こされる.これらの反応が著しく強い場合や,社会生活に支障を来す場合に介入を必要とする「気持ちのつらさ」であると判断される.がん患者では適応障害・うつ病の頻度が高く,10〜20%に認められると報告されている.

 不眠もがん患者に多く,30〜50%にみられると報告されている.不眠は睡眠時間だけでなく,持続する眠気や気力低下,集中低下など,日中の障害がある際に治療介入が検討される.

10 周術期

フリーアクセス

著者:

ページ範囲:P.235 - P.235

予定手術

感染症の予防

著者: 濵砂良一

ページ範囲:P.236 - P.239

治療方針 薬物療法の概要と狙い

 泌尿器科手術の特徴は,術野が尿によって汚染される,または尿路そのものが術野となることである.泌尿器科領域における清潔手術とは,尿路が開放されないものであり,尿路が開放される手術,または尿路内視鏡手術は準清潔手術となる.膀胱全摘時に消化管を利用し尿路変更するものは,消化管内容により術野が汚染される可能性があるため,汚染手術に分類される.これらの手術では,術後に発生するsurgical site infection(SSI)の頻度はそれぞれ1〜4%,4〜10%,10〜20%であることが推定され,SSIを予防するために予防的抗菌薬が投与され,それぞれの手術で予想される汚染菌に対応する抗菌薬が選択される.しかし,腎膿瘍,腎周囲膿瘍,フルニエ壊疽などに対する手術は,術後にきわめて高い確率でSSIが発症する.これらの疾患は術前よりすでに感染症が発症しているため,予防的抗菌薬の投与ではなく,術前,術中,術後まで原因菌に感受性のある抗菌薬が,治療薬として投与される.

 術前に尿路感染症(urinary tract infection : UTI)を発症または合併している手術では,術前にUTIを抗菌薬により積極的に治療すべきである.術中の感染尿の術野汚染は,術後SSIの最も大きなリスクファクターとなる.術前にUTIが完治している場合には,一般の手術と同様の対応でよいと思われる.しかし,UTIの多くは複雑性であり,手術時にも感染が持続するような場合には,感染手術として取り扱う.つまり,UTIの原因菌に感受性のある抗菌薬を術前,術中,術後まで治療薬として投与すべきであり,予防的抗菌薬とは別に考える.

深部静脈血栓症の予防

著者: 清水彩里 ,   田中聡

ページ範囲:P.240 - P.243

治療方針 薬物療法の概要と狙い

 静脈血栓塞栓症の予防法は,術前に発症リスクをあらかじめ評価し,そのリスクに応じて決定する.深部静脈血栓症を発症するリスク因子は多岐にわたるため,同じ術式でも個々の患者によってリスク評価は異なる(表1).予定術式,術後出血の可能性,周術期の麻酔方法も含めて総合的に判断する.低〜中リスク群に対しては,早期離床,弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法を行う.薬物療法は,基本的に高〜最高リスク症例に推奨される(表2).

 静脈血栓塞栓症は,適切な予防を行っても完全には防止できない.したがって,患者への十分な説明と,早期発見・適切な対処は常に重要である.なお,すでに静脈血栓塞栓症が認められる場合の二次予防に関しては,本稿では言及しない.

消化管術前処置

著者: 上里昌也

ページ範囲:P.244 - P.245

治療方針 薬物療法の概要と狙い

 泌尿器科領域における消化管術前処置の検討を要する術式は,膀胱全摘術で回腸を遊離する回腸導管や自排尿型代用膀胱(新膀胱)の尿路変更を伴う場合と,結腸・直腸に直接浸潤し合併切除を余儀なくされる場合である.

 近年,術後早期回復を導くエビデンスのある手法を総合的に取り入れた術後回復強化(enhanced recovery after surgery : ERAS)プロトコルを大腸癌手術時に適応させる施設が多くみられる.当科においても,ERASプロトコルを適応させて消化管術前処置を一定管理している.そして,経口摂取の制限,下剤,浣腸の必要性を最小限に抑えて,術後早期回復を得ている.経口摂取の制限は上部消化管内の残渣に,下剤そして浣腸の薬物療法は下部消化管内の残渣管理を目的とする.

肥厚性瘢痕の予防

著者: 小川令

ページ範囲:P.246 - P.248

治療方針 薬物療法の概要と狙い

 肥厚性瘢痕は術後創で炎症が持続することにより,血管・膠原線維・神経線維が増殖する創傷治癒過程の異常であり,赤く隆起し,痛みを伴う状態となる.肥厚性瘢痕を予防するためには,術後創(特に真皮網状層)の炎症を早期に軽減する必要がある.そのため,抗炎症作用のある外用剤や内服薬が予防の主体となる.ひとたび術後創が肥厚性瘢痕になる傾向を認めたら,ただちに副腎皮質ホルモンの外用剤を使用開始する.治療開始が早ければ早いほど治療効果は高い.

ハイリスク患者の管理

ステロイド服用中の患者

著者: 寺嶋克幸

ページ範囲:P.249 - P.252

治療方針 薬物療法の概要と狙い

 長期間のステロイド使用は,外科的侵襲とその後の創傷治癒過程に必要な副腎皮質のステロイド分泌反応を抑制する.このような副腎機能抑制患者は,周術期にステロイドの補充療法を受けなければ,循環器系の合併症を発症するリスクが高まる.グルココルチコイドはカテコールアミンに誘導される心収縮力の増加や血管緊張の維持を介在する.グルココルチコイドの減少は,低血圧にもかかわらず,心拍数の上昇を来さない可能性がある.

 ストレスがなければグルココルチコイド欠乏患者でも一般的に周術期の問題はないが,上気道感染のように軽度でもストレスがある場合は,そのストレスに反応することができない.

降圧薬服用中の患者

著者: 市場晋吾

ページ範囲:P.253 - P.255

疾患の概要

 一般的には,収縮期血圧140mmHg以上,または拡張期血圧90mmHg以上のとき,高血圧と診断される.術前評価では,まず危険因子の有無,すなわち,臓器障害と心血管疾患の危険因子があるかどうかがポイントである.臓器障害では,心臓,脳,腎臓,血管の障害,眼底異常所見の有無が,心血管疾患の危険因子としては,糖尿病や喫煙などの有無とコントロールが挙げられる.現在の高血圧の重症度と,これらの臓器障害と危険因子の有無によって,リスクを判断することができる.

 周術期においても,高血圧症は,心血管系イベント,例えば,左心室肥大による拡張不全,収縮能低下によるうっ血性心不全,腎障害,脳血管障害および心筋梗塞などの重要な危険因子の1つである.麻酔導入期には,交換神経系の活性化により,正常人で血圧は20〜30mmHg上昇し,心拍数は15〜20bpm上昇する.そして,麻酔が深くなるにつれてさまざまな原因,例えば麻酔薬の直接的な影響,交換神経系の抑制効果,動脈の圧受容体反射の制御能低下などにより,平均血圧は低下する.高血圧症の患者は,術中の血圧が低血圧や高血圧を繰り返して不安定になりやすく,心筋虚血,心筋梗塞を惹起する可能性がある.術直後は,麻酔から覚めてくるにつれて,血圧と心拍数がゆっくりと上昇してくるが,高血圧症の患者は有意に上昇し,拡張期血圧が110mmHg以上だと,明らかに心血管系合併症の頻度が増える.

抗血栓薬服用中の患者

著者: 市場晋吾

ページ範囲:P.256 - P.261

疾患の概要

 高齢社会になり,経皮的冠動脈インターベンションの進歩や心房細動における心原性脳塞栓症の予防などにて,抗血小板薬や抗凝固薬による薬物治療を受ける患者が増えてきた.日本ではワルファリンを100万人,アスピリンを300万人が服用しているともいわれている.しかし,長期の臨床経過で,観血的処置が必要となることも多くなった.その際に,抗血小板薬,抗凝固薬の中止が問題となる.

 血栓形成では,血小板が凝集した塊を基にして,そこに血液凝固反応で生成されたフィブリンが網目状の塊を形成する.血栓症には2つのタイプがあり,血流の早い動脈での血栓形成には血小板が,血流の遅い静脈では凝固系の活性化が関与している.「ずり応力」が大きい動脈では,血小板の働きが最も重要であり,「ずり応力」が小さい静脈では,フィブリノーゲンをはじめとする凝固系の活性化が重要である.したがって,抗血栓療法には,抗凝固療法と抗血小板療法がある.狭心症,心筋梗塞,動脈硬化脳梗塞など,動脈で起こる血栓症では,主に抗血小板薬が使われ,人工弁置換術後,心房細動,深部静脈血栓症,肺梗塞,心原性脳梗塞など主に血流の乱れや鬱滞による血栓症では,抗凝固薬が主に使われる.ただし,血小板と凝固因子は,互いに影響しあって血栓をつくるので,抗血小板薬と抗凝固薬が同時に必要になることもある.周術期に抗血栓薬を中止する際には,それぞれの薬剤の特徴を理解したうえで中止することが重要である.

血糖降下薬服用中の患者

著者: 寺嶋克幸

ページ範囲:P.262 - P.267

治療方針 薬物療法の概要と狙い

 近年,さまざまな血糖降下薬が発売された.一般的には,手術当日の朝から血糖降下薬の内服を中止し,食事の摂取の開始から内服を再開する.一部の血糖降下薬には中止と再開に関して特別な制限がある.例えば,メトホルミンは腎機能障害時の排泄低下による乳酸アシドーシスのリスクが増加するために,腎機能の回復を待たなければならない.

 糖尿病患者の周術期管理の目的としては,糖尿病による血糖値管理と臓器・器官障害による合併症予防に焦点をあてる.脳血管障害や虚血性心疾患のリスクは2〜10倍であり,自律神経障害により低血圧からの回復は遅延する.さらに,糖尿病患者では無症候性心筋虚血の可能性が高いため,心電図などの検査所見を確認することが必要である.気道に関しても影響がある.胃内容排出時間は延長し,環軸−後頭骨関節のグリコシレーションによって頸部後屈制限(stiff-neck症候群)を来すことがある.ほかに,高血圧や肥満,慢性腎機能障害は周術期管理を複雑にするため,術前評価と個々の患者に対する周術期管理のオプションが必要である.

透析・慢性腎不全の患者

著者: 杉田慎二 ,   市場晋吾

ページ範囲:P.268 - P.271

疾患の概要

 腎機能が残存している慢性腎不全の患者の周術期管理で重要なことは,残存している腎機能をそれ以上悪化しないように維持することである.慢性腎不全における腎機能悪化のほかの原因としては,腎血流が直接的に減少する病態(心拍出量の低下や腎血流低下など)が生じることのほかに,腎毒性薬物の使用や感染症,高カルシウム,高尿酸血症が挙げられる.術前に腎機能を悪化させうる原因があれば,それを除去する必要がある.

 血清クレアチニン濃度だけでは正確な腎機能評価はできないが,わが国では日本腎臓病学会が発表している推定CCr(eGFR)の式が臨床的に使われている(表1).さらに,クレアチニンクリアランスにおいても正確なGFRを反映しない場合があることを念頭に置く必要がある.日本人におけるGFR推定式は,男性 : eGFR(mL/分/m2)=194×Cr−1.094×年齢−0.287,女性 : eGFR(mL/分/m2)=194×Cr−1.094×年齢−0.287×0.739である.

精神疾患を伴う患者

著者: 秋月伸哉

ページ範囲:P.272 - P.275

治療方針 薬物療法の概要と狙い

 周術期に併存する精神疾患には,術前から罹患していた慢性の精神疾患(統合失調症,躁うつ病などの気分障害,不安障害,人格障害,認知症,アルコール依存症など),手術を要する身体疾患に関連した急性・亜急性の精神疾患(身体疾患に伴うせん妄,身体疾患の心理ストレスによる適応障害など),身体疾患治療に関連した精神症状(ステロイドやインターフェロンに伴う精神症状など),手術の原因になっている精神疾患(自傷や自殺企図に関連した手術など)など,さまざまな状況がある.

 本稿では手術前から罹患していた比較的頻度の高い精神疾患に関する周術期の治療方針について記述する.なお慢性精神疾患に対しては術前からの治療を継続することが原則であり,それぞれの疾患に対する長期的な治療は精神科など専門家と協働して行うべきである.

術後愁訴と合併症

術後疼痛

著者: 余宮きのみ

ページ範囲:P.276 - P.279

疾患の概要

 「術直後の痛み」と「術後遷延痛」に分けて述べる.術直後の痛みと遷延性術後痛は,痛みの特徴および対応方法が異なることに留意する.

 術直後の痛みは,組織損傷(皮膚,皮下組織,末梢神経,筋膜,筋肉,胸膜,腹膜,内臓の各損傷),あるいは術後のカテーテルやドレーン挿入,感染などに起因した炎症を伴って生じる痛みで,主に侵害受容性疼痛である.術直後の痛みに対する不十分な鎮痛は,激しい痛みに加えて,術後の呼吸器・循環器合併症,離床や運動機能の回復遅延,遷延性術後痛への進展など,さまざまな悪影響を生じる.

せん妄

著者: 秋月伸哉

ページ範囲:P.280 - P.282

疾患の概要

 せん妄は身体疾患や薬剤を原因として引き起こされる意識障害の一種で,睡眠障害,注意障害,精神運動興奮,幻覚,妄想など,多彩な精神症状を伴う.せん妄は精神的苦痛を伴う体験であることが多く,また転倒,転落など医療安全上の問題,同意能力の低下により意思決定や適切な身体疾患の治療に支障を来す問題,患者の尊厳の問題など,医療現場における影響も幅広い.有病率は患者の基礎疾患や年齢,受けている治療などにより大きく異なり,入院中の高齢患者では10〜40%,術後患者やICUでは30%程度,人工呼吸器管理中のICU患者で80%にのぼると報告されている.

 最も重要なせん妄治療法は,原因となっている身体疾患の改善や薬剤の中止だが,せん妄の治療,症状コントロール目的で薬物療法も行われる.せん妄の機序は十分に解明されていないが,脳内のアセチルコリン欠乏,ドパミン過剰などが考えられており,抗精神病薬が治療に用いられる.薬物療法の目標も,苦痛緩和や安全管理など,患者の状態によって異なる.

悪心・嘔吐

著者: 上里昌也

ページ範囲:P.283 - P.284

疾患の概要

 術後患者の約30%は,術後24時間以内に悪心・嘔吐(postoperative nausea and vimiting : PONV)を経験するとされる.PONVは,術後の早期離床・早期経口摂取を阻害する因子であり,患者の周術期満足度を著しく下げる.成人におけるPONVのリスク因子には多くのものが知られている(表1).主要なものは,女性,PONVまたは乗り物酔いの既往,非喫煙者,術後のオピオイド鎮痛薬使用であるとされる.これらの因子がない場合および,そのうちの1つ,2つ,3つ,4つがある場合のPONVの予測頻度はそれぞれ,おおよそ10%,20%,40%,60%,80%になるといわれる.

吃逆

著者: 川島正裕

ページ範囲:P.285 - P.287

疾患の概要

 吃逆は,横隔膜の片側または両側の攣縮により,急激な吸気と声門閉鎖を伴う病的な呼吸反射である.前斜角筋,肋間筋,腹筋などの呼吸補助筋の収縮も同時にみられる.多くは一過性で消失するが,数時間から数日間持続すると会話,食事,睡眠などが妨げられ,体重減少や疲労,不安,うつ状態に至ることもある.持続性の吃逆は,圧倒的に男性に多い.

 原因として,胃の膨満や胃内容の食道への逆流,脳腫瘍や脳血管障害,横隔膜や横隔神経への腫瘍の浸潤,尿毒症や低カルシウム血症,高血糖などの代謝障害,ストレスや興奮などの精神的因子,コルチコステロイドの静脈内投与,ベンゾジアゼピン系薬,オピオイドなどの薬剤などがある.

腰椎麻酔後の頭痛

著者: 峰村仁志 ,   田中聡

ページ範囲:P.288 - P.291

疾患の概要

 脊髄クモ膜下麻酔後には,脳脊髄液が穿刺部位から硬膜外腔へ漏出することにより頭痛が生じる.その発生機序として,脳脊髄液圧の低下による脳底部神経組織の尾側への牽引や,脳血管の代償的拡張が考えられている.『国際頭痛分類第2版』ではこれを硬膜穿刺後頭痛(post-dural puncture headache : PDPH)と定義し,①15分の座位または立位で悪化し,15分の臥位で軽快すること,②項部硬直・耳鳴・聴力低下・光過敏・悪心のいずれかを伴うこと,③硬膜穿刺後5日以内に出現すること,④症状出現より1週間以内に自然消失し,硬膜外血液パッチ法後には48時間以内に消失することなどを特徴としている.近年の報告では,発生頻度は1〜10%程度であり,リスクファクターとして,①女性,②中年(31〜50歳),③PDPHの既往,④太い針による硬膜穿刺,⑤硬膜穿刺時に穿刺針のベベルが脊柱長軸に垂直であったことなどが挙げられている.

11 併存疾患

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著者:

ページ範囲:P.293 - P.293

内分泌・代謝系

脂質異常症

著者: 古田泰久 ,   島野仁

ページ範囲:P.294 - P.297

疾患の概要

 脂質異常症は表1のように定義されるが,食事の欧米化に伴い生活習慣病の一部として認識されてきている.そのコントロール不良の継続は動脈硬化を進行させてしまい,心血管イベントのリスクとなる.脂質異常症の存在は健康診断や人間ドックで指摘されて医療機関を受診して発覚することが多く,本人の自主性や治療意欲が重要である.さらに難しいのは,高脂血症は無症状であり,放置されかねないのが現状である.

 ひとたび診断された場合には,治療として生活習慣病の側面があることから食事療法,運動療法を徹底することが基礎となるが,そのためには問診によりその個人の生活習慣を食事内容から運動習慣,仕事環境を含めて1つひとつ明らかにしていくことが重要といえる.生活習慣の改善によって治療目標(表2)を達成できない場合,心血管リスクに応じてスタチンを中心とした薬物療法を考慮する.

甲状腺機能亢進症

著者: 吉村弘

ページ範囲:P.298 - P.300

疾患の概要

 甲状腺機能亢進症は,甲状腺組織での甲状腺ホルモン産生が高まり,血液中甲状腺ホルモンが増加することにより引き起こされる代謝の亢進と,活動過剰の臨床症候群と定義されている.疾患としてはBasedow病(Graves病),機能性結節性甲状腺腫,TSH産生下垂体腫瘍,妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症などがある.

 臨床症状としては,微熱,動悸,体重減少,倦怠感などがある.Basedow病では甲状腺腫や眼球突出,複視などの特徴的な眼症状が認められるが,甲状腺機能亢進症とは異なる症状である.しばしば誤診される破壊性甲状腺炎である無痛性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎でも同様な甲状腺中毒症状が認められるが,甲状腺ホルモン産生は亢進しておらず,抗甲状腺薬は無効である.

甲状腺機能低下症

著者: 吉村弘

ページ範囲:P.301 - P.303

疾患の概要

 甲状腺でのサイロキシン(T4)とトリヨウ素サイロニン(T3)の合成,分泌が低下することによる甲状腺機能異常症である.甲状腺そのものに原因がある場合は,原発性甲状腺機能低下症で甲状腺刺激ホルモン(TSH)が増加する.原発性の原因としては,橋本病,医原性(甲状腺摘除術,Basedow病に対する131I内用療法)がほとんどであるが,甲状腺ホルモン合成遺伝子異常,本邦ではまれであるが無機ヨウ素欠乏症によるものなどがある.甲状腺機能低下症のなかで,FT4が基準値内でTSHのみ高値のものを潜在性甲状腺機能低下症と定義されている.TSHは個人の甲状腺機能を鋭敏に反映しており,FT4が基準値内であってもその患者にとってFT4がやや低くなっていることを示している.頻度は少ないが,下垂体や視床下部に異常があり,active TSHが減少することにより甲状腺機能が低下するのが中枢性甲状腺機能低下症である.

 いずれも甲状腺ホルモンの減少の程度により,症状をほとんど認めないものから,全身浮腫,全身倦怠感,皮膚乾燥,嗄声などの症状を認めるもの,さらに低体温,低換気,循環不全により中枢神経系の機能障害を来す粘液水腫性昏睡に至るものまである.

呼吸器系

細菌性肺炎

著者: 宮下修行

ページ範囲:P.304 - P.307

疾患の概要

 肺炎は発症場所によって大きく市中肺炎(community-acquired pneumonia : CAP)と院内肺炎(hospital acquired pneumonia : HAP)に大別され,市中肺炎は病院外で日常生活していた人に発症した肺炎と定義される.その後,在宅で介護を受けている寝たきり老人や誤嚥を繰り返す患者に発症した肺炎を,市中肺炎とは異なる一群として,医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare associated pneumonia : NHCAP)と分類している.市中肺炎と院内肺炎の大きな違いの1つは,原因微生物で,院内肺炎では非定型病原体(マイコプラズマやレジオネラ,クラミジア)を考慮する必要がない.また,医療・介護関連肺炎では特殊な状況下(施設内での集団感染)を除いて,非定型病原体を考慮する必要がないと考えられている.

間質性肺炎

著者: 宮下修行

ページ範囲:P.308 - P.311

疾患の概要

 特発性間質性肺炎は原因を特定できない間質性肺炎の総称で,現在,①特発性肺線維症(IPF),②非特異性間質性肺炎(NSIP),③特発性器質化肺炎(COP),④急性間質性肺炎(AIP),⑤剝離性間質性肺炎(DIP),⑥呼吸細気管支炎関連性間質性肺炎(RB-ILD),⑦リンパ球性間質性肺炎(LIP)の7型に分類されている.わが国で最も頻度が高いのは①IPF,次いで②NSIP,③COPで,その他の疾患の頻度は低い.間質性肺炎のなかで最も予後不良な疾患はIPFで,慢性・進行性の経過ののち,線維化が進行して不可逆性の蜂巣肺を起こす.特発性間質性肺炎の診断を進めるにあたっては,IPFを的確に診断することがきわめて重要であり,日本呼吸器学会から『特発性間質性肺炎の診断と治療の手引き(改訂第2版)』が公表されている.

咳・痰

著者: 永武毅

ページ範囲:P.312 - P.314

疾患の概要

 咳や痰は下気道の炎症を表す症状であり,痰を伴う咳と痰を伴わない咳に分けられることが多い.痰を伴う咳の割合が多いが,痰を伴わない場合もあるのでよく病歴を聴取することが必要である.単なる急性の炎症か,慢性の炎症の急性増悪かで該当する診断名が決まる.そして何より重要なのが,合併する症状によって用いる薬物の種類が異なることである.そのため,丁寧な診察もまた必要になる.また,呼吸困難や喘鳴を伴うかどうかで,気管支喘息か咳喘息かの診断および治療薬をどう併用するかが決まる.膿性鼻汁や膿性痰が存在する場合は,細菌感染症が強く疑われるので,抗菌薬が使われることが多い.胸痛は肋間神経痛のこともあるが,肺炎などの存在が疑わしい場合は胸部X線の撮影を躊躇してはならない.いずれにしろ,咳や痰がみられる疾患は多いので,的確な診断とともに,上手に合併症も治療することが求められる.

かぜ症候群・インフルエンザ

著者: 永武毅

ページ範囲:P.315 - P.317

疾患の概要

 急性上気道炎,いわゆる“かぜ症候群”の診断は決して難しいものではない.しかるに,かぜ症候群を複雑にしているのは,その関与する病原体の種類の多さである.大半はウイルスであり,症状としても鼻汁,咽頭痛,微熱,全身倦怠感など,軽微であることが多い.そのほとんどが自然治癒するが,時に重症化してしまうのである.そこで,患者が来院する場合は,とにかく早く楽になりたくて受診することがほとんどである.

 インフルエンザでは,高熱,強い全身倦怠感,筋肉痛などで,かぜ症候群のなかでは症状も強いことが多い.かぜ症候群には流行があるので,その情報を的確にキヤッチする.特にインフルエンザには,抗ウイルス薬が使えるため,原因療法ができるという意味でも的確に対応すれば患者を楽にできる.

循環器系

高血圧

著者: 藤島慎一郎

ページ範囲:P.318 - P.321

疾患の概要

 日本高血圧学会による『高血圧治療ガイドライン2014』(JSH2014,日本高血圧学会のサイトから無料でダウンロード可能)に沿って,本態性高血圧症を念頭に概説する.

 2010年の国民健康・栄養調査によると,30歳以上の日本人男性の60%,女性の45%が高血圧と判定されており,高血圧症はきわめて有病率の高い疾患といえる.また,脳卒中,心疾患,腎不全などを介した死亡数への寄与度も高いと報告されている.一方で,管理率(降圧薬服用者のうち血圧140/90mmHg未満の人の割合)は男性では約30%,女性では約40%にとどまっており,より積極的な管理が望まれる.

消化器系

胃炎

著者: 水城啓

ページ範囲:P.322 - P.325

疾患の概要

 近年,胃粘膜障害の主な原因はピロリ菌感染および薬剤性(非ステロイド消炎鎮痛薬=NSAIDsおよび低用量アスピリン=low dose aspirin : LDA)とされる.以前はピロリ菌感染によるものが多かったが,除菌療法が普及した最近ではNSDAIDsによるものが急増している.

 ピロリ感染は当初,消化性潰瘍の原因とされていたが,のちにMALTリンパ腫や突発性血小板減少症,慢性蕁麻疹などとの関連が報告された.最近では胃癌との関連が明らかとなり,ピロリ菌除菌はかつて消化性潰瘍の再発予防のためであったが,現在では胃癌予防が主体となっている.ピロリ感染は幼年期までに経口感染するとされ,成人での感染や除菌後の再感染はないとされる.また,衛生環境の改善に伴い,若年者の感染率は急速に低下している.

腸炎・下痢

著者: 水城啓

ページ範囲:P.326 - P.329

疾患の概要

 本邦での感染性腸炎の原因の80%以上はウイルス性である.感染性腸炎における便培養陽性例は1.5〜5.6%とされており,病歴と臨床所見より重症度,特に脱水の状態を評価し,いつ原因と考えられる病原体を検索するかが重要である.

 便潜血および便中白血球の存在から細菌性下痢が考えられる.便中白血球はハイリスク群において便培養に続き検査を行うが,入院患者においては有用ではなくClostridium difficileの検査を行うのがよい.

便秘

著者: 水城啓

ページ範囲:P.330 - P.333

疾患の概要

 便秘は糞便の腸管内への異常な停留あるいは腸管内通過時間の異常な延長があり,便通の回数と排便量が減少した状態を指す.その定義について,日本内科学会は「便通の回数が週3日未満で,1回の排便量が35g以下」,日本消化器病学会では「便通が数日に1回程度かつ排便間隔が不規則で,便の水分含有量が低下している状態」としている.実際には慢性便秘の診断は,患者の主観的訴えに基づくことが多く,定義は「排便回数の減少」と「排便困難」である.

 便秘における注意点は,続発性便秘である薬剤性(抗コリン薬,オピオイド,カルシウム拮抗薬,ビンカアルカロイド,向精神薬,筋弛緩薬など)や糖尿病,甲状腺疾患,パーキンソン症候群を見逃さないことである.また,高齢者における急性便秘(便通の変化)や下血などは大腸癌のリスクが高いため,内科へ紹介すべきである.

血液系

貧血

著者: 中川由紀 ,   齋藤和英 ,   冨田善彦

ページ範囲:P.334 - P.338

疾患の概要

 一般的に貧血は,何らかの要因で赤血球のヘモグロビン(Hb)が血液体積あたりで減少することである.Hbは酸素運搬を担う主要な構成物質であるため,貧血になると血液の酸素運搬能力が低下する.そのため,多臓器・組織が低酸素状態になり,さまざまな有害事象が発症する.貧血が進むと,酸素運搬のために代償性に血流量を増量し,呼吸量を増やすために,動悸や息切れを自覚症状として認める.しかし,徐々に貧血が進行した場合には,体が低酸素状態に慣らされるために,相当に強い貧血になるまで特に自覚症状がないこともある.そのため,貧血を併発する可能性のある症例については注意深くフォローする必要性がある.

 病因別による貧血の分類を表1に示す.貧血の原因は大別して赤血球産生の低下と,破壊・喪失の亢進がある.このなかで,泌尿器科医に対応が求められる貧血は,①腎臓病(CKD)患者に認められる腎性貧血,②悪性腫瘍,薬剤,放射線,ウイルスなどによる造血細胞障害で認められる二次性貧血,③術後や尿路からの出血による出血性貧血である.本稿ではこれらを中心とした治療方針について述べる.

皮膚科系

ストーマ周囲皮膚障害

著者: 上出良一

ページ範囲:P.339 - P.341

疾患の概要

 ストーマ患者の2/3が何らかの皮膚傷害により,装具の正常な装着に困難を来した経験があるという.ストーマ周囲の皮膚は常時,便,腸液,尿などによる刺激に加え,湿潤環境におかれ,さらに皮膚保護剤により常時密封され,長期にわたり,剝離刺激が繰り返されるという,きわめて過酷な環境にさらされ続けている.

 ストーマ周囲皮膚に生じる皮膚炎の大部分は便や尿漏れ,装具の剝離による一次刺激性皮膚炎であり,装具や外用薬,外用品などによるアレルギー性皮膚炎はまれである.刺激性皮膚炎の起こる理由として,ストーマ孔が大きすぎる,皮膚の落屑,しわ,丘疹状過剰肉芽により面板の密着不良,ストーマが短かかったり部位が不適切,排泄量が大量,既存皮膚疾患の影響などが挙げられる.

湿疹

著者: 袋秀平

ページ範囲:P.342 - P.344

疾患の概要

 湿疹は患者にとっても身近な言葉である.しかし,これは単一の疾患を表す用語ではなく,疾患群であることに注意が必要である.湿疹と皮膚炎は同義と考えて差し支えない.

 泌尿器科領域で問題となる湿疹には,接触皮膚炎,脂漏性皮膚炎,ヴィダール苔癬などがあるが,紙幅の都合で詳述できないため成書をご参照願いたい.多くの場合は,かゆみを主症状とする.当然のことであるが,診断が最重要であり,鑑別が必要な疾患は真菌症,単純ヘルペス,疥癬,梅毒,毛じらみ,その他の性行為感染症,乳房外パジェット病,萎縮性硬化性苔癬,紅色陰癬など多岐にわたる.悪性疾患も含まれるため,注意を要する.

耳鼻咽喉科系

アレルギー性鼻炎

著者: 上條篤

ページ範囲:P.345 - P.350

疾患の概要

 鼻粘膜のI型アレルギー性疾患で,発作性・反復性のくしゃみ,鼻漏,鼻閉を3主徴とする.症状が1年中続く通年性アレルギー性鼻炎と花粉飛散期に症状が出現する季節性アレルギー性鼻炎に分類される.代表的なアレルゲンとして通年性では室内塵ダニ,ペットなどが,季節性アレルギー性鼻炎ではスギ,ヒノキ,カモガヤ,ブタクサなどが知られているが,その他にも原因となるアレルゲンは多岐に及ぶ.また,複数のアレルゲンに感作されている場合も少なくない.その症状は鼻だけにとどまらず,目のかゆみ,咽頭のイガイガ感,咳,頭痛,不眠,集中力低下など,ほかの症状も随伴することが多い.わが国におけるアレルギー性鼻炎の有病率は4割程度と考えられており,年々増加傾向にある.特にスギ花粉症は国民病ともいわれ,労働生産性の低下や巨額な医療費をはじめ,社会に与えるインパクトは無視できない.

のど(咽喉)の痛み

著者: 鈴木賢二

ページ範囲:P.351 - P.354

疾患の概要

 のど(咽喉)の痛みを来す主な疾患には,扁桃炎,扁桃周囲炎,扁桃周囲膿瘍,咽喉頭炎,咽後膿瘍,喉頭蓋炎などがある.急性扁桃炎は小児期に最も多い疾患であり,悪寒・発熱・咽頭痛・嚥下痛を主訴とする.扁桃の炎症が扁桃外にまで進行し,重篤化したものが扁桃周囲炎であり,膿瘍形成したものが扁桃周囲膿瘍である.急性咽喉頭感染症としては,急性咽喉頭炎,重症型の咽後膿瘍や急性喉頭蓋炎が挙げられる.

 喉頭が気道のうち最も狭い部位であるため,喉頭およびその周辺の炎症は時として致命的なこともあり,その診断・治療は迅速かつ確実でなければならない.扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍(患側扁桃周囲の腫脹が強く,口蓋垂が健側に偏位している)や咽後膿瘍(咽頭後壁の疎な組織間隙に膿瘍形成し,小児や高齢者に多いとされる),急性喉頭蓋炎(含み声,嚥下時痛を訴え,咽頭所見に乏しいことが多い)では,切開排膿などの外科的処置,入院加療を要することが多いため,早急に耳鼻咽喉科専門医に紹介する.

整形外科系

腰痛・肩こり

著者: 分田裕順 ,   首藤敏秀 ,   千代反田晋

ページ範囲:P.355 - P.357

疾患の概要

 平成25年の「国民生活基礎調査の概況」における有訴者率は,腰痛(男性第1位,女性第2位),肩こり(男性第2位,女性第1位)ともに上位であり,また,通院者率においても腰痛は男性第4位,女性で第2位と日常診療で遭遇する頻度の多い愁訴である.

 肩こりは,「後頭部から肩,肩甲部にかけての筋肉の緊張を中心とする不快感,違和感,鈍痛などの症状,愁訴」と定義され,関与する筋肉としては僧帽筋が中心で,そのほかに頭半棘筋,頭・頸板状筋,肩甲挙筋,棘上筋,菱形筋が挙げられる.

骨粗鬆症

著者: 川口浩

ページ範囲:P.358 - P.361

疾患の概要

 現在,国内の骨粗鬆症の患者数は高齢化の進展に伴い増加しており,約1280万人といわれている.しかしながら,そのうち医療機関で薬物療法を受けているのは20〜30%に過ぎない.一方,骨粗鬆症治療は現在新薬ラッシュで,各メーカーからのさまざまな情報で臨床の現場は混乱している.

 そこで,表1に日本で現在使用可能な骨粗鬆症治療薬をすべて示した.骨吸収抑制を主たる作用とする薬剤,骨形成促進を主たる作用とする薬剤,いずれにも分類できない薬剤に大きく分けられる.

精神・神経系

頭痛

著者: 岡島由佳

ページ範囲:P.362 - P.365

疾患の概要

 頭痛にはさまざまな種類がある.『国際頭痛分類第3版beta版』(ICHD-3β)によると,頭痛は大きく,第1部 : 一次性頭痛,第2部 : 二次性頭痛,第3部 : 有痛性脳神経ニューロパチー,他の顔面痛およびその他の頭痛に分けられる.

 一次性頭痛とは,頭痛そのものが問題となる頭痛性疾患の総称で,片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛が代表的なものである.二次性頭痛とは頭蓋内疾患や全身疾患など,さまざまな疾患に伴う頭痛である.精神疾患による頭痛も二次性頭痛として分類されている.

不眠症

著者: 岡島由佳

ページ範囲:P.366 - P.368

疾患の概要

 入眠や睡眠持続の困難,早朝覚醒や熟眠感低下の訴えがあり,日中の機能低下がみられる病態である.入眠障害とは床についてから寝つくまでの時間が延長し,本人の苦痛がみられる.中途覚醒は夜中に何度も目が覚めて熟眠できない.早朝覚醒は朝早く目が覚めて二度寝ができない.

 不眠の要因は5つのPとしてまとめられる.5Pとは,①Physical(疼痛,痒み,咳,呼吸困難,頻尿などの身体的要因),②Physiological(騒音,光,不快な温度,引っ越しなどの環境変化,好ましくない生活習慣などよる生理学的要因),③Pharmacological(薬物の副作用ないしは離脱などの薬理学的要因),④Psychological(ストレス,緊張などの心理学的要因),⑤Psychiatric(うつ病,統合失調症,不安障害などの精神障害)が挙げられる.不眠がみられた場合,その鑑別を行うことが重要である.

うつ病

著者: 岡島由佳

ページ範囲:P.369 - P.371

疾患の概要

 「気が沈む」「気が滅入る」といった抑うつ気分が主体の,周期的な気分の動揺が特徴的な内因性(素質や遺伝の影響を無視できないが,現時点では原因不明といわざるを得ない状態)の精神障害である.その抑うつ気分は,通常誰でも起こりうる抑うつ気分よりも重度である.理解可能な憂うつとは異なる性質のもので,発症にもはっきりした心理的要因がないことも多い.抑うつ気分以外に,不安感,焦燥感,趣味や楽しみにも関心がもてなくなる興味の喪失,「考えがまとまらない」「決断力が落ちる」「頭の動きが鈍い」といった思考の抑制,自分を責めがちになり,些細なことにも自責感や罪業感をもつといったことがある.希死念慮や自殺企図に発展することもある.1日のうちでも症状に波があり,朝に抑うつ気分や意欲の低下がみられ,夕方にかけて軽快するのが典型的な日内変動である.時に妄想がみられることもあり,うつ病ではその気分に一致した微小妄想(罪業妄想,貧困妄想,心気妄想)が知られている.

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出版社:株式会社医学書院

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印刷版ISSN 0385-2393

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