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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科70巻5号

2016年04月発行

雑誌目次

特集 これだけは伝えたい! 腎癌手術のコツ

企画にあたって フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.305 - P.305

 ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術が2016年4月に保険収載されました.ロボット支援手術としては,前立腺全摘除術に次いで2つ目の保険適用となりますが,いずれも泌尿器科の手術であることは特筆すべき点でしょう.現在の医療技術の進歩を象徴する手術を担う診療科として,泌尿器科のプレゼンスがますます高まっていくものと考えています.

 そこで,この時期に合わせて腎癌手術を特集いたしました.ロボット支援手術だけでなく,その背後に潜む深遠な腎癌手術の世界をわれわれは認識しなければなりません.腎癌手術といえば,ほんの20年前までは開腹で行う根治的腎摘除術のみでした.この多様化し,複雑化する腎癌手術を現状に合わせてまとめてみました.

根治的腎摘除術:経腹膜的到達法

著者: 河合憲康 ,   内木拓 ,   安井孝周

ページ範囲:P.306 - P.311

▶ポイント

・右腎の場合は,十二指腸,副腎中心静脈,短い右腎静脈の処理に気をつける.

・左腎の場合は,左腎静脈に個人差が多いこと,左静脈に流入する腰静脈や奇静脈が死角になることに気をつける.

・左腎の場合の周囲臓器として,脾臓,膵臓損傷に気をつける.

・開腹手術の経験が少ない医師は,経験を積む意味でも術前イメージトレーニングをしたうえで,積極的に手術に参加するべきである.

根治的腎摘除術:後腹膜到達法

著者: 櫻井俊彦 ,   土谷順彦

ページ範囲:P.312 - P.317

▶ポイント

・腹膜を開けずに施行できるため,腹部手術既往例や高齢者・合併症の多い患者などに低侵襲かつ短い手術時間で施行可能である.

・患側の肋骨(主に第11肋骨)の先端を軟骨を含め,5cm程度切除して後腹膜を展開すると,腎門部が創の中心にくることが多く,創を小さくしても良好な視野が得られる.

・腎門部が最も深部にきてしまうため,腫瘍に触らずに腎門部に到達できる症例を選んで施行する.

腎部分切除術

著者: 中澤速和

ページ範囲:P.318 - P.322

▶ポイント

・腎温存手術はT1a腎癌の標準的な治療であり,開腹あるいは腹腔鏡下(含ロボット支援)に腎部分切除術が行われている.

・手術の難易度の指標として,R.E.N.A.L. nephrometry scoreは適応,術式の選択に有用である.

・腎部分切除は腎血流遮断法が一般的であり,温阻血時間の短縮が重要で開腹手術では腎冷却が行われる.

・後出血と尿瘻が重要な合併症である.

下大静脈腫瘍塞栓を伴う腎細胞癌に対する手術

著者: 武藤智

ページ範囲:P.324 - P.327

▶ポイント

・下大静脈内腫瘍塞栓摘除の手術アプローチは,腫瘍塞栓先進部のレベルによって決定される.

・腫瘍塞栓先進部が,肝静脈合流部より尾側にあるときは,通常体外循環を必要としない.肝静脈合流部と腫瘍塞栓先進部との間で下大静脈が遮断できない場合や肝静脈合流部を超える場合には体外循環が必要となる.

・麻酔科,心臓血管外科,肝臓外科と手術のコンセプトを十分に共有するために,術前準備で最も重要なのは充実したキャンサーボードである.

腹腔鏡下根治的腎摘除術:経腹膜到達法

著者: 伊藤哲之

ページ範囲:P.328 - P.332

▶ポイント

・腹腔鏡下根治的腎摘除術は基本的術式だが,癒着などあると難易度が上がる.

・いくつかのコツと,決してしてはならない“Do not”がある.

・SMAと十二指腸を決して損傷しないように,指導者は気をつける必要がある.

腹腔鏡下根治的腎摘除術:後腹膜到達法

著者: 奥村和弘

ページ範囲:P.333 - P.338

▶ポイント

・後腹膜アプローチの利点は,腎の背側から容易に腎茎に到達できることである.

・術前にCT画像にて腎動脈,腎静脈の本数,走行,位置関係をしっかりと把握しておくことが重要である.

・腎茎周囲の組織は十分に処理しておく.これにより血管の処理が安全に行える.

腹腔鏡下腎部分切除術:経腹膜到達法

著者: 小林泰之

ページ範囲:P.340 - P.345

▶ポイント

・腹腔鏡下腎部分切除術の難易度は,症例によって大きく異なる.阻血時間を考慮して,術者の技量に合わせた適切な症例選択が重要.

・腹腔鏡下腎摘除を行う技量に加えて,血管にダメージを与えないような剝離技術,正確で素早い縫合技術などが要求される.

・術前に3D画像などを作成し,腫瘍周囲の血管走行を十分に理解し,腫瘍切除時に血管処理をきちんと行うことが,後出血や仮性動脈瘤の予防に重要.

・術後の合併症(仮性動脈瘤)などに対して,適切な対応を行う知識と設備が必要.

腹腔鏡下腎部分切除術:後腹膜到達法

著者: 槙山和秀

ページ範囲:P.346 - P.352

▶ポイント

・切除縫合しやすい術野をつくる.

・縫合しやすいように切除する.

・良好な視野で切除・切除断端処理を行う.

・十分な術前トレーニングと患者個別のシミュレーションが必要である.

・上記で,Trifecta(癌制御・腎機能温存・合併症なし)達成を目指す.

ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術:経腹膜到達法

著者: 深見直彦 ,   白木良一

ページ範囲:P.354 - P.359

▶ポイント

・低侵襲下に温阻血時間(WIT)の短縮が可能.

・安全性が向上していると報告されている(合併症の発生率低下が認められる).

・術後QOLおよび腎機能が維持され,生命予後の改善が期待できる.

ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術:後腹膜到達法

著者: 古川順也 ,   田中一志 ,   藤澤正人

ページ範囲:P.360 - P.365

▶ポイント

・後腹膜到達法では腸管の授動を必要とせず,消化管合併症を減じることができる.

・腎動脈への到達が早く剝離範囲も少ないために手術時間の短縮が期待できる.

・その反面,経腹膜到達法と比較し,ワーキングスペースが小さく解剖学的なランドマークが限られているため,より高度な技術が必要である.

経皮的ラジオ波焼灼術

著者: 淺野友彦

ページ範囲:P.366 - P.370

▶ポイント

・腎癌に対するRFAは,全身状態や合併症のため根治的な治療が困難な場合に推奨される.

・腎部分切除術と比べてRFAは,根治性で劣るが,低侵襲であり,腎機能保持の面では優れている.

・腫瘍径が3cm以下で,外方突出型の腎癌がRFAのよい適応である.

凍結療法

著者: 杉村芳樹 ,   山中隆嗣 ,   中塚豊真

ページ範囲:P.371 - P.377

▶ポイント

・小径腎癌に対するアブレーション治療として,凍結療法が保険収載され,近年増加傾向である.

・低侵襲であり局所麻酔下に施行可能で,腎機能の温存に優れた治療法である.

・腫瘍の残存・再発に対しても繰り返し治療を行うことができる.

・高齢あるいは各種合併疾患により全身麻酔や外科的切除が困難なハイリスク症例がよい適応であるが,重篤な合併症のリスクはあるため,十分なインフォームド・コンセントが必要である.

・初期治療成績は良好であるが,長期成績についてはさらなる検討が必要である.

綜説

尿道の超音波検査

著者: 皆川倫範 ,   小川輝之 ,   石塚修

ページ範囲:P.293 - P.303

要旨

 尿道の超音波検査は広く普及した検査ではない.尿道が超音波検査の対象になることすら知らない泌尿器科医も少なくないかもしれない.実際,超音波プローブを普通に尿道近傍に接してみても,得られる所見は乏しい.しかし,尿道の内腔に液体がある状態での観察ならば話は違ってきて,いままで見えなかった尿道のシルエットが浮かび上がる.尿道の内腔に液体がある状態で行う超音波検査の手技を「ソノウレスログラフィー」という.ソノウレスログラフィーの原法は排尿時の観察であるが,われわれは逆行性にゼリーを尿道内腔に注入した状態で尿道の形態を観察するソノウレスログラフィーの変法(modified sonourethrography : mSUG)を開発した.mSUGにより,正常尿道の観察のほか,尿道の狭窄や損傷など病的な状態も観察することが可能である.形態の観察だけでなく,尿道カテーテル留置の補助に用いることも可能なので,mSUGの用途は幅広く,得られる所見も有意義である.本稿では,尿道の超音波全般の現状を示しながら,ソノウレスログラフィーの歴史と,われわれが行っているmSUGを用いた取り組みを概説する.

交見室

大事な用語の定義

著者: 勝岡洋治

ページ範囲:P.378 - P.379

 ─NHKのアナウンサーまでが,「世論」を「よろん」と読みはじめたとき,私はテーブルにつっぷしておいおい泣いた.いや,これはちょっとおおげさな物言いだったか.だけど,おいおい泣きたいぐらいの衝撃を受けたのは事実だ.「世論」の読みはあくまで「せろん」であってほしい.「よろん」という言葉には,本来「輿論」というれっきとした漢字が別にあるのだ.漢字検定取得を目指す頑固な老人のように,テレビに向かって文句をつける.絶滅寸前の漢字の読み方は,他にもある.「鬱陶しい」だ.これはどう考えても「うっとうしい」のはずなのに,最近「うっとおしい」と表記したものが激増している.「いとおしさがうっとうしいまで高じた状態」を表す新しい言葉か?─

 以上は女流作家三浦しをんのエッセイ『人生激場』より抜粋したものである.われわれの医療界にも世間での読み方と異なる漢字がある.「腹腔」や「口腔」などは好例で前者は「ふっくう」と読み,後者は「こうくう」と読む.さらに造語に近いものでは「増悪」が一般的に使われているが,広辞苑には収録されておらず,「悪化」が正式な言葉であろう.「病状が悪化する」と表現すべきところを,「病状が増悪する」という使われ方が多い.「増悪」には,再発,進行,衰弱,消耗など包括的な内容を含んでいる印象がある.「急性増悪」となると時間的経過まで捉えている.しかし,造語には注意が必要で,拡大解釈や派生・転用の危険を孕む.明治の文豪夏目漱石は造語の名人といわれているが,文学の世界では許されても(表現が豊かになるとの理由で),科学の分野では言葉の定義は大切で忠実に守らなければならない.その点で,女流作家ほどの驚愕はないが,筆者が気になっている用語がある.それは「転移」の使われ方である.

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バックナンバーのご案内 フリーアクセス

ページ範囲:P.382 - P.382

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.383 - P.383

編集後記 フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.384 - P.384

 東京に住んでいますと,他人から声をかけられることはめったにありません.酒場で話しかけられると,「ああ関西にいるのだな」と,実感いたします.関西以外での滞在なのに頻回に話しかけられた経験があります.1泊の滞在中にいろいろな方に声をかけていただいた経験はこの10年間に唯一なのではっきりと覚えています.場所は富山市でした.

 ふと思い立って,富山県立近代美術館に行きました.館内は私以外に客らしき人影はなく,がらんとしていました.受付にいらっしゃった女性は学芸員あるいはキュレイターらしく,館内の見所を教えてくださいました.随分と踏み込んだ解説をしていただき,そのとき知ったのがフランシス・ベーコンの「横たわる人物」という作品です.知らなかった世界に私を引き込んでくれました.2013年に国立近代美術館で開催されたフランシス・ベーコン展でその絵と再会しましたが,そのなかでも群を抜いた傑作だと思いました.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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