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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科70巻6号

2016年05月発行

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特集 前立腺肥大症の薬物療法─使い分けのポイント

企画にあたって フリーアクセス

著者: 小島祥敬

ページ範囲:P.389 - P.389

 前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia : BPH)の病態には,機能的閉塞と機械的閉塞の2つがあるとされてきました.前者は,交感神経刺激による前立腺平滑筋の過緊張により尿道の動的な閉塞がもたらされ,排尿障害を来すという考え方です.この中心的役割を担うのがα1受容体であり,BPHに対する第一選択薬としてα1遮断薬が使われています.一方後者は,前立腺の腫大による物理的な尿道の圧迫により排尿障害を来すという考え方です.前立腺の増殖には,アンドロゲンがある一定の役割を担っていることから,古くは抗アンドロゲン薬が,最近では5α還元酵素阻害薬が使われるようになっています.

 しかし,BPHがもたらす男性下部尿路症状は,これらの病態のみでは説明できません.BPH患者は,閉塞による排尿症状(障害)のみならず,蓄尿症状(障害)も伴います.BPHの病態は複雑で,症状も患者さんごとに多種多様です.今日では下部尿路症状(障害)に対する薬剤選択肢が増え,患者さんごとの病態や症状に応じてその使い分けをする必要もあります.例えば,PDE5阻害薬がBPHに対する第一選択薬として,α1遮断薬と同等の位置づけになりつつあります.また,α1遮断薬やPDE5阻害薬に加えて,過活動膀胱を伴う場合には抗コリン薬やβ3作動薬を,前立腺容量が大きい場合には5α還元酵素阻害薬を併用したり,植物エキス,生薬,漢方薬などの代替療法が有効な場合があります.さらに,BPHに低活動膀胱を伴う場合の治療,合併する性機能障害についての知識も薬物療法を行ううえでは重要です.

〈総論〉

前立腺肥大症に対する薬物療法─最近の動向

著者: 井川靖彦 ,   亀井潤

ページ範囲:P.390 - P.396

▶ポイント

・前立腺肥大症に対する薬物療法の目的は,下部尿路症状の軽減を通したQOL障害の改善および合併症予防と外科治療の回避である.

・主症状が何であるか(排尿症状,蓄尿症状,夜間頻尿)や,前立腺体積により,個々の症例に適した薬物選択が必要である.

・近年,PDE5阻害薬が登場したことで,治療選択肢の幅が広がっている.

〈第一選択薬〉

サブタイプを考慮したα1遮断薬の選択

著者: 秦淳也 ,   赤井畑秀則 ,   小島祥敬

ページ範囲:P.398 - P.403

▶ポイント

・ヒト前立腺組織には主にα1a受容体とα1d受容体が多く発現しており,α1b受容体の関与は少ない.

・各臓器のα1受容体サブタイプの特徴,α1遮断薬のサブタイプ選択性を考慮することが,より効率的なα1遮断薬の選択に重要である.

・患者の遺伝的背景が,α1遮断薬の効果を規定する因子として重要である.

PDE5阻害薬

著者: 橘田岳也 ,   篠原信雄

ページ範囲:P.404 - P.410

▶ポイント

・前立腺肥大症に対してPDE5阻害薬は第一選択となりうる作用をもち,過去の標準的な治療薬とは異なる薬剤プロファイルをもつ.

・近い将来,PDE5阻害薬とα1遮断薬や5α還元酵素阻害薬との併用療法は治療戦略の中心になる可能性がある.

・PDE5阻害薬の長期効果,高齢者に対する作用,薬剤のさまざまなプロファイルから導かれる効能に関するデータの蓄積は,今後の課題である.

〈併用・追加・代替療法〉

5α還元酵素阻害薬・抗アンドロゲン薬

著者: 和田直樹 ,   柿崎秀宏

ページ範囲:P.412 - P.417

▶ポイント

・基本的に5α還元酵素阻害薬は,α1遮断薬を先行投与された前立腺肥大症患者に対して,追加併用療法として用いられる.

・5α還元酵素阻害薬は,長期にわたり下部尿路症状を改善させ,尿閉の発症や外科手術へ移行するリスクを軽減する.

・抗アンドロゲン薬は,男性ホルモン低下による有害事象が問題となりうる.

抗コリン薬

著者: 松田陽介 ,   横山修

ページ範囲:P.418 - P.423

▶ポイント

・前立腺肥大症を有する過活動膀胱患者に対して,α1遮断薬と抗コリン薬の併用投与の有効性と安全性が示されている.

・まずα1遮断薬の単独投与で治療を開始し,過活動膀胱症状が残存する場合に抗コリン薬を追加投与することが推奨される.

・排尿症状の程度が強い場合,前立腺体積が大きい場合,高齢者などでは,排尿困難・尿閉などの有害事象に注意し,低用量から処方を開始する.また,残尿量の増加や有害事象について,頻回の観察を行うなどの配慮を要する.

β3作動薬

著者: 市原浩司 ,   舛森直哉

ページ範囲:P.424 - P.428

▶ポイント

・β3作動薬は抗コリン薬に特徴的な副作用の発現率は少なく,ウロダイナミクス上も排尿筋収縮力の有意な低下を示さないとされている.

・前立腺肥大症に伴う過活動膀胱症状の改善に対し,α遮断薬へのβ3作動薬追加投与は有効な薬物療法である.

・α遮断薬以外の前立腺肥大症治療薬との併用効果,および服薬継続率や長期投与の効果に対するデータは少なく,今後の検討が望まれる.

植物エキス・生薬・漢方薬

著者: 小川輝之 ,   今村哲也 ,   石塚修

ページ範囲:P.429 - P.432

▶ポイント

・前立腺肥大症の薬物療法の中心はα遮断薬である.植物エキス,生薬,漢方製剤はα遮断薬で排尿症状の改善がみられない症例に有効な場合がある.

・α遮断薬と漢方薬の併用療法は頻尿やQOLなどの排尿症状を改善させることが臨床研究で示されている.植物製剤,生薬,漢方薬単剤の前立腺肥大症への有効性は,他剤との比較試験においてその優位性は認めていない.

・エビプロスタット,セルニルトンなどの植物製剤,漢方薬の八味地黄丸,牛車腎気丸は前立腺肥大症ガイドラインの推奨グレードではC1であった.

〈関連疾患〉

低活動膀胱合併症例に対する治療ストラテジー

著者: 舟橋康人 ,   松川宜久 ,   後藤百万

ページ範囲:P.434 - P.438

▶ポイント

・低活動膀胱を合併する前立腺肥大症においても,まずは下部尿路閉塞を解除することが重要であり,α1遮断薬を用いる.

・排尿筋の収縮力がある程度残存している症例では,排尿筋収縮力の増強を期待して,コリン作動薬を用いる.

・残尿が多く,機能的膀胱容量が少ないような症例では自排尿を断念し,膀胱拡張薬により蓄尿症状を抑えたうえで間欠自己導尿管理とすることもある.

薬物治療と性機能障害

著者: 辻村晃

ページ範囲:P.439 - P.443

▶ポイント

・α1遮断薬は勃起能にはあまり関連しないが,射精障害を引き起こすリスクがある.

・5α還元酵素阻害薬は性機能障害のリスクがあり,服用中止後も持続する可能性がある.

・タダラフィル(PDE5阻害薬)は排尿障害とともに性機能も改善する.

専門医のための泌尿器科基本手術

副腎摘除術:経腹膜到達法

著者: 計屋知彰 ,   酒井英樹

ページ範囲:P.444 - P.449

ポイント

・経腹膜到達法は副腎周囲の広い展開が可能であり,有用な術式である.

・広い術野の展開を行うためには解剖学的理解が重要である.

・手術操作において,副腎そのものは決して鉗子で把持しない.

副腎摘除術:後腹膜到達法

著者: 野村威雄 ,   佐藤文憲 ,   三股浩光

ページ範囲:P.450 - P.454

ポイント

・副腎の存在する場所をイメージする.

・腎上極被膜に沿って腎と副腎を切離する.

・副腎と交通する血管群を損傷しない慎重な操作に努める.

・副腎を露出することなく,脂肪織とともに摘除する.

症例

腹腔鏡下修復術および切石術を一期的に施行した下大静脈後尿管

著者: 福田悠子 ,   野村威雄 ,   山崎六志 ,   三股浩光

ページ範囲:P.455 - P.458

 73歳男性.検診で尿潜血を指摘され,当科を受診.腹部超音波検査,CTで右尿管結石,右尿管拡張を認め,逆行性腎盂造影(以下RP),RP直後に施行したCTで下大静脈後尿管と診断した.手術は腹腔鏡下に下大静脈から尿管を剝離し切断.次いで腎盂側尿管断端より軟性尿管鏡を挿入し尿管結石を摘出.その後,尿管尿管吻合を施行した.

腸重積を来した淡明細胞型腎細胞癌の小腸転移

著者: 野崎哲史 ,   杉野輝明 ,   成山泰道 ,   福田勝洋 ,   矢内良昌 ,   窪田裕樹

ページ範囲:P.459 - P.462

 53歳女性.右腎細胞癌に対し腎摘出術後,5年7か月経過していた.肺転移に対し分子標的薬を使用中,腹痛と粘血便が出現し,上部消化管・大腸内視鏡検査を施行されたが,異常は認められなかった.腹痛が頻回になり,救急外来を受診したところ,CTで小腸腫瘍による腸重積が認められ,小腸部分切除術を施行した.病理診断は腎細胞癌の小腸転移であった.

手術待機中に精索捻転を合併した鼠径部停留精巣の2例

著者: 飯田則利 ,   竜田恭介

ページ範囲:P.463 - P.466

 手術待機中に精索捻転を合併した鼠径部停留精巣の2例を経験した.症例1は8か月の乳児.発症8日後の受診時,鼠径部精巣は腫大していたが圧痛はなかった.よって,生後10か月に待機手術を行ったが,左精巣は萎縮しており摘除した.症例2は6歳.発症18時間後に行った緊急手術により右精巣を温存できた.停留精巣患児の家族には2歳までに精巣固定術を受けることと,まれながら手術待機中に精索捻転を来す可能性があることを十分に説明しておくことが本症の早期診断,治療ひいては精巣救済率の向上につながる.

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バックナンバーのご案内 フリーアクセス

ページ範囲:P.470 - P.470

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.471 - P.471

編集後記 フリーアクセス

著者: 近藤幸尋

ページ範囲:P.472 - P.472

 小職の医局でも4月に新入医局員を迎えたわけですが,5月に入ると「5月病」なるものに注意を向けなければならない立場となりました.本来,「5月病」は大学の新入生が5月の連休明け頃から急激に無気力,無関心になることから名づけられましたが,時期は5月に限らず,また対象は大学生に限らず,中学生・高校生や新入社員および医局員にもみられます.新年度の4月には入学や就職,異動などによって生じる新しい環境への期待とやる気があるものの,その環境に適応できないということもあるでしょう.そして,人によってはうつ病に似た症状がしばしば5月のゴールデンウィーク明け頃から起こるためにこの名称となっています.

 この症状に近いものとして,「サザエさん症候群」というものも存在します.これは日曜の定番のテレビ番組を観た後に,「明日からまた通学・仕事をしなければならない」という現実に直面して憂鬱になり,体調不良や倦怠感を訴える症候群です.これは日曜のテレビであれば「サザエさん」に限らず,「笑点」であろうが「大河ドラマ」や「情熱大陸」でもいいようです.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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