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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科71巻10号

2017年09月発行

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特集 専門医として知っておきたい 性分化疾患の基礎知識

企画にあたって フリーアクセス

著者: 小島祥敬

ページ範囲:P.745 - P.745

 私が泌尿器科医になろうと思ったきっかけは,学生時代に性分化機構に魅せられたことでした.1990年にSry(sex determining region on Y)遺伝子がY染色体の短腕に同定され,翌年にマウスXX個体の受精卵にSryを遺伝子導入することにより,性転換が引き起こされたことから,Sryが精巣決定因子であることが報告されました.私が医学部5年生であった1993年に,性分化疾患の講義で初めて知る疾患に驚き,さらにSry遺伝子の発見によりその発症機構が解明される可能性があると聴いて,神秘的な性分化の世界に引き込まれたことを今でもはっきり覚えています.

 泌尿器科医になり,大学院に行くことを希望しましたが叶わず,臨床研究医という立場で大学外の研究機関を自ら探し研究するよう命じられました.苦労した挙句,基礎生物学研究所教授(現九州大学教授)の諸橋憲一郎先生に辿り着き,自ら手紙を書き研究することを許可されました.そして,1997年から諸橋教授のもとで性分化機構についての研究をしました.残念ながら研究は完遂できず,中途半端な状態で涙を飲んで臨床医に戻りましたが,間違いなく現在の研究や臨床に対する思考性は,あのときに養われたと信じています.

〈基礎と分類〉

性腺の性分化機構

著者: 諸橋憲一郎

ページ範囲:P.746 - P.751

▶ポイント

・Y染色体上のSRY遺伝子は性的に未分化な胎児性腺原基(生殖隆起)に一過性に発現し,未分化性腺を精巣へと分化させる.

・性的に未分化な生殖隆起の構築,生殖隆起のオス化,生殖隆起のメス化に必要な遺伝子の変異は,性腺の消失,低形成,精巣─卵巣間での性転換を引き起こす.

・上記の遺伝子には転写関連因子,クロマチン構造制御関連因子,細胞増殖関連因子,シグナル伝達関連因子などが含まれる.

内性器と外性器の性分化機構

著者: 梶岡大暉 ,   鈴木堅太郎 ,   山田源

ページ範囲:P.752 - P.758

▶ポイント

・アンドロゲン依存性の尿道形成過程において,その新規標的遺伝子としてMafBを同定した.

・DHT(ジヒドロテストステロン)による尿道両側間葉細胞の増殖低下は,尿道形成過程において不可欠である.

・p63は,精巣上体上皮分化に必須であり,その発現は,アンドロゲンに依存性である.また,p63は,前立腺や腟などの基底細胞の分化や幹細胞性の維持に重要である.

性分化疾患の分類

著者: 中島信一 ,   緒方勤

ページ範囲:P.759 - P.763

▶ポイント

・性分化疾患(disorders of sex development : DSD)とは,卵巣・精巣や性器の発育が非典型的である状態と定義される.

・2006年の国際会議において,遺伝子解析による原因解明や発症率・長期予後解析の重要性が提言され,初期対応から長期にわたる管理法とともに,患者の心理的な背景に配慮した用語ならびに新しい性分化疾患の分類が提唱され,現在広く用いられている.

〈診断と治療総論〉

診断アルゴリズム

著者: 堀川玲子

ページ範囲:P.764 - P.775

▶ポイント

・DSD診療は,外性器所見を正確に把握することから始める.

・新生児期は社会的性を迅速かつ拙速にならずに決定する.このため,DSDは経験の豊富で小児内分泌医・小児泌尿器科医の存在する施設で取り扱われるべきで,少なくともコンサルトを行う.

・染色体検査(SRY FISH/PCRを含む),テストステロン・LH・FSH・AMH測定,画像検査は必須.可能であれば積極的に遺伝学的検査を行う.

性分化疾患の診断・治療における腹腔鏡の意義

著者: 水野健太郎 ,   守時良演 ,   林祐太郎

ページ範囲:P.776 - P.782

▶ポイント

・腹腔鏡は性腺・内性器の位置・外観・形状の観察や組織学的評価が可能で,性分化疾患の診断に必須である.

・腹腔鏡は診断だけでなく,性腺・内性器の摘除や精巣固定術など,治療にも有用である.

・腹腔鏡は術後の回復が早く,低侵襲治療として性分化疾患患児のQOL改善に寄与する.

性分化疾患の内科的治療

著者: 土岐真智子 ,   長谷川奉延

ページ範囲:P.784 - P.789

▶ポイント

・性分化疾患の一部は新生児期に副腎不全を発症するため,すみやかに糖質コルチコイドを投与する.

・法律上の性を男性とする場合,小陰茎や思春期導入のために男性ホルモン補充を行う.

・法律上の性を女性とする場合,思春期導入のために女性ホルモン補充を行う.性別違和を有する場合は思春期抑制療法を行うことがある.

性分化疾患の外科的治療

著者: 佐藤裕之

ページ範囲:P.790 - P.797

▶ポイント

・性分化疾患の子どもに外陰部形成手術が必要か否か十分に検討する.

・手術方法とその合併症のリスクを十分に理解して,手術に臨む.

・手術後は短期的でなく長期的に問題が生じるため,そのサポート体制が必要である.

精神科の役割とチーム医療

著者: 菊地祐子

ページ範囲:P.798 - P.801

▶ポイント

・身体のありようだけにとらわれず,性のあり方の多様性について患者・家族に正しく伝えることが重要である.

・患者自身が疾患や治療について理解しているか,患者の選択や意思が尊重されているかをチームで確認しながら治療を進めていくべきである.

性分化疾患の長期予後

著者: 守屋仁彦 ,   中村美智子 ,   篠原信雄

ページ範囲:P.802 - P.807

▶ポイント

・尿道下裂症例では程度が高度となるほど思春期の陰茎長が短くなるが,性的活動性は対照群と差がない.

・女性化外陰形成術後の長期的問題点として,腟口狭窄と外陰の知覚低下が報告されている.

・性分化疾患では,手術関連の長期的合併症のほかに妊孕性や悪性腫瘍の発生の問題があり,長期的にフォローアップ可能な体制の構築が求められる.

〈疾患各論〉

染色体異常─クラインフェルター症候群を中心に

著者: 福原慎一郎 ,   木内寛 ,   野々村祝夫

ページ範囲:P.808 - P.813

▶ポイント

・クラインフェルター症候群は性染色体異常(47,XXY)を伴う性分化疾患で,女性化乳房,小さく固い精巣,無精子症を主徴とし,男性約660人に1人で生じる最も頻度の高い染色体異常である.

・多くは診断されることなく生涯を終えるが,本症候群ではさまざまな疾患の罹患率が高いことがわかってきており,今後テストステロン補充のあり方など議論が求められている.

46,XX精巣性性分化疾患/卵精巣性性分化疾患

著者: 山口孝則

ページ範囲:P.814 - P.820

▶ポイント

・46,XX精巣性性分化疾患では内外性器とも男性型で,精巣発育不全,低身長,無精子症が特徴である.

・卵精巣性性分化疾患は病理組織学的に卵巣・精巣の両者を有する病態であり,さまざまな病因,病態を呈する.

・特に卵精巣性性分化疾患での性の決定は複雑かつ社会的緊急性があり,専門家のいる施設での診断・治療が必要である.

アンドロゲン不応症候群

著者: 長谷川雄一

ページ範囲:P.822 - P.825

▶ポイント

・アンドロゲン不応症候群は,アンドロゲン作用機構の障害による疾患の総称であり,46,XY性分化疾患の1つである.

・障害の程度により,完全型,部分型,軽症型に分類される.

・女性として養育する場合は,女性としての自然な表現型を考慮し,精巣摘出術のタイミングを検討する必要がある.

先天性副腎皮質過形成

著者: 久松英治 ,   吉野薫

ページ範囲:P.826 - P.832

▶ポイント

・先天性副腎皮質過形成は,新生児のあいまいな外性器(ambiguous genitalia)の原因として,最も頻度が高い.

・治療の原則は,副腎不全を防ぎ,アンドロゲンの分泌を抑制することにより,正常な成長,第二次性徴の獲得を確保することである.

・新生児期や小児期の治療に加えて,成人期の妊孕性やQOLを考慮に入れた診療が重要になってきている.

原著

筋層非浸潤性膀胱癌に対する尿アルカリ化療法併用によるマイトマイシン膀胱内注入療法の治療経験

著者: 根本勺

ページ範囲:P.833 - P.837

 マイトマイシン膀胱内注入療法の有効性に影響を与える因子の1つに尿pHが指摘されている.今回,非筋層浸潤性膀胱癌21例に対して尿アルカリ化療法併用マイトマイシンC膀胱内注入療法を施行した.尿pHはウラリット併用にて平均で治療前の6.1から6.7へと上昇していた.13例(61.9%)に有害事象があったが,すべてがGradeⅠであった.1年および3年非再発率は,それぞれ95.2%,85.7%であった.疾患特異的5年生存率は100%であった.当治療は安全であり,治療成績も他の報告同様に良好であった.

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バックナンバーのご案内 フリーアクセス

ページ範囲:P.840 - P.840

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.841 - P.841

編集後記 フリーアクセス

著者: 小島祥敬

ページ範囲:P.842 - P.842

 新学期になると医学部新学年の学生講義が始まります.昨年までは3年生の後期と4年生の前期に泌尿器科の講義を行ってきたのですが,今年はカリキュラムの変更で,3年生と4年生いずれも前期に講義をしています.私自身を学生に覚えてもらうこと,そして泌尿器科の良さをわかってもらうため,ほとんどの講義は自分で心を込めて行うようにしていますが,さすがに2学年同時期に行うのは大変です.3コマ続きの講義日もありましたが,講義の終了後には魂を吸い取られたようにへとへとになりました(ちなみに私の講義では寝る学生はほとんどいません).

 泌尿器科の最初の講義(泌尿器科学総論)のときに,必ず医学生に聞くことがあります.「泌尿器科ってどんなイメージ?」.もちろん模範解答があるわけではないし,心地良い回答が返ってくることは期待していません.しかし,今年の3年生4人(いずれも男子)の答えは以下の通りでした.「あそこ」「イチモツ」「マイナー」「地味」…

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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