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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科71巻13号

2017年12月発行

雑誌目次

特集 泌尿器癌局所療法─局所を制する者は全身を制す

企画にあたって フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.1047 - P.1047

 「局所を制するものは全身を制す」というサブタイトルに込められた意味は多義的(ポリフォニー)です.1つ目は転移性の癌に対する局所治療です.古くには転移性腎細胞癌の腎摘除術,転移巣に対する転移巣切除が挙げられます.腎摘除術は肺転移巣の縮小をもたらすことが古くから知られていました.理論的背景としては,腎細胞癌が分泌するVEGF,IL-6などのサイトカインが全身の免疫環境を悪くするため,腎摘除術は免疫環境を改善するという考えです.昨今オリゴメタスターシスの治療が話題になっています.転移巣が少なければ全身療法のみに頼らず,原発巣と転移巣を積極的に加療する流れです.特に放射線治療を中心とする集学的治療が注目されています.放射線によるアブスコパル効果により全身の免疫が賦活化するとされ,免疫チェックポイント阻害薬との併用効果が期待されています.周藤先生と大西先生の論文をご参照ください.

 2つ目は,より低侵襲な治療によって同等の制癌効果が得られるのならば,患者さんのQOLが維持されるということです.すなわち,「局所を制して全身をより穏やかに守る」ということです.実験的な治療であるため,十分な「理論武装」が必要です.特に前立腺癌に対するfocal therapyが注目されるなか,この「理論武装」に関しては金尾先生の論文をご参照ください.

〈前立腺癌〉

前立腺癌の局所療法の根拠となる病理と解剖

著者: 金尾健人

ページ範囲:P.1048 - P.1053

▶ポイント

・多巣性の前立腺癌では,最も大きい病変が最も高いグリソンスコアをもつことが多く,局所療法の対象となる.

・前立腺癌は,線維筋性組織や平滑筋の走行に沿って進展することが多く,mpMRIでは癌の辺縁を過小評価することがある.

・前立腺の内部構造と,癌の病理学的な特徴を十分理解したうえで,治療域を設定することが重要である.

前立腺癌に対する高密度焦点式超音波療法

著者: 小路直 ,   内田豊昭 ,   宮嶋哲

ページ範囲:P.1054 - P.1060

▶ポイント

・HIFUは,穿刺操作なく,治療領域を自由な形に設定でき,数ミリメートル単位で治療領域,非治療領域の組織変化の違いを鮮明にして治療する特徴をもち,局所療法に適した治療方法と考えられる.

・HIFUによる局所療法の長期成績は少ないが,低侵襲性が示されており,今後の症例の集積が期待される.

前立腺癌に対する凍結療法

著者: 三木健太

ページ範囲:P.1061 - P.1067

▶ポイント

・前立腺癌に対し多くの放射線治療が行われているが,局所再発を起こした場合に強く推奨される救済治療はない.

・造影MRIとテンプレート針生検で再発部位を詳細に同定し,その部分だけの治療ができれば内分泌治療などの全身治療は不要となる.

・局所治療で管理できれば小さな病巣だけの未治療前立腺癌に凍結治療が適応できるかもしれない.

前立腺癌の根治的放射線治療後の再発に対する救済小線源療法

著者: 三宅牧人 ,   田中宣道 ,   藤本清秀

ページ範囲:P.1068 - P.1075

▶ポイント

・限局性前立腺癌に対する放射線治療後の再発例が増加してくることが予想され,エビデンスに基づいた救済治療戦略を確立することが急務である.

・放射線治療後の局所再発に対する救済低線量率小線源療法は,安全性が高く,再度根治を望める治療オプションの1つである.

・今後さらに症例を重ね,長期にわたる経過観察および有害事象の追跡が必要であろう.

〈腎細胞癌〉

小径腎細胞癌に対する凍結療法

著者: 柳澤孝文 ,   三木淳 ,   岸本幸一

ページ範囲:P.1077 - P.1083

▶ポイント

・各ガイドラインにおいて,小径腎癌に対する標準治療は腎部分切除術であり,腎凍結療法は高齢者や合併症のため手術のリスクが高い患者に対するオプションという位置づけである.

・腎凍結療法は局所麻酔下に経皮的に施行でき,低侵襲な治療法といえる.

・腎凍結療法は局所の残存・再発率は腎部分切除術と比較すると高いが,再凍結療法により十分な局所制御が可能である.

小径腎癌に対するRFA

著者: 神田英輝 ,   有馬公伸 ,   杉村芳樹

ページ範囲:P.1084 - P.1089

▶ポイント

・小径腎癌に対するRFAは治療技術の進歩によりほぼ全症例で画像(主にCT)ガイド下の経皮的治療で行われている.このため手術に比較して低侵襲であり,繰り返し施行することも可能である.

・一次治療成功率は82.4〜95.5%,5年局所制御率は86〜100%であり,外方突出型や3cm未満の腫瘍であれば局所制御率は良好である.

・合併症では尿路狭窄(特に腎盂尿管移行部狭窄)に注意が必要.局所制御の評価のためには正確な画像評価を行う必要がある.

腎細胞癌に対する重粒子線治療

著者: 粕谷吾朗 ,   牧島弘和 ,   辻比呂志

ページ範囲:P.1090 - P.1095

▶ポイント

・腎細胞癌に対する重粒子線治療により,腫瘍サイズに依存しない高い局所制御率と低い合併症発症率が期待できる.

・重粒子線治療後の腎機能低下は限定的である.

・特に術後透析導入不可避,もしくは切除不能かつアブレーション治療適応外の症例に対し,重粒子線治療は多大な貢献が可能となる.

〈転移巣治療〉

腎細胞癌の転移巣に対する摘出術

著者: 髙松公晴 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.1096 - P.1100

▶ポイント

・転移性腎細胞癌治療において,転移巣の外科的完全切除は予後に寄与する可能性がある.

・転移性腎細胞癌治療において,転移巣切除術は全身療法(分子標的療法や免疫療法)と組み合わせることにより,全身療法を補完する地固め療法となる可能性がある.

・今後は,外科的CR達成後の治療方針の確立が待たれる.

転移性脳腫瘍に対する定位放射線治療

著者: 周藤高

ページ範囲:P.1101 - P.1105

▶ポイント

・腎細胞癌脳転移は放射線抵抗性であり全脳照射の効果は乏しいが,多発脳転移であっても定位放射線治療は有効である.

・腫瘍最大径が2〜2.5cm以上の場合,定位放射線治療での腫瘍制御が困難となってくるため,患者の状態が許せば手術摘出も考慮に入れる必要がある.

・脳転移に対する定位放射線治療の前にスニチニブやソラフェニブを一時中断する必要はないと思われる.

泌尿器系転移癌に対するサイバーナイフを用いた定位放射線治療

著者: 大西洋

ページ範囲:P.1106 - P.1114

▶ポイント

・サイバーナイフは,汎用リニアックのような回転中心(アイソセンタ)をもたず,最も照射ビーム角度をばらけさせて周囲の正常臓器の線量を可及的に低減し,かつ強度変調治療計画が可能で,追尾照射技術も搭載されており,静体から動体まで最も腫瘍に対する線量集中性の高い定位放射線治療が可能な装置である.

・前立腺癌と腎癌の転移病巣は,1回大線量にすることによる有効性と安全性のメリットが大きく,定位放射線治療の意義が特に大きい腫瘍である.

・泌尿器系悪性腫瘍の転移病巣に対する定位放射線治療成績の多くは後方視的研究によるものが多く今後の前方視的研究が必要であるが,サイバーナイフは高い局所制御率をより低侵襲に達成することが可能で,今後さまざまな病態に対してその有効性が検討される価値があり,他の治療法併用も合わせて今後発展が期待される.

綜説

尿路結石の形成機序と治療への展望

著者: 安井孝周

ページ範囲:P.1039 - P.1046

要旨

 尿路結石の手術治療は,内視鏡手術の発達によりstone freeが可能となってきた.しかし,再発が多い尿路結石治療の目標は,その成因の検索による再発予防である.尿路結石の形成機序では細胞傷害からRandall'sプラークが形成され,シュウ酸カルシウム結石に成長することが明らかになってきた.尿路結石は遺伝因子に加えて食生活を中心とした環境因子が重なる生活習慣病である.尿路結石の疼痛発作は,将来にわたる健康人生への分岐点であることを啓発いただきたい.

症例

去勢抵抗性前立腺癌の腹膜透析患者に対するアビラテロンの使用経験

著者: 富田祐司 ,   木全亮二 ,   川田由里子 ,   堀内和孝 ,   大林康太朗 ,   近藤幸尋

ページ範囲:P.1115 - P.1117

 腹膜透析中の去勢抵抗性前立腺癌症例に対し,アビラテロン治療を安全に施行できた1例を経験したので報告する.症例は86歳男性.アビラテロン(750mg/日)投与にてPSA値は上昇するも,画像所見の増悪・臨床症状の出現を20か月間認めなかった.有害事象は,内服薬で対応可能な低カリウム血症のみであった.

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バックナンバーのご案内 フリーアクセス

ページ範囲:P.1120 - P.1120

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1121 - P.1121

編集後記 フリーアクセス

著者: 小島祥敬

ページ範囲:P.1122 - P.1122

 中学校1年生のとき,全校生徒の映画鑑賞会が体育館でありました.そこで観た映画『ロッキー』は,私にとって運命的な出会いでした.三流ボクサーのロッキー・バルボアの,孤独・不安・愛そして真の勝利が巧みに描かれたサクセスストーリーで,まさにアメリカンドリームを象徴する映画でした.本作は主演/脚本のシルヴェスター・スタローンを大スターにさせた1本となり,第49回アカデミー賞作品賞,第34回ゴールデングローブ賞ドラマ作品賞受賞作品です.フィラデルフィア美術館(映画では市庁舎という設定)の階段を軽快に駆け上がり,両手を挙げるシーンは象徴的で,『ロッキー』を観たことがない方でもご存知ではないでしょうか? 中学生の私にとっては刺激的な作品で,その後,『ロッキー2』『ロッキー3』『ロッキー4/炎の友情』『ロッキー5/最後のドラマ』『ロッキー・ザ・ファイナル』とシリーズ化され,2015年には『クリードチャンプを継ぐ男』が,シリーズのスピンオフとして公開されたのは記憶に新しいところです.

 さて,先日開催された第26回日本小児泌尿器科学会総会・学術集会(会長 : 名古屋市立大学大学院医学研究科小児泌尿器科学分野・林祐太郎教授)において,シンポジウム「留学のすゝめ─青年よ大志を抱け─」の司会をさせていただく機会をいただきました.小児泌尿器科学会で活躍されておられる,6人の先生方の自らの留学体験を拝聴させていただきました.本シンポジウムでは,若手医師に対する熱いメッセージが語られたわけですが,皆さんが共通して言われていたことは,英語や海外生活に苦労しながらも,そこでの経験が現在の臨床の糧になっているということでした.しかし,最近の若者の留学離れの時代のなかで,その意義を伝えていくことはとても難しいことであると実感しています.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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