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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科72巻1号

2018年01月発行

雑誌目次

特集 腎癌に対する薬物療法─最新エビデンスを実臨床に活かす

企画にあたって フリーアクセス

著者: 三宅秀明

ページ範囲:P.11 - P.11

 2008年に2剤の分子標的薬が実臨床の場において使用可能となって以降,腎癌に対する薬物療法は今なお現在進行形で変革の最中にあると言っても過言ではありません.6種類の分子標的薬に加え,2016年からはImmuno-Oncology(I-O)drugであるニボルマブも保険収載されました.さらに2017年にはI-O drugの併用療法を1st-lineで導入することによる予後改善効果が報告され,現在も分子標的薬とI-O drugの併用療法の効果を検証する複数の臨床試験が進行中であり,近い将来,腎癌に対する薬物療法の指針がまたもや大きく変化するのは必至の情勢です.

 次々と新規薬剤が使用可能となり,腎癌患者に対する薬物療法の選択肢が増加すること自体は大変好ましく,サイトカイン療法時代に比べ昨今の進行腎癌患者の予後は間違いなく改善しています.一方で,これほど短期間に多様な薬物療法が登場してくると,臨床現場は,“福音”と“混乱”が背中合わせの微妙な状況にあるのではないでしょうか.実際,「逐次治療」「副作用対策」「バイオマーカー」「医療経済」等々,本領域の問題点を象徴するキーワードは枚挙に暇がありません.しかし,この状況を“福音”とするのも“混乱”とするのも,結局はわれわれ泌尿器科医の見識次第であると思います.

本邦における腎癌薬物療法の動向─診療ガイドラインの改定作業からみえてくる重要ポイント

著者: 杉山貴之 ,   三宅秀明

ページ範囲:P.12 - P.16

▶ポイント

・本邦の腎癌診療ガイドライン最新版が2017年に改訂発刊された.

・最新版ガイドラインでは,薬物療法におけるCQの設定が「薬物選択」から「治療選択場面」を念頭に置いたものとなった.

・海外と比較しての本邦腎癌診療ガイドラインの大きな課題は,急速に変化する薬物治療に対応し得る診療ガイドライン改正の体制整備であると考えられる.

腎癌に対する一次薬物療法─各薬剤の効果を最大化するための工夫

著者: 近藤恒徳

ページ範囲:P.18 - P.25

▶ポイント

・転移性腎癌症例に対する全身治療の主流は分子標的治療薬であり,治療効果を最大限に上げるためには,薬剤選択の根拠をもつことが重要である.

・治療では,1st-lineの薬剤選択が予後に最も大きく影響する.そのときに考慮すべき因子は腫瘍縮小効果であり,これまでの臨床試験の結果からはスニチニブが最も有効な薬剤であると考えられる.

・実臨床では臨床試験とは異なり,患者背景は多岐にわたるため,柔軟に薬剤選択を行うことも必要である.

腎癌に対する二次薬物療法─各薬剤の特徴とその選択指針

著者: 高橋正幸 ,   金山博臣

ページ範囲:P.26 - P.33

▶ポイント

・サイトカイン療法後あるいはVEGF阻害薬後の二次治療として,分子標的薬のなかでは,VEGFR-TKIがmTOR阻害薬よりも有効な可能性がある.

・二次治療として,VEGFR-TKIのなかで,アキシチニブは有効性が高く,日本人において有害事象がコントロールしやすいことから選択肢の1つとして推奨される.

・二次治療としてどの患者にVEGFR-TKIあるいはニボルマブなどのimmuno-oncology薬を投与すべきかが現在最も大きな課題である.

・今後,二次治療としてカボザンチニブなどの新しい分子標的薬も期待される.

サイトカイン療法の温故知新

著者: 阿部英行 ,   釜井隆男

ページ範囲:P.34 - P.40

▶ポイント

・IFNα治療による日本人のOSは,欧米人のOSの約2倍である.

・各リスク分類における,リスク因子の少ない症例を上手く選択すれば,IFNαの効果が期待できる.

・分子標的治療薬や新規免疫治療薬に比較してIFNαは安価で,昨今の医療経済事情にフィットする.

免疫チェックポイント阻害薬─その利点と欠点を解き明かす

著者: 杉本昌顕 ,   江藤正俊

ページ範囲:P.42 - P.48

▶ポイント

・免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブは,抗がん剤や分子標的治療薬とは異なる作用機序を有することを理解する必要がある.

・これまでに泌尿器科医が経験したことのある事象とは異なる,免疫関連有害事象という特徴的な副作用の認識が重要である.

・泌尿器科領域以外での対処・対応が必要なことがあり,他科や他職種との連携・チームとしての治療連携が重要となる.

進行腎癌に対する術前後の補助薬物療法の意義

著者: 本郷文弥 ,   平岡健児 ,   浮村理

ページ範囲:P.50 - P.57

▶ポイント

・サイトカイン療法は腎摘除術前後の補助薬物療法として推奨できない.

・確立された治療方法はないものの,分子標的薬を用いたプレサージカル療法は一定の奏効率を示している.

・現時点では,アジュバント療法として有効な治療方法はないが,分子標的薬は一部の症例で無病生存期間を延長する可能性がある.

非淡明細胞癌に対する薬物療法─ベストプラクティスは何か

著者: 加藤智幸

ページ範囲:P.58 - P.62

▶ポイント

・非淡明細胞癌の薬物療法に関するエビデンスは乏しいが,主として分子標的薬の有効性が検討されている.

・非淡明細胞癌に対してはチロシンキナーゼ阻害薬がmTOR阻害薬よりも有効と考えられるが,淡明細胞癌に比べるとその有効性は低い.

・集合管癌に関しては抗がん剤を用いた化学療法の有効性が示唆されている.

腎癌薬物療法におけるバイオマーカー開発の進歩

著者: 水野隆一 ,   浅沼宏 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.64 - P.69

▶ポイント

・分子標的薬の登場によって治療選択肢は増加したが有効なバイオマーカーは確立されていない.

・次世代シークエンサーによってもたらされる遺伝子変異の情報が有力なバイオマーカー候補となっている.

・分子標的治療薬の治療効果を薬剤投与開始前に予測することにより,より効果的な分子標的治療の提供が期待される.

腎細胞癌の分子標的薬に対する耐性獲得─メカニズムの解明と克服に向けた取り組み

著者: 原田健一 ,   三宅秀明 ,   藤澤正人

ページ範囲:P.70 - P.75

▶ポイント

・腎細胞癌は分子標的薬に対し優れた感受性を示すが,比較的短期間のうちに効果が失われ耐性を獲得する.

・分子標的療法に使用される薬剤別に耐性獲得機序の解明が試みられており,血管新生,細胞増殖等に関わる分子機序の一端が明らかにされている.

・分子標的薬に対する耐性克服については,基礎的研究の成果も蓄積されつつあるが,その機序に基づく抜本的な対策はいまだ確立されていない.

腎癌薬物療法の展望─現在進行中のRCTから予見される将来像

著者: 野澤昌弘 ,   植村天受

ページ範囲:P.76 - P.79

▶ポイント

・免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法が一次治療において推奨される可能性が出てきた.

・免疫チェックポイント阻害薬とVEGF阻害薬との併用療法も一次治療での有用性が試されている.

・最適な薬剤の組み合わせと患者選択が今後の課題である.

綜説

無症候性細菌尿への対応─尿路における抗菌薬適正使用を目指して

著者: 髙橋聡

ページ範囲:P.5 - P.9

要旨

 無症候性細菌尿に対する治療の要否は,耐性菌を増やさないための抗菌薬適正使用に直結する.無症候性細菌尿を有する患者に対する抗菌薬治療はおおむね不要である.しかし,尿路の手術前,尿路感染症発症の危険因子を有する患者の尿路操作前,妊婦については,有熱性尿路感染症の発症を予防するための尿培養検査によるスクリーニングと,その結果に応じた抗菌薬治療は意味があると考えられる.ただし,絶対的に治療が必要な症例選択のためにはさらなる研究が必要になる.

原著

精索静脈瘤に対する高位結紮術の治療成績

著者: 鈴木尚徳 ,   和食正久 ,   竹田裕 ,   杵渕芳明

ページ範囲:P.81 - P.85

 2006年1月〜2013年12月にかけて,精索静脈瘤に対し高位結紮術を施行した18例を対象とし,治療効果を検討した.初診時年齢中央値は33±7.4歳,静脈瘤は全例左側に認め(両側3例),静脈瘤のグレードはⅠ5例,Ⅱ12例,Ⅲ4例であった.左側16例,両側2例に手術施行,手術時間中央値は53±8.8分(左側のみ施行n=16)であった.17/18例(94%)で静脈瘤は消失,1例で術後陰囊水腫を認めた.

 男性不妊14例の精液検査で精子濃度10例(71%),運動率7例(50%)において改善を認めた.妊娠は7例(50%),挙児は4例(29%)に得られた.精索静脈瘤に対する高位結紮術は安全に施行でき,男性不妊症に対しても精液所見の改善効果が期待できる有用な治療法であると考えられた.

交見室

TURBTは視野方向30度スコープで行おう(硬性鏡使用時は視野方向・視野角を意識しよう)

著者: 三木誠

ページ範囲:P.86 - P.87

最近ある若手医師から,TURisシステム(灌流液を生理食塩水としたTURシステムで,アーク放電がループ全体に発生し安定した鋭い切れ味が得られ,膀胱腫瘍切除に適している)で高齢男性のTURBTを施行したが,一部腫瘍が見えにくいところにあり,取り残してしまったという話を聞いた.よく聞くと視野方向12度のスコープしか購入しておらず,TURBTにもそれで対処していたという.私はTURBTに際しては,視野方向30度スコープを使用して切除操作を行い,切除後も検査用70度スコープで膀胱内全域を確認することを原則としている.TURBTは球型腔内の壁の切除であるから,少しでも側方が見やすい30度スコープが適しており,TURPはあたかも管腔内での操作であるから,視野角内でループの長いストローク全体がよく見え,長い切除片が得られる12度スコープが適しているのである(図1).

 そもそもわれわれのTURis開発の目的の1つが,TURBT時の閉鎖神経反射軽減であり1, 2),視野方向30度スコープを使用し種々検討しており,臨床現場のTURBTでは30度スコープを当然使用していると考えていた.そしてオリンパスでは,TURisシステムでも12度および30度のスコープをそろえて販売しているが,価格の関係か12度スコープしか購入していない施設があり,TURBTにもそれを適用しているらしい.

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バックナンバーのご案内 フリーアクセス

ページ範囲:P.90 - P.90

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.91 - P.91

編集後記 フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.92 - P.92

 若い先生にはピンと来ないかもしれません.正月の風物詩として,昔は寅さん映画がありました.小川良雄教授(昭和大学)が会長を務められた第82回日本泌尿器科学会東部総会で先生は山田洋次監督を招請され,「寅さんと私」というタイトルの講演がありました.小川教授のお母様のご実家が高木屋,つまり舞台となったお団子屋さんです.先生が若かりし頃にはロケに出くわしたこともあったとうかがっています.1969年の第1作より「男はつらいよ」シリーズは全48作を数え,渥美清さんの他界をもって,終結を迎えました.

 監督は御年86歳.気品と色気が備わった方で,ゆっくりと言葉を選びながら,なぜこれだけ長く製作を続けることができたかの理由を語られました.石原裕次郎,加山雄三,植木等がヒーローだとすれば,寅さんは時代のアンチヒーローだった.1970年代,日本が大きく経済成長を遂げていた時代に,切り捨てられ犠牲になったものがある.寅さんを愛することで時代に迎合している自分を許したと,監督はおっしゃいました.当時,JRで“DISCOVER JAPAN”というキャンペーンがありました.がむしゃらに前進する日本に対してわき上がる不安.これでよいのか? と振り返ると,ニコッと笑った寅さんがいて,「オッス」と迎えてくれるということでしょうか.時代を突き進む社会人は組織のなかで生きています.しかし,組織に属さないという選択もある.「どちらでもいいんだ」と,自分を安心させる世界観がそこにはあると監督は話されました.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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