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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科72巻11号

2018年10月発行

雑誌目次

特集 泌尿器科医のためのゲノム腫瘍学入門─時代に取り残されるな

企画にあたって フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.865 - P.865

 がん診療において昨今「プレシジョン・メディシン」という言葉を頻繁に耳にするようになりました.2015年1月のオバマ前大統領の一般教書演説で触れられた概念です.がん治療にはおいては,個々の患者の遺伝子異常に基づいた治療を提供する個別化医療であり,非小細胞肺癌治療では現実のものとなっています(876頁).泌尿器科の日常診療では確かに遺伝子変異の差異によって治療を決めることは皆無です.だからといって,われわれ泌尿器科医は全く無縁であるかというと決してそうではありません.想定される場面をお示ししましょう.

保険収載された新規ホルモン治療とドセタキセル,さらにはカバジタキセルも使用しても効果がない去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)患者がいたとします.あなたがこの患者さんに「使用可能な薬剤はすべて使用しました.もう有効な薬はありません.これからは緩和治療に移行していきましょう」と提案したところ,患者さんが「がんゲノム外来」について調べられ,「費用がかかることは承知している.もし効果がありそうな薬剤を同定できたら自費でもいいので試してみたい」と尋ねられた際には,どう答えるべきでしょうか.同定できる可能性は何%くらいなのか(866頁),どのような遺伝子異常が多いのか(882頁,902頁),遺伝する可能性と家族にはどう知らせるべきか(872頁).ピンとこなくても大丈夫です.本特集をお読みいただければ,ゲノム腫瘍学を身近に感じることができるように編集させていただきました.

がんゲノム外来

著者: 今井光穂 ,   西原広史

ページ範囲:P.866 - P.871

▶ポイント

・現状,遺伝子パネル検査の有用性は限られている.

・がんゲノム外来では,検査にかかる期間,意義についての説明が大切である.

・結果の解釈にはさまざまな角度からの意見が必要である.

遺伝性腫瘍の遺伝カウンセリング

著者: 鈴木美慧 ,   新保正貴 ,   山中美智子

ページ範囲:P.872 - P.875

▶ポイント

・遺伝カウンセリングはクライエントの背景に応じて,遺伝学的情報,将来の選択肢を提示し,その選択を選んだ先の対処法や心理的応答について考える対話のプロセスである.

・遺伝情報を用いた診療が増えつつあるなか,遺伝専門スタッフだけではなく,がん患者やその家族と接する医療スタッフ誰もが,遺伝医療に関わる可能性を意識する必要がある.そして,遺伝情報の知識が浸透していくことで,より適切な遺伝医療のチーム医療が提供できる.

プレシジョン・メディシン時代の非小細胞肺癌治療

著者: 徳留なほみ ,   山本信之

ページ範囲:P.876 - P.880

▶ポイント

・バイオマーカー研究の急速な進歩により,非小細胞肺癌の遺伝子変異の有無を基にした分子標的治療が急激に発展している.

・がんに関連する多数の遺伝子変異の有無を多遺伝子パネルにより網羅的に解析することで,それぞれの症例がもつ変異に応じた治療を提供する試みが始まっている.

遺伝性乳癌卵巣癌症候群

著者: 利川千絵 ,   吉田敦 ,   山内英子

ページ範囲:P.882 - P.885

▶ポイント

・遺伝性乳癌卵巣癌症候群はBRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子の生殖細胞系列の病的な変異が原因で乳癌や卵巣癌を高い確率で発症する遺伝性腫瘍の1つである.

・BRCA変異保持者に対しては,適切な対策を実施することが推奨されている.

・BRCA変異を有する男性では,一般集団よりも高頻度に前立腺癌を発症し,悪性度が高いと報告されている.

遺伝性副腎腫瘍

著者: 櫻井晃洋

ページ範囲:P.886 - P.890

▶ポイント

・遺伝性副腎皮質腫瘍はMEN1を除いて特徴的な病理・画像所見を呈するものが多く,診断の契機となりうる.

・褐色細胞腫の約40%は単一遺伝子の病的バリアントにより遺伝性に発生する.

・遺伝性の患者の適切な診断確定は,治療方針の明確化や予後予測とともに,リスクを共有する血縁者の早期診断と早期治療にもつながる.

遺伝性腎癌症候群

著者: 蓮見壽史 ,   矢尾正祐

ページ範囲:P.892 - P.901

▶ポイント

・遺伝性腎癌症候群の家系解析などから,10種類以上の腎癌関連遺伝子と,個々の遺伝子変異から起こる遺伝性腎癌が報告されている.

・すべての腎癌関連遺伝子は代謝やクロマチン制御に関わる遺伝子であり,腎癌は代謝とエピゲノムの破綻から発生することが示唆される.

・おのおのの遺伝性腎癌の発生機序の解明は,新規腎癌治療薬開発に重要な役割を果たしている.

遺伝性前立腺腫瘍

著者: 鈴木和浩 ,   松井博 ,   大竹伸明

ページ範囲:P.902 - P.905

▶ポイント

・遺伝性前立腺腫瘍は遺伝性前立腺癌が重要であり,若年発症および罹患数の多い家系が該当する.

・全体を説明する責任遺伝子(high penetrance gene)は同定されていないが,HOXB13BRAC2遺伝子変異が関与した家系が存在する.ただし,人種差がある.

・前立腺癌の家族歴はリスク因子として依然重要であり,家系内の乳癌,卵巣癌の家族歴聴取も併せて行うことが臨床的に重要である.

膀胱癌のゲノム異常と新規治療

著者: 松本一宏

ページ範囲:P.906 - P.909

▶ポイント

・分子病理学的に膀胱癌が発生・進展する過程としては,正常尿路上皮から大きく2つの経路に分岐して進展していくtwo pathway modelが想定されている.

・近年,包括的に分子生物学的プロファイリングを行うことにより,膀胱癌を亜型(クラスター)分類することが可能となっている.

・今後実臨床において,膀胱癌の亜型分類などをバイオマーカーとしたprecision medicineが期待される.

リンチ症候群(泌尿器腫瘍を含む)

著者: 新井正美 ,   浦上慎司

ページ範囲:P.910 - P.917

▶ポイント

・リンチ症候群の頻度は上部尿路上皮癌の1〜5%である.

・リンチ症候群の診断は,遺伝学的検査で行うが,一次拾い上げには大腸癌や子宮内膜癌の既往歴や家族歴が参考になる.

・リンチ症候群では,定期的な大腸内視鏡検査や婦人科検診などのサーベイランスが有用であり,消化管癌におけるpolysurgeryの回避や生命予後の改善が期待できる.

母斑症と泌尿器腫瘍

著者: 波多野孝史

ページ範囲:P.918 - P.922

▶ポイント

・結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に対する治療目的は腎機能の保持,腎血管筋脂肪腫増大の抑制,腎血管筋脂肪腫破裂の予防である.エベロリムス治療は腎血管筋脂肪腫を縮小させ,有害事象は比較的軽微である.

・神経線維腫症1型に伴う副腎褐色細胞腫は両側発生を認めることがあり,両側副腎摘除術が必要な場合がある.

・母斑症に伴う泌尿器腫瘍は全身のさまざまな臓器に病巣が発現するため,当該診療科の密接な連携が求められる.

希少疾患検索から見つかる腫瘍

著者: 上原朋子 ,   小崎健次郎

ページ範囲:P.924 - P.926

▶ポイント

・先天異常症候群のなかにはウィルムス腫瘍の発症リスクが上がる(5〜50%)ものがある.

・ウィルムス腫瘍のサーベイランスとして定期的な腎エコー検査が推奨される.

症例

根治的切除が行われた精索平滑筋肉腫

著者: 呉彰眞 ,   藤田和彦 ,   白井雅人 ,   磯部英行 ,   橋爪茜 ,   堀江重郎

ページ範囲:P.927 - P.931

 75歳男性.4か月前から左無痛性陰囊腫大を自覚,増大傾向のため当科受診.左精索腫瘍の診断で左高位精巣摘除術施行.病理で精索平滑筋肉腫と診断.切除断端は陰性で転移所見を認めないこと,組織学的悪性度(FNCLCCグレード1)および臨床病期(AJCC stage IA)から良好な予後が見込まれ,補助療法は行わなかった.われわれは精索平滑筋肉腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Reduced port surgeryにて完全切除しえた後腹膜原発粘液性囊胞腺腫

著者: 髙山美郷 ,   兼平貢 ,   高田亮 ,   刑部光正 ,   菅井有 ,   小原航

ページ範囲:P.933 - P.938

 22歳女性.血尿と排尿時痛を主訴に近医を受診し,急性膀胱炎の診断で加療を受けた.その際,スクリーニングの超音波検査で後腹膜腫瘍が疑われた.CTおよびMRIで右後腹膜腔に一部充実成分を含む囊胞性腫瘤を認めた.悪性腫瘍の可能性が考えられたため単孔式体腔鏡下後腹膜腫瘍摘除術を施行し,囊胞壁を損傷することなく摘出した.腫瘤は長径7cm大の多房性で,2cm大の表面不整な壁在結節を伴っていた.病理診断は粘液性囊胞腺腫で悪性病変は認めなかった.術後10か月現在,再発を認めず経過している.本疾患は悪性の可能性を有するため,腫瘍を損傷することなく完全に切除することが求められる.低侵襲性と整容性のメリットを併せ持つreduced port surgeryは本疾患に対する手術療法のオプションとして考慮される.

腎盂腫瘍との鑑別を要したIgG4関連疾患

著者: 溝渕真一郎 ,   百瀬均 ,   伊丹祥隆 ,   中濵智則 ,   松本吉弘

ページ範囲:P.939 - P.943

 75歳男性.左腎盂癌の疑いで,精査加療目的にて当科を受診した.CT検査では両側腎病変が認められたため,腎盂癌よりも全身性疾患の可能性が考えられた.腎実質病変に対して経皮的針生検を施行し,IgG4関連疾患の診断を得た.ステロイド治療を行うことで,病変は著明に縮小した.IgG4関連疾患は他臓器病変を有さず,腎尿路を唯一の病巣として発症することがありうることを認識しておくことが重要である.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.863 - P.863

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.947 - P.947

編集後記 フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.948 - P.948

 本誌2018年7月号の編集後記では,お笑い芸人である矢部太郎氏の書いたベストセラー漫画『大家さんと僕』(新潮社)の,87歳の大家さんをご紹介しました.戦中・戦後をほぼ1人で生き抜いてきた,「バンジージャンプ」に憧れる大家さんのパワフルさは,どこから来ているのでしょうか.戦中・戦後を生きた日本女性に共通しているのでしょうか.年を重ねると元気さが増してくるという矛盾をも感じます.

 そこで,もう1つのベストセラー本を紹介しましょう.120万部を突破した『九十歳.何がめでたい』(佐藤愛子著,小学館)です.2017年の年間ベストセラー第1位を獲得しています.愛子センセイは御年94歳,「人生いかに生きるかなんて考えたこともない」と言い切っておられます.この言葉からもパワーがみなぎっているのがおわかいただけるのではないでしょうか.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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