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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科72巻2号

2018年02月発行

雑誌目次

特集 深淵なる「夜間頻尿」の世界

企画にあたって フリーアクセス

著者: 平山暁秀

ページ範囲:P.97 - P.97

 世界的に類を見ない超高齢社会を迎えたわが国では,高齢者のQOLを著しく低下させる排尿障害への対策が喫緊を要する課題であり,夜間頻尿を訴える高齢者は,ほかの排尿障害のなかでも多いと報告されています.2002年に報告された国際尿禁制学会の夜間頻尿の定義では,「夜間就眠時,排尿のために1回以上起きなければならない愁訴」とされており,愁訴をもたない者には治療介入の必要性はないように思われます.しかし,夜間頻尿自体が骨折,うつ症状,耐糖能異常,認知機能障害などと関連性があるばかりでなく,生命予後に対する独立影響因子であることも明らかになり,夜間排尿回数が2回以上の方には何らかの治療介入が必要と考えられます.

 夜間頻尿の原因は多岐にわたり,その原因が多元的であることもあります.原因を知らずして,適切な治療は行うことは困難であり,無謀ともいえます.より適切な診療を行うためには,知識の蓄積は大切なことと考えます.2015年5月号の本誌において,小島祥敬教授(福島県立医科大学)の企画により夜間頻尿が特集され,診療のうえでおおいに役立っているものと思われますが,2年以上が経過し,PubMed上「2015年以降,nocturia, 65+years, English」の条件で検索すると148本の論文が報告されており(2017年12月現在),新たなエビデンスの集積もなされています.そこで今回は,本分野のスペシャリストの11名の先生方に従来の報告をふまえ,2015年以降に報告されたエビデンスを加えて,執筆していただきました.本特集が諸先生方の診療の手助けになり,患者さんの福音となることを願います.

〈総論〉

夜間頻尿のQOLへの関与と他疾患への影響

著者: 中川晴夫

ページ範囲:P.98 - P.103

▶ポイント

・夜間頻尿は下部尿路症状のなかで最もQOLを低下させるといわれている.

・近年夜間頻尿が,全身疾患の原因となりうること,将来の転倒・骨折や死亡率とも関連していることが明らかとなっている.

・単なる生活の質と関連する排尿症状ととらえるべきではなく,生命予後にも関連する重要な因子としてとらえることが望ましいと考えられる.

夜間頻尿の実態・原因・検索方法

著者: 根来宏光

ページ範囲:P.104 - P.110

▶ポイント

・種々の住民コホート研究から夜間頻尿の新たな疫学結果が得られてきている.

・夜間頻尿の原因は多岐わたるが,睡眠障害と夜間頻尿の負のスパイラルとその背景に概日時計障害が示唆されている.

・排尿日誌のアプリや経時的な尿流量・残尿量を自宅で測定できる機器も開発されている.

〈予防〉

生活環境

著者: 大林賢史 ,   佐伯圭吾

ページ範囲:P.111 - P.117

▶ポイント

・不適切な光環境が生体リズム障害や睡眠障害などを引き起こし,夜間頻尿の危険因子になることが考えられる.

・低い温度環境は塩分摂取量の増加などを引き起こし,夜間頻尿の危険因子になることが考えられる.

・夜間頻尿は睡眠障害・夜間高血圧・うつ症状などの全身疾患と関連し,生体リズム障害などを介して夜間頻尿のさらなる重症化を引き起こしている可能性がある.

食生活

著者: 松尾朋博 ,   宮田康好 ,   酒井英樹

ページ範囲:P.118 - P.124

▶ポイント

・夜間頻尿と生活習慣,特に食生活との関連を示すエビデンスは十分検討されていない.

・食生活における食塩の過剰摂取は夜間頻尿と密接に関連のある生活習慣病のリスクファクターである.

・食塩の過剰摂取は夜間頻尿を来すリスクであり,減塩は夜間頻尿の治療オプションの1つになる可能性もある.

〈他疾患の合併症としての夜間頻尿〉

心機能障害と夜間頻尿

著者: 東晃平 ,   朝倉正紀 ,   増山理

ページ範囲:P.125 - P.130

▶ポイント

・夜間頻尿は加齢という要因のみでも起こりうる.

・夜間頻尿の治療戦略は時に心不全治療に拮抗するため,原因精査は慎重さが必要である.

・心不全の一徴候であり心不全治療中に頻尿が増悪することがあるが,心不全改善の途中であるかもしれない.

腎機能障害と夜間頻尿

著者: 田中智章 ,   南彰紀 ,   仲谷達也

ページ範囲:P.131 - P.136

▶ポイント

・高齢者の夜間頻尿には背景にCKDが関わっている可能性があることを念頭に置く.

・内科医・管理栄養士などと緊密な連携をとり,CKD進行抑制に努める.

・家庭血圧測定を行い,血圧の日内リズムを考慮した治療スケジュールを考案することがCKDに伴う夜間頻尿対策に有用である.

呼吸器障害と夜間頻尿

著者: 新美文彩

ページ範囲:P.137 - P.143

▶ポイント

・睡眠呼吸障害のなかで最も罹患率が高く,また夜間頻尿(夜間多尿)との関連性が深いのがOSASである.

・SASでは睡眠中の上気道閉塞による胸腔内圧低下,静脈還流量増加により右房負荷が起き,心房性ナトリウム利尿ペプチドが産生され,夜間尿量が増加すると推定されている.

・経鼻的持続陽圧呼吸療法によりSASを治療することで,夜間多尿を改善できる可能性がある.

睡眠障害と夜間頻尿

著者: 内村直尚

ページ範囲:P.144 - P.147

▶ポイント

・夜間に尿意を感じると中途覚醒や熟眠障害などの不眠を認める.一方,不眠を生じると膀胱内圧が上昇し,膀胱容量が低下するため尿意を感じ,相互に原因にも結果にもなる.

・高齢者では加齢とともに睡眠が浅くなるため,夜間の排尿回数も増加し,悪循環に陥りやすい.

・夜間頻尿の主な原因に対する治療を行うとともに,睡眠障害の鑑別を行い,不眠があれば非薬物治療および薬物療法を行う必要がある.

〈下部尿路疾患と夜間頻尿〉

下部尿路閉塞と夜間頻尿

著者: 清水信貴

ページ範囲:P.148 - P.152

▶ポイント

・下部尿路閉塞に伴う夜間頻尿にはα1遮断薬が第一選択薬となっている.

・PDE5阻害薬や5α還元酵素阻害薬も夜間頻尿に有効であるという報告があるが,今後さらなるエビデンスを積み上げていく必要がある.

・手術療法は機械的閉塞の解除に有効であり,排出障害のみならず蓄尿症状(夜間頻尿)の改善に有効である.

過活動膀胱と夜間頻尿

著者: 大岡均至

ページ範囲:P.154 - P.160

▶ポイント

・OABとは尿意切迫感を必須とした症状症候群で,通常は頻尿と夜間頻尿を伴い,不快な蓄尿症状によって臨床的に診断されるものであるが,尿意切迫感を正確に定義・診断することは困難で,定量化も難しい.

・OABに伴う夜間頻尿は,若年者では夜間膀胱容量の低下により,一方高齢者では夜間尿量増加によって惹起される.

・OAB治療の中心は薬物療法であり,抗コリン薬やβ3アドレナリン受容体作動薬が有効である.

骨盤底弛緩症と夜間頻尿

著者: 松下千枝 ,   鳥本一匡 ,   藤本清秀

ページ範囲:P.161 - P.167

▶ポイント

・骨盤底の弛緩により求心路が亢進し,過活動膀胱とそれに伴う夜間頻尿が生じ,術前にあった夜間頻尿の6〜8割が術後に改善する.

・骨盤底弛緩症と多尿,睡眠障害との関連は明らかではない.

・女性の夜間頻尿の診察時には骨盤底弛緩症の有無を常に念頭に置くべきである.

専門医のための泌尿器科基本手術

回腸利用新膀胱造設術

著者: 三井貴彦 ,   武田正之

ページ範囲:P.168 - P.173

ポイント

・本来の膀胱とは異なる新膀胱の機能を十分に理解し,患者の受け入れが可能であることが必要である.

・尿道との吻合の際には新膀胱の吻合部がfunnel-shapeになることに加えて,膀胱出口部にねじれや屈曲が生じないような工夫が必要である.

・長時間にわたる手術となり,周術期に合併症が発症することが少なくないため,注意を要する.

回腸利用新膀胱造設術

著者: 古家琢也 ,   大山力

ページ範囲:P.174 - P.177

ポイント

・術後排尿訓練が必須であるため,術前に十分にインフォームド・コンセント行い,患者が納得したうえで手術に臨む必要がある.

・遊離する回腸は,骨盤底に緊張なく届く部位を選択する.

・チームで手順を確認していくことにより,回腸導管とほぼ同等の手術時間で作成可能となる.

原著

抗凝固薬・抗血小板薬継続下に施行した経直腸的前立腺生検における安全性の検討

著者: 上杉達也 ,   石井和史 ,   津川昌也 ,   佐々木克己 ,   中村あや ,   寺本咲子

ページ範囲:P.179 - P.183

 経直腸的前立腺生検の対象患者には高齢者が多く,抗凝固薬・抗血小板薬(以下,抗血栓薬)を内服しているケースは少なくない.抗血栓薬を中止することにより凝固能がリバウンドし,心血管イベント上昇のリスクがあることが指摘されている.当施設では抗血栓薬継続のまま経直腸的前立腺針生検を実施しており,この生検後の合併症について後方視的に検討した.2001年7月から2013年12月に抗血栓薬継続下に実施した115例を対象とした.25例が抗凝固薬を,99例が抗血小板薬を内服,9例が両者を併用していた.入院を要する出血性合併症は1例も発生しなかった.経直腸的前立腺生検は抗血栓薬内服を中止することなく実施可能と考えられた.

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バックナンバーのご案内 フリーアクセス

ページ範囲:P.186 - P.186

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.187 - P.187

編集後記 フリーアクセス

著者: 近藤幸尋

ページ範囲:P.188 - P.188

 寒さも一段と厳しくなり皆様いかがお過ごしでしょうか.2月はいわゆる受験の月でもあります.受験は大学受験に限らず,幼稚園の「お受験」から各年代で存在します.しかし,幼稚園や小学校の受験のみ「お受験」という言葉を使うようです.お受験に関して,インターネット上では予備校といいますか塾の宣伝が多いのかと思いきや,お受験スーツ,お受験スリッパ,お受験バッグなど,お受験に行く親をターゲットにした情報があふれています.そのなかには,「外さない母親用お受験スーツ─上品さを兼ね備えた濃紺スーツ」なる宣伝もあります.こうなるとお受験会場での母親は,濃紺スーツだらけが予想されます.そのほかに内容を垣間見ると「へー」という言葉がぴったりの情報ばかりです.ある意味便乗での商魂たくましいというところでしょうか.

 小職においても,大学受験の面接官となることは近年よくあります.小職の大学は一次試験後,論文および面接を二次試験で行っています.論文の採点係に当たると,小部屋に閉じ込められて採点を行います.これも採点者にとっては結構なストレスです.面接はグループ面接の後,個人面接をしています.面接官は3人1組で精神科の先生も交えて編成されています.そこで6年間医学教育に耐えうる優秀な若人を選ぶわけです.受験生は「お受験」とは違い,このヒトは現役かな? と思わせるような制服できていたり,社会人の方はスーツだったり,浪人生はいわゆる普段着の方もいて,集合時に濃紺スーツだらけということはありません.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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