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雑誌目次

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臨床泌尿器科72巻3号

2018年03月発行

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特集 この1冊で安心! 泌尿器科当直医マニュアル〈外来編〉

企画にあたって フリーアクセス

著者: 小島祥敬

ページ範囲:P.193 - P.193

 若い先生方にとって,最も緊張する業務の1つは当直業務です.初期研修医の2年間に,内科や救急の初期対応はトレーニングしますが,後期研修医となり泌尿器科医としてスタートしたばかりの先生方にとっては,泌尿器科疾患の救急対応は必ずしも慣れているとはいえず,不安に思うことも多いのではないでしょうか.そこで若い先生方の不安を解消すべく,今回「この1冊で安心!泌尿器科当直医マニュアル」と題し,〈外来編〉と〈入院編〉の2回に分けて,特集を企画させていただきました.

 本特集を企画するにあたっては,当直する若い先生方の立場に立って,いくつかの工夫を凝らしました.当直室に電話がかかり救急外来に向かう間,あるいは外来の最中に,さまざまなことを頭の中で駆け巡らせ,適切な判断を下さなければなりません.そんな状況においては,おそらく文章を精読している時間的・精神的余裕などないだろうと想定し,疾患ごとに検査手順や治療手順をフローチャートで記載していただきました.また,すべての疾患ではありませんが,特徴的画像所見や外観所見を入れていただき,診断の一助になるよう考慮しました.さらに,患者さんを入院させるべきかどうかの判断に迷うことがあることも想定し,入院の判断基準も記載していただきました.特に夜中に1人で当直していると,先輩や他科医師に電話をして相談してよい状況かどうか判断に迷うこともあります.その点も考慮し,上級医師や他科医師にコンサルトする際の判断基準についても記載していただきました.そして最後に,疾患ごとに「絶対に見逃してはいけないポイント」について記載していただきました.

腎外傷

著者: 八木橋祐亮

ページ範囲:P.194 - P.201

▶ポイント

・腎外傷は泌尿器外傷では最も頻度が高い.交通外傷など鈍的外傷によることが多いため腎単独外傷よりも多発外傷が多く,外科,整形外科,放射線科医などでのチーム医療が必須である.

・泌尿器科医の主な役割は,出血(後出血も含めて)と尿漏への対応である.

・多くは保存的治療が可能であるが,各施設により外傷への対応能力は異なり,TAEなどのIVRを含めた治療が困難な場合,他施設へ前もって搬送することも必要となる.

腎梗塞

著者: 山下慎一

ページ範囲:P.202 - P.206

▶ポイント

・腎梗塞は,突然の側腹部痛や腰痛で発症することが多く,尿管結石との鑑別が重要である.

・腎梗塞が疑われた場合は,腎梗塞の原因を十分に検索する.

・腎梗塞の再発予防には原疾患の治療が大事であり,原疾患を扱う診療科にすみやかにコンサルトして治療方針を考慮する.

急性腎盂腎炎・敗血症

著者: 安田満

ページ範囲:P.207 - P.212

▶ポイント

・基礎疾患の有無により単純性または複雑性腎盂腎炎と診断し,初期抗菌化学療法を開始するが,複雑性腎盂腎炎では基礎疾患の治療も同時に行う.

・qSOFAにて尿路性敗血症と診断した場合には,集中治療管理とともに初期抗菌化学療法および基礎疾患の治療を行う.

・治療前に尿培養を行うとともに,ほかの熱源精査も行う.

急性前立腺炎

著者: 森健一

ページ範囲:P.213 - P.217

▶ポイント

・急性前立腺炎は急激に発症する前立腺の細菌感染のことである.

・高熱,排尿時痛や頻尿を訴える男性患者は急性前立腺炎を疑う.直腸診では腫脹した前立腺と圧痛を認める.

・血液では炎症反応増悪があり,尿検査と膿尿を認めることが多い.

・尿閉と前立腺膿瘍は特に見逃してはいけない重要なポイントである.

尿管結石・疝痛発作

著者: 岡田真介 ,   皆川真吾 ,   森川弘史

ページ範囲:P.218 - P.223

▶ポイント

・臨床所見から尿管結石を疑ったら画像診断にて水腎症と尿管結石を同定し,ほかの緊急性を要する疾患の鑑別,除外を行う.

・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)により早期の疼痛の緩和に努める.NSAIDsの使用には禁忌となる疾患につき注意を要する.

・尿管閉塞に伴う腎機能低下,膿腎症の併発に留意する.

肉眼的血尿・膀胱タンポナーデ

著者: 佐々直人

ページ範囲:P.224 - P.227

▶ポイント

・肉眼的血尿は,尿路での出血であり,緊急性の判断が最も重要である.

・膀胱タンポナーデを併発するか否かを確認する.尿路閉塞は大変辛い病態であるので,患者の苦しみを感じる必要がある.

・鑑別診断に基づく,適切な対処と治療戦略を立てるようにする.

膀胱・尿道外傷(骨盤外傷)

著者: 飯島和芳 ,   加藤晴朗

ページ範囲:P.228 - P.233

▶ポイント

・腹部外傷・骨盤骨折に伴い膀胱破裂,骨盤骨折・騎乗損傷に伴い尿道損傷が生じうる.

・損傷のタイプを理解し,診断・治療方法の違いを整理しておく.

・骨盤骨折・多発外傷を伴う場合もあり,全身状態の把握,他臓器損傷の確認と,他診療科や医療機関との連携も必要である.

尿閉

著者: 大塚篤史 ,   三宅秀明

ページ範囲:P.234 - P.238

▶ポイント

・尿閉の発症契機が急性であるか慢性であるかを,的確に評価する.

・有熱性尿路感染症,両側水腎症を伴う腎後性腎不全,多量の血塊ないし高度な肉眼的血尿,下部尿路損傷のいずれかを合併している場合には入院加療を検討する.

・尿道は非常に繊細で容易に医原性損傷を来すため,愛護的な操作により尿閉を解除できるよう最大限の配慮を払う.

陰茎絞扼症・嵌頓包茎

著者: 小林憲市 ,   河内明宏

ページ範囲:P.239 - P.247

▶ポイント

・硬性絞扼物は除去は難しいが,重症化しにくい.

・軟性絞扼物は除去は容易であるが,重篤な合併症を来しやすい.

・硬性絞扼物の除去に関しては,絞扼物,絞扼具合に応じて最も適した方法を選択する必要がある.

・嵌頓包茎の用手整復は事前の準備を整えて行うことが重要である.

持続勃起症

著者: 江夏徳寿

ページ範囲:P.248 - P.253

▶ポイント

・持続勃起症は虚血性と非虚血性に分けられ,エコーや海綿体血液ガス分析などで鑑別を要する.

・虚血性持続勃起症は発症後早期に治療介入を行わなければ,不可逆的な性機能障害を来す可能性がある.具体的には,陰茎の瀉血,洗浄およびα刺激薬の陰茎注射を行い,改善を認めないようなら外科治療として陰茎シャント造設術を行う.

・非虚血性持続勃起症の場合は保存的に経過観察を行うことにより,自然治癒することが多い.また,勃起不全の後遺症を来す可能性も低い.

急性陰囊症─精巣捻転・精巣上体炎

著者: 守時良演 ,   水野健太郎 ,   林祐太郎

ページ範囲:P.254 - P.259

▶ポイント

・急性陰囊症とは突然に陰囊の自発痛や圧痛,陰囊腫脹を呈する病態をいい,精巣捻転,精巣上体炎,精巣垂や精巣上体垂の捻転などがある.

・精巣捻転は外傷で起こることもあるが,多くは思春期の睡眠中に発症する.

・精巣捻転が長時間続くと精巣への血流が遮断され壊死に陥る.発症から数時間以内に解除されることが望ましい.

フルニエ壊疽

著者: 阿南剛

ページ範囲:P.260 - P.266

▶ポイント

・フルニエ壊疽は緊急疾患の1つであり,進行性の壊死性筋膜炎で早期診断,早期治療が重要である.

・治療は早期のデブリードマンが基本であり,安易な保存的加療は行わないことが大切である.

・フルニエ壊疽の診断にはLRINEC score,フルニエ壊疽の重症度判定にはFGSI,UFGSIが有用である.

カテーテルトラブル─腎瘻,膀胱瘻,尿管ステントの不具合発生時の救急対応

著者: 杉野善雄

ページ範囲:P.267 - P.272

▶ポイント

・尿路のカテーテルトラブルが生じた患者を診察する際は,敗血症性ショックなどの重篤な合併症を来す可能性を考えて治療を計画する.

・腎瘻・膀胱瘻抜去時は,まず迅速に再留置を試みる.

・尿管ステント閉塞時は,ガイドワイヤーが通らないことも多々あり,腎瘻造設やセカンドステント留置といった次の方針も考えておく.迷ったときは上級医に相談する.

がん薬物療法の副作用:腎癌─分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬

著者: 小島崇宏

ページ範囲:P.273 - P.278

▶ポイント

・腎癌の薬物療法では,分子標的薬(VEGF受容体に対するチロシンキナーゼ阻害薬,mTOR阻害薬)と免疫チェックポイント阻害薬が主に使用される.

・免疫チェックポイント阻害薬による自己免疫疾患関連副作用(irAE)が疑われる場合には,診断的なアプローチをするとともに,早期からステロイドの使用を考慮することが望まれる.

・必要に応じて他科の専門医への紹介を適切なタイミングで行うことが重要である.

がん薬物療法の副作用:膀胱癌─BCG療法

著者: 井上省吾 ,   亭島淳 ,   松原昭郎

ページ範囲:P.279 - P.283

▶ポイント

・BCG療法による副作用は,膀胱刺激症状や血尿が多く,大半は軽症である.

・高度の膀胱刺激症状や発熱を認める場合,BCG療法を中止後,全身状態に応じて抗結核薬の投与を検討する.

・炎症反応高値,画像検査で肺病変,関節・眼の症状などReiter症候群の所見を認めた場合や70歳以上の高齢者は,入院加療が望ましい.

がん薬物療法の副作用:尿路上皮癌─抗がん剤

著者: 山根隆史 ,   榎田英樹 ,   中川昌之

ページ範囲:P.284 - P.290

▶ポイント

・好中球減少,貧血,血小板減少などの骨髄抑制は,最も一般的に経験する抗がん剤治療の副作用であり,適切な対処法を熟知しておく必要がある.

・抗がん剤治療はさまざまな臓器毒性を起こし,患者のQOL低下や,致死的な副作用を起こすこともまれではない.治療の継続にはスムーズな診断,対策が必要である.

がん薬物療法の副作用:去勢抵抗性前立腺癌─抗がん剤・新規アンドロゲン剤

著者: 井口太郎 ,   加藤実 ,   仲谷達也

ページ範囲:P.291 - P.298

▶ポイント

・去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の治療は通常,外来ですべて完結することができるので,外来主治医によって管理されることが多く,当直中に緊急受診する頻度は低い.

・入院患者の管理が多い専門医取得以前の泌尿器科医にはやや馴染みの薄い分野と考えられるが,化学療法中の患者では発熱性好中球減少症で緊急受診する可能性もあり,CRPCの治療の流れや各薬剤の主な特徴は把握しておく必要がある.

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バックナンバーのご案内 フリーアクセス

ページ範囲:P.302 - P.302

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.303 - P.303

編集後記 フリーアクセス

著者: 小島祥敬

ページ範囲:P.304 - P.304

 一休さんで有名な一休宗純禅師の詩集『狂雲集』に詠われている一句に,「門松は冥土の旅の一里塚 めでたくもありめでたくもなし」という有名な詩があります.「正月に新しい年を迎えることでまた年齢を1つ重ね,飾られる門松がまるで冥土へと向かう道に築かれた一里塚みたいなものだ」という意味で,新年に浮かれる人々を皮肉り,骸骨のついた杖をつきながら京都の街を闊歩したとの逸話もあるそうです.

 本誌3月号の編集後記の締切が年明け早々のため,今この原稿を書いているのが年末の12月31日です.年末にもかかわらず,たくさんの積み残された業務の処理に追われ,まさに今の私にとって,来る新年は「めでたくもありめでたくもなし」です.この原稿が読者の目に触れるのは年度末で,皆さんはさぞお忙しくされているのだろうと想像しながら筆を執っています.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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