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雑誌目次

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臨床泌尿器科72巻5号

2018年04月発行

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特集 この1冊で安心! 泌尿器科当直医マニュアル〈入院編〉

企画にあたって フリーアクセス

著者: 小島祥敬

ページ範囲:P.309 - P.309

 23年前,医師になって2週間目に私が初めて当直をしたときの話です.真夜中にナースコールを受けて,術後嘔吐の患者さんを診察しました.いろいろなことを頭のなかで巡らせながら,不安な気持ちで当直室から病棟に向かったことを覚えています.病室に着いてすぐに,看護師さんから汚物を懐中電灯で照らしながら「これです」と平然とした顔で言われ,どうしたらよいのかわからず一瞬茫然としました.患者さんに「ご気分はいかがですか?」と問いかけたところ,「吐いてからすっきりしました」と答えていただき,内心ホッとして,「それでは様子を見ましょうか」と告げ当直室に帰りました.当直室に帰ってから,この患者さんに何が起きたかわからず,当直マニュアルなる本を読み,しばらく病態や対処法を確認してから床に就きました.翌早朝に,その患者さんの元気な顔を拝見し,また上級医に報告したところ「大丈夫,大丈夫」と言われ,やっとストレスから解放された気分になれたことが昨日のことのように思い出されます.

 医学部を卒業して直入局する当時とは異なり,現在は初期研修2年間でプライマリ・ケアを学んでいるので,この特集を手にしている後期研修医の皆さんは,当直業務の基本的な心構えや対処法は身につけていることと思います.したがって,私のような素人のような経験はしないと思いますが,入院患者の病状の変化は,泌尿器科特有のものも少なくなく,不安に思うこともあるでしょう.そこで先月号の〈外来編〉に引き続き,「この1冊で安心!泌尿器科当直医マニュアル〈入院編〉」と題し,特集を企画させていただきました.〈外来編〉と同様,緊急時にも簡単に目を通すことができるように構成を工夫しました.先月号の〈外来編〉とセットで枕元に置いていただき,安心して当直業務が行えるための一助となることを願っています.

術後疼痛

著者: 石井啓一 ,   中田一夫 ,   杉本俊門

ページ範囲:P.310 - P.314

▶ポイント

・近年はより高齢者を手術する機会が増えているが,同時に術後早期回復,早期社会復帰も指向されている.

・具体的には疼痛自己管理を行うIV-PCA(intravenous patient-controlled analgesia)と,それに対する追加鎮痛が主体となる.

・薬剤には常に副作用があり得る.大きな合併症につながることもあり,夜間でも緊急の採血やCT撮影などを怠ってはならない.そのためにも,当直の際は,自分が昼間担当していない患者の病態をしっかり把握しておくべきである.

術後せん妄

著者: 松本純弥 ,   矢部博興

ページ範囲:P.315 - P.320

▶ポイント

・せん妄の治療には抗精神病薬が必要だが,安全性には問題があり注意が必要である.

・せん妄の多くは不眠が関わるうえ,通常の睡眠導入剤・精神安定剤はむしろせん妄を引き起こす要因になる.

・せん妄のリスクを考慮した不眠症の薬物療法には,ラメルテオンとスボレキサントが有用な可能性がある.

術後脳梗塞(しびれ・麻痺・痙攣)

著者: 清水信行 ,   村田英俊 ,   山本哲哉

ページ範囲:P.321 - P.326

▶ポイント

・心房細動,脳血管障害,心不全,糖尿病,腎疾患,弁膜症の既往をもつ場合および高齢者では周術期に脳卒中が発生する頻度が高い.

・周術期に脳梗塞が発生した場合,再開通療法を行うには,早期診断が最も重要である.

・周術期の抗血栓療法の中断・継続は,個々の症例ごとに慎重に判断する必要がある.

術後心筋梗塞・重症不整脈

著者: 後藤信哉

ページ範囲:P.327 - P.330

▶ポイント

・心筋梗塞などの循環器疾患には前触れがない.日常生活においても突然発症する.

・発症後,心室細動,ポンプ機能不全により突然死,長期にわたるQOLの障害をもたらす.日常生活においても発症する疾患であるため,術中,術後にも偶発的に発症する.

・麻酔,鎮痛のもとでは患者本人,医師も発症に気づかない場合がある.

・喫煙,糖尿病,高血圧などのリスク因子を有する症例では周術期の循環器疾患の合併に留意する必要がある.

術後肺血栓塞栓症・無気肺・肺炎(呼吸困難・胸痛)

著者: 齋藤好信

ページ範囲:P.331 - P.337

▶ポイント

・急性の胸痛,呼吸困難は生命に直結する疾患の発症を念頭に迅速に対応する.

・優先的に鑑別する疾患は,虚血性心疾患,急性大動脈解離,肺血栓塞栓症である.

・酸素分圧が正常でもA-aDO2の開大に注意が必要である.

術後急性腹症

著者: 永仮邦彦 ,   福永正氣 ,   本庄薫平

ページ範囲:P.338 - P.347

▶ポイント

・腹部理学的所見で腹膜刺激症状を見逃さない.

・X線所見でfree airを見つける(術後なので判断困難例もあり).

・CT検査所見でのみ確認できることとして,free air(CTをエア条件にする),beak sign,whirl sign,target sign,dirty fat sign,大量の腹水,腸管壁の造影消失などがある.

開放手術/腹腔鏡下手術・術後出血(術後血圧低下)

著者: 森紳太郎

ページ範囲:P.348 - P.353

▶ポイント

・泌尿器科の手術は,開放手術,腹腔鏡下手術いずれも,大血管や静脈叢を扱うことが多く,術後出血が急速に進行し,重症化する可能性がある.

・ドレーンからの排液の変化や,早期症状を見逃さず,ダイナミックCTを用いた早期診断治療が求められる.

・治療としてTAEの有用性が報告されるが,患者のバイタルサインの変化を念頭に,再開腹止血術も躊躇してはならない.

術後血尿(経尿道的前立腺手術・膀胱腫瘍手術後)

著者: 山口剛 ,   桶川隆嗣 ,   奴田原紀久雄

ページ範囲:P.354 - P.358

▶ポイント

・血尿の性状だけでなく全身症状(バイタル,痛み,腹部膨満感)をチェックする.超音波でタンポナーデや水腎の有無,膀胱や前立腺被膜穿孔の可能性を確認する.

・膀胱タンポナーデに対しての膀胱洗浄では,カテーテルは可及的に太い多孔式のもの(22Fr以上)を選択し,膀胱内圧を上げないように注意して行う.超音波で凝血塊の位置を確認し,カテーテルの孔をそこに導いて行うのが安全で有効である.

・血尿が改善しない場合や,血圧低下や貧血の進行がある場合は,ただちに上級医師に連絡する.出血性ショックに準じた治療を開始し,必要時は緊急手術の準備も進める.

TUR症候群(嘔吐・意識障害)

著者: 山田徹 ,   谷口光宏 ,   高橋義人

ページ範囲:P.359 - P.362

▶ポイント

・TURP後に,嘔吐,意識障害,血圧低下,徐脈を認めたとき,TUR症候群を疑うが確定診断は難しい.まずは,制吐剤,昇圧剤など症状への初期対応をする.

・TUR症候群では,低Na血症が軽度の症例もある.そのためTUR症候群以外の疾患(膀胱タンポナーデ,麻酔の遷延,敗血症,脳出血・梗塞,不整脈など)の鑑別も必要である.

・TUR症候群と判断したら,利尿剤の投与,細胞外液・生理食塩水中心の点滴を試みる.

ESWL後被膜下血腫(嘔吐・疼痛)

著者: 岡田淳志 ,   濵本周造 ,   安井孝周

ページ範囲:P.363 - P.369

▶ポイント

・ESWLは低侵襲治療であるが,まれに腎被膜下血腫を来すことがある.

・ESWL治療中もしくは後の疼痛の増悪では,積極的に被膜下血腫を疑った精査(超音波・CT)を行う.特に意識・バイタルの変動には迅速な対応が必要である.

・「ESWLは手術である」という心構えを,術前から医師・コメディカルともに共有する.

術後コンパートメント症候群

著者: 峰原宏昌 ,   松浦晃正 ,   河村直

ページ範囲:P.370 - P.375

▶ポイント

・コンパートメント症候群は見逃すと不可逆性の組織壊死が起こり,重篤な機能障害をもたらす.

・最も大切なことは,まず,この疾患を疑うことである.特に長時間手術後や砕石位後には注意する.

・局所(下腿)に軟部組織の著しい腫脹と硬化の所見があるかどうかを見極めること,障害コンパートメント部の耐え難い疼痛と他動的に足趾を伸展させるpassive stretch testにより陽性所見を見逃さないことが重要である.

抗がん剤化学療法中の発熱・嘔吐

著者: 河嶋厚成 ,   植村元秀 ,   野々村祝夫

ページ範囲:P.376 - P.381

▶ポイント

・化学療法中の「①好中球数が500/μL未満,または好中球数が1000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少することが予想される場合で,かつ②腋窩温37.5℃以上の発熱」を生じた場合,FNを疑う.

・MASCCスコアをはじめとするFN重篤化リスクをいち早く評価し,適切な治療を開始する.

・FNに対する初期治療は,βラクタム系抗菌薬の単独投与を行う.

・悪心・嘔吐の重症度を評価する.

・悪心・嘔吐の発症原因を適切に評価し,原因に応じた制吐薬を迅速に使用する.

尿道カテーテルによる膀胱刺激症状

著者: 芦刈明日香 ,   宮里実

ページ範囲:P.382 - P.386

▶ポイント

・尿道カテーテル留置中の膀胱刺激症状の原因として,単純なカテーテル由来の刺激症状か,カテーテルの閉塞や位置異常がないかを鑑別する.

・尿道カテーテルによる膀胱刺激症状への対応によっては,今後の患者の治療コンプライアンスの悪化につながりうるため,適正な処置・症状緩和が必要である.

尿道カテーテル留置困難およびトラブル

著者: 小宮顕

ページ範囲:P.387 - P.393

▶ポイント

・挿入はHUBを実践する.それでも挿入困難な場合,本当に現在留置が必要なのかどうかをまず再考し,尿道損傷を避ける.

・挿入が必要な場合,手を変えての改めてのトライ,リドカインゼリーの尿道内注入,尿道膀胱鏡や尿道造影での評価の後にブジーやガイドワイヤーを用いた留置を試み,成功しない場合,膀胱瘻造設や手術室での処置を考慮する.

・ほかの医療者による医原性の尿道損傷の場合や骨盤外傷の症例では,尿道断裂もありうるので慎重に取り扱う必要がある.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.307 - P.307

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.397 - P.397

編集後記 フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.398 - P.398

 2017年のノーベル文学賞は英国の作家カズオ・イシグロ氏が受賞されました.奇しくも彼の代表作である『わたしを離さないで』が綾瀬はるかさん主演でドラマ化された後でした.数々のメディアで取り上げられていたので記憶されている方も多いのではないかと思います.カズオ・イシグロ氏は長崎で生まれ,5歳のときに父親の仕事の関係で英国に移住しました.処女長編小説『遠い山なみの光』(ハヤカワ文庫,小野寺健訳)は生誕の地,長崎が舞台です.この小説を書いた時点で,彼は日本を再訪したことがなく,想像で書かれたとされています.

 小説の語り手である悦子は,現在英国に住んでいます.日本人の前夫との間に生まれた娘を亡くしたことをきっかけに,長崎に住んでいたある夏の日々を思い返します.戦後間もない長崎で,シングルマザーの友人佐知子とその娘との交流の記憶は,2人との会話を中心に展開していくのですが,リアリティが半端でないのに驚きました.私が幼い頃に母親から聞かされていた戦後の暮らしぶりとかみ合うからです.家屋の質感,質素な食事,近隣の人々との深くて強い関係性などが過不足なく表現されています.私の母親は,時代が貧しく,日々をどう暮らすかに追われていたこと,奈良にはアメリカ人の集団住宅があり,跡地はドリームランドという遊園地になったこと,友人がアメリカ人と結婚してハワイに移住したことなどを彼女の視点で私に語っていました.そこには主観が入り,「何も海外に行かなくても」という考えでした.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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