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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科73巻11号

2019年10月発行

雑誌目次

特集 希少癌に備える―いざという時のための基礎知識

企画にあたって フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.785 - P.785

 泌尿器疾患の特徴として,まれな疾患が多いことが挙げられます.数年ぶりあるいは数十年ぶりに経験する症例に対して,過去の記憶を呼び起こし,診療録を見直す経験をされたことが,読者の皆様もあるのではないでしょうか.泌尿器科学会の地方会ではこのようなまれな疾患の発表が多く,頭の片隅に入れておき,いざという時に備えていらっしゃる先生も多いのではないかと思います.

 今回の特集では希少癌にスポットを当てさせていただきました.泌尿器癌のなかでどれが希少癌に相当するかの明確な定義があるわけではありません.希少癌であることに異存はないものの,希少癌のなかでは経験する頻度が比較的高い(希少癌のなかでは希少ではない!?)疾患を選んでいます.これだけ集めてみますと,近い将来に経験するような予感がいたします.学会でもシンポジウムで取り上げられることはまずないでしょうし,このような特集がないとまとまって勉強する機会がないと考え,あえて企画させていただきました.

副腎皮質癌

著者: 川崎芳英 ,   山崎有人 ,   伊藤明宏

ページ範囲:P.786 - P.793

▶ポイント

・副腎皮質癌は予後不良であり,診断および治療に際してきわめて高い専門性が求められる.通常の副腎皮質腺腫の術後に副腎皮質癌と病理診断された場合は,リスク因子や病理結果にてフォローアップの内容が異なる.診断時にすでに副腎皮質癌が強く疑われる場合は,経験のある専門施設へのコンサルトが肝要である.

・近年,副腎皮質癌に関与する遺伝子変異や治療標的薬および免疫療法の報告がなされているが,現時点では予後改善のためにはさらなる臨床上の発展が必要な状況である.ENSATの診療ガイドラインが2018年に改訂され,診療方針の変遷が注目される.

・副腎皮質癌患者の予後改善のために,内分泌内科医,病理医,放射線科医および泌尿器科医(外科医)の連携が重要である.

悪性褐色細胞腫

著者: 安部崇重 ,   村橋範浩 ,   吉永恵一郎 ,   志賀哲 ,   篠原信雄

ページ範囲:P.794 - P.798

▶ポイント

・2017年のWHO腫瘍分類において,すべての褐色細胞腫・パラガングリオーマは悪性腫瘍と定義づけられた.

・悪性化と関連の強い遺伝子として,SDHB遺伝子変異が知られている.腹部のパラガングリオーマ症例で頻度が高く,悪性化と関連する可能性がある.

・腫瘍サイズの縮小・増大の抑制,カテコラミン産生過剰に伴う症状のコントロール,腫瘍増大に伴う症状の緩和を目的に治療が選択される.

・手術,化学療法(CVD療法),標的アイソトープ治療(131I-MIBG治療)が用いられるが,各治療のエビデンスレベルは決して高いとはいえない.症例報告ごとに,各治療モダリティを組み合わせた集学的治療が行われている.

腎集合管癌

著者: 高木敏男 ,   長嶋洋治

ページ範囲:P.800 - P.804

▶ポイント

・腎集合管癌はまれな疾患であるが,予後不良な悪性新生物であり,正確な診断が重要である.

・画像上は腎浸潤性腎盂癌との鑑別が困難なことがあり,また,病理学的にも尿路上皮癌や乳頭状腎細胞癌との鑑別が必要である.

・腎限局癌であれば,手術的治療が一般的である.転移癌に関する抗悪性腫瘍剤選択にあたっては,議論される必要がある.

後腹膜腫瘍:画像診断

著者: 秋田大宇 ,   池田織人 ,   陣崎雅弘

ページ範囲:P.806 - P.814

▶ポイント

・腹部骨盤腔に由来臓器不明の腫瘤を見た場合,ダイナミックCTにより栄養血管や後腹膜臓器との位置関係を評価することで,後腹膜腫瘍か否かを判断する.

・MRIはより詳細な腫瘍の性状評価に役立つ.

・CTやMRIにより,腫瘍の進展形式,内部の均一性,vascularity,脂肪成分,粘液成分,石灰化,細胞密度などを評価することで,質的診断につなげる.

後腹膜悪性軟部腫瘍に対する手術療法

著者: 亭島淳

ページ範囲:P.815 - P.819

▶ポイント

・肉眼的に完全切除を目指すべきである.

・高分化型脂肪肉腫の場合でも,術前に良性と診断された脂肪成分も含めて完全切除を行う.

・脱分化型脂肪肉腫では局所再発,平滑筋肉腫では遠隔転移による再発が多い.

後腹膜腫瘍:薬物療法―軟部肉腫を中心に

著者: 浜本康夫

ページ範囲:P.820 - P.826

▶ポイント

・後腹膜腫瘍は希少疾患が多く薬物療法のエビデンスや情報も入手が困難である.周囲に経験者や専門家が少ないため,泌尿器科医が治療の中心にならざるを得ない場合も散見される.

・がん診療拠点病院に所属している場合には,ある程度の薬物療法は自ら実施する必要がある一方で,Ewing肉腫など思春期若年成人(AYA世代)に発症する肉腫に関してはすみやかに専門施設へ依頼する必要があり,基礎的な知識が重要である.

・最近,免疫チェックポイント阻害薬が有望な肉腫や,クリニカルシーケンスによる融合遺伝子(NTRK融合遺伝子)関連肉腫は新薬が登場し,治療の選択肢が広がりつつある.

尿膜管癌

著者: 橋根勝義

ページ範囲:P.828 - P.831

▶ポイント

・限局した尿膜管癌(Sheldon分類ステージⅢA以下)では,膀胱部分切除術+尿膜管・臍一塊切除が推奨される.

・膀胱全摘除術は部分切除術と比較して,生存率に差がないことから適応は限られる.

・進行した尿膜管癌での推奨される治療法はないが,FOLFOX療法など大腸癌のレジメンでの奏効例が報告されている.

陰茎癌の診断と治療―特に原発巣について

著者: 山口隆大 ,   杉山豊 ,   神波大己

ページ範囲:P.832 - P.836

▶ポイント

・陰茎癌のTNM分類の変遷に注意し,どれを採用し評価したかの記載が必要である.

・伝統的には切除マージンは20mmとされていたが,最近では5mmほどでも十分安全とされる報告が多い.ただし,術中迅速病理で断端陰性を確認することと,こまめな経過観察を遵守できる患者選択で局所再発に対応する必要性がある.

性腺外胚細胞性腫瘍

著者: 中村晃和

ページ範囲:P.838 - P.840

▶ポイント

・性腺外胚細胞腫の的確な診断のためには,若年者の場合はまずは胚細胞腫の可能性を念頭に置き,腫瘍マーカー(AFP,HCG,HCG-β,LDH)を測定し,画像診断をしっかり行うことが重要である.

・治療においては,IGCC分類に従い,導入化学療法を規定通り行うことがきわめて重要である.

Variantタイプ膀胱癌

著者: 南雲義之 ,   小島崇宏 ,   西山博之

ページ範囲:P.842 - P.845

▶ポイント

・膀胱の尿路上皮癌にはさまざまなvariantが存在し,膀胱癌全体の20〜25%程度とされている.

・Variantのタイプによって予後へ影響を与える可能性が異なるため,症例ごとに治療方針を検討する必要がある.

・尿路上皮癌におけるvariantの頻度はこれまで考えられていたよりも高く,標準治療の確立に向けて,分子解析も含めた多施設共同研究が望まれる.

前立腺導管癌

著者: 小坂威雄 ,   萩原正幸 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.846 - P.849

▶ポイント

・導管癌は局所浸潤傾向が強く,初期診断時に進行癌であることが多いため,一般的には予後不良な癌である.

・PSAの上昇を認めない血尿や排尿障害における鑑別疾患として念頭に置くことが大切である.

原発不明癌の診断と治療

著者: 高橋俊二

ページ範囲:P.850 - P.856

▶ポイント

・原発不明癌は悪性腫瘍全体の1〜5%を占めるとされるが,原発を明らかにできる可能性はあり,体系的な検査と免疫染色を含む病理診断が必要である.

・予後良好群を同定して最適の治療を選択することが重要である.

・予後不良群でもプラチナ製剤+タキサンにより1年以上の生存期間が得られる可能性はあるが,予後不良な患者も非常に多い.

小さな工夫

ポート孔ヘルニアを予防する閉創の工夫

著者: 西村謙一 ,   雑賀隆史

ページ範囲:P.858 - P.859

本邦では,2014年に骨盤臓器脱に対して腹腔鏡下腟仙骨固定術(laparoscopic sacrocolpopexy : LSC)が保険適用となり,当院でも2016年2月〜2019年3月に83例を施行した.LSCにおけるポート位置は,臍上にカメラポート(12mm),左腸骨稜より3横指臍よりに術者左手ポート(12mm),恥骨と臍の中点やや右よりに術者右手ポート(5mm),右腸骨稜より4横指臍よりに助手用ポート(5mm)を留置している.

 そのなかで,術者左手12mmポート創から腸管の脱出を2例(2.6%)経験した.1例は他院で徒手整復され,その後再発は認めていない.もう1例は腹腔内より筋膜前鞘下に小腸が嵌頓し,小腸切除術とヘルニア根治術を要した.ポート孔ヘルニアの頻度は,腹腔鏡手術症例全体の0.04〜4.0%と報告されており,諸家の報告と同等の結果となっている1).ポート孔ヘルニアの原因として,①トロッカーの鋭角な穿刺と手術操作によるポート孔の開大,②手術中のポートの滑脱と再挿入に伴う筋膜の損傷,③ポート孔の不十分な閉鎖,④骨盤臓器脱患者特有の組織の脆弱性が考えられる.

書評

図説 医学の歴史―坂井建雄 著 フリーアクセス

著者: 泉孝英

ページ範囲:P.857 - P.857

 650点を超す図版を収載した656ページに及ぶ大冊である.「膨大な原典資料の解読による画期的な医学史」との表紙帯が付けられている.私からみれば,わが国の明治の近代医学の導入(1868年)以来,150年の年月を経て,わが国の人々が手に入れることができた「医学の歴史」教科書の決定版である.医師・歯科医師・薬剤師・看護師・放射線技師・検査技師などの医療関係者だけでなく,一般の方々にも広く読んでいただきたい.豊富な図版は,専門知識の有無を問わず本書を読める内容としている.

 教科書としてお読みいただく以上,「飛ばし読みは禁」である.まずは,573ページの「あとがき」からお読みいただきたい.坂井建雄先生の解剖学者・医史学者としての歩みの中から,本書誕生の歴史をたどることができる.坂井先生のこれまでの多数の学会発表,論文,書籍などから,幅広く資料収集に努めていられることは推察していたが,「ここまで!」との絶句が,本書を拝見しての私の第一印象である.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.783 - P.783

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.863 - P.863

編集後記 フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.864 - P.864

 第28回日本小児泌尿器科学会は令和元年7月3〜5日に佐賀大学の野口満教授が会長を務められ,「道を究める」をテーマに開催されました.そして,テーマに関連したワークショプ「究めた方から学び取る」が企画され,名古屋市立大学の林祐太郎教授と私が座長を務めさせていただきました.林先生の弾丸トークで始まり,シメの講演を私がさせていただきました.

 このワークショップでは6名の医学生あるいは泌尿器科専攻医からの悩み相談に対して,先輩医師がアドバイスをするという形式でした.小児泌尿器科のレジェンドである島田憲次先生と谷風三郎先生からはブレのない人生の軌跡が語られ,ほぼ満員の会場で聴衆は熱心に聞き入っていました.悩みとは,サブスペシャリティの決定,海外留学,基礎研究をするか否かなどです.シメの講演として私は,「究めた方から学び取る」ために,若い医師に捧げる最大のメッセージは「ターニングポイントに備える」ことであると講演しました.人生を歩む道を決定するには,日頃からの覚悟が必要です.人生を変えうる先輩医師からのオファーは突然やってくるからです.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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