icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科73巻12号

2019年11月発行

雑誌目次

特集 Nicheな前立腺炎の全容に迫る!

企画にあたって フリーアクセス

著者: 和田耕一郎

ページ範囲:P.879 - P.879

 「前立腺炎」と聞いて,どんな印象をお持ちだろうか.悪性腫瘍や尿路結石など,手術を中心とする疾患を診る頻度の高い泌尿器科医にとっては,「面倒な疾患」という印象が強いのではないか.それは,「前立腺炎」が細菌感染症と,感染症としては説明できない慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(chronic prostatitis/chronic pelvic pain syndrome : CP/CPPS)からなっているためであり,後者は症候群という概念的な疾患単位でつかみどころがないためであろう.さらに,CP/CPPSにおける疾患特異的な病態解明や治療の確立が大きく進んではおらず,慢性,難治性の疾患であることが大きな要因と考えられる.本特集を立案するにあたり,これまでの総まとめといっても過言ではない,網羅的でかつ新しい知見を盛り込んだ解説を著者の先生方にお願いした.

 本特集では,まず基本となる前立腺炎の分類と現状の鑑別方法についておさらいし,主に頻度の高い細菌性前立腺炎とCP/CPPSについて解説していただいた.診断や治療法がほぼ確立している細菌性前立腺炎については,耐性菌対策や排尿障害に対するマネジメントが重要な一般細菌による前立腺炎に加え,比較的報告が少ない性感染症としての前立腺炎について項目を新たに設けた.外来診療において最も悩ましい疾患の1つであるCP/CPPSについては,診断や治療のほかに症状ドメインの分類や診療ガイドラインが存在する欧米の動向,さらに現在行われている基礎研究や最新の臨床データに関する項目を設け,解説していただくよう依頼した.

〈分類〉

前立腺炎の分類

著者: 安田満

ページ範囲:P.880 - P.884

▶ポイント

・前立腺炎の分類には,Drachらの分類,NIH分類,およびUPOINT(S)がある.

・Drachらの分類,NIH分類は感染症の視点からの分類であり,UPOINT(S)は病因による分類である.

・UPOINT(S)は慢性前立腺炎の治療に適している.

〈急性細菌性前立腺炎〉

一般細菌による急性細菌性前立腺炎の診断と治療

著者: 松本正広 ,   藤本直浩

ページ範囲:P.886 - P.891

▶ポイント

・男性で発熱や排尿痛などの症状を認める場合には,急性細菌性前立腺炎を考慮する.

・原因菌としては,大腸菌が半数以上を占める.

・敗血症性ショックなど重症化する例もあり,初期抗菌薬は原則として注射薬を選択する.

・経直腸的前立腺生検後の急性細菌性前立腺炎では,原因菌としてフルオロキノロン耐性大腸菌,ESBL産生大腸菌を考慮する.

性感染症としての急性前立腺炎

著者: 上原慎也

ページ範囲:P.892 - P.895

▶ポイント

・急性前立腺炎の起炎菌として,淋菌やクラミジアはまれである.

・大腸菌による急性前立腺炎の一部は性感染症である.

・尿路感染症を有する女性との性交渉は,急性前立腺炎発症の高リスクである.

〈慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群〉

慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の病態と診断

著者: 髙橋聡

ページ範囲:P.896 - P.899

▶ポイント

・CP/CPPSの病態は疼痛ないし不快感を主とした症状症候群である.

・CP/CPPSの診断は,除外診断による.

・NIH-CPSIは,治療前後の症状の程度を評価できる.

慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の症状ドメイン分類

著者: 市原浩司

ページ範囲:P.900 - P.905

▶ポイント

・CP/CPPSは,多様な病因が関与するため,単一の病因を治療標的としても効果は不十分である.

・主要症状・症候(ドメイン)を6つ(性機能を含めると7つ)に分類し,陽性ドメイン別に標的治療を行うのがUPOINT(S)分類である.

・陽性ドメイン数とNIH-CPSIスコアの相関はよく,適正標的治療により症状改善効果は高まる.

慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群に対する治療:薬物療法

著者: 速見浩士

ページ範囲:P.906 - P.909

▶ポイント

・CP/CPPSは,NIHが提唱した「前立腺炎症候群」のカテゴリーⅢを指す.

・成人男性において比較的頻度の高い泌尿器科疾患であるが,特定の病因や病態が示されておらず治療法も確立されていない.

・多様な症状をUPOINTに分類し,各々に対応した治療法を選択することが望ましい.

慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群に対する治療:その他の治療

著者: 小林加直 ,   武藤雅幸 ,   重松慶紀

ページ範囲:P.910 - P.914

▶ポイント

・CP/CPPSは,多要因性の症候群である.各治療と並行して,まずは食生活の改善や運動は試してみる価値はある.

・治療の基本は薬物療法であるが,UPOINTの表現型に沿った集学的治療を行うことが重要である.

・本稿では,薬物以外の治療のなかで,食生活の改善や運動,保険適用のある鍼治療,保険適用はないが侵襲の少ない低強度体外衝撃波治療の3点につき解説する.

慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群の診療のポイント

著者: 亀井潤

ページ範囲:P.916 - P.919

▶ポイント

・患者の症状や不安,生活への支障の程度を考えながら,適切な検査や治療を提案する.

・診療を通じて,患者自身が疾患や自分の症状を理解し,セルフマネジメントできるように指導する.

・症状が軽度の場合は,検査や治療を開始せず経過観察することも1つの選択肢である.

慢性骨盤痛症候群の鑑別すべき疾患とその対応

著者: 東郷容和 ,   山本新吾

ページ範囲:P.920 - P.923

▶ポイント

・EAUから出されているchronic pelvic painのガイドラインでは,多領域にまたがり,包括的な診断と治療を行うことが推奨されている.

・CPPSは感染やほかの明らかな局所の病理学的所見が証明されていない症状症候群である.

・CPPSの治療において患者の治療満足度を向上させるためには,多職種介入マルチサポートの構築が重要となる.

慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群に関する基礎研究

著者: 大平伸 ,   永井敦

ページ範囲:P.924 - P.928

▶ポイント

・CP/CPPSは,さまざまな要因により形成される複雑な発症機序があるため,病態解析が重要である.

・CP/CPPSの複雑な発症機序を想定して,基礎研究ではさまざまな動物モデルを用いた研究が行われている.

・炎症細胞の主体はマクロファージとT細胞であり,炎症細胞が産生するサイトカインおよびケモカインが病態を反映するバイオマーカーとなる可能性がある.

慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群に関する最近の臨床研究

著者: 重村克巳 ,   藤澤正人

ページ範囲:P.930 - P.932

▶ポイント

・CP/CPPSにおいては実際の臨床現場においては,漫然と患者の訴えに応じて主にニューキノロン系抗菌薬の中期〜長期投与が行われていることが多く,特に非抗菌薬療法の臨床研究が待たれる.

・これまでその関与について意見の分かれていたうつ病に関して,うつ病の有無がCP/CPPSの治療に影響するという韓国からの報告があった.

・非薬物療法として,鍼治療やESWTなどの本疾患における効果の臨床研究が報告されている.今後本邦においても,これらの研究が期待される.

綜説

限局性前立腺癌に対する手術と外照射放射線療法の比較

著者: 田口慧 ,   福原浩

ページ範囲:P.869 - P.877

要旨

 手術と外照射放射線療法は,限局性前立腺癌に対する同等の治療選択肢とみなされている.既報では長期生存は手術が勝る可能性が指摘されているが,両者の比較においては異なる患者背景や副作用プロファイルなどの諸問題があり,単純な成績比較は困難である.また,各治療でロボット手術やIMRTといった技術革新も進んでいるため,治療成績をアップデートしていくことも重要である.最近,手術と外照射放射線療法を比較した初のランダム化比較試験の結果が報告された.また,筆者らは最近,両者の先端技術同士の比較論文を出版した.これらの紹介も含め,限局性前立腺癌に対する両モダリティの比較について腫瘍学的成績を中心に概説する.

書評

レジデントのための画像診断の鉄則―山下康行 著 フリーアクセス

著者: 柴田綾子

ページ範囲:P.934 - P.934

 「画像検査を学ぶ本だ」という予想をはるかに超えていた.救急室や外来で出合う疾患の特徴的な画像が次々と登場し,経験知が詰まったクリニカルパールがテンポよく紹介された本であった.画像診断は「知っていれば診断できる」ことが多い.逆に言うと,知らなければ見過ごしてしまう所見がたくさんある.この本は,あなたの「診断できる」を確実に増やしてくれる一冊である.

 この本がすごいのは,画像診断の「周辺」までクリニカルパールでカバーしているところだ.第1章「画像診断総論」で取り上げられている以下などは,普段なら難しくて読み飛ばしてしまいそうな内容だが,簡潔なメッセージ(鉄則)とまとめで読みやすくなっている.

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.867 - P.867

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.939 - P.939

編集後記 フリーアクセス

著者: 近藤幸尋

ページ範囲:P.940 - P.940

 最近小職の勤務する大学において,大学院生の充足率に関する報告と大学院生のリクルートの依頼の手紙が来ております.現在の若人にとって,大学院および博士に対しての興味は薄いようです.専門医制度が引かれている現在では,後期研修医を終えてから専門医試験があり,その後に腹腔鏡手術の技術認定などサブスペシャリティの試験が続くため,卒後約10年間はそれらが中心となっています.それから大学院に入り博士論文を書くわけですので,博士の高齢化は避けられません.

 8月に文部科学省の科学技術・学術政策研究所が「科学技術指標2019」を発表しました.科学技術指標はわが国の科学技術活動をまとめた基礎資料です.本指標から日本の状況をみると,研究開発費・研究者数はともに主要7か国中第3位,論文数は世界第4位,注目度の高い論文数は世界第9位,2か国以上への特許出願数は世界第1位で,研究者に占める博士号保持者の割合(高度研究人材の活用度)は産業分類によって異なり,日本は米国と比較すると高度研究人材の活用度が低い傾向にあるようです.また,人口100万人あたりの博士号取得者数では,主要国の中では日本のみ減少傾向が続いているとのことで,近年の論文数と博士号取得者数の減少を国は問題視しているようです.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻13号(2022年12月発行)

特集 これだけは知っておきたい! 泌尿器科診療でも活きる腎臓内科の必須知識

76巻12号(2022年11月発行)

特集 ブレずに安心! 尿もれのミカタ

76巻11号(2022年10月発行)

特集 限局性前立腺癌診療バイブル―このへんでキッチリと前立腺癌診療の“あたりまえ”を整理しよう!

76巻10号(2022年9月発行)

特集 男性不妊診療のニューフロンティア―保険適用で変わる近未来像

76巻9号(2022年8月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)の手術療法―臨床現場の本心

76巻8号(2022年7月発行)

特集 泌尿器腫瘍における放射線治療―変革期を迎えた令和のトレンド

76巻7号(2022年6月発行)

特集 トラブルゼロを目指した泌尿器縫合術―今さら聞けない! 開放手術のテクニック

76巻6号(2022年5月発行)

特集 ここまで来た! 腎盂・尿管癌診療―エキスパートが語る臨床の最前線

76巻5号(2022年4月発行)

特集 実践! エビデンスに基づいた「神経因性膀胱」の治療法

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号特集 専門性と多様性を両立させる! 泌尿器科外来ベストNAVI

76巻3号(2022年3月発行)

特集 Female Urologyの蘊奥―積み重ねられた知恵と技術の活かし方

76巻2号(2022年2月発行)

特集 尿路性器感染症の治療薬はこう使う!―避けては通れないAMRアクションプラン

76巻1号(2022年1月発行)

特集 尿道狭窄に対する尿道形成術の極意―〈特別付録Web動画〉

75巻13号(2021年12月発行)

特集 困った時に使える! 泌尿器科診療に寄り添う漢方

75巻12号(2021年11月発行)

特集 THEロボット支援手術―ロボット支援腎部分切除術(RAPN)/ロボット支援膀胱全摘除術(RARC)/新たな術式の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻11号(2021年10月発行)

特集 THEロボット支援手術―現状と展望/ロボット支援前立腺全摘除術(RARP)の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻10号(2021年9月発行)

特集 今こそ知りたい! ロボット時代の腹腔鏡手術トレーニング―腹腔鏡技術認定を目指す泌尿器科医のために〈特別付録Web動画〉

75巻9号(2021年8月発行)

特集 ED診療のフロントライン―この一冊で丸わかり!

75巻8号(2021年7月発行)

特集 油断大敵! 透析医療―泌尿器科医が知っておくべき危機管理からトラブル対処法まで

75巻7号(2021年6月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)薬物治療のニューノーマル―“とりあえず”ではなくベストな処方を目指して

75巻6号(2021年5月発行)

特集 躍動するオフィスウロロジー―その多様性に迫る!

75巻5号(2021年4月発行)

特集 前立腺癌のバイオロジーと最新の治療―いま起こりつつあるパラダイムシフト

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科当直医マニュアル

75巻3号(2021年3月発行)

特集 斜に構えて尿路結石を切る!―必ず遭遇するイレギュラーケースにどう対処するか?

75巻2号(2021年2月発行)

特集 複合免疫療法とは何か? 腎細胞癌の最新治療から学ぶ

75巻1号(2021年1月発行)

特集 朝まで待てない! 夜間頻尿完全マスター

74巻13号(2020年12月発行)

特集 コロナ時代の泌尿器科領域における感染制御

74巻12号(2020年11月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈下部尿路機能障害/小児・女性・アンドロロジー/結石・感染症/腎不全編〉

74巻11号(2020年10月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈腫瘍/処置・救急・当直編〉

74巻10号(2020年9月発行)

特集 令和最新版! 泌尿器がん薬物療法―手元に置きたい心強い一冊

74巻9号(2020年8月発行)

特集 泌尿器腫瘍の機能温存手術―知っておくべき適応と限界

74巻8号(2020年7月発行)

特集 これが最新版! 過活動膀胱のトリセツ〈特別付録Web動画〉

74巻7号(2020年6月発行)

特集 小児泌尿器科オープンサージャリー―見て学ぶプロフェッショナルの技〈特別付録Web動画〉

74巻6号(2020年5月発行)

特集 高齢患者の泌尿器疾患を診る―転ばぬ先の薬と手術

74巻5号(2020年4月発行)

特集 ここが変わった! 膀胱癌診療―新ガイドラインを読み解く

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科診療の最新スタンダード―平成の常識は令和の非常識

74巻3号(2020年3月発行)

特集 泌尿器科手術に潜むトラブル―エキスパートはこう切り抜ける!

74巻2号(2020年2月発行)

特集 いま話題の低活動膀胱―これを読めば丸わかり!

74巻1号(2020年1月発行)

特集 地域で診る・看取る緩和ケア―泌尿器科医として知っておくべきこと

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら