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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科73巻2号

2019年02月発行

雑誌目次

特集 もっと身近に! Female Urologyを学ぶ

企画にあたって フリーアクセス

著者: 嘉村康邦

ページ範囲:P.83 - P.83

 人間の半分は女性です.そして女性のほうが長生きします.加齢に伴い,女性下部尿路症状(FLUTS)が増加することもわかっています.さらにまた,情報化時代となり,多くの女性が黙って耐え忍ぶのを止め,泌尿器科を受診するようになりました.にもかかわらず,「男性は診るが女性はちょっと…」と,敬遠されていませんか? 言うまでもなく,Female Urologyは泌尿器科の大きなサブスペシャリティであり,コアエリアです.実地臨床では避けて通れません.そこで,Female Urologyをもっと身近に感じてもらおうと本特集は企画されました.

 総論では,日本のFemale Urologyの歴史と現状,FLUTSの病態,さらに診療ガイドラインの活用方法を解説していただきました.診断としては,Female Urologyの現場で慣れておきたい超音波検査と,診断に苦慮するFLUTSに対するウロダイナミクス検査を取り上げています.治療は,Female Urology領域で主たるものを網羅しました.薬物療法の項では,一般薬物療法と,漢方薬とに分けて解説いただきました.手術療法に移り,腹圧性尿失禁ではゴールド・スタンダードといわれる中部尿道スリング手術と,最も新しくチャレンジングな括約筋再生治療を,骨盤臓器脱では最近その適応について議論が盛んな3つの術式,Native tissue repair(NTR)手術,経腟メッシュ(TVM)手術,腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)についてそれぞれ詳述いただきました.そして最後に,多くの泌尿器科医が取り組みにくいと感じる女性性機能障害への対応のコツを解説いただいています.

〈総論〉

日本における女性泌尿器科の歴史と現状

著者: 竹山政美 ,   鍬田知子

ページ範囲:P.84 - P.88

▶ポイント

・日本ではTVM手術はセルフカットメッシュを用いて独自の発展を遂げ,欧米では行われなくなりつつあるこの術式がPOP手術の選択肢としてしっかりと残っている.

・LSCにはトータルリペアLSCとサイトスペシフィックLSCがあるが,その優劣は長期成績によって検証されるべきである.

・国産PTFEメッシュに新たな可能性を感じることができる.

女性下部尿路症状の病態

著者: 武井実根雄

ページ範囲:P.89 - P.95

▶ポイント

・女性下部尿路症状の病態を理解するには,女性の骨盤内臓器の解剖学を理解することが重要である.

・加齢や出産により,骨盤底の支持組織が弛緩することで腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱を来し,同時にさまざまな下部尿路症状が惹起される.

・加齢による下部尿路機能の変化や間質性膀胱炎,婦人科疾患および女性ホルモンの関与などにも留意する必要がある.

女性下部尿路症状診療ガイドラインの活用方法

著者: 高橋悟

ページ範囲:P.96 - P.100

▶ポイント

・2013年11月『女性下部尿路症状診療ガイドライン』が刊行され,初期診療と専門診療の2つのアルゴリズムが掲載された.

・2019年秋に,同ガイドラインの改訂版が発表予定である.

・女性は尿失禁,頻尿などの蓄尿症状が多いが,排尿症状,排尿後症状も少なくない.

・骨盤臓器脱との関連や性機能への影響にも配慮が必要である.

〈診断〉

女性泌尿器科領域における超音波検査

著者: 西林学

ページ範囲:P.102 - P.105

▶ポイント

・超音波検査を経会陰的な走査で行う(経会陰超音波)ことで,脱出臓器や脱垂の程度を簡単に知ることができる.

・女性泌尿器科領域の疾患の多くの原因である骨盤底損傷部位の同定に3D経会陰超音波はきわめて有用である.

・泌尿器科でも「もっと身近に! 経会陰超音波検査を!」.

女性下部尿路症状に対する尿流動態検査の有用性

著者: 朝倉博孝

ページ範囲:P.106 - P.113

▶ポイント

・排尿後残尿測定は非侵襲的な検査で,下部尿路障害を診断する第一選択の検査になりうる.

・膀胱内測定により,蓄尿障害の原因であるDOや低コンプライアンス膀胱が診断できる.

・女性下部尿路閉塞の診断は,controversialであるが,Qmax/Pdet@Qmaxのカットオフ値と臨床症状の組み合わせで診断されている.

・最近のトピックスである排尿筋低活動についても,UDSのパラメータの基準値は決まっていない.

・UDSにアーチファクトはつきものであるので,その解釈には注意を要する.

〈女性泌尿器科における薬物治療〉

女性下部尿路症状に対する薬物治療

著者: 金城真実

ページ範囲:P.114 - P.119

▶ポイント

・薬物治療を開始するにあたり,尿検査と残尿検査は必須の評価項目である.

・女性下部尿路症状は骨盤底障害を合併することが少なくないため,可能な限り内診(台上診)を行うことが望ましい.

・女性下部尿路症状のなかで最も薬物治療が有効な疾患は過活動膀胱である.

女性泌尿器科領域における漢方薬の使い方

著者: 井上雅

ページ範囲:P.120 - P.125

▶ポイント

・漢方学的診断には病名ではなく「証」を用いる.

・過活動膀胱には牛車腎気丸がよく使用され,作用機序も明らかになってきている.

・女性泌尿器科領域におけるさまざまな不定愁訴に対し漢方薬は有用である.

〈腹圧性尿失禁に対する治療〉

中部尿道スリング手術

著者: 巴ひかる

ページ範囲:P.126 - P.129

▶ポイント

・MUS手術には,TVT手術とTOT手術があり,中等症以上の症例に適応があるほか,軽症でもスポーツをしたいなどの患者ニーズによって選択される.

・TVT手術,TOT手術の短期の主観的・客観的成功率はともに90%前後と有効であるが,一部の尿道括約筋不全症例にはTVT手術が優れ,再発再手術もTVT手術で少ないようである.

・TVT手術とTOT手術とでは起きうる合併症が異なり,各術式に応じた術前インフォームド・コンセントが必要である.

括約筋再生

著者: 山本徳則 ,   清水忍 ,   後藤百万

ページ範囲:P.130 - P.135

▶ポイント

・自己脂肪幹由来幹細胞(幹)細胞の傍尿道注入による腹圧性尿失禁の治療は,世界に先駆けて名古屋大学泌尿器科が開発し,理想的な治療法として脚光を浴びている.

・これまでの開発の経緯や臨床応用がどこまで進んでいるかに関して,今後の展望を述べる.

〈骨盤臓器脱に対する手術〉

Native tissue repair(NTR)手術

著者: 古山将康

ページ範囲:P.136 - P.140

▶ポイント

・NTR手術は,産婦人科医が施行してきた従来法に上部腟管の固定を確実にすることで,安全性の高い,再発率の低い骨盤底再建術が可能となる.

・骨盤底臓器の解剖学的支持欠損の部位を診断し,年齢や患者のライフスタイルに合わせた術式を選択する.

・泌尿器科領域では骨盤臓器脱に対してプロリンメッシュを用いたTVM手術が急速に普及したが,FDAのアラート以後,詳しいインフォームド・コンセントが必要である.

経腟メッシュ(TVM)手術

著者: 片岡政雄 ,   赤井畑秀則 ,   小島祥敬

ページ範囲:P.141 - P.145

▶ポイント

・TVM手術は,前腟壁下垂に対しては従来の前腟壁形成術よりも高い解剖学的矯正効果が証明されている.

・本術式は低頻度ではあるが重篤な合併症を来す危険性を秘めているため,実施にあたっては手技についての十分な習熟が必要である.

腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)

著者: 成島雅博 ,   荒木英盛

ページ範囲:P.146 - P.153

▶ポイント

・LSCにはレベル1のみ支持のアメリカ式とレベル1+2支持のフランス式がある.

・下大静脈分岐は破格が多く,岬角前面を腸骨静脈が走行する症例や,L5/S1椎間板が変性した症例,腰椎すべり症術後仙骨前面にボルト貫通症例,動脈瘤,後腹膜繊維症が岬角を被う症例などがあるため,骨盤MRIによる術前チェックが必要である.

・LSCの相対的適応症例は性活動のある症例や高度の子宮脱症例,高度直腸脱合併症例などで,絶対的適応症例は開脚不全症例である.

〈女性性機能障害〉

女性性機能障害への対応のコツ

著者: 尾崎由美 ,   田中祝江 ,   永尾光一

ページ範囲:P.154 - P.156

▶ポイント

・日本人女性のFSD有病率は高く,特に性的関心・興奮障害が多い.性機能外来ではワギニスムス,性嫌悪を主訴に受診する症例が多い.

・FSDは多因子が関連して生じる.心理社会的背景やパートナーとの関係性も念頭に置く必要がある.

・質問票FSFIを用いた問診,内診を含めた身体所見,血液検査の結果を総合的に判断して治療を行う.

症例

高位精巣摘除後外腸骨リンパ節転移が疑われたセルトリ細胞腫

著者: 福田哲央 ,   田部井正 ,   津浦幸夫 ,   小林一樹

ページ範囲:P.157 - P.161

 22歳男性.主訴は右陰囊内の無痛性硬結.造影CTおよびMRIで15mm大の右精巣腫瘍と診断.右高位精巣摘除術を施行.病理組織学的に精巣セルトリ細胞腫と診断された.術後13か月後のFDG-PET/CTで,右外腸骨リンパ節の腫脹を認めた.右外腸骨領域リンパ節郭清術を施行し,病理組織学的には悪性所見は認められなかった.患者はリンパ節郭清術後20か月現在,無病生存中である.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.81 - P.81

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.165 - P.165

編集後記 フリーアクセス

著者: 近藤幸尋

ページ範囲:P.166 - P.166

 先生方は,「おマメ」という言葉をご存知でしょうか.小職が小学校時代の外でドッジボールなどをしていた際によく使われていた言葉です.小職には5つ年上の姉がおり,小さい頃によく姉の友人と遊ぶことが多かったのですが,その際に,全体からは小さな子なので「おマメ」として参加させてもらっていました.例えば缶蹴りの際には,一緒に参加し隠れてから鬼の缶を蹴るように動くわけですが,「おマメ」は捕まっても鬼になることはなく,缶を蹴っても有効にならず,ただ単に隠れることで参加させてもらっているようなものでした.このようにその場の雰囲気を味わうだけが「おマメ」なのです.

 最近の大学の教育プログラムでは,クリニカルクラークシップと称して臨床参加型の教育を行う目的で,第4学年の学生がベッドサイドに回って来ます.小職の時代は「先輩の背中を見て学べ」の姿勢でしたので,IVHカテーテルの穿刺の手技などを「こんなふうに見えない血管を穿刺するんだ」と,それなりに臨床の雰囲気を味わって満足していたように思います.穿刺する先生の説明も決して客観的な説明でなく,いわゆる職人が針先の感覚で内頸静脈や鎖骨下静脈を穿刺するのを見て,わけもわからずノートをとっていたものでした.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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