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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科74巻4号

2020年04月発行

雑誌目次

増刊号特集 泌尿器科診療の最新スタンダード―平成の常識は令和の非常識

企画にあたって フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.7 - P.7

 最近の医療の進歩には目まぐるしいものがあり,泌尿器科学も例外ではありません.その進歩をわかりやすくお伝えするのが,「臨床泌尿器科」誌の役目と考えております.かつて習った常識が現在では通じないことが多々あります.本特集で泌尿器科学全体を見渡してみましょう.まずは,次の5つの泌尿器癌の「常識」を見てみましょう.
①腎細胞癌の乳頭型はタイプ1と2に分けられる.
②低異型度の尿路上皮癌は高異型度を経て浸潤性尿路上皮癌になる.
③精巣胚細胞腫瘍はセミノーマと非セミノーマに分類する.
④陰茎癌は扁平上皮癌であり,通常型と7つの亜型に分類する.
⑤後腹膜肉腫の一次治療の化学療法はドキソルビシンが中心であり,二次治療で有効な薬剤に乏しい.

腫瘍 部位別

腎細胞癌:病理診断

著者: 三上修治 ,   新井恵吏 ,   金井弥栄

ページ範囲:P.10 - P.15

以前の常識

・腎細胞癌の組織学的異型度はFuhrman分類に基づいて分類していた.

・低異型度の長径5mm以下の乳頭状〜管状構造を呈する腎腫瘍は乳頭腺腫,長径5mmを超える乳頭状〜管状構造を呈する腎腫瘍は乳頭状腎細胞癌と診断していた.

・囊胞性腎腫瘍では,多房囊胞性腎細胞癌,囊胞性腎腫,混合上皮間質性腫瘍(MEST)などの鑑別が必須であった.

現在の常識

・淡明細胞型腎細胞癌,乳頭状腎細胞癌の組織学的異型度はWHO/ISUP分類に基づいて分類する.

・低異型度の長径15mm以下の乳頭状〜管状構造を呈する腎腫瘍は乳頭状腺腫であり,長径15mmを超える乳頭状〜管状構造を呈する腎腫瘍では,乳頭状腎細胞癌,粘液管状紡錘細胞癌,MiTファミリー転座型腎細胞癌,hereditary leiomyomatosis renal cell carcinoma(HLRCC)随伴腎細胞癌,集合管癌などの鑑別が重要である.

・囊胞性腎腫瘍では,低悪性度多房囊胞性腎腫瘍,MESTファミリー(成人型囊胞性腎腫,MEST)などの鑑別が必須である.

腎細胞癌:手術治療

著者: 高木敏男

ページ範囲:P.16 - P.20

以前の常識

・小径腎腫瘍に対しては,開腹ないし腹腔鏡下腎部分切除術を行うのが一般的であった.

・転移を有する腎細胞癌に対して,腫瘍量減量を目的とする腎摘除術(CN)が積極的に行われていた.

現在の常識

・小径腎腫瘍に対しては,主にロボット支援腎部分切除術を行う.

・転移を有する腎細胞癌に対して,全身治療の有用性が認められている.

腎細胞癌:薬物治療

著者: 城武卓 ,   金尾健人

ページ範囲:P.21 - P.25

以前の常識

・転移性腎細胞癌に対する薬物治療戦略は,主にMemorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)リスク分類に基づいていた.

・進行性・転移性腎細胞癌に対する薬物治療の主役は,サイトカイン療法から分子標的治療薬に変わった.

現在の常識

・転移性腎細胞癌に対する薬物治療戦略は,主にInternational Metastatic Renal Cell Carcinoma Database Consortium(IMDC)リスク分類に基づく.

・進行性・転移性腎細胞癌に対する薬物治療の主役に,免疫チェックポイント阻害薬が加わっている.

腎盂尿管癌

著者: 榎田英樹 ,   中川昌之

ページ範囲:P.26 - P.29

以前の常識

・プラチナ製剤による一次化学療法後の再発または転移性腎盂尿管癌では,確立された二次化学療法はなかった.

・硬性・軟性腎盂尿管鏡は洗浄・滅菌し,何度も再使用するものであった.

現在の常識

・プラチナ製剤による一次化学療法後の再発または進行した腎盂尿管癌では,ペンブロリズマブが推奨されている.

・単回使用の使い捨てビデオ軟性腎盂尿管鏡が登場し,選択肢が増えている.

後腹膜腫瘍:薬物治療

著者: 浦崎哲也

ページ範囲:P.30 - P.35

以前の常識

・治療の第一選択は外科的切除であった.

・放射線治療や抗がん剤治療の効果は限定的であった.

現在の常識

・外科的切除+放射線治療+抗がん剤治療の集学的治療が主流となっている.

・抗がん剤治療で使用できる薬剤の種類が増え,各ケースに合わせて治療薬を選択するようになっている.

膀胱癌:病理診断

著者: 都築豊徳

ページ範囲:P.36 - P.39

以前の常識

・尿路上皮癌の亜型分類は病理医の単なる趣味の問題で,化学療法の奏効性の予測能は全くなかった.

・非浸潤性乳頭状低異型度尿路上皮癌(低異型度)は,非浸潤性乳頭状高異型度尿路上皮癌(高異型度)を経て,浸潤性尿路上皮癌に進行すると考えられていた.

現在の常識

・尿路上皮癌の亜型の有無は化学療法および免疫チェックポイント阻害薬奏効性を予測する重要な分類である.

・ほとんどの低異型度は再発を繰り返すのみで,生命予後に関係する高異型度や浸潤性尿路上皮癌に進行しない.

膀胱癌:手術治療(TURBTの意義と方法)

著者: 藤本清秀

ページ範囲:P.40 - P.44

以前の常識

・従来の白色光膀胱鏡を用いた経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)では平坦病変や微小病変を見落としやすく,筋層非浸潤性膀胱癌(NMIBC)では高い術後再発率を示した.そのため,術後再発予防治療としてリスク分類に応じた膀胱内注入療法を行うことが推奨されていた.

・T1 high grade腫瘍や広汎な多発腫瘍では,不完全切除に終わったり,筋層浸潤を評価できなかったりすることが多く,術後4〜6週で2nd TURを行うことが強く推奨されていた.

・従来のTURBTでは切除した組織に熱変性が加わり,切除片は断片化しているため,正確な病理学的深達度診断が得られない場合があった.

現在の常識

・光力学診断(PDD)や狭帯域光観察(NBI)など分光画像処理技術を用いたTURBTの術中補助診断は,上皮内癌(CIS)や微小腫瘍の検出を向上させ,より確実な切除が可能となり,術後再発率を低下させる.さらに,適切なリスク分類に応じた膀胱全摘除術や膀胱内注入療法が選択可能となっている.

・T1 high grade腫瘍の主腫瘍周囲には高率に娘腫瘍が存在するため,初回TURBTにおいて広いマージンと確実な筋層の切除を行えば,必ずしもすべてのT1 high grade腫瘍に2nd TURは必要ではない.

・TURBO(経尿道的膀胱腫瘍一塊切除術)は病理学的深達度診断が正確であり,さらに腫瘍細胞の腔内播種のリスクも軽減する可能性がある.

膀胱癌:手術治療(膀胱全摘除術)

著者: 畠山真吾 ,   米山高弘 ,   大山力

ページ範囲:P.45 - P.48

以前の常識

・根治的膀胱全摘除術は開腹手術で行い,出血量は1000〜2000mLが通常であった.

・尿路変向も開腹手術で行うのが通常であった.

現在の常識

・根治的膀胱全摘除術は腹腔鏡下ロボット支援手術で行い,膀胱全摘除術単独の出血量は100mL程度に抑えることができる.

・尿路変向も腹腔鏡下ロボット支援手術で行い,回腸導管や新膀胱造設も行えるようになっている.

膀胱癌:薬物治療

著者: 松本洋明 ,   松山豪泰

ページ範囲:P.49 - P.53

以前の常識

・筋層非浸潤性膀胱癌(NMIBC)に対する薬物治療選択は低リスク群,中リスク群,高リスク群の3つのリスク分類に基づいていた.

・進行性・転移性膀胱癌に対する薬物治療選択において,抗がん剤による化学療法(M-VAC療法またはGC療法)は一次治療しか標準治療の推奨がなかった.

現在の常識

・NMIBCに対する薬物治療選択はBCG unresponsiveの概念を取り入れ,高リスク群のなかにさらに超高リスク群のサブカテゴリーが追加されたリスク分類に基づく.

・進行性・転移性膀胱癌に対する薬物治療選択に,一次治療として腎機能障害に対する推奨,二次治療として免疫チェックポイント阻害薬が加わっている.

前立腺癌:病理診断(Gleason分類)

著者: 佐藤峻 ,   鷹橋浩幸

ページ範囲:P.54 - P.57

以前の常識

・Gleason分類は,国際泌尿器病理学会(ISUP)の2005年コンセンサス会議での決定(ISUP 2005)に基づいた.

・篩状腺管のうち,辺縁平滑な小型篩状腺管のみGleasonパターン3に分類し,その他の篩状腺管はすべてGleasonパターン4に分類していた.

現在の常識

・Gleason分類は,ISUPの2014年コンセンサス会議での決定(ISUP 2014)に基づく.

・小型のものを含むすべての篩状腺管と糸球体様(glomeruloid)構造はGleasonパターン4に分類する.

・前立腺導管内癌(IDC-P)の存在は,生検,前立腺全摘検体のいずれにおいても明白な予後不良因子である.

前立腺癌:生検

著者: 小路直 ,   花田いずみ ,   宮嶋哲

ページ範囲:P.58 - P.61

以前の常識

・前立腺生検は,8〜12か所の系統的生検が一般的であった.

・MRIによる前立腺癌検出の可能性が注目され始めた.

現在の常識

・multi-parametric MRI(mpMRI)の前立腺significant cancer検出における有用性が報告され,広く実施されるようになっている.

・MRIに基づく生検として,MRI-TRUS融合画像ガイド下標的生検の有用性が報告され,普及しつつある.

前立腺癌:手術治療(前立腺全摘除術)

著者: 雑賀隆史

ページ範囲:P.62 - P.64

以前の常識

・根治的前立腺全摘除術のスタンダードは,下腹部正中切開による開腹手術と一部のエキスパートによる腹腔鏡下前立腺全摘除術であった.

・根治的前立腺全摘除術では時に輸血を必要とする出血があり,自己血貯血などの対応を要する症例があった.

・性機能温存や尿禁制保持に課題があり,ほかの治療法との選択における大きな要素になっていた.

現在の常識

・根治的前立腺全摘除の主体はロボット支援手術である.

・前立腺全摘除に伴う出血量はきわめて少なく,輸血を必要とすることはごくまれである.

・ロボット支援手術により,尿禁制保持の向上や積極的に性機能温存手術が行われるようになっている.

前立腺癌:放射線治療

著者: 大西洋

ページ範囲:P.66 - P.69

以前の常識

・現場での根治的治療の第一選択はほぼ手術であった.

・強度変調放射線治療(IMRT)は保険収載されたばかりで,三次元原体照射で総線量は70Gy/35分割程度が一般的であった.

・高リスク群ではリンパ節の予防照射が一般的であった.

現在の常識

・手術と放射線治療は同等の根治的治療と広く理解されている.

・IMRTで72〜78Gy/36〜39分割程度が標準的に実施されている.

・予防的リンパ節照射はほとんど行われていない.

前立腺癌:密封小線源治療(LDR)

著者: 門間哲雄

ページ範囲:P.70 - P.72

以前の常識

・高リスク(cT3a)は密封小線源治療(LDR)の適応外であった.

・大きな前立腺(40mL以上)のLDRには,治療前ホルモン療法(NHT)による体積縮小が必要であった.

現在の常識

・高リスク症例はTri-Modality LDRが有効である.

・前立腺が比較的大きくてもNHTなしに治療が可能である.

転移性ホルモン感受性前立腺癌

著者: 宮澤慶行 ,   関根芳岳 ,   新井誠二 ,   鈴木和浩

ページ範囲:P.73 - P.76

以前の常識

・本邦では転移性ホルモン感受性前立腺癌(mHSPC)に対しての全身治療導入はアンドロゲン除去療法(ADT)単独もしくは非ステロイド性抗アンドロゲン剤(ビカルタミドなど)を併用したCAB療法が主流であった.

現在の常識

・2015年以降に発表された複数の臨床試験結果から,mHSPC症例の転移腫瘍量,病理学的悪性度などをリスク因子として層別化を行い,治療方針を検討することでADTに追加治療が有効な患者群,不要な患者群を見出すことができる可能性が示されている.

去勢抵抗性前立腺癌:M0 CRPC

著者: 上村博司

ページ範囲:P.77 - P.80

以前の常識

・転移のない局所性前立腺進行癌に対するホルモン療法中(アンドロゲン除去療法),PSA再発した症例がM0 CRPCであるが,これに対して適時的なPSAレベルでの画像診断を行っていない場合が多くあり,M0 CRPCの診断があいまいであった.

・ホルモン療法中のPSA上昇にアンドロゲン除去療法やフルタミド投与,ドセタキセル投与が行われていた.

現在の常識

・M0 CRPCのホルモン療法中におけるPSA倍加時間が重要で,10か月以下になると骨転移などが出現するリスクが高まり,高リスクと分類されている.

・高リスクM0 CRPCに対して,アパルタミドやエンザルタミドが転移出現までの期間を有意に延長するエビデンスが発表され,使用されるようになっている.

去勢抵抗性前立腺癌:M1 CRPC

著者: 井川掌

ページ範囲:P.81 - P.85

以前の常識

・診断の際には去勢状態の確認と画像評価に加えて,抗アンドロゲン除去症候群(AWS)の有無を確認する必要があった.

・抗アンドロゲン交替療法やエストロゲン製剤,副腎皮質ステロイド,そしてドセタキセルが治療の中心であった.

・骨転移や骨関連事象に対して,主にゾレドロン酸やストロンチウム89が使用されていた.

現在の常識

・AWSの確認は必須ではなくなり,画像診断に加え転移巣組織生検や遺伝子異常診断の重要性が指摘され始めている.

・アビラテロン,エンザルタミドなどの新世代アンドロゲン受容体標的薬群とドセタキセル,カバジタキセルの化学療法薬群が治療の中心である.

・骨転移に対しては,デノスマブやラジウム223による治療が中心である.

精巣腫瘍:病理診断

著者: 宮居弘輔 ,   森永正二郎

ページ範囲:P.86 - P.89

以前の常識

・精巣胚細胞腫瘍は,組織像のみによってセミノーマ・非セミノーマの単一型と,それらが混在する混合型にシンプルに分類されていた.

・精巣腫瘍の組織学的治療効果判定基準は,残存悪性腫瘍細胞の量的割合に基づくグレード分類であった.

現在の常識

・胚細胞腫瘍の組織発生の違いを考慮し,例えば卵黄囊腫瘍・奇形腫は類似の組織像でもGCNIS由来腫瘍とGCNIS非関連腫瘍に分割されている.

・治療に反応しない奇形腫や,体細胞型悪性腫瘍の出現といった精巣腫瘍特有の状況を考慮し,残存組織成分の存在・種類に基づくカテゴリー分類になっている.

精巣腫瘍:薬物治療

著者: 新田聡 ,   小島崇宏

ページ範囲:P.90 - P.92

以前の常識

・転移を有する精巣腫瘍に対する救済化学療法として,ゲムシタビン+オキサリプラチン併用療法(GEMOX療法)は保険未承認であった.

現在の常識

・転移を有する精巣腫瘍に対する救済化学療法として,GEMOX療法の適応外使用が2015年2月に保険承認された.

陰茎癌

著者: 山口隆大 ,   神波大己

ページ範囲:P.93 - P.97

以前の常識

・病理分類は扁平上皮癌(通常型と7つの亜型)であった.

・TNM分類で尿道浸潤の有無が重視されていた.

・2cmの外科的切除縁がとられていた.

現在の常識

・病理分類で扁平上皮癌がHPV関連,HPV非関連(全15亜型)に細分化されている.

・TNM分類で尿道海綿体,陰茎海綿体浸潤が重視されている.

・2cmの外科的切除縁は不要とされている(ただし,明確な幅は示されていない).

化学療法・緩和ケア

支持療法

著者: 齋藤一隆

ページ範囲:P.98 - P.100

以前の常識

・抗がん化学療法後の好中球減少症に対し,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤を使用するが,予防投薬法は確立していなかった.

・化学療法時の悪心・嘔吐に対する制吐療法として,セロトニン5-HT3受容体拮抗薬やステロイド剤が使用されていた.

・泌尿器癌に対しては,細胞障害性抗がん剤や分子標的治療薬(腎細胞癌)が使用されていた.

現在の常識

・PEG化したG-CSF製剤が開発され,抗がん化学療法時の発熱性好中球減少に対する予防投与が行われている.

・制吐療法剤に,選択的NK1受容体拮抗薬が加わり,セロトニン5HT3受容体拮抗薬,ステロイド剤などと併用されている.

・抗がん薬物療法の主役に免疫チェックポイント阻害薬が加わり,さらに副作用が多様化している.

腫瘍崩壊症候群

著者: 高橋俊二

ページ範囲:P.101 - P.104

以前の常識

・腫瘍崩壊症候群(TLS)に関するガイドライン,標準治療はなかった.

・予防として,ハイドレーション,アロプリノール,尿のアルカリ化が推奨されていた.治療薬はアロプリノールしかなかった.

現在の常識

・TLSに関するガイドライン・ガイダンスが出版され,リスク別の予防・治療方針が推奨されている.

・予防として,ハイドレーション,アロプリノールまたはフェブキソスタットが推奨されているが,尿のアルカリ化は推奨されていない.高リスクでの予防薬・治療薬として,ラスブリカーゼが推奨されている.

緩和ケア

著者: 三浦剛史

ページ範囲:P.105 - P.107

以前の常識

・緩和ケアの提供は治療終了後が通常であった.緩和医療に関する診療報酬の適応は悪性腫瘍,後天性免疫不全症候群のみであった.

・アドバンスケアプランニングの概念はなく,「もしもの時」に備えることなく終末期を迎えていた.

・疼痛治療においてはオピオイド製剤も限られていた.上部尿路閉塞への対策として従来の尿管ステントが留置されてきた.

現在の常識

・現在は緩和ケアの導入は早期から求められている.がん,後天性免疫不全症候群のみでなく,末期心不全にも保険適用が拡大され,今後そのほかの良性疾患にも広がると考えられる.

・アドバンスケアプランニングが積極的に推進され,厚生労働省による「人生会議」が提唱されている.

・オピオイド製剤や鎮痛補助薬の相次ぐ発売やそのほかの治療薬も進歩がみられる.2014年より金属製のステントが保険適用となり,悪性腫瘍に伴う尿路閉塞のへの対策に使用できるようになっている.

尿路・性器の感染症

急性腎盂腎炎

著者: 梁英敏 ,   重村克巳 ,   藤澤正人

ページ範囲:P.110 - P.113

以前の常識

・ESBL産生菌やキノロン耐性菌の報告はなく(もしくは少なく),院内感染についての意識もまだまだ低かった.

・原因菌のバリエーションは比較的少なく,empirical therapyが奏効するケースが多かった.尿培養のみで原因菌を判断するケースも多く,発熱時の血液培養の採取は必ずしもルーチンではなかった.

・ドレナージによる感染コントロールの意識が低く,内科医による泌尿器科コンサルトが初期抗菌薬無効を確認してから行われたため,重症化するケースが散見された.

現在の常識

・ESBL産生菌やキノロン耐性菌の急速な増加により,院内感染予防策の実施およびESBL産生菌,キノロン耐性菌を想定した初期抗菌薬の設定も重要視されている.

・原因菌の複雑化が進行し,血液培養のみならず腎盂尿など局所の尿培養の結果も組み合わせ,複数の抗菌薬の使用も想定した柔軟な治療が要求されている.

・感染初期のドレナージが治療計画全体に大きな影響を与えることが周知され,泌尿器科コンサルトへのハードルが大きく下がっている.

急性単純性膀胱炎

著者: 上原慎也

ページ範囲:P.114 - P.117

以前の常識

・急性単純性膀胱炎の治療薬選択は,年齢にかかわらず,キノロン系が第一選択であった.

・急性単純性膀胱炎の治療における薬剤耐性の多くはキノロン系抗菌薬に対するものであった.

現在の常識

・急性単純性膀胱炎の抗菌薬選択においては,閉経前か後か,推定起炎菌がグラム陽性菌か陰性菌かで分けて考える.

・急性単純性膀胱炎の治療における耐性菌として,キノロン耐性菌に加えて基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌を考慮する必要がある.

尿路性器結核

著者: 髙橋聡

ページ範囲:P.118 - P.120

以前の常識

・新登録結核患者数の減少に伴い,尿路性器結核を含めた肺外結核患者届出数も減少している.

・肺外結核である尿路性器結核での結核菌群の検出は,塗沫検査,培養検査,PCR法による検査であった.

現在の常識

・新登録結核患者数のさらなる減少に伴い,尿路性器結核を含めた肺外結核患者届出数も減少している.

・肺外結核である尿路性器結核での結核菌群の検出は,塗沫検査,培養検査,迅速診断機器を用いた核酸増幅法による検査で行う.

前立腺炎

著者: 市原浩司

ページ範囲:P.122 - P.127

以前の常識

・前立腺炎はアメリカ国立衛生研究所(NIH)が提唱する分類法により4つのカテゴリに分けられていた.

・カテゴリⅢの慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)は多要因な症状症候群であり,単一病因を治療標的としても効果不十分であった.

・CP/CPPSの症状定量化と治療効果判定にはNIH-CPSIが有用であった.

現在の常識

・カテゴリⅢのCP/CPPSはPPSと同義とされ,CPPSは臓器特有症状の有無で泌尿器科領域以外を含めた分類,診断,治療の概念が導入されている.

・CPPSの主要症状はUPOINTS分類で整理し,陽性要素別に標的治療を行うと治療効果が高まる.

フルニエ壊疽

著者: 西田岳史 ,   山川一馬 ,   高尾徹也

ページ範囲:P.128 - P.131

以前の常識

・デブリードマン後の創部は連日洗浄し,浸出液が多ければ頻回にガーゼ交換を行っていた.

・便や尿による二次汚染を予防するために,人工肛門や膀胱瘻などを造設していた.

現在の常識

・デブリードマン後の創部は感染所見に応じて適宜デブリードマンと洗浄処置を行いつつ,局所陰圧閉鎖療法(NPWT)管理を併用する.

・NPWTによって創部の二次汚染を予防できれば,人工肛門や膀胱瘻などの造設を回避できる場合がある.

尿道炎

著者: 山本新吾 ,   東郷容和 ,   長澤誠司

ページ範囲:P.132 - P.135

以前の常識

・淋菌性尿道炎に対して,注射薬セフトリアキソン,セフォジジム,スペクチノマイシンが推奨され,経口薬としてはセフィキシムもある程度効果が認められた.ガイドラインで推奨されてはいないが,アジスロマイシン単回投与も有効であると考えられていた.

・非淋菌性尿道炎の原因微生物として,クラミジアやMycoplasma genitaliumがあるが,いずれもマクロライド系抗菌薬で治療できるとされていた.

現在の常識

・淋菌性尿道炎には咽頭感染も考慮しセフトリアキソン静注薬を第一選択薬とする.アジスロマイシンは,ほかの推奨薬に対するアレルギーがある場合には使用を考慮してもよい.

・非淋菌性尿道炎の原因微生物として,クラミジアの薬剤耐性は問題とはなっていないが,Mycoplasma genitaliumの薬剤耐性が深刻な問題となっている.

腎機能障害

慢性腎臓病(CKD)

著者: 田中健一 ,   風間順一郎

ページ範囲:P.138 - P.141

以前の常識

・糖尿病性腎症は高血糖状態の持続によって生じる糖尿病合併症の1つで,ほかの微小血管合併症とともにアルブミン尿を伴って腎機能が低下するという考えが一般的であった.

・SGLT2阻害薬は腎機能が低下した慢性腎臓病(CKD)では効果が期待できず,腎機能が保持された一部の患者における補助的な血糖降下薬であった.

現在の常識

・高血糖以外の要因により,アルブミン尿を伴わずに腎機能が悪化する糖尿病患者が増加していることから,より包括化した糖尿病性腎臓病(DKD)の概念が提唱された.

・糖尿病患者における治療薬として,腎保護など臓器保護の観点からはSGLT2阻害薬が中心的薬剤となった.

腎移植(レシピエント)

著者: 齋藤満

ページ範囲:P.142 - P.145

以前の常識

・腎移植前の免疫学的リスクは主にcomplement dependent cytotoxicity(CDC)で判定されていた.

・ABO血液型不適合やドナー特異的抗HLA抗体陽性などの免疫学的ハイリスク腎移植では脱感作療法の一部として脾摘が施行されていた.

現在の常識

・抗体検出検査としてフローサイトメーターやLuminexを用いた検査が行われるようになり,免疫学的リスク判定がより高感度に,かつ精密にできるようになっている.

・ABO血液型不適合腎移植でリツキシマブが保険適用になり,免疫学的リスクが高い症例でも脾摘をせずに腎移植が行われている.

腎移植(ドナー)

著者: 齋藤満

ページ範囲:P.146 - P.149

以前の常識

・生体腎移植ドナーの術前評価は,腎機能が良好で活動性感染症がなく,悪性腫瘍がないまたは根治している状態であれば,ドナーとして問題がないとされていた.

現在の常識

・2014年5月に日本移植学会,日本臨床腎移植学会から「生体腎移植のドナーガイドライン」が提唱され,これに基づく術前評価が行われるようになり,術後のフォローもより厳格に行われるようになっている.

後腹膜線維症(IgG4関連を含む)

著者: 安藤亮介

ページ範囲:P.150 - P.153

以前の常識

・後腹膜線維症の約70%は,特発性後腹膜線維症と診断されていた.

・特発性後腹膜線維症の病因として,腹部大動脈の動脈硬化性プラークに対する局所的な炎症反応が推察されていた.

現在の常識

・これまで特発性後腹膜線維症と診断されていた症例の約半数に,IgG4関連疾患が含まれている.

・後腹膜線維症の診断を進める際には,IgG4関連疾患を疑い他臓器病変の検索が必要である.

・IgG4関連疾患の病因は明らかでないが,自然免疫や獲得免疫の異常などが示唆されている.

結石

尿路結石症:腎結石

著者: 諸角誠人 ,   香川誠 ,   岡田洋平

ページ範囲:P.156 - P.157

以前の常識

・20mmを超える腎結石治療は,経皮的腎砕石術(PNL)単独,あるいはPNLと体外衝撃波(ESWL)との併用で行った.

・経尿道的腎砕石術(URS : RIRS)は,20mm未満の腎結石で適応があるとされていた.

現在の常識

・20mmを超える腎結石でも,経尿道的アプローチのRIRSが適応となる.

・大きなサンゴ状結石は,RIRSとPNLとの併用手術ECIRSが主流となっている.

尿路結石症:尿管結石

著者: 諸角誠人 ,   竹下英毅 ,   矢野晶大

ページ範囲:P.158 - P.160

以前の常識

・尿管結石の結石排石促進療法(MET)におけるα阻害薬のエビデンスレベルはⅠとされていた.

・カルシウムチャンネル阻害薬も尿管結石排石治療に有効と考えられていた.

現在の常識

・尿管結石排石治療に対するα阻害薬の適応は限定的である.

・下部尿管,特に膀胱近接部にあり5〜10mm程度の比較的大きな尿管結石に対して,α阻害薬は有効である.

・METは小さな結石では効果が少ない.

下部尿路機能障害

夜間頻尿

著者: 橘田岳也 ,   千葉博基 ,   篠原信雄

ページ範囲:P.162 - P.165

以前の常識

・夜間頻尿はQOLを低下させる疾患である.

・過活動膀胱,前立腺肥大症に伴う夜間頻尿に使用できる薬剤,エビデンスは限られていた.

・夜間頻尿と生活習慣(食生活)との関連を示すエビデンスは少なかった.

現在の常識

・夜間頻尿はQOL疾患であることに加え,全身疾患の原因となり,将来の死亡率とも関連する.

・夜間多尿による夜間頻尿(男性)へのデスモプレシンが使用可能となった.

・食塩の過剰摂取は夜間頻尿を来すリスクであり,減塩が夜間頻尿の治療オプションとなる可能性がある.

過活動膀胱(OAB)

著者: 関戸哲利

ページ範囲:P.166 - P.169

以前の常識

・過活動膀胱(OAB)に対する薬物療法の第一選択は抗コリン薬であった.

・難治性OABという概念は未確立であった.

現在の常識

・OABに対する薬物療法の第一選択はβ3受容体作動薬にシフトしている.

・難治性OABという概念が定着し,仙骨神経刺激療法やA型ボツリヌス毒素排尿筋内注入手術などの有効性・安全性が報告されている.

低活動膀胱(UAB)

著者: 関戸哲利

ページ範囲:P.170 - P.172

以前の常識

・低活動膀胱(UAB)はほとんど注目されていなかった.

現在の常識

・UABへの関心が高まり国際禁制学会が症状症候群としての定義を発表した.

・UABに対するいくつかの第Ⅱ相試験が進行中である.

間質性膀胱炎

著者: 岩城拓弥 ,   新美文彩

ページ範囲:P.173 - P.176

以前の常識

・間質性膀胱炎はハンナ病変があるものをハンナ型間質性膀胱炎(HIC),ハンナ病変はないが膀胱拡張後の点状出血がみられるものを非ハンナ型間質性膀胱炎(NHIC)と分類されていた.

・頻尿・尿意亢進・膀胱痛などの症状があるにもかかわらず,ハンナ病変も点状出血も認めないものは過知覚膀胱(HSB)と呼ばれていた.

・膀胱水圧拡張術が主な治療方法であった.

現在の常識

・従来の間質性膀胱炎様の症状を呈するものの総称を,間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(IC/BPS)と分類している.

・IC/BPSのうちハンナ病変のあるものをHIC,それ以外をBPSとし,2つを明確に分ける必要がある.

・HICは組織学的,遺伝学的にも炎症性疾患といえるが,それ以外のBPSには炎症所見は認められず,2つは別の病態であることがわかり始めている.

・ハンナ病変を有する場合は水圧拡張術は効果が低いないしはほとんどなく,ハンナ病変の切除や焼灼が著効する.

外傷に伴う尿道狭窄症

著者: 新地祐介 ,   堀口明男

ページ範囲:P.177 - P.180

以前の常識

・尿道外傷の急性期に尿道カテーテルを留置すると,続発する尿道狭窄症が軽症化して待機的治療が容易になると考えられていた.

・尿道狭窄症には内尿道切開術や尿道ブジーなどの経尿道的治療が第一選択で,再狭窄した場合には経尿道的治療を繰り返し行うことが普通であった.

現在の常識

・急性期の尿道カテーテル留置は損傷した尿道にさらなるダメージを与え,続発する尿道狭窄症を複雑化させるリスクが高い.尿道操作はせずに膀胱瘻造設を選択することが望ましい.

・ごく軽症例を除き,尿道狭窄症に対する最も治癒率の高い治療法は開放手術による尿道形成術である.

前立腺肥大症:手術治療

著者: 野村博之

ページ範囲:P.181 - P.183

以前の常識

・前立腺肥大症の手術治療の主流は,切除術,核出術であった.

・蒸散術は自由診療であり,4施設での提供に限定されていた.

・経口抗血栓薬はヘパリンナトリウム置換を行い執刀する必要があった.

現在の常識

・前立腺肥大症の手術治療の主流は,切除術,核出術に蒸散術が加わった.

・蒸散術は保険診療となり,蒸散を行うためのレーザーが次々と上市されている.

・蒸散術では,経口抗血栓薬は継続したままで執刀が可能となっている.

前立腺肥大症:薬物治療

著者: 大塚篤史 ,   三宅秀明

ページ範囲:P.184 - P.187

以前の常識

・全般重症度判定が軽症から中等症の患者が薬物治療の適応となっていた.

・α1遮断薬(タムスロシン,ナフトピジル)と抗男性ホルモン薬(クロルマジノン,アリルエストレノール)が薬物治療の主体であった.

・作用機序や有効性が解明されていないにもかかわらず,植物エキス製剤,アミノ酸製剤,漢方薬などが多用されていた.

現在の常識

・新規前立腺肥大症治療薬として,α1遮断薬(シロドシン),PDE5阻害薬(タダラフィル),5α還元酵素阻害薬(デュタステリド)が使用可能である.

・前立腺体積が30mL以上の患者に対しては,α1遮断薬と5α還元酵素阻害薬の併用療法が望ましい.

・前立腺肥大症/過活動膀胱に対しては,α1遮断薬単独よりもα遮断薬と抗コリン薬(ないしβ3作動薬)を併用するほうが治療効果に優れているが,尿閉の出現に十分注意する必要がある.

内分泌疾患

原発性アルドステロン症

著者: 酒井英樹

ページ範囲:P.190 - P.193

以前の常識

・スクリーニング検査の対象は高血圧症例全例であり,血漿レニン活性(PRA)と血漿アルドステロン濃度(PAC)を同時に測定し,PAC/PRA比(ARR)>200をカットオフ値としていた.

・スクリーニング検査陽性の場合,3つの機能確認検査(カプトプリル試験,フロセミド立位試験,生理食塩水負荷試験)のうち2種類以上を行い,確定診断を行っていた.

・副腎静脈サンプリング(AVS)によるアルドステロン産生腺腫局在診断の指標として,ACTH負荷後の副腎静脈PAC>1万4000pg/mL,lateralized ratio(LR)≧2.6またはcontralateral ratio(CR)<1が推奨されていた.

現在の常識

・スクリーニング検査の対象は,原発性アルドステロン症が高頻度にみられる高血圧患者であり,ARR>200+PAC>120pg/mLの組み合わせによるスクリーニングが推奨されている.

・スクリーニング検査陽性の場合,4つの機能確認検査(カプトプリル試験,フロセミド立位試験,生理食塩水負荷試験,経口食塩負荷試験)のうち,少なくとも1種類の陽性を確認することが推奨されている.

・AVSによる局在診断においては,LR>4かつCR<1をカットオフ値として手術適応を決定することが推奨されている.

LOH症候群

著者: 木内寛 ,   福原慎一郎 ,   野々村祝夫

ページ範囲:P.194 - P.196

以前の常識(JUAガイドライン2007)

・前立腺癌がある場合,テストステロン補充療法は禁忌である.

・テストステロンの測定の時間,回数の記載がない.

現在の常識(AUA・EAUガイドライン2018)

・テストステロン補充療法と前立腺癌進展を関連させるエビデンスは不足している.

・テストステロンの測定は朝に少なくとも2回行う.

性機能障害

勃起障害

著者: 中島耕一

ページ範囲:P.198 - P.200

以前の常識

・PDE5阻害薬の血管内皮への賦活作用が注目され,勃起障害(ED)は“erectile dysfunction”だけではなく“endothelial dysfunction”と認識されるようになった.

・注射用プロスタンディン20(PGE1)の効能・効果に「勃起障害の診断」が追加された.

現在の常識

・EDのリスクファクターとして,脂質異常症は取り上げられなくなっている.

射精障害

著者: 中島耕一

ページ範囲:P.201 - P.202

以前の常識

・射精障害のタイプにかかわらず,行動療法が主体の治療方針であった.

現在の常識

・逆行性射精に対して,アモキサピンが保険診療で処方可能となっている.

・早漏に対して,シロドシン療法の有効性と安全性に関する知見が集積されてきている.

精索静脈瘤

著者: 辻村晃

ページ範囲:P.203 - P.205

以前の常識

・内精静脈の結紮切断に関する術式は,開放手術による高位結紮術,腹腔鏡下高位結紮術,低位結紮術,経皮的塞栓術など施設により異なった.

・下低位結紮術でも,手術用顕微鏡を用いる加算が認められていなかったため,直視下で施行されることも多かった.

・無精子症を合併した場合は,精索静脈瘤の治療はさほど推奨されていなかった.

現在の常識

・術式は,最も良好な成績が期待される顕微鏡下低位結紮術に,ほぼ統一されつつある.

・2018(平成30)年,診療報酬点数改定により顕微鏡下精索静脈瘤手術(K834-3)が12500点と保険収載された.

・精索静脈瘤に対する外科的治療後に無精子症が改善したとする報告が多数認められ,まず試される治療となっている.

男性不妊症

著者: 辻村晃

ページ範囲:P.206 - P.208

以前の常識

・不妊症は女性側の問題が大多数を占め,男性側の因子を検討する意義は低いとされていた.

・精液所見を含めた男性不妊症を評価する医療機関が少なかった.

・生殖年齢男性の癌患者に対する治療では,生殖能力の温存が軽視されていた.

現在の常識

・不妊夫婦の原因について,約半数は男性側因子が関与していることが広まり,晩婚化の傾向もあり,男性不妊症が注目を集めるようになっている.

・郵送による精液を評価する業者や,自ら精子を確認するキットが普及するとともに,男性不妊症を扱う専門クリニックや泌尿器科が増加傾向である.

・癌診療拠点病院および小児癌診療拠点病院認定において,妊孕性温存が整備されていることが認定条件の1つになるなど,生殖能力の温存が重要視されるようになっている.

小児泌尿器疾患

先天性水腎症

著者: 宋成浩 ,   中山哲成

ページ範囲:P.210 - P.214

以前の常識

・無症候性水腎症に対する診断と治療アルゴリズムがなかった.

・手術適応と判断された場合,開腹による腎盂形成術が行われていた.

現在の常識

・診療アルゴリズムに沿った診断と治療が可能となり,無症候性水腎症診療の均てん化が進んでいる.

・鏡視下手術による腎盂形成術の適応が広がっている.

膀胱尿管逆流

著者: 宮北英司

ページ範囲:P.215 - P.219

以前の常識

・膀胱尿管逆流(VUR)における予防的抗菌薬投与(CAP)は有熱性尿路感染症(fUTI)の再発を回避し,結果として腎瘢痕の新生を回避しうる保存的治療として広く受け入られていた.

・VURと膀胱直腸障害(BBD)の関連性を詳細に検討した報告はなかった.

現在の常識

・ST合剤によるCAPが尿路感染症(UTI)をおよそ半減させる(27.4%から14.8%へ)ことが示されたが,腎瘢痕の新生抑制効果は認められていない.

・AUAのVURガイドラインでは,2010年の改定において初めてVURとBBDの治療指針が取り入れられた.

・日本小児泌尿器科学会からのVUR診療手引き2016に,BBDの定義が示された.

神経因性膀胱

著者: 三井貴彦 ,   武田正之

ページ範囲:P.221 - P.224

以前の常識

・排尿筋過活動,低コンプライアンスに対する治療は,抗コリン薬のみであり,治療抵抗性の際には腸管利用膀胱拡大術などが考慮された.

・尿失禁の原因となる尿道括約筋機能不全に対する治療として,筋膜スリング術や膀胱頸部形成術など侵襲的治療を行っていた.

現在の常識

・新規治療薬としてβ3受容体作動薬が有効とされ,さらに仙骨神経刺激療法,ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法を行うことができる.

・尿道括約筋機能不全が原因となっている重症尿失禁に対して,人工尿道括約筋が保険収載され施行することができるようになった.

尿道下裂

著者: 岡和田学

ページ範囲:P.225 - P.227

以前の常識

・一期的手術を早期(1歳頃)に行うことが推奨されてきた.

・亀頭の先端からの排尿の獲得が将来の性交渉のためにも重要だとされ,亀頭部先端までの再建手術が推奨されてきた.

現在の常識

・陰茎部の皮膚発育の状態により適切な手術時期に幅があり,一般的に手術は2歳から3歳頃に行われている.

・発生時に尿道を形成する組織が遺残した索状組織の有無により,一期的手術で行うか二期的で行うかが選択される.

・立位での排尿機会の減少,亀頭先端部の術後合併症を避けるため,亀頭部先端までの再建手術は必ずしも必要とされない.

停留精巣

著者: 水野健太郎 ,   西尾英紀 ,   林祐太郎

ページ範囲:P.228 - P.233

以前の常識

・停留精巣はおむつが取れた頃の年齢に手術を行っていた.

・鼠径部に精巣を触知する場合でも触知しない場合でも,鼠径部皮膚切開で手術をスタートしていた.

・遊走精巣(移動精巣)は治療も通院も不要としていた.

現在の常識

・停留精巣は早期の手術(1歳前後から2歳頃まで)が薦められている.

・鼠径部に触知する精巣には鼠径部切開のほかに陰囊切開が選択肢となっている.非触知精巣の場合,診断として健側の精巣所見や画像診断を参考にする.治療としては,それぞれの専門医師の判断と経験により鼠径部アプローチか腹腔鏡アプローチかが選択されるようになっている.

・遊走精巣(移動精巣)のなかに移動を繰り返している間に上がったままの状態になる場合(上昇精巣)があり,停留精巣として手術を考慮する.

性分化疾患

著者: 守屋仁彦

ページ範囲:P.234 - P.237

以前の常識

・以前はintersex=半陰陽と呼ばれていた.

・疾患の分類は性腺の病理をもとに行われていた.

現在の常識

・2005年に米国シカゴで行われたconsensus meetingにてdisorders of sex development=性分化疾患という呼称が提唱され,現在広く使われるようになっている.

・疾患は染色体をもとに分類されている.

・多職種によるチーム医療が重要視されている.

女性泌尿器疾患

腹圧性尿失禁

著者: 竹山政美 ,   鍬田知子 ,   加藤稚佳子

ページ範囲:P.240 - P.241

以前の常識

・腹圧性尿失禁の病態に関しては,以前には尿道過可動が主な原因で,尿道括約筋不全は少数例に認められる病態と考えられていた.また,腹圧性尿失禁と排尿筋過活動の間にはそれほど関連が考えられていなかった.

・以前から腹圧性尿失禁の治療の第一選択は骨盤底筋訓練であるとされていたが,エビデンスに乏しかった.

・手術に関しては以前からTVT,TOTなどの中部尿道スリング手術がゴールド・スタンダードであり,また,骨盤臓器脱手術の際には予防的腹圧性尿失禁手術が行われることが多かった.中部尿道スリング手術後の排尿困難に対して術直後はしばらく保存的にみることが常識であった.

現在の常識

・腹圧性尿失禁の原因としては,尿道過可動と尿道括約筋不全がさまざまな割合で共存すると考えられている.また,腹圧性尿失禁患者ではしばしば排尿筋過活動を伴う.

・最近では,骨盤底筋訓練にバイオフィードバック訓練や膀胱訓練などを組み合わせた統合プログラムなどが提起されている.骨盤底筋訓練の有用性を支持するRCTがある.

・骨盤臓器脱手術の際の予防的腹圧性尿失禁手術は,現在では推奨されなくなっている.また,中部尿道スリング手術後の排尿困難に対しては,現在ではできるだけ早くテープを引き下げることを推奨するという議論が出てきている.

骨盤臓器脱

著者: 竹山政美 ,   鍬田知子 ,   柏原宏美

ページ範囲:P.242 - P.244

以前の常識

・骨盤臓器脱(POP)の術式としては,NTRとTVMが主な選択肢であり,LSCは選択肢に入っていなかった.

・POPの治療については,TVM(手術)が頸部延長型子宮脱を除くすべてのPOPに対して優れた手術だとされていた.

・TVM(手術)に関しては,4本脚のメッシュを用いたProliftTM型TVM-Aが主に行われており,メッシュは4本の脚による面によって膀胱を支持するというコンセプトにより施行されていた.

・LSC手術に関しては,一部の施設でDeLanceyのLevelⅠを修復する(腟尖部のみ挙上),いわゆるアメリカ式LSCが一般的であった.

現在の常識

・POPの術式として,NTR,TVMと並んでLSCが選択肢の1つである.

・TVMは前壁下垂に対しては優れた成績を示すが,high stageの子宮脱に対しては再発率が高い.また,後壁下垂に対しては行われなくなっている.

・TVMの要点としては,メッシュを皺のないように伸展することと,そのための確実なアンカリングが重要となっている.前壁メッシュの前脚は必要なく,2本脚のTVM-A2やアップホールド型TVMが主流となっている.

・LSCは,多くの施設で腟尖部のみならず,DeLanceyのLevelⅡをも修復するいわゆるフランス式LSCが一般的となっている.

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臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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