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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科74巻5号

2020年04月発行

雑誌目次

特集 ここが変わった! 膀胱癌診療―新ガイドラインを読み解く

企画にあたって フリーアクセス

著者: 松山豪泰

ページ範囲:P.283 - P.283

 今回,4年ぶりに膀胱癌診療ガイドラインの改訂が行われた.この4年間で,膀胱癌の診断・治療は大きく変化を遂げた.

 今回の改訂では,エビデンスとなる論文があり,日常診療の方針決定に議論があるもののみクリニカルクエスチョン(CQ)を設定し,日常臨床で通常に行われている診断・治療や,逆にエビデンスに乏しいものは総論で取り上げた.CQと論文評価はMindsの推奨する作成法に基づき,GRADE法を採用した.また今回,「膀胱癌の経過観察」「希少がん」を新規の章として取り上げた.その他の詳細は実際の改訂に携わった先生方に本特集で詳述していただいた.

クリニカルクエスチョンの設定と論文評価―GRADEシステムによるガイドライン作成とは?

著者: 松本洋明 ,   白石晃司 ,   松山豪泰

ページ範囲:P.284 - P.290

▶ポイント

・現在のガイドライン作成においては,GRADEアプローチに従ってエビデンスの質と推奨の強さをグレーディングすることが推奨されている.

・膀胱癌診療ガイドライン2019年版は,Minds診療ガイドライン作成の手引き2014年版とMinds診療ガイドライン作成マニュアル2017に沿って作成されている.

・PICOによるクリニカルクエスチョンの設定とそれに対する回答および推奨を決定する手順として,システマティックレビューを基本とした的確な論文評価が必須である.

疫学と病理

著者: 小林恭

ページ範囲:P.292 - P.293

▶ポイント

・膀胱癌診療ガイドライン2019年版では「疫学・病理」の章が設定され,人口統計の人種差・地域差が解説されている.

・職業性発癌物質や,癌関連遺伝子(座)に関する知識がアップアデートされた.

・WHOの2016年版分類に基づく病理学的事項が新たに加わるかたちで詳述されている.

筋層非浸潤性膀胱癌診療における光力学診断

著者: 福原秀雄 ,   井上啓史

ページ範囲:P.294 - P.297

▶ポイント

・光力学診断(PDD)を用いることで,これまで視認困難だった病変を可視化できるため,検出感度の改善を認める.

・実臨床においてPDDおよび狭帯域光観察(NBI)は,検出感度については同等の成績であり,メリットおよびデメリットを考慮し使用可能である.

・PDDおよびNBIの使用にあたり,保険適用が各々異なるため,これらを念頭に実施する必要がある.

遺伝子検査:ウロビジョン®

著者: 小島崇宏

ページ範囲:P.298 - P.300

▶ポイント

・ウロビジョン®は,膀胱癌再発の診断補助のための遺伝子検査として国内で初めて承認された.

・改訂された膀胱癌診療ガイドライン2019年版においては,ウロビジョン®に関する内容が総論およびCQに新たに記述された.

・今後の臨床試験の蓄積により,ウロビジョン®の結果に応じた適切な治療方法の選択や膀胱鏡間隔の設定などが期待される.

変わりゆく筋層非浸潤性膀胱癌の診断と治療

著者: 三宅牧人 ,   藤本清秀

ページ範囲:P.302 - P.306

▶ポイント

・新たに加わったエビデンスや評価が固まりつつある領域,日常診療の方針決定に議論がある事項を中心にクリニカルクエスチョン(CQ)が設定された.

・リスク分類に“超高リスク群”というカテゴリーが追加され,BCG膀胱内注入療法(膀注)の評価において“BCG unresponsive”という新たな概念が生まれた.

上皮内癌(CIS)の治療

著者: 猪口淳一

ページ範囲:P.308 - P.311

▶ポイント

・膀胱CISに対する標準的一次治療はBCG膀胱内注入療法である.

・十分なBCG膀胱内注入療法を行ったにもかかわらず再発したhigh grade症例はBCG unresponsiveと定義された.

・腫瘍可視化技術とウロビジョンの導入により,CISに対する治療成績向上が期待される.

StageⅡおよびⅢ膀胱癌の治療

著者: 濱野逸人 ,   畠山真吾 ,   大山力

ページ範囲:P.312 - P.315

▶ポイント

・StageⅡ―Ⅲ膀胱癌の標準治療は根治的膀胱全摘除術,リンパ節郭清,尿路変向術であるが,適切なリンパ節郭清の範囲(標準vs.拡大郭清)についてはまだ明らかになっていない.

・ロボット支援根治的膀胱全摘除術(RARC)も選択肢である.腫瘍学的アウトカムは開腹手術と同等と報告されている.

・シスプラチンベースの術前化学療法は有効性が証明されているが,シスプラチン不適格症例に対する術前化学療法のエビデンスは乏しく,その有効性は証明されていない.術後補助化学療法の有効性も報告されているがランダム化比較試験ではない.

・社会の高齢化に対応して高齢者・フレイル患者に対する治療選択は重要な課題である.膀胱温存療法のエビデンスも充実してきており,積極的に膀胱温存を図る集学的治療(トリモダリティ治療)も選択肢となるが,症例選択が必要となる.

StageⅣ膀胱癌の治療

著者: 菊地栄次

ページ範囲:P.316 - P.319

▶ポイント

・AJCC Cancer Staging Manual第8版では特にリンパ節転移の取扱いが大きく変化した.

・転移性膀胱癌の一次治療として,GC療法が「推奨の強さ1,エビデンスの確実性A」で推奨され,dose-dense M-VAC療法も一次治療として許容された.

・転移性膀胱癌の二次治療として,ペムブロリズマブが「推奨の強さ1,エビデンスの確実性A」で推奨された.

膀胱癌の経過観察

著者: 成田伸太郎 ,   松井喜之 ,   都築豊徳 ,   羽渕友則

ページ範囲:P.320 - P.325

▶ポイント

・非浸潤性膀胱癌(NMIBC)において,初回治療後3か月目に膀胱鏡検査を行い,その後はリスク分類に基づいた経過観察が推奨される.また,尿中分子マーカーや狭帯域光観察(NBI)は選択された症例において推奨される.

・筋層浸潤性膀胱癌(MIBC)において,再発リスクに沿った経過観察を行うことが推奨されるが,明確な経過観察プロトコールは確立されていない.

・NMIBCおよびMIBCともに上部尿路評価を行い,無症候性再発を早期に発見することは推奨されるが,明確な経過観察プロトコールは確立されていない.

希少がんの病理診断

著者: 都築豊徳

ページ範囲:P.326 - P.330

▶ポイント

・尿路上皮癌における亜型の存在と,予後および各種治療に対する効果の違いが示された.それに伴って,亜型記載の必要性が強調された.

・筋層非浸潤性尿路上皮癌のリスク分類に超高リスクが追加され,亜型もしくは脈管侵襲の存在が超高リスクの分類において重要な位置を占めることとなった.

・尿路上皮癌における亜型と分子生物学的関係が示された.

綜説

膀胱癌に対するリンパ節郭清

著者: 中川徹

ページ範囲:P.273 - P.281

要旨

 骨盤リンパ節郭清は,膀胱癌に対する根治的膀胱全摘除術において必須である.リンパ節郭清によって得られた情報は予後予測・治療方針策定に有用であり(診断的意義),一部の症例では郭清による予後改善効果が示されている(治療的意義).郭清範囲は,複数の後ろ向き研究の結果に基づき,大動脈分岐部以下あるいは尿管交差部以下の総腸骨・仙骨前・内腸骨・閉鎖・外腸骨リンパ節の郭清が推奨されている.しかし,最近報告された無作為化比較試験(RCT)の結果によると,総腸骨動脈分岐部以下の郭清と比較して,傍大動脈・傍下大静脈領域まで郭清範囲を拡大しても,予後は改善しなかった.今後のさらなる検証を待つ必要がある.

症例

ペムブロリズマブ治療中に血清反応陰性関節リウマチと診断された腎盂癌

著者: 山田裕紀 ,   大沼源 ,   本田真理子 ,   金月勇 ,   清田浩 ,   頴川晋

ページ範囲:P.331 - P.335

 64歳男性.右腎盂癌リンパ節転移に対して全身化学療法施行後に根治術およびリンパ節郭清術を施行.追加化学療法施行後の経過観察中に残存傍大動脈リンパ増大を認めた.抗PD-1抗体治療導入後に多発関節痛が出現し,関節リウマチと診断された.関節リウマチに対する治療介入後すみやかに関節症状は改善し,現在も抗PD-1抗体治療継続中である.免疫関連有害事象として血清反応陰性関節リウマチの報告例はまれであり,文献的考察を加え報告する.

連載 医薬系プレゼンテーションの技術―知れば,学べば,必ず上達!・第4回

スライドプレゼンテーション

著者: 井上貴昭

ページ範囲:P.337 - P.342

◯恐るべき現象Death by PowerPoint(パワポ死)

 プレゼンテーション(プレゼン)とは,情報伝達手段の一種であることは以前にもお話ししたと思う.このプレゼンテーションという言葉が広辞苑に載ったのは1999年で,まだ日本では20年ほどの非常に新しい概念なのである.当時のプレゼンの多くは「紙の資料」で行われていたが,その後透明なシートをレンズの上に置き,光源の光を透過させスクリーンに投影するオーバーヘッドプロジェクター(OHP)が流行した.しかし,1995年以降Windows 95が大ヒットし多くの企業で「Microsoft Office」が使用されるようになり,「PowerPoint」が提案資料作成を効率的かつ日常的なものにしたのである.その後,Macの「Keynote」,Prezi社が開発した「Prezi」などが人気を集め,日本でも急速に普及している.

 現代に生きるわれわれはプレゼンテーションソフトという素晴らしいツールを手にした反面,そのスライド作成に一喜一憂し,時間を費やし,そしてスライドが出来上がったことに満足する.そう! まさしく自己満足のスライドを作成して本番を迎え,あなたは緊張で手に汗を握りパソコンのスライドを見つめながらプレゼンするのである.結果,オーディエンスは“爆睡”.あなたは知らないうちにPowerPointの見えない罠にかかってしまっているのである.今もこの瞬間も,世界中の会議室やセミナールームで発生している恐るべき現象.それがDeath by PowerPointだ.そうならないために,あなたはスライドを自己満足で作成してはいけない.あなたの時間を無駄にしないためにも,正しい方法でこのスライドプレゼンテーションを制するのだ.ここでは本連載第1〜3回を踏まえて,実際のスライド作成と忘れてはいけないポイントについて紹介しよう.ただし,わかっていると思うが! スライドはあくまでもあなたの脇役であることを忘れてはいけない.

書評

医療者のためのExcel入門 第2版―超・基礎から医療データ分析まで―田久浩志 著 フリーアクセス

著者: 濱岸利夫

ページ範囲:P.336 - P.336

 「医療者のためのExcel入門」とタイトルにあり,サブタイトルには「超・基礎から医療データ分析まで」とある.そのため,「Step1 Excelに慣れよう基本操作編」から始まる.

 読者が少しでもパソコンやExcelの操作に慣れていれば,Step1には見向きもしないで他のステップへ進んでしまうかもしれない.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.271 - P.271

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.347 - P.347

編集後記 フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.348 - P.348

 名画との出会いを求めて,海外の学会では時間を見つけて美術館を訪れる方も多いと思います.「本物」を初めて見たときの感動は想像以上のことが多いのではないでしょうか.名画の前で釘付けになり,距離を置いて眺め,近づいて描写の細部まで観察するなど,実物を前にしないとできないことがあります.私は,フェルメールの作品に海外で出会ったとき,やっと見ることができたという安堵が混じって,感動が幾重にも強調されたことが思い出されます.

 森村泰昌先生の作品をご存じでしょうか.先生が扮するフェルメールの絵画を初めて見たとき,「本物」と出会ったときとは全く違う心のざわつきが起こりました.それ以来,私は先生のファンです.森村先生は東西の名画の舞台を再現し,その中の人物として入り込むセルフポートレート作品を作り続けている美術家です.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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