icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科75巻5号

2021年04月発行

雑誌目次

特集 前立腺癌のバイオロジーと最新の治療―いま起こりつつあるパラダイムシフト

企画にあたって フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.273 - P.273

 転移性前立腺癌に対しては,長らくLHRHアナログが1stラインの治療として固定され,本邦ではビカルタミドを併用するCAB(combined androgen blockade)療法が広く行われてきました.極端に言いますと,治療の個別化あるいは多様性を考えることはありませんでした.そのような状況下で起こった最初のパラダイムシフトは2015年のCHAARTED試験で,ハイボリュームの転移性前立腺癌に対して,ドセタキセルの併用が全生存期間の有意な延長を示しました.その後,LATITUDE試験も成功し,転移性前立腺癌をリスク分類して治療する個別化治療へシフトしました.さらにはENZAMET試験,TITAN試験によって,ハイボリューム・ローボリュームの区別なく,新規ホルモン治療薬のupfront治療が開始され,新たなパラダイムシフトが起こりました.腫瘍量の多寡については,オリゴ転移という概念も浸透してきました.原発巣,転移巣に対して放射線治療あるいは手術治療といった局所治療を適応とするオプションも考えられるようになりました.

 ホルモン治療が中心の転移性前立腺癌に対して,ホルモン治療の耐性化を明らかにしていく過程で,さまざまな分子異常がクローズアップされました.そのなかで,初めて治療に結びついたのが,BRCA1あるいはBRCA2遺伝子異常を伴う去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に対するPARP阻害薬であるオラパリブの承認です.

〈基礎〉

ホルモン療法に抵抗性となるメカニズム

著者: 塩田真己

ページ範囲:P.274 - P.279

▶ポイント

・去勢治療に抵抗性となるメカニズムとして,アンドロゲン受容体(AR)シグナルの異常が多い.

・新規AR標的薬に抵抗性となるメカニズムも同様にARシグナルの異常が多い.

・ホルモン療法抵抗性のメカニズムを理解し,病態を把握することが最適な治療につながる.

難治性前立腺癌の分子メカニズム

著者: 赤松秀輔

ページ範囲:P.280 - P.282

▶ポイント

・難治性前立腺癌にはPI3K/AKT経路の遺伝子異常やDNA修復関連遺伝子異常など,特徴的な遺伝子異常を有するサブタイプがある.

・これらの特徴的な遺伝子異常をコンパニオン診断とした新規治療が複数開発されている.

・プレシジョン医療の時代には各症例の遺伝的,分子生物学的背景を考慮した治療戦略を構築する必要がある.

DNA修復遺伝子と前立腺癌―乳癌・卵巣癌とどこが違うのか?

著者: 小坂威雄

ページ範囲:P.284 - P.290

▶ポイント

・乳癌・卵巣癌では,生殖細胞系列変異によるBRCA1遺伝子,およびBRCA2遺伝子が治療の対象となる.

・前立腺癌では,生殖細胞系列変異のみならず体細胞系列変異としてもがんの悪性度に関連し,治療の標的となる.

・コンパニオン診断のタイミング,FoundationOneの遺伝子パネル検査との使用の位置づけ,保険請求のタイミングは癌種によって異なる.

〈転移性ホルモン感受性前立腺癌(mHSPC)とオリゴ転移前立腺癌に対する治療〉

転移性ホルモン感受性前立腺癌(mHSPC)に対する最新のアプローチおよび治療決定の指針

著者: 川上理 ,   矢野晶大 ,   竹下英毅

ページ範囲:P.292 - P.295

▶ポイント

・転移性ホルモン感受性前立腺癌(mHSPC)に対する初期全身治療として,4つの併用療法(upfront療法)がホルモン単独療法より有意に予後を改善することが示されている.

・原発巣に対する外照射を全身治療に加えることで,転移量の少ないmHSPCの予後を改善することが示されている.

・mHSPCに対して,ホルモン単独療法はもはや標準治療ではなくなった.

ARCHES/ENZAMET試験に基づいたエンザルタミドによる治療

著者: 井口太郎 ,   加藤実 ,   山﨑健史 ,   玉田聡

ページ範囲:P.296 - P.299

▶ポイント

・転移性ホルモン感受性前立腺癌(mHSPC)に対するエンザルタミド治療で,画像上進行までの期間の延長や全生存率の改善が認められる.

・エンザルタミドによるmHSPCの安全性プロファイルは,去勢抵抗性前立腺癌治療の場合と同等である.

・すべてのmHSPC患者に新規ホルモン薬による治療が必要かどうかについては,議論が待たれる.

TITAN試験に基づいたアパルタミドによる治療

著者: 楠原正太 ,   松原伸晃

ページ範囲:P.300 - P.307

▶ポイント

・アパルタミドは転移性去勢感受性前立腺癌(mCSPC)の初期治療としての有効性と安全性が第Ⅲ相試験で証明され,標準治療の1つである.

・皮膚発疹(skin rash)などの副作用は比較的高頻度に認められ,経済的毒性も相当なものであり,これらは今後の課題である.

・腫瘍量やリスクにかかわらず,mCSPC全体集団を対象とした試験であり,添付文書上の適応も上記の通りとなっており,臨床試験結果の内的妥当性も今後の課題の1つである.

ハイリスク転移性前立腺癌治療の現在

著者: 成田伸太郎

ページ範囲:P.308 - P.313

▶ポイント

・大規模試験の結果から,ハイリスク転移性去勢感受性前立腺癌(mCSPC)において,去勢治療に化学療法や新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬を併用するupfront治療の予後延長効果が示された.

・本邦では,upfront治療の長期フォローや多数例の治療報告はいまだ少ない.

・進行中臨床治験の結果,新規画像診断の進歩,ゲノム診断の普及がmCSPC診療を変化させる可能性がある.

オリゴ転移前立腺癌に対する放射線治療

著者: 大橋俊夫

ページ範囲:P.314 - P.318

▶ポイント

・オリゴ転移は,広範囲に転移した状態と転移のない限局した癌の中間の状態とされ,一般に転移巣が1〜5個程度のみ存在する状態とされる.

・オリゴ転移に対する根治的制御を目的とした定位放射線治療が注目されている.

・再発オリゴ転移前立腺癌に対するmetastasis-directed therapyの第Ⅱ相試験の結果から,無増悪生存期間や無治療生存期間の延長が期待されている.

〈非転移性去勢抵抗性前立腺癌(M0 CRPC)に対する治療〉

アパルタミドのエビデンス

著者: 土肥洋一郎 ,   杉元幹史

ページ範囲:P.320 - P.325

▶ポイント

・非転移性去勢抵抗性前立腺癌(M0 CRPC)の治療は患者にとって生命予後の延長やQOLの維持をもたらす.

・SPARTAN試験でM0 CRPCに対するアパルタミドの非転移生存と全生存期間の延長効果が証明された.

・アパルタミド投与時には日本人において特に皮疹の出現が多く,減量や休薬で対応する必要がある.

ダロルタミドのエビデンス

著者: 上村博司 ,   三好康秀 ,   河原崇司

ページ範囲:P.326 - P.332

▶ポイント

・次世代抗アンドロゲン剤であるダロルタミドは非転移性去勢抵抗性前立腺癌に適応があり,無転移生存期間や生存期間の延長ベネフィットがある.

・ダロルタミドの化学構造はエンザルタミドやアパルタミドと異なり,極性を有し屈曲性があることから,血液脳関門を通過しにくい.

・10%以上の有害事象として倦怠感があるが,日本人にも忍容性が高い結果であった.

〈注目トピックス〉

転移性去勢抵抗性前立腺癌に対する抗がん化学療法のアップデート

著者: 木村高弘

ページ範囲:P.334 - P.338

▶ポイント

・ドセタキセル治療歴を有し,かつ新規アンドロゲン受容体(AR)剤で12か月以内に増悪を認めた転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)患者の三次治療を,カバジタキセルと新規AR剤に割付けた前向き試験(CARD試験)で,カバジタキセルは有意に画像診断に基づく無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を延長した.

・CARD試験における健康関連QOL調査で,カバジタキセル群と新規AR剤群のQOLはほとんどの項目で有意差がなかった.

・カバジタキセルは,新規AR剤およびドセタキセル抵抗性mCRPCに対する三次治療として推奨される.

神経内分泌前立腺癌の治療

著者: 安水洋太 ,   小坂威雄 ,   大家基嗣

ページ範囲:P.340 - P.345

▶ポイント

・神経内分泌前立腺癌は,小細胞肺癌に準じて治療が行われるが,現時点では確立した治療方法はない.

・カバジタキセル+カルボプラチンは,神経内分泌前立腺癌を含むaggressive variant前立腺癌に対して高い有効性を示した.

・免疫チェックポイント阻害薬などを用いた臨床試験が施行中であり,結果が待たれる.

PARP阻害薬のエビデンス―PROfound試験など

著者: 井川掌

ページ範囲:P.346 - P.350

▶ポイント

・PARP阻害薬であるオラパリブは,BRCA遺伝子変異陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌に対して有効性を示す薬剤であることがPROfound試験で証明された.

・オラパリブはPARP活性を阻害することで,合成致死の機序により標的を細胞死に誘導し効果を発揮する.

・オラパリブ投与に際しては,がんゲノム医療の理解とガイダンスに沿った手順による実施が求められる.

症例

腸閉塞で発症した腹膜播種を伴う前立腺癌

著者: 田沼康 ,   田中吉則 ,   五十嵐学 ,   桧山佳樹 ,   岡本知士 ,   荻野次郎

ページ範囲:P.351 - P.354

 68歳男性.腹部膨満感と嘔気で受診.CTで150mm大の骨盤内腫瘍と腸管ガス貯留を認めたが,大腸内視鏡では下行結腸まで閉塞を認めず.原因不明の腸閉塞に対して手術を施行し,上行結腸の播種性病変による閉塞を認め,回腸末端人工肛門造設術と腫瘍,大網生検術を施行した.ともに前立腺癌を認め,ホルモン療法を開始,PSAは著明低下し,骨盤内腫瘍と播種性病変はともに縮小した.結腸の通過障害は改善し人工肛門閉鎖術を施行し,排便機能は回復した.

連載 医薬系プレゼンテーションの技術―知れば,学べば,必ず上達!・第16回

非言語テクニック(ノンバーバルテクニック)③

著者: 井上貴昭

ページ範囲:P.355 - P.359

対話の65%は非言語コミュニケーション伝達

 今回も前回に引き続き,非言語コミュニケーションについてお話ししていこう.「メラビアンの法則」をご存知だろうか? 人はコミュニケーションにおいて相手の感情を読み取る際に「言語情報 : 7%」「聴覚情報 : 38%」「視覚情報 : 55%」の割合で情報を受け取っているという法則だ.また,コミュニケーション学者であるハードウィステルは対人コミュニケーションにおいて,「言葉によって伝えられるメッセージが35%,残りの65%はジェスチャーや表情,会話の間などの言語以外の手段によって伝えられる」とする研究を行った.すなわち,視覚的に飛び込んでくる内容や事柄,言語ではない表現手段によって人の捉え方や感情は大きく変わることを示しているのだ.確かにそうであろう.人が悲しそうな表情で泣いている時と,ガッツポーズをしながら嬉しそうに泣いている時では,同じ泣いている姿でもわれわれが受け取る感覚や,抱く感情もまた違うのではないだろうか.われわれは毎日の人とのコミュニケーションのなかで自然と自分なりの非言語テクニックを用いているのだ.このような非言語テクニックを知り,その技術を会得し自然の流れで自分のプレゼンテーションに活かすことができれば,聞き手はどう感じるであろう? きっと,あなたのプレゼンテーションに,そしてあなた自身に陶酔することだろう.

 さあ,今回お話しする非言語テクニックは,あなたが最もイメージしやすいテクニックだ.しかし,意外とできないとても大切な技術である.では,始めよう!!

書評

がんゲノム医療遺伝子パネル検査実践ガイド―角南久仁子,畑中豊,小山隆文 編著 フリーアクセス

著者: 織田克利

ページ範囲:P.291 - P.291

 この度,『がんゲノム医療遺伝子パネル検査実践ガイド』が発刊された.2種類のがん遺伝子パネル検査(OncoGuideTMNCCオンコパネルとFoundationOne®CDxがんゲノムプロファイル)が2019年6月に保険収載され,専門性の高いがんゲノムの検査結果が実際の診療として提供されるようになった.しかしながら,必要な知識をあまねく理解することは容易でなく,身近な指南書が求められている.本書はがん遺伝子パネル検査の基礎知識がわかりやすく解説され,わが国におけるがんゲノム医療の運用の流れや検査結果の読み方についてもコンパクトに要領よくまとめられており,指南書としてふさわしい内容となっている.さらに,現在保険診療として行われているDNAパネルに加え,近未来の導入が期待されるものとして,RNAパネルを含むがん遺伝子パネル検査(Todai OncoPanel)やリキッドバイオプシー(血中循環腫瘍由来DNAを解析する検査技術)の解説までカバーされており,日進月歩の変化にも対応できるような構成になっている.

 専門家会議(エキスパートパネル)の構成員の要件からもわかるように,がんゲノム医療は,医師(各診療科の主治医のみならず,腫瘍内科,遺伝診療科,病理部,検査部など),基礎研究者,遺伝カウンセラー,看護師,薬剤師,検査技師などのメディカルスタッフ,事務系職員をはじめ,多職種が知識を共有して力を合わせて実施していく必要があり,がん種横断的であるのみでなく職種横断的な側面も大きい.これまで「がんゲノム」は難解というイメージが強く,知識,経験,専門性が異なる医療スタッフ間であまねくバックグラウンドを共有することは至難であった.本書に目を通してもらうことで,さまざまな関係者間で,基礎知識や必要な情報を格段に共有しやすくなると期待される.またシークエンス解析に関わる細かな専門用語についても広くカバーされており,入門書としての位置付けのみでなく,がんゲノム医療の第一線で働く専門家にとっても知識の整理に有用であろう.初学者から専門家まで役立つ解説書となっており,ぜひ手に取って,日々のマニュアルとして活用いただければ幸いである.今後,他の疾患でもゲノム医療が普及していくと予想されることから,がん以外の領域で遺伝医療に携わっている方々にもお薦めしておきたい.

泌尿器科診療の最新スタンダード―平成の常識は令和の非常識―「臨床泌尿器科」編集委員会 編 フリーアクセス

著者: 伊藤明宏

ページ範囲:P.319 - P.319

 泌尿器科は,新生児から高齢者まで全ての年齢層を対象としており,扱う領域は,悪性疾患,尿路性器感染症,腎機能障害,腎移植,下部尿路機能障害,内分泌疾患,性機能障害,小児・女性泌尿器など,多岐にわたります.教育病院,市中病院,民間病院,クリニック,それぞれの施設やそれぞれの地域において特徴的な医療を行っており,泌尿器科疾患の全範囲に常に触れているわけではありませんので,全ての最新知見に精通している泌尿器科医は決して多くないと思います.一方,診療ガイドラインの改訂や取扱い規約の改訂は,以前よりも間隔が短くなっており,各自の守備範囲としている領域においても,全ての改訂内容をフォローできている専門医は決して多くはないことと思います.インターネットが身近に利用できる環境が整い,検索すれば最新情報を入手することは可能ですが,あまりなじみのない領域ではキーワードすら思いつくことができず,自分の知識をアップデートするのはなかなか容易ではないのが現実ではないでしょうか.

 本書では泌尿器科診療の全ての領域にわたって,最新情報として押さえておくべきポイントについて,それぞれの専門家がコンパクトにまとめて記載しています.セッションの冒頭で,以前の常識(平成の常識)と現在の常識(令和の常識)がコラムとしてピックアップされています.これまでの常識について,「確かにそうであった」とうなずきながら読むことで,読者はここで安心することができます.そして,これまでの診断や治療の変遷を踏まえて読み進めることで,新しい常識を吸収しやすくなっているのが,本書の特色だと思います.診療ガイドラインや取扱い規約が改訂されて多数出版されていますが,本書では現在の常識として改訂ポイントをピックアップして記載しているので,最新の知見と改訂ポイントを一読で確認することが可能です.本邦の各種診療ガイドラインにおいて,EAUやNCCNガイドラインのような小まめなアップデートは,現実的には困難です.そのような現状ですが,次の診療ガイドラインが出版される前に,WHO分類のアップデートに伴う知見や海外のエビデンスを基にした知見など,すでに日常診療として実践されていることが多々あります.また,新規治療薬の国内承認が相次ぎ,用法追加承認もしばしば行われています.診療ガイドラインでは追いついていない治療方法についても,本書では新しい常識として取り上げられており,up to dateの診療を患者に提供する際の根拠として利用することが可能です.

がん薬物療法副作用管理マニュアル 第2版―吉村知哲,田村和夫 監修/川上和宜,松尾宏一,林稔展,大橋養賢,小笠原信敬 編 フリーアクセス

著者: 岩本卓也

ページ範囲:P.339 - P.339

 「いかに副作用を軽減して治療を継続するか」.われわれががん薬物治療を開始する時に必ず考えることである.いくら最新のがん治療,エビデンスの高い治療であっても,実際に治療に耐えることができなければその恩恵を得ることはできない.また,がん治療に前向きな患者ばかりではなく,副作用への心配から自ら治療の道を閉ざしてしまう方もおり,そのような患者に対しては一層丁寧な説明が必要になる.このような時,実践に強い参考書,副作用について素早く整理できる本が手元にあると心強い.本書は,好評を博した初版の刊行から3年を経て,さらに内容を充実させた第2版であり,医療従事者に求められる副作用管理のポイント,経験に基づくアドバイスが随所に挿入された実践向けの本である.もちろん,患者に要所を押さえた説明をする際にも最適である.

 本書は,抗がん薬投与後に発現する主な副作用を取り上げ,その発現率,好発時期,リスク因子,評価方法をまとめている.また,典型的な症例提示もあり,副作用アセスメントの進め方をイメージできる.そして,第2版では,「患者のみかたと捉えかた」を新設し,腫瘍内科医が身体所見,検査,副作用の評価方法を記載しており,診療の進め方を理解するのに役立つ.また,各論では「味覚障害」「不妊(性機能障害)」「栄養障害」が新たに追加され,「免疫関連有害事象(irAE)」の項目も充実している.

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.271 - P.271

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.363 - P.363

編集後記 フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.364 - P.364

 第29回日本腎泌尿器疾患予防医学研究会は2021年1月28〜29日に浮村理教授(京都府立医科大学)の会長のもと,ハイブリッド形式で行われ,私は内藤裕二先生(京都府立医科大学消化器内科学)の特別講演「日本人の腸内細菌叢解析から見えてきた酪酸菌の秘密」の座長を拝命いたしました.腸内細菌叢はさまざまな疾患と関連し,良好な腸内細菌叢の保持が疾病予防につながります.内藤先生のご講演では,日本一百寿者の多い京丹後市在住高齢者の腸内フローラの解析結果が述べられました.京都市内の高齢者と比較すると,多い菌の上位4種が酪酸産生菌であったそうです.さらに,食事調査では食物繊維を多く摂取している傾向がわかりました.食物繊維を餌とした発酵によって酪酸産生菌が酪酸を産生します.酪酸は自己免疫の暴走を抑える制御性T細胞(Treg)の誘導物質です.合点がいきました.

 「長寿の陰に腸内細菌あり」といったところでしょうか.内藤先生のご講演の後には質問が飛び交いました.渡邉泱名誉教授(京都府立医科大学・明治国際医療大学)からは,「日本人の国民的な穏やかさ,協調性は腸内細菌が原因ではないのか?」とのご指摘をいただきました.ご講演によりますと,個人の腸内細菌叢は3歳くらいまでに完成するそうです.母子環境の影響が大きく,連綿と伝わってきた日本人の特徴がここに存在すると考えると,日本文化の根幹に関わる現象に思えてきました.内藤先生は『京丹後市の高齢者は性格の穏やかな方ばかりで,皆さんが「自分が病気になって家族に負担をかけたくない」ことばかりを強調される』と答えていらっしゃいました.現在,丹後医療圏に勤められている沖原宏治先生(京都府立医科大学附属北部医療センター)からは「オナラ」についてコメントがあり,『砕石位をとって膀胱鏡を行うときなど,マスク越しに「オナラ」の匂いを嗅ぐときがあるが,白菜の漬物の匂いで全く臭くない.自分の臭い「オナラ」とは全く違う』とおっしゃったので,場内は爆笑でした.内藤先生は自らの「オナラ」の匂いで健康管理を行っているそうです.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻13号(2022年12月発行)

特集 これだけは知っておきたい! 泌尿器科診療でも活きる腎臓内科の必須知識

76巻12号(2022年11月発行)

特集 ブレずに安心! 尿もれのミカタ

76巻11号(2022年10月発行)

特集 限局性前立腺癌診療バイブル―このへんでキッチリと前立腺癌診療の“あたりまえ”を整理しよう!

76巻10号(2022年9月発行)

特集 男性不妊診療のニューフロンティア―保険適用で変わる近未来像

76巻9号(2022年8月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)の手術療法―臨床現場の本心

76巻8号(2022年7月発行)

特集 泌尿器腫瘍における放射線治療―変革期を迎えた令和のトレンド

76巻7号(2022年6月発行)

特集 トラブルゼロを目指した泌尿器縫合術―今さら聞けない! 開放手術のテクニック

76巻6号(2022年5月発行)

特集 ここまで来た! 腎盂・尿管癌診療―エキスパートが語る臨床の最前線

76巻5号(2022年4月発行)

特集 実践! エビデンスに基づいた「神経因性膀胱」の治療法

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号特集 専門性と多様性を両立させる! 泌尿器科外来ベストNAVI

76巻3号(2022年3月発行)

特集 Female Urologyの蘊奥―積み重ねられた知恵と技術の活かし方

76巻2号(2022年2月発行)

特集 尿路性器感染症の治療薬はこう使う!―避けては通れないAMRアクションプラン

76巻1号(2022年1月発行)

特集 尿道狭窄に対する尿道形成術の極意―〈特別付録Web動画〉

75巻13号(2021年12月発行)

特集 困った時に使える! 泌尿器科診療に寄り添う漢方

75巻12号(2021年11月発行)

特集 THEロボット支援手術―ロボット支援腎部分切除術(RAPN)/ロボット支援膀胱全摘除術(RARC)/新たな術式の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻11号(2021年10月発行)

特集 THEロボット支援手術―現状と展望/ロボット支援前立腺全摘除術(RARP)の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻10号(2021年9月発行)

特集 今こそ知りたい! ロボット時代の腹腔鏡手術トレーニング―腹腔鏡技術認定を目指す泌尿器科医のために〈特別付録Web動画〉

75巻9号(2021年8月発行)

特集 ED診療のフロントライン―この一冊で丸わかり!

75巻8号(2021年7月発行)

特集 油断大敵! 透析医療―泌尿器科医が知っておくべき危機管理からトラブル対処法まで

75巻7号(2021年6月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)薬物治療のニューノーマル―“とりあえず”ではなくベストな処方を目指して

75巻6号(2021年5月発行)

特集 躍動するオフィスウロロジー―その多様性に迫る!

75巻5号(2021年4月発行)

特集 前立腺癌のバイオロジーと最新の治療―いま起こりつつあるパラダイムシフト

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科当直医マニュアル

75巻3号(2021年3月発行)

特集 斜に構えて尿路結石を切る!―必ず遭遇するイレギュラーケースにどう対処するか?

75巻2号(2021年2月発行)

特集 複合免疫療法とは何か? 腎細胞癌の最新治療から学ぶ

75巻1号(2021年1月発行)

特集 朝まで待てない! 夜間頻尿完全マスター

74巻13号(2020年12月発行)

特集 コロナ時代の泌尿器科領域における感染制御

74巻12号(2020年11月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈下部尿路機能障害/小児・女性・アンドロロジー/結石・感染症/腎不全編〉

74巻11号(2020年10月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈腫瘍/処置・救急・当直編〉

74巻10号(2020年9月発行)

特集 令和最新版! 泌尿器がん薬物療法―手元に置きたい心強い一冊

74巻9号(2020年8月発行)

特集 泌尿器腫瘍の機能温存手術―知っておくべき適応と限界

74巻8号(2020年7月発行)

特集 これが最新版! 過活動膀胱のトリセツ〈特別付録Web動画〉

74巻7号(2020年6月発行)

特集 小児泌尿器科オープンサージャリー―見て学ぶプロフェッショナルの技〈特別付録Web動画〉

74巻6号(2020年5月発行)

特集 高齢患者の泌尿器疾患を診る―転ばぬ先の薬と手術

74巻5号(2020年4月発行)

特集 ここが変わった! 膀胱癌診療―新ガイドラインを読み解く

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科診療の最新スタンダード―平成の常識は令和の非常識

74巻3号(2020年3月発行)

特集 泌尿器科手術に潜むトラブル―エキスパートはこう切り抜ける!

74巻2号(2020年2月発行)

特集 いま話題の低活動膀胱―これを読めば丸わかり!

74巻1号(2020年1月発行)

特集 地域で診る・看取る緩和ケア―泌尿器科医として知っておくべきこと

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら