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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科76巻13号

2022年12月発行

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特集 これだけは知っておきたい! 泌尿器科診療でも活きる腎臓内科の必須知識 企画にあたって

これだけは知っておきたい! 泌尿器科診療でも活きる腎臓内科の必須知識 フリーアクセス

著者: 岡田浩一

ページ範囲:P.957 - P.957

 慢性腎臓病(CKD)は末期腎不全および心血管病のリスク病態であり,腎癌とCKDはリスク因子の一部(年齢,喫煙,メタボリックシンドローム・糖尿病など)が共通することから,腎癌患者の26%を占めるCKD合併患者の診療に際して,CKDの増悪を極力回避する配慮が重要となる.まず術前では造影剤腎症の予防のため,放射線科および腎臓内科と連携して診断の質を落とさない範囲で造影剤量の最小化および造影剤腎症の予防策をとるべきである.また術後では,腎摘出後のAKIは,CKDでは適応反応が機能せずに遷延〜増悪するリスクが高く,残存腎機能を温存するための部分腎摘出術の適応や維持透析の準備の必要性について,術前から腎臓内科との連携が重要となる.術前に明らかなCKDを伴わない場合でも,高齢,糖尿病と術後AKIは腎摘出後に残存腎がCKDへと進展するリスク因子であり,AKI合併時には早めに腎臓内科との連携を図るべきである.

 AKIからCKDへの進展については,低下した腎機能の経時的変化や尿中の尿細管障害マーカー値の推移が診断の参考になり,その際には腎臓内科的な管理が必要となる.進行性腎癌の場合には薬物療法の適応となり,mTOR阻害薬やマルチキナーゼ阻害薬が使用され,後者ではVEGFR阻害作用を介した高血圧や蛋白尿,糸球体障害を合併する頻度が高い.この際,CKD合併腎癌患者ではCKDの増悪を回避するために,タイムリーな休薬が必要となる.さらに近年,汎用されている免疫チェックポイント阻害薬は腎臓を含むさまざまな臓器への自己免疫疾患を誘発するため,それぞれの専門医との連携が重要となる.

〈総論〉

尿は全身の鏡

著者: 下澤達雄

ページ範囲:P.958 - P.966

▶ポイント

・全身状態,腎臓の病態を知るうえで尿検査は簡便でかつ費用対効果が大きい検査である.

・しかし,さまざまな要因で検査結果に影響があるので影響を知ったうえで活用することが肝要である.

・最近では蓄尿検査による感染のリスクが問題視され,蓄尿検査は行わないが,随時尿でも十分評価できることが明らかになっている.特に急性期の電解質異常,慢性期の腎臓内,泌尿器系での病態の変化には随時尿から得られる情報が重要である.

造影剤腎症

著者: 猪阪善隆

ページ範囲:P.968 - P.973

▶ポイント

・ヨード造影剤は造影剤腎症を来すことがあり,特に慢性腎臓病患者ではリスクが高い.

・コレステロール塞栓などとの鑑別が必要である.

・造影剤腎症発症リスクを把握し,高リスク患者には適切な輸液を行う.

〈腎疾患とがん診療〉

慢性腎臓病とがん

著者: 金子惠一 ,   松原雄 ,   柳田素子

ページ範囲:P.974 - P.978

▶ポイント

・慢性腎臓病(CKD)の評価に用いられる推算糸球体濾過量(eGFR)とアルブミン尿の両者は,尿路系癌のリスク因子となる.

・CKDと尿路系癌に共通したリスク因子が存在することと,CKDの状態が発がんを促進するという2つの原因によって,CKD患者で尿路系癌が増加すると考えられる.

・腎癌手術後のCKDに対して,泌尿器科と腎臓内科で協力して治療を行うことが重要である.

急性腎障害(AKI)とがん

著者: 宮本佳尚 ,   土井研人

ページ範囲:P.980 - P.985

▶ポイント

・急性腎障害(AKI)と診断したら,尿路閉塞の有無を確認したうえで,閉塞が明らかでなければ尿検査(尿沈渣,尿定性)の提出をする.

・AKIに寄与する複数の病態が同時に併存することがしばしばみられるため,系統的なアプローチが必要である.

・腎後性AKIでは,閉塞解除後の電解質異常に注意が必要である.

抗がん剤と腎① 抗VEGF製剤とマルチキナーゼ阻害薬

著者: 渡辺裕輔 ,   岡田浩一

ページ範囲:P.986 - P.991

▶ポイント

・血管新生阻害薬(抗VEGF製剤とマルチキナーゼ阻害薬)による腎臓関連有害事象として蛋白尿と高血圧が生じやすい.

・蛋白尿出現時は血管新生阻害薬の休薬・減量が検討されるが,個々の患者の状況に応じて判断する.

・高血圧にはRA系阻害薬などの降圧薬を処方し,降圧管理を行いながら血管新生阻害薬を継続する.

抗がん剤と腎② 免疫チェックポイント阻害薬(CPI)に伴う腎障害

著者: 田部井彬史 ,   廣村桂樹

ページ範囲:P.992 - P.997

▶ポイント

・近年のがん診療の分野において免疫チェックポイント阻害薬(CPI)は重要な役割をもち始めている.

・一方でこれまでの抗がん剤治療にはみられなかった免疫有害事象のため,その治療中断を余儀なくされる場合がある.

・腎臓関連の免疫有害事象も例外ではなく,腎臓内科医と腫瘍専門医が連携を取り,早急な対応が求められる.

〈慢性腎臓病の管理〉

RA系阻害薬とSGLT2阻害薬

著者: 岡田浩一

ページ範囲:P.998 - P.1005

▶ポイント

・レニン―アンジオテンシン(RA)系阻害薬は糖尿病性腎症および蛋白尿を伴う慢性腎臓病(CKD)に対して,蛋白尿減少効果および末期腎不全への進展抑制効果を有し,診療ガイドラインでもCKD患者における降圧療法の第一選択薬とされてきた.

・近年,腎硬化症や加齢によるCKDに関してRA系阻害薬の無効例もしくは有害例が報告されるようになっている.

・SGLT2阻害薬は糖尿病性腎症に対して,また一部のSGLT2阻害薬は非糖尿病性CKDに対しても末期腎不全への進展抑制効果を有し,CKDに対する新たな治療薬として期待されている.

腎性貧血(Renal Anemia)

著者: 濱野高行

ページ範囲:P.1006 - P.1013

▶ポイント

・慢性腎臓病(CKD)患者の貧血はすべて腎性貧血ではない.薬剤性,出血,血液疾患など原因は多岐であり,赤血球造血刺激因子製剤(ESA)とHIF-PH阻害薬の適応は腎性貧血のみである.

・鉄欠乏を是正してからESAやHIF-PH阻害薬を使用する.安易にヘモグロビン(Hb)のターゲット実現目的にこれらの薬剤を増量せず,使用中に鉄欠乏が生じれば,まずは鉄を補充する.

・フェリチンが高く,トランスフェリン飽和度(TSAT)が低いときに癌の検索をする.担がん患者ではESAやHIF-PH阻害薬を安易に使ってはいけない.

保存期腎不全におけるCKD-MBD管理

著者: 渡邉周平 ,   藤井秀毅

ページ範囲:P.1014 - P.1019

▶ポイント

・慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)は「検査値異常」「骨代謝異常」「血管・軟部組織石灰化」が独立して,もしくはそれぞれが組み合わさって起こる全身疾患であり,保存期腎不全の時点からの管理が重要である.

・CKD-MBDに伴う心血管疾患は複数の機序が関与しており,多彩で重篤な症状を呈する.

・CKD-MBDの治療では1つの異常のみに着目せず総合的に全身の管理を行うことが重要である.

透析を回避する場合,保存的腎臓療法をどう進めるか?―高齢者の腹膜透析・腎移植選択の可能性は?

著者: 板橋淑裕 ,   酒井謙

ページ範囲:P.1020 - P.1024

▶ポイント

・腎代替療法(RRT)選択の際,共同意思決定(SDM)の手順を踏むことが求められている.

・末期腎不全に至る高齢者が増加傾向をたどり,RRTのほかに保存的腎臓療法の提示が求められるが,医療者はその概念を十分に理解する必要がある.

・高齢者のRRT選択の際,腹膜透析・腎移植の選択の可能性を排除しない.

交見室

男児への包皮翻転の習慣は仮性包茎を助長する?

著者: 田中学

ページ範囲:P.1026 - P.1026

小児や高齢者の真性包茎に手術が行われることは多くないが,排尿トラブルや包皮炎などで手術適応となれば,主として包皮背面切開が行われる.一方,成人男性の仮性包茎は治療不要であるが,外尿道口が隠れるほど余剰包皮が多く,手術を希望される場合は包皮環状切除が行われることがある.前者は包皮輪(包皮口)を背側正中で縦方向に切開して横方向に縫合する,簡便な術式であるのに対して,後者は余剰包皮を帯状に過不足なく切除するデザイン性を要するため,術者の経験が問われる術式である.

 背面切開と環状切除,どちらかの選択は,余剰包皮の多寡により判断される.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.955 - P.955

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1031 - P.1031

編集後記 フリーアクセス

著者: 小島祥敬

ページ範囲:P.1032 - P.1032

 先日,日本泌尿器科学会東北地方会が3年ぶりに完全現地開催されました.今回福島市での開催でしたが,4年前に福島市で開催した参加人数の2/3程度であったものの,コロナ禍にあっても約100人の参加者があり,活発な議論が交わされました.その翌週,日本癌治療学会と日本泌尿器腫瘍学会が,現地(神戸)とWEB併用のハイブリッド形式で開催されましたが,現地参加者があふれかえっていました.やはり現地でface-to-faceで議論をすることやコミュニケーションをとることに,私も含めて皆さん飢えていたかのように思いました.

 新型コロナウイルス感染拡大によって,世の中の勤務形態が大きく様変わりし,リモートワークが普及したようです.私は,SNSに精通している若い世代のほうが,リモートワークに順応していると思っていましたが,必ずしもそうでもないようです.仕事の負荷も少なく上司に会う機会が少ないため,直接指導や叱られたことがなく,自信が持てずいわゆる「ゆるい職場」に危機感を抱いて,離職をしてしまう若者も少なくないようです.また30〜50歳代は約7割が出社頻度を「増やしたくない」と回答したのに対して,意外にも20歳代の約6割が出社頻度を「増やしたい」と回答したようです(読売新聞オンライン引用).コロナ禍,学生講義をWEBで行ってきましたが,最近対面式講義になったことに一部の学生から異議が寄せられていましたので,若者はWEB志向に偏っているものと勘違いしていました.しかし,これはもしかしたら「講義をさぼりたい」という邪念であり,多くの学生が部活動や飲み会が制限されていることに対して不満に思っていることから考えると,若者も“人の温かみ”に飢えているのかもしれません.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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