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雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科76巻5号

2022年04月発行

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特集 実践! エビデンスに基づいた「神経因性膀胱」の治療法 企画にあたって

実践! エビデンスに基づいた「神経因性膀胱」の治療法 フリーアクセス

著者: 三井貴彦

ページ範囲:P.259 - P.259

 神経因性膀胱は,泌尿器科医が日常診療のなかで数多く診察をする疾患の1つです.そのため,神経因性膀胱を特集とした企画は数多く存在するのが現状です.ただ,そのなかで「神経因性膀胱の治療法」に焦点を絞った企画は,あまり多くないと思います.実際の診療では,神経因性膀胱の病態が多岐にわたることもあるため,神経因性膀胱の適切な診断も重要ですが,診断した後の治療法の選択で苦慮することも少なくありません.そこで,今回の企画では「神経因性膀胱の治療法」について,その道のエキスパートに執筆を依頼し,特集を組んでみました.

 最初に,日常診療のなかで行うべき神経因性膀胱の診療におけるアウトラインについて,ガイドラインのアルゴリズムを中心にそのポイントを解説していただきました.その診療のアウトラインを基に,各種治療法のポイントについて解説をしていただいています.一言で「神経因性膀胱の治療法」といっても,病態に合わせて多岐にわたるのが現状です.「自排尿で管理していいのか?」「清潔間欠導尿の導入時期や施行のポイントは?」「清潔間欠導尿ができないときの尿路管理は?」「薬物療法は,どのように処方すればいいのか?」「保存的治療でコントロールが困難な際には,どのような外科治療を行うのか?」など,患者さんの病態に合わせて治療を進めていく必要がありますので,本特集の解説は治療を行ううえでとても参考になると思います.さらに,神経因性膀胱に合併する重症な排便障害に対して施行される洗腸路造設術についても解説をお願いしました.

〈総論〉

神経因性膀胱の診療におけるアウトライン

著者: 井川靖彦

ページ範囲:P.260 - P.264

▶ポイント

・治療・管理の目的は,腎障害と症候性尿路感染の防止とQOLの改善である.

・腎障害と症候性尿路感染の危険因子には,高圧蓄尿・高圧排尿,有意な残尿,膀胱尿管逆流,膀胱変形などがある.

・QOL低下を避けるには,社会的に受容可能な尿禁制の獲得(尿失禁防止)がキーとなる.

〈尿路管理〉

自排尿

著者: 関戸哲利

ページ範囲:P.266 - P.274

▶ポイント

・自排尿には,随意排尿,失禁排尿,反射性排尿,膀胱搾り出し排尿がある.

・神経因性下部尿路機能障害の患者に推奨される自排尿は,随意排尿のうち,「安全」な随意排尿である.

・安易に指導される傾向がある膀胱搾り出し排尿は,尿路管理法として原則的には推奨されない.

清潔間欠導尿

著者: 鈴木孝尚 ,   田中克幸

ページ範囲:P.276 - P.280

▶ポイント

・自排尿での尿路管理が困難な際の第一選択は清潔間欠導尿であり,回復期には留置カテーテルからの移行も考慮する.

・親水性コーティングされた単回使用型カテーテルは,ほかのカテーテルと比較して尿路感染症のリスクが低い.

・間欠式バルーンカテーテルの導入に際しては,操作法とともに長時間留置しないよう適切な指導を必要とする.

カテーテル留置(恥骨上膀胱瘻カテーテル留置・尿道カテーテル留置)

著者: 仙石淳 ,   乃美昌司

ページ範囲:P.282 - P.286

▶ポイント

・神経因性膀胱患者におけるカテーテル留置は,間欠導尿法が不可能な症例の代替療法として検討すべき位置づけにある.

・恥骨上膀胱瘻カテーテル留置(SC)は,尿道カテーテル留置(UC)と比較して尿道合併症を回避でき,QOLも良好である.

・SCは,施設入所が困難になるなどの社会的制約を受けやすい.

膀胱皮膚瘻

著者: 千葉博基 ,   樋口まどか ,   篠原信雄

ページ範囲:P.288 - P.291

▶ポイント

・膀胱皮膚瘻は,神経因性膀胱などで導尿管理が困難,あるいは無効な症例に対し,有熱性尿路感染症や腎機能障害を予防する目的で施行される.

・膀胱機能の改善や,膀胱の根治術が可能になった時点で閉鎖可能である.

・合併症に留意し適切にケアを行えば長期間にわたる管理も可能であり,QOLも高い.

〈薬物療法〉

尿排出機能障害に対する薬物治療

著者: 橘田岳也 ,   和田直樹 ,   柿崎秀宏

ページ範囲:P.292 - P.296

▶ポイント

・尿排出機能障害に対する薬剤は,尿道抵抗の低下や排尿筋収縮力の改善により排尿効率を向上させることを目的に投与される.

・α1遮断薬は膀胱出口部の抵抗を低下させる作用を期待して使用される.

・コリン作動薬は排尿筋収縮力を増強させる作用を期待して使用されるが,排尿筋括約筋協調不全などの尿路閉塞のある患者は禁忌である.

蓄尿機能障害に対する薬物療法:抗コリン薬

著者: 市野みどり

ページ範囲:P.298 - P.302

▶ポイント

・神経因性膀胱症例では,上部尿路障害の危険因子を認める場合には,自覚症状がなくても抗コリン薬の投与が必要である.

・上部尿路障害の危険因子は,膀胱の高圧状態,すなわち排尿筋過活動,低コンプライアンス膀胱,排尿筋括約筋協調不全である.

・自排尿で管理する場合には,残尿など,排尿期の異常に注意が必要である.

蓄尿機能障害に対する薬物療法:β3受容体作動薬

著者: 高橋良輔

ページ範囲:P.304 - P.307

▶ポイント

・神経因性膀胱では排尿筋過活動や低コンプライアンス膀胱などの蓄尿機能障害を認めることが多い.

・蓄尿機能障害の程度によっては上部尿路障害の危険因子となる.

・蓄尿機能障害の改善には抗コリン薬に加えてβ3作動薬も有用である.

〈外科的治療〉

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法

著者: 本田正史 ,   武中篤

ページ範囲:P.310 - P.315

▶ポイント

・A型ボツリヌス毒素製剤(ボトックス®)は,神経因性膀胱および過活動膀胱への保険適用が承認されている.

・国内第Ⅲ相試験を含む多くの無作為化比較試験において,尿失禁回数,最大膀胱容量,最大排尿筋圧,膀胱コンプライアンスなどで有意な改善を認めている.

・有害事象として残尿量増加,尿閉,尿路感染症に注意する.

消化管利用膀胱拡大術

著者: 東武昇平 ,   野口満

ページ範囲:P.316 - P.321

▶ポイント

・使用する消化管の部位は術者の好みと経験も加味されるが,一般的には回腸>S状結腸>胃の順番で考慮される.

・消化管利用膀胱拡大術に携わる医師は,消化管の部位によって異なる長所と短所に精通すべきである.

・長期間の経過で発生する合併症にも注意が必要である.

尿失禁防止術

著者: 中村繁

ページ範囲:P.322 - P.329

▶ポイント

・個々の患者における尿失禁防止術の適応は,慎重に決めなければならない.

・個々の患者において,どのような尿失禁防止術が最適かを決定する際には,すでに報告されてきた治療法のエビデンスレベルが低いため,統一性のない結果をわれわれが自ら解釈しなければいけない.

・膀胱流出路に対する膀胱頸部再建術は,小児泌尿器科領域のなかでも最も難しく専門性を試される術式である.

洗腸路造設術

著者: 西盛宏 ,   江浦瑠美子 ,   山崎雄一郎

ページ範囲:P.330 - P.335

▶ポイント

・神経因性大腸を有する患者にとって,洗腸は効果的な排便管理方法である.

・順行性洗腸は手術を要するものの,患者自立支援につながり,満足度の高い排便管理方法である.

・便失禁は尿失禁と同等以上に患者QOLを低下させるため,排尿だけでなく排便についても注意を払い,管理すべきである.

書評

誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた[Web動画付]―松田光弘 著 フリーアクセス

著者: 野口善令

ページ範囲:P.308 - P.308

 私は総合診療医ですが,体系的な皮膚科の教育を受けたことのない世代でもあり皮疹の診断は苦手です.

 皮疹の診断ができるといいと思いつつも,勉強してもなかなかすっきりわかるようになりませんでした.

臨床研究 21の勘違い―福原俊一,福間真悟,紙谷司 著 フリーアクセス

著者: 吉村芳弘

ページ範囲:P.336 - P.336

 目次を眺めたら我慢できなくなり,寝食を忘れて最後まで一気に読んだ.時が経つのを忘れるほど読書に熱中したのは久しぶりだ.著者の一人である福原俊一先生は過去の自著『臨床研究の道標』(健康医療評価研究機構,2013年)の中で,臨床の「漠然とした疑問」を「研究の基本設計図」へ昇華する方法を説いた.本書は実質的にその続編に位置される(と私は思う).臨床研究を行っている,あるいはこれから行おうとしている医療者への鋭いメッセージが健在である.

 「すべての疑問はPECOに構造化できる?」「新規性=よい研究?」「『後ろ向き』なコホート研究?」「横断研究は欠陥だらけ?」「比較すれば問題なし?」「多変量解析は万能?」「バイアスって何?」「P値が小さいほど,効果が大きい?」などなど…….

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.257 - P.257

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.341 - P.341

編集後記 フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.342 - P.342

 「やっぱり所見がありますね.」MRIの画像に映る白い輪郭を指でたどりながら医師は説明しました.

 「肩関節周囲炎,いわゆる五十肩です.最近肩を強くぶつけたことはなかったですか?」「うーん.覚えがないですね.酔っ払ってぶつけているのかもしれません.そんな気がしてきました.」「五十肩って抜群のネーミングなんですよ.60代では起こらないんです.」「へー.確かに私は52歳です.」「腕のいい理学療法士の先生がいます.リハビリ科に紹介しますので,私の診察は今日で終了です.完全に治るのには時間がかかりますので,焦らずに頑張ってください.」

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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