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雑誌目次

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臨床泌尿器科77巻3号

2023年03月発行

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特集 最新版! 筋層浸潤性膀胱癌の診断と治療―アンメットニーズはどこまで埋まったか 企画にあたって

最新版! 筋層浸潤性膀胱癌の診断と治療―アンメットニーズはどこまで埋まったか フリーアクセス

著者: 中川徹

ページ範囲:P.217 - P.217

 転移のない筋層浸潤性膀胱癌に対する標準治療は言うまでもなく膀胱全摘術であり,不幸にも転移再発を生じた場合はプラチナ製剤による全身化学療法が実施されてきました.しかし膀胱全摘術後の5年生存率は50%程度と,到底満足のいくものではありません.また,膀胱全摘術は侵襲性が高く,特に高齢患者では合併症が懸念されます.さらに,化学療法は当初奏効してもいずれ不応となります.高齢の患者に手術は安全に実施できるのか? 予後を改善する周術期治療は? 一次化学療法が無効となった後の対応策は? これらの課題は永らく大きな進歩がなく,膀胱癌の診療における大きな未解決課題,“アンメットニーズ”でした.

 近年,筋層浸潤性膀胱癌の診断・治療に大きな変化の風が吹いています.画像診断による深達度評価,ロボット手術による膀胱全摘術の低侵襲化,新たな周術期薬物療法,有効な二次・三次治療薬の承認などです.ロボット手術や免疫チェックポイント阻害薬は,前立腺癌や腎細胞癌での経験をもとに,膀胱癌に対しても保険収載後は急速に普及しています.また,切除を全摘術ではなく部分切除にとどめQOLを維持した治療法も模索されています.分子生物学的背景の解明に基づくリキッドバイオプシーも,低侵襲かつ高感度な診断法として将来の臨床応用が期待されています.

〈診断〉

膀胱癌の画像診断の進歩―VI-RADSの概要と今後の展望

著者: 有田祐起 ,   鳴海善文 ,   上田亮 ,   大家基嗣 ,   陣崎雅弘

ページ範囲:P.218 - P.225

▶ポイント

・VI-RADS(vesical imaging-reporting and data system)は2018年に提唱された,膀胱癌における筋層浸潤の確率を評価する標準化レポーティングシステムである.

・VI-RADSは提唱から数年が経過し,有用性を証明する多くの検証論文が報告され,今後のさらなる普及が見込まれる.

・VI-RADSが従来のTURBT(transurethral resection of bladder tumor)を主体とした診療に組み込まれることで,より低侵襲で的確な筋層浸潤の有無の評価が行えるようになり,膀胱癌診療の質の向上につながることが期待される.

〈治療〉

筋層浸潤性膀胱癌に対する周術期全身療法―ネオアジュバント・アジュバント治療の進歩

著者: 畠山真吾

ページ範囲:P.226 - P.233

▶ポイント

・筋層浸潤性膀胱癌(MIBC)に対する周術期全身療法は,VESPER試験やCheckmate-274試験を受け,標準治療はネオアジュバント化学療法+膀胱全摘除術+アジュバント免疫療法へとシフトしている.

・現在進行中のペムブロリズマブとエンフォルツマブ・ベドチンの試験結果が報告されれば,シスプラチン不適格症例の標準治療が変わる可能性がある.

高齢の筋層浸潤性膀胱癌患者に対する膀胱全摘手術:RARC

著者: 西川涼馬 ,   森實修一 ,   武中篤

ページ範囲:P.234 - P.242

▶ポイント

・高齢者における全身状態の個人差は大きく,年齢のみではなく複数の観点から客観的に評価するべきである.

・リスクの高い高齢者においては,ロボット支援膀胱全摘除術(RARC)の術式の部分的な省略を検討すべき場合がある.患者において何が優先されるかを常に考える.

・術後せん妄は予後に影響しうる合併症で,多職種連携による適切なマネジメントが重要である.

筋層浸潤性膀胱癌の手術―尿路変向

著者: 中根慶太 ,   飯沼光司 ,   古家琢也

ページ範囲:P.244 - P.248

▶ポイント

・回腸導管も新膀胱も,健康関連QOLでは差がないとしている報告が多い.

・患者の背景に配慮した尿路変向の選択が重要である.

・体腔内尿路変向術(ICUD)では,腸管の取り扱いに特に注意が必要である.

筋層浸潤性膀胱癌に対する膀胱温存療法

著者: 田中一 ,   藤井靖久

ページ範囲:P.250 - P.256

▶ポイント

・筋層浸潤性膀胱癌に対する標準治療は膀胱全摘除であるが,大きな手術侵襲と尿路変向による生活の質の低下を伴うため,これが不適な患者,あるいは膀胱の温存を希望する患者が存在する.

・適切な症例選択のもと,筋層浸潤性膀胱癌に対する根治治療の1つとして3者併用膀胱温存療法が確立しつつある.

・化学放射線療法反応性の予測,治療プロトコルのさらなる改良と標準化が,膀胱温存療法の課題である.

M1筋層浸潤性膀胱癌に対する全身療法

著者: 濵田彬弘 ,   北悠希 ,   佐野剛視 ,   小林恭

ページ範囲:P.258 - P.265

▶ポイント

・分子標的薬や免疫治療薬が主流となりつつある現在でも,膀胱癌全身治療の第一選択はプラチナ製剤併用化学療法である.

・免疫治療薬特有の副作用,治療効果判定に習熟する必要がある.

・現在確立されている三次治療までの逐次治療を有効に行うため,薬剤治療切り替えのタイミングが重要である.

転移性膀胱癌に対する三次薬物治療

著者: 北野剛士 ,   小島崇宏

ページ範囲:P.266 - P.272

▶ポイント

・転移性膀胱癌に対する三次治療として,2021年に抗体薬物複合体(ADC)製剤であるenfortumab vedotin(EV)が国内承認された.

・EVのほかにADC製剤として,HER2-ADCやTROP2-ADCといったさまざまな薬剤開発が盛んに行われている.

・がんゲノム医療の普及によりFGFR阻害薬などの治療選択が増えれば,三次治療以降の治療体系も今後大きく変わる可能性がある.

〈トピックス〉

膀胱癌の分子病型分類

著者: 藤井陽一

ページ範囲:P.274 - P.280

▶ポイント

・分子病型分類はゲノム異常のデータからバイオインフォマティクスを用いて導かれるが,そこに臨床的意義,生物学的意義,分類の簡便さを伴って初めて臨床的実用性をもつ.

・膀胱癌では遺伝子発現による分類が複数報告されている一方,腎盂尿管癌では遺伝子変異による分類が非常に適している.

・今後,尿路上皮癌の臨床における分子病型分類の重要性が増してくると考えられる.

血中循環腫瘍細胞や血中・尿中cell-free DNAを用いた低侵襲な診断法

著者: 林裕次郎 ,   藤田和利

ページ範囲:P.282 - P.287

▶ポイント

・尿路上皮癌では血漿中だけでなく,尿中cell-free DNA解析も有用である.

・Cell-free DNAのエビデンスは蓄積しつつあり,今後は新規薬剤とのコンパニオン診断や治療後経過観察に使用される可能性がある.

・血中循環腫瘍細胞は解析技術の進歩によりさらに発展が期待できる領域である.

綜説

過活動膀胱診療―新時代を迎えて

著者: 羽賀宣博 ,   坪内和女 ,   中川千鶴 ,   立花昌寛 ,   麻生信太郎 ,   藤川愛子 ,   郡家直敬 ,   宮崎健 ,   岡部雄 ,   松崎洋吏 ,   中村信之 ,   松岡弘文

ページ範囲:P.209 - P.216

要旨

 過活動膀胱(OAB)という疾患概念が誕生して,約20年が経過した.時代の経過とともに,OABの病態の解明が進み,また,新規治療法が次々に開発され,保険収載されたことにより,OAB治療の新時代が到来したといっても過言ではない.一方で,OAB治療に対して新たな問題も生じてきている.最近では,新型コロナウイルス感染症のパンデミック下におけるOABへの対応や,OAB患者における夜間頻尿に対する薬物治療,さらに,超高齢社会を迎えて,フレイルやサルコペニアを有する患者に対するOAB治療など,われわれが改善しなければならない問題が山積されている.本稿では,新時代を迎えた過活動膀胱診療の現状と問題点,また,それに対する対応などについて概説する.

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ページ範囲:P.207 - P.207

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.292 - P.292

次々号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.293 - P.293

編集後記 フリーアクセス

著者: 小島祥敬

ページ範囲:P.294 - P.294

 皆さん,「ぐぐるプロジェクト」ってご存知ですか? 「ぐぐる」とは,「つむぐ,つなぐ,つたわる.」の語尾をとった造語のようです.環境省が,福島第一原発事故以降,放射線に係る健康影響への不安を抱える住民等に対するリスクコミュニケーションを実施するとともに,放射線の健康影響に関する風評を払拭するため,正確な情報を全国に発信するために立ち上げたプロジェクトです(環境省HP引用).

 先日「ぐぐるプロジェクト」のひとつである「ラジエーションカレッジ公開講座」にパネリストとして参加しました.本公開講座は,学生や社会人向けに,放射線の健康影響や差別・偏見のない社会づくりに関するトピックを取り上げる環境省主催のセミナーです.今回は「“安全”ということを伝えることの難しさ」をテーマとしており,アカデミアの視点で科学論文の問題点と正しい情報を伝えることの難しさについてコメントしました.デザインや結論が誤った論文が世の中にたくさんあり,それに対する反論論文や反論コメントもたくさんあるにもかかわらず,誤った論文でもインパクトが強いと先行してマスコミ報道されやすい一方で,その反論論文は報道されることはありません.そのため一般の人々の誤解を招き結果として風評被害を招くことを,具体的な事例を挙げながら説明しました.パネルディスカッションのあと,教育用講演ビデオの録画撮影も合わせて行いました.「正しい科学論文の読み方—科学的根拠とその落とし穴—」というタイトルで,科学論文の作成・査読過程,科学論文の問題点,査読の限界や論文の正しい読み方について講演しYouTubeで配信されています.2019年に行われたアンケート調査によると,東京都民の約40%が,福島県民から先天異常の子どもが生まれてくると誤解をしているようです.驚愕の結果で,まさに風評被害そのものです.私の講演も,一般の人々に情報を読み解く力と風評にまどわされない判断力を身につけていただくことを目的としたものでした.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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