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雑誌目次

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臨床泌尿器科78巻2号

2024年02月発行

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特集 夜間頻尿に対する治療戦略―クリニカルイナーシャからの解放 企画にあたって

夜間頻尿に対する治療戦略―クリニカルイナーシャからの解放 フリーアクセス

著者: 古田昭

ページ範囲:P.91 - P.91

 本特集では,夜間頻尿におけるクリニカルイナーシャ(clinical inertia : 臨床的惰性・慣性)について,泌尿器科医のみならず,脳神経内科医や循環器内科医の立場からもご解説をいただいた.それぞれの論文を読むとクリニカルイナーシャの具体例として,夜間頻尿では飲水指導や塩分制限,運動療法や睡眠リズムの確立といった行動療法が有効(first-line therapy)であることは知っているが忙しい臨床のなかでは実行できていないこと,多尿・夜間多尿の診断にはガイドライン上も排尿記録が必要不可欠であることは知っているが医師も患者も記録が煩雑なため実際には活用していないこと,夜間頻尿のなかで多尿・夜間多尿が最も多い病態であることは知っているが膀胱蓄尿障害(過活動膀胱や前立腺肥大症)に対する治療を優先してしまっていること,男性の夜間多尿による夜間頻尿に対して低用量デスモプレシン薬物療法が有効である(推奨されている)ことを知ってはいるが副作用(低ナトリウム血症など)が心配で実際には処方していないこと,などが実感される.

 このようなクリニカルイナーシャに対する解決策として,本特集では夜間頻尿の代表的病態である多尿・夜間多尿,膀胱蓄尿障害,睡眠障害に対する治療戦略について詳細に解説するとともに,超高齢社会を迎えて大きな社会的問題となっているフレイルや認知症に関しても専門家よりご寄稿いただいた.さらに,本特集の後半では,「夜間多尿に対するリアルワールドの治療戦略」として,現在男性のみに保険適用となっている低用量デスモプレシン(ミニリンメルト®)薬物療法のtips&tricksと長期間服薬を継続するコツ,女性の夜間多尿による夜間頻尿に対する具体的な治療戦略について,明日からの実臨床ですぐに役立つ内容をまとめてある.

〈総論〉

夜間頻尿に対する診療アルゴリズム

著者: 𠮷澤剛 ,   髙橋悟

ページ範囲:P.92 - P.98

▶ポイント

・『夜間頻尿診療ガイドライン[第2版]』では一般医向けアルゴリズム(排尿日誌を使用しない場合),泌尿器科専門医向けアルゴリズム(排尿日誌を使用する場合),多尿・夜間多尿の有無に応じたアルゴリズム1〜3が提示された.

・本来であれば,デスモプレシンを使うべき夜間多尿症例に対して,膀胱蓄尿障害の治療を優先している可能性がある.

〈夜間頻尿の病因・病態に基づいた治療戦略〉

多尿,夜間多尿に対する治療戦略

著者: 松尾朋博 ,   今村亮一

ページ範囲:P.100 - P.105

▶ポイント

・泌尿器科専門医として多尿,夜間多尿の治療戦略を立てるためには排尿日誌を細かく分析する必要がある.

・治療としては行動療法を第一選択とし,効果がない場合には他疾患による影響がないか改めて検討する.

・夜間多尿による夜間頻尿に対する治療薬としては,現状デスモプレシンのみが保険適用で,その使用も男性に限られる.

膀胱蓄尿障害に対する治療戦略

著者: 鳥本一匡 ,   後藤大輔 ,   藤本清秀

ページ範囲:P.106 - P.111

▶ポイント

・過活動膀胱(OAB)に対する薬物療法の選択は,認知機能障害など多剤併用による有害事象に配慮する場合,抗コリン薬よりβ3受容体作動薬を優先する.

・前立腺肥大症(BPH)が重症で手術の合併症リスクが高い高齢者でも,低侵襲な術式が選択できるようになった.

・ハンナ型間質性膀胱炎(HIC)は症状が強いため,経験豊富な医師による適切な診断と治療が望ましい.

睡眠障害に対する治療戦略―『夜間頻尿ガイドライン[第2版]』に基づいて

著者: 秋元隆宏 ,   宮里実

ページ範囲:P.112 - P.118

▶ポイント

・睡眠障害の症状の1つである中途覚醒は夜間頻尿を起こしやすく,健常でも年齢とともに睡眠の質は低下して中途覚醒は生じやすくなる.

・睡眠障害にはさまざまな原因があり,その原因と悪循環を形成して慢性化しやすいため積極的な治療が重要である.

・睡眠薬は安易に使用せず,休薬や他科紹介までの出口戦略を事前に考慮して使用する.

〈夜間頻尿に関連する疾患〉

循環器疾患と夜間頻尿との関連

著者: 大石充

ページ範囲:P.120 - P.126

▶ポイント

・夜間頻尿・多尿は畜尿障害だけではなく,夜間尿産生が亢進することによって発症することもある.

・尿産生亢進には高血圧によりナトリウム(Na)利尿と心不全による水利尿がある.

・尿産生亢進による夜間頻尿のうち,高血圧はサイアザイド系降圧利尿薬でNa排泄を促し,心不全はループ利尿薬で水分排泄を促すことで改善しうる.

フレイルと過活動膀胱による夜間頻尿との関連

著者: 野宮正範 ,   西井久枝 ,   渡邉亮典

ページ範囲:P.128 - P.134

▶ポイント

・フレイルと過活動膀胱/夜間頻尿は,いずれも加齢を背景に多因子が関与し,共通する要因も多く,直接的,間接的に影響を与え,双方向の関係性を有している.

・高齢者の過活動膀胱/夜間頻尿は,歩行速度の低下と関連し,転倒の重要なリスク因子である.

・生活指導を含む行動療法が重要な初期治療であり,身体機能トレーニングを含めることを考慮すべきである.

・フレイル高齢者の過活動膀胱薬物療法は,β3作動薬が第一選択薬と考えられる.

認知機能障害と夜間頻尿との関連

著者: 榊原隆次

ページ範囲:P.136 - P.141

▶ポイント

・認知症の3大原因疾患〔かくれ脳梗塞(WMD),アルツハイマー病(AD),レヴィ小体型認知症(DLB)/パーキンソン病(PD)〕は,中枢性に過活動膀胱(OAB)を来す.

・DLB/PDは中枢性に夜間多尿を来し,WMDは全身性に夜間多尿を合併する可能性がある.

・中枢性コリン作動薬のOAB増悪は少ない.抗コリン薬は認知症増悪の懸念がある.

・不眠は不安症によることが多く,高齢者では穏やかな薬から開始するとよい.

〈夜間多尿(NP)に対するリアルワールドの治療戦略〉

男性NPに対するデスモプレシン薬物療法のtips&tricks

著者: 古田昭 ,   五十嵐太郎 ,   木村高弘

ページ範囲:P.142 - P.146

▶ポイント

・WEBサイトなどを上手に利用して,夜間多尿をきちんと診断・治療する.

・やせ型で治療前の血清ナトリウム値が140mEq/mL未満の場合,デスモプレシン療法による低ナトリウム血症を発症するリスクが高い.

・デスモプレシン療法による低ナトリウム血症の早期診断には,問診や採血のほかに体重測定が有用である.

男性NPに対するデスモプレシン薬物療法の長期使用成績

著者: 黒瀬浩文 ,   井川掌

ページ範囲:P.148 - P.153

▶ポイント

・デスモプレシンは,治療に難渋していた夜間多尿を伴う夜間頻尿患者に新たな選択肢を与える福音(gospel)になりうる薬剤である.

・低ナトリウム血症は投与開始1か月以内の発生が大半であり,適切な管理を行えば副作用を過剰に恐れる必要はない.

・排尿日誌の積極的な活用が,夜間頻尿患者のQOLを改善するfirst stepとなりうる(クリニカルイナーシャになっていませんか?).

本邦における女性NPに対する治療戦略

著者: 山本恭代 ,   古川順也

ページ範囲:P.154 - P.159

▶ポイント

・女性の夜間多尿の診断,治療には飲水量,排尿時間,排尿量を記載する排尿日誌の記載が必須である.

・治療は,就寝3〜4時間前からの飲水制限やカフェイン,アルコール制限を中心とした生活指導が中心となる.

・蓄尿障害を合併している症例では,過活動膀胱(OAB)治療薬が有用である.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.89 - P.89

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.163 - P.163

編集後記 フリーアクセス

著者: 近藤幸尋

ページ範囲:P.164 - P.164

 皆様,年賀状を今年は出しましたでしょうか.

 昨年12月初めのころから「昨今のデジタル環境への移行および地球環境への配慮から,来年以降の年始のご挨拶を控えさせていただくことにいたしました.」というはがきが多くの泌尿器科学教室から私の教室に届けられました.われわれの業界に限らず,近年特に若い人の年賀状の送付数は減少の一途を辿っています.デジタル技術の進化やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の普及により,人々のコミュニケーションのスタイルが大きく変わりつつあります.電子メールやメッセージアプリを利用することで瞬時に相手にメッセージを伝えることができるようになり,これも手紙やはがきを使った伝統的なやり取りが次第に減少しています.仕事や日常生活の忙しさからくる時間の制約も,手書きの年賀状を送る意欲を削り落としている一因となるようです.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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