icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床泌尿器科78巻7号

2024年06月発行

雑誌目次

特集 キャッチアップ精巣腫瘍―今,知っておくべき進歩 企画にあたって

キャッチアップ精巣腫瘍―今,知っておくべき進歩 フリーアクセス

著者: 植村元秀

ページ範囲:P.429 - P.429

 精巣腫瘍はわが国では希少がんに分類され,エビデンスに乏しい領域もありますが,泌尿器科医にとって重要な疾患であり,日頃から最新の情報に触れておく必要があります.本誌では2016年の精巣腫瘍の特集(70巻7号「進行期精巣腫瘍の診療―難治症例に挑む」)以来,8年振りに臨床家が知っておくべき知識をアップデートする企画となります.この間,診断・治療に多くの進歩がありました.

 本年2月には,『精巣癌診療ガイドライン2024年版』が発刊され,ガイドラインが9年振りに随分とアップデートされました.本特集では,精巣腫瘍の病理,画像診断,手術,薬物療法,放射線療法について,それぞれを担当された改訂委員会の委員の先生方にオーバービューをご解説いただきました.さらに,トピックスとして,ガイドライン改訂委員会委員長の河合弘二先生には,改訂のポイントをまとめていただきました.

〈オーバービュー〉

精巣腫瘍の病理アップデート

著者: 都築豊徳

ページ範囲:P.430 - P.438

▶ポイント

・胚細胞腫瘍は発症時期(思春期前か後か)により分類および悪性度が異なる.

・胚細胞腫瘍の診断にはGCNISの存在の有無が重要である.

・AJCCとUICC第8版ではpTNM分類にいくつかの相違点がある.

精巣腫瘍の画像診断の進歩―超音波検査を中心に

著者: 丸上永晃

ページ範囲:P.440 - P.445

▶ポイント

・精巣腫瘍の初期診療における画像診断の第一選択は超音波であり,MRIは超音波で診断が困難であった場合の補足的な役割を果たす.

・高周波プローブや低流速血流表示法を用いると,精巣の超音波画像は劇的に向上しうる.

・最新のCT装置では被ばく低減技術が向上しているものの,若年者に多い精巣癌診療では検査に伴う被ばくに関してより慎重でなくてはならない.

・半導体PET/CTは空間分解能の向上が得られ,今後の精巣癌診療にも寄与しうる可能性がある.

精巣腫瘍手術の注意点―高位精巣摘除と化学療法後の残存腫瘍切除

著者: 中村晃和

ページ範囲:P.446 - P.451

▶ポイント

・高位精巣摘除術では,術後腫瘍マーカーの正常化や最低値を確認し,治療の継続の要否を判断する.

・後腹膜リンパ節郭清術では,神経温存を検討し,温存を意識した手術を行う.

・後腹膜リンパ節以外の転移巣も残存している場合は,切除の可能性を検討し,可能な限り完全切除を目指す.

・最後の仕上げである残存腫瘍切除が円滑に施行できるように化学療法中から複数科によるチームを形成し術式や切除範囲を検討してゆく.

精巣腫瘍の薬物療法(全身化学療法)の進歩

著者: 原勲

ページ範囲:P.452 - P.461

▶ポイント

・転移性精巣腫瘍は抗がん薬に対する感受性がきわめて良好であり,標準治療とされるBEP療法を適切に施行することにより70〜80%の症例で完治が期待できる.

・ブレオマイシンの肺毒性を避けたい症例ではBEP療法3コースの代替としてはEP療法4コースが,BEP療法4コースの代替としてはVIP療法4コースが推奨される.

・救済化学療法としてパクリタキセルを含んだTIP療法が施行されている.

・大量化学療法に関して導入化学療法としての意義は限定的である.救済化学療法としてTIP療法とのランダム化比較試験が現在進行中である.

精巣腫瘍の放射線治療の位置づけ

著者: 中村清直 ,   溝脇尚志

ページ範囲:P.462 - P.465

▶ポイント

・ステージⅠセミノーマに対する高位精巣摘除術後の放射線治療は,経過観察や補助化学療法と並んで標準治療の位置づけであったが,『精巣癌診療ガイドライン2024年版』では行わないことを推奨する(推奨の強さ : 弱い)に変更となった.

・経過観察および補助化学療法に比べ二次発がんなどの晩期有害事象が多く,リスクとベネフィットが合わないことがその原因である.

・後腹膜リンパ節転移を伴うステージⅡA/Bセミノーマへの術後放射線治療は,多剤併用化学療法と同等の効果とされており,『精巣癌診療ガイドライン2024年版』でも同列として記載されている.

〈トピックス〉

『精巣癌診療ガイドライン2024年版』改訂のポイント

著者: 河合弘二

ページ範囲:P.466 - P.468

▶ポイント

・IGCCC分類はリスク評価として重要である.

・精巣腫瘍予後不良群の治療成績が向上しつつある.

・病期Iセミノーマに対する術後補助放射線療法の意義は再検証する必要がある.

精巣胚細胞腫瘍の原因となりうる遺伝子変異の解析

著者: 岸田健

ページ範囲:P.470 - P.474

▶ポイント

・若年・同胞発症頻度の高い精巣腫瘍は遺伝的要素が関わっていると想定される.

・これまでの研究では特定の遺伝子によるのではなく,複数の遺伝子が複雑に関連して発症すると推定されている.

・microRNA-371-a-3pは診断,治療効果予測に有用な腫瘍マーカーとなりうる.

EAU(欧州泌尿器科学会)精巣癌ガイドラインによるセミノーマの予後因子

著者: 松井喜之

ページ範囲:P.476 - P.480

▶ポイント

・腫瘍径と精巣網浸潤はステージⅠセミノーマの予後因子と考えられるが,経過観察後の再発症例でも98〜99%の治癒が可能であり,両因子による術後補助化学療法の適応決定は行うべきではない.

・International Germ-Cell Cancer Collaborative Group(IGCCCG)リスク分類において予後良好群に分類される進行性セミノーマは,乳酸脱水素酵素(LDH)の値によって,さらに予後が二分される.

・進行性セミノーマにおけるFDG(2-fluoro-deoxy-D-glucose)-PET(positron emission tomography)は3cm以上の残存腫瘍において有用性が高いとされているが,陽性反応的中率はそこまで高くない可能性があり解釈に注意を要する.

IGCCC update

著者: 永原啓 ,   中山雅志 ,   西村和郎

ページ範囲:P.482 - P.487

▶ポイント

・IGCCCG-Update Consortiumより1990年から2013年までの症例群での進行性胚細胞腫瘍の治療成績が報告された.

・セミノーマについては,1997年の報告と比べ無増悪生存率(PFS)・全生存率(OS)ともに改善が確認され,good prognosis群においては治療前血清乳酸脱水素酵素(LDH)値の正常上限の2.5倍を超えた上昇が新規予後不良因子として同定された.

・非セミノーマについては特にpoor prognosis群におけるPFSおよびOSの改善が確認され,従来の予後不良因子に加えて治療時年齢と肺転移の存在が新規予後不良因子として同定された.

予後良好な進行性セミノーマの化学療法

著者: 河野勤

ページ範囲:P.488 - P.492

▶ポイント

・予後良好群進行性セミノーマにおける標準的化学療法は,BEP療法3コースあるいはEP療法4コースである.

・予後良好群の予後は,IGCCCGのアップデート解析によると,5年無増悪生存割合が89%にまで改善している.

・効果を維持しながら毒性をさらに軽減する治療法(de-escalation)の研究が進行している.

シスプラチン誘発神経毒性の臨床的およびゲノムワイド解析

著者: 上田崇 ,   奥見雅由 ,   浮村理

ページ範囲:P.494 - P.499

▶ポイント

・Platinum studyはシスプラチン治療を施行された精巣腫瘍患者における長期的な健康状態を調査し,主に聴神経障害と末梢神経障害の遺伝的要因を探索する目的で設立された.

・シスプラチン誘発神経毒性に関連する遺伝子としてWFS1遺伝子,OTOS遺伝子,RPRD1B遺伝子,FAM20C遺伝子などが報告されている.

・シスプラチンによる神経毒性に関与する非遺伝的要因として,シスプラチン投与量,年齢,喫煙,降圧剤の使用などが挙げられる.

精巣がんサバイバーにおける経済毒性とQOLの関連性

著者: 山下慎一 ,   祢津晋久

ページ範囲:P.500 - P.503

▶ポイント

・精巣腫瘍は転移を有する場合でも適切な集学的治療で長期生存が期待できるため,精巣がんサバイバーのQOLは重要な課題である.

・化学療法を受けた精巣がんサバイバーは経済毒性に陥りやすく,QOLが低下しやすい.

・化学療法を行う場合はQOLを向上させるために経済的な負担にも気を配りながら治療早期から精巣がんサバイバーシップを実践することが重要である.

学会印象記

「第39回EAU」印象記

著者: 赤井畑秀則

ページ範囲:P.504 - P.505

福島県立医科大学医学部泌尿器科学講座の赤井畑秀則と申します.今回,2024年4月5日〜4月8日にパリで開催された第39回欧州泌尿器科学会総会(the 39th Annual European Association of Urology Congress)に参加してきましたので,その印象記を書かせていただきます.

 パリには日本からフランクフルトを経由して向かいましたが,17時間くらいかかりました.エコノミークラス症候群になっては話にならないので,こまめに足を動かして予防に務めました.午前9時ごろにパリに着いたのですが,その時は気持ちのいい晴天でした.ですが,ほどなくして天気はくもりときどき雨というすっきりしないものとなり,フランス滞在中はずっとそんな天気が続きました.フランスの方はそのような天気に慣れているのか,日本なら傘をさすような雨でもそれほど気にする風ではなく歩いている方が多かったです(たしかにすぐに雨はやみました).また,日本と比べ少し肌寒かったのでコート着用で行動していました.パリの道路は渋滞が多いようで,滞在期間中はいつも道路が車で覆いつくされていました.そのためだと思いますが,パリに住む人たちは地下鉄が主な移動手段となっているようでした.会場のParis Expo Porte de Versaillesという施設にも地下鉄でのアクセスが最短でした.地下鉄は,平日は通勤のためか結構混んでいたので会場に行くまでに疲れてしまいましたが,休日は比較的すいていたので楽に学会会場まで行けました.日本を出る前にインターネットでパリの治安を調べたら「すりが多いから注意が必要」と記載されていたので,地下鉄にはビクビクしながら乗ったのですが,特に怖い思いはしませんでした(後で現地の人に聞いたら,「たしかにすりは多いけど,人を襲うようなすりはいないから荷物をちゃんと持っていれば心配ないよ」と教えていただきました).

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.427 - P.427

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.511 - P.511

編集後記 フリーアクセス

著者: 小島祥敬

ページ範囲:P.512 - P.512

 私は子どものころからの大の巨人ファンです.2020年を最後に優勝から遠ざかっていますが,今年は投手陣,特にリリーフ陣が整備され,無難なスタートを切っています.

 もともと岐阜県出身のため,父親の影響もあり,実は6歳までは中日ドラゴンズのファンでした.♬一番高木が塁に出て 二番谷木が送りバント 三番井上タイムリー 四番マーチンホームラン いいぞ!がんばれドラゴンズ燃えよドラゴンズ!!♬.今でも当時の中日ドラゴンズの応援歌は口ずさむことができます.しかし7歳のときに王貞治選手がベーブ・ルースの記録を超える715号ホームランを打った瞬間に,中日ファンから巨人ファンに鞍替えしました.当時は長嶋茂雄監督でした.特に私が最も熱を入れたのは中学生から大学生くらいのときで,当時は江川卓投手,西本聖投手など豪華な投手陣,キャッチャー山倉和博選手,ファースト中畑清選手,セカンド篠塚利夫選手,サード原辰徳選手,外野にはクロマティ選手がいました.その後1989年の近鉄との日本シリーズで,巨人が3連敗後4連勝で日本一になった試合は,私にとってベストゲームです.テレビの前で正座をしてテレビにかじりついていたことが昨日のことのように思い出されます.巨人ファンになってから45年以上の歳月が流れましたが,今だに巨人が勝ったか負けたかで一喜一憂する毎日を送っています.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

76巻13号(2022年12月発行)

特集 これだけは知っておきたい! 泌尿器科診療でも活きる腎臓内科の必須知識

76巻12号(2022年11月発行)

特集 ブレずに安心! 尿もれのミカタ

76巻11号(2022年10月発行)

特集 限局性前立腺癌診療バイブル―このへんでキッチリと前立腺癌診療の“あたりまえ”を整理しよう!

76巻10号(2022年9月発行)

特集 男性不妊診療のニューフロンティア―保険適用で変わる近未来像

76巻9号(2022年8月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)の手術療法―臨床現場の本心

76巻8号(2022年7月発行)

特集 泌尿器腫瘍における放射線治療―変革期を迎えた令和のトレンド

76巻7号(2022年6月発行)

特集 トラブルゼロを目指した泌尿器縫合術―今さら聞けない! 開放手術のテクニック

76巻6号(2022年5月発行)

特集 ここまで来た! 腎盂・尿管癌診療―エキスパートが語る臨床の最前線

76巻5号(2022年4月発行)

特集 実践! エビデンスに基づいた「神経因性膀胱」の治療法

76巻4号(2022年4月発行)

増刊号特集 専門性と多様性を両立させる! 泌尿器科外来ベストNAVI

76巻3号(2022年3月発行)

特集 Female Urologyの蘊奥―積み重ねられた知恵と技術の活かし方

76巻2号(2022年2月発行)

特集 尿路性器感染症の治療薬はこう使う!―避けては通れないAMRアクションプラン

76巻1号(2022年1月発行)

特集 尿道狭窄に対する尿道形成術の極意―〈特別付録Web動画〉

75巻13号(2021年12月発行)

特集 困った時に使える! 泌尿器科診療に寄り添う漢方

75巻12号(2021年11月発行)

特集 THEロボット支援手術―ロボット支援腎部分切除術(RAPN)/ロボット支援膀胱全摘除術(RARC)/新たな術式の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻11号(2021年10月発行)

特集 THEロボット支援手術―現状と展望/ロボット支援前立腺全摘除術(RARP)の徹底理解〈特別付録Web動画〉

75巻10号(2021年9月発行)

特集 今こそ知りたい! ロボット時代の腹腔鏡手術トレーニング―腹腔鏡技術認定を目指す泌尿器科医のために〈特別付録Web動画〉

75巻9号(2021年8月発行)

特集 ED診療のフロントライン―この一冊で丸わかり!

75巻8号(2021年7月発行)

特集 油断大敵! 透析医療―泌尿器科医が知っておくべき危機管理からトラブル対処法まで

75巻7号(2021年6月発行)

特集 前立腺肥大症(BPH)薬物治療のニューノーマル―“とりあえず”ではなくベストな処方を目指して

75巻6号(2021年5月発行)

特集 躍動するオフィスウロロジー―その多様性に迫る!

75巻5号(2021年4月発行)

特集 前立腺癌のバイオロジーと最新の治療―いま起こりつつあるパラダイムシフト

75巻4号(2021年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科当直医マニュアル

75巻3号(2021年3月発行)

特集 斜に構えて尿路結石を切る!―必ず遭遇するイレギュラーケースにどう対処するか?

75巻2号(2021年2月発行)

特集 複合免疫療法とは何か? 腎細胞癌の最新治療から学ぶ

75巻1号(2021年1月発行)

特集 朝まで待てない! 夜間頻尿完全マスター

74巻13号(2020年12月発行)

特集 コロナ時代の泌尿器科領域における感染制御

74巻12号(2020年11月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈下部尿路機能障害/小児・女性・アンドロロジー/結石・感染症/腎不全編〉

74巻11号(2020年10月発行)

特集 泌尿器科医のためのクリニカル・パール―いま伝えたい箴言・格言・アフォリズム〈腫瘍/処置・救急・当直編〉

74巻10号(2020年9月発行)

特集 令和最新版! 泌尿器がん薬物療法―手元に置きたい心強い一冊

74巻9号(2020年8月発行)

特集 泌尿器腫瘍の機能温存手術―知っておくべき適応と限界

74巻8号(2020年7月発行)

特集 これが最新版! 過活動膀胱のトリセツ〈特別付録Web動画〉

74巻7号(2020年6月発行)

特集 小児泌尿器科オープンサージャリー―見て学ぶプロフェッショナルの技〈特別付録Web動画〉

74巻6号(2020年5月発行)

特集 高齢患者の泌尿器疾患を診る―転ばぬ先の薬と手術

74巻5号(2020年4月発行)

特集 ここが変わった! 膀胱癌診療―新ガイドラインを読み解く

74巻4号(2020年4月発行)

増刊号特集 泌尿器科診療の最新スタンダード―平成の常識は令和の非常識

74巻3号(2020年3月発行)

特集 泌尿器科手術に潜むトラブル―エキスパートはこう切り抜ける!

74巻2号(2020年2月発行)

特集 いま話題の低活動膀胱―これを読めば丸わかり!

74巻1号(2020年1月発行)

特集 地域で診る・看取る緩和ケア―泌尿器科医として知っておくべきこと

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら