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雑誌目次

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臨床泌尿器科78巻8号

2024年07月発行

雑誌目次

特集 前立腺肥大症の診療トランスフォーメーション―低侵襲的外科治療の台頭 企画にあたって

前立腺肥大症の診療トランスフォーメーション―低侵襲的外科治療の台頭 フリーアクセス

著者: 舛森直哉

ページ範囲:P.516 - P.517

 男性下部尿路症状の有病率は高く,その頻度は中高年以降加齢とともに増加します.前立腺肥大症による膀胱出口部閉塞が原因として最も多いのは事実ですが,膀胱出口部閉塞に続発する,あるいは,併存疾患に起因する排尿筋過活動や排尿筋低活動との膀胱機能障害,さらには種々の要因による尿量増加が男性下部尿路症状を大きく修飾します.このため,個々人の背景によって,蓄尿症状,排尿症状および排尿後症状がさまざまに入り混じった多種多様な症状を呈します.いずれにしても,このような下部尿路症状がQOLを損なうことは明らかです.

 前立腺肥大症の治療方針を決めるうえで,さまざまな検査が行われます.尿流測定,残尿測定,前立腺超音波検査は基本評価ですが,排尿記録やプレッシャーフロースタディなどは症例ごとに施行が考慮されているのが現状かと思います.どのような症例に選択評価を行うべきなのかはまとめておく必要があります.

〈疫学〉

多種多様である男性下部尿路症状―日本排尿機能学会疫学調査JaCS2023の結果より

著者: 三井貴彦

ページ範囲:P.518 - P.524

▶ポイント

・日本排尿機能学会では,下部尿路症状に関する疫学調査を約20年ぶりに行ったが,尿排出症状の有症率は前回の調査とほぼ同等であった一方で,蓄尿症状では全般的に低い有症率であった.

・夜間頻尿が最もQOLに影響を与える症状であった.

・下部尿路症状での受診率は,今回の調査でも低値であった.

〈診断〉

排尿日誌が必要な前立腺肥大症とは?

著者: 根来宏光

ページ範囲:P.526 - P.529

▶ポイント

・前立腺肥大症患者の下部尿路症状のなかで,夜間頻尿は最も改善しにくい.

・夜間頻尿を伴う前立腺肥大症患者には排尿日誌が欠かせない.

・排尿日誌から,昼間頻尿,夜間頻尿,全日多尿,機能的膀胱容量低下の評価,夜間多尿指数,夜間膀胱容量指数などの算出が可能であり,適切な病態評価・治療につながる.

術前にカテーテル挿入を伴う尿流動態検査が必要な前立腺肥大症とは?

著者: 関戸哲利

ページ範囲:P.530 - P.537

▶ポイント

・尿閉や清潔間欠導尿を要する多量の残尿が膀胱出口部閉塞に起因するのか排尿筋無収縮に起因するのかを鑑別したい場合には,術前に尿流動態検査を実施することが勧められる.

・歩行障害や認知機能障害を認める患者で,腰仙部神経学的所見に異常が認められる場合には,術前に尿流動態検査を実施することが勧められる.

プレッシャーフロースタディを行わずにどこまで排尿筋機能を推測できるか?―実臨床で排尿筋低活動をいかに診断するか

著者: 松川宜久

ページ範囲:P.538 - P.544

▶ポイント

・男性の下部尿路症状(Male LUTS)の病態が排尿筋機能の低下であることはまれではない.

・超音波検査や尿流測定検査など非侵襲的検査所見により排尿筋機能を予測することは可能である.

・尿流波形の形状,排尿効率,膀胱内前立腺突出度はMale LUTSの病態把握における有用なパラメータと考えられる.

〈生活指導・薬物療法〉

男性下部尿路症状における生活指導,行動療法について

著者: 松尾朋博 ,   今村亮一

ページ範囲:P.546 - P.550

▶ポイント

・男性下部尿路症状の患者では生活指導や行動療法が第一選択の治療法である.

・生活指導,行動療法にもさまざまなものがあり,患者の症状に合わせて治療法を選択する.

・患者の精神的・身体的状態に合わせて治療ゴールを設定し,治療を行う.

OAB治療薬が必要な前立腺肥大症とは?

著者: 橘田岳也 ,   和田直樹 ,   柿崎秀宏

ページ範囲:P.552 - P.558

▶ポイント

・前立腺肥大症に伴う過活動膀胱に対して,薬物療法は有効な選択肢である.

・薬物療法の第一選択はα遮断薬およびPDE5阻害薬である.

・併用療法は有効であるが,治療対象が高齢者であり,治療が長期にわたることも勘案すべきである.

多剤併用療法の光と影.どこまで薬物療法にこだわるのか?

著者: 福多史昌 ,   舛森直哉

ページ範囲:P.560 - P.564

▶ポイント

・前立腺肥大症に対する薬物併用療法に関するエビデンスが蓄積されている.

・多剤併用療法により薬物有害事象は増加する.

・前立腺膀胱突出度は薬物療法の効果予測因子である.

・手術療法により減薬を考慮する.

〈低侵襲的外科治療(MIST)〉

本邦におけるMISTの位置づけと適応は?

著者: 大日方大亮 ,   高橋悟

ページ範囲:P.566 - P.570

▶ポイント

・Minimally invasive surgical therapy(MIST)がハイリスク症例を対象に導入され,経尿道的前立腺吊り上げ術と経尿道的水蒸気治療が含まれる.

・これらの治療法は,本邦独自の適正使用指針に基づき行われる.

・Geriatric 8とチャールソン・コモビディティ・インデックスを用いたリスク評価が行われ,経尿道的前立腺吊り上げ術と経尿道的水蒸気治療の初期治療成績が報告されている.

2つのMIST,PULとWAVEを比較する

著者: 京田有樹 ,   舛森直哉

ページ範囲:P.572 - P.576

▶ポイント

・低侵襲的外科治療(MIST)は高齢者や全身状態が不良な症例に適応となる.

・経尿道的前立腺吊り上げ術(PUL)の利点は治療効果発現までの期間が短いこと,射精機能が温存できることである.

・経尿道的水蒸気治療(WAVE)の利点は中葉肥大症例にも効果があることである.

MISTの出現は,前立腺肥大症の治療戦略をどのように変えるのか?

著者: 藤原敦子 ,   浮村理

ページ範囲:P.578 - P.581

▶ポイント

・日本では超高齢化が進んでおり,今後薬物療法では排尿困難の改善が不十分な超高齢患者,フレイル状態の患者は増加することが予想され,その低侵襲性から低侵襲的外科治療の対象患者は増加すると考えられる.

・それに加え,薬物療法で改善が不十分な患者のうち,従来法が可能な患者でも性機能温存目的などで積極的に選択される可能性がある.

〈手術療法〉

手術療法の適応を再考する

著者: 秦淳也 ,   赤井畑秀則 ,   小島祥敬

ページ範囲:P.582 - P.586

▶ポイント

・前立腺肥大症に対する手術療法の適応は,薬物療法の効果が不十分,中等度から重度の症状,尿閉・尿路感染症・血尿・膀胱結石などの合併症がある症例となっている.

・前立腺肥大症に対する手術術式は,前立腺体積や抗凝固薬の内服などの臨床情報も加味して選択される.

・低侵襲的外科治療(MIST)の導入により,手術適応のさらなる拡大が期待されるが,各術式の利点・欠点を十分に理解したうえでの判断が重要である.

TURPは今後も手術療法のreference standardとなりうるか?

著者: 賀本敏行

ページ範囲:P.588 - P.592

▶ポイント

・前立腺肥大症の外科治療のgold standardは長く経尿道的前立腺切除術(TURP)であった.

・前立腺肥大症外科治療は時代とともに変遷している.

・最近登場した低侵襲的外科治療(MIST)は前立腺肥大症治療のエンドポイントを変化させる可能性がある.

・もはやTURPはreference standardにならない時代がくるかもしれない.

AQUABEAM®ロボットシステムによる経尿道的前立腺切除術(Aquablation)の展望

著者: 宮内聡秀

ページ範囲:P.593 - P.602

▶ポイント

・Aquablationは2023年6月より保険収載され,7月より国内5施設で治療が開始された.

・電気やレーザーではなく高圧のウォータージェットで前立腺組織を切除する.

・TRUS(trans rectal ultrasound)によるイメージングと内視鏡を用い,ロボットへ希望する切除範囲を指定することで高度な精度と再現性を得られる.

・従来の前立腺肥大症手術と比較して,熱ダメージがなく,大きな前立腺でも手術時間が短く,術者の技術に大きく依存することがない.

・止血操作を追加することで安全性が高い.

・5年間の海外治療成績は良好で再手術率も少ない.

症例

自然消失した血液透析患者の紫色蓄尿バッグ症候群

著者: 勝岡洋治 ,   豊原香穂里 ,   丸山泉 ,   中川雅代 ,   金安美喜 ,   道口彩菜

ページ範囲:P.603 - P.606

 83歳,女性.腎後性腎不全を原疾患とし,2023年3月より血液透析を受けていた.

 両側腎に尿管カテーテル,膀胱には尿道バルーンが留置されており,1日尿量は1000〜2000mLを排出していたが,ADL/QOL低下と尿路感染症を合併していた.10月初めより蓄尿バッグおよび連結チューブに青色の変色を認めるようになった.抗菌薬投与後も膿尿,細菌尿は持続したが,臨床症状なく経過していた.その後,身体機能の向上により腎機能の改善と紫色蓄尿バッグ症候群が消失し,透析回数は週2回に変更された.血液透析患者における紫色蓄尿バッグ症候群の管理には感染コントロールに加えて,腸内環境や栄養状態,運動機能などの改善が大切であると考えられた.

学会印象記

「第39回EAU」印象記

著者: 楊井祥典

ページ範囲:P.607 - P.609

Bonjour ! 慶應義塾大学の楊井祥典と申します.

 フランスのパリで行われたヨーロッパ泌尿器科学会,通称EAU(European Association of Urology)2024に参加したため,その体験談を報告いたします.昨今何をどのように書いてもさまざまな批判・異論があることは重々承知しておりますが,すべて個人の見解による印象記であることをあらかじめご容赦いただけますと幸いです.

「第111回日本泌尿器科学会総会」印象記

著者: 塩田真己

ページ範囲:P.610 - P.611

第111回日本泌尿器科学会総会は,2024年4月25日から27日までの3日間,新潟大学の冨田善彦教授を会長として,パシフィコ横浜にて盛大に開催されました.

 記念すべき第111回総会を主催されるとは,常に泌尿器科学の第1線で歩んで来られた冨田会長にぴったりでかっこいいと思いながら,前日に横浜入りしました.1日目の朝1番に受付を済ませた後,早速,参加特典であるsnow peakのノベルティグッズを受け取り,第1会場に向かいました(写真1).新型コロナウイルス感染症が5類に移行後1回目の泌尿器科学会総会であり,ほとんどの参加者がマスクを外して参加されている様子を拝見し,改めてコロナ前に戻れたことを実感しました.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.515 - P.515

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.615 - P.615

編集後記 フリーアクセス

著者: 大家基嗣

ページ範囲:P.616 - P.616

 大河ドラマの影響は恐ろしいものがあります.今年は紫式部が主人公の「光る君へ」です.源氏物語が注目されていて,私の故郷である京都府宇治市にある「源氏物語ミュージアム」が賑わっていると聞きびっくりしました.源氏物語54帖の最後の10帖は宇治が舞台であり,宇治十帖と呼ばれています.開館した1998年当時は,「税金の無駄遣いとちゃう.」とか,「他に宇治をアピールするものがないからなあ.」とか賛否両論だったのを覚えています.案の定,閑古鳥が鳴いていて,コロナ禍ではさっさと閉館していました.

 日本が誇る世界の古典文学「源氏物語」の素晴らしさは語り尽くされています.宇治出身者である私の思い入れは,宇治十帖にあり,美しい宇治の自然も後押しして,御一読を願うものであります.源氏物語は膨大なる長編小説なので,最後の10帖にたどり着くのは大変ですが,光源氏の死後の物語は,神話の世界から現実の世界へ引き戻された気がいたします.

基本情報

臨床泌尿器科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1332

印刷版ISSN 0385-2393

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