icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科1巻3号

1947年04月発行

雑誌目次

--------------------

腦下垂體部腫瘍—畏友小榮次郞博士の靈に捧ぐ

著者: 荒木千里

ページ範囲:P.1 - P.8

腦下垂體部腫瘍群の分類と診斷學的特徴
 腦下垂體腫瘍と云へば,本來は腦下垂體腺腫と「クラニオファリンジオーム」(頭蓋咽頭腫)との二つを指す譯であるが,外科的立場からは近接部位に發生する腫瘍をも一括して考察する方が便利である. 假りに今之を腦下垂體部腫瘍群と呼ぶ事にしやう。發生部位によつて次の樣に分類する。

有機硝子(ヒシライト)製補助器に就て

著者: 片山良亮

ページ範囲:P.9 - P.11

 從來補助器は皮革,セルロイド,金屬等で作られて居たが,終戰後,飛行機の防風硝子に主として用ひられて居た有機硝子(ヒシライト)を應用するに及んで,補助器材料に一大革命が起つたかの感がある。
 有機硝子製補助器は片山國幸氏によつて本年4月の外科學會總會に始めて紹介されたものである。氏は同時に有機硝子の性能を利用して作られた其他の醫療器具をも發表せられた。

五十肩の診斷及治療

著者: 三木威勇治

ページ範囲:P.12 - P.15

 "五十肩"と俗に呼ばれるものは,症候群であつて,痃癖(Scapulargia specifica瀨川),上膊神經痛,更年期障碍,内臓反射性肩痛,肩胛關節周圍炎,變形性關節症,肩關節攣縮等種々なものによつて起ると考えられる。從つて,この五十肩症候群を起因別に分類することが必要である。しかし現在も尚,五十肩の名稱を殘しておかねばならないのは,腰痛症と同樣原因不明のものが相當あるからである。私はこの今も尚不明のものと考えられる五十肩1)の一部を明にすることが出來たと考えるので,その診斷及び治療に就て述べる。
 先づ"五十肩"といふ症候群は如何に解釋すべきであらうか,私の知る所では,4〜50歳代の人に好發し,運動痛,壓痛,放散痛等を肩關節及び周邊に訴え,肩關節の運動は,外轉,外旋が主として阻害せられるが,上膊下垂位では前後運動が比較的樂に出來る。これが進行すると關節は強直状態になるが,豫後は比較的よく,俚言集覽の五七腕(一名五十肩)の項には「藥せずして醫す」と述べられてゐる位である。このやうな症状を特徴とするものと考えるので,前述の痃癖,上膊神經痛,更年期障碍,内臓反射性肩痛は,疼痛が主で,肩關篩運動障碍はないが,又あつても一時的であるので,五十肩に入れず,肩胛關節周圍炎,變形性關節症,肩關節攣縮等がこれに入ると理解した。

移動盲腸に就いて

著者: 中谷隼男 ,   宮原信興

ページ範囲:P.16 - P.21

I. 緒言
 後に述べるごとく移動盲腸症は一定の解剖學的所見を必要とするのであるが,臨牀的には通常右下腹部に起る間歇的疼痛及び便通の異常を主訴として發熱,腹壁緊張或は白血球増加等はなく而も慢性蟲垂炎と考ふ可き根據なきものを移動盲腸症としてゐる。然し臨牀上所謂慢性蟲垂炎として一般に取扱はれて居るものの中には移動盲腸症とす可き若干のものが有るかと想像される。又蟲垂炎として開腹したが開腹前の臨牀症状より豫期せる程度の炎症々状を蟲垂に認めないが蟲垂切除後依然として障碍の消失せぬものの或ものは移動盲腸症であらう。移動盲腸症の定型的な場合は他覺的に右腸骨窩に空氣枕樣の腫瘤(風腫),グル音を觸知し,輕度の壓痛を證し且つ所謂鳥潟氏の唱ふるRosenstein逆症状があつてX檢査に於て盲腸部の下垂,擴張と著明な移動性を證明する。
 然し移動盲腸症は廣い觀點から詳細に觀察するときは單に盲腸部のみの異常による局所疾患としてのみ考ふるよりも寧ろ内臓下垂症の部分的一症状として取扱ふ方が妥當であると思はれる。かゝる見地から移動盲腸症を觀察或は處置し其の效果の檢討を試みるのが吾々の目的である。即ち盲腸に加へた簡單な手術が局所の障碍に對しては勿論内臓下垂症の障碍殊に胃下垂の症状或は便通の異常に對する影響の考察を行つたものである。

十二指腸潰瘍外科の現状

著者: 大井實

ページ範囲:P.22 - P.28

緒言
 内科的治療の面でならともかく,外科的治療の面から見た十二指腸潰瘍は胃潰瘍の場合とその趣を異にするところが少からす存在する。ことに近年十二指腸潰瘍の臨牀例は胃潰瘍の臨牀例に較べて増加の傾向にあり,その手術例が胃潰瘍手術例よりも多數に上ってゐる報告が少くない。私は從來とかく十二指腸潰瘍外科が胃潰瘍外科に附隨的に取扱はれ勝ちであつた傾向を喜ばないのである
 私は次に十二指腸潰瘍外科の現状が果して吾々の滿足できる水準にあるか否かを考察し,もし今後吾々の努力すべき面が殘つてゐるとするならば,如何なる面であるかを檢討してみたい。このやうな大きな問題は經驗の至つて少ない私のごときものが取扱ふべきでないことはよく知つてゐる。

外科集談會

ページ範囲:P.29 - P.29

 452囘外科集談會17.22.
1. メツケル氏憩室に依るイレウスの3例
              池田 正
2. 腸蜂案織炎の1例     片岡 一朗              松井 文英

文獻

ページ範囲:P.52 - P.54

☆關節鏡の現況
高木 憲次
(臨床醫報第1年第1卷頁26)
 大正7年膀胱鏡を以つて屍體の關節内景を覗いたのが初まりで大正10年には膀胱鏡の膝部彎曲を除いただけのものを造つたが之は關節腔に刺入するには太すぎた。臨牀上に用ひることの出來る關節鏡は昭和6年(1931)に完成した。之によつて病竈を鏡覗しつつ標本を採取し又寫眞撮影が可能となつた。同時に關節鏡によつて關節内が充分に觀察出來るので必然的に關節鏡的生理學及び形態學が起り之が更に關節鏡による檢診に學問的基礎をあたへることになつた。
 この線に沿つて教室の研究が行はれ關節鏡病理學が築かれつつあるのである。關節水腫と關節結核の鑑別,關節鼠の除去を初め關節に關する諸疾患の診斷及び治療はかくて高度の進歩を遂げつつあるのである。

醫局便り

ページ範囲:P.55 - P.55

慶大外科教室
 1昨年2月教室主任茂木教授が逝去されて,外科教授1名缺員のまゝ木村教授が教室員を率ひて敢鬪して來られたが,昨年8月,更に同教授も勇退され,我が教室は教授なき教室となり學内より憂慮されて居た處,先年南方に出張中の前田和三郞教授が豫想外に元氣なる姿で復員歸學されたので學内外の總意により整形外科學教授より外科學教室主任に轉ぜられた。尚1名缺員の教授には島田助教授が昇任され此處に慶大外科は陣容を新にして再出發することとなつた。教室員も續々と歸室し出張者を含めて70名を突破する盛況となつた。
 1昨年1月の戰災では木造の本館を全部燒失したが,殘つた別館には幸ひ外來,病棟,手術室は勿論,講堂及び研究室もあるので,教育,研究竝に診療には支障なく,前田,島田兩教授の指導の下に全教室員一致協力して精勵して居る。

アメリカに於けるインターン(院内生)制度に就いて

著者:

ページ範囲:P.56 - P.59

まへがき
 日本に於ける最近の醫學界の變革の中で一番大きなことはなんと云ふてもインターン制度であらう。インターンは4年間の學生活を終つてから,醫師の免状を受けるには,更に1年間の實地修練を經なければならないといふ制度である。其の後更に國家試驗が課せられ,それにパスしてはじめて醫師となり得るのである。つまりインターンは其試驗を受ける準備時代に相當するもので學生にとりもつとも眞劍な1年間なのであるにもかゝはらず,現在全國に於けるインターンの實際を見るに,其の教育計畫が甚だ放漫で處々にインターンの不滿足を買つてゐる。これははじめて課せられた制度に對して一般の理解が徹底して居らない爲であつて,インターン制度そのものに罪はない。茲に着眼して東京帝國大學では昭和21年12月19日進駐軍外科指導員バワーズ中佐に講演を願つた。以下はその概略である。

腦外科醫,クシング教授

ページ範囲:P.63 - P.64

 Billrothを胃外科の父と仰ぐならばCushingは近代腦外科の父とすることが出來るであらう。併し何れも既に故人となつて居る。
 最近クシング教授の弟子でエール大學教授のJohn F. Fulton氏がクシング氏の傳記を發行した。(Harvey Cushing,a biography. By John F. Fulton. 754 pages 5弗 Charles C. Thomas出版)それでその新刊紹介及内容抄録からクシング教授の俤を御傳へするのも腦外科醫の方々ばかりでなく一般の外科醫の方々にも御參考になると思つて書く。

臨牀講義

肺膿瘍を合併せる赤痢アメーバに因る横隔膜下膿瘍

著者: 河合直次 ,   香月秀雄

ページ範囲:P.30 - P.33

 疾病の診斷に當つて大切な事は,先づ患者の病歴及び現症に依り考へ得らるべき病氣の名を順序よく念頭に想ひ浮べながら最も必要な檢査から始めて可及的患者に負擔をかけることを少くして早く正しい診斷に到達することである。從つてそれにより適切な治療を施すことが可能となるのである。
 本日私が特に諸君の注意を喚起したいのは今次戰爭に依り,海外の各地から種々の傳染病が日本内地に流れ込んだことである。即ち外科では今迄左程注意が拂はれなかつた「マラリヤ」,「アメーバ赤痢」の樣な傳染病が終戰後到る所に見られる樣になり,從つて外科でもこれに對して無關心であり得ないやうになつた。診斷に際しては特に是等の點を念頭に於いて大に警戒せねばならぬ。

症例報告

皮膚轉移を伴へる耳下腺惡性混合腫瘍に就いて

著者: 毛受松壽

ページ範囲:P.33 - P.36

緒言
 唾液腺特に耳下腺には屡々各種の腫瘤の發生を見るがその過半數は混合腫瘍(80-90%)である。その本態竝に發生機轉に關しては,古來種々論議せらるるが未だ歸する所を知らぬ。特にその惡性變化に關しては我々臨牀に携はる者の常に注意を怠らぬところである。最近適々皮膚轉移を伴ひ死後剖檢により,はじめて内臓諸臓器に廣汎な轉移を證明した極めて稀有なる1症例を經驗したのでその概要を報告する。

急性化膿性心嚢炎の一手術治驗例

著者: 間島進

ページ範囲:P.36 - P.37

 余は配屬學生として當教室に研學中右足蜂窩織炎より膿血症の疑を惹起し,次で心嚢炎を併發した症例をペニシリン治療及び手術により治癒せしめた一例を經驗したので茲に記載する。

脾嚢腫の1治驗例—特に稀有なる血管腫を伴う淋巴管腫の1例

著者: 加藤正勝

ページ範囲:P.38 - P.42

緒言
 脾臓に原發する眞性嚢腫の臨床例は甚だ稀で,1829年Andralに依り始めて報告せられて以來その報告總數100數例あるが本邦に於ては僅々10數例を出ない(別表第1參照)。報告例の大多數はその形態多房性でその内容は純血性或は漿液血性に屬する。そしてその成因を淋巴管腫に求むるものは極めて稀で文獻に徴するにFowler 12例,Bran—dberg 2例,Laughlin, Beck,Lindqvist各1例で本邦に於ては藤岡の報告を見るのみ。余は偶々松倉外科教室に於て豚脂樣半透明の内容を有する脾嚢腫の摘出治癒例に就き組織學的檢索の結果,血管腫を伴へる海綿樣淋巴管腫性脾嚢腫と診斷し,茲にその大要を報告し大方の御參考に供する。

人工肛門を造設した下行結腸部に於て其他の全腸管の嵌頓を來した1例

著者: 澁澤喜守雄

ページ範囲:P.42 - P.44

 題名の意味は下行結腸腸間膜に裂孔があつて,此の裂孔から全腸管が内嵌頓を惹起したと言ふ事で,内嵌頓は外科醫には常識的であるが,此の樣な異常の嵌頓の誘因として多くの先天的異常が擧げられる所に興味があるといへる症例である。
 患者は11歳,榮養の甚だ低下した男兒。幼時から腹部膨滿が著しく,便秘がちで,1週間位秘結する事は屡々であつた。時々蛔蟲を排泄した。昭和20年11月始,生地茨城縣某村から父親の金品を盜んで上京,11月14日上野驛に着いたが食物と宿舎とに窮した。上野淺草界隈の街頭市場で種々の食料を盜んで食ひ,戰災孤兒と詐稱して此が收容に當つてゐる淺草某寺に入所投宿した。入浴の時在宿中の先輩孤兒等から腹部の膨大な事を嗤はれた。夕食に藷,粉食を攝つたが18時頃から腹部膨滿が増惡し,兩側腹に疼痛が強く,ガス排出がなくなり,惡心,呼吸逼迫を訴へるに到つて,急病患者として同輩に擔がれて當院を訪れた。

パイヤー氏病の1例に就て

著者: 今井五郞

ページ範囲:P.44 - P.46

1. 緒言
 パイヤー氏病とは結腸の肝竝に脾彎部特に後者に於ける強度の屈曲と周圍の癒着に因つて生ずる良性の慢性腸狹窄症状を呈する疾患である。
 1905年パイヤー氏が系統的に報告したものであるが,斯くの如き症状を呈する疾患に就いてはBraun,Zeidler,A. v. Bergmann,Terrier,Poirier,Walther,Routier氏等が報告したことがあるが,獨立疾患として發表したのはパイヤー氏である。

結核性蟲垂炎の1例

著者: 烏居有人

ページ範囲:P.46 - P.48

緒言
 蟲垂炎は頻繁に臨床上遭遇するものであるが,結核性蟲垂炎の報告は極めて少く,昭和17年まで本邦報告例15例に過ぎない。著者は廻盲部に膿瘍を形成した患者で,その開腹術時摘出した蟲垂が鏡檢上結核性蟲垂炎なる像を呈せる1例を報告して諸家の御叱正を仰ぐと共に御參考に供しやうと思ふ。

Scheele氏小腸管膀胱整形術Dünndarmringplastikの經驗に就て

著者: 楠隆光

ページ範囲:P.48 - P.51

 炎症性萎縮膀胱,或は先天性小膀胱で膀胱容量の小なるために甚しい尿意頻數に苦む際に施行する手術として二つの外科的療法が考へられる。其の一つは輸尿管を腸管に移植して腸管の一部をして膀胱の代用たらしめるものである。他の一つは小膀胱に曠置腸管を吻合してその容量を増加せしめんとするものである。以上の二方法の中,後者の方が前者よりも生理的で都合がよいものであるが,これを施行するには,(1)如何に小膀胱とは言ひながらその容量が約50ccはあり,腸管膀胱吻合術を實施する餘地がある,(2)膀胱括約筋が完全で完全に尿を保つ膀胱であると言ふ二つの條件を具備した小膀胱でなければならぬ。即ち萎縮膀胱でも最高度で殆んど容量が零で尿失禁に惱むと言ふものでは駄目で,未だかゝる最終段階に達して居ないものでなければならぬ。
 腸管膀胱吻合術に使用する腸管としては,1920年頃一時大腸がBirnbaum(1920),Mayer(1921)等により利用されたが,今日に於ては專ら小腸が利用される。それは小腸の方が大腸よりも腸管膜が長く移動に便利である事及び細菌が比較的少ないと言ふ二點によるのである。

醫學談叢

戰爭中獨逸の想出(續)

著者: 小林一郞

ページ範囲:P.60 - P.63

(10) Gotenhafen(Gdingen)海軍病院及びその分院。
 1945年暮赤軍はバルト三國を攻略し更に破竹の進撃振りでOstpreussenに迫つた。丁度比の頃私は同方面からの傷者が殺到して居ると言はれる此の病院を訪ねた。前年私が此の軍港を訪問した時はまだまだ餘裕が有り,獨海軍自慢の潛水艦學校では沈沒潛水艦からの脱出(Tauchretter)の實演を見せて呉れたりしたが,今囘は戰況非常に不利で軍港施設初めその中央にある海軍病院も何時爆碎されるか判らぬ状況なので,焦慮不安の色は覆ふべくもなかつた。陸上の退路を遮たれ辛じて海上を避難し來た虱だらけの傷兵や難民が續々到着するが,此の軍港では應急手當と區分だけをして,内科關係はNeustadtの,又外科關係はLauenburgの分院に送つてしまふ。空軍が劣勢では軍港の眞中の病院は何の役にも立たぬ事になる。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?