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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科10巻1号

1955年01月発行

雑誌目次

綜説

乳腺腫瘍の内分泌学的研究

著者: 增田強三 ,   西谷奎吾 ,   伊勢田幸彥

ページ範囲:P.1 - P.8

はしがき
 正常な乳腺が性ホルモンの影響をうけている事は青年期,或は妊娠時,更には月経閉止後の乳腺の変化をみても明らかであつて,これらの変化が脳下垂体は卵巣,副腎等によつて調節されていると云う意見は今日,略々確定的であると考えられる.Whitehouse1),Taylor2)等は健康人の月経周期の間に於ても乳腺に周期的な組織学的変化のおこる事を報告している.したがつて乳腺の病的状態,特に乳腺腫瘍の際にも,これら性ホルモンが重要な役割を演じているであろう事は容易に想像されるところである.
 1889年Schinzinger3)は乳癌に対して卵巣剔除が有効であろうと示唆し,Beatson4),Lett5)等が乳癌の治療に卵巣剔除を行つて以来多数の報告があり或程の効果が確認されている点から考えても卵巣ホルモンと乳腺腫瘍との関係が浅からぬ事は疑問の余地がない.

ナイトロミンの外科領域における應用

著者: 岩井芳次郞 ,   德山英太郞 ,   沢田彰 ,   溝田成 ,   塚田恵一

ページ範囲:P.9 - P.15

I.序
 悪性腫瘍が遂年増加の傾向にある事は洋の東西を問わず,広く世界の趨勢である.吾が国に於ても,その死亡率は結核を凌駕して,高血圧及び脳溢血と共にその第1位を争そつている.抗生物質等の発見により乳幼児及び青少年の死亡率が低下し,国民の平均寿命が延長されゝば,されるほど癌患者は多くなるのは当然である.飜つて考えるに悪性腫瘍の治療法は今日なお暗中模索の状態にあると云うのが実状である.唯一の治療法は早期発見,根治手術であることは言を俟たない.而し根治手術に絶対の信用を置くことが出来ない以上,少くとも何等か他の治療を併用して撒布巣または転移巣を絶滅する手段を講じなければならない.たとえばBauerの報告によると種々の悪性腫瘍1,000例の外科的手術後5ヵ年以上生存者は17.9%に過ぎない.相当進歩した手術手技と早期診断法を以つてしても根治手術の永久治癒率は20%以下である.こゝに於て手術に対する補助的療法として化学療法が大きく招頭するわけである.吾々は昭和26年以来Nitrominを使用し,吉田肉腫,Methylcholanthran肉腫及びRhodamin肉腫を用いて動物実験を行い,著効を認めた.しかも毒性は著しく少くNitrogen Mustardの1/10である.
 かゝる実験結果にもとついて,1951年10月頃より多数臨床例に使用するに至つた.

手術の立場からみた僧帽弁々膜症の生態病理の研究

著者: 吉原好之 ,   升田ヨシヱ

ページ範囲:P.17 - P.28

1.緒言
 僧帽弁々膜症の治療が外科的になるにつれて,弁膜の状況を術前に正確に知ることが必要になつて来た.然るに,術前諸検査を実施しても,それが狭窄であるか,閉鎮不全であるかすら判然としないことが少くないのである.又逆に,剖検所見からだけではこの両者の区別も出来ないことさえある.しかし,手術の立場から言えば,弁膜装置の病理的変化を熟知している必要があり,その意味で剖検所見,手術時所見,及び臨床所見等から種々検討して,生体に於ける弁の性状を推定せんと試みた.
 僧帽弁々膜症に対して,私達が術前の精密検査を行い,手術時は弁の状態を触診し,不幸にして死亡した症例,17例があるので,これらを材料として種々の点から検討した.しかし,これらの症例は手術死亡例であつて,いわば失敗例である.これらが生体に於ける弁の状態を推定すべき全部であるとはいえないが,これは手術時触診の基礎となるものであるからあえてこゝに発表する.

腰椎麻醉の副作用とその対策

著者: 長洲光太郞 ,   森田信行 ,   岩井誠三 ,   小林一義 ,   塚田恵一 ,   阿部元胤 ,   宮川昭平

ページ範囲:P.29 - P.34

 腰椎麻酔は他の麻酔法では得がたい種々の利点を有し,我々も年間約3000例の手術の約70%を腰椎麻酔により行つている.このように広く用いられる方法であるが,副作用の確実な防止については尚未解決な点が多いので,近年再びこの問題がとりあげられ,我々も数年来この点に注意して来たのである.

亞急性(巨態細胞性)甲状腺炎の診断

著者: 高橋希一 ,   宮坂裕

ページ範囲:P.35 - P.38

 甲状腺が深在性で血管に富み,且つ沃度を多量に保持する器管である為,それの炎症例は少数である.その中急性化膿性甲状腺炎1)2)以外の亜急性慢性甲状腺炎は種々諸家の問題となつておりその発生頻度としてChesky3)は甲状腺切除を受けた2031例中169例即ち8.3%にMarshall4)は25000の甲状腺切除例中187例即ち1%弱にこれを認め且つ後者は手術施行せざる多数の者に臨床的に慢性甲状腺炎の診断を下したと云いAsmond5)は7045例の甲状腺疾患例中236例即ち3%強に亜急性慢性甲状腺炎を認めている.本邦に於いても川島6)は13例中に7例を脇坂7)は略々1%弱を認めている.
 この事は亜急性慢性甲状腺炎が案外多く存在している事を物語つている.

農繁期病としての手指腱及び腱鞘の漿液性炎症について

著者: 若月俊一 ,   船崎善三郞 ,   越川宏一 ,   山下隆造

ページ範囲:P.39 - P.49

I.まえがき
 日本農業の手しごと的性格と農繁期
 私たちの地方では,農繁期に,田植えや稲刈りのあとで,過労のために,手首のふきんが腫れる病気のことを,こうでと呼んで,これにかかつたら,異性の子供に,黒い糸で,腫れた手首を結んでもらえば治ると云う,迷信的な風習がある.東北地方では,之をそらでとも云つているが,農民がこの病気にかかる頻度は甚だ多いものでその重症のものは稀であるとは云え,その障害が全体として,農業の生産力に及ぼすマイナスの影響は,あなどるべからざるものがあるようである.
 衆知のように,日本の農業は昔からの手づくり農業であつて,すべて田畑の上での手しごとから成つている.もちろん非常に零細な経営であるが農業が季節的制約に強く支配されるから,その所謂「農繁期」の忙しさなどは,言語につくしがたいものがある.田植え,稲刈りなどは,日本において,2000年前と同じ原始的な水稲の生産方法であるが,今日の農家が,之を家族労働として行つていかねばならぬ実状にある.従つて,これらの手運動の過労に原因するこうでのような病気は,日本の農民の一般的な職業病と云つても良いのではないか.

炭坑に於ける脊柱骨傷の統計的並びにレ線学的観察

著者: 赤津隆

ページ範囲:P.51 - P.54

 脊柱骨傷が労働災害上重要な事は,其の治療が比較的長期を要し,治療判定が困難で重労働復帰を困難にし就中脊髄損傷を伴う者の予後は甚しく不良なる為である.然るに産業災害上脊柱骨傷は少くなく,特に炭坑に於ては特殊作業環境より多発するものと一般に認められている.昭和7年喜多氏は三池炭坑の脊柱損傷につき詳細に報告し続いて渡辺成松氏等も統計的観察を行つている.私は最近4年6ヵ月間(昭和24年1月より同28年6月の間)に九採中央病院にて業務上負傷による脊柱骨傷88例を経験し,これにつき観察を試み,天児教授の先に提唱せられたWatson-Jonesの3型を含む4型に分類し特に労災との関係を考慮し調査を行い,知見を得たので報告し諸賢の御批判を乞い御参考に供したい.

症例

膝関節前方脱臼による下腿壊疽の症例

著者: 斎藤正也

ページ範囲:P.55 - P.58

 外傷性壊疸に遭遇する機会は屡々あるが,関節脱臼に由来する壊疽の報告は極めて稀である.
 先に,松田,吉村,黒木等は膝関節脱臼に起因する下腿壊疽の報告を行つているか,本症も略々それと同様な経過をとつた1例で,その解剖学的構造から,膝関節前方脱臼に由り膝窩動脈を大腿骨下端後面で強圧され,此れに幾つかの悪条件が加わり遂に下腿壊疽の転帰をとつたものと考えられる.

男子乳癌の1例

著者: 佐野正人

ページ範囲:P.59 - P.61

緒言
 男子の乳癌は,比較的稀とされている.私は最近,82歳の男子老人に発生し,興味ある経過を呈した乳癌を経験し,組織学的検査に依り粘液癌なるをたしかめたので報告する.

縦隔洞に発生した神経原性腫瘍の1例

著者: 大島正弘 ,   原田元夫

ページ範囲:P.63 - P.65

 化学療法の発達や輸液及び麻酔の長足の進歩と共に縦隔洞の手術はにわかに活気をおびて来たがわれわれは最近後縦隔洞に発生した良性腫瘍の1例を経験したので報告する.

最近の外國外科

Stressと胃分泌,他

著者:

ページ範囲:P.66 - P.67

 潰瘍患者に於て潰瘍を生じ,その再発を促進するSt—ressの重要性は今や十分認識されているが,此の生理的機構が明になつた実験は極く最近行われたものである.
 PorterやMovius及Frenchは猿の実験で前視床核及び後視床核を刺戟し,胃液のpHの変化を測定した.前視床核を刺戟すると胃液pHは1/2〜1時間後最高になるが,3時間後元に戻る.此の反応は迷切により完全に中断し得る.後視床核の刺戟では2〜21/2時間後に於て始るpHの低下があり,3時間が最底になり,5時間以内で元に戻る.此の反応は副腎摘除により除去し得る.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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