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綜説
農繁期病としての手指腱及び腱鞘の漿液性炎症について
著者: 若月俊一1 船崎善三郞1 越川宏一1 山下隆造1
所属機関: 1佐久病院外科
ページ範囲:P.39 - P.49
文献購入ページに移動日本農業の手しごと的性格と農繁期
私たちの地方では,農繁期に,田植えや稲刈りのあとで,過労のために,手首のふきんが腫れる病気のことを,こうでと呼んで,これにかかつたら,異性の子供に,黒い糸で,腫れた手首を結んでもらえば治ると云う,迷信的な風習がある.東北地方では,之をそらでとも云つているが,農民がこの病気にかかる頻度は甚だ多いものでその重症のものは稀であるとは云え,その障害が全体として,農業の生産力に及ぼすマイナスの影響は,あなどるべからざるものがあるようである.
衆知のように,日本の農業は昔からの手づくり農業であつて,すべて田畑の上での手しごとから成つている.もちろん非常に零細な経営であるが農業が季節的制約に強く支配されるから,その所謂「農繁期」の忙しさなどは,言語につくしがたいものがある.田植え,稲刈りなどは,日本において,2000年前と同じ原始的な水稲の生産方法であるが,今日の農家が,之を家族労働として行つていかねばならぬ実状にある.従つて,これらの手運動の過労に原因するこうでのような病気は,日本の農民の一般的な職業病と云つても良いのではないか.
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