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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科10巻11号

1955年11月発行

雑誌目次

特集 偶發症との救急處置

吸入麻醉の合併症

著者: 山村秀夫

ページ範囲:P.715 - P.720

 麻酔を上手にかけるということは,手術を行い易いように一定の深さにかけることも必要であるが,麻酔中並びに麻酔後の事故を出来るだけ少なくかけることが,他の一つの重要な条件となる.
 吸入麻酔の合併症については多くの人々が行なつているように,ここでも呼吸,循環,中枢神経並びに技術上の合併症と4つの群に分けて記述することにする.

全身麻醉の合併症の治療

著者: 天野道之助

ページ範囲:P.721 - P.728

 麻酔に関連した偶発症の治療に先立つて次のことを前提として申し述べたい.
 (1)予防は治療より効果的であり,大切である.だから,原因や誘因を出来るだけ避けるとか,とり除くように努力する.術前準備を怠らないように心掛ける.

筋注麻酔の偶発症とその処置

著者: 江口健男 ,   井昭成 ,   森岡亨 ,   林田隆輔 ,   上塚昭逸

ページ範囲:P.729 - P.733

I.まえがき
 小児麻痺の新しい具体的解決策として,私どもが発表したオウロパンソーダ筋注麻酔は,広く一般臨床家の追試をうけ,かつ,これとほぼ同組成のバルビツール酸剤たるペントサール(ラボナール)を用いる筋注麻酔も可成の普及をみているようである.私どもは,今日まで1例の死亡例という偶発事故をみずに,300例近くの臨床経験をつみ重ねてきた.その間に,頭初全く不馴れと不注意のために起つた5例の偶発症(チアノーゼを伴つた呼吸抑制3例,呼吸停止2例)を経験したので,これを基にして,もし同様な条件の下におかれるなら,恐らく惹起される可能性ある事故乃至偶発症に対して注意を喚起し,併せて,その処置についてのべておくことは,まんざら無意味のことではなかろうと考える.

脊麻偶発症とその処置

著者: 北原哲夫 ,   三浦成元

ページ範囲:P.735 - P.741

緒 言
 全身麻酔法はわが国においても戦後急激に普及しては来たものゝ,腹部以下の手術に対する脊麻の価値は依然高く評価されている.患者に対する精神庇護の問題も適当な前薬剤投与によつて解決し得るし,極めて簡単な手技により確実な無痛のみならず,充分な筋弛緩が得られて手術がやりよい点は容易に他の麻酔法の追随を許さず,しかも経済問題もわが国情よりすれば軽視し得ぬところであろう.本法が広く随所で,特に実地開業医家に好んで用いられるゆえんである.われわれは放射性ヨードを混合注入して各種脊麻剤の髄液腔内における拡がりを仔細に調査した結果,確実な効かせ方についてはすでに結論を得て報告した(手術8巻8号,日外会誌55回5号)が,本法実施に当つての最大の懸念たる術中の血圧下降,呼吸障害の本態に関しては古くから副腎遮断説,交感神経遮断説,呼吸抑制説,延髄中枢障害説等多くの説がある.われわれはこの問題につき種々の面から検討を加えた結果,結局特に目新らしいことではないが交感神経麻痺に重きをおかなくてはならないことが判つた.よつてさらにこれに基づく合理的対策についても言及したいと思う.

導入麻醉による長時間の呼吸停止の一治験例

著者: 有木亮 ,   黑田忠夫 ,   追川孝雄 ,   荻原弘行

ページ範囲:P.743 - P.747

緒言
 ここ数年来の本邦に於ける閉鎖式(気管内)麻酔法の普及発達は目醒ましいが,全ての麻酔法がそうである様に本法にもおおい得ない幾つかの宿命的な問題点を残している.従つて,その初期には種々の偶発事項も少なかつたようである.気管内挿管には種々の問題が伴うが日常その必要を屡々痛感する大切な手技の一つであろう.
 われわれは昭和27年以来,300例以上の症例に本麻酔法を利用したが,そのうち挿管例は約200例であつて,2ヵ月の乳児から72歳の老人に及んでいる.その間に起つた挿管に伴う2,3の貴重な経験をもとにして,挿管時の麻酔法とそれに伴う合併症には,深い吟味を加えつつ今日に至つている.ここには我々が最近経験した導入時の長時間におよぶ呼吸停止の一治験例を記載し同学の士の御教示を得たく思う.

腰椎麻酔ショック予防策としての輸液方法の工夫及び輸液と血管剤との比較検討

著者: 田中正美 ,   渡辺昭一 ,   鎌田四郞 ,   楊大鵬

ページ範囲:P.749 - P.754

 腰椎麻酔に伴う副作用として低血圧と呼吸筋麻痺のある事は一般に知られているが,この両者は相互に密接な関係にあつて,臨床的観察でこれを厳密に区別する事は困難である.
 即ち著しい呼吸筋麻痺を伴う様な広範囲麻酔では当然殆んど全身の小血管の弛緩を惹起し,必然的に血液の偏在--心搏出量の低下--低血圧を起す.そしてこの際呼吸運動の障碍は血液の心還流を阻碍して一層この結果を助長するであろう.一方著しい呼吸筋麻痺を起さない程度の麻酔範囲であつても,その患者の抵抗力と云うか,血液量並びにその性状,及び循環系全般の予備力の弱い様な場合には,急激な血管麻痺即ち低血圧,次いで呼吸中枢の貧血,低酸素症に伴う抑圧から呼吸停止へと移行する.しかも脳がAnoxiaに耐えて活動を続け得る期間は経験上3〜5分と云う極めて短時間であるため,臨床上の対策を講ずる上にそれが呼吸麻痺によるか,低血圧によるかを突差の場合に判断することは実際上意味がない.即ちその原因が低血圧によるものであつても,未だかすかに心搏動を続けているに拘らず既に完全に呼吸を止めている場合があるであろうし,又呼吸筋麻痺が極めて高度の場合でも呼吸はかすかに腹式に行つているのに撓骨動脈搏は全くふれないと云う状態も起り得る.心臓の自動性を考慮すると何れの場合でも循環系の抵抗が呼吸系に比してより強いであろう事は推定に難くない.

心蘇生(Cardiac Resuscitation)に就いて—心臓マッサージを中心に

著者: 寺崎平 ,   平山圭一郞 ,   渡部美種 ,   黑川宗敬

ページ範囲:P.755 - P.762

緒言
 麻酔の進歩と共に,我が国に於ても近来急性心搏停止が問題となり,所謂心蘇生に対する報告が行われている.昭和25年及び同29年の東大木本教授の症例報告,及び日赤中央病院赤坂氏,神戸医大佐藤,吉田両氏その他の報告がある.
 最近本院に於いても,心停止の4例を経験し,その2例に於いて成功を收めたので,諸家の文献を考察し,心蘇生に対し通覧してみたいと思う.

心臓マサージ等の処置によつて辛うじて助け得た極めて重篤なる腰麻ショックの一治験例—特に術後見当識の推移について

著者: 林久惠 ,   新井達太

ページ範囲:P.763 - P.766

 腰麻は,腹部外科に於ては現在なお必要欠くべからざるものであり,その手技の簡易性充分な筋弛緩が得られる事等により将来も愛用されると思われるが,その半面安全性,調節性,呼吸循環障碍,技術上の失敗等の多くの欠点を持つている.この欠点による危険性はすでに諸家に指摘され,腰麻による死亡率は0.1%〜0.8%位とされ,大槻・清水外科でのそれは4121例中,0.04%だと云われて居る.この様に少数とは云え危険性がある以上常に不慮の事態を考慮し万全の方策を準備して腰麻を施行すべきであると思う.
 最近,腰麻により呼吸停止並びに心停止を来たした出血性胃潰瘍患者に対して,直ちに陽陰圧呼吸を行うと共に,左側開胸し心臓マッサージを行い,28分後心搏開始をみ,後胃切除術を完了し,辛うじて助け得た一例を経験した.

術中の心音と呼吸音

著者: 臼井卓朗 ,   原淸

ページ範囲:P.767 - P.768

 近世麻酔量の発達と共に,術中の偶発事故はその数を減じ,昔日の如き術中の不安は次第に減少しつゝあるのであるが,全く完壁に準備された麻酔処置と難も,避け難き不慮の偶発事故に遭遇することがたまあり,やはり不安は全くぬぐい去られたとは云えない.そこで私は少しでもこの不安を取除く意味で,心音及び呼吸音を聴取しながら手術してみたのである.
 方法,第1図は全景であるが,聴取方法としては第2図の如き増幅回路を用いたが,心音のInputには内部抵抗2000Ωのレシーバーを改造したものを用い,呼吸音のそれにはクリスタルマイクを利用した(第3,4図).

「ノボカイン」中毒と其対策

著者: 上村良一 ,   岩森茂

ページ範囲:P.769 - P.774

I.緒言
 吾々は昭和27年以来Novocain静注の病態作用機転に就き種々臨床的研究及び基礎的実験を行つて来たが1)2)3),此間に接した内外文献を通じて意外に思つた事は,彼等が自分の経験したNov—ocain中毒を余りにも軽視し,何等対策を構ずる事なく半ば諦めている事である.
 偖て19世紀の終りから20世紀にかけて無痛法の発達は非常に目醒ましく,之を基盤として大に近世外科学は進歩したのであるが,時として此無痛法も局所麻酔の如き簡単な操作を行うのみで死を来す場合があり,患者の不幸は勿論の事,其担当医師の被る精神的打撃も甚しくShock死と共に医療関係者によつては全く悲惨な偶発症である.

抗生物質投與時の偶発症とその対策

著者: 石山俊次

ページ範囲:P.775 - P.783

1.アナフィラキシーショック
 1950年東大医学部のインターン生某は,野球試合中に擦過傷を負い,感染予防の目的でペニシリン40万単位を筋注したところ,まもなく蕁麻疹様の発疹と両下腿の点状或は斑状の皮下溢血があらわれた.介意せず帰途についたが,約2時間?後に電車の中で卒倒し,駅長室で介抱されて回復したが,10分間に再び同様の発作があつた.入院してしらべた頃には,軽度の酸性嗜好球増加症のほかは特別の所見もなく,約3週間ののちには出血斑も根跡なく消失した.
 当時われわれはペニシリンによるアレルギー反応についての知識が乏しかつたので,本症例のばあいを単にペニシリンによる重篤な副作用として学会に発表したが,今から考えれば,ペニシリン・ショックの本邦初の報告例であつたようである.この種の事故はCormia(1945),O'Donovan & Klorfain(1946)によつて始めて経験され,Templeton et al.(1947),Waldbatt(1949)がそれぞれ死亡例を報告してから,次第に注目されるようになつた.

輸血輸液の副作用とその防止研究

著者: 長田博之

ページ範囲:P.785 - P.794

緒言
 治療的効果を挙げる為めの,患者の犠牲は最小限に喰い止めらるべきである.日常行われる診断治療,特に術中並びに術後の管理には細心の注意が払われ,一応患者の治病上の犠牲が外見上増していても,生命に対する犠牲を最小限にとどめるためには種々の方法が講ぜられている.
 その手段方法の一つは体液管理である.

頭部外傷における手術

著者: 佐野圭司

ページ範囲:P.795 - P.803

 頭部外傷の一般ならびに非観血的療法は本誌に別に詳しく述べられているから,ここでは触れない.以下に手術的療法の行われているもの,あるいは可能なものについて略記する.

頭部外傷の救急処置(非観血的療法)

著者: 傳田俊男 ,   石森彰次

ページ範囲:P.805 - P.812

 頭部外傷に関しては,古くから多くの研究,報告があるが,今日なおその治療は確立されているとはいい難い.しかも外傷,殊に交通事故によるその発生は急激に増加し,しかもその中頭部外傷では重症例,死亡例が激増し,その治療法は益々困難になつて来ている.
 三河内の調査による,昭和23年4月から同年3月迄の1ヵ年間の東京都の頭部外傷死亡統計(頭部に外傷があつても他部に致命的外傷のあるもの,銃器で頭部を撃つたもの及び殺意をもつて行われた脳外傷等を除く)によれば.1年間の外傷死874,例内脳外傷死亡587例で69.3%を占め,男女の比は4.5:1,年齢的にも戸外で働く機会の多い20歳台が最も多く,又遊戯中の事故の多い1〜20歳がこれに次いでいる.

ショックの救急処置

著者: 植草実

ページ範囲:P.813 - P.817

 外科臨床において外傷,出血,手術或は麻酔に伴ういろいろの偶発症の治療に適切な初期対策が特に大切なことは申すまでもない.ショックが初療の時期を失するか,加療に誤りがあると後では如何に精力的治療を施してもその回復を困難なものとすることは日常経験するところである.近年種々の検査方法の進歩に伴つてショックの病態生理,代謝,病理は漸く明かになつてきたとは云え,なお原因が何であつても急激な血圧下降に直ちに血管收縮昇圧剤を用いる誤りが犯されていないであろうか.また体位変換,移動など傷者・患者の取扱いが大まかに行われていないであろうか.正しい救急処置が望まれる所以である.ショックに至る原因,誘因は甚だ多様であり,侵襲の側にも個体の側にも求められるが,救急処置を適切に行うためには速かにこれを見定めることが必要である.またショックを早期に発見し,更にはこれを起しうる状態,侵襲に就ても知らねばならない。原因,誘因の主なもの,その応急処置に就ては別に悉しく述べられるのでこゝには外傷,出血,手術に伴うショック一般の場合に就て述べる.しかしショックは既に生体防衞機構の急激な破綻状態であり,従つてその治療は殊に急を要するものであつて,救急処置と云つてもそれはそのまゝショック治療の殆どであり何ら特別のことはない.

救急処置に際しての藥物冬眠—附 内分泌機能の変化

著者: 桑原悟

ページ範囲:P.819 - P.830

緒論
 H.Laborit,P.Huguenard両氏にはじまる人為冬眠ないし薬物冬眠は救急処置のひとつとして生れた.まず,氏らはショック問題をとりあげ,ことに出血性ショック,外傷性ショックにたいする処置としては本法を動物実験的に臨床的(インドシナ戦線における最近の報告)に応用し効果を認めている.
 K.Steinbereithner氏らは,明に,積極的低体温を講ずることを禁忌としている.この点に関しては本法発見者もすでに注意し著者らも,これを経験し,すでに度々発表したところである.いいかえるとショック防圧のためには低体温はさほど必要でなく(心臓外科は別として)すなわち薬物冬眠だけで充分であるという.

偏側椎弓切除術を施した腰椎々間板突出症と特異な術後偶発症状の分析

著者: 手島宰三 ,   山崎敏 ,   中島秀典

ページ範囲:P.831 - P.837

緒言
 最近,椎間板脱出乃至黄靱帯肥厚症に対する認識が深まり,治療法として椎弓切除術が屡々行われる様になつた.その病理及び手術手技に関しては既に昭和28年第26回日本整形外科学会に於て一応概念が確立され,一般臨床病院に於ても手術が実施され,遠隔成績も次第に纒り,観血的療法の是否及び手術適応の限界が論じられる段階となつた.しかしあらゆる観血的療法がその創始期に於て種々の危険な偶発症を経験して来たと同様に,椎弓切除術も現今に於て樹,各クリニク乃至術者個人の初期経験時代には少なからぬ失敗と思わぬ術後偶発症に悩まされることが多いこと,及び初期に於ける手術成績を以て椎弓切除術の意義と効果を誤まつて速断してはならぬことはこの分野にたずさわる者にとつて心すべき事である.京都大学整形外科学教室に育つた我々は教室十数年来の経験的判断と改良された手技を以て椎弓切除術を実施し,甚だ良い成績をあげているが,それでも時々心胆を寒からしめる様な偶発症を経験することがある.兎角効果顕著な症例は之を発表し,称揚し易いが,不吉にして不愉快な失敗例は個人の狭い胸中のみに秘匿され易いものである.我々の不吉な経験は他の人々も必ず繰り返し経験するものと考えられ,前車の覆えるは後車の戒めとなすべく之を広く発表し,各方面からの検討と指示を載き度く,症例を簡単に記し,分析的考察を試みた.

胸部外傷

著者: 幕內精一

ページ範囲:P.839 - P.846

1.序言
 胸部の外傷に際して,臨床上先ず注意を要するものは,所謂ショックである.此の外傷性ショックに対して,その発生,治療,特に応急処置に就ては,医学シンポジウム第一輯「急性危険症の最新処置(上)」に都築院長によつて詳しく述べられているので省略することにする.然し胸部外傷の治療に際し先ず念頭においておかなくてはならない事は,多くの場合之等の患者がショック準備状態か或いはショックに陥つている事であり,併もショックは予防的処置は容易であるが,一旦ショックに陥ると其の治療は困難であり,時には生命を奪うに到る事である.
 脳部外傷の処置も従前に比して最近は著しく進歩し,とくに近時胸部外科学の進歩に伴い良好な治療成績を挙げている.このことは朝鮮事変の米軍衛生部の報告にも覗われる.胸部外傷は戦傷外科に最も多く,亦近時交通量の激増に伴う路上災害にも漸増の傾向を示している.

肺手術時の偶発症とその対策

著者: 篠井金吾 ,   高橋雅俊 ,   三宅有 ,   陳崇礼 ,   鈴木岩男 ,   片根敏郞

ページ範囲:P.847 - P.856

いとぐち
 肺臓は心肺機能の一翼として生命に直結する重要器官である.呼吸循環機能のみならず酸塩基平衡,体温等に対しても関与しており,機能の停止は許されない.従つて手術時の偶発症も極めて多様な様相を呈し,且つ致命的なことが少くない.手術侵襲の大なること,長時間に亘つて麻酔が行われる点でも偶発症の発生素地は充分考えられ,また良好に手術が行われても術後の管理が不充分なために起ることもある,然し複雑な偶発症でも冷静に考えると何等かの原因が必ず潜んでいるものであるからその対策も自ら生ずるのである.今,その原因を分類すると,1)手術操作自体に求められるもの,2)患者自体の病態によるもの,3)麻酔自体に基くもの,の3つに分類出来るので,その各々に就いて検討し,その対策も併せて検討し御報告する.他山の石となれば幸である.

胃出血の救急処置

著者: 大井実 ,   長尾房大

ページ範囲:P.857 - P.870

緒言
 最近の米国雑誌についてみると,急性大量胃出血の治療方針に関する問題は,Andresenによって代表される内科的保存的に治療せんとする学派と,Stewartらによつて支持されている外科的積極的治療を行う学派との二派に分れて論議されている.各派それぞれの論拠を有してはいるが,いずれかを決定するに足りるほどの目新しいことはひとつも述べられていない.デンマークの内科医MeulengrachtとオーストリーのFinstererが早期自由食餌療法か,早期手術かを論争した一昔前と変りがない.急性大量胃出血の治療方針に関する論議は,1897年の昔,ドイツ外科学会総会においてv.Leube及びv.Mikuliczの内・外科両巨頭が対立して以来,半世紀以上を経た今日に至るまで内・外科両方面から,あらゆる角度で,あらゆる面から論じられて来たが,未だに具体的な解決がついていないわけで,このまゝでは論議の終末を予測し難い.

腹部手術の偶発症とその処置

著者: 飯塚積

ページ範囲:P.871 - P.887

 麻酔の進歩,抗生物質の発見更に生体代謝の研究と相俟つて,手術の限界は拡大され,信頼性を増して来たが,一方手術に伴う術前術後の管理は益々重要視され,避けられないと思われる様な偶発症に対しても或る程度まで回避出来るようになつた.然しながら如何にしても偶発症というものは完全には免れないものであり,この点臨床外科医にとつて常に慎重に対処して行かねばならない問題であろう.

開腹術後偶発症及び之が対策に就て

著者: 継泰夫

ページ範囲:P.889 - P.894

緒言
 厳密な意味で,次に列挙する色々な術後障碍を無雑作に,偶発症の範疇に入れることについては,いささか逡巡を覚えるものである.少くとも術中,術後の患者に対する処置及び管理に万全が期せられたならば恐らく起らなかつたであろう或種の術後障碍にまで全て偶発症の名を冠することに対しては,大方の異論があると思われるからである.偶発症はあくまで不慮のAccidentであり,Zufallであるべきであり,明瞭な原因により起るべくして起つた偶発事と云うものはないからである.然し私は敢て偶発症の意味を広く解釈し,術後障碍夫自体の発生が偶発的であるものだけに限らないで,術後障碍の,よつてもつて起る原因の一半が,術中,術後の処置或は管理の不徹底にあつたとしても,かかる原因による障碍まそう度々頻発するものではないと云う意味でそれらをも全て偶発症として一括し,その発症の機転,病状,及びその対策等に就て検討を加えたいと思う.そうすることによつて,かかる術後の不愉快な障碍の一つでも少なくしたいための自戒の一助ともなればと念ずるに他ならないからである.

腹部内臓損傷

著者: 東都宏

ページ範囲:P.895 - P.898

 腹部内臓損傷は戦傷としては相当の頻度を占め従来より種々と重要な課題を提供して来た.一方平時の一般市民における経験では他の外傷に比し極めて少い部類に属する様である.両者は更に外傷の起る機転及び侵される臓器の種類において異る点が認められる様であるが,その診断や治療の面に於てはいささかも異るものはないと信ずる.
 横浜国際親善病院に於て昭和23年より29年に至る7年間の入院患者のうち腹部内臓損傷例29の統計的観察を試みたので他の報告例と比較検討しつつ報告する.

外傷性皮下胃・膵破裂の1例

著者: 大島幹雄

ページ範囲:P.899 - P.900

まえがき
 上腹部に加えられた鈍性外力による胃及び十二指腸等の管性臓器の皮下破裂の報告は屡々みられるが,胃皮下破裂に併発して実質性臓器の膵臓の破裂を合併するのは極めて稀であり,本邦では私の調べた範囲では雨宮・紫竹氏の膵・脾同時破裂と,新藤氏の膵・腎裂破,秋谷氏の膵・脾破裂の3例の報告を得たのみである.上腹部臓器の皮下損傷は,その損傷が単一臓器の場合でもその診断が早く,精力的な救急処置を施し得ても尚その予後は不良で,死亡率も高度である.二臓器以上の併発損傷は更に診断も困難であり予後も不良である.皮下胃・腸管破裂の死亡率は本邦で37%,Lauvitzen(1947)は427例中71%,Cohn(1952)は25例中20%,又1947年以降は16例に死亡例なしと云う.
 Walkerによれば受傷から開腹手術までの時間と予後の関係は6時間を境とし,それ以後は悪いと云う(第1表参照).一般に上腹部に加えられた鈍性外傷では,その臓器の解剖学的位置及び臓器自体の受傷時の諸条件によつてその損傷の部位,程度がそれぞれ異つてくる.蜂谷は圧縮された酸素ボンベの口から噴出したO2ガスにより経口的に空腹時の胃破裂の1例を報じている.Petryは胃13例,十二指腸9例を報じている.最近受傷直後から開腹術,死亡と約4時間の経過の1例をみたので報告する.

肛門出血

著者: 本名文任

ページ範囲:P.901 - P.909

 肛門出血は日常屡々見られる症状であるが,必ずしも簡単ではなく,痔核その他の直腸或は肛門の病巣から起るものの外,もつと上方の直腸,結腸,小腸等からくるものにも充分よく留意しなげればならない.
 肛門出血は患者自身が排便時に気づき,或は下着などの汚れを見出すことが多く,時には気づかずに久しい間少し宛持続する場合もある.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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