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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科10巻2号

1955年02月発行

雑誌目次

綜説

所謂Banti氏病の剔脾後遠隔成績に就て—特に術後出血の吟味

著者: 友田正信 ,   市吉親夫

ページ範囲:P.69 - P.75

 私の教室の前身である後藤外科教室では,古くより所謂バンチー氏病の外科的研究が行われ多数の手術例があつた.昭和5年福地がBanti氏病としてその18例に就いて,更に岡崎,大塚等も其後の症例を追加し遠隔成績に就いて報告した.
 当時は勿論門脈圧亢進症と云う問題に就いては一般に深く注意する処がなかつたし,手術前食道静脈瘤に就いてX線検査をしたり,又食道鏡検査を行つたりはしていなかつたし,又手術中も門脈圧の測定も行つていないから,此の時代の症例に於いて門脈圧亢進の実態は不明であるが,次にも申述べる様に少くとも脾の病理組織学的所見からすれば私どもが今日脾性中毒症と云つているものに似ている.従つて後者の場合其の手術時門脈圧を測定した結果から推察すると,後藤外科で所謂バンチー氏病として取扱われていた症例も門脈圧亢進を示していた例と考えられる.私共は唯今脾性中毒症例の摘脾後食道静脈瘤出血がどの位あるかと云う点に就いて再検討を加えているので,その研究の一端として後藤外科時代の所謂バンチー氏病手術例に就いても同様の研究を行い,門脈圧亢進症の研究に一資料を加え度いと考えて本調査を試みた次第である.

手指消毒とハイアミン軟膏

著者: 石山俊次 ,   井磧進

ページ範囲:P.77 - P.82

I.緒 論
 1.手指消毒と逆性石鹸
 従来手術準備としての手指消毒には,石齢と刷子を用い10〜15分刷拭するFürbringer(1887)1)の方法,あるいはアルコール,水銀製剤などの薬物消毒を単独或いは併用で用いてきた.これらのFürbringer法或いはその変法は滅菌過程が主として刷拭による機械的な作用であるため10〜15分の時間を要し且つ滅菌率が十分でないために併用する化学的な消毒過程により時に皮膚炎を生ずるなどの欠点がある.1913年独逸でトリメチル・セチル・アンモニウム・ブロマイドに発泡性のある事が発現され,1935年BayerでZephirolが消毒剤として発売され.Domagk(1935)2)の実験でZephirolに強力な殺菌作用のあることが認められてから,手指消毒剤としての逆性石鹸はにわかに注目されるようになつた.

スルファミン懸濁法による気管支造影法

著者: 菅原古人 ,   菅原正彥 ,   丸山輝夫

ページ範囲:P.83 - P.85

1
 肺結核はもちろんのこと,肺腫瘍あるいは気管支拡張症等の肺外科における気管支造影法の意義についてはいまさら贅言を要しないところであるが,その造影剤としては造影の美麗鮮明であること,肺胞内に長く造影剤が残らぬこと,排出の速かであることおよび刺戟のないというような諸点が要求される.
 さて,気管支造影剤としては,従来専らヨード油製剤のみが使用されてきたが,ヨード油製剤は肺胞の中にまで入るため,Bronchogramに肺胞像を生じ,気管支像の読影を困難にする.又再撮影レントゲン写真にも,前に注入された造影剤が肺胞内に長期間遺残し,レントゲン写真の解読にも支障を来し,又長い間異物として肺内に残留しているため,ヨード中毒,肺炎等をまねく原因となることもある.さらに肺腫瘍では後で行うべきレントゲン深部治療の障碍になること等の欠点を有し,気管支造影剤として理想的でないことが指摘され,新しい気管支造影剤の研究がすすめられ,多くの新製剤が老案されている.これらの大部分は水溶性気管支造影剤で,外国ではJodulon-B,Umbradil,Viskisolなどがすでに製品化されており,日本でも金谷氏のPyracetonとAlginを使ったもの,菅原・山田両氏のSugiuronとPoly—vinyl-Alcoholを使つたもの等が研究され,また市販もされている,

肺,縦隔腫瘍早期診断の対策と治療

著者: 香月秀雄 ,   梅沢敬一

ページ範囲:P.87 - P.92

I.緒言
 疾患を治療するためにはその疾患の本態を把握しなければならない.即ち治療は診断に初まり,診断の出発点なしに治療は完成しないわけである,
 今日,肺並びに縦隔の腫瘍に対する報告が年を追つて増加していることは,わが国においても本疾患の治療に対してその前途にいささかの光明を与えてはくれるが,腫瘍に対する治療の根本方針が依然として外科的切除にあるとされている現在,外科領域の業績をふりかえつてみると甚だ貧弱と言わざるをえないのである.

経皮的経肝門脈カテーテル

著者: 齊藤昂 ,   芦沢淸成 ,   藤田孟

ページ範囲:P.93 - P.102

 1929 Forssman1)が細い輸尿管カテーテルを自分の左正中静脈から右心に挿入した事に端を発した血管カテーテルは1941 Courrnand2)等により普及され,近年特に抗生物質やカテーテル製造技術の進歩によつて目覚しい発展をなしている.心房,心室は勿論の事,肺動脈,心冠状動静脈,肝静脈,腎動静脈,脳血管等,その他身体各所の血管内に挿入され,これら臓器の人体生理及び病態生理の研究に多大の業績を治めている事は何人も認むる所である.しかしながら門脈系に対しては直接,経皮的にカテーテルを挿入し種々の操作を行う云う事は従来不可能とされてきた.然し1944Warren and Brannon3)による肝静脈カテーテルによつて肝及び門脈循環の諸相が研究され,Bradley4-7), Meyer8),上田,美甘,木本門下の優れた報告があるけれども上田教授が云われる如く広い肝臓病学の領域は未だに大部分が暗黒にとざされている.こゝにこれ等の肝静脈カテーテルと相俟つて直接,門脈内にカテーテルを経皮的に挿入する事が可能となるなら多分に興味のある結果が生れてくるものと思う.術前術後に於ける肝の物質代謝の究明,肝及び腸管の病態生理や門脈循環の血液学的諸面に於ても一段と解明される点が決して少なくないであろう.

電気刺戟による心室細動除去に関する実験的研究—電気方向の再検討

著者: 岩本九州夫

ページ範囲:P.103 - P.107

緒言
 心室細動除去に対して電気刺戟が最も効果的である事は1889年Prevost及びBatteliの発表以来一般に認められて居る.
 今迄は心臓に比較的弱い電力を通ずると心室細動を惹起し,比較的強い電力だと心室細動が除去出来ると云われて居る.

頭部外傷時の気脳法の治療効果の検討

著者: 中村嘉三 ,   何洸照 ,   石森彰次

ページ範囲:P.109 - P.115

緒言
 気脳法はDandy1)により施行され,脳外科に於いては診断上欠くべからざる方法として広く行われ,頭部外傷に対してもFischer2),Nohtfield3)其の他我国に於いても斎藤4),荒木5),高村6),高山7)等の研究がある.又治療面でも,Leriche,斎藤,鈴木8)其の他は癲癇等に対し,高山9)は頭部外傷早期に於ける本法の治療効果を報告している.しかしその作用機序に就いては未だ明かにされていない.吾々も頭部外傷其の他に対し気脳法を施行し,その治療効果につてい検討すると共に,同時に血液其の他の検査を行い,その作用機序の一端を追求した.

小兒に対するラボナール筋注麻醉の経驗

著者: 池田静哉 ,   大垣治雄

ページ範囲:P.117 - P.121

緒言
 従来小児に対する優秀な麻酔法の出現を見なかつたために,ことに乳児の場合などには局麻或は無麻酔で,泣き且つ暴れるのを無理に押えづけて手術を行うことが当然視されてきた.これは小児の疼痛感覚の未完成という通念から平然と行われていたものであるが,手術野が動くために手術はさまたげられることが多かつた.この小児の泣き且つ暴れる原因が疼痛自体の表現ばかりでなく,恐怖心その他の心理的要素の表現でもあるので,局麻で疼痛を除去しえても充分なる理解・協力をえられる年長児以外には全く麻酔の効果を期待しえないのは当然である.そこで小児の麻酔には心理的要素をも除去しうる全身麻酔が必然的に必要となるわけである.現在小児に対する全身麻酔法として最も広く使用されているものは,エーテルの開放点滴麻酔であるが,これの偶発事故その他の危険性は論外としても,頸部・顔面などの手術の際には麻酔のために手術がさまたげられる.この様な不便を解消しうるものとして,吾々は江口氏2)等の提唱したオウロパン筋注による小児の麻酔法に着目し,オウロパンより副作用の少いといわれるラボナール(Thiopental sodium)を用い観血的・非観血的手術を行える小児40症例に,これの筋注麻酔を試み,最近良好な成績を得ているので,その経験及び多少の改良点について報告し,大方の御参考に供する次第である.

持続性局所麻醉剤Langencainの効果に就て

著者: 松井勉 ,   淸正和

ページ範囲:P.123 - P.124

 近時麻酔法の長足の進歩がもたらされ,術中の患者は殆ど全く苦痛に耐える必要が無くなつたが,術後の苦痛に就いては未だ有力な対策が無い様に見うけられる.我々の教室では術後の無痛法について,1,2の試みを行いつつあつたが,たまたま科研薬販売株式会社より,持続性局所麻酔剤Langecain(主剤はProcain,塩酸Procain,及びButyl-y-amino-benzoateよりなる)の試用を依頼されたので,下記の如く手術例に応用して見た.その結果は充分見るべき効果が得られたと思われるので,簡単に其の使用経験を述べる.

クローン氏病の虫垂に及ぼす影響に就て

著者: 三枝正孝

ページ範囲:P.125 - P.129

1.はじめに
 今日クローン氏病或は局所性腸炎と云われる疾患は既に一世紀以上に互て種々の名称で記載されている.最初の症例は1806年に記録され1)2),其後Moynihan3),Mayo Robson 4),Brawn 2),Dalziel 6),Tietze 7),Moschcowitz and Wilen—sky 8)9),Mock10),Coffen 11)etc,の報告があつたが実際に臨床上重要な問題として世の注目を引くようになつたのは1932年Crohn,Ginzburg andOppenheimer 12)が之を臨床上及び病理学上特殊の存在としてTerminal ileitis,Regional ileitis(終末廻腸炎,局所性廻腸炎)と命名発表して以来のことである.当時Crohn et al.は本疾患が廻腸終末端に局在するのを特徴としたが其後Harris,Bell and Brunn 13),Anschütz 14),Kapel15),Colp 16),Brown,Bargen and Weber 17),Crohnand Rosenak 18)etcを初め相次ぐ多数の報告によつて消化管のあらゆる部位に発生することが明らかとなり,其の名称の総括的意味をもつて呼ばれるようになった.

静注麻醉時の呼吸停止に対するテラプチクの効用経驗

著者: 江口健男 ,   井昭成 ,   森岡亨 ,   林田隆輔

ページ範囲:P.131 - P.135

I.まえがき
 Evipan Natriumが発表され,これがあらゆる領域の臨床家の試用検討を受け,その麻酔薬としての卓越性に就いて確固たる承認が得られたのを契機として,バルビツール酸剤の改良,進歩は誠にめざましいものがある.
 特にそのultrashort actingという点に関する方面の努力は並々なものでなく,ついに現今の如く種々の製品をみ,おそまき乍らわが国でもこれらの薬品が国産化され,提供される段階に来た.

術後の「いたみ」にたいして—持続性局麻剤使用の経験

著者: 福島覚

ページ範囲:P.137 - P.141

緒言
 手術の要は術中の疼苦痛を全くなからしむるにあることは論をまたない.従来殊に我が国に於いては,手術時の疼苦痛は程度の差こそあれ若干は避け得られぬものと考え軽視されて来たが,欧米医学の輸入は此の方面の顕著な進歩をもたらした.然るに手術後麻酔覚醒時の疼痛の問題は観ることなく僅かに姑息的に鎮痛剤を投与するに止まり,残余は耐え忍ぶべきものと考え勝で此等の検討は取残されて来た.
 然るに各種鎮痛剤の作用が詳細に究明されるにつれて,此等の可成の大量が術後に用いられる様になつたが,此等は夫々副作用として嘔気・腸管麻痺・呼吸機能低下等色々の障碍を伴つて術後更に不快な状態をもたらすことがある.

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集談会

ページ範囲:P.143 - P.145

第532回東京外科集談会29.11.20. 1)膵臓に転移せる悪性黒色腫の1例
       東京警察病院外科 山崎秀雄外
 55歳男子,左足踵の黒色母斑の膵臓転移に対し膵頭十二指腸切除施行.手拳大の腫瘍にして細胞中メラニンを多量に含有す.各国文献中黒色腫は201例で,膵臓転移あるもの11例,これを切除治癒せしめたのは本邦第1例である.
 2) 胃エォジノフイロームの1例
          慈大大井外科 本島桂三
 53歳男子,主訴は空腹時上腹部痛.陰影欠損もあり胃癌の診断のもとに開腹,大彎側胃後壁高位の腫瘤で,肝,膵尾,脾へ濔漫性浸潤あり,粘膜下のものが潰瘍化せるものであつた.組織学的にeosinophilic granu—lomaであつた.通常アレルギー疾患が認められ血中エオジン細胞の増加があるものであるが,本例とアレルギーとの関係は認められなかつた.従つて原因不明である.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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