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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科10巻4号

1955年04月発行

雑誌目次

綜説

胃全摘患者に於ける生活予備力に就て

著者: 犬塚貞光 ,   田中力

ページ範囲:P.223 - P.228

I.緒言
 近年,胃全摘術の適応が拡大され,本手術例が増加するにつれて,胃全摘術後の障碍に関して種々の研究発表がなされ,本手術患者の消化吸收試験,廷いては胃全摘患者の生活能力に関する業績の報告もその数を増して来た.
 胃全摘患者が果してどの程度の生活に堪え得るものであるかは,誰もが一応考える事柄であり,教室に於ても胃全摘後の物質代謝に就き,或いは患者について,或いは実験動物について,種々の角度から系統的広範な研究がなされ,その疑問の殆んどを解明し得ている.

胃全摘後の食餌性過血糖並びに糖尿の発現機序に就いて

著者: 淸水力

ページ範囲:P.229 - P.233

I.緒 言
 胃全摘後には胃の種々なる機能が全く消失する結果,術後代謝の研究は極めて重要な課題であり,教室では早くから此の方面に就いて系統的な研究が行れて来た.糖代謝の面では,教室鶴丸は本手術後には胃切除後と異り澱粉経口的投与時に著明な過血糖が現れ,糖尿が発現し,後血糖は下降して反応性低血糖に移行する事を実験報告したが,私は斯る現象の発現機序を多方面から追求し聊か興味ある知見を得たので茲にその要旨を報告する.

小児の閉鎖麻醉について

著者: 藤本憲司 ,   島田昌治 ,   鴇田脩一郞 ,   黑河內哲夫 ,   信太勇行 ,   根本金重 ,   荒井三千雄

ページ範囲:P.235 - P.241

いとぐち
 整形外科領域の手術では胸部手術などと異なり,成人ならば腰麻又は局麻でも十分無痛の目的を達せられることが多く全麻を絶体に必要とする場合は少いのであるが,幼小児を手術対象とする時は事情が異なり,たゞに無痛状態になしたのみでは十分でなく更に恐怖心を除去してやらなければならない.即ち特に小児の場合には精神愛護の見地から全麻の必要性が大きいのである.
 従来小児の全麻法としては,エーテルの開放点滴法が多く行われており,この方法は操作も簡便であり安全性も高く,今日でも依然として小児麻酔の根幹をなすものではあるが,なおいくつかの欠点が指摘できる.即ち特有な刺戟臭のために暴れたり,一時的の呼吸停止をおこしたりすることがよく経験される所で,麻酔の導入にも時間がかかる.更にエーテル自身の作用に加えて,エーテルの蒸発時気化熱を奪われるために冷却した空気を吸入せねばならぬことにより,気管内分泌が亢進して気道の狭窄ないし閉塞の危険もあり,長時間施行するときは酸素欠乏症の発生も稀ではないと云われている.

脊椎カリヱスに対する脊椎癒着術の成績

著者: 宮崎淳弘

ページ範囲:P.243 - P.248

 脊椎カリエスの治療の根本は,進展期に於ては,安静,免荷,固定.恢復期に於ては,適度の荷重を加える事に依て,骨破壊部の修復を促進せしめる,ことにあるがこれらの事を,保存的療法のみに依て,達成することは,長期間を要するばかりでなく,時として,頗る困難な事が多いので,1891年に,Hadraが銀線縫合による,棘突起の固定を試みて以来,種々なる方法が行われた.
 然し,脊椎カリエスの治療に当つて,更に注意すべきは,小児に於ては,早期に高度の変形が起り易く,この様な症例では,年長後死亡率が高い故に,脊柱の変形の矯正も亦,重要な目的の一つである.これについて,早期に,変形発生前に脊椎固定手術を行う論者と,変形の矯正は専ら,非観血的に行い、然る後に固定手術を行う論者がある.

乳腺腫瘍の統計的観察

著者: 岩田達男

ページ範囲:P.249 - P.254

まえがき
 最近欧米は勿論,本邦に於ても乳癌の発現率は年々増加の傾向にあり,我々の教室に於ても乳腺の腫瘤を主訴とし癌の恐怖心を抱いて外来を訪れるものが漸次増加している.私は,我が教室に於ける乳癌を主とし,又その前癌状態として一連の関係を有すると思われる良性腫瘍並びに慢性炎症性腫瘤について,記載の明かな424例の統計的観察を試みたので,2,3の文献的考察を加え,以下報告しておきたいと思う.
 さて,乳腺に発生する腫瘍を大別すると,悪性腫瘍と良性腫瘍に分ける事が出来るが,前者の代表的なものは乳癌である事は周知のところで,諸家の統計では50〜90%を占めている.後者のそれは乳腺線維腺腫,慢性乳腺症等である.我が教室に於ける424例の乳腺腫瘍を疾患別に分類すると第1表の如く乳癌が最高で55.2%である.次は乳腺線維腺腫,慢性乳腺炎の順である.なお慢性乳腺症が乳癌の前癌状態の1つであると言う事は成書にもはつきり記載されつゝあるが,此れについては久留教授の詳細な報告1)があるのでこゝでは触れない.私は乳腺腫瘍の中で最も問題となる乳癌について以下統計的観察を行う.

症例

收縮性心嚢炎の1手術例とその剖検例

著者: 松田和雄 ,   黑田尊明 ,   小河博之 ,   戶川智 ,   酒井晃 ,   矢部忠孝

ページ範囲:P.255 - P.260

 最近心臓外科の発達に伴い,難治とされた收縮性心嚢炎に対して外科的療法が加えられるに及び,その治療効果が期待されるに至つた.即ち,收縮性心嚢炎とは,Moschcowitz1)によれば,心嚢の内外二層が全面的に癒着肥厚して心臓の正常な機能の或る部分,特に拡張期の充盈を妨げる場合を云う.更に心臓の長軸が時針或いは反時針方向に捻転する事,及び還流静脈が圧迫される事が作用して,心不全の形成,搏出量の減少を来すのである.
 主なる臨床所見としては,動脈血圧の低下,静脈血圧の上昇,心搏動の不整減弱,脈圧の減少,更に進んで,下肢の浮腫,肝の腫大,腹水を生じ,Pick氏心膜炎性偽性肝硬変症を呈して来るものである.

特発性破裂に因り腹腔内出血を来せるHepatomの1例

著者: 宮川忠弘

ページ範囲:P.261 - P.263

 原発性肝癌は他臓器の原発性癌に比すれば極めて稀なものであるが,本邦に於ては欧米諸国に比してその頻度は高いと云われ,貴家氏によると米国のそれに比して約8倍なりと云う.本症は術前その確診を得ることは極めて困難で,多くは外科的手術によつて診断が確定される.私は肝腫瘍に腹腔内出血を伴いたるものを開腹し,特発性肝破裂なることを確かめ,その破裂肝臓がHepatomなることを組織学的検索により確定した1例を経験したので茲に報告する.

膵臓嚢腫様腺腫の1例

著者: 星川信 ,   江淵浩美

ページ範囲:P.265 - P.267

 膵臓嚢腫の報告はその多くが仮性嚢腫であつて真性嚢腫に関するものは少なく,河合氏等(1952)による昭和27年3月までの本邦の統計にみるも真性と明らかに記載されているものは17例に過ぎない.
 膵臓嚢腫様腺腫に就いては近年Haukohl & Melamed(1950)の63例,Mozan(1951)の56例,Sawyer等(1952)の76例の集計観察がある.最近ではZintel等(1954)による4例の手術報苦をみる.

異型嚢胞腎の1例

著者: 鈴木昭

ページ範囲:P.269 - P.272

 嚢腫性腎疾患は臨床上時々遭遇するものであるが,その分類は区々で,いろいろに分類されている.White and Braunstein(1954)は次の様に分類して考察を加えている.

興味ある所見を呈した乳児細網肉腫症の1例

著者: 星野尚義

ページ範囲:P.273 - P.275

 細網肉腫症は臨床的には左程稀な疾患ではないが,乳児期に本腫瘍の発生する事は極めて少い.私は私共の教室において乳児の原発巣不明な全身転移を伴う悪性腫瘍の1例に遭遇し,組織学的に細網肉腫症の診断を下し得た興味ある症例を経験したので報告する.

原発性腹壁放線状菌症の1治験例

著者: 山秋昇 ,   大圃長英

ページ範囲:P.277 - P.279

緒言
 放線状菌症に関する症例報告は内外共に多数あるが,それ等は頸部顔面領域,胸部,腹部等が大部分を占め,皮膚に原発するものは甚だ少く,腹壁放線状菌症は殆んど総べて腸管放線状菌症に続発するものであり,腹壁の原発性放線状菌症は極めて稀有である.我々はこゝに原発性腹壁放線状菌症と考えられる1例を経験したので報告する次第である.

悪性黒色腫の2例

著者: 井上司 ,   樋口昭司

ページ範囲:P.281 - P.284

 悪性黒色腫はメラニン色素を含む悪性度の強い腫瘍であるが,その病理学的本態については不明で,いまだに定説がない.
 悪性黒色腫の歴史はふるく,すでにHippokra—tesおよびCelsusが記載しているともいわれているが,1806年Lannecが黒色に着色した腫瘍をMelanoseと称して報告したのが最初である.1834年,Müllerは,Carcinoma melanodeと称して癌の一型と看做し,上皮発生説を唱えたが,これを支持するものとして,1883年に,Unnaの報告があり,ついで1907年,Wietingおよび,Handiらはメラニン色素を形成するのは,上皮細胞のみであると説明し,この種の細胞を,Melanoblastenと呼び,かゝる腫瘍をMela—noblastomと称した.

恥骨に発生せるエオジン好性細胞骨肉芽腫の1例

著者: 亀田俊孝 ,   吉田忠

ページ範囲:P.285 - P.287

 組織学的にニオジン好性細胞の強度の浸潤を特徴とするエオジン好性細胞骨肉芽腫は,1929年Finziが報告して以来Magnon,Schairer,Lich—tenstein,Farber等の報告を見,本症の病因に就いて種々の論旨がこゝろみられているがその報告例は比較的少い.本邦に於ては高木,浦川両氏による左側脛骨に発生せる1例,山本氏の3例及び吉沢氏の肋骨に発生せる1例の報告が見られる,本腫瘍の好発部位は頭蓋骨,上腕骨,大腿骨,骨盤等であり,また好発年齢は,3〜20歳の若年者に多いと云われる.吾々は最近跛行を主訴とし臨床的には結核性股関節炎に類似した症状を示していたが,X線像で恥骨に発生せる悪性の骨腫瘍を思わせる像を示し,組織学的検索の結果エオジン好性細胞骨肉芽腫と判明した1例を経験したので報告する.

外科保険診療の手びき・2

手術と処置

ページ範囲:P.288 - P.289

 保険医療養担当規定第11条の4,に手術及び処置として次の様に述べてある.
 (1)手術は必要があると認められる場合に行う. (2)処置又は包帯交換は必要の程度において行う.
 勿論必要のない手術が行われる筈はないがこの必要という意味には第一に保険診療に於ては就業に支障があるかないかによつてきめられるということがある.例えば単なる美容を目的として耳殻の成形術を行つた場合には保険診療の範囲内ではないが同じ耳殻成形術でもその患者の職種によつて耳殻がないために聴力に支障を来し就業出来ないというような場合には保険診療の対称となるのである.次には手術を行つてもその適応が妥当でない場合には保険診療の範囲外となる.例えば腋窩で胸廓神経を切断することによつて気管支喘息を治すというようなことは主張する人にとつては必要性があるかもしれないがこれは普遍妥当性を欠くために今ではまだ保険診療へは取り入れられていないから担当医が例え必要と認めても通用しないのである.然し女性乳癌のある時期に卵巣別除術を行うということや,慢性胃炎の間である場合には胃切除を行うというような外科学会でひろく認められていることは行つても差支えないことになつている.

最近の外国外科

Whiteheadsche Operationの遠隔成績

著者: Bültner

ページ範囲:P.290 - P.291

 痔核切除の手術には今日LangenbeckとWhitehead2つのの方法が行われている.
 1933年Kairo Hospisalからの成績以来Whitehead氏法は好成績を挙げているが,之の方法を全く拒否している反対派の意見は, ① 肛門の狭窄障碍. ② 肛門括約筋の機能不全. ③ 直腸粘膜外飜の爲の分泌後のための濕疹.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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