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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科10巻7号

1955年07月発行

雑誌目次

綜説

胃全摘出後の肝糖原

著者: 権藤嘉治

ページ範囲:P.423 - P.426

 教室に於ける胃全摘後の物質代謝に関する研究の一翼として,胃全摘後に於ける肝糖原の検索を企図した.
 肝糖原量は食後経過時間,日時差等に依つても甚しく動揺するものと言われているので,単に1例1回宛の断片的検索では正鵠を失する惧れがあると思われる.従つて私は胃全摘犬の同一例に就て.食後時間を追うて肝糖原量の一日中の消長を追究し,見るべき知見を得た(文献4)ので,茲にその概要を報告する.

胃切除術術後合併症としての腸重積症

著者: 森崎邦夫 ,   小谷不二夫

ページ範囲:P.427 - P.431

 胃癌或は胃,十二指腸潰瘍に対する胃切除術は近代化学療法の発達と手術手技の進歩とに相まつて優秀な治療成績を示し,最も優れた治療法であることは多言を要しないところである.けれども一面低率ではあるが,色々の合併症がおこることもまた事実であつて,いかに練達の外科医が快心のメスを振つて施術した場合といえども,これを避けえないことが有りうるものである.術後通過障碍,癒着性イレウス,縫合不全,術後吻合部出血等は一般に考えられる術後合併症である.ここで更に上述の合併症の他につけ加えなければならないのは胃切除術後腸重積症である.本症は単に胃切除術にかぎらず,他の腹部手術後にもおこりうるものであるが,ここでは特に胃切除後の合併症としての本症について述べたいと思う.諸外国においてはAngerer1),Wölfe2),Schmidt3),Bre—gadze4),Arduino8)等の胃切除術乃至胃腸吻合術後の腸重積症に関する報告を散見するが,本邦においても小柳6),奥村7),村山8),其他9-14,26)等の11例が既に報告されている.最近私共も胃癌胃切除術後発生した本症2例を経験したので,本邦報告例と合せて合計13例の本症について統計的な観察を試みると同時に,胃切除術後合併症としておこりうる腸重積症の存在を強調したい.

我が教室に於ける最近5ヵ年間の肉腫患者の統計的観察

著者: 藤原順 ,   藤田昌司 ,   末定左內 ,   橫山隆

ページ範囲:P.433 - P.435


 我が国に於ける肉腫患者の,統計的観察はすでに,伊藤,藤原,高橋,長田其他の諸氏に依り研究発表されて居る処であるが,吾々は最近5ヵ年間(1950〜1954)に祝戸医大藤田外科に於て,入院加療せる肉腫患者46名について,統計的観察を試みた.
 調査材料は1950〜1954年に亘る5ヵ年間の,患者にして肉腫の診断については初部発位,または転移せるものの顕微鏡的検査に依つたものが殆どであるが,一部組織標本の得られざるもの及び,組織所見の不明なるものは臨床的所見に依り決定した.

トリプシンの外科領域に於ける應用について

著者: 関根迪才 ,   樋口公明 ,   黄煥堂

ページ範囲:P.437 - P.442

 結晶トリプシンが各種蛋白質に対して強力な消化作用を持つていることは古くより知られていたが,壊死組織融解剤として使用される様になつたのは極めて最近の事で1951年Roettig et al.によつて優秀な壊死組織融解剤であることが実証せられ,その後多くの学者に依つてその秀れた効果が確認されるに至つた,吾が邦に於いても既に各方面の臨床成績が発表せられているが,吾々も外科領域に於いてTrypsilin(持田)(以下T. R.と略す)を使用する機会を得,一応の成果を得たので現在迄に得た成績を簡単に報告する.

脊麻後頭痛の本態に関する検討

著者: 九里愼之輔

ページ範囲:P.443 - P.452

緒言
 脊髄麻酔法は全身麻酔法の進歩した今日と雖も実地臨床上幾多の利点を有し,特に経済的見地より我が国情に最も合致した無痛法と考えられる.本法実施にあたり血圧下降を中心とした術中ショックの問題は常に念頭を去らないが,その発生機序に関しては既に第55回日本外科学会上詳述した.脊麻後副作用として最も頻発し,患者,医師共々悩まされる問題の第一は術後頭痛であるが,その本態が極めて複雑多元的な要素を包含するために少くとも本邦に於ては今日迄敬遠されて来た.脊麻後頭痛の本態に関する明確な概念を把握することは極めて必要であると信ずる.
 此処に論ずる脊麻後頭痛とは,脊麻後発生し,多少に拘わらず脊麻に関係ありと思われる凡ゆる頭痛及びこれに附随する一連の症候群を総括意味する.従来欧米の諸家はこれに対しpostlumbar headache,postspinal headache,postlumbalerkopfschmerz等と命名しているが,多くは単なる腰椎穿刺後頭痛(postpuncture headache)ほどの意味で,脊麻後頭痛の全般を説明し尽すものでない.

白血球減少症に対するチスチン製剤の効果—パニールチンを中心として

著者: 梅谷恵子 ,   大塚礼子

ページ範囲:P.453 - P.460

緒言
 悪性腫瘍に対する治療として,X線照射やNitrogen Mustard(以下N. M.とする)が使用されている.しかしこれらにはいずれも二次的障碍として白血球減少をきたす副作用がありその予防法および治療法は種々研究されている.すなわちCystein,Cystin,還元Glutathion,BALなどのSH化合物が保護的に作用することは,WeisbergerおよびRosenthal,Goldschmidt and Pickeringあるいは平出氏らによりすでに報告されており,またVitamin B12,葉酸なども効果があるといわれている.一般に放射線およびN. M.にはともに細胞分裂を阻止する作用があるといわれるが,これらの作用は広汎にわたつてSH基の機能を酸化的に奪取するものであるが,これに対しSH化合物を添加すればSH基の機能が再賦活され,これにより造血組織の再生速度がたかめられるといわれている.
 われわれはNitromin(Nitrogen Mustard N-oxide以下Nとする)を用いて家兎に白血球減少をひきおこさせ,これに対しPaniltin(Cystin以下Pとする),Fresmin(V. B12以下Frとする)Foliamin(葉酸,以下F1とする)を使用し,その効果を比較検討し認むべき結果をえたので報告する.

無痛の組織内消毒法及び組織内消毒を兼ねた局所麻痺法—キシロカイン-ペニシリン液による

著者: 布施貞夫

ページ範囲:P.461 - P.462

1.緒 言
 最近,我国にもキシロカイン(ザイロカイン)が輸入され新しい局所麻痺剤(Anaesthetica)として広く使用されようとしているが,私はこのキシロカインを利用してキシロカイン-ペニシリン混合液をつくると,(1)局所麻痺と同時に局所の組織内消毒を行いうること,及び反対に考えて利用すると,(2)無痛に組織内注射消毒法が出来ることを知り,この二つの方法はキシロカインの出現によつて可能になつたという点で特筆大書さるべきものであり,又,キシロカインの性質中ではプロカインに優る性格とてし特に重大な価値づけをさるべきものと考えたので,この点を強張して記述することにした.

ポリビニールフオルマールスポンヂの外科的應用に就て

著者: 原田眞夫

ページ範囲:P.463 - P.467

1.いとぐち
 ポリビニールフォルマールスポンヂ(以下P.V.スポンヂと略記する)は人工的に造られた一種の高分子多孔性物質で,戦時中ならびに戦後に於てプラスチック工業の発展に伴い発達したもので,とくにわが国に於て種々研究せられ,著しい進歩を示しつつあるものである.
 このP.V.スポンヂは他の多孔性物質と比べて機械的強度が大であり,適度の通気性を有するとともに,吸水性もまた良好である.更に吸水状態に於ては優れた柔軟性・弾力性・触感性を有し,かつ優れた耐薬品性・耐老化性をも有している.

外科領域に於けるプレアミン使用成績について

著者: 伊藤克彥 ,   足立敬二 ,   水野和実

ページ範囲:P.470 - P.475

 近時外科手術の発達に従い合理的な種々の補液が疾病の予後を決定する重要な治療法になつたがその一つとして術後の蛋白補給の目的で使用される必須アミノ酸の重要性は欠くべからざるものがある.特に蛋白代謝の障碍を起し易い外科的疾患即ち肝胆嚢疾患,胃癌,胃潰瘍,イレウス,肺結核,其の他の慢性疾患手術前後においては,日常広く使用せられて良好な成績が多数発表されている.従来教室ではこの目的のために,カゼイン酵素分解産物であるポリタミンのみを使用してきたが,最近は牛血の酸アルカリ分解によつて造られたプレアミンも使用している.本剤は昨年9月より尿中窒素平衡の点を検討した結果,該液中にカリウムを添加することにより窒素排泄量の減少と補液による浮腫防止に対して一段と改良された.その臨床応用例について述べる.

症例

大腿骨々頭辷り症の1例

著者: 行岡芳生 ,   綿谷茂彌

ページ範囲:P.476 - P.478

 大腿骨々頭辷り症は1889年Müllerが4例を報告し,その後1931年Ferguson,Howorthが70例,1932年Kienböckが8例,1934年Lind—emannが4例,1941年Howorthが52例を報告し,更に1945年Greenは26例36股関節について報告.最近はKlein等が本疾患について詳細な報告を行う等,欧米諸国ではそれ程稀な疾患ではない様に思われるが,本邦ではその報告は比較的少く,1947年片山,仁科両氏が各々内分泌障碍によると思われる小児性内彎股の1例及び2例を報告し,1953年横山及び笠井氏が4例を報告しているにすぎない.更に本疾患の成因についてはMüller,Hofmeister,Kocher等は外傷が例外的であると考え,Sprengel,Ramstedt,Kempf,Lorenz等は外傷を重視し,Drehmann,Walter,Pitzen等は外傷によるものと,非外傷性によるものとの両者を肯定している.更にKienböck等は内分泌異常,特に脳下垂体機能減退を重視している.又Ferguson及びHoworthは細菌感染によると述べている.最近私等は肥胖性生殖器萎縮症と考えられる患者に典型的な大腿骨々頭辷り症を経験したので報告する.唯本患者は性格に異常があり,興奮し易く,為に数日間の入院で退院したので,検査事項は完全には行い得ず,治療は全く行わなかつた.

手術場等に於けるペニシリン耐性菌の出現について

著者: 佐藤宏 ,   今村裕彥 ,   菊地喬 ,   鈴樹文吉

ページ範囲:P.479 - P.482

 ペニシリン(以下「ペ」)の普遍的使用をみてより米国に於ては既に10年,本邦に於ては5年を経過した.「ペ」の使用による外科手術の進歩は論を待たず,外科疾患中多数のものに日常安易な気持ちで本剤の使用が行われている.しかしながら,「ペ」耐性菌の増加により,我々は最近余りも安易な気持ちで「ペ」を使用することは,ある場合には危険であることを術後化膿及びその他症例により教えられたので,起炎菌の耐性試験を行つた処,多数例に「ペ」耐性葡萄状球菌の存在することを認め更に「ペ」以外の抗生物質の使用基準についても若干の知見を得たので参考に供したい.

興味ある義肢を装着せる先天性脛骨欠損症の症例

著者: 高橋喜美雄 ,   成田英三郞

ページ範囲:P.483 - P.484

緒 言
 先天性骨畸形の中で先天性脛骨欠損症は比較的稀な畸形とされているが,欧米に於ては1841年にOttoが初めて1例を報告して以来,その後Joachimsthal(1894)は自家例と共に33例を記述し,Pèter Bede(1906)は55例,Robert Allerenschau(1925)は自家例3例を,Nuzziは自家例を合わせて81例を蒐めた事を記述している.又Andre Bertaux(1921)も自家例とも75例を報告している.我邦に於ては金子博士(大正5年),住田博士(大正6年)及び松本氏(昭和2年)の手術報告例を見てより,昭和12年神川,橋場両氏に依る手術例と鈴木氏の診察報告の1例があるが,それ以来殆んど報告例を見ない.
 我々は青森県下の身体障害者の巡回診療を行つた際に先天性脛骨欠損症の1例を発見したので,ここに報告する次第である.

小児に於ける外傷性脾臓皮下破裂の2治験例並びに剔脾後の血液像について

著者: 與芝新平 ,   加藤出 ,   大野英男

ページ範囲:P.485 - P.490

緒 言
 脾臓皮下破裂は極めて稀有な疾患とは云い難いが,近時益々激増する交通事故は,腹部外傷殊に腹腔内臓器損傷をして日常外科臨床の極めて重要な一部門となすに至つた.而して一旦腹腔内臓器の皮下破裂を来せる場合その確実な診断と適切,敏速な処置とが強く要望されるのは論を俟たない所である.
 吾々は過去三年間に外傷性脾臓皮下破裂を2例経験し,而もその1例は従来の文献中最年少者の症例であつて,これに剔脾を行い,剔脾後一年間にわたり血液所見,発育状態並びに肝臓機能についてその経過を追求し些か興味ある所見を得たのでここに報告する.

外科保險診療の手びき・5

手術料(準用点数)その1

ページ範囲:P.491 - P.491

1.脳及質切除術 500点
2.皮質白質切載術(両側の場合は1.5倍) 500〃
3.脳壁ヘルニヤ手術(嵌頓せるもの) 500〃
4.経眼窩前頭葉白質切戴術(両側の場合は5割加算) 500〃
5.頭蓋骨々析凹没実傷損傷異物除去並びに骨折裂片摘出術 130〃

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外科集談会

ページ範囲:P.492 - P.493

 第537回東京外科集談会 30.5.21.
 慈大大井外科 忍田 謹吾・他
 1)食道,胃,十二指腸潰瘍の1例
 25歳女子,上腹部痛.嘔吐,貧血,ヒスタミン過酸を示す食道,胃十二指腸潰瘍に対し胃全摘出術施行.食道潰瘍は食道粘膜と噴門腺との移行部に,胃潰瘍は胃底腺,幽門腺境界部に,十二指腸潰瘍は幽門腺,十二指腸粘膜境界部に夫々存在した.消化性潰瘍が同一因子により2っの相異なる粘膜の境界部に共存発生した稀な好例である.この中十二指腸のものは古く,食道のものは比較的新らしい.これ等境界部は抵抗減弱部であつて塩酸の作用にさらされて生ぜるもの.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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