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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科10巻8号

1955年08月発行

雑誌目次

綜説

兎唇の遺伝学的考察

著者: 古庄敏行

ページ範囲:P.495 - P.496

 兎唇の発生素因については,相当古くから遺伝的素因が与えられるものとする見解は,強く主張されていたが,それが如何なる遺伝様式に依るかについては,Trew(1754),Birkenfeld(1926),Schröder(1931),Sanders(1934),Just(1934)等は,家系調査資料より,各自,それぞれ,単一優性遺伝子,単一劣性遺伝子,多因子発現,不規則発現等,種々論を出している.又,我国でも岩間(1926),江西(1939),穴沢(1941)の調査資料があり,穴沢(1941)は単一優性遺伝子に依るものと結論している.
 人間の多くの遺伝形質は,発現不規則な為分析が困難である.この兎唇もこれに類することは,上記の様に文献的に見ても判る所である.それ丈に,又この問題は興味ある点もあり,残された問題である事から,著者は後藤(1955)に伝つて提案された『人間の発現不規則なる遺伝形質を家系調査の綜合資料によつて分析する集団遺伝学的方法」に依つて,外国と日本の調査資料よりいささか遺伝様式の分析を試みたので,こゝに報告する次第であります.

各種全身麻醉の比較—主として体液に及ぼす影響の観点から

著者: 林田隆輔 ,   江口健男 ,   井昭成 ,   森岡享 ,   上塚昭逸

ページ範囲:P.497 - P.501

I.はしがき
 わが国に於ても,1954年秋第1回麻酔学会が発足し,閉鎖循環式麻酔器(下以閉鎖式と略す)を備え,麻酔係の居る病院では,高度の外科的手技を自由に駆使して今まで極めて困難視された大手術を行うことができるようになつた.又国内でも閉鎖式麻酔器は多くの需要に応じて生産供給される段階にきた.
 従つて本器を使用しての各種全身麻酔の普及程度は,数年前の予想とは全く格段の相違を示しているといわねばならない.

特発性脱疽の治療ことに温泉治療について

著者: 遠藤信夫 ,   岡崎洋一郞 ,   星哲郞 ,   亀卦川滋

ページ範囲:P.503 - P.510

緒言
 特発性脱疽は御承知のように,そんなに頻繁に遭遇するものではないが比較的厄介な疾患で,従来の主な治療法は腹部交感神経手術である.筆者の一人遠藤が東北大学鳴子分院(温泉研究所的性格をおびた小病院)に着任して間もなく脱疽患者が一人来た.腹部交感神経節索切除術を受けたが一時一寸よかつただけで約3年に亘り拇趾潰瘍が治癒しない.前に鳴子で同じ病気の人がなおつたと言う話しを聞いたので来て見たというのである.こちらは着任早々で温泉なるものがいかなるものか解る筈でないし,手術で解決しないものが温泉などに入つたからとて到底癒る訳がないと考えたが,温泉治療を希望しておる患者である以上ほつたらかしてもおけないので,その頃出来たばかりの温泉電気浴(温泉浴中に電流を通す)に一応入れて見た.心中効果のある筈がないとたかをくつておつたことは勿論である.だが不思議なことに日毎によくなるのである.とうとう1ヵ月位で潰瘍も冷感も間歇性跋行も治癒してしまつた.患者の喜び以上にこちらが驚いた.こんな筈はない.きつと治癒期にあつたもので別に温泉に入らなくてもよくなつた例であろうと考えた.だが次に来た脱疸患者も同様順調に治癒したので,どうも何かありそうだ,少し試べて見ようと言う事になつた.

強心剤Théraptiqueの急性低血圧症(Shock)への應用に関る研究—主として外科的適應について

著者: 田中正夫 ,   渡辺昭一 ,   楊大鵬 ,   鎌田四郞 ,   久保正敏

ページ範囲:P.511 - P.517

緒 言
 外科に限らず臨床的に遭遇する急性循環不全の状態には,二つの場合が考えられる.即ち如何なる治療もこれを完全に恢復する事の出来ない,云わば死に直結する循環機能を中心とする全生活機能の衰弱である場合と,適当な治療を施せば循環機能の正常化と共に,再び全く健康な生体として蘇生し得る場合とである.外科殊に手術に関連して遭遇する循環不全の状態は多く後者の場合であり,従つてその治療対策の適不適が相当の高率で患者の生命に影響する筈である.
 一般に外科医の取扱う急激な血圧降下を主徴とする急性循環失調は体内の血管床の容積とそれを流れる血液量のUnbalanceが種々な原因で起るためであることは,最近のShockの考え方の普及と共に一般に知られた事実である.従つてその治療対策としては絶対的或は相対的に減少した有効循環血液量を,適正な量に迄補給してやる事と,一方ではこれ亦絶対的或は相対的に拡張した血管床を循環量と釣合う様に收縮せしめる事とがその大筋となるべきものである.

骨髄炎手術の遠隔成績に就いて

著者: 山本忠治 ,   中脇正美 ,   山田栄 ,   香川徹 ,   玉重亨

ページ範囲:P.519 - P.524

I.緒言
 骨髄炎は一般に難治性のものであるが,その治療期間を出来る限り短縮する目的で,1880年頃より創面の一次的閉鎖法が種々試みられた.併し何れも好成績は得られなかつた.1946年ペニシリンの出現により,骨髄炎に対する治療法にも一大改革がもたらされ,術創の一次的閉鎖も可能となつて来た.
 さて骨髄炎の治療成績判定には,再発及び術後の骨新生を考慮しつゝ,長期間経過観察をする必要がある.従つて我々は少くとも術後1年以上を経過した67症例を選び,その平均治癒日数(勿論各症例の年齢,一般状態,場所,創面の大きさ,形等で異なるが)及び遠隔成績に就いて,X線学的並びに手術的の両面から比較検討し,更に手術方法に就いて考察を加えて見た.なお是等の症例は何れも充分病巣部切除を行い,術創閉鎖をもつて一応治癒と見做し,退院したものである.

乳幼児ヘルニヤの手術と麻酔

著者: 星哲郞 ,   岡崎洋一郞

ページ範囲:P.525 - P.528

 乳幼児ヘルニヤの手術で術中患児の怒責体動がはげしく手術に困難を覚えることは屡々経験する所であるが,オーロパンソーダ筋注(以下「オ」筋注と略す)による全身麻酔を行い,更に手術々式の簡易化を行つてから手術が非常に楽になつたので簡単に紹介する.
 症例は主に「オ」筋注麻酔例30例,及び手術々式の簡易化を行つたもの19例についてであり,年齢別は第1表に示した.

骨関節結核への骨釘移植療法

著者: 加藤貞三郞 ,   高木秀幸 ,   加藤敏昌

ページ範囲:P.529 - P.532

緒言
 関節,骨結核への骨釘移植療法は1919年にRobertson-Lavalleに依り創始され,1923年にAuvrayが50例を報告している.その後諸学者の追試をみ,Lascombe,Wertheime,Gaudien,Tavernier等は本法を良しとし,Ombrédanne,Nissen等は大なる期待を持ち得ずと報告した.わが国に於ては1931年山本氏が行い,特に市村氏はこれについて詳細なる報告をした.しかしこれは,いずれも結核抗性物質使用前の報告である.そのため本法の適応の限界においても瘻孔のあるものは適応でないとされ,又移植部より瘻孔形成せる例も多く報告されている.余らの症例26例は何れも結核抗性物質を併用し,術後の後療法を充分考慮したもので従来の報告とことなつた意義があると考えこゝに報告する.

イルガピリンの外科的適應範囲並びに効果に就いて

著者: 山近勝美 ,   河野通德

ページ範囲:P.533 - P.536

I.緒言
 1949年スイスのJ.R.Geigy社の手に依つて始めて,合成されたイルガピリンは水溶性のピラツオロン誘導体なるブタゾクジンとアミノピリンとの等量混合溶液で新ロイマ治療剤として市販された.この薬はCortisoneやACTHと同じく所謂ロイマチス性疾患に著効を示すことは勿論,諸々の筋肉痛,神経痛,関節痛等にも鎮痛作用を有することが,欧米始め本邦に於ても多数報告せられている.我々も過去1年半本剤使用範囲を若干拡大して各種疼痛を有する約120例の患者に本剤を主に筋肉内注射に依り投与したが,効果顕著なるを見たので,大略を報告する次第である.

症例

頸動脈毬腫瘍—文献的考察及び我々の経験せる1例

著者: 飯塚積 ,   平沢進武 ,   岡田義春

ページ範囲:P.537 - P.540

 頸動脈毬腫瘍Carotid Body Tumorは比較的稀な疾患で,本邦では僅か数例,外国に於ても300例弱の報告があるに過ぎない.頸動脈毬腫瘍の中には悪性変化を示すものも少くなく,その剔出に当つては頸動脈の結紮を余儀なくされることも屡々である.しかし我々は最近,病理組織学的に良性と考えられる本腫瘍を頸動脈を結紮することなしに剔出し得た1例を経験したので,これにいさゝか文献的考察を加えて報告する.

痛風症の1例とその知見補遺

著者: 陳庚

ページ範囲:P.541 - P.544

緒 言
 新陳代謝疾患である痛風はプリン体の新陳代謝障碍に依る慢性疾患と云われ,血液中の尿酸量が増加し尿中の夫が減じ,ために組織内に沈著せる尿酸塩に刺戟され,局所に異物性炎症を起すといわれている.本邦では稀有なる疾患に属し,明治31年近藤氏の報告せる1例より最近早川氏の1例を加えて,今日迄僅か52例をみるのみである.
 私は最近発作期にある痛風の1例を得たが,これは青森県では恐らく最初ではなかろうかと思われ,更に1,2の知見を得たので報告する.

骨形成不全症の3例

著者: 山田栄 ,   中脇正美 ,   堤正二

ページ範囲:P.545 - P.550

1.緒言
 1833年Lobsteinは原因不明で屡々骨折を起す疾患をOsteogenesis idiopathicaと名づけ,次いで1848年Vrolikは出産時に同様な症例を発見しOsteogenesis imperfectaと命名し,Chon—drodystrophia foetalisより分類した.1905年Looserは之等の疾患の原因は何れもOsteobla—stenの機能不全により軟骨性,骨膜性骨形成が障碍され,唯発病時期に差があるに過ぎないと述べた.
 我々は最近本疾患の3例を経験したので報告する.

腸管の廻轉異常症,特に結腸後方轉位症に就いて

著者: 德田稔

ページ範囲:P.551 - P.553

 胎生時の腸管廻転の障碍に由つて種々の抑制畸形が現れるものである,中腸の逆廻転に由る畸形即ち結腸後方転位症Retropositio coli transv.,極度の空廻結腸腸間膜症の1例を記し,若干の考察を述べたい.

アンギーナに継発するアヒレス腱炎

著者: 花田二德

ページ範囲:P.555 - P.556

 ここにいうアンギーナとは普通にいうAnginaつまりAngina tonsillarisのことでAngina pectorisとかAngina abdominalisなどのAnginaではない.
 Anginaに継発するアヒレス腱炎の症例は我國でも大平洋戦前は一時さかんに報告されたようであるが最近は私の知る範囲ではあまり目につかぬようである.症例報告にも流行があるものかも知れぬ.以前はしきりに我も我もと報告した蜘蛛膜下腔出血などの症例もこの頃は珍らしくもなくなつたと見えて殆ど報告する者もないようで,昨今ではギランバレーとかコックスサッキーとかワイワイ猫も杓子もという調子であるが之も今に鳴りを静めることになるかもわからぬ.

外科保険診療の手びき・6

手術料(準用点数)その2

ページ範囲:P.557 - P.559

21.空洞越術              200点
22.モナルデー空洞吸引法        200〃
23.合成樹脂球除去術
  1) 肋骨切除を行わず単なる除去手術を    行つた場合            200〃
  2)除去に肋骨切除手術を伴つた場合  250〃
24.  空洞切開法           200〃
25.筋肉充揖術(膿胸の手術、      200〃
26.肺内空洞有茎筋肉弁充填術       200〃
27.肺動昧鎖骨下動昧吻合術        700〃
28.ボタロー氏管開存に対する結紮(切断)   手術                 700〃
29.気管支痩閉鎖術           250〃
30・肺撒術醐膿不能肺)   250点

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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