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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科10巻9号

1955年09月発行

雑誌目次

綜説

心室中隔欠損の外科的治療—選択的脳灌流冷却法の下に行つた直親下縫合手術成功例

著者: 木本誠二 ,   杉江三郞 ,   三枝正裕 ,   和田達雄 ,   浅野献一

ページ範囲:P.561 - P.568

心室中隔欠損の諸型
 心室中隔欠損は先天性心臓異常の中で最も多いものの一つである.他の異常と合併する場合,例えばFallot氏四徴の部分的異常として見られるものが多いことは云うまでもないが,単独の異常としても日常屡々遭遇する疾患である.
 心室中隔に見られる欠損には色々の型がある.最も多いのは中隔の上端,即ち膜性部Pars mem—branaceaにある欠損で,ここは胎生期に心室中隔が上方に向つて発達した際に残存する心室間孔Foramen interventriculareに相当し,後に大動脈中隔との癒合により閉鎖される部位である.両者の癒合が全く起らない場合には,欠損孔は甚だ大きく,大動脈は程度の差こそあれ多少とも左右心室に跨り(騎乗),大動脈壁の一部は直接右心室壁から出ることになつて,結局欠損孔の上縁は事実上欠如する.これはFallot氏四徴,或はEisenmenger氏症状群などに見られる所謂高位欠損である.

肝切除に関する検討

著者: 三上二郞

ページ範囲:P.569 - P.576

1.まえがき
 最近,殊に此の十年間に外科の各分野に於て成された幾多の輝かしい業績によつて,近代の外科学がまことに華々しい発展を遂げたことは衆知の通りである.しかし乍ら此の間に在つて肝臓の外科は依然として蓼々たる現状のように思われる.多くの臨床家は今日,肝臓自身が外科的治療特に肝切除の対称となる場合は甚だ稀であると考えて居るようである.肝切除は占くは1688Blanchardによつて始めて試みられたと言われて居るが,Warvi, W. N.は欧米の報告例を調査して1945年迄に570例を数えたと発表して居る.我国に於ては三宅(速)教授の報告(1910Banti氏病)以来文献上には僅々40例前後を散見するに過ぎない.第53回日本外科学会に於て教室の市川,葛西は主として包虫症(Echinococcus)の肝切除に就いて報告したが,その後も吾々は臨床的経験を重ねると共に,実験的にも種々検討を続けて今日に到つて居る.現在も尚多くの困難な問題に直面して居るのであるが,幾多先人の貴重な足跡を観み,今日迄の私自身の経験から肝切除に関する知見を述べ諸賢の御批判を得たいと思う.

持続睡眠法を應用した術後の苦痛除去について

著者: 村上忠重 ,   梅津吉治 ,   関竜馬 ,   松井勉

ページ範囲:P.577 - P.580

 麻酔法の進歩により手術中の患者の苦痛と危険は全く安全にとりのぞかれ得る時代となつたが,手術後の苦痛の除去に関しては未だ一定の方法が確立されていない.勿論モルフィン剤や,睡眠剤の投与によつて,一応の目的は達せられているが,時に此等では全く不充分な場合があることは屡々経験される通りで,之等の方法が対症的に過ぎるというそしりはまぬがれ得ないと思う.
 その対策の一つとして最近塩酸プロカイン及びButyl-p—aminobenzoate等の合剤の局所注射による持続的な手術創部の麻痺効果が常用されるようになつた.我々も早速此れを試用し,その経験については著者等の中,松井その他が既に本誌第10巻第2号に報告した.その結果を要約すると第1表の通りで,32例の症例に対して著効14例,有効15例と云う成績であつた.

頸部淋巴節結核の治療法としてのイソニコチン酸ヒドラヂッド(I.N.A.H.)内服法の検討

著者: 鈴木快輔 ,   朝倉重憲

ページ範囲:P.581 - P.584

1.緒論
 最近イソニコチン酸ヒドラヂッド(I.N.A.H)が結核症に対する強力な化学療法剤として盛に用いられるようになつたが,本剤は他の化学療法剤に比して,安価で且つ副作用が少いと云う利点がある.我々の外科では,早くからその内服による外科的結核症の治療効果を観察しており,その結果の一部は既に1,2の雑誌6,12)に報告した.その後も引き続き観察を続けており,外科的結核症の中で最も多い淋巴節結核に対してI.N.A.H.内服療法を単独に行い得た者の数が今日迄に48名(男15名,女33名)に達した.そこで治療効果を中心としてそれに伴う2,3の検索事項について述べたいと思う.投与の方法は標準をプロキロ4mgにおき,成年者に対しては1日200mg,年少者に対しては1日100mg〜150mgを内服させた.投与期間は平均7週間で最長15週間,最短3週間である.本治療法の純粋な効果を見る為に,他種の療法や薬剤即ちStmy局注7.8)P.A.S.内服5)I.N.A.H.局注7.9.10)レ線照射4)を併用した症例は本報告の中から除外した.48名の患者の年齢別分布は第1表の如くで,初診時の病期〔松原氏4)による〕は第2表の如くであつた.

頸部リンパ腺結核症の外科的手術療法の再検討

著者: 松下良司

ページ範囲:P.585 - P.594

 頸部リンパ腺結核症の治療には放射線療法が最も効果的であるということが,今日では常識のようになつている.これはアメリカのWilliamsand Pusey(1902)によりリンパ腺結核のレ線照射療法が公表されて以来,多くの追試によりほゞ確立されたように見受けられている.
 他方,本症の外科療法は,レ線療法登場以前には,本症に対する最も有力な治療法として一般に試みられていたものである.本邦における,この方面の歴史を回顧すると,明治36年(1903)の日本外科学会総会における鶴田禎次郎1),および佐藤進2)の両権威により行われた本症に関する宿題報告がある.本報告は本症に関する本邦における最初の総括的論述であつた.その席上,本症の治療法に関しては,両氏とも手術療法を最も主要な療法として,手術療法がそれ以前の全身療法や姑息的局所療法を遙かに凌ぐ成績をあげうるものであることを説いた.その報告後の討論において,当時の多くの権威が本症の手術療法の価値を認めた所論を述べている.しかし,それらの論述を全体として吟味すると,当時の手術療法には多くの危惧あるいは疑惑が含まれているように見受けられる.手術々式の選択や適応の決定について未解決の問題があるし,手術の直接死亡や術後粟粒結核の発生があること,術後再発率の高いこと,術後の瘢痕醜形や頸部の機能障害の残ることなど,いずれも手術療法に対する反論の要因となりうるものであつた.

骨関節結核の手術成績

著者: 相沢八郞 ,   野中陽二

ページ範囲:P.595 - P.602

 現在に於ける骨関節結核治療の趨勢は,充分な化学療法を加味した従来の保存的療法に併行して更に適当な時期に観血的療法を行うのが最も有効な治療システムと考えられている.
 元来,骨関節結核は従来の治療方法に依つても必ずしも難治な疾病ではない.にも拘わらず観血療法の必要性が強調されるのは,第1に治癒経過を短縮し,第2に治癒の確実性を増し,更に今日それが最も嘱目されるのは,第3に術後の運動性保持,即ち可動性治癒と云う問題に曙光をもたらしつゝある点である.其の意味に於て,正しい観血的療法の発達は,化学療法の進歩と相俟つて骨関節結核治療に一大進歩を画したと言つてよい.之は勿論先輩諸家の倦まざる研究業績の成果であり,又今日も尚逐日改善が試みられている.その工夫改良の焦点とされるのは,(1)より迅速且確実に完全治癒を得る手術法 (2)最小の侵襲に依る手術法.(3)機能・形態的に最も生理的に近い予後を得る手術法.の3点にあると考えられる.併し,此の3条件を同時に満足するのは極めて難かしい問題であつて今日も尚,最も屡々関節機能が犠牡に供される現状である.

化膿性骨髄炎の抗生物質療法に対する感應錠(Roskilde Medical Company Ltd.)の應用に就いて(第1報)

著者: 箱崎喜雄 ,   佐瀨昭 ,   時田一雄

ページ範囲:P.603 - P.607

緒言
 1910年Ehrlichの創造に端を発した化学療法はその後DomagkがSulfa剤を発明するに至り急速なる進歩を示し,以来引続き夫々特長のあるSulfa剤が製造され劃期的な進歩を見,現今も各科領域で愛用されている.更に最近PenicillinをはじめとしStreptomycin, Aureomycin, Chlo—ramphenicol, Terramycin等種々の抗生物質の登場により,あらゆる細菌性疾患に対し治癒率が著しく高まつた事は喜ぶべき事である.しかし此等細菌性疾患の治療に際して抗生物質の選択を誤り為に患者に対して多少の経済的,肉体的の負担をかける場合が多く,猶且治癒率の低下を来して居る事が少くない.抗生物質の使用に際し最も重要なる事柄は病原菌の各種抗生物質に対する感受性を測定し,最高感受性抗生物質を知る事である.我々は既に化膿性骨髄炎に対するPenicillinの耐性獲得を検索し,治療薬としてのPenicillinの価値を論じ無批判投与に対して警句を発して来た.そして又Penicillin投与に於ける偶発症状(副作用)をも経験して居る.しかし乍らこれ等細菌の感受性測定方法は,試験管による稀釈比濁法,平板法,濾紙法等がある.

ダイカイン使用経験

著者: 水野秀夫 ,   菅原政男 ,   室田理一 ,   柳沼眞澄 ,   斎藤重雄

ページ範囲:P.609 - P.610

 われわれは船岡鉄道病院に於て昭和27年1月以来肺結核患者に対して肺切除術を行つて居り,排液及び空気の排除を目的として術後切除創腔にネラトンカテーテルを挿入して居るが,呼吸時,吸引時,咳嗽及び喀痰喀出時同部の疼痛を訴えるものが多く,当該肋間神経の結紮切断等,常に其対策に悩まされて来た.しかしながらダイカインの局所注射に依り,この悩みが殆んど解消され比較的長期間(1週間〜10日間)ネラトンカテーテルの挿入も可能となり,排液も充分で術後残存肺不膨張の忌むべきこともなく,患者にとつても穿刺に依るの疼痛に排液等の不安も最少限度にすまされ,極めて有効な薬剤であることを知つたので臨床例について検討しこれを報告する.

新局所麻醉剤Xylocaineの臨床経験について

著者: 新田一雄 ,   大越重 ,   遠藤瑞雄 ,   金子義良 ,   島影琢磨

ページ範囲:P.611 - P.613

 近時手術適応症の拡大とともに麻酔の発達は実に目覚しいものがあり,殊に新しい全身麻酔の発達によつて脳,心臓,胸部の分野に広い外科侵襲の適応が増大して来た.しかし全身麻酔の完全なる実施に当つては麻酔器具の整備と熟練せる麻酔技術者が必要で,優秀な麻酔方法ではあるが未だ一般化されるに至つていない.一方局所麻酔剤は1884年にCocaineが発見され,次いでNovo—caine, Nupercaine, Metycaine, Tetracaine等が合成され,今日迄麻酔領域の主なる立場を保持して来たが,亦将来薬剤の改良手技の向上があれば外科領域の進歩発展に資する事大なりと考える.
 局所麻酔の利点は簡単なる操作で全身状態を障碍せず生命の危険が僅微で手術野の出血も少く外来治療が可能である等であり,Morphinとの併用で反射的ショックも防ぐ事が出来かなりの大手術も実施し得る.しかし局所麻酔液の毒性,濃度滲透圧,Adrenalin添加による血行障碍等が原因で局所障碍が起り,又注射時の副損傷,全身中毒等が起り得る事は欠点とされているが,是も麻酔剤の改良発達により漸次逓減されて来ている事は慶ばしい.

骨関節結核の観血的手術に対する輸血並に輸液

著者: 武田躬行

ページ範囲:P.615 - P.622

I.緒言
 余は曾て骨関節結核の観血的手術の生体に及ぼす影響(東京慈恵会医科大学雑誌第70巻3号)と題して骨関節結核の手術,殊に関節切除術や固定術を行つた場合の血液所見(赤沈,赤血球,血色素,白血球,ヘモグラム)が如何に変化するかを各関節別に検討した.
 飜つて惟うに従来,骨関節結核は保存的療法に依存する所が多かつたが,Pc, SM, Pas, Tbi,INAH等の化学療法剤の発見以来,手術療法が盛となつて来た.殊に片山教授は関節切除術から更に進んで人工骨頭の応用にまでその治療法を拡大され,骨関節結核の治療に明るい希望を与えた.

静脈麻醉剤の使用経験例,特にThiobal及びRavonalについて

著者: 都香隆 ,   安井愼太郞 ,   岩井邦夫 ,   和田壽郞

ページ範囲:P.624 - P.626

緒言
 最近本邦に於ても麻酔学は長足の進歩をとげ,種々の大手術が安全に行われる様になつた.静脈麻酔法は1932年Wesseにょり,Evipan-Naが臨床的に認められてから使用方法の簡単,麻酔経過の円滑,副作用の僅少,覚醒の迅速な点等により漸次応用せられ現在Barbiturateが優秀な静脈麻酔剤として広く使用せられている.現在使用されているBarbiturateの主なものは第1表に示してある5種類である.
 以上の内我々はPentothalの邦製品ThiobalとRavonalについて,第2表に示すように,夫々臨床例100例に使用しその効果を臨床的に比較してみた.

症例

尿管脱症に就いて

著者: 岸陽一 ,   城魏柴拓

ページ範囲:P.627 - P.630

緒 言
 我々は最近尿管下部に於ける結石の嵌頓により尿管脱を来せる症例に,経膀胱的に手術を施行し治癒せしめたので,自家経験例をもとにして,本症の成因,症状その他二三の点につき文献的考察を加えて見た.

制癌剤過剰使用によると思われる1死亡例について

著者: 余語弘 ,   大村明 ,   鈴木竜哉

ページ範囲:P.631 - P.633

 各種制癌剤の発見と共に現在多くの制癌剤が臨床的に用いられ,種々の腫瘍性疾患に対する治療成績が報告されている.而して異つた構造を有する種々の制癌剤に共通に見られる副作用として造血器障碍が挙げられる.
 我々は制癌剤特にNitrogen-Mustard-N—Oxide(ナイトロミン)の過剰作用により強く造血器障碍を起し遂にAgranulocytosisの症状を来し死亡せる例を経験したのでこゝに報告する.

蝮咬傷に対するセファランチンの効果について

著者: 小池脩

ページ範囲:P.634 - P.634

緒言
 蝮咬症は近年,新聞紙上に於て盛に書きたてられ,パトロールカーによつて蛇血清を運搬してかろうじて一命をとりとめたといわれ,蝮に咬まれたならば血清を注射しなければ死ぬものであるとの誤つた考え方を持つ人が多い様である.当豊岡市周辺の農家に於ても,春から秋にかけて,蝮に咬まれる人が年々10人を下らない.我々は昭和28年より蝮咬傷に対してセファランチンを使用し著明な効果を認めている.
 セファランチンは長谷川博士等の研究によつて蛇毒を中和する強力な作用を有することが認められ,昭和27年その臨床的応用例を多数発表せられたのを知り,我々も蝮咬症患者に使用した所,下記症例の如く著効を得たものである.患者によつては当病院をおとづれる前に保健所に於て血清注射を受け,或は血清をもらつてそれを持参して来た者が二三あるが,それ以外の患者に対しては主としてセファランチンを使用した.患者は第2例を除き何れも受傷後1,2時間以内に来院処置したものである.

外科保険診療の手びき・7

手術料(準用点数)(その3)

ページ範囲:P.635 - P.635

87.大腿骨骨折観血手術に骨移植術      430〃
88.断端形成術(軟部組織の形成を要するもの)   イ.大腿,下腿,上陣,前脾      40〃
   ロ.その他              10〃
89.断端形成術(骨形成を要するもの)   イ.下腿,上鱒,前瞬         180〃
   ロ.大腿               250〃
90.関節鼡                 200〃

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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