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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科11巻1号

1956年01月発行

雑誌目次

綜説

人工腎臓の臨床的経驗

著者: 澁沢喜守雄 ,   丹後淳平 ,   西沢康男 ,   河野通弘 ,   芦田敬治 ,   松浦一

ページ範囲:P.1 - P.16

はしがき
 こんどの朝鮮戦斗の外科史のうちで最も注目されるもののひとつは,前線から10マイルばかりの後方病院に設けられたRenal InsufficiencyCenterの広汎大規模な人工腎臓の装用であつたろう.外科的な急性腎不全にもとずく無尿症はその91%ほどが無尿発生以来10日ほどのうちに死亡する,甚だおそるべき状態であることは第2次大戦においてつぶさに体験された.Renal Insu—ffieiency Centerは人工腎臓を用いて,Balch2),Teshan49),Smith48)らの報告を通計して,この死亡率を50%台に引下げることに成功している.このような驚くべき優秀な成績は人工腎臓以外のいかなる方法を以てしてもあげることができなかつたところである.外科的な無尿は人工腎臓の好箇の適応というべきであろう.急性腎不全は戦争にあつては勿論であるが,平時においても落磐・埋没・外傷・熱傷などの災害に継発する傾向があるから,大学・大病院などの治療室にデンと据えつけたのでは最も有効な用途というわけにいかない.ポータブルあるいは少くとも移動式でありたい.

兎唇,口蓋破裂の遺伝

著者: 古庄敏行

ページ範囲:P.17 - P.18

 著者(1955)は,さきに兎唇の遺伝様式について報告したが,今回,口蓋破裂の遺伝学的関係について集団遺伝学的方法によつて分析を試みたのでその結果を報告する次第である.
 兎唇の遺伝学的研究は数多くあるが,口蓋破裂やこの両者を同時的に取扱つた研究は殆んどない.著者は穴沢(1941)の論文に記載されている外国の家系図を集計して分析したのである.

恥骨結核の20例

著者: 金成俊男

ページ範囲:P.19 - P.22

 恥骨結核は骨・関節結核中,比較的稀な疾患であり,その診療は整形外科に属するものであるがその部位の特殊性により,外科,産婦人科,泌尿器科等を訪れる事が多く,従つて誤つた診断,治療の行われる事が少くない.1929年Joachimovitsは111例の同疾患を集計したが,その後Hellstadius(1934)13例,Greger(1938)5例,Codecà(1940)10例,その他少数の報告が散見されるに過ぎない.本邦に於ては昭和6年教室武藤が2例を報告したが,同18年徳重・伴が諸家の報告を集計し93例を得た.
 私は昭和4年より同28年迄,戦災により病症日誌焼失の昭和17年度を除き24年間に,慶大整形外科を訪れた5157例の骨・関節結核患者より,20例の恥骨結核を得たので之を中心として考察を加えてみたい.

門脈圧測定法及びその測定基準の高さ決定装置の考案について

著者: 大田満夫

ページ範囲:P.24 - P.26

 門脈圧の測定を正確に行うことは極めて必要なことであり,殊に脾内圧の関係,食道静脈瘤内圧との関係を正しく認識する必要のある場合,重要な事柄となつてくる.然るに門脈圧測定には,在来細かい基準は必ずしも定められていないので各人各様に行われていた.このように測定方法が統一されていないと,それぞれの門脈圧値を比較することは困難である.これ迄の研究に欠けていたのは圧を測定する際の一定の基準であつた.多くの研究者が心臓を基準の高さに用いてきた事は,心臓が血液循環のポンプの役を果している関係からよく理解できるが,門脈圧測定の基準としては不適当である.その理由としては先ず心臓は開胸しない限り見えないから,その高さがはつきりしないことである.これに対しては,背の皮膚より10cm前を基準とする方法1)もあるが,これは不正確である.なお心臓の大きさ及び形は人により様々であり而も約10cmの厚さを有するものであるから,たとえ右心耳の中心を基準と考えても,これも当然不正確なことを免れえない.

悪心,嘔吐,吃逆に対するContominの作用

著者: 田中早苗 ,   內梅一成

ページ範囲:P.27 - P.29

緒 言
 1950年フランスのRhone-Poulenc研究所で合成されたフェノチアジン系アルキルアミン誘導体たるChlorpromazine(Contomin)は抗アドレナリン作用,鎮静作用,代謝降下作用等を有しており,冬眠麻酔に使用されていることは衆知のことである.その本剤の薬理作用に就て多くの研究が相継いで行われ,本剤には驚ろく可き多方面への作用が認められ,既に精神科,婦人科領域に於ては広範囲に使用されている現況である.
 本剤の呈する制吐作用は1953年D. G. Friend及びJ. F. Cumminsに依つて報告されたものであるが,その後多数のものによつて実に広範の悪心,嘔吐に対して応用せられている.即ち,薬剤投与に原因する嘔吐,感染性嘔吐及び中毒性嘔吐(糖尿病,尿毒症,放射線症等),胃腸の炎症に基くもの,その他悪阻,メニエル氏症候群,紳経性嘔吐,術後或は麻酔後の嘔吐,乳児の習慣性嘔吐等多方面に亘つて使用され,著しき効果を認めたと報告されている.

外科的胆道疾患の細菌学的並に組織学的檢査成績に就いて—特に対照上腹部疾患との比較

著者: 坂本馬城 ,   石井好明 ,   松島松翠 ,   朴潤植 ,   保刈伸雄 ,   鈴野克彥 ,   奥平雅彥

ページ範囲:P.31 - P.35

緒 言
 胆道疾患の成因及び病態生理については既に多くの研究が見られるが,未だ解明されぬ点も多く殊に外科的胆道疾患は手術によつて治癒するものの多い反面,術後に多くの症状を残すことが少くない.所謂胆嚢剔出後症候群はこの典型的なものである.茲に本問題を根本的に検討し直すべく,吾々はまず胆道内の細菌学的並びに肝の組織学的検索を行い,臨床検査成績をも加えて,非胆道上腹部疾患を対照として比較検討した.

薬物冬眠の外科的應用

著者: 阿久津哲造 ,   甘利重夫 ,   高木啓之 ,   坂神眞澄 ,   佐藤太一郞

ページ範囲:P.37 - P.40

 所謂冬眠麻酔と称せられるものにわ2つの流れがある。即ち,麻酔の一型として低温を利用できたならば,臓器組織の酸素消費量は少くなり,人工心肺装置に頼らずbloodless heartに於て直視下に心臓内手術ができるようになるかもしれないと云う考えの下に,主として心臓及び大血管外科に於ける要望からアメリカに於て発達したのが所謂induced general hypothermiaであり,Bige—low及びSwan等によつて研究されて来た.
 之とほゞ期を一にして,1951年フランスのLa—borit及びHuguenardはCannonのHomeos—tasie及びSelyeのStress概念から出発して,薬剤によつて植物神経系統を安静状態にし,生体にとつて或る場合には却て有害となる防禦反応を弱化せしめる目的で,物質代謝の亢進を抑制する試みを始め,更に全身冷却を加えて積極的に体温の低下,代謝の低下を企図し,hibernation arti—ficielleと名づけた.

症例

右上葉切除術後に早期に気管支瘻を併発した肺壞疽の1治驗例

著者: 川村正郞

ページ範囲:P.41 - P.45

まえがき
 肺切除術後の合併症中,特に気管支瘻,膿胸は予後を不良ならしめる最大原因で,化学療法の併用によってもその根絶はむずかしい.最近菊池1)は肺結核における気管支瘻の閉鎖方法とその治癒機転について報告し,向井2)は肺葉切除術後の気管支瘻に対する有茎性筋肉弁閉鎖術40例の詳細な発表を行い,また杉内3)は肺結核に対する右上葉切除術後早期に気管支瘻を併発した2治験例を報告した.肺壊疽については名倉4)は肺切開術後に生じた気管支瘻の4治験例を,また曲直5)も肺切開術および肋骨切除後に生じた気管支瘻の2治験例を報告しているが,肺壊疽に対する肺切除術後の晩期気管支瘻に関しては高橋6)の報告があるだけで,早期気管支瘻については殆んど記載されていない.私は肺壊疽に対し右上葉切除術後,早期に大きな気管支瘻を併発した症例に対し胸廓成形術および筋肉弁充填を行い,治癒したと考えられる興味ある1症例を経験したのでここに報告する.

幼兒に発生した睾丸腫瘍の一例

著者: 広瀨堯 ,   幕內春義

ページ範囲:P.47 - P.49

 幼児に発生せる睾丸腫瘍例の報告は余り多くない様である.最近著者はこの一例を経験したのでここに報告する.

骨形成不全の3例

著者: 百田眞瑳彥

ページ範囲:P.51 - P.56

緒言
 骨形成不全症を独立疾患としたのは1833年Lobstenの報告によるもので,氏は成年の易骨折性の一症例を特発性骨脆弱症Osteopsathyrosisidiopathicaなる病名で発表している.次いで1848年Vrölichは初生児の同様疾患を報告し骨形成不全症Osteogenesis imperfectaなる名称を与えた.1905年Looserは組織学的検査を行い上記二疾患は同一疾患である事を知りOsteoge—nesis imperfecta congenita et tradaに分類した.続いてAxhausen, Bauer等の報告がある.
 本邦にても明治22年,三浦,江波両氏の報告以来,竹林氏,浦山氏の集録よりすると約百二,三十例の発表があり,必ずしも稀有なる系統疾患とは云えないのであるが,今回3例を相次いで経験したので二三の検査事項を併せて報告する.

術後空腸潰瘍穿孔の1手術治驗例

著者: 宮川忠弘 ,   佐藤権內

ページ範囲:P.57 - P.59

 胃,十二指腸潰瘍手術後往々空腸潰瘍を発生することのあることは周知の事であつて,外科臨床上興味ある対照として之に関する研究業績は尠くない.瀰政氏は本邦文献例(大正13年〜昭和24年)に氏の症例を加えた46例に就き統計的観察を試みている.私達は3年4ヵ月前,十二指腸潰瘍にて胃切除並結腸前胃空腸吻合術兼ブラウン氏吻合術を施行した患者に於て突如空腸潰瘍穿孔を来した1例を経験したので茲に報告する.

猫引掻病の1例

著者: 長谷川圭吾

ページ範囲:P.61 - P.63

 本病は猫に引掻れた後に起る無菌性淋巴節炎"La maladie griffes de chat"として仏国のDéfreが1950年に初めて発表したと云われ1),以来今日迄ヨーロッパ・米国等各地より多数の報告発表2-5)がある.
 我国に於てもそれらの紹介6-8)が2,3の雑誌に行われ,特に本邦第1例が昭和28年9月浜口・長野両氏によつで報告1)された.病原体は未だ確定されてはいないが,第四性病,オウム病等の病原体と同一群に入るべきビールスと云う事に一致している.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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